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あまえんぼうアスカちゃん
Episode 05 -アスカちゃん実家へ帰る-
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<飛行機>

すやすや。

只今、日本では真夜中。他の乗客と一緒にアスカも飛行機の中で睡眠中。

すやすや。

席は2人分あるのだが、当然のごとくアスカはシンジの膝の上で寝ている。

すやすや。

「お・・・おもい・・・。」

2時間以上もアスカをだっこしているシンジは、足がしびれてきていた。そろそろ足の
耐久力が限界に達しようとしているので、ゆっくりとアスカを抱き上げると隣にある本
来の席にそぉーっと寝かせようとする。

すやすや。

「よっこらしょ。」

!!!!!

お尻が飛行機の椅子に触れた瞬間、アスカはシンジの体を離すまいと暴れだし、よじ登
る様にしがみついてくる。

「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁ! だっこぉぉぉぉぉ!!!!!!!! シンジのお膝が、いいの
  ぉぉぉ!!!!」」

「わっわっ! しーーーしーーーしーーー!」

突然暴れ出したアスカの叫び声に、周りで寝ていた乗客は何事かと驚いて跳ね起き一斉
にシンジを睨み付ける。

「いーーーーーやーーーーーー!! だっこぉぉぉ!!!」

アスカは、目を閉じて半分寝ているものの半狂乱である。

「わ、わかったから、静かにして!! お願いだから!!」

シンジは、周りの乗客にぺこぺこ頭を下げながら、再びアスカを膝の上に乗せだっこし
てあげる。アスカもそれに満足した様子で、シンジの胸に顔を埋めて寝ていった。

足が痛いよ・・・。

さて・・・今、どうしてシンジとアスカが飛行機に乗っているのか。話は2日前までさ
かのぼる。

                        ●

「シンジと実家へ行くぅぅ!」

その一言が原因である。

                        ●

<アスカの実家>

突然の娘の帰国の知らせを聞いて、ドイツ人と日本人のハーフである父親のタロウと、
アスカの新しい母親となったハナコは、大慌てだった。

「あなた、どうしましょう。」

「何をうろたえているんだ。」

「アスカはいつまで経っても私に心を開いてくれなかったでしょ? あの娘の前で、ど
  ういう対応をしていいのか、まだわからなくて・・・。」

「気にすることはないさ。普通にしていればいい。」

「でも・・・不安で・・・。私が、どこかいけないのでしょうか?」

「君が悪いわけじゃないよ。時間が解決してくれるのを待つしかない。」

ピンポーーーン。

その時、惣流家のチャイムが鳴り響いた。

「あなた・・・帰ってきましたよ。」

「ああ。」

ハナコがタロウと共に沈痛な面持ちで玄関まで行き扉をあけると、そこにはブスっとし
たアスカの顔があった。

「おかえりなさい。」

「よく帰ってきたな。」

ぶすぅぅぅぅーーーーー。

予想通り機嫌が良くない様だ。昔から家へ帰るといつも無口になるアスカに、タロウも
ハナコも心を傷めていた。

「ただいま!」

アスカは、ブスーーーっとしたままリビングへズカズカと入っていくと、ソファーにど
っかと腰を降ろした。

なによ! いきなりドイツ支部へ来いだなんてぇ!!

ドイツへ到着するやいなや、ドイツ支部の諜報部員が2人を待っていた。話を聞くと、
大事な実験があるからシンジだけ同行してほしいというのだ。

だいたい、アタシもネルフ職員なんだから同行する権利くらいあるはずなのに!

当然、アスカも一緒に行くとだだをこねたのだが、ネルフ本部でのアスカの行動を聞い
ていたドイツ支部の技術部長は、アスカが来るとシンジが実験をまともにできなくなる
ということで、断固として同行を許すなという命令をだしていたのだ。

ぶすぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーー。

以前家にいた頃に比べても、さらに機嫌の悪そうなアスカに、ハナコはどういった対応
をとればいいのかわからず、おろおろしていた。

「アスカちゃん? 紅茶でも飲む?」

「いらない!」

「あ・・・そう・・・そうね。じゃ、冷たいものでもどう?」

「いらないって言ってるでしょ! ウルサイわね!」

「アスカ! その口の聞き方はなんだ!」

とうとう、タロウが大きな声を出す。

「ウルサイ! ウルサイ!」

シンジが近くにいないことだけでもアスカにとっては致命的な状態である上に、怒鳴ら
れては平静を装っていられない。アスカはドッカと立ち上がると、元の自分の部屋へと
入って行ってしまった。

