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TwoPair
Episode 21 -想いは胸に。またねっ!-
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<シンジの寮>

「キャーーー! キャーーーーーーッ!」

「わっ! ちょっと待って!」

悲鳴を上げて部屋の外へ飛び出して行くすみれに、言い訳にならない言い訳をしながら
追い掛けるが、足にバスタオルが絡まりタンスの前で転んでしまう。

すみれ「キャーーーッ! ユ、ユ、ユ、ユイさんがっ! ユイさんがっ!」

廊下で大騒ぎするすみれの声を聞きつけ、周りの部屋から女生徒達がワラワラと飛び出
して来る。

女生徒A「どうしたのっ? 神崎さんっ?」
女生徒B「何があったのっ?」

すみれ「ユ、ユイさんがぁぁっ!」

自分の部屋の中を指さし、目を白黒させながら無我夢中で訴え掛け様とするが、驚きの
あまり上手く言葉にならない。

幼馴染アスカ「どうしたのよ!?」

丁度その時、自分の部屋へ戻ろうとして廊下を通り掛かった幼馴染アスカが、すみれの
ただならぬ様子にシンジの身の危機を感じて駆け寄って来た。

すみれ「そ、惣流さんっ! ご、ご存知無いかも知れませんが、ユ、ユイさんは、実は
        殿方でしたのよーーーっ!」

幼馴染アスカ「げっ!」

思わず引きが入った幼馴染アスカは、冷や汗・・・いや脂汗を掻いてしまうが、そこは
さすがにアスカコンビの片割れ。ここで自分が慌てれば誤魔化せるものも誤魔化せなく
なってしまうと冷静さを取り戻す。

