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あまえんぼうアスカちゃん
Episode 04 -VS アラエル-
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<ネルフ本部>

今はハーモニクステストの真っ最中。モニタを見つめるミサトとリツコの表情は険しか
った。

「最近のアスカ・・・駄目ね。」

モニタに表示されたグラフを見つめるリツコが溜息をつく。その原因は、最近シンクロ
率が低下しているアスカにあった。

「起動指数ぎりぎりです。」

リツコに続いて、マヤが状況をミサトに報告する。実際、アスカのシンクロ率は2桁を
切る寸前まで落ち込んでいたのだ。

「あなた保護者なんでしょ。しっかりしなさいよ。」

「わかってるわよ・・・でもねぇ・・・。」

リツコに責められるミサトだが、彼女は彼女なりにがんばっているのだ。

<エントリープラグ>

エントリープラグ内で、真紅のプラグスーツに身を包んだアスカは、さっきから初号機
の方ばかりを見ている。

はーーぁ。早くハーモニクステスト終わらないかなぁ。退屈だなぁ。

おもむろに初号機と通信を開くアスカ。

「シンジぃぃ、ねぇ、シンジってばぁ。」

「テスト中だから、話し掛けないでよ。気が散るじゃないか。」

シンジは、すぐに通信を切断してしまった。

「むぅ〜。」

「アスカ! いいかげんにしなさい!! ハーモニクステスト中だって、何度言ったらわ
  かるの!」

見かねたミサトが、叱咤の声を飛ばす。

「ウルサイわね! ミサトがぎゃーぎゃー言うから、シンジがお話してくれないんじゃ
  ない!」

「お願いだから、ハーモニクステストに集中してよ。」

「じゃぁ、シンジと一緒にエントリープラグに入る!」

「あのねぇ、それじゃテストにならないって、言ってるでしょ。」

「むぅ〜。」

アスカは通信回線を閉じると、自分で作ったシンちゃん人形を抱きしめてハーモニクス
テストが終わるのを待つのだった。

<司令室>

ミサトとアスカの会話を聞いていたリツコは、頭をかかえる。

「弐号機の娘は、変更やむなしかもね・・・。」

「ちょっと待ってよ! わたしが説得するから!」

「そのセリフを何度も聞いたけど、いつまで待っても全然やる気にならないじゃない。」

アスカをかばおうとするミサトとリツコの口論。最近ハーモニクステストをすると、毎
回見られる光景だ。

「今度こそ・・・今度こそ、ちゃんと説得するから、ね。」

両手を合わせてリツコにお願いするミサト。

「次の使徒が来た時に、また何の成果も上げることができなかったら交代よ。いいわね!」

「はいはい。まかせといて!」

ひとまずこの場はなんとか納めたミサトだが、これといって対策方法があるわけでも無
く、暗い表情のまま司令室を後にするのだった。

<ミサトのマンション>

食卓の椅子に座るミサトとシンジ、シンジの膝の上に満足気に座るアスカ。

「アスカ! 聞いてるの!?」

「聞いてるわよ! あーーーーん。」

先程から、ミサトに叱り付けられるアスカだが、そんなことは気にせずハンバーグをシ
ンジに催促して雛鳥の様に口を開ける。

「ご飯はミサトさんの話が終わってからにしようよ。」

「むぅぅぅ。」

シンジがご飯を食べさせてくれないので、膨れてみる。

「アスカ!!!」

とうとうキれたミサトは、机をバンっと叩いて立ち上がった。

「何よ! ウッサイわね!」

「次の戦闘で成果をあげれなかったら、弐号機を降ろされるのよ! わかってるの!?」

「わかってるわよ! まっかせなさい! あーーーーん。」

本当にわかっているのだろうか、また大きく口をあけてシンジに催促している。

「アスカぁぁぁ・・・。」

困り果てるシンジ。

「シンジくんが、アスカを甘やかすからこんなことになるのよ! 見てみなさい、シン
  ジくんと知り合ってから、アスカのシンクロ率が急降下してるじゃない!」

来日してからのアスカのシンクロ率履歴を示したグラフが、シンジの前に叩き付けられ
る。