「あなた・・・なにも、怒鳴らなくても・・・。」

「しかし・・・。」

「なんだか、今日は機嫌が悪いみたいですから・・・そっとしておきましょ。」

「ああ。めずらしく帰ってくるというから、楽しみにしていたのに、これでは前と同じ
  じゃないか。がっかりだな。」

その頃アスカの部屋では。

シンジぃぃぃぃぃぃぃぃ。
寂しいよぉぉぉぉぉ。
アタシを独りにしないでよぉぉぉぉぉ。

アスカは布団に潜り込んで、ひたすらシンジが来るのを待っているのだった。

そして、夜。

「アスカちゃん? 夕食の準備ができましたよ?」

リビングからハナコの声が聞こえてくる。

シンジぃぃぃぃ。まだなのぉぉ?

ハナコの言葉など聞いてはおらず、ただただシンジが来るのを待っている。

「アスカちゃん? 寝ちゃったの?」

シンジぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ・・・。
寂しいよぉぉぉぉぉ。

トントン。

「アスカちゃん? 開けていいかしら?」

早く来てよぉぉぉぉぉ・・・シンジいぃぃぃぃぃぃぃ。

「開けるわよ?」

ガチャ。

シンジぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ。

ハナコが、アスカの部屋を開けると、布団に潜り込んで丸くなっているアスカがいた。

「どうしたの? 具合でも悪いの?」

「もぅ! ほっといてよ!」

「はぁ・・・。アスカちゃん? ご飯ができたんだけど・・・。そういえば、一緒に来
  るって言ってたお友達は?」

ただでさえ寂しい所に、シンジのことを口にされたので、アスカの我慢は限界に達して
しまった。

「もう! 出てってよ! こっちにこないでよ!!!」

「ア、アスカちゃん・・・・・・・。じゃ、じゃぁ、向こうで待ってるわね・・・。」

ハナコは、がっかりしてリビングへと戻る。

「あなた・・・今度帰ってきたら、心を通わせることができる様にがんばろうと思って
  たんですが・・・。やっぱり、無理みたいです・・・。」

「そうか・・・。まだ、無理なのかな・・・。」

タロウとハナコは、アスカと連れてくると聞いていたアスカの友達の分の食事を前に、
2人だけで寂しく食事を始めた。

ピンポーーーーーン。

「あら? アスカのお友達が来られたのかしら?」

ピンポーーーーーン。

「はーーーーい。」

ハナコが玄関の扉を開けると、そこにはシンジが立っていた。

「アスカの日本のお友達?」

「はい。碇 シンジです。ちょっと、ネルフに行ってたんで遅くなりました。」

「あらそう。さぁ、遠慮せずに上がって。」

「おじゃまします。」

リビングへ行くと、タロウが夕食を食べていた。

「はじめまして、碇 シンジです。」

「私がアスカの父親のタロウだ。こいつはハナコ。いつも、アスカが世話になっている
  そうだね。」

「アスカが家に友達を招待したのは、あなたが始めてなのよ。ゆっくりしていってね。」

「はい・・・そういえば、アスカはどこですか?」

「それが・・・。ご飯も食べずに部屋で、布団にくるまってしまって・・・。」

はぁ・・・またか・・・。

ハナコに案内されて、シンジはアスカの部屋の前まで来る。

「アスカちゃん? 開けていいかしら?」

「もう! あっちに行っててよ!」

シンジの前に立つハナコが、部屋の中にいるアスカに声をかけてみるが、先程と同じ反
応が返ってきた。タロウもそんな様子を見ながら、がっかりとしてご飯を食べている。

「ちょっと、いいですか?」

今度はシンジが、アスカの部屋の前に立ち扉をノックした。

トントン。

「ウルサイって言ってるでしょ!」

「ぼくだよ。」

優しく声をかけるシンジ。

ドタドタドタドタ。ドテッ。ドタドタドタドタドタドタドタドタ。ガッチャ!

