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あまえんぼうアスカちゃん
Episode 11 -アスカちゃんの1日-
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<ミサトのマンション>

小鳥がチュンチュン。蝉がミンミン。お天道様はサンサン。日差しが淡いピンクのカー
テンで穏やかになり、眠いつぶらな瞳に朝のサイン。

ウェイクアップっ! ウェイクアップっ!

今日もいつもの平凡な毎日が、でもでも嬉し恥かしドキドキの1日が、始まった。今日
は何があるのかな。

「アスカぁ? そろそろ起きてね。」

朝食の準備が整ったのか、朝1番に耳に入るは、シンジの優しい声。

眠い目をしょぼしょぼさせながら、両手をうーんと広げ、がばっと抱きかかえる。

ベッドの上に大量に寝かされているシンちゃん人形。一緒に寝ているシンちゃん人形。

今日は何人が腕の中に飛び込んで来ただろう。

「むっ!」

目をぱちくり。シンちゃん人形にグンモーニン。

「いーち。にーぃ。さーん。よーん。ごーぉ。ろーく。」

お日様ニコニコ。笑顔は満点。胸の中にはシンちゃん6人。

「シンジぃぃぃぃっ! 今日は6人のシンちゃんよぉっ!」

「いいから、早く起きてね。」

「シンジぃぃぃっ!」

「今日はちょっと時間がないんだ。」

「シンジぃぃぃっ!」

「お弁当のおかず作ってるから。手が離せないんだけど・・・。」

「シンジぃぃぃっ!」

「も〜ぅ!」

仕方無いなぁといった感じで部屋に入って来たのは、素敵な素敵な王子様。

シンジだぁ。

なんだかんだ言いながら、忙しくてもシンジはいつも来てくれる。

「シンちゃんが6人も乗ってるのぉ。起きれなーい。」

「はいはい。」

差し出されたシンジの手。両手でぎゅっと握ると、ぐいと引っ張られる。

うっうーん。
アタシのハートも引っ張ってぇぇぇっ!

「シンジぃぃ。」

おねだり。おねだり。だっこ。だっこぉぉ。

「今日は時間ないんだけどなぁ。」

時間なんて愛の前には無力なのよぉぉ!
シンジのお胸にダーイビーング。

体がフワフワ。シンジがだっこしてくれる。
アタシの両手は、手錠に繋がれちゃったの?
シンジの首に回したら、いつも離れなくなっちゃうのぉ。

ラブリー、シンジぃ。だいしゅきよぉぉおおおおっ!

洗面所へレッツゴー。
洗顔と歯磨きは乙女の日課。

シュッシュッシュ。

歯を磨く音が聞こえてくる。

シュッシュッシュ。

「ひんぢぃ、あわわわ。」

「はいはい。」

アスカの歯を磨いていたシンジが、だっこして顔を洗面台まで持ち上げる。

ちゅっ。

泡を吐き出すアスカ。

シュッシュッシュ。

歯を磨く音が聞こえてくる。。

「ひんぢぃ、あわわわ。」

「はいはい。」

またアスカを抱き上げ、洗面所まで持ち上げる。

ちゅっ。

「じゃ、ちゃんとうがいしてくるんだよ。」

「うん。」

ぶくぶくぶく。

前、虫歯になって痛かった。
でも大丈夫っ!
虫歯さん、さようなら。
今はシンジが磨いてくれてるもん。

「もう時間無いから、早く着替えるんだよ。」

「うんっ!」

朝食がテーブルに並び終わる迄に、部屋へ飛び込み制服アスカに変身。ブラウス装着、
スカート装着。

胸ポケットの生徒手帳には、シンジの写真が日替わり10枚。乙女の秘密。

「シンジぃっ! 見て見てぇっ! 今日の写真よぉぉぉっ!!!」

「いいから、早く着替えて。」

秘密じゃなかったようだ。

「シンちゃん、おりこうさんにしてるのよぉ。」

1番大きなシンちゃん人形。頭なでなで。部屋から出ると、朝ご飯の準備はほぼ整って
いる。後は味噌汁だけだろうか。

「ちょっと待って。もうすぐできるから。」

「はーい。」

クッションに座りテレビのスイッチオン。丁度、お気に入りのダス○ンのコマーシャル
がやっている。

”ンパンパンパンパ・・・・”

「むぱむぱむぱむぱ・・・・。」

コマーシャルに合わせて歌い出す。

”マニマニマニマニマニ”

「むにむにむにむに・・・。」

「ご飯できたよ。」

「うんっ! む?」

目がぱっちりこん。

「あーーーーーーーーーーっ!!!!」

「ど、どうしたの?」

突然の大声に、何事かとシンジも目をぱちくり。うっうーん、シンジぃラブリーよぉっ!