幼馴染アスカ「やーねぇ。何言ってるのよ。すみれったらぁ。そんなわけないじゃん。」

女生徒A「もうぉ。大騒ぎして、何言い出すかと思ったらぁ。」
女生徒B「やーねぇ。」

いくら何でもにわかに信じ難いことをすみれが言い出したので、幼馴染アスカの言葉を
切っ掛けに、笑い出す女生徒達。・・・・・・・・・その時。

シンジ「誤解なんだーーーっ!」

ビキニの水着を付けたシンジが、見るに耐えない無様な格好で飛び出して来てしまった。

女生徒全員「・・・・・・・・。」

幼馴染アスカ「げっ!」

シンジ「あっ! アスカぁぁぁっ! 助けてよーーーっ!」

丁度、目の前に幼馴染アスカを見つけたシンジは、ビキニ姿のまま泣きついてくる。そ
の姿を見た幼馴染アスカは、顔をひくつかせながら額に青筋を浮かべる。

シンジ「アスカぁぁぁぁ。大変なんだよぉぉぉ。」

幼馴染アスカ「ア、ア、ア、アンタバカーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!!?」

バッコーーーーーーン。

幼馴染アスカのトドメの蹴りが炸裂し、瞬時に部屋の中へ吹っ飛び戻るシンジ。周りを
見渡すと、言葉も出せず呆然としている女生徒の群群群・・・。

幼馴染アスカ「はは・・・えっと、あれは・・・その・・・。」

女生徒全員「・・・・・・・・。」

幼馴染アスカ「アハハ。アハっ。」

こりゃダメだわ・・・。

なんとか言い逃れを考えようとしたが、さすがに今のシンジを見てしまってはリカバリ
ができるはずもなく・・・がっくりとうな垂れて諦めに入る幼馴染アスカだった。

<中庭>

シンジの寮の前が大騒ぎになっている頃、通常アスカと通常レイは、マリアが立ち去っ
た後の中庭のベンチで密談をしていた。

通常アスカ「こんな大事なこと、なんで教えなかったのよ。」

通常レイ「お供え物。取り分が減るもの。」

通常アスカ「ったく。わざわざお供え物を取りに行くと思うっ!? このバカバカバカ
            の大バカ女っ!」

通常レイ「行くわ!」

通常アスカにボロカスに言われて、ちょっとムッとしてきた通常レイは珍しく半分意地
になっている様に、強く断定する。

通常アスカ「アンタバカぁっ!? ゼーレに決まってるでしょうがっ!」

通常レイ「ゼーレは、お供え物は取らないわっ!」

通常アスカ「お供え物から離れなさいっ!」

通常レイ「お供え物が目的じゃないのね。」

通常アスカ「あったり前でしょうがっ。後はどうやってしっぽを掴むかよね。ちょっと
            耳貸しなさい。」

通常レイ「舐めないでね。」

通常アスカ「舐めるかっ!」

こちらはこちらで、ゼーレ捕獲作戦の準備が整いつつあるようだ。後は通常アスカの作
戦を残りのメンバーに展開し実行するだけである。

<転校生レイの寮>

転校生レイ「うぅぅぅぅぅぅぅ。」

部屋で苦しそうにして横になる転校生レイ。

さくら「大丈夫?」

転校生レイ「うぅぅぅぅぅぅぅ。」

さくら「アイスとケーキをあんなに食べるからぁ。」

転校生レイ「うぅぅぅぅぅぅぅ。」

<職員室>

男であることが発覚したシンジと、心配なので一緒に付き添った幼馴染アスカは、職員
室の夜勤の1人のシスターの前に立っていた。

シスター「性別を偽って入学するとは、何ごとですかっ!」

シンジ「だからぼくは嫌だって・・・言ったのに・・・。」

シスター「何をモゴモゴ言っているんですっ! 質問に答えなさいっ! 碇さんっ!」

シンジ「どうしよう・・・アスカ?」

幼馴染アスカ「こうなったら、本当のこと言うしかないんじゃない?」

シンジ「そうだね・・・。」

シスター「このままだと、刑事問題になりますよっ! どういうことか説明をしなさい
          っ! あなたのせいで、こちらまで責任追及されるんですよっ!」

バシっ!とシンジの立つ隣の椅子を、差し棒で叩いて激怒するシスター。納得のいく説
明をしなければ、叩くと脅している様なものだ。管理問題を追及されて、自分に被害が
及ぶのが嫌なのであろう。

シンジ「実は・・・その・・・ぼくはネルフからの命令で、この学園の捜査を・・・。」

シスター「なにを馬鹿なことをっ! そんな嘘が通じると思っているんですかっ!」

シンジ「これ・・・。」

口で言っただけでは信じて貰えそうになかったので、シンジはネルフのIDカードをシ
スターに見せて身元を証明しする。

シスター「こ、これは・・・。」

シンジのIDカードを見るや、今迄での勢いは何処へやら・・・途端に顔が青褪めてく
るシスター。

シスター「じゃ、じゃぁ、あなたは学園の捜査・・を? えっ、まさか惣流さん達や綾
          波さん達も?」

シンジ「そうです・・・。」

シスター「おほほほ。あらぁ、そうでしたのぉ。いえいえ、普段は今みたいに厳しく怒
          ったりはしませんのよ。生徒のことを第1に考えた教育をしておりますの。」

