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あまえんぼうアスカちゃん
Episode 12 -VS クスクスレイちゃん-
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作者注:この小説は、アスカを木っ端微塵に撃退した5歳児のクスクスレイちゃんの世
        界と途中から結合します。先に”クスクスレイちゃんの訪問”をご覧下さい。
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<ミサトのマンション>

とってもおいしいホットケーキが、電子レンジでくるんくるんする嬉し恥かし日曜日。
ネルフも学校もお休みで、シンジと2人でパチパチおめめを丸くしているのは、プリテ
ィーハートをドキドキさせてるアスカ。

「シンジぃぃ、まだぁ?」

「まだだよ。」

「シンジぃぃ、まだぁ?」

「あーーー、開けちゃ駄目。もうちょっとだから。」

「はやくぅ。はやくぅ。」

ドキドキドキ。

「まだ、チーンって言ってないだろ?」

「あぁぁぁぁぁっ! ぷくぷくしてきたーーーーーーっ!」

「もうちょっとだよ。」

ドキドキドキ。

チーーーーーーーーーーーーン!

「シンジぃぃーーーっ! 鳴ったのよぉーーーっ!」

電子レンジから即席のホットケーキを取り出すと、ほかほかしていてとっても美味しそ
う。

「シンジぃぃ。あったかーーいっ!」

「次、ぼくの作るから。」

「あぁーーん、ホットケーキったら、ぽかぽかよぉぉっ! アタシのハートも、ぽかぽ
  かよぉぉっ!」

「いいから、座って早く食べて。」

「ホットケーキは、電子レンジでぽかぽかなのよっ! アタシのハートはどうしてぽか
  ぽかなのぉぉ?」

「どうしてだろうね。ほら、座って食べてね。」

「わかったわーーーーっ!」

「はぁ・・・。ぼくの作りたいんだけど・・・。」

「シンジがアタシのハートをチンしたのねぇぇぇぇぇぇっ!!!」

「そ、そうだね・・・。だから、座って。ね。」

「そっかぁ。そうだったのねぇぇぇっ!」

ようやく納得したようで、アスカはいつもの椅子におっちんして、ホットケーキをテー
ブルに置く。やっと、自分のホットケーキが作れそうだ。

「アスカちゃんったら、シロップいっぱいつけちゃうのぉぉっ!」

「あんまり、つけすぎたら、また虫歯になるよ?」

「むぅぅぅ。」

「少しだけにするんだよ。」

「むぅぅぅ。」

甘いのが大好きなアスカは膨れっ面。甘くないホットケーキなんて、だめだめのだめだ
めだ。

ドバッ!