「破れてるわぁぁぁっ!」

「え? どこ? あ、ほんとだ。」

アスカが指さす所にきょろきょろと視線をさ迷わせると、Yシャツの脇の下が破れてい
ることに気付く。

「でもちょっとだし、帰ったら縫うよ。」

「だめぇっ! ちょっと貸して。」

「でも、時間が・・・。大したことないし。」

「アタシが、引っ張るから破けるわっ!」

引っ張らなければいいのだが、ついついシンジの服を引っ張っちゃう。
なんでって?
だって、だって、だってだもーん。

「もうぉっ。ダメでしゅねぇ。破いちゃってぇ。シンちゃんったら、おこちゃまっ!」

てきぱきと繕う。伊達にシンちゃん人形を大量に作っているわけではない。今となって
は、シンジもアスカの裁縫の腕にはかなわない。

Yシャツも縫い終わった。

急いでシンジは、椅子に座る。
続いてアスカは、シンジにおっちん。

石の上に3年。
シンジの上なら100年よぉぉぉっ!

「あーーーん。」

もぐもぐ。

ご飯が美味しい。

「あーーーん。」

もぐもぐ。

シンジの愛が調味料。
アタシのハートは、もうトロトロ〜!

「はい。次はこれ。」

「それいらないっ!」

「プチトマトも栄養あるっていつも言ってるじゃないか。」

「だって、しゅっぱい・・・。」

「駄目駄目。あーんして。」

「むーーーーっ!」

口をぎゅっと閉じ必死に抵抗。

「ほらぁ。口開けて。」

「むーーーーっ!」

目を白黒させながら、力一杯口を閉ざす。
こればかっりは、だめだめよ。

「アスカ?」

シンジが優しく微笑んで、アスカの顔を覗き込む。

そんなお顔でみつめたら、もうアスカちゃんったら、いやん、いやん、いやーん。
ラブラブアンテナ、ピコンピコーン。

ついつい口が緩んじゃう。

でも、だめだめ。
しゅっぱいのは、だめなのよぉ。

「むーーーーっ!!」

いっしょうけんめい口を閉じる。

「ぼくのこと好き?」

しゅきしゅきしゅきしゅき。

「だーーーーーい・・・・」

コロン。

あっ!

口を開けた瞬間を狙い、シンジがトマトを放り込んだ。

いやーん。シンジちのーはーん。

「いやーーーーーーーーっ!」

吐き出そうとお皿に口を近付ける。

「トマト食べるアスカ、好きなんだけどなぁ。」

しゅき?しゅき?

「はむぅ・・・。」

吐き出すの我慢。口を閉じもぐもぐ。かじるとすっぱいのがいっぱい出てくる。それで
も、ヘの字口ではむはむ食べ切る。

「しゅっぱーい。でも、ほらほら、見て見てっ! 食べたのよぉぉっ!?」

「偉かったね。」

「ねぇ、アタシのことしゅきしゅきぃぃ?」

「うんうん。ご褒美に、今度はデザートのぶどうを1つだけ、先に食べようか?」

「わーーーい。シンジだーいしゅきぃっ!」

シンジがぶどうを1つ取り、丁寧に皮を剥いてアスカの口に入れてあげる。

「はむ。」

ぶどうさん甘くて美味しい。
でもでも、アタシのハートはプルンプルン。
もっともっと甘いのよおぉぉっ!

