<ミサトのマンション>

アタシ、アスカちゃん!

エヴァンゲリオンに乗って使徒と戦うパイロットよ!

世界のみんなのアイドルなの。

でもごめんね。

アタシのピューアなハートを射止められるのは1人だけ。




今まで、たくさんたくさん戦ったわ。

それでね。

すごーく、すごーく、すごーく、びっくりすることがあったの。

知りたい?

何があったか知りたい?

えっとね。

それはね。

それはね・・・それはね・・・。




アラエルと戦った時なの。

一瞬使徒と一体化しちゃって。びっくりしたわね。ほんとあの時は。

その時なの。

なーーんと、アタシにびっくりするような力が生まれちゃったの!

な、なんと、アタシはっ!

アタシはーっ!!!




----------------------------------------------
アスカちゃん七変化
-----------------------------------------------

お日様ぷっかりおはようサン、サン。

とってもぐっすり寝むったら、今日も目覚めは最高よっ!

「アスカーーっ! いつまで寝てるんだよー! 遅刻しちゃうよっ!」

寝起き早々シンジの声で、ルンルンハートでとってもご機嫌。

・・・なんてこと言ってる場合じゃないわっ!

ひぇぇぇっ! もうこんな時間っ!

遅刻よっ! 遅刻じゃないのよっ!!

大慌てでパジャマ代わりにしてるタンクトップとホットパンツを脱ぎ捨て、制服に着替
えるとリビングにダッシュ。

シュッ! シュッ! シュッ! シュッ!

歯を磨くのよ。

シュッ! シュッ! シュッ! シュッ!

きれい、きれいにするのよ。

シュッ! シュッ! シュッ! シュッ!

ピカピカ ツルツルよ。

シュッ! シュッ! シュッ! シュッ!

「アスカーーっ! もう駄目だってばっ! 急いでよっ!」

むっ!?

ひぇぇぇっ! もうこんな時間っ!

急ぐのよ。

パシャ! パシャ! パシャ! パシャ!

お顔を洗うのよ。

パシャ! パシャ! パシャ! パシャ!

きれい、きれいにするのよ。

パシャ! パシャ! パシャ! パシャ!

しっとり、とってもいい気持ち。

パシャ! パシャ! パシャ! パシャ!

「アスカっ!!! いい加減にしてよっ!!!」

むむむっ!?

ひぇぇぇっ! もうダメダメよ!

間に合わなくなったじゃないっ!!!

いつの間にか意地悪な時計の針が、こーんなに回ってしまっちゃってたの。
い、いつの間に!

鞄をひっつかんで、玄関に飛び出してくと、そこには時計と睨めっこしながら、なんだ
かソワソワしてるシンジが待っててくれた。

「どうするんだよ。もう絶対間に合わないじゃないか。」

むーーーん。どう考えても間に合わない時間だわ。

でもね!

ぴょこんと、アタシは人差し指を立てて、パッチリ ウインク。

ノンノンノン。

慌てず、騒がず、ノンノンノン。

まだまだ、ぜーーんぜん大丈夫。

だって!

なんたって!

あたしには、とっても素敵な特殊能力があるんだもーーんっ!!!

おうちを走り出たアタシは、道路に出ると早速その素敵な特殊能力を使ったわ。

アタシは変身できちゃうのっ!!

パーにした両手を前にだして、お手てを横にフリフリするの。

お顔も、お尻もフリフリ振って。

リズムに乗って、呪文をとなえるの。

「ピュルリンピュルピュル! 自転車になーーーれ。」

パラパラパラパラパーーー!

ほらほら、みてみて。

あっという間にアタシったら、真っ赤な自転車に早変わりぃぃ!

転ばないように、補助輪付よっ! とっても素敵でしょ!