突然部屋の中で何かが暴れる音がしたかと思うと、扉が勢い良くバンっと開いてアスカ
が飛び出して来た。

「シンジぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

予想をして体勢は整えていたシンジだが、アスカが思いっきり飛びついてきたので、後
ろに倒れそうになる。

「シンジぃぃぃぃぃぃぃぃ・・・寂しかったのぉぉぉぉぉ!!」

「ごめんね。実験が長引いちゃったんだ。」

アスカの頭をなでてなぐさめてやる。

「シンジぃぃぃぃ・・・」

カラン。

その様子をダイニングテーブルで食事をしながら見ていたタロウは、フォークとナイフ
をポロリと床に落として目を丸くしている。真横で見ていたハナコは、口をパクパクさ
せて硬直していた。

「ほら、せっかくご飯の支度をしてもらったんだから、一緒に食べようよ。」

「だっこぉ。」

「えーーー、あそこまでじゃないか。」

「だっこぉ。」

「だって・・・。」

さすがにアスカの両親の前だ。いくらなんでもだっこは恥ずかしい。

「だっこぉぉぉぉぉ!!」

「もう・・・。」

しかし、アスカを独りにして寂しい想いをさせてしまったという負い目があるシンジは、
諦めてアスカをだっこしながらダイニングテーブルまで連れていってあげた。

「じゃ、座って。」

「嫌ぁ。」

「・・・・・・・・。」

「だっこ。」

「勘弁してよ・・・みんな見てるじゃないか・・・。」

「アタシ・・・ずっと独りで寂しかったの・・・・。」

「はぁ・・・。わかったよ・・・。」

シンジは恥ずかしさのあまり、顔を真っ赤にしながらアスカを膝の上に座らせた。そん
なシンジの心中など知らないアスカは、ニコニコして食事を前にしている。そんな様子
を、タロウとハナコはまだ硬直して見ていた

「あの・・・どうしたんですか?」

「え!? あ、そ、そうだったな・・・。」

タロウは別のフォークとナイフを手にすると食事を再開し、我を取り戻したハナコは、
まだ信じられないといった面持ちのまま自分の席へとつく。

「あーーーーーーーん。」

「はいはい。」

シンジがアスカの料理を口に運んでやると、ほっぺたを右に左に膨らませてモグモグと
得意顔で食べる。

「ア・・・アスカ・・・?」

ようやく、口を開くタロウ。

「大丈夫か?」

「なにが?」

「いや・・・その・・・。」

「もう、今シンジにご飯を食べさせて貰ってるんだからぁ。」

「ア、アスカ・・・熱でもあるのんじゃないのか?」

「病気じゃなくても、食べさせてもらうのぉ!」

「いや・・・そういう意味ではないのだが・・・その・・・。シンジ君? い、いつも、
  アスカは・・・その・・・なんだ・・・こんな感じなのか?」

「はい・・・。」

恥ずかしくてうつむきながら、おずおずとタロウに答えるシンジ。

「日本で、どこかに頭を打ったとか・・・その・・・そんなことはなかったか?」

「いえ、ないはずですが?」

「・・・・・・・・・・・。」

アスカが狂ったのかと思い、絶句するタロウ。

「あーーーーーーーーーん。」

「じゃ、次はお肉ね。」

もぐもぐ・・・。

「おいしいぃぃ! 次は、とまとぉぉ!」

「はいはい。」

ハナコは目の前で何が起こっているのか理解できず食事に手がつかない。ただただじっ
と2人の様子を眺めている。

これが、本当にアスカちゃんなの???

以前のアスカにも、何と声をかけていいのかとまどっていたが、今のアスカを前にして
は何を喋っていいのかすらわからない。

「・・・・・・・アスカちゃん?」

「ん?」

ようやくハナコが搾り出した声に、満面の笑顔で答えるアスカ。今まで見たことも無い
アスカの笑顔にさらに戸惑ってしまうが、自分に初めて頬笑みかけてくれたことが嬉し
くもある。

