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TwoPair
Episode 20 -ないしょないしょ、ばれたばれた-
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<風呂>

シンジが最も嫌いな時間。それはお風呂タイムである。電気の消えた浴場で、音を立て
ない様に独り寂しく入らなければならないからだ。

早く家に帰りたいよなぁ。
もうやだよぉ。

女生徒達が入った後の、ほのかに良い香りのするお風呂。悪くは無い。しかしそれ以上
に、暗く、寒く、寂しいお風呂。それに輪を掛けて、通常アスカの叱咤が飛んでくる。

通常アスカ「さっさとしなさいよっ! 見張ってるアタシの身にもなってよっ!」

シンジ「わかってるよ・・・。」

シンジがお風呂に入っている時に、誰かが入って来たら大事なので、アスカコンビもし
くは転校生レイが日替わりで見張りをしている。

はぁーあ。
たまにはゆっくりお風呂に入りたいよなぁ。
もうやだよ。

しかし任務続行中なので、自分が男であることがバレルわけにはいかない。シンジはと
にかく急いで頭を洗う。シンジのお風呂タイムの平均、わずか7分。

ガラッ。

さくら「あら? アスカさん。何してるの?」

その時、突然さくらが浴室に入ってきた。通常アスカも焦るが、暗い浴室で頭を洗って
いたシンジの体が凍り付く。

通常アスカ「あははは。しょ、食後の運動よっ! おいちにっ! おいちにっ!」

さくら「え?」

通常アスカ「おいちにっ! おいちにっ!」

両手を振り、両足を不細工に開いて、ラジオ体操をわざとらしくも始める通常アスカ。
当然さくらはきょとんとする。

さくら「こんなとこで?」

通常アスカ「あはっ、そうなのよ。そ、そんなことより、さくらは? もうお風呂の時
            間終わってるわよ?」

さくら「足を洗い場で冷やそうかと思って。」

通常アスカ「いっ!?」

おもむろにマズイ!という顔をする通常アスカ。その間もシンジは真っ暗な浴室の中で、
音を立てない様に冷えてくる体をカチコチに固めていた。

さくら「じゃ、ちょっと冷やしてくるわね。」

通常アスカ「ま、まったぁぁぁっ!」

さくら「え?」

通常アスカ「お、お風呂の中は熱気がムンムンしてるから、氷で冷やした方がいいわ。」

さくら「でも、保健のシスターが・・・。」

通常アスカ「アタシが冷やしてあげるって。行きましょ。」

さくら「そんなの悪いから・・・。」

通常アスカ「いいから、いいから。アタシとさくらの仲じゃないの。さぁさぁ。」

通常アスカは問答無用でさくらの背中を押し、脱衣所を出て行く。浴室のシンジは、ほ
っと胸を撫で下ろすと、頭を洗うのもそこそこに、さっさとシャンプーを洗い流し、リ
ンスもせず風呂を出て行った。

<シンジの寮>

風呂に入った後なのに、体が冷え切ってしまったシンジは、いそいそと自分の部屋へと
帰って来る。

すみれ「あら、ユイさん。何処へ行っておられましたの?」

シンジ「あっ。ちょっと・・・。」

すみれ「また、独りでお風呂に行ってらしたのね。」

シンジ「あははは。」

すみれ「たまには、一緒にお風呂に入りませんこと?」

シンジ「いや・・・それは。」

すみれ「そんなに病気が重いんですの?」

シンジ「病気?」

通常アスカに言われた突然踊り出す奇病を信じているすみれだが、シンジには何のこと
だかわからない。それはともかく、これ以上話をしていてはボロが出そうなので、そそ
くさと布団の中へ潜って行く。

