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あまえんぼうアスカちゃん
Episode 09 -VS あまえんぼうカヲルくん 後編-
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<ネルフ本部>

その時、シンジはほとほと困り果てていた。

「アスカぁ、それはダメだよ。」

「なんでよっ! コイツとは一緒に行くのにぃっ! アタシはダメなんてイヤぁっ!」

カヲルは男なので、アスカの入れない場所にも行くことができる。今はトイレだが、更
衣室,シャワールーム。万事この調子だ。

「アスカぁ、もう我慢できないよ。お願いだから離してくれないかな。」

「イヤぁぁぁっ! イヤぁぁぁっ! 絶対イヤぁぁぁぁぁぁっ!」

「も、もう駄目っ! ごめんっ!」

後でなだめるのが大変だとわかりつつも、生理現象には逆らえない。全身の力を振り絞
って必死に引き留め様とするアスカの手を振り払い、シンジはトイレに駆け込んだ。

「うわぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!」

格好悪くも、男子トイレの前でへたり込んで、大泣きしてしまうアスカ。シンジはカヲ
ルと並んで用をたしながら、ほとほと困り果ててしまっていた。

「ねぇ、カヲルくん?」

「なんだい? シンジ君。」

「アスカがあの調子だから、しばらくぼくに近寄らない様にしてくれるかな?」

ガーーーーーーーーーン。

洗っていた手の動きを止め、白い顔を真っ青にしてショックを受けるカヲル。事実上の
別れ話・・・元々別れるも何もあったものでは無いのだが、カヲルにはそう思えた。

「ど、どうして、そんなことを言うんだい・・・。」

涙目になりながら、カヲルは懇願する様な目でシンジを見つめる。

「アスカには、ぼくがいないと駄目なんだ。頼むよ。」

「・・・・・ぼくの負けなんだね。」

負けも何も男同士じゃないかと冷汗を掻くシンジだったが、ひとまず納得してくれた様
なので、カヲルには悪いと思いつつも先に1人でトイレを出て行った。

「うわぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!」

トイレの外に出ると、アスカは廊下にへたり込んで大声で泣いていた。しょうがないな
ぁという顔で、アスカの脇を両手で支えて抱き起こしてやる。

「ほらぁ。こんな所に座ったら、汚れちゃうよ。」

「シンジが、アタシを突き飛ばしたぁぁぁぁ。わぁぁぁぁーーーーん。」

「突き飛ばしたって・・・。そこまでしてないだろぉ?」

切羽詰っていたので、手を振り払ってトイレに駆け込みはしたが、いくらなんでも突き
飛ばすは大袈裟である。

「そんなこと言わないで、一緒に帰ろ?」

いくら立たせ様としても、泣きながらへなへなと座り込んでしまうので、仕方無くアス
カを抱き上げ廊下を歩き出す。

「わーーーーーん。アタシよりアイツの方がいいんだぁぁぁぁ。」

「ちょっとぉ〜。」

だいたい、アスカもどうして男相手にここまで嫉妬するのかわからないシンジは、困っ
た顔で腕の中に収まるアスカの顔を覗き込む。