シンジ「はぁ・・・。あの、ぼくが男なのは、もう仕方無いけど。ネルフのことはでき
        るだけ秘密に・・・。」

シスター「わかっておりますとも。ですから、わたくしが協力的だったと御報告して下
          さいね。」

シンジ「はぁ。」

何か大きな勘違いをしたシスターは、手の平を返した様に妙に優しくなり、シンジと幼
馴染アスカにお茶まで御馳走してくれた。

シンジ「どうしたんだろう? なんか急に優しくなったけど・・・。」

幼馴染アスカ「学園の教育体制を調査しに来たと思ったんじゃない?」

シンジ「そういうことか・・・。」

夜勤のシスターが出してくれた男物の服に着替えたシンジは、ようやく永遠と続くおべ
っかから解放され職員室を出る。その途端、どっと歓声が湧き起こった

女生徒A「キャーーー。本当に男の子よーーーっ!」
女生徒B「どうりで精悍な顔つきだって、思ってたのよねぇっ!」
女生徒C「本当の名前は何って言うのぉっ!?」

まさに初来日したパンダのカンカン,ランラン状態である。小学生の時から全寮制の女
子校に缶詰の彼女達にしてみれば、同年代の男の子などめったに見れるものではない。

シンジ「うわっ! なんだっ? なんだっ?」

幼馴染アスカ「ちょっとっ! どきなさいよっ!」

女生徒達にもみくちゃにされるシンジを、必死で守る幼馴染アスカ。しかし、さすがの
幼馴染アスカも多勢に無勢であり、一緒になってもみくちゃにされる。

女生徒A「いやーーーん。触らせてーーっ!」
女生徒B「ねぇねぇ、どうしてうちの学校に来たのーーーっ!?」
女生徒C「彼女いるのっ!? 彼女っ!」

幼馴染アスカ「えーーーーい。どけっつってるでしょーーーがっ!!!」

とうとうブチ切れた幼馴染アスカは、次から次へと女生徒達をはったおして、無理矢理
道を開けて行く。その時、その集団の反対側から、通常アスカと通常レイが歩いて来た。

通常レイ「人が沢山。」

通常アスカ「ったく。シンジがドジだから、こんなことになんのよ。」

シンジが男であることがばれたと聞いて、駆け付けてみると案の定この騒ぎだ。呆れて
天を仰ぐ通常アスカ。

幼馴染アスカ「どきなさいっつってるでしょーーがっ!」

シンジ「わーーーーーーっ!」

女生徒A「いやぁーーーん! 待ってーーーっ!」
女生徒B「惣流さんだけずるーーーいっ!」
女生徒C「わたしも一緒に行くぅっ!」

幼馴染アスカにはったおされながらも、ひつこくシンジにこびりついてくる女生徒達の
群群群。

通用アスカ「しゃーないわねぇ。もう。」

通常レイ「どうするの?」

通常アスカ「アンタらっ! シンジは伝染病で男になったのよっ! アンタらも男になっ
            ちゃっていいのっ!? 近付いたら感染するわよっ!」

女生徒全員「シーーーーーーーーン。」

女生徒達が一瞬シンジから離れた隙を突いて、幼馴染アスカがシンジの手をぐいと引っ
張り集団の中から脱出する。

幼馴染アスカ「アンタらバカじゃないのっ?」

通常アスカ「シンジっ! 話があるわっ! こっちよっ!」

シンジを中心に走り出すアスカコンビと通常レイ。それを見てようやく騙されたとわか
った女生徒達は、地団駄を踏んで悔しがるのだった。

<通常アスカの寮>

アイリスに幼馴染アスカの部屋へ行って貰い、シンジ達は通常アスカの部屋で相談を始
めていた。

シンジ「じゃぁ、ゼーレの正体がわかったってこと?」

通常アスカ「間違い無いわ。マリアよ。レイの話だと、しょっちゅう隠れて教会に行っ
            てたらしいわ。」

幼馴染アスカ「なんでもっと早くいわないのよっ!」

通常レイ「お供え物を食べに行ってると思ってたから。」

幼馴染アスカ「アンタバカっ!?」

通常レイ「どうして、アスカは2人して同じことを言うの? あっ、できた。」

幼馴染アスカ「誰だって言うわよっ! 何ラーメン作ってるのよっ。」

シンジ「現場を押さえるなら明日だね。」

通常アスカ「ええ。逃げられない様に入り口を押さえる組と、教会の中で現場を押さえ
            る組に分け様と思うわ。」

シンジ「じゃ、ぼくが中に行くよ。なにかあったら危ないだろ。」

幼馴染アスカ「アンタはダメ。ドジルから。」

シンジ「どうしてだよお。」

幼馴染アスカ「さっき、ドジったばかりでしょうがっ!」

シンジ「うぅぅ・・・。」

通常アスカ「中には、アタシとアスカとあっちのレイで入るわ。」

通常レイ「どうして私は外なの?」

幼馴染アスカ「シンジと同じよっ!」

通常レイ「碇君と一緒。」

ぽっ!