すみれ「あら? もう寝ますの? まだ早いですわよ。」

シンジ「今日はちょっと疲れたからね。先に寝るよ。」

すみれ「あら? それはいけませんわ。そうですわ。疲れた時には、甘い物が一番。」

シンジ「いいよ。もう寝るから。」

すみれ「いけませんわ。お紅茶を入れて差し上げますから、一緒に飲みませんこと?」

すみれが和菓子を出して紅茶を入れ始めたので、シンジも仕方なく起き出してくる。話
が反れたので、問題も無いだろう。

すみれ「やっぱり、お紅茶はローズティーが一番ですわねぇ。」

シンジ「そ、そうだね。」

すみれ「ユイさんは、前の学校ではクラブ活動とかしてらしたんですの?」

シンジ「してないなぁ。」

使徒が来ていた頃は、クラブ活動どころじゃなかった。その後は、アスカとレイが2人
に増殖してしまい、更にそれどころではなかった。

すみれ「そうですの・・・。何かスポーツでもしてらした様ですけど。」

シンジ「そうかな・・・。」

細身のシンジではあるが、女性のそれと比較すると、腕や足にかなり筋肉が付ついてい
る様に思える。

すみれ「今度、わたくしとなぎなたのお手合わせして頂けませんこと?」

シンジ「そんなの無理だよ。やったこともないし。」

すみれ「そんなことございませんわ。立派な体格ですわよ。わたくしなんか、胸が重く
        て・・・。」

そう言いながら、自分の胸に手を持って行くすみれ。自然とシンジは顔を赤くして俯い
てしまう。

なんてこと言うんだよぉ。
顔赤くなったかなぁ・・・。
誤魔化すのも、もう限界だよ。

すみれ「あっ。ごめんなさい。変な意味じゃありませんのよ。」

そんなシンジの様子を見たすみれは、バストが無いことをシンジが悩んでいたのかと勘
違いし、両手を合わせて謝ってくる。

シンジ「あっ、そんなんじゃないよ。やっぱり、ちょっと疲れたから寝るよ。」

すみれ「そうですか。」

やはりこれ以上話をしていると、どんどんまずい方向へ話が行きそうなので、すみれに
入れて貰った紅茶を一気に飲むと、さっさと布団へ潜って行った。

<運動場>

翌日、シンジのクラスの体育の授業は中距離リレーだった。

幼馴染アスカ「ユイっ!」

先頭2人で少し遅れ気味だったシンジのチームだが、1つ前の幼馴染アスカがかなり挽
回し、アンカーのシンジのバトンが渡される。

シンジ「よしっ!」

それを受け取って、シンジが走り出した途端。隣で授業をしていた1年の女子から歓声
がわっと湧き上がる。

女生徒A「キャーーーっ! ユイさまーーーっ!」
女生徒B「かっこいーーーーっ!」
女生徒C「お姉さまぁぁあっっ! 頑張ってーーーっ!」

シンジは苦笑いしつつ冷や汗を掻きながら、とにかく前を走るチームとの距離を詰め抜
いて行く。

お姉さまってなんだよ。もうっ!
やめてよ・・・。

1人パスする度に歓声がどっと沸きあがる。シンジは恥ずかしくて仕方無い様子で、俯
いたまま走る。それでも女の子相手なので、わずかにシンジの方が速い。

男なんだから、勝って当たり前だよ。
なんか、ズルしてるみたいだけど・・・。

しかしその時、猛烈な勢いでシンジを追い上げてくる足音が背後から迫ってきた。何事
かと振り返ると、最下位を走っていたチームのアンカー。通常アスカだ。

げっ! アスカだっ!
は、速いっ!

それまで俯いて走っていたシンジだったが、アンカーという立場もありチームのことを
考えると負けるわけにはいかない。ついつい本気でダッシュを掛ける。

幼馴染アスカ「負けんじゃないわよーーーっ! 負けたらしっぺよっ!」

幼馴染アスカの、応援とも脅迫とも取れるセリフが聞こえてくる。そして、シンジが全
力でペースを出し始めた頃、既に通常アスカとほぼ肩が並んでしまっていた。

やっぱり、アスカは速いっ!
女の子に負けたら恥だっ!

何も考えず全力でダッシュするシンジ。肩を並べてラストスパートを掛ける通常アスカ。
ゴールは目前。

ダダダダダ。
ダダダダダ。

3位以下をぶっちぎり、大差で引き離したシンジと通常アスカの前に白い帯が引かれる。
そんな中、下級生達のほとんどはシンジを応援して大騒ぎしている。

ダダダダダ。
ダダダダダ。

白い帯が切られた。ほぼ同時に入ったシンジと通常アスカは、そのままコース横に倒れ
込んで、肩で息をし地面に寝そべる。

シンジ「はぁはぁはぁ。」

通常アスカ「はぁはぁはぁ。やるじゃん。」

僅かに勝ったのはシンジだった。

シンジ「はぁはぁはぁ。最初にリードしてたからね。はぁはぁはぁ。」

そんなこんなで授業も終わり、シンジ達が自分の教室へ帰って行こうとした時、下級生
の女子がシンジの周りに幾人か集まって来た。

女生徒A「ユイ様ぁ。格好良かったですぅ。」
女生徒B「ユイお姉さまぁ。こんど一緒に中庭を散歩して頂けませんかぁ?」
女生徒C「素敵でしたぁ。本当に素敵でしたぁ。」