「さぁ、シンジっ。乗ってっ!!」

「・・・・・・え。」

「はやくぅ。これで遅刻しないわよっ!」

「なんで、幼児用の・・・しかも補助輪付きなんだよ。」

「かーいいでしょ?」」

「・・・・・・ほんとに、これ乗るの?」

「急がなきゃ、遅刻よっ! 遅刻っ!」

「う、うん。」

アタシとくっつくのが恥かしいのかしら。顔を赤くしながら、アタシの上に乗ったシン
ジは、学校までキコキコ、キコキコ走ってく。

2人っきりのランデブー。

今日も遅刻しないで学校に行けて、とってもバッチリ、ハッピーよっ!




おうちに帰ったアタシ達は、お部屋のお掃除を始めたわ。いつも綺麗にしてなくちゃ、
ミサトみたいなダメダメ大人になっちゃうもん。

「うーん。もう駄目かなぁ。」

シンジの声・・・なんだろう?

目を向けると、キッチンにちょっぴり寂しそうな後姿。

「どうしたの?」

「この花、しおれちゃって。」

手にしている透明の一輪挿しを見ると、毎日お水を代えて大事にしてた綺麗なお花さん
が、頭を垂れてしおれちゃってる。

もう花びらもなくなったお花の香りを嗅ぐシンジは、なんだかちょっぴり寂しそう。

でもね!

ぴょこんと、アタシは人差し指を立てて、パッチリ ウインク。

慌てず、騒がず、ノンノンノン。

こんな時こそアタシの力を発揮するときなのよっ!

お手てを横にフリフリしながら、お顔も、お尻もフリフリ振って。

「ピュルリンピュルピュル! 綺麗なお花になーーーれ。」

パラパラパラパラパーーー!

ポム! とピンク色の煙を立てて、真っ赤なバラさんに変身したアタシは、綺麗に洗い
終った一輪挿しの中にぴょぴょーんと飛び込む。

どう? かーいいでしょ?

「わぁ! アスカ、綺麗な花だね。」

いやーーーん。

そんなぁぁぁ。

シンジったらーーん、アタシのことキレイだなんてぇ。

キレイだなんてぇ。

キレイだなんてぇぇぇーー。

てれてれ。

アタシのお顔はまっかっか。

赤いバラさん、まっかっか。

すっかりアタシの魅力にシンジはまいっちゃったみたい。お鼻の前に近付けて、くんく
んとってもいい香り。

「いい香りがするね。」

「ちょ、ちょっと・・・。」

し、しまったのよーーっ!

学校から帰ったばかりだったわっ!

なんだか、とっても恥かしくなってきた。

お風呂に入ってからにしたら良かったのよーっ!

くんくんくん。「アスカ。ほんと、いい香りだね。」

「あ、あの・・・。」

あんまり、アタシの匂いを嗅がないで。

すごーーく、恥かしい。

恥かしい。

一輪挿しを手にして、バラの香りを楽しんでるわ。

ポッポッポッポッ。

恥かしいのよーーーーーっ!!!!!

「いやーーーーぁっ!」

恥かしくって、とうとう我慢できなくなったアタシは、ポンっ! と元の姿に戻っちゃ
ったの。

「お風呂入って来るっ!!!」

アタシは大慌てで、バスルームに駆け込んで行ったのよ。

お風呂は乙女の身嗜。忘れちゃダメダメだもんねっ!




お風呂から上がったアタシは、髪をアップにしてバスタオルで包んで出てきたの。

湯気が上がる体を、涼しいタンクトップで包んで気持ちいい。

「シンジぃぃ。どこぉ?」

シンジの姿が見えないのよ。

「シンジぃぃ? シンジってばぁぁ?」

お部屋かな?

ペタペタペタと廊下を歩いて、シンジのお部屋に行くのよ。

「入るわよ?」

ゴソゴソゴソ。

襖の向こうから、なんか変な音が聞こえる。

「入るってば。いいわね?」

ゴソゴソゴソ。

なにしてるんだろ?