何か勘違いして通常レイは喜んでいる様だ。まぁ、そんなことはともかく、アスカコン
ビは作戦の準備を進める。

通常アスカ「で、あっちのレイは?」

幼馴染アスカ「さっき、クラスの子に伝言頼んだんだけどねぇ。遅いわね。」

その時、ゆっくりと通常アスカの寮の扉が開いた。全員が視線を向けると、幽霊を思わ
せる様な表情の転校生レイが立っている。

シンジ「どうしたの?」

転校生レイ「冷たいの食べ過ぎて・・・お腹痛いの。」

通常レイ「ズルズル。」

幼馴染アスカ「ラーメン食べてないで、話聞きなさいよ。」

通常アスカ「この肝心な時に何してるのよっ! ゼーレの正体が見付かったのよっ!」

転校生レイ「え? ゼーレがみつかったの? うぅぅぅぅ。お腹痛い・・・。」

通常アスカ「明日までには治しなさいよっ!」

転校生レイ「そんなこと言ったって・・・。」

幼馴染アスカ「後で良く効く薬あげるから、飲んどきなさい。」

転校生レイ「ありがとう・・・。」

通常レイ「ズルズル。」

転校生レイ「ラーメン食べてないで、話聞いてよ。」

通常アスカ「じゃ、最初の作戦通り、アタシ達とレイが中ね。」

転校生レイ「いいわ。」

幼馴染アスカ「アンタは、せっかく腕上げたんだから、棒持って来なさいよ。」

転校生レイ「へへぇ。」

通常アスカ「アンタは、せっかく腕上げたんだから、廻持って来なさいよ。」

幼馴染アスカ「誰が相撲してたのよっ!!!」

通常レイ「ズルズル。」

通常アスカ「ラーメン食べてないで、話聞きなさいよ。」

シンジ「じゃ、そういうことで決まりだね。明日夜9時に中庭に集まろう。」

通常アスカ「それはいいとしてぇぇ・・・。」

シンジ「どうしたの?」

通常アスカ「アンタ、今日何処で寝るのよ?」

シンジ「あっ!」

転校生レイ「どうしたの?」

幼馴染アスカ「男だってのがばれちゃったのよ。」

転校生レイ「えーーーっ! シンちゃんばれちゃったのぉ? じゃ、わたしが一緒に寝て
            あげようか?」

幼馴染アスカ「アンタバカぁっ!?」

通常アスカ「ったく、何考えてんのよっ! アイリスにすみれの所で寝て貰って、シン
            ジはアタシと寝るのよっ!」

幼馴染アスカ「アンタもバカでしょうがっ! そんなこと許されるわけないでしょっ!」

通常アスカ「じゃ、どうするのよっ!?」

幼馴染アスカ「煩い織姫を追い出して、アタシと寝るのっ。それで、いいでしょ?」

通常アスカ&転校生レイ「いいわけないでしょっ!」

互いに自分の主張を譲らず、取っ組み合いの喧嘩を始めるアスカコンビと転校生レイ。
狭い部屋が大騒ぎだ。

通常レイ「ズルズル。ゴクゴク。ごちそうさま。碇君、行きましょ。」

シンジ「うん・・・。」

喧嘩をしている3人を余所に、通常レイはシンジを連れてそそくさと部屋を出て行った
のだった。

<廊下>

通常アスカの寮から連れ出されたシンジは、トコトコと通常レイの後に付いて廊下を歩
いていた。

シンジ「何処行くの?」

通常レイ「私の部屋。」

シンジ「綾波はどうするのさ。」

通常レイ「部屋で寝るわ。」

シンジ「じゃ、レニさんは?」

通常レイ「すみれさんの部屋で寝て貰うわ。」

シンジ「そんなの悪いよ。」

丁度その時、T字になっている廊下の向こうをすみれが横切った。

シンジ「あっ!」

思わず声を出してしまったシンジは、すみれがこちらに振り返ったので、気まずそうな
顔で俯いてしまう。

シンジ「あ、あの・・・。」

その声に気付いたすみれが近付いて来たので、シンジはしどろもどろになりながら、何
と言い訳しようか焦る。

シンジ「あの・・・ごめん。実はこれには・・・。」

すみれ「さっきは、ちょっと驚いただけですわ。そんなに気になさらなくても結構よ。」

シンジ「でも・・・。」

すみれ「さぁ、わたくし達のお部屋へ戻りましょう。」

シンジ「え? でも、ぼくは。」

すみれ「寝るお部屋が無いとお困りでしょう?」

シンジ「そうだけど・・・。」

すみれ「わたくしもあれから考えましたの。よく考えると、わたくしよりユイさんの方
        が今迄大変でしたわね。」

シンジ「うん・・・。」

すみれ「ユイさんの部屋ですのよ? 戻りましょ。」