「あーーーーーっ! シンジぃぃ、こぼれちゃったのよぉぉーーーーっ!」

「・・・・・・。」

振り返ると、ホットケーキの上にシロップの入った小さなビンがころげてる。これを確
信犯だと思わない人がいたら、見てみたい。

「・・・・・・はぁ〜。次からは気をつけるんだよ。」

「はーーい。」

おててを上げ笑顔万点で、あまーいホットケーキにフォークをプスリ。とっても美味し
いお昼ご飯。

「シンジぃぃ、とっても甘いのよぉぉぉっ!」

「そりゃ、甘いよ・・・。それだけかけたら。」

「おいちーー。」

「早く食べようね。」

「はーーいっ!」

もぐもぐ。

「あーーん。アスカちゃんのほっぺも、とってもスウィートラブリーよぉぉっ!」

アスカは、お口のまわりに甘いシロップをいっぱいくっつけ、両手にフォークを持って
得意顔でもぐもぐ。

チーーーン。

シンジのホットケーキもできあがり。ほんの少しシロップをつけバターを塗って、テー
ブルに置く。

「結構、甘いね。」

「アスカちゃんのハートは、とってもとっても甘いのよぉぉっ!」

「いや・・・ホットケーキが。」

「甘くてとってもおいしぃのぉぉぉっ!」

もぐもぐ。

両方のほっぺをいっぱいに膨らまし。とってもご機嫌なアスカは、持っていたフォーク
を投げ出してゲルマン民族大移動。

「おっちんっ!」

「ちょ、ちょっと。ぼく、まだ食べてるんだけど。」

「シンジのお膝、ぷにぷにぃぃぃっ!」

「いや、食べづらいんだけど。」

「あーーーーーーん。」

どうやら、自分でフォークを使うのを放棄したようだ。シンジの膝の上に座り、シロッ
プをまわりにいっぱいつけた口を、大きく開けている。

「はぁ〜・・・・・・ほら。あーんして。」

「あーーーーーーん。」

もぐもぐ。

「シンジっ!!! たいへんなのよーーーーーーっ!!!」

「どうしたの?」

「シンジが、あーーんしたら、とってもとってもおいちいのぉぉぉぉっ!!!」

「そう。よかったね。」

「シンジのラブリースパイスきらんきらん、アスカちゃんったら、もうどっきんよぉっ!」

「はい。次いくよ。あーん。」

「あーーーーーーん。」

ガタガタガタ! グラグラグラ! ゴゴゴゴゴゴゴゴゴーーーーーーっ!