楽しい朝ご飯も終わり、そろそろ登校の準備をする。シンジに手を引かれ、急ぎ足で出
て行く。

「ミサトさんっ! 行ってきますっ! そろそろ起きないと遅刻しますよぉ。」

「いってらっさいっ!」

バタン。

<通学路>

マンションを出るとシンジとちょっと離れて歩く。学校には友達がいっぱいいるから、
シンジがくっついたら駄目だと言っている。

てくてくてく。

肩を並べて歩いてるが、小指だけしっかりシンジにくっついている。

横を振り向くと、前だけを見てまっすぐ歩くシンジ。

シンジったら、おすまし。
いいもん。

アスカは口を耳元にそっと近づける。

「I love you.」

とっておきのラブコール。それでもシンジはおすまし顔。

むむむむむっ!

その時、ブワッと風が襲った。常夏の国に春はないが、まるで春一番というような強い
風に髪が靡く。

「いたいっ! いたいいたいっ!」

「どうしたの?」

急にアスカが目を押さえて座り込んだので、シンジが心配して除き込む。どうやらゴミ
が目に入ったようだ。

「おめめイタイ。」

「大丈夫? 見せてごらん?」

「んーーーー。」

顔をんーっと上げる。シンジが顔を覗き込み、痛がるアスカの目をチェック。

「んー。何も無いみたいけど。何処が痛いの?」

だめだめそんなにお顔を近付けちゃ。
ピュアなハートがきゅんきゅん言っちゃう。

「しゅきっ。」

頬を染めて、笑顔を見せる。どうやら、目にゴミが入ったのは演技だったようだ。

「もうっ。時間がないんだから。駄目じゃないか。」

「だって・・・。」

だって学校に行ったら、我慢なんでしょ。
周りに誰もいないんだもん。

「時間無いからちょっと走ろうか。」

「うん。」

あっあーん。シンジと小指が離れちゃうっ!
負けないもーん。

アスカはYシャツの裾をぎゅっと握って走り出す。シンジのYシャツがよく破けるのは、
すぐにアスカが握るからだ。

「鞄持ってあげるよ。」

カバンはいいから、アタシを持ってぇぇぇぇぇぇっ!

しばらくすると学校の子達がちらほら。友達の前でくっついたら、怒られちゃうから我
慢しなくちゃ。

あっ! ヒカリだぁ。

「おはようっ! アスカぁ。」

「おはようっ! ヒカリぃっ!」

ヒカリが手を振ってきたので、アスカもそれに合わせて手を振る。今度は足をぴったり
となにげなくシンジにくっつけている。

「あっ、シンジ。見て見て。」

「ん?」

「ほら、鈴原よ。なんか、ホモって噂らしいわよぉっ!」

「ははは、そんなはずないじゃないか。」

「ほんとよぉ。みんな言ってるもん。」

まさか、鈴原がホモだったなんてねぇ。
アスカちゃん、びっくりよぉぉぉぉぉおおおおっ!

<学校>

1時間目の授業。アスカは自分の席に座り、左前に見えるシンジの背中に、チラチラ視
線を送る。

♪シンジっとアっスカちゃんはラッブラッブよぉ。

授業中、ノートにいっぱいの相合傘を書いていくアスカ。好き合っていることは、もう
ばれてしまっているが、こういうことをするとシンジに怒られる。

シンジがこっちを見てないか、チラチラチェック。

♪シンジっとアっスカちゃんはラッブラッブよぉ。

かきかき。

「惣流さんっ!?」

「んっ!?」

あちゃっ!

シンジがこっちを見ていないかばかりチェックしていたので、先生が逆から近付いてい
ることに気付かなかった。

「何をしているんですか? 惣流さん?」

「あわわわわ。」

やばいわっ!
これ見付かったら、シンジに怒られる。

「惣流さん。ちょっとそのノートを貸してみなさい。」

「えとえと・・・。」

こうなったらアスカの常套手段は、伝家の宝刀を抜き出すことだ。なにもかもネルフの
せいにしてしまえば一般人は口が出せない。

「アンタっ! これはネルフの・・・ん?」

うげっ!