目を潤ませながら、シンジの手を握って来る1年生の女生徒達。しかし、そんなことを
アスカコンビとレイちゃんズが黙って見ているはずもない。

転校生レイ「ユイちゃんっ! 次の授業があるんだから、早く行きましょ。」

真っ先に間に入りシンジを引っ張って行ったのは、転校生レイだった。シンジが奪われ
て膨れっ面になる1年生の女生徒達。

女生徒A「横暴っ!」
女生徒B「ユイ様独占反対っ!」
女生徒C「べーーーっ!」

そんな下級生達をやれやれという顔で見ながらも、アスカコンビとレイちゃんズは、さ
っさとシンジを校舎の中へと隠すのだった。

<通常アスカの寮>

アイリスより先に食事を終えて部屋へ帰ってきた通常アスカは、ミサトと電話をしてい
るところだった。

ミサト『調査は進んでる?』

通常アスカ「も、勿論よ。でも、毎日必死で探してるんだけど、なかなかしっぽを出さ
            なくて・・・。」

毎日遊び回って、調査なんか先日1度しかしてない為、通常アスカは必死で誤魔化そう
としている様だ。

ミサト『ゼーレですもんねぇ。そう簡単じゃないわね。』

通常アスカ「そうなのよぉ。しらみ潰しに探してるんだけどねぇ。」

ミサト『具体的には、どの辺りを調査したの? こっちでも分析してみるわ。』

通常アスカ「えっ! あ、だ、だから・・・その。」

ミサト『どうしたの? 相手がゼーレとなると一刻を争うから少しでも情報が欲しいの。』

通常アスカ「そ、そうよね。そうね。ははは・・・。」

まずい状況になってきたので、携帯電話を持つ手に冷や汗を滲ませながら、なんとか言
い訳を考える。

通常アスカ「と、とにかく。今直ぐじゃ言い切れないから、整理してまた連絡するわ。」

ミサト『じゃ、何処をどう調査したか記録を作って、FAXしてくれるかしら?』

通常アスカ「あ、はははははは・・・わ、わかったわ。じゃ。」

通常アスカはいそいそと電話を切ると、まずい状況になってきたので、慌てて他のメン
バーを中庭に集めた。

シンジにアスカコンビそしてレイちゃんズは、早速緊急対策会議を開いていた。議題は、
いかにミサトを誤魔化すか。

転校生レイ「だってぇ。剣術大会とかで、忙しかったんだもーん。」

幼馴染アスカ「適当に、調査してたけど見つかんなかったってことにしとけば?」

通常アスカ「だから、何処をどう調査したか資料にして教えろっつてるのよ。あの飲ん
            だくれっ!」

シンジ「でも、今までここにいても全然怪しい所なんてないじゃないか。」

転校生レイ「でしょ。でしょ。わかんないものは、仕方ないじゃない。」

通常アスカ「だいたい、アタシ達は諜報部員じゃないんだから、これが限界なのよっ!」

シンジ「本当だよ。ぼくまで、こんな所に入れられて・・・。いい迷惑だよ。」

幼馴染アスカ「職権乱用はんたーーーいっ!」

自分達が何もしてこなかったことを棚に上げて、ブチブチとミサトの悪口を4人が言っ
ている横で、通常レイは別の所へ視線を固定していた。

またマリアさん1人で・・・。
お供え物を食べるのは一緒。
約束だったのに・・・。

通常レイは、中庭の向こうに見える教会に、人目を忍んで入って行くマリアのことをじ
っと怒った顔で睨み付けているのだった。

<シンジの寮>

一先ずでっちあげの口裏を取った後、それぞれの部屋に帰ることになり、シンジも自分
の部屋へと帰って来ていた。

でも、ほんとゼーレらしい動きなんてわかんないもんなぁ。
僕達にどうしろって言うんだよ・・・。

すみれ「どうされたんですの? うかない顔をされて・・・。」

シンジ「なんでもないよ。」

すみれ「そうですの? まぁ宜しいですわ。それより、ちょっと見て下さらない?」

シンジが帰って来ると、すみれは嬉しそうに自分の洋服ダンスをごそごそと漁り始めた。

すみれ「いかがです? 水着ですのよ。」

シンジ「本当だ。どうしたの?」

すみれ「家から送って頂いたんですの。」

すみれはそう言いながら、ビキニの水着をシンジに見せて微笑み掛けて来る。新しい水
着が嬉しい様だ。

すみれ「もうすぐ体育のお授業がプールになるでしょ。ですから、送って貰ったんです
        の。」

シンジ「えっ!!!?」

その言葉に少なからずショックを受けるシンジ。普通の体育の授業ならともかく、プー
ルとなると誤魔化しがきかない。

すみれ「そこで、同室のよしみでユイさんの分も送って貰いましたの。」

シンジ「えーーーーーーっ!?」

更にショックを受けるシンジ。すみれが、続いてシンジ用のビキニの水着まで洋服ダン
スから出してきたのだ。

すみれ「サイズがよくわからなかったものですから・・・。返品となると大変ですので、
        下着のままで結構ですから、ちょっと着てみて下さいませんこと?」

シンジ「えっ! あ、ちょっと・・・あの・・・。」

すみれ「わたくしが見ていてお嫌でしたら、後ろを向いておりますから、その間に着替
        えて下さいません? サイズが良かったかどうかお返事しないといけませんの。」