「カヲルくんには、しばらく近付かないでってお願いしておいたから。ねっ。」

「えっ!? ほんと?」

「うん。」

その言葉を聞いたアスカは、嘘の様にピタっと泣き止み信じられないという顔でシンジ
の顔を見上げる。

「ぼくが、アスカに嘘をついたことある?」

「ほんとにほんとなのねっ!」

「そう言ってるじゃないか。」

「わーーーーいっ!!」

真っ赤に腫らした目をクリクリと丸くさせると、両手でシンジの首に抱き付くアスカ。
シンジも、取り合えずこれで一件落着したと胸を撫で下ろすのだった。

<カヲルの仮の家>

カヲルはショックを隠しきれないといった様子で、自分の部屋に設置されているソファ
ーに座っていた。

「所詮、模倣した心では、オリジナルには勝てないんだね。」

アスカの偉大さをしみじみ痛感するカヲル。なにに偉大さを感じているかは、よくわか
らないが・・・。

プルルルルル。

その時、カヲルの携帯電話が鳴った。カヲルは、机の上に置いておいた携帯電話を手に
取ると、着信のボタンを押し耳に当てる。

『わたしだ。状況はどうなっている。』

電話の相手はキール。カヲルに命令しておいた作戦の結果報告を聞く為に、直々に電話
してきた様だ。

「最悪だね。負けたよ。」

『なんだとっ! やられたのかっ!」

「完敗さ。僕にはとても惣流・アスカ・ラングレーには勝てないってことさ。」

『サードチルドレンではなく、セカンドチルドレンにやられたのかっ!』

サードインパクトの発生に失敗し愕然とするキールと、シンジを奪われてショックを隠
しきれないカヲル。

『もうよい。作戦は本日をもって終了する。』

「そうだね。」

カヲルとアダムの接触作戦を断念したキールは、新たな作戦を考えつつ電話を切る。そ
れと同時に、シンジへの求愛作戦を諦めたカヲルは、今後の生き方を考えていた。

<公園>

その頃、団地の近くの公園に、レイはアルちゃんとボールを持ってやってきていた。

「今日も、キャッチボールをしましょう。」

「わーい。」

レイの投げたボールを、アシカの様に細長い身体を器用に使って受け取り、またレイに
投げ返すアルちゃん。

「あっ! レイお姉ちゃんだっ!」
「アルちゃんもいるぅ。」

レイとアルちゃんの周りに、公園で遊ぶ子供達が集まって来る。ここでアルちゃんとボ
ール遊びをするようになってから、レイは子供達の人気者になっていた。

「じゃあ、みんなで中当てをしましょう。」

「わーいっ!」
「中当てだぁぁぁ。」

今日もレイは、その日の午後をアルちゃんや近所の子供達と一緒に、楽しく公園で遊ぶ
のだった。

<ネルフ本部>

翌日ネルフへ出頭したカヲルは、ゼーレからの解雇通知を受け余計な柵が無くなったこ
ともあり、ゲンドウの指示でドイツ支部への移動が命じられた。

僕はドイツへ行くんだね・・・。
その前に、どうしてもやっておかなくちゃいけないことがあるんだ・・・。

ミサトから1週間後にドイツへ行く様に伝えられたカヲルは、その足で急ぎアスカに会
いに行った。

                        :
                        :
                        :