シンジ「うん・・・そうだね・・・。ありがとう。わかったよ。それじゃ、綾波。自分
        の部屋へ帰るよ。」

通常レイ「そう・・・。」

少し怒った顔でシンジを見上げる通常レイだったが、そのくらいの微妙な仕種がわかる
シンジであろうはずもない。

ドタドタドタ。

それからしばらくして、アスカコンビと転校生レイが走ってきた。

通常アスカ「レイっ! シンジを何処やったのよっ!」

通常レイ「知らない。」

幼馴染アスカ「1人でうろついたら、危なくてしょうがないでしょうがっ!」

シンジが学園内を1人で歩くということは、夜道のスラム街を女の子が1人で歩くのと
同じである。

その夜、アスカコンビと転校生レイは、学園の中を必死で探し回ったが、まさかあれだ
け大騒ぎしたすみれの部屋で幸せに寝ているなどとは想像もつかなかったようである。

<教室>

翌日、学園はてんやわんやの大騒ぎとなった。シンジが廊下を歩くと、その後に女の子
の行列ができ、シンジが椅子に座ると、取り巻きの女の子がうじゃっとかたまってきた。

通常アスカ「この、バカシンジっ! なんで自分の部屋で寝てんのよっ!」

シンジ「だって・・・。自分の部屋だから。」

幼馴染アスカ「アンタは、もう1人で歩いたらダメなのよっ!」

シンジ「そんなぁ・・・。」

転校生レイ「シンちゃん。この状況見てよ。」

転校生レイが周りに目を向けると、猫も杓子もシンジに変な眼差しを向け、まさにフィ
ーバー状態となっている。

シンジが振り返ると、クラスメートがキャーー。
シンジが廊下に目を向けると、お姉様状態だった下級生がシンジ様状態でキャーー。

通常アスカ「こうなったら、なんとしても今日作戦を決行して、決着付けるしか無いわ。」

幼馴染アスカ「こんな危ない所。さっさと出て行かないと。」

シンジ「あ、あの・・・。トイレ行きたいんだけど。」

通常アスカ「やかましいっ! アンタが行くトイレなんか無いわよっ!」

シンジ「そ、そんなぁ・・・。」

幼馴染アスカ「しゃーないわねぇ。アタシが職員室の前の男子トイレまで、付いて行っ
              てあげるわよ。」

シンジ「えーーーーっ!? あんなとこまでぇ?」

転校生レイ「あったりまえよぉ。女子トイレしかないんだから。」

シンジ「はぁ・・・。」

トイレへ行くにも、アスカコンビとレイちゃんズが前後左右を固めて、護衛していく始
末である。

女生徒A「キャーーーッ! 男の子よぉっ!」
女生徒B「シンジ様ぁぁぁ!」
女生徒C「こっち向いてぇぇっ!」

幼馴染アスカ「やかましいっ! 近寄るんじゃないわよっ!」

そんなこんなのすったもんだの1日が終わり、いよいよアスカコンビとレイちゃんズ、
そしてシンジは作戦を開始しようとしていた。

<教会前>

通常アスカ「いいこと? アタシ達が、教会の中の椅子の下に隠れてるから、マリアが
            入ったら携帯1コールいいわね。」

シンジ「わかってるよ。」

通常レイ「お供え物。持ってきて。」

転校生レイ「いつまでこだわってるのよ。」

打ち合わせも終わりそろそろ9時なので、教会の中チームと外チームは、それぞれの持
ち場について、マリアが来るのを待つことにした。

シンジ「あっ、来た。綾波、携帯は?」

通常レイ「持ってないわ。」

シンジ「えーーーーーっ!?」

通常レイ「碇君が持ってくると思ってたもの。」

シンジ「ぼくは綾波が持ってくると思ってたよ。」

通常レイ「そう・・・。同じなのね。」

シンジ「そうじゃなくて・・・。携帯取りに帰ってくるから、綾波はここ見張ってて。」

通常レイ「ええ。」

<教会の中>

薄明かりの灯る教会の中で、通常アスカ達は息を殺して隠れていたが、先程から非常事
態が発生していた。

通常アスカ「あっ! そっちっ!」

幼馴染アスカ「イヤッ! ちょっとっ!」

転校生レイ「あーん。もう嫌ぁ。」

通常アスカ「なんでこうなんのよぉっ!」

3人の周りを1匹の蝦が飛び回り、尋常ならない被害が発生していたのだ。密かに忍び
込んでいる為、大騒ぎするわけにもいかず大ピンチである。

プルルルルルルルル。

その時、通常アスカの携帯が鳴り響いた。

プルルルルルルルル。

あのバカ、1コールって言ったのにっ!

