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2つの日記
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日記とは、うち明けることができない想いを、せめて紙の中にだけでも綴る物・・・。




<ミサトのマンション>

「アスカじゃなきゃダメなんだよ!」

「よく言うわ! ミサトもファーストも怖いから、アタシに逃げてるだけじゃない! ア
  ンタは誰でもいいのよ!」

アスカにすがろうとするシンジに対して、アスカが叫び罵倒する。

「アンタの全てが手に入んないんなら、全部いらない!!」

「もぅ・・・朝っぱらからなーに騒いでんのよ!!」

その言葉を聞いたシンジの手がアスカの首にかかろうとした時、ミサトが部屋からぬぼ
ぉっと顔を出す。

「ミ、ミサトさん・・・いたんですか?」

「ちょっち、二日酔いで寝てたのよ・・・。ところでアスカ?」

「何よ!?」

「『アンタの全てが手に入んないんなら、全部いらない!!』うーん、いい言葉ねぇ。
  とうとうアスカもシンちゃんに告白したのねん。シンちゃんモテモテ〜なんちって。」

「な、な、何言ってるのよ! アンタばかぁ?」

「ん? 他にどういう意味に取ったらいいのかしらん?」

「だ、だから・・・。こ、このアタシが、そんなこと想ってるわけないでしょ!」

「あっらぁ、じゃ、これは何かしらん?」

どこからともなくミサトが取り出し手にしているのは、アスカの日記帳。

「きゃーーーーーーーーーー!! なんでミサトがそんな物持ってんのよ!!」

両手を伸ばして必死で取り返そうとするアスカだが、こんな時だけ素早く動く酔いどれ
ミサトは、さっさっとその手をかわして日記帳を開いた。

「ここが、もぅ最高なのよねぇ。」

「勝手に人の日記読むんじゃないわよ! 返しなさいよ!!」

「『アタシがこんなにシンジの事を想っているのに・・・』
  乙女の日記って感じねぇーー。
  『シンジはファーストのことばっかり見ている。今日も、JRのホームで2人楽しそ
    うに話をしていた。』
  あぁ、このアスカの切ない気持ちよーくわかるわぁ。」

ミサトは、そう言いながらも嬉しそうに日記の続きを読み始める。

「お願いだから、それ以上読まないで!!」

アスカは、まだ必死で日記を奪おうと襲いかかっているが、素人がプロボクサーにパン
チを出しているかのごとく、あっさりとかわされ続ける。

「『お願いシンジ・・・アタシの全てをアンタにあげるから、アタシを見て・・・。
    アタシだけを見て、アタシにシンジの全てを頂戴。』
  うぅぅぅ、アスカったら、いじらしいとこあるじゃない。」

「もう、嫌ぁぁぁーーーーーーーーーーーーーー!!!」

とうとうアスカは、床に座り込んで泣き出してしまった。

「あの、もういいですよ。やめて下さいよ。」

「あら?そう? シンちゃんが喜ぶと思ったんだけど・・・しゃーない、もう一寝入り
  しようかしらん。」

ミサトは、アスカの日記帳をシンジに手渡すと自分の部屋へと消えて行った。それを見
届けたシンジは、顔を伏せて泣いているアスカの肩に、そっと手を差しのべる。

「アスカ?」

「触らないで!」

「これ・・・日記帳。」

「見たいんなら読めばいいでしょ! そうよ! それが、アタシの気持ちよ! 勝手に覗
  いて笑いなさいよ!」

肩に掛かったシンジの手を払いのけ、涙で赤くなった目で睨み付ける。

「ごめん・・・ぼくが、弱虫で卑怯物で・・・ぼくがもっとしっかりしてたら・・・ご
  めん・・・。」

今度はアスカの肩を、両腕で包み込む様に抱きしめる。

「そうよ! アンタなんか・・・アンタなんか・・・アンタなんか・・・。」

アスカも今度は抵抗しようとはせず、ただ『アンタなんか・・・』を繰り返して泣き続
ける。

「ねぇ、アスカ。ぼくも一緒に日記つけていいかな?」

「え?」

「アスカのだけ見ちゃったら、平等じゃないだろ?」

泣きじゃくった顔で振り向いたアスカの瞳には、忘れかけていたシンジのあの笑顔が映
し出されていた。

「・・・・・・・・・・・・・シンジ・・・。」

「一緒に、書こうよ。」

「シンジぃぃぃぃぃぃぃーーーー。」

シンジの胸をアスカの涙が濡らす。この日からアスカの秘密の日記は、アスカとシンジ
の交換日記として綴られている。




交換日記とは、2人の想いをお互いに伝える為に綴る物・・・。

fin.
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