「なによっ! 話ってっ!」

「お願いがあるのさ。」

せっかくシンジと一緒にいるところを呼び出されたアスカは、不機嫌そうにカヲルをジ
ロリと睨みつける。

「人の心というものを、教えて貰えないかい?」

「はぁ?」

「ドイツへ行く前に、僕はもっと人の心を・・・つまり君の心を知っておきたいんだ。」

「なんか、よくわかんないけど、シンジに近付かないってんなら、教えてあげるわっ!」

「もうシンジ君には近づかないよ。」

「契約成立ねっ!」

こうして人の心を学ぼうとしたカヲルは、何を間違ったのかアスカを師匠として修行を
開始してしまった。

<二子山>

その日の午後、アスカはカヲルを伴いロープウェイを登り、人気の少ない二子山の崖の
上に来ていた。

「いいことっ! あまえんぼうの極意は、並大抵じゃ身に付かないわっ!」

「それが人の心なんだね。」

「そうよっ! じゃ、まず、叫んでみなさい。」

「叫ぶのかい?」

何の意味があるのだろうと不思議に思いながら、カヲルは崖の上から周りに見える山々
に向かって大きな声を張り上げた。

「おーーーい。」

「ぜんっぜん、ダメねっ!」

「どうしてダメなんだい?」

「いいこと、見ておくのよっ!」

次にカヲルと入れ替わって崖の上に立ったアスカは、両手を口に当てて大声で叫んだ。

「シンジーーーーーーーーっ! しゅきしゅきしゅきぃぃぃーーーーーーーーーっ!」

声の大きさからして全然違うが、とんでも無いことを言い放つアスカ。その声は山々に
木魂し、辺り一面に響き渡る。登山や観光に来ていた人は、きっと驚いたことだろう。

「さ、さすが師匠・・・。」

尊敬の眼差しでカヲルはアスカを見つめる。

「さぁ、やってみるのよ。」

「わかったよ。」

再びアスカと入れ替わって崖の上に立ち、両手を口に当てるカヲル。

「シンジ君っ! すきーーーっ!」

「ちょーっと待ったっ! シンジの名前は出さないでっ!」

「ダメなのかい?」

「あったりまえでしょうがっ!」

「じゃ、誰の名前で言えばいいんだい?」

「そうねぇ。トウジとでも言っておけばいいわ。さぁ、もう一度。」

「トウジ君っ! すきーーーっ!」

「ダメっ! こう言うのよっ!」

ずいと胸を張って前に出たアスカは、カヲルの横に並んで大声を張り上げる。

「シンジーーーーーーーーっ! しゅきしゅきしゅきぃぃぃーーーーーーーーーっ!」

アスカのハスキーな声が山々に響く。

「すごい・・・。」

「わかったら、やってみなさいっ!」

「トウジくーん、しゅきしゅきしゅきーー!」

「声が小さいっ! もう一度っ!」

「トウジくーーーんっ! しゅきしゅきしゅきーーーーーーーっ!」

「もう一回っ!」

「トウジくーーーんっ! しゅきしゅきしゅきぃぃぃーーーーっ!」

こうしてカヲルの修行の第1日目は、喉が枯れるまで発声練習を繰り返して過ぎていっ
た。

<デパート>

翌日アスカは、カヲルをデパートに連れて来ていた。

「今日はまず、欲しい物があったらどうすればいいか教えるわ。」

「それは、大事な修行だね。」

興味深々のカヲルを見たアスカは、得意気におもちゃ売場の前に立つと、1つの売って
いるおもちゃを手に取って、だだをこねだした。

「いやぁぁぁぁん。シンジぃぃぃい。買って買って買ってぇぇぇぇぇーーーーーっ!!」

突然中学生にもなる少女が、体をくねらせ大声を張り上げたので、買い物に来ていた客
達も店員もガードマンも全ての人が、何事かと振り返った。

「さぁ、やってみなさいっ!」

「なんか、人が見てるけどいいのかい?」

「そんなことじゃ、あまえんぼうの道は習得できないわよっ!」

「そうだね。人の心を僕は知らなければいけないからね。」

「わかったら、さっさとやるっ!」

決意を固めたカヲルは、アスカの手の振り方や体のくねらせ方を思い出しながら、大声
を張り上げた。

「いやぁぁ、トウジ君。買って買って買ってぇっ!」

アスカ達に注目していた人達は、突然カヲルがわけのわからないことを叫びだしたので、
ぎょっとして目を剥く。

「ママ、あれ何?」

「シっ! 目を合わせちゃダメよ。 」

「どうしてぇ?」

「いいから、さっさとこっち来なさい。」

興味深々でカヲルのことを見る子供を、母親はまるで危ないものが近くにある様な態度