慌てて電源を切り、視線を少し上へ上げると丁度マリアが入ってきた所だった。マリア
は人目をはばかる様に奥へ奥へと進んで行く。すると、その奥から少し背の高い人影が
現れた。

<教会前>

シンジは取りに行った携帯で何度もアスカに電話をかけながら、走って戻ってきていた。
しかし、何度コールしても、呼び出し音がならないのだ。

シンジ「まずいよ。アスカ、電源切ってんじゃないかなぁ?」

通常レイ「なら、私の携帯を取ってくるわ。」

シンジ「誰の携帯でも一緒だよ。」

通常レイ「そうなのね・・・。」

どう対応していいのかわからないシンジは、とにかく呼び出し音が鳴るまでひたすら電
話をかけ続けるのだった。

<教会の中>

通常アスカ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

幼馴染アスカ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

転校生レイ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

3人は放心状態になり、その場に顔を真っ赤にして固まってしまっていた。視線を逸ら
そうとするが、どうしても見てしまう。

マリア「大神さん・・・。好き。」

そう、3人の目の前でマリアと牧師の大神一郎が熱烈なラブシーンを繰り広げ始めたの
だ。

通常アスカ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

幼馴染アスカ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

転校生レイ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

ぼぉーっと視線を釘付けにして、盗み見てしまう3人。お忍びでマリアが来るのも当然
だろう。教師と生徒の恋となんら変りの無い間柄である。

通常アスカ「ど、どうすんのよ・・・。」

ようやく我に返った通常アスカが、なんとかこの場を脱出しようと、残りの2人に小声
で問い掛ける。

幼馴染アスカ「あっ、そ、そうね・・・。」

転校生レイ「わたし、もうちょっと見てる。」

幼馴染アスカ「見付かったら何言われるかわかんないわよ。」

通常アスカ「それは、向こうの方がヤバそうだから、大丈夫よ。はっ!」

ふと気付くと放心状態になっていた時に、あちこちが蝦に刺されてしまったようで、手
や足がかゆくなっている。

通常アスカ「も、もうイヤっ! かゆいっ!」

幼馴染アスカ「でも、今動いたら覗きと同じになるわよっ?」

通常アスカ「うぅぅ・・・。」

そんな間もマリアと大神の熱烈なラブシーンは続く。

転校生レイ「す、すごい・・・。」

やっとマリアが教会から退出し、3人が蝦にあちこちを刺された後、開放されたのは夜
の10時30分くらいのことだった。

<教会前>

3人が出て来たので、急いで近寄って行くシンジと通常レイ。何度携帯に電話をかけて
も繋がらないので、やきもきしていたのだ。

シンジ「もうっ! 携帯の電話切ってちゃ駄目じゃないか。」

通常アスカ「あぁ、かゆいじゃない・・・。え? 携帯? そうよっ! アンタっ! 1コ
            ールって言ったのに、何度も鳴らすからよっ!」

シンジ「1度も呼び出し音なんて、鳴ってないよ。」

通常アスカ「そんなはずないでしょ。」

通常アスカが自分の携帯を取り出し、液晶パネルを見てみると、着信1件。呼び出し元
は葛城ミサトであった。

通常アスカ「あっちゃーーー。ミサトだったんだわ・・・。」

電話をしてきたのがミサトだとわかり、慌てて電話を掛けるアスカ。プルルルルと4,
5回のコールの後、ミサトが電話に出る。

ミサト『はーい。アスカぁ?』

通常アスカ「そうよ。さっき電話した?」

ミサト『したした。ゼーレのことなんだけどさぁ。』

通常アスカ『あぁ、ちゃんとやってるわよ。今、教会を調査したんだけど、違ったわ。』

今回は本当に調査したので、胸を張って言えるというものだ。

ミサト『それ。なしぃぃ。』

通常アスカ「へ?」

ミサト『どうも、デマだったみたいなのよねぇ。』

通常アスカ「デ、デマ? へ?」

ミサト『誤報よ。誤報。ってことでぇ。戻って来てもいいわよん。』

通常アスカ「ちょっと、待ちなさいよっ! どういうことよっ! それっ!」