その時だった。床も壁も天井も、椅子もテーブルもホットケーキも、そしてシンジもア
スカも突然揺れだした。

「あっあーーーん。シンジと離れちゃうぅぅ。」

必死でシンジにしがみつくアスカ。ほっぺにいっぱいついていたシロップが、シンジの
服にべっちゃり。

「地震だ。アスカ、じっとして。」

非常事態だからか、いつもの習慣でか、シンジは咄嗟にアスカをだっこしてテーブルの
下に隠れた。

グラグラグラ。

かなり大きな地震。まだ周りが揺れ続けている。

「愛のビッグウェーブよぉぉぉぉっ!」

「地震だよ・・・。」

「シンジぃぃ、ぐらぐらしちゃうのぉぉ。」

「しっかり、掴まってて。・・・・大きいな。まさか使徒?」

グラグラグラ。

あまりにも酷いようなら、外へ逃げなければいけない。周りの様子をテーブルの下で観
察するシンジと、しっかりがっちりシンジに抱きついたまま離さないアスカ。

グラグラ。

グラ。

・
・
・

ようやく揺れも収まった。非常事態宣言が発令されないあたりから、使徒などではなか
ったようだ。

「もう、大丈夫かな?」

「あーーん、だっこぉぉ。」

「はいはい。」

アスカをだっこしたまま立ち上がると、ホットケーキなどは床に落ちてぐちゃぐちゃ。
キッチンではいくつもの食器が割れている。

「はぁ。後片付けが大変だな。ちょっと座ってて。」

「いやーーーーーーーーーーーっ! だっこーーーーーっ!」

「このままじゃ、コップとか割れてて怪我するよ。ね。」

「いたいいたいのは、だめだめよ。」

「だから、ちょっと座ってて。」

「はーい。」

服がシロップだらけになってしまった。Tシャツを着替えて片付けを始めようとしたが、
揺れが酷かったので外の様子が気になってくる。

「ちょっと、外を見てくるよ。」

「アタシも一緒ぉぉっ!」

「じゃ、足元気をつけてね。」

「いたいいたいのは、だめだめよ。」

おめめを大きく開いて、足元をじっくり注意しながらおっかなびっくりシンジに付いて、
玄関までアスカが歩いて行く。

ガチャリ。

「えっ!!!??????」

シンジはびっくりして目を見開いた。いつも見る景色ではない。

「シンジぃぃ。」

後から出てきたアスカが、扉を閉めてシンジに抱きつき即効だっこ。

「なんだこれ?」

アスカを片手でだっこしながら、自分の目をゴシゴシ擦るが、瞳に映るは先程と同じく
見知らぬ景色。

「なんだ? なんだ?」

「あーーーーーーーーっ! さくらよーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

「さくらっ!? えっ!? な、なんでっ?」

かつて日本には春に咲くさくらという花があった。しかし、シンジはそれを本などでし
か見たことがない。そう。四季のなくなった日本には、もう咲かないはずの花。

「とっても、とっても、綺麗なのーっ!! シンジと2人でお花見よぉっ!
  あっあーん、アスカちゃんたら、きゅんきゅんしちゃうぅ。」

「いや。ちょっと待ってよ。と、とにかくリツコさんに電話してみよう。」

困った時のリツコ頼みとばかりに、アスカをだっこしたまま再び家の中へ入る・・・が、
そこは今出てきたミサトのマンションとは、似ても似つかない場所だった。

<クスクスレイちゃんのマンション>

またしてもなにがなんだかわからなくなったシンジは、見知らぬ家の中をきょろきょろ
と見回す。

「ここ・・・どこ?」

「シンジぃっ! お、おうちが、新しくなったわーーーーーーーっ!」

「そうじゃなくて・・・。どうなってんだ?」

「あっ! シンジ兄ちゃんっ! クスクス。」

「えっ????」

更にシンジがパニックに陥る。玄関から繋がる廊下の向こうから現れたのは、レイにそ
っくりな幼稚園児くらいの小さな女の子。

「いらっしゃい。アスカお姉ちゃんも来たのね。クスクス。」

「シンジぃぃぃぃっ! レイがちっちゃくなってるわっ!!」

「あ、あの・・・君。綾波?」

「? 綾波レイよ。」

見知らぬ景色。見知らぬ家。さくら。小さくなったレイ。そして、さっき起こった地震。
ここにきてシンジは、理屈はわからないまでもようやく事態が理解できてきた。

ディラックの海に入った時、ぼくの心の中で誰かが言ってた。
もう1つの可能性・・・。
もしかして、そこへ入ってしまったんじゃ。

「シンジ兄ちゃん。ソフトクリーム一緒に食べよ。」

この子は、ぼくのことを知ってる。
アスカのことも知ってた。
ここにもぼくやアスカはいる。

けど・・・そうか・・・。
この世界じゃ、綾波は5歳なんだ。

とにかく状況がよくわかんないから、ひとまずこの世界のぼくになるしかないよな。

「そうだね。」

「アタシもソフトクリーム食べたいのぉぉっ!」

「そう・・・。アスカお姉ちゃんのもあるわ。クスクス。」

笑みを湛えながら、大好きなシンジ兄ちゃんにだっこされているアスカのことを、ジロ
リと睨むレイちゃん。

そんなこととは知らず、シンジもアスカもレイちゃんと一緒にリビングへと招かれ入っ
て行った。

「はい。こっち、シンジ兄ちゃん。こっち、アスカお姉ちゃん。クスクス。」

「わーーーいっ! とっても美味しそうなのよぉっ!」

シンジに手渡した後、レイちゃんが2つ目のソフトクリームを差し出してきたので、笑
顔いっぱいで椅子に座りながらそれを受け取る。

「あっ!」

その瞬間だった。レイちゃんがアスカの足に躓いて、目の前で転んだのだ。

ベッシャーーーーーー!

ソフトクリームがアスカに直撃。顔いっぱいにソフトクリームがべしゃりと広がる。

「転んじゃったわ。クスクス。」

「シンジぃっ! 見て見てぇぇぇっ! お口がとっても、美味しいのぉぉっ!」

「アスカぁ。タオルで口拭かなくちゃ。」

「いやーん。とってもおいしいんだからぁ。」

顔いっぱいについたソフトクリームを、舌を出してぺろぺろ。

「・・・・・・。」

してやったりのはずだったのに、全く手堪えの無いレイちゃんは不満顔で立ち上がる。

「アスカちゃんったら、とってもとってもスイートよぉぉっ! シンジも一緒に舐めて
  みてぇぇぇっ!」

「いいから、とにかく口拭こうね。」

こんなところを5歳の女の子に見せられない。シンジは持っていたハンカチでアスカの
口の周りを拭き取ってやる。

「あーーーん。アスカちゃんのソフトクリームがなくなっちゃうぅぅっ!」

「ほら、ぼくのあげるから。」

「じゃぁこれはっ! 2人のふんわりソフトなのよぉぉっ! 一緒に食べたら、ハートも
  ふんわり弾んじゃうわぁぁっ!」

ぺろぺろ。

「アスカが全部食べていいよ。」

「だめだめよぉぉ。次は、シンジがぺろぺろするのぉぉぉ。」

「・・・・・・わかったよ。」

ぺろぺろ。

「次はアスカちゃんが、ぺろぺろするのよーーーっ!」

ぺろぺろ。

ギン!!!