甘かった。シンジが疑わしい目でこっちを見ていた。さすがにシンジにはネルフは通用
しない。先生から逃げられても、後でシンジに怒られてしまう。

ピッピッピッピッピンチよぉぉぉぉおおおおおおおっ!
アスカちゃん、だーーーーーーいピーーーーーーーーーーーーーンチっ!
なんとかしなくちゃ。
なんとかしなくちゃ。
はっ!
そうだわっ!

「アンタっ! ドイツ語も知らないのっ! ドイツ語でノート取ってんのよっ!」

ドイツ語は、シンジも先生も知らないはず。
完璧よぉぉおおおおおおおっ!

「こんなドイツ語ありますかっ! ちょっと貸してごらんなさいっ!」

ばれてしまったわぁぁぁぁっ!
もうダメっ!
逃げよう・・・・。

ノートを持って立ちあがり、人差し指を高々と。

ピッ! ピッ!

教室の扉の方へ向かって、腰を落としてダンスで誤魔化し一歩一歩逃げて行く。

「♪ラーブリ」

「わーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!」

血相を変えてシンジが飛び込んで来たかと思うと、アスカの手を引いて廊下へ出て行く。

いやーーーん。何処に引っ張っていくのぉぉっ!
きっと、これは愛の逃避行なのねぇぇぇぇっ!

「アスカ、今朝から熱っぽいんです。保健室連れて行って来ますっ!!!」

ん? 熱?

廊下にアスカを連れ出して、両手で両肩を持って見据えるシンジ。

「もっ! なにしてるんだよっ!」

なんかシンジが怒ってる。
うぅぅぅ。
やっぱり、ばれちゃったのかしら。

「だって・・・。」

「さっき、何してたの?」

フルフル。

ノートを抱き締め、首を振って誤魔化す。

「ちょっと、ノートみせてごらん。」

フルフル。

「そう。見せないんだね。」

いやぁ、シンジ怒ってる。
もう見せるしかないわっ!