「あ・・・あの・・・。それじゃ、シンジ君がご飯を食べられないんじゃないかなぁっ
  て。1人で座ってあげたら?」

「嫌よ! アタシはシンジのお膝の上でご飯をいつも食べさせて貰うんだから!」

「・・・・・・・・・・・。」

「こうして食べるのが、いっちばん美味しいんだもん。」

「そ、そう・・・。」

「でも、ダメね。シンジが作ったご飯の方が、もーーーっとおいしいわよ。ママの料理
  なんてまだまだね。」

アスカの言葉を聞いたハナコは、アスカの好きそうな物ばかりを作った自分の料理を見
てがっかりする。

「アスカ! そんな言い方はやめなさい!」

「何よ! 本当のことだもん!」

注意したタロウの言葉に対してアスカらしい反応が帰ってきたので、アスカの発言のこ
とはともかくとして少し安心する。

「毎日パパは、ママの料理しか食べれないなんで可愛そうよねぇー。」

せっかく作った料理のことをけなされた時の気持ちがわかるシンジは、今の発言を見逃
すことができずアスカの顔を覗き込む。

「せっかく料理を作ってもらったのに、そんなこと言っちゃダメだよ。」

「!!」

シンジに怒られた・・・シンジに怒られた・・・シンジに怒られた・・・。

シンジは優しく注意しただけなのだが、アスカの目には涙がドバッと溢れてくる。

「ご、ごめんなさい・・・。ごめんなさいぃぃぃぃ。ぐすぐす。」

アスカが泣くところも謝るところも見たことがなかったタロウとハナコは、口をぽかん
と開けてまた絶句する。

「謝るのはぼくにじゃなくて、ママにだろ?」

「ママごめんなさい・・・。」

「え・・・あ、い、いいのよ。そんなこと・・・。」

初めてアスカに謝れたハナコは、あたふたしながらも笑顔で答える。

「でも、シンジ君ってそんなにお料理が上手なの?」

「そりゃぁもう、世界一なんだからぁ。」

「ちょ、ちょっとアスカ・・・やめてよ。」

「だって、本当なんだもん。」

べそをかいていたアスカが、ニコっとハナコに微笑む。

「そう。それじゃぁ、明日はシンジ君に作ってもらおうかしら?」

「あまりの美味しさに、ママもびっくりするわよぉぉ。もう、どんなレストランで出て
  くる料理より美味しいんだからぁ。」

シンジの話題が一番嬉しい様で、得意顔でシンジの自慢をするアスカ。

「アスカぁ・・・言いすぎだよ・・・。」

「ううん。シンジ君。アスカにとっては、きっと本当のことなんだと思うわ。」

「は?」

私がどれだけがんばっても、シンジ君にはかなわないみたいね・・・。
アスカったら、こんなに嬉しそうなんだもん。

初めて娘と家族らしい会話ができた気がしたハナコは、心の中でシンジにお礼を言うの
だった。

「シンジぃぃぃぃぃ、おみずぅ。」

「はいはい。」

コップを口元に当てると、コクコクと嬉しそうに飲むアスカ。

「んー。」

「もういいの?」

「うん。」

「次は?」

「ふぅ〜、もうおなかいーーーっぱい。」

「よかったね。」

アスカのフォークとナイフを片付けながら、微笑むシンジに笑顔で返すアスカ。

この少年は・・・魔法使いか神の使いなのか?

そんな様子を見ていたタロウは、いままで2人の間に何があったのかはわからないが、
少なくともアスカの心を開いてくれた少年に感謝するのだった。

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その夜、アスカはシンジにだっこされながらリビングでTVを見ていた。ドイツ語が全
くわからないシンジの為に、しばらく同時通訳をしていたが、だんだん眠くなってきた
ようだ。

「ふぁぁぁぁ。シンジぃぃぃ、ねむい・・・。」

「寝たらベッドに連れていってあげるよ。」

「シンジも、一緒に寝てね。」

「え・・・。」

「シンちゃん人形、持ってこなかったんだからぁ。」

「で、でも・・・。」

「いっしょに寝るのぉぉぉ。」

「わかったよ・・・。」

明日になったら、3つはアザができていることを覚悟するシンジ。

「ふぁぁぁぁぁ・・・むにゃ・・・。」

しかし、アスカはシンジの言葉を聞いて安心したのか、シンジに抱き付きながら寝てい
った。

「シンジ君? ちょっといいかな?」

アスカが寝たのを見たタロウが、アスカをだっこしているシンジの横に腰をおろす。

「いつも、アスカが世話になっているようで、お礼の言葉もないよ。」

「そんなことないですよ。」

シンジならアスカを幸せにしてくれるだろう・・・いや、アスカはシンジにしか幸せに
できないと、タロウはこの数時間で確信していた。

「いや・・・アスカは、おそらく君にだけ心を開いているんだろう。これからもずっと、
  アスカのことをよろしく頼むよ。」

「え?」

「た・の・ん・だ・よ!!!!」

「は・・・はい・・・。」

かなり強引ではあるが、シンジにアスカを預かってもらう約束をさせたタロウは、満足
気にアスカの寝顔を見つめる。

「シンジぃぃぃぃ。すやすや。」

「え?」

「むにゃ・・・。」

「寝言か・・・。」

すやすや。

しかし、腕の中で笑顔を浮かべて眠るアスカを見ていると、アスカを見守り続ける人生
も悪くないと思うシンジだった。

To Be Continued.
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