でそそくさと引っ張って行く。

「まだまだよっ! もう1回っ!」

「いやぁぁぁぁ、トウジくーん。買って買って買ってぇーーーっ!」

「腰の捻りが甘いっ! もっとくねくねするのよっ!」

「いやぁぁぁぁっ。トウジくーーん。買って買って買ってぇぇーーーっ!」

「ダメダメっ! 手をこうっ! こうやって、もっと振るのよっ!」

「いやぁぁぁぁっ。トウジくーーん。買って買って買ってぇぇーーーっ!」

体の前で手を振り、体をくねくねさせて叫び続けるカヲルの周りには、直視を避けなが
らも奇異な目で見る人達が集まっていた。

<喫茶店>

昼時になり、喫茶店に入ったアスカ達の前に、注文したチョコレートパフェが運ばれて
くる。

「さぁっ! 特訓よっ!」

「ご飯を食べるんじゃないのかい?」

「バカ言っちゃいけないわっ! そんなことでは、あまえんぼうの極意は身に付かない
  わよっ!」

「さすが、師匠。人の心を身につけるのは厳しいんだね。」

そんなカヲルを前に、得意満面のアスカは、むんずとパフェに刺さっているスプーンを
掴んだ。

「シンジぃぃぃぃぃ、あぁぁぁぁぁーーん。」

そう言いながら、まるでシンジに食べさせて貰っているかのように、パフェをスプーン
ですくい自分の口に入れる。

「いやんいやん。おいしいぃぃぃ。」

「そ、その・・・『いやんいやん』までするのかい?」

「あったりまえでしょうがっ! さぁっ! やるのよっ!」

ふとカヲルは、自分は何かとんでもない間違いをしているのではないかと、一瞬不安が
よぎったが、人の心を理解するには必要なのだと頑張ることにする。

「トウジくーん。あーーん。」

「ダメっ! 口をもっと大きく開けんのよっ!」

「トウジくーん、あぁぁぁーーん。」

「そうっ!」

アスカのオーケーが出たので、パフェを口に入れるカヲル。

「いやんいやん。」

「肘を付けてっ! 拳は軽く握ってっ! こう振るっ!」

「いやんいやん。」

「いい感じよっ! もう1回!」

「いやんいやん。」

そんなカヲルの周りで食べていた客は、まだ料理が残っているにもかかわらず、次々と
店を出て行く。

「おいっ! なんだあの客はっ! 営業妨害だぞっ!」

厨房の中で、店主がウエイトレスに叫んだ。しかし、特に悪いことをしているわけでも
ないので、摘み出すこともできない。

「あの・・・店長・・・。」

「なんだ。」

「わたし、あの席にジュースを持って行きたくないんですが・・・。」

パフェの他にアスカ達が頼んでいたジュースを盆の上に乗せ、嫌そうな顔をするウエイ
トレス。他のウエイトレスも、皆自分も嫌だと目を伏せる。

「さっさと持って行って、早く帰らすんだっ。」

「・・・・・・・・はい。」

ウエイトレスは、恐々ジュースを持ってアスカ達のテーブルへと運んで行く。その間も、
カヲルの修行は続いていた。

「トウジくーんっ。あぁぁぁーーーん。」

そんな特訓があちこちで行われる度に、カヲルが叫ぶトウジの名前は人知れず噂になっ
ていった。

<学校>

そうこうしているうちに6日の日が流れ、今日が特訓の最終日。皆が下校を始めた頃で
ある。

『あれが、鈴原よ。』
『ホモって噂じゃない。』

その頃になると、トウジの名前は第3新東京市に知れ渡っており、学校で彼を見た生徒
達もヒソヒソと陰で噂をするようになっていた。

「なんや最近・・・。みんなのワイを見る目が変やで。」

「気にしなくていいわよ。あんなの。」

トウジには変な趣味がないことを信じているヒカリだけが、今まで通り普通に接してい
る。

「ほうか? なんや、みんなに見られてる様な気がしてしゃーないねんけどなぁ。」

「そんなことないって・・・ははは。」

よりによってホモなどという噂が流れていると知っては、トウジが可哀想だという思い
遣りから、ヒカリは必死で話をはぐらかす。

「おうっ! ケンスケやないか。今日ゲーム行かへんかっ?」

「あっ、トウジ・・・。いや・・・俺はいいよ。」

「どないしたんや。最近付き合い悪いで。」

「い、いや・・・ははははは・・・。じゃ。」

「なんや、あいつ。」

逃げる様に去って行くケンスケを、トウジは不満そうに見送る。そして、ヒカリとトウ
ジが正門に差し掛かった時、少し先の電柱の影で、アスカは最後の特訓を決行しようと
していた。