「はい。」

アスカがしぶしぶ手渡したノートをパラパラ捲ると、そこには授業の内容は1文字もな
く、最初からずっと相合傘のオンパレード。

「なんだこれっ?」

「だって・・・。」

「授業が簡単なのは仕方ないけど、こんなことしてちゃ駄目じゃないか。」

「うぅぅぅぅぅ・・・。」

とうとう怒られてしまった。アスカの目にドバっと涙が溢れてくる。口をひぐひぐさせ
ながら、ぼやける視線の先にシンジを見詰めると、優しい笑顔で頭を撫でてくれた。

「もう駄目だよ。」

「ぐすっ。」

うんうんと頷く。

「じゃ、熱があるって言っちゃったから、1時間目だけ保健室で大人しくしてくるんだ
  よ。」

シンジが涙を指で拭ってくれる。
怒られちゃったけど、怒った後のシンジって優しくってとってもしゅき・・・。

保健室に行くと、先生は横になっているように言って、何処かへ出て行った。ベッドの
上に1人横になる。

♪シンジっとアっスカちゃんはラッブラッブよぉ。

それから1時間目が終わるまで、アスカ曰くのドイツ語はひたすらノートに書き綴られ
ていったことは誰も知らない。

3時間目は体育。男子はリレー。女子は水泳。

「ヒカリ、元気になって良かったわね。」

「ええ・・・。」

「体育して大丈夫?」

「うん。そういうんじゃないから。」

ずっと休んでいたヒカリが、数日前から学校に来ている。今日が復帰後最初の体育の授
業なので、アスカは心配して声を掛ける。

「実はね、体調が悪かったんじゃないの。」

「え? そうなの? じゃ、サボリ?」

「違うわよ。ただ・・・。」

「ん?」

「鈴原がホモって噂がショックで・・・。」

「あっ、それアタシも聞いたわ。びっくりしたわねぇ。」

目をきょろきょろするアスカ。あの噂には驚いた。

「でもね、やっぱりわたし鈴原のこと好きなのよ。なんとかならないかしら。」

「うーーん。」

親友ヒカリの相談だっ!
ここはなんとかしてあげなくちゃ、女がすたるってもんよねっ!
頭をフル回転。

「とにかく、アタシに任せといてっ!」

「ほんとっ!?」

「ヒカリの頼みだもん。なんとかするってっ!」

「ありがとーーー。アスカ。」

ヒカリと堅い握手をし、女同士の堅い友情を確かめ合う。しかし、これといってアイデ
アがあるわけではなかった。

昼休み。

弁当はいつもシンジと一緒に食べている。誰もが認めるカップルなので、羽目を外さな
ければこれくらいはシンジも許容している。

ブツブツブツ。

いつもはこの時間を1番喜ぶアスカだが、今日は俯き加減に独り言をブツブツ言い続け
ている。

どうしようかなぁ。
ヒカリの為だもんねぇ。
何とかしてあげたいけど・・・。
うーーーーーん。

いくら大学を13で卒業したアスカとはいえ、人の心の問題となるとそう簡単に解決策
が思い浮かぶものではない。

鈴原ホモなんでしょ。
そこが問題よねぇ。
うーん。
うーん。

ブツブツブツ。

「どうしたの? さっきから独り言ばっかり。」

「あのねぇ。ヒカリから恋の相談受けちゃったんだけどぉ。うーん。」

「へぇ、そうなんだ。いいねそういうの。」

女の子同士の話のようなので、聞いてはまずいとシンジもあまり首を突っ込まず、エー
ルだけ送っておくことにする。

「ねぇねぇ、シンジぃぃ。趣味の違う人と仲良くしようと思ったらどうしたらいいのか
  なぁ。」

「そうだなぁ。そりゃ、まずはどっちかが歩み寄るしかないんじゃない。」

「そっか。そうよねっ!」

そうよっ!
それよっ!

シンジのアドバイスを聞いたアスカの脳裏に、ピンク色のぷくぷくハートがぷっかりぷ
っかり浮かんできた。

「ありがとっ! お礼にプチトマトあげるぅっ。」

「駄目だよ。トマトは栄養があるんだから。」

先程から弁当箱に陣取り手を焼いていた赤い敵を、なにげにシンジの弁当箱に入れるが、
すぐに元の場所に戻される。

これしゅっぱい。

「あーん。これイヤなのぉぉぉっ!」

「朝食べれたじゃないか。」

「だって、しゅっぱいんだもん。」

「ちゃんと野菜も食べないと、ぷよぷよアスカちゃんになっちゃうよ?」

「うぅぅぅ・・・。じゃ、じゃぁ。」

突然アスカは、机の下に潜り込んだ。

「なにしてるの?」

シンジが机の下を除き込むと、ほっぺたを真っ赤にしてニコニコ笑っているアスカが、
瞳を輝かせて見上げている。

「しーーっ。」

机の下に隠れて、人差し指を口元に当てるアスカ。

「ん? なに?」

「食べさせてくれたら食べるぅ。」

「えっ!? だってここは・・・。」

「だからぁ。内緒でぇぇぇ。ここなら、見えないもーん。」

「もう・・・。」

「あーん。」

シンジはきょろきょろと周りを見渡して、さっとトマトをアスカの口にころりとほおり
込んだ。

「うぅぅぅぅぅ。」

すっぱいのが口の中に広がる。
でもいいの。
だって、今日は学校のお昼に食べさせて貰っちゃたんだもーん。

「しゅきしゅきぃぃぃぃ。」

そのままアスカは戻ろうとはせず、顔を膝の上の乗せほっぺたをスリスリくっつけはじ
める。

わぁぁ、シンジだぁ。
しゅきしゅきしゅきぃぃぃ。
シンジのお膝、だーいしゅきぃぃぃ。

「アスカ。駄目だって。早く戻って。」

「ぷっ!」

人目を気にしながら、頭を押してアスカを追い戻すシンジ。ちょっと膨れるアスカだっ
たが、今日はシンジにお弁当を食べさせて貰ったので内心満足。

昼休みも終わり近くになり、トウジが教室へ帰って来た。

チャ〜ンスっ!

「鈴原っ! ちょっと話があるわっ!」

「な、なんや?」

「いいから、来なさいよっ!」

「しゃーないなぁ。」

ヒカリが両手を合わせて祈る様に見てる。アスカは親指をピっと立てて、トウジと教室
を出て行った

「鈴原っ! アンタのことはヒカリから聞いてるわっ!」

「えっ? 委員長から?」

むっ!
反応したわねっ!
脈ありよっ!