シンジ「うっ。いや・・・だから・・・。」

すみれからビキニの水着を手渡されたシンジは、冷や汗をたらたら流しながら、ただた
だそれをじっと見つめる。これに着替えたら間違いなくばれてしまう。

シンジ「あっ、今日はいいよ。疲れたし。」

すみれ「着替えるくらい直ぐですわ。今日中に、お返事しないといけませんから。」

シンジ「あっ・・・だから・・。」

どうしよう・・・。
アスカ助けてよぉ。
レイ助けてよぉ。

にっちもさっちもいかなくなったシンジは、心の中で助けを求めるがここには誰も居よ
うはずがない。

うぅぅぅ・・・。
胸はティッシュで誤魔化せば・・・。
下は、バスタオルを巻いて。

逃げ場を失ったシンジは、部屋の隅で開けたタンスの扉で体を隠しながら、ごそごそと
着替え始めるのだった。

<トイレ前>

その頃トイレから出て来た通常アスカは、洗った手をハンカチで拭いていた。

通常アスカ「あら?」

ふと見ると、中庭の端にじっと立っている通常レイの姿が見える。

あの娘、何してんのかしら。
こんな時間に・・・。

不思議に思った通常アスカは、そっと通常レイに近づいて行くと、いつになく真剣な表
情で教会をじっと見ていた。

通常アスカ「何してんの?」

通常レイ「シッ。」

通常アスカ「どうしたのよっ?」

本当に久しぶりに使徒との戦いで見せるくらいの、真剣な通常レイの顔を見た通常アス
カは、興味深々でその視線の先を見詰める。

通常レイ「もうすぐ、マリアさんが出て来るの。」

通常アスカ「へ?」

通常レイ「いつも夜中に隠れて、教会にお備え物を食べに行ってるの。」

通常アスカ「へ? 隠れて? それって・・・・・・ちょっとっ!」

その時通常レイの言った通り、教会から人目を忍んで出てくるマリアの姿が月明かりに
うっすらと照らされた。

通常レイ「今度は私も一緒って言ったのに・・・。」

マリアが出て来たのを目にした通常レイが、ツカツカと文句を言いに近付いて行こうと
した時、その手を通常アスカがグイと引っ張る。

通常レイ「どうして、邪魔するの?」

通常アスカ「フフフ。見つけたわよっ!」

きょとんとする通常レイの横で、マリアを見ながらニヤリと笑う通常アスカであった。

<シンジの寮>

通常アスカがニヤリと笑っている時、シンジは苦笑いをしていた。

すみれ「どうして、バスタオルで隠すんですの? サイズがわかりませんわ。」

シンジ「わーーっ! 取らないでっ。大丈夫。サイズは良かったから。」

すみれ「わたくしが見て差し上げますわ。ちょっと取って下さらないこと?」

バスタオルを取ろうとするすみれから、シンジはしゃがみ込んでそれを必死で押さえて
守る。

すみれ「どうして、そんなに恥ずかしがるんですの?」

シンジ「も、もういいだろ。着替えるから。あっち向いててよ。」

すみれ「でも、Aカップの水着でも、ユイさんの胸には大きそうですわね。」

シンジ「わーーーっ! 触らないでっ!」

ポロリ。

すみれが、何気なくシンジの胸に触った途端、その胸からくしゃくしゃに丸めたティッ
シュがぽろりと落ちた。

すみれ「なんですの? これ?」

シンジ「わーーーーーーっ!!!」

ティッシュを拾い上げたすみれが何気なく視線を上げると、スカスカの胸にビキニの水
着を付けているシンジの姿があった。

シンジ「返してっ!」

慌てて、ティッシュを取り返そうとした時、ハラリと腰に巻いていたバスタオルがはだ
ける。

すみれ「・・・・・・。」

シンジ「・・・・・・。」

すみれ「・・・・・・。」

シンジ「・・・・・・。」

すみれ「・・・・・・。」

シンジ「・・・・・・。」

すみれ「・・・・・・。」

シンジ「・・・あ、あの。」

すみれ「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

シンジ「わーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

To Be Continued.
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