未だかつてこれほどの屈辱があっただろうか。レイちゃんは、眉を吊り上げ大好きなシ
ンジ兄ちゃんのソフトクリームをぺろぺろするアスカを、赤い瞳で睨みつける。

「アスカお姉ちゃんっ!」

「むっ?」

「コップを洗わなくちゃいけないのっ! 手伝ってっ!」

なんとかして、シンジから離さなければいけない。レイちゃんは、キッチンへ移動する
とぴょんぴょんとジャンプして、流し台に届かないジェスチャーをする。

「だめだめよ。いまは、ぺろぺろしてるの。」

「えーーーん。アスカお姉ちゃんが手伝ってくれないぃぃ。」

「アスカ。手伝ってあげなよ。困ってるじゃないか。」

「むぅぅぅ。」

「ね。」

「はーい。」

シンジに言われては仕方がないので、アスカもキッチンへ移動しレイちゃんをだっこし
て洗い物を手伝おうとした・・・が。

「クスクス。」

抱き上げた途端レイちゃんの手が、キッチンの上に置かれていたフライパンに当たり、
アスカの頭目掛けて落ちてきた。

ごいーーーーーーん。

「いたーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーいっ!」

レイちゃんを抱いていた手が離れてしまった。レイちゃんは落下しながら、アスカの服
にしがみ付きビリビリと破いてしまう。

「アスカお姉ちゃんが、急に上げるから手が当たっちゃたわ。クスクス。」

これでどうだとばかりに、得意気な笑みを浮かべるレイちゃん。しかしアスカは、破れ
た服など気にせず涙目でシンジの所へ飛んで戻って行った。

「いたいのーーーーっ! 頭がいたいのぉぉぉぉっ! ごーんてしたのぉぉ! ごーんっ!」

「もぉ。ほら、服まで破れてるじゃないか。」

「ちがうのぉ。頭がいたいのぉぉ。ずきずきしゅるぅぅぅ。」

「だっこするときは、注意しなくちゃ。ほら、いたいのいたいの飛んで行けぇ。」

「まだ痛いのぉぉ。」

シンジにすぐさまだっこして貰い、こともあろうか頭を撫でて貰っているではないか。
もうレイちゃん、面白くないことこの上ない。

「シンジ兄ちゃーん。レイちゃんも落ちて足が痛いわ。」

「レイちゃんも足痛めたの? ちょっと見せて。」

「あーーーーっ! シンジぃっ!」

アスカを椅子に座らせて、レイちゃんの様子を見に行くシンジ。今度はアスカが面白く
ない。

「ちょっと待ってね。レイちゃんの様子も見なくちゃ。」

「むぅぅぅぅ。」

レイちゃん始めてシンジの確保成功。ここが肝心である。

「髪の毛にフライパンのおこげがいっぱいついちゃったの。お風呂に入りたい。このま
  まじゃ、お母さんに怒られるの。」

「お風呂っ!!!?」

同じ歳のレイのイメージのあるシンジは、おもいっきりうろたえてしまうが、レイちゃ
んは離してなるものかと必死でしがみ付いてくる。

「レイちゃん。1人でお風呂入れないの。」

「そ、そうか・・・。まだ小さいもんな。」

「一緒に入ってくれる?」

「わかったよ。アスカ、ちょっと待っててね。」

「いっ! いやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

絶叫するアスカ。このままでは、シンジとレイちゃんが一緒にお風呂に入り、自分はひ
とりぼっちにされてしまう。大ピンチ!