「そ、そんなぁ・・・。」

別に悪いことをしているわけでもないのに怒られたシンジは、世の中の無情を呪う。

「アスカも、いいかげんにシンジくんの膝の上から降りなさい!! わたしは怒ってる
  のよ!」

「いやーーーーー!!!」

ミサトが無理矢理シンジからアスカを引き離そうとすると、しっかとシンジに抱きつき
離れないアスカ。

「アスカ!! 人がまじめな話をしているのに、それが人の話を聞く時の態度なの!?」

「いや! いや! シンジのお膝がいいのぉぉぉぉぉ!!!!」

「降りなさいってば!!!」

意地になったミサトに足を引っ張られながらも、アスカは両手でシンジの腰を抱きしめ
絶対に離れない。

「シンジくん! なんとかしなさい!」

また、ミサトの怒りの矛先がシンジに向けられる。

「アスカぁ、今は大事な話をしているんだから、膝の上に座って聞くのは良くないよ。
  いい子だから・・・ね。」

「むぅぅぅぅぅぅ。」

シンジに頭をなでられながら説得されたアスカは、涙目で膨れっ面をしながらもしぶし
ぶシンジの膝の上から降りた。

「アスカ、よく聞きなさい。ちゃんとハーモニクステストを受けないと、弐号機を降ろ
  されるのよ!」

「ミサトが余計なことばっかり言うから、シンジがだっこしてくれないのよ!」

「次の戦いで成果を上げなくっちゃいけないの。わかってるの!?」

「アタシは、シンジのお膝の上でご飯を食べさせて貰いたいの!」

「起動指数が2桁を切ったら、エヴァが動かなくなるのよ!」

「シンジがせっかく作ってくれたはんばーぐが、冷めちゃうじゃない!」

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その日も話は全く噛み合わないまま、ミサトの根負けにより葛城家の話し合いの時間は
終わった。ミサトの胃に穴が開く日は、近いかもしれない。

<ネルフ本部>

翌日、ネルフ本部では警報が鳴り響いていた。

「パターン青! 使徒です!」

日向が成層圏に現れた使徒を確認する。ネルフ職員の動きは、その報告を聞き一層あわ
ただしくなった。

「初号機は凍結中だから、様子を見る意味でアスカに出てもらいます。」

「えーーー、アタシ1人で出るのぉ?」

「当たり前でしょ! いいこと! 今回成果を上げれなかったらエヴァを降ろされるのよ!」

「シンジぃぃぃぃ、終わったら遊園地に行こうね。」

「アスカっ!! 聞いてるの!!!!!?」

額に青筋を浮かべ、金切り声を上げてアスカを叱り付けるミサト。

「わかってるわよ。成果を上げればいいんでしょ、成果を。」

アスカは投げやりに言うと、エントリープラグへ乗り込んで行った。

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弐号機が発射位置につき、シンジは凍結中の初号機に念の為乗り込む。レイは待機。

「まずは相手の出方を伺うわ。射出されたらポジトロンライフルで狙撃。いいわね。」

「はいはい。」

「アスカ! ラストチャンスなのよ! しっかりするのよ!」

「わかってるって。」

「いくわよ! エヴァンゲリオン発進!」

ミサトの指令と共に、射出される弐号機。その中でアスカは、シンちゃん人形を抱きし
めていた。

<地上>

弐号機が地上に出ると、天空高く光るアラエルが星の様に輝いている。アスカは、ポジ
トロンライフルを構え照準をセットした。

「さっさと終わらせるわよ!」

ポジトロンライフルを、アラエル目掛けて発射。しかし、その閃光は大きく使徒を外れ
た。

ハーレルヤ、ハーレルヤ。

ポジトロンライフルの光が宇宙の彼方へ消え去った時、アラエルから7色の光が地上に
降り注いだ。

「何なの!? アスカ!! 撤退よ!!」

使徒からの攻撃らしき未知の光を見たミサトは、即座に撤退命令を下す。

「もう、撤退しているんですが・・・。」

マヤが冷や汗をかきながらミサトに報告する。その時アスカは、既にケージへ向ってエ
レベーターを降りていた。どうやら、ポジトロンライフルを打った瞬間に着弾も確認せ
ずエレベーターを降りていた様だ。