「そうよっ! でも安心しなさいっ! アンタとヒカリは同じ趣味だったのよっ!」

ビシっとトウジを指差す。

シンジぃぃぃっ!
同じ趣味作戦は完璧よおおおおおーっ!

「はぁ、なんや? 同じ趣味って?」

「みんなには内緒だけど、実はねぇ。ヒカリは・・・。」

「委員長がどうしたんや?」

うんうん。
引き込まれてるわねっ。
ここまで来たら、勝ったも同然よぉぉっ! ヒカリ〜。

「じつは、ニューハーフだったのよぉぉぉっ!!!!!!!!!!!!!!!!」

「な、なんやてーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」

1度愛が芽生えてしまえば、男も女も関係無い。そのうち、トウジにも女の子の良さが
わかりラブラブハッピーになるはずである。

「わははははははははっ!」

作戦が完璧に成功したので、満足したアスカの高らかな笑いが廊下に響き渡った。

「しくしくしく。」

その横で泣き崩れるトウジ。感動に打ちひしがれて泣いているのだろう。

                        :
                        :
                        :

そしてアスカ達が下校した後の放課後。

トウジはがっかりしながら廊下を歩いていた。その後ろからヒカリが駆け寄って来る。
背後ではその成り行きをマジマジと見守る何人かのクラスの女子達。

「あの・・・鈴原。」

「あぁ、委員長かいなぁ・・・。」

うつろな目で振り返るトウジ。

「アスカから話は聞いたと思うけど・・・その。」

「あぁ、聞いたで。」

「あの、わたしで良かったら付き合って欲しいんだけど。」

「わるいなぁ。委員長。ワイはそういう趣味ないんやぁ。」

ビックーーーっ!!!

おもいっきりのけぞるヒカリ。

「す、すずはら・・・。や、やっぱり・・・。」

「すまんなぁ委員長。ワイはワイの趣味で恋人探すよって・・・。」

「いやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

大粒の涙を流して走り去って行くヒカリ。

や、やっぱり真性ホモだったのねぇぇっ!
好きだったのにぃぃ。
好きだったのにぃぃ。

時を同じくして様子を見ていたクラスの女性と達は、顔を真っ青にしてヒソヒソと話を
していた。

「やっぱりい・・・真性ホモ。」
「変態っ!」
「ワイの趣味だってぇ、最低っ!」

その日から更にトウジの周りには誰も寄り付かなくなっていったとかどうとか。ヒカリ
がしばらく休んだとかどうとか。それはまた別の話。

<ミサトのマンション>

ようやく学校も終わり家に帰り着く。アスカの待ちに待ったのがこの時だ。

「シンジぃぃぃーーっ! もういいよねっ! もういいよねっ!」

「うん。」

「わーーいっ! だっこぉぉぉっ!」

「はいはい。」

「くっく。」

「はいはい。」

だっこしたままくっくを脱がし、シンジとアスカはリビングへ。

もう、ずーーーっとずーーーっと離れないんだもーん!

「シンジっ! シンジぃぃっ!」

「じゃ、手を洗おうね。」

「おてて。」

「はいはい。」

冷たい水が気持ちいい。シンジがおててを洗ってくれる。

濡れたおててで、シンジのお鼻をつんつんつん。

ぬぬぬぬっ!

濡れてしまったシンジの鼻を、目を見開いて眺めるアスカ。

とっても、とっても。
プリティーよぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!!

「もう、駄目じゃないか。」

シンジはリビングへ出て行くと、濡れた鼻を拭こうとタオルを取った。

「アタシが拭くぅ。」

「べつに、いいよ。」

「拭くぅ。」

「はいはい。」

シンジからタオルを受け取って、お鼻を拭き拭き。ちょんちょんちょん。
やっぱり、とっても。
プリティーよぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!!