「仕方ないじゃないか。」

「アタシも一緒に入るぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」

「それは駄目だよ。」

「じゃぁ、アタシがレイちゃんを入れるぅぅぅぅっ!」

「そうだ。アスカと一緒に入ったら?」

「駄目。アスカお姉ちゃん。またレイちゃんを落とすもの。」

「でもね・・・。」

「えーーーーーーーん。シンジ兄ちゃんが、いじめるぅっ! えーーーーーーーんっ!」

「わっ! わかったよっ! わかったから、泣かないで。」

「いやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ! アタシも入るぅぅぅぅっ!」

四面楚歌とはこのことか。あっちでもこっちでも絶叫を上げられ、シンジはあたふたす
るばかり。

「とにかく、アスカと一緒に入るってのはやっぱりまずいから、ちょっとだけ待ってて。
  すぐだから。」

「いやっ! いやっ! いやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」

「アスカが落としちゃったんだから、仕方ないじゃないか。」

「いやっ! いやっ! いやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」

「えーーーーーーーーーーーーん。シンジ兄ちゃんが、お風呂入れてくれないぃっ!」

このままでは、にっちもさっちもいかない。とにかくレイちゃんをお風呂に入れてしま
えばなんとかなるだろう。シンジはレイちゃんを抱かかえて、急ぎお風呂へ駆け込んだ。

「シンジぃぃぃぃぃぃっ! アタシも入るぅぅぅぅぅぅっ!」

お風呂に飛び込むと、外からアスカが無理矢理扉を開けようとしてきた。自分は服を着
てレイちゃんを洗っているが、裸でアスカが飛び込んできたらさすがにまずい。すぐさ
まお風呂に鍵を掛け、大急ぎでレイちゃんを洗う。

「シンジが鍵かけたーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!
  わーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!!」

「ちょ、ちょっと待ってっ! すぐ終わるからっ!」

「わーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!!」

「クスクス。シンジ兄ちゃん、洗うの上手。」

「シンジぃぃぃーーーっ! シンジぃぃぃーーーっ!
  わーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!!」

「クスクス。」

「よ、よし。終わった。出るよ。」

「・・・・・・・・・・・・もう終わったのね。」

ガチャリ。

レイちゃんの手を引いて風呂場から出て行くと、待ち構えていたアスカが顔を涙でぐし
ゃぐしゃにして抱きつく。

「シンジが鍵かけたーーーーーーーーっ!」

「ごめんね。でも、一緒にお風呂は駄目だろ?」

「アタシも一緒に入りたいぃぃぃぃぃっ!」

「もう、出たよ。ほら、レイちゃんも服着てるじゃないか。」

「シンジ兄ちゃんに洗って貰ったら、とっても気持ちいいの。クスクス。」

「いやーーーーーーーーーーーーーーっ! アタシも洗ってぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