「この1週間で、アンタはあまえんぼうの道を極めたわっ! 後は実践あるのみよっ!」

「わかったよ。師匠。」

「あそこのジャージがトウジよっ! 特訓の成果を見せなさいっ!」

トウジが正門から出てきたことを確認したアスカは、電柱の陰からカヲルの肩をポンと
押し出す。

「なぁ、委員長。どうも、みんなの態度がおかしいんやけどなぁ。」

「大丈夫よ。わたしは信用してるから。」

そんな涙ぐましい理想的なカップルの会話を叩き崩す声が、トウジの耳をつんざいた。

「トウジくーーーーーーんっ!」

頬を染めたカヲルが、突然両手を広げてトウジの前に踊り出て来たのだ。

「なっ! なっ! なんやっ! あいつはっ!」

わけのわからない少年に、突然自分の名前を呼ばれて目を剥くトウジ。

「しゅきしゅきしゅきーーーーーーーーーーっ!」

「ゲゲゲゲゲゲっ! なんやっ!? なんなんやいったいっ!」

猛烈な勢いで迫り来る見知らぬ危ない少年に、トウジはひっくり返らんばかりに驚く。

「トウジくぅぅぅぅぅんっ!! だっこぉぉぉぉぉぉっ!!!」

走ってきた勢いで、トウジの首に両手を回して抱き付いたかと思うと、だっこをせがむ
少年。

「な、なんじゃっおどれっ! 離れいっ! 離れいっちゅーとるやろっ!」

「いやーんいやーん、だっこぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

自分の胸の中で、くねくねしながらいやんいやんをする見知らぬ少年。
体中に鳥肌を立たせ、吐き気を催すトウジ。

『やっぱり、本当だったのね。』
『鈴原って、やっぱりホモ・・・。いやぁぁ。』
『最低っ!』

変な声が聞こえたので周りを見ると、遠巻きに自分のことを囲みつつ、軽蔑の眼差しで
視線を集中させる生徒達の群れ、群れ、群れ・・・。

「ちゃうんやっ! ワイは、ちゃうんやぁぁぁっ!」

必死で、「ちゃうんや」を叫ぶトウジ。
その間も、カヲルはトウジに甘い声を出してしがみつく。

「トウジくぅぅぅぅん。早くぅぅぅ、だっこぉぉぉぉ。」

ゾワゾワゾワぁぁぁぁ。

トウジの顔から血の気が引き、真っ青になって抵抗するトウジ。

「す・・・すずはら・・・。」

今まで横を歩いていたはずのヒカリが、悪夢を見ている様な目で両手で口を隠しながら、
じりじりと後づさりする。

「し、信じてたのに・・・。」

「い、委員長っ! ちゃうんやっ! わかってくれぇぇぇっ! 委員長っ!!!」

「トウジくぅぅぅぅん。いつもみたいに、だっこぉぉぉっ!」

「お前なんか、見たことないやろがっ! 離れーーっ! 頼むから離れてくれーーーっ!!」

カヲルの意味不明な「いつも」の一言が決定打となり、ヒカリが絶叫しながら両手で涙
の溢れる目を押さえて走って行った。

「嫌ぁぁぁぁぁっ! 鈴原のバカぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「あっ! 委員長ぉぉぉぉぉーーーーっ!」

「トウジくーーーーーーんっ! しゅきしゅきしゅきーーーーーーーーーーっ!」

「えーーいっ! じゃかーしんじゃぁぁぁっ!!!!」

ドゲシっ! ボカっ! ズガーーーンっ!

必死でだっこをせがんでいたカヲルを、なりふり構わずどつき倒すトウジ。

「待ってくれーっ! 委員長ーっ! ちゃうんやっ! これはちゃうんやーーーっ!」

トウジは、走り去るヒカリを必死で追いかける。周りを取り巻いていた生徒達も、トウ
ジが近づくと、怖い物が近寄って来た様にさっと離れて道を開けた。

「これで・・・僕も人の心を・・・。うぅぅ〜・・・。」

ボコボコにされたカヲルは、そのまま意識を失い、その場にぐったりと倒れてしまった。
そんな様子を、アスカは電柱の陰から涙を流しながら見続けていた。

よくやったわっ!
それでこそ、あまえんぼうの道を極めたことになるのよっ!

アスカは1つの物事を達成した爽快感に打ちひしがれながら、暗くなりはじめた夕闇の
空にキラリッと光るあまえんぼうの星を見る。

立派なあまえんぼうとして、ドイツへ行くのよっ!