「はぁぁ。」

ミサトは安堵の溜息を付くが、それとは逆にアスカの行動が腹立たしい。

<ケージ>

「アスカ! 命令前にどうして撤退したの!」

「シンジに会いたいからに決まってるじゃない。」

「使徒はまだ健在なのよ! そんなことばかり考えているから、照準を外すのよ! しっ
  かりしなさい!」

「シンジぃぃぃぃ。ただいまぁ。」

アスカはミサトの言うことなど聞かずに、弐号機から出ると初号機のエントリープラグ
を射出する。

プシュー。

「アスカ、何してるんだよ!」

エントリープラグから出てきたシンジが、アスカを叱りつける。

「だって・・・シンジに会いたかったんだもん。ぐすっぐすっ。」

「戦闘中だろ! 早く戻って!」

「シンジと一緒じゃなきゃ嫌ぁ、嫌ぁ、嫌ぁ。」

初号機の上でじだんだを踏み、だだをこねるアスカ。

「はぁ、頼むから弐号機に乗ってよ。」

「嫌ぁ。嫌ぁ。嫌ぁ。」

「戦闘中なんだから、ね。」

怒ってみたり、なだめてみたりとシンジも必死だが、シンジにまとわりついたアスカは
なかなか離れない。

「はぁ・・・。わかったよ。一緒にエントリープラグに入ろう。だっこしてあげるから。」

「え? だっこ?」

シンジに抱きかかえられたアスカは、借りてきた猫の子の様におとなしくにこにこしな
がら弐号機へと戻っていく。

「ミサトさん、どうせ初号機は凍結されているんだから、ぼくもアスカと一緒に弐号機
  で出ます。」

司令室でその言葉を聞いたミサトは、以前のユニゾンの時の2人のデータを思い出す。

「おもしろそうね。やってみて、シンジくん。」

「はい。」

「シンジくんも大変ね。」

「・・・・・はい・・・・・・・。」

シンジは、ご機嫌に笑顔を浮かべるアスカを抱きかかえながら弐号機のエントリープラ
グへと入っていった。エントリープラグ内でアスカは、シンジの膝の上で大満足の様だ。

「ほらアスカ、シンクロするよ。」

「うん。」

2人がシンクロを開始すると、予想通りのかなり高い数値をマークした。シンクロ率を
見て問題無しと判断したミサトの発進命令を合図に、再び地上に射出される弐号機。

<地上>

「さぁ、アスカ。ポジトロンライフルをかまえて。」

「・・・・・・・。」

「アスカ?」

反応が無いので、どうしたのかと膝の上に座るアスカの顔を覗き込むと、ポッポと火照
らせたアスカの顔があった。密室のエントリープラグの中で、シンジにだっこされてい
るのが恥ずかしいらしい。