「無茶いわないでよ。」

「なんで、コイツだけ洗ってあげるのよーーーーっ! いやーーーーーーーーーーっ!」

「ひぐっ・・・アスカお姉ちゃんが、”コイツ”って言った。レイちゃんのこと”コイ
  ツ”って。」

アスカの言葉を聞いて、今度はレイちゃんがまた泣き出す。

「アスカ。小さい子に、”コイツ”なんて言っちゃ駄目だろ?」

「だってぇぇぇっ! だってぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

「アスカお姉ちゃんは、レイちゃんのこと嫌いなんだーーーーーーーーーーっ!」

「コイツっ! アタシのシンジと一緒にお風呂入ったじゃないのーーーーーーっ!」

「あーーーーっ! また”コイツ”って言ったぁぁぁ。えーーーーーーーーーーんっ!」

「アスカっ! 小さい子にそんなこと言っちゃ駄目だっ!」

「うっ!!!」

とうとうシンジに怒られてしまったアスカは、わめき散らしていた言葉の全てを失い、
目にいっぱい涙をためる。

「シンジが、怒った。シンジが怒ったぁぁぁぁっ! ごめんなさーーーーーーいっ!」

「ほら、レイちゃんにちゃんと謝って。」

「ひぐっ・・・。レイちゃん、ごめん。ごめんなさい。」

「クスクス。」

ふと見ると、泣いていたはずのレイちゃんが、クスクス笑っている。なんとか許してく
れたのだろうか。

「ね。みんなで仲良くしよ。そしたら、楽しいじゃないか。」

「もうシンジ怒ってない?」

「怒ってなんかいないよ。仲良くしよ。ね。」

「怒ってないのねぇぇっ!」

ニパッと笑うアスカ。

「アタシ、レイちゃんと仲良くするぅぅぅぅっ!」

「じゃ、レイちゃんと仲良く遊ぶんだよ。」

「うんっ! 仲良く遊ぶのぉぉ。レイちゃん、何して遊ぶぅ?」

「クスクス。お馬さんごっこ。」

そう言いながら、レイちゃんはテーブルの上にビデオカメラを置き、なにやらセットし
ている。

「お馬さんごっこねぇぇぇっ! わかったわぁぁぁっ!」

「そう。アスカがお馬さん。クスクス。」

「2人でお馬さんになって走るのよーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

「えっ? ち、ちが・・・」

「ひひーんひひーんよぉぉっ!」

四つん這いになって、楽しそうに走り出すアスカ。その上にレイちゃんが乗ってお尻を
叩くはずだったのだが・・・なぜか2人とも馬?
そもそもどうしてお馬になって、ここまで嬉しそうなのだろうか?

「ほら、レイちゃんも早くお馬さんにならなくちゃ。」

「いっ!?」

シンジにまで言われ引き攣るレイちゃん。今時幼稚園でも、お馬さんごっこと言って、
みんなで馬になって走り回ったりする園児はいない。

「ほら、ほら。」

「う、うん・・・。」

しぶしぶ、四つん這いになり、てくてく歩くレイちゃん。

「玄関まで競争よぉぉっ! ひひーんひひーんよぉぉっ!」

ぱっぱかぱっぱか走って行くアスカの後を、乗り気でないレイちゃんはトロトロと四つ
ん這いで歩いて行く。なにも楽しくない。

「あははははははっ! ゴールは、シンジのきゅんきゅんハートよぉぉっ!」

ぱっぱかぱっぱか。

どうやら、アスカは楽しそうである。そのまま玄関までダッシュで走って行くと、ユー
ターンしてレイちゃんと行き違い、シンジのいるリビングまで戻ってきた。

「ゴールよぉぉっ! シンジのお胸にダーイビーーーーーングっ!!!」

「わっ! ちょっと待ってっ!!!」

走ってきた勢いのままシンジの胸におもいっきり飛び込む。その予想だにしない衝撃に、
アスカを受け止めながら、おもいっきりシンジは後ろにすっ転んだ。

ドッターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!