その星をビシッと指差したアスカは、始めて持った弟子がこの先ドイツで活躍すること
を願ってならなかった。



翌日、人の心を模倣しようとして、スタートラインから間違ったカヲルは、更にとてつ
もない性格破綻者に作り上げられ、ドイツへ旅立って行った。

また、その後ヒカリは、精神的ショックで高熱を出してしまい、しばらく学校を休んだ
らしい。

To Be Continued.
作者"ターム"へのメール/小説の感想はこちら。
tarm@mail1.big.or.jp
おまけ小話 -レイちゃん乙女化計画-

ここはネルフ司令室。
アスカはゲンドウと秘密の会議をしていた。
「レイを女の子らしくしてくれ。」
「報酬は?」
「シンジっ!」
「承知っ!」
契約成立。
アスカは早速荷物をバッグに詰め、レイの家へ泊まり
込みにやってきた。
「ファーストっ! 碇指令の命令で、あなたを女の子ら
  しくするわ。」
「命令なら従うわ。」
「まずは、発声練習からよ。」
「発声練習?」
「そうよ。乙女の必須条件よ。」
「そう・・・。どうするの?」
「見てなさい。」
アスカはお腹に空気を一杯入れて叫んだ。
「アンタバカっ!」
「え?」
「言ってみなさい。」
「これが必須条件?」
「そうよ。さぁ、練習よっ!」
命令なら仕方が無い。
レイは、おずおずとアスカの真似をして声を出す。
「あんたばか。」
「声が小さいっ!」
「あんたばかっ。」
「まだまだっ!」
「アンタばかっ」
「もういっちょっ!」
「アンタバカっ!」
アスカの指導の元、両手に握り拳を固め、夜遅くまで
「アンタバカっ!」の発声練習を続けた。
数日後。
「乙女の必須条件、最後の課題よ。」
「どうするの??」
「見てなさいっ!」
アスカは前を歩くケンスケに近寄ると、ポンポンと肩
を叩いた。
「なんだ。惣流じゃないか?」
「アンタっ! またアタシの写真取ったわねっ!」
ギクッ!
「あ、あれは・・・。」
「問答無用っ!」
パーーーンっ!
「ひーーっ!」
ケンスケを一発ビンタしたアスカは、入れ替わりにレ
イを押し出す。
「次はファーストよっ!」
「あなた、私の写真を。」
「あ、綾波まで!?????」
「違うっ! 『アンタっ! またアタシの写真』よっ!」
アスカに訂正されて、言い直すレイ。
「アンタっ! またアタシの写真取ったわねっ!」
「だ、だから、あれは・・・その・・・。」
ペチンっ!
壁に追い詰められ身構えたケンスケだったが、その衝
撃は緩かった。
「甘いっ! もっとこんな風にっ!」
パーーーンっ!
しかし、アスカの平手がお見舞いされ、後ろの壁に激
突するケンスケ。
「こう?」
パーーーンっ!
「そうっ! もう一度っ!」
パーーーンっ!
「もう一回っ!」
パーーーンっ!
それ以降、ケンスケは2度とこの2人の写真だけは撮
るまいと心に誓った。
「よしっ。これで、アンタも完璧な乙女よっ!」
「ありがとうアスカっ!」
「碇指令に成果を見せてきてあげなさい。」
「わかったわっ!」
走って行くレイの後ろ姿を見たアスカは、1つの物事
を達成した爽快感に打ちひしがれるのだった。
レイ、ネルフ本部到着。
「碇司令。」
レイが司令室へ入って来る。
「おお、よく来たなレイ。」
「アンタバカぁ?」
「な、なんだ。その言葉使いは?」
「やかましいっ!」
パーーーンっ!
レイからビンタを思いっきりくらうゲンドウ。
「うっ・・・ど、どうしたんだっ、レイっ!?」
「うっさいわねぇ。男のくせにうだうだ言ってんじゃ
  ないわよっ!」
パーーーンっ!
「レ、レイ・・・いったい・・・。」
「フンっ!」
ゲンドウを一瞥したレイは、スタスタと司令室から出
て行く。
後には、アスカに教育係を頼んでしまったことを、後
悔してもしきれないゲンドウが、頬をパンパンに腫ら
して残されていた。

fin.
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