「アスカっ!!!!!!」

「え?」

「早く、ポジトロンライフルを・・・構えてよ。」

「あ、そうだったわね。」

ポジトロンライフルを構え、アスカが照準を合わせると、アスカを抱きかかえる様にア
スカの手の上からシンジも手を添える。

「アスカ、今だ! 発射!」

ポッポッポ。

「アスカ!!!」

「え? あ、発射ね。」

「頼むよ・・・お願いだから戦闘してよ・・・。」

どうやったら戦闘中に、顔を赤らめることができるのか・・・。シンジは泣きたい気持
ちだった。

ズギューーーーーーーン。

今度は、シンジのサポートもあった為、ポジトロンライフルの閃光は一直線にアラエル
を狙撃する。しかし、寸前で赤い壁に遮られる弾道。

「し、しまった!!」

シンジは第2弾を撃つべく、再度照準を合わせる。

ポッポッポ。

アスカは、必死で照準を合わせようとするシンジに見とれて、さらに頬を火照らしてい
る。

ハーレルヤ。ハーレルヤ。

その時、先程の七色の光が再び地上に降り注いできた。

<指令室>

指令室ではMAGIの分析結果がはじき出された。その結果を見たマヤは、光の正体が
わかり叫び声を上げる。

「使徒が、アスカの精神に進入してます!」

「なんですって! アスカは!?」

マヤの報告にミサトは焦り、モニタを覗き込む。

「こ、これは・・・。」

<地上>

その七色の光が、アスカの精神に入り込む。

                        ●

「ランランラン。」

そこは、ピンク色のお花畑。明るい太陽の光が降り注ぎ、ピンク色をした大きなハート
形の風船が、たくさん宙にぷかぷかと浮いている。

「るんるんるん。」

シンちゃん人形を両手一杯に抱えたアスカが、スキップしながらお花畑を散歩していた。

「シンジぃぃぃぃぃ。」

丘の向こうに見える人の影に、投げキッスをして手を振るアスカ。

「だーーーいすきよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーー。」

                        ●

ドバキッ!

アラエルのコアに、大きな亀裂が縦一直線に入る。

<司令室>

映像が捕らえたアラエルは、成層圏でのたうちまわるかの様に苦しんでいた。

「アラエルに異変! 逆に精神汚染されていきます!!」

さらに、精神汚染は続く。

                        ●

珊瑚礁が美しい南のアイランド。空にはピンク色のカモメが飛び、ハート形の雨がスコ
ールの様にぽわぽわと降り注ぐ。

「シンジぃぃぃぃ、あぁぁぁぁーーん。」

シンジの膝の上に座りながら、椰子の実をたべさせてもらうアスカ。

「はい、こんどはシンジもあぁぁぁーーん。」

今度はシンジに、椰子の実を食べさせてあげる。

「おいしい?」

「うん、おいしいよ。」

「アタシの愛情が、いーーーーーーーーーっぱい詰まってるからよ。」

頬を赤らめたアスカが、シンジに抱きつく。

「こんどは、もっとおいしいものをあげましょうかぁ。」

奇麗な夕日が、満面の笑みを浮かべてシンジに頬擦りをするアスカを照らし、その周り
をたくさんのハイビスカスの花がくるくると舞い始める。

「ア・タ・シ・も・食・べ・てぇぇぇぇぇぇぇ。」

                        ●

グワシャ! ガッシャーーーン!!

ピンク色に染まったアラエルのコアが、見るも無残に粉砕する。

「アラエルのコアが、限界点に達しました!」

ギャーーーーーーーーーーーーー。

精神汚染を受けたアラエルは、奇声をあげて成層圏で爆発する。人の心を理解しようと
して、アスカの心を覗いたのがアラエルの敗因だったようだ。

「使徒、殲滅。」

その様子を、ミサトとリツコは唖然と見つめていた。

「リ、リツコ・・・何がおこったの・・・。」

「さぁ・・・アスカが何かやったみたいだけど・・・。」

<地上>

エントリープラグの中で、なぜ使徒が自滅したのかわからないシンジは、空の彼方に光
る閃光を唖然と見上げている。

「何が起こったんだ・・・。」

「シンジぃぃぃ。」

上目使いでシンジを見上げるアスカ。

「アタシ、がんばった?」

「え・・・う、うん。がんばったよ。よくやったね。」

「じゃぁ、ご褒美に遊園地ぃぃぃぃぃ。」

シンジに抱き付き、おねだりするアスカ。

「え? そ、そうだね。使徒も倒したみたいだし、明日遊園地に行こうか。」

「うんっ!」

ケージに戻る弐号機の中でアスカは、シンジに抱きかかえられて極上の微笑みを浮かべ
ていた。さらに、今回の使徒殲滅に最も貢献したということから、エヴァを降りずに済
むことになったのだった。

To Be Continued.
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