「いたたたたたたたたたたたた。」

「アタシの勝ちよぉぉぉっ!」

「ん?」

目をパチパチさせながら、視界に広がる景色を見る。自分の胸に抱き付いて頬擦りして
いるアスカの髪の向こうに見えるのは、なんだかいつも見慣れた光景。

「あれ?」

「シンジのお胸、あったかーーーーい。」

「ちょっと待って。」

アスカをだっこしたまま立ち上がると、そこは間違い無くミサトのマンションのリビン
グだった。

<ミサトのマンション>

「レイちゃんは?」

「お馬さんごっこしてるのよぉぉ。」

「でも・・・レイちゃん? レイちゃーーんっ!?」

返事はない。リビングから玄関まで見て回るが、レイちゃんの姿は何処にも見えない。

そっか・・・。
さっきの衝撃で元に戻ったんだ。

「アスカ。家に帰ってきたみたいだよ。」

「んっ! あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!
  おうちだわぁぁぁっ!」

「無事戻れて良かったね。」

「じゃ、じゃぁっ! さっき言ってた、アタシの言うこと聞いてくれるのねぇぇぇっ!」

「うっ!!!」

思わず身構えるシンジ。胸の中でだっこされながら、アスカは目をキラキラと輝かせて
いる。約束は約束だ。守らないわけないはいかない。

「う、うん。いいよ。」

「じゃぁねぇ。」

「う、うん・・・。」

「シンジのぉ。」

「う、うん・・・。」

「お胸で、おねんねしたいのぉ。」

「へ?」

「とっても、あったかーーーーい。」

どうやら今日はいろいろあって、かなり疲れていたようだ。アスカはシンジの胸に抱き
ついたまま、ゆっくり目を閉じていく。

「いいよ。アスカが寝てる間、ずっとこうしてるから。」

笑顔を湛えたまま、少しコクリと頷いたアスカは、安心してじっとシンジにその身を委
ねる。

そしてリビングへ戻りクッションに腰を下ろした時には、胸の中で寝息をたてるアスカ
の姿があった。

「スースー。」

「今日は、レイちゃんと仲良くできて良かったね。」

シンジは、まるでそこが自分のいるべき所であるかのように眠るアスカをしっかりだっ
こしたまま、いつまでもいつまでもその寝顔を眺めているのだった。

<クスクスレイちゃんのマンション>

ぱっぱかぱっぱか。

「・・・・・・。」

どうしてこんなことになってしまったのだろうと、半ば嫌になりながらレイちゃんはお
馬さんごっこをしていた。

ぱっぱかぱっぱか。

てくてくとようやく玄関までやってくるレイちゃん。その時、ガチャリと扉が開き両親
が姿を現した。

ぱっぱかぱっぱか。

「ん?」

四つん這いになっていたレイちゃんが、顔を上げる。

「レ、レイちゃんっ!? いったい何をしているのっ?」

わけのわからないことをしているレイちゃんを見て、真っ青になる母親。同じく、レイ
ちゃんも真っ青。

「あ、あの・・・お母さん・・・。」

「レイちゃん。大丈夫なのっ!?」

「こ、これは・・・アスカお姉ちゃんが、お馬さんになれって。」

「えっ? 惣流さんとこのお姉ちゃんが来てるの?」

「う、うん。あっちに。」

突然のアスカの訪問にびっくりしたレイちゃんのお母さんは、慌ててリビングに入って
行くが、そんな姿はどこにもない。

「レ、レイちゃん・・・アスカお姉ちゃんなんて、どこにもいないでしょ?」

「えっ!?」

焦るレイちゃん。このままでは、病院に連れて行かれかねない。

「はっ! ビ、ビデオっ!」

さっき自分がアスカの上に乗ってお尻を叩いてるシーンを録画してやるつもりで回した
ビデオを、慌てて再生する。

「映ってるわ。クスクス。」

そこには、しっかりと、『2人でお馬さんになって走るのよっ!!!!』と言って走り
回っているアスカの姿が映っていた。

「アスカお姉ちゃんが、お馬さんになれって・・・レイちゃんは嫌だったのに。」

「それは、本当なの?」

「もう・・・レイちゃんをお馬さんにさせたまま、帰ったの。」

「わかったわ。可愛そうにね。レイちゃん。」

「うん。でもお母さんが帰ってきてくれたから平気。」

「うんうん。もう大丈夫よ。」

「クスクス。」

それから、しばらくして。

<クスクスレイちゃんの世界の惣流家>

「アスカっ! 綾波さんの所のレイちゃんを、無理矢理お馬さんにさせたらしいじゃな
  いのっ!」

「だから、知らないって言ってるでしょっ!」

「ママにまで嘘つくのっ! あなたって子はっ!」

「だから、本当に知らないんだってばっ!!!」

「もう、ママは情けなくて、情けなくてっ!」

「ママぁぁぁ。お願いだから、娘の言うこと信じてよぉ。」

「じゃぁ、これはなんなのっ!!」

PCのディスプレイを指差すキョウコ。そこには、先程メールで送られてきたアスカが
馬になっている映像がくっきりと映し出されていた。しかも、服は破け下着まで見えて
いる。

「うっ、うげぇっ! こ、これは・・・。これはっ! 合成かなんかよっ!」

「アスカちゃんっ! どうして、そんなことを、わざわざ綾波さんがするのっ?」

「レ、レイがやったに決まってるわっ!」

「5歳の子がそんなことするわけないでしょっ! 来月のお小遣いは無しですっ!」

「そ、そんなぁぁぁぁ。」

そこへ、シンジが遊びにやってきた。

「おじゃまします。アスカぁ? ゲームしない?」

と、リビングへ入ってきたシンジが見た物は、下着姿で四つん這いで走り回っているア
スカの映像。

「うっ・・・そ、それって・・・。」

「見るなーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

ドゲシっ!

「うーーーーーーん。」

バタリ。

シンジを沈めたアスカは、またもやしてやられたクスクスレイちゃんに更に警戒心と敵
意を強めると同時に、小遣いのなくなった来月、どうやってシンジにたかって過ごそう
かと試行錯誤するのだった。

To Be Continued.
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