「だーーーーーっ!」

「わっ!」

突然アスカがタックルしてきて、シンジはクッションに倒れ込む。

「もう、何するんだよぉ。」

「ねぇシンジぃぃ。いいこいいこしてっ!」

シンジの上に乗っかって、満点笑顔でおねだり。

「どうしたの?」

「今日ね。今日ね。ヒカリの悩みを解決してあげたのぉ!」

「へぇ。凄いじゃないか。」

「だから、いいこいいこ。」

「うん。偉かったね。」

頭をなでなでしてあげると、満足アスカは笑顔でいっぱい。そのまま、シンジの胸にぽ
てりと顔を乗せひっしと抱き締める。

「ねぇねぇ、シンジぃぃ。」

「ん?」

「いいこいいこしてくれるシンジってだーーーーーいすきっ!」

「うん。」

「やさしいシンジってだーーーーーいすきっ!」

「うん。」

「怒ったらちょっと怖いけど、そんなシンジもだーーーーーいすきっ!」

「うん。」

「エヴァに乗ってる時の、かっこいいシンジもだーーーーーいすきっ!」

「うん。」

「でもね。でもね。でもでもね。」

「ん?」

「1番好きなのはぁ。」

「うん。」

「こうやって、あまえさせてくれることぉぉぉ!」

ぎゅっとシンジの胸を抱きしめると、心臓の音がトクトクと聞こえてくる。

「張り詰めてなくても、だるだるになっても、ずっとアタシを見ててくれるのぉ。」

トクトクトク。

「シンジの心臓の音聞こえるぅ。」

「そりゃそうだよ。」

トクトクトク。

「アスカ? そろそろ着替えないと。」

「いいのぉ。」

シンジがから離れようとせず、その心臓の音をじっと聞き続ける。

トクトクトク。

「ずっとずっと聞いてるのぉ。」

「どうして?」

「だって、これアタシのだもーん。」

トクトクトク。

トクトクトク。

幸せそうな顔で、アスカは胸に耳を当てている。シンジはしばらくアスカを抱きかかえ
たままじっとしている。

トクトクトク。

アスカの耳を刺激する子守歌。

トクトクトク。

「すーすーすー。」

寝息が聞こえる。

「ねちゃったか・・・。」

シンジはアスカを起こさない様に抱き上げると、そっとそのまま部屋のベッドに寝かし、
クーラーをつけタオルケットを掛けてあげる。

「今日は委員長の相談にのってあげたんだってね。よくやったね。アスカ。」

しばらく幸せそうな顔で寝息をたてるアスカの顔をいとおしげに見ていたシンジも、頃
合を見計らい部屋から出て行く。

それから1時間程昼寝をしたアスカは、お風呂に入り今日も楽しく夕食を食べた。

そして今、クッションであぐらをかいたシンジの膝の上に座り、バラエティー番組を見
ている。

「そろそろ寝ようか?」

「えーー。まだ眠くなーい。」

「でも、もう10時過ぎてるよ?」

「むーーーー。じゃぁ、ほっぺ触らせてぇ。」

「いいけど。」

シンジがほっぺを見せると、喜んで人差し指で触り出す。

プニプニプニ。

「プニプニよぉぉぉおおおおっ!」

「もういいだろ?」

「いやーーーん。アタシのほっぺもプニプニなのよぉぉぉおおおおっ!」

スリスリスリ。

自分のほっぺとシンジのほっぺをくっつける。

「でしょでしょ。ほらほら触ってみてぇ。」

「ほんとだね。」

「だってだってね。」

「うん。」

「アタシのピュクピュクハートが、いーーーーーっぱい詰まってるんだもーーんっ!」

シンジがつんつんほっぺを触ると、真っ赤なほっぺがはちきれて、ピュクピュクハート
が弾け飛ぶ。

アスカの笑顔も弾け飛ぶ。

アスカの愛が弾け飛ぶ。

「シンジっ! シンジっ! だーーーーーいしゅきーーーーーーぃぃっ!」

こうして今日も満点笑顔の、アスカの1日は幕を閉じる。

お部屋に入ってお休みなさい。

明日のお日様がアスカの満点笑顔を照らすまで、アスカはしばし夢の中。

ぷわぷわハートが浮かんでる。シンジと一緒の夢の中。

うっうーん。シンジぃぃっ! だーーーいしゅきよぉぉぉぉぉおおおおおおおーーーっ!

To Be Continued.
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