ミサト『だからぁ、デマだったのよぉ。ごめんちょ。』

シンジ「どうしたの?」

通常アスカ「どうしたもこうしたもないわよっ! ゼーレっての、デマだったんですって。」

通常レイ「そう・・・。戻れるのね。」
幼馴染アスカ「な、なんですってーーーーーーーーーっ!!!!」
転校生レイ「あははははははは。なーんだ。」

通常アスカ「だいたい、どっから、そんないい加減な情報仕入れたのよっ!」

ミサト「相田くんが、そんなこと言ってたか・・・」

ブチ。

最後まで聞かずに電話を切った通常アスカは、携帯電話を胸のポケットに押込むと、目
を釣り上げて歩き出した。

シンジ「アスカ。何処行くのさ?」

通常アスカ「決まってるでしょっ! 第3新東京市に帰る用意すんのよっ!」

<通常アスカの寮>

職員室で転校の手続きを済ませ、寮に戻った通常アスカは早速帰り支度を始める。側に
座ったアイリスは、その様子を見ながら寂しそうに話し掛けてくる。

アイリス「もう帰っちゃうのね。」

通常アスカ「ええ。用事も終わったからね。」

アイリス「なんだか、寂しいなぁ。」

通常アスカ「大丈夫よ。アタシ達がいなくなった後、すみれと同じ部屋になるって聞い
            たし。」

アイリス「でも・・・やっぱり、寂しいなぁ。」

通常アスカ「まったく。全然意味の無い任務だったわ。」

アイリス「そんなことないよ。」

通常アスカ「え?」

アイリス「だって、アスカが来てくれたおかげで。アイリス。学園生活が楽しくなった
          もん。」

通常アスカ「そう。そうね。アタシがいなくなっても、がんばんなさいよ。」

アイリス「うん。アイリスもがんばるから、アスカもがんばってね。」

通常アスカ「あったりまえよっ! よっし、どっちががんばるか競争ねっ!」

アイリス「うんっ!」

それから2人は、短くもあり長くもあったこの学園生活での思い出を、語り続けるのだ
った。

<通常レイの寮>

帰り支度をしていると、荷物の中から自分がよく読んでいた詩集が出てくる。

通常レイ「レニ。これ、あげるわ。」

レニ「いいの?」

通常レイ「ええ。もう読み終わったもの。」

レニ「それじゃ、貰っておくよ。」

レニに詩集を手渡すと、また自分の荷物を整理し始める通常レイ。

レニ「一緒に本を読んでくれて・・・嬉しかったよ。」

通常レイ「そう。今度、第3新東京市にも来て。」

レニ「うん。」

通常レイは、レニと何冊か互いの詩集や小説を交換して、帰り支度を進めて行った。

<転校生レイの寮>

転校生レイが帰り支度をしていると、さくらが自分のタンスから1本の木刀を取り出し
てきた。

さくら「これ、あげるわ。」

転校生レイ「えっ? いいの?」

さくら「ええ。あたしのは、まだあるから。」

転校生レイ「ありがとうっ! さくらちゃんっ!」

さくら「だから、帰っても練習しなくちゃ駄目よ。折角、あそこまで上手くなったんだ
        から。」

転校生レイ「うん。わかってる。」

さくら「剣術大会の時は、ありがとう。」

転校生レイ「来年の剣術大会。絶対見に来るからね。」

さくら「神崎さん。強いから来年までには、新しい技を完成させとくわ。」

転校生レイ「すっごーいっ! 楽しみにしてるっ!」

さくら「荷物の整理、手伝うわ。」

転校生レイ「足大丈夫なの?」

さくら「うん。もうあんまり痛くない。」

転校生レイ「そうだっ! 急いで支度して、最後にわたしの剣見て。」

さくら「いいわよ。じゃ、急ぎましょ。」

転校生レイ「うんっ!」

その後、最後の剣術の練習をさくらに付き合って貰った転校生レイは、来年の剣術大会
を夢に見るのだった。

<シンジの寮>

シンジもすみれに手伝って貰いながら、帰り支度をしていた。男だとばれてどうしよう
かと思っていたシンジだったが、早く帰れることになり少しほっとしている。

すみれ「ユイさん・・・いえ、シンジさん。このお紅茶セット差し上げますわ。」

シンジ「いいの? だって、これはすみれさんが気に入ってたやつじゃ。」

すみれが、お気に入りのポットなどのセットを出してきたので、少し気が引けてしまい
遠慮してしまう。

すみれ「かまいませんわ。シンジさんも、気に入って飲んで下さってましたし。」

シンジ「そ、そうだね・・・はは。」

実際の所、入れられたから仕方なく飲んでいたという場合が多かったのだが、そうも言
えず素直に貰っておくことにする。

すみれ「ところで、シンジさん?」

シンジ「何?」

すみれ「シンジさんは、誰が好きなんですの?」

シンジ「へ?」

すみれ「どなたとお付き合いされてるのかと。」

シンジ「アスカやレイのこと?」

すみれ「勿論ですわ。」

シンジ「そんなんじゃないよ。ただの仲間だよ。」

すみれ「・・・・・・・・・・。」

シンジ「変なこと言うと、またアスカやレイに怒られるよ。」

シンジの言葉を聞いて、すみれはこの先まだまだ苦労しそうなアスカコンビとレイちゃ
んズに同情するのだった。

<幼馴染アスカの寮>

織姫「サッサト デテイッテ クダサーイッ!」

幼馴染アスカ「今用意してるでしょうがっ!」

織姫「ホコリガ タッテ メイワクデースッ!」

幼馴染アスカ「うっさいわねっ! 嫌なら出て行きなさいよっ!」

織姫「デテイクノハ アナタデースッ!」

幼馴染アスカ「うっさいって言ってるでしょーーーーがっ!!!!」

ドンガラガッシャーーーーーンっ!

折角帰り支度の用意を進ませていた幼馴染アスカだったが、ひっちゃかめっちゃかに辺
り一面に撒き散らしながら、最後の最後まで元気に喧嘩をしているのだった。

<校門>

翌日、シンジを中心にアスカコンビとレイちゃんズが左右に並び、見送りに来たクラス
メートに1人づつ挨拶をしていた。

通常アスカ「がんばんなさいよ。」

アイリス「うん。」

転校生レイ「来年また来るからね。」

さくら「待ってるわっ!」

シンジ「いろいろ、ありがとう。」

すみれ「シンジさんはともかく、アスカさん達やレイさん達。がんばって下さいね。」

通常レイ「さよなら。」

レニ「うん。」

織姫「サッサト イキナサイデースッ!」

幼馴染アスカ「言われなくても、行くわよっ! さっ! みんな行くわよっ!」

織姫にべーーーと舌を出した幼馴染アスカは、他の4人の背中を押して迎えに来たネル
フの車の乗ろうとする。

織姫「アッ。」

幼馴染アスカ「なによっ。」

織姫「モウ・・・イクデスカ。」

幼馴染アスカ「ええっ! 行くわっ!」

織姫「ソウデスカ・・・。」

幼馴染アスカ「なによっ!」

織姫「・・・・・・。」

幼馴染アスカ「・・・・・・。」

織姫「アナタナンカ イナクナッテ セイセイシマーーースッ!」

幼馴染アスカ「アタシだって、やっと静かになるわよっ! べーーーーーだっ!」

そう言いながら、少し戻ってきた幼馴染アスカは、そっと織姫の背中に手を回して、耳
元で語り掛けた。

幼馴染アスカ「アンタは喧嘩相手なんだから、体壊したら許さないわよ。」

織姫「・・・・・・。」

幼馴染アスカ「じゃねっ! へっへーーーんだっ!」

ばっと織姫から離れた幼馴染アスカは、ネルフの車に乗り込んで行く。

織姫「ア、アッタリマエデースッ! アナタニ イワレナクテモ カラダナンカ コワシマ
      セーン!」

幼馴染アスカ「約束よっ!」

びっと織姫を指差した幼馴染アスカの姿を最後に、クラスのみんなに手を振られながら、
ネルフの車は出て行く。

学園に残されたクラスメート達は、それからしばらく教室へ戻ろうとはせず、祭の後の
寂しい気持ちでずっと立ち続けていたのだった。

<ネルフ本部>

丁度その頃、リツコはニヤリと笑ってコンピューターが映し出すパネルを見つめていた。

リツコ「できたわっ! これこそ、エヴァをも凌ぐ史上最強の兵器よっ!」

さくら「あの・・・。それじゃ、わたしのお願いは聞いてくれるんですかぁ?」

リツコ「もうすぐ、あの子達も帰ってくるわ。心配しないで。」

さくら「ありがとうございますっ!」

リツコ「そのクロウカードか、なんだか知らないけど、私にかかればどってことないわ。」

1人の小学生の木之本桜と言う女の子と話をしながら、リツコは新たな新兵器の発明に
目を輝かせるのだった。

そして、その向こうには、”おしおき”と朱書きされた、メイクコンテストでの通常レ
イの写真が飾ってあった。

<車>

車の中でシンジ達は、ゆっくりとくつろいでいた。

通常アスカ「これで任務も終わって、しばらくゆっくりできるわねぇ。」

シンジ「温泉に行きたいなぁ。」

転校生レイ「温泉いいわねっ!」

シンジ「トウジ達元気かなぁ。」

この先、自分達の身に何が起こるかなど知る由も無い5人は、今が最も幸せの絶頂であ
った。

To Be Continued.
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