入っちゃえ。

ガラっと襖を開けてみると、机の下からお尻が見えたの。机の下に潜り込んで、なにか
探してるみたい。

「なにしてるの?」

「美術の宿題でさ、油性マジックがいるんだけど・・・。確か、あったはずなんだけど。」

「油性? 油性かぁ。」

水性マジックだったら、いろんな色持ってるけど、油性はアタシも持ってないわ。

でもね!

慌てず、騒がず、ノンノンノン。

「ピュルリンピュルピュル! 油性マジックになーーーれ。」

パラパラパラパラパーーー!

ポム! とピンク色の煙を立てて、今度はシンジの探してる油性マジックに変身したの
よっ!

もうお風呂に入ったから大丈夫っ! 机の上にぴょんぴょんぴょーーーんっ!

「シンジぃ、使ってぇっ!」

「ありがとぅ。助かるよっ!」

シンジ、とっても喜んでくれた。アタシを手にしたシンジは、早速美術の宿題を描き始
めたわ。

モチっ! シンジの顔が良く見えるように、アタシのお顔はペンのお尻の方よっ!

真剣に美術の宿題を描くシンジの顔がとっても素敵ぃ。

うっとりしちゃうのよ。

「うーーん。」

シンジ、かなり真剣みたいね。

「うーーん。」

えっ!?

ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!

シンジったらっ! 宿題に集中しすぎっ!

マジックがアタシだって忘れてるぅぅっ!

アタシのお顔を唇に押し付けて、考え事してるのよぉぉっ!!

「い・・・」

びっくりしちゃって声を出しかけたけど、慌てて口を閉じたのよ。

もぉぉ〜。

シンジったらぁん。

いや〜ん。いや〜ん。いや〜ん。

「うーーん。」

シンジが悩む度に、トントントンって、ペンを口に当てて考え事。

アタシのお顔がシンジ唇にぃぃぃ・・・。

あーーん。いやーーん。

「うーーん。」

カリっ!

か、噛んじゃダメなのよーーーーーーーーっ!!!!

アタシの首筋を軽く噛んでるぅぅっ!

あーーーん、そ、そんな、そんなぁぁぁ。

カリっ!

ま、また。

そ、そんな・・・。

も、もうだめ・・・。

アタシ・・・。

それからアタシは、宿題が終わるまでの間に、何度も気絶しそうになったのよ。




晩ご飯よっ!

美味しい美味しい晩ご飯の時間よっ!

宿題が終わって、フラフラになっちゃったアタシだけど、ご飯を食べたら元気いっぱい
に戻るのよっ!

うなじについちゃったシンジの歯型を、自慢の長い後ろ髪で隠してリビングに出て行く
と、いつものようにシンジがキッチンに立ってたの。

今日のご飯は何かなぁ?

「ねぇ。なにか? お手伝いしようか?」

「それが・・・。」

「どうしたの?」

「今日は、鍋にしようと思ってたんだけどさ。」

「わぁ〜。美味しそうっ!! 早く作ろっ!」

「それが・・・ダシが・・・。コンブがなくて。」

「コンブがないとダメなの?」

「うん・・・なんとかなるんだけど、やっぱりあった方が美味しいし。
  買ってこようかなぁ。」

今からお買い物に行ってちゃ遅くなっちゃうのよ。
そんなのダメダメ。

でもね!

慌てず、騒がず、ノンノンノン。

お手てを横にフリフリしながら、お顔も、お尻もフリフリ振って。

「ピュルリンピュルピュル! コンブになーーーれ。」

パラパラパラパラパーーー!

ポム! とピンク色の煙を立てて、ぺろぺろぺろーーんと、緑色のコンブに変身。これ
でお鍋もバッチリよっ!

お湯の沸いたお鍋に向かってぴょんぴょんぴょん、椎茸さんや白菜さん達と一緒にじゃ
ぶんと飛び込んじゃうの。

「助かったよ。これで晩ご飯作れるよ。」

シンジも嬉しそうにご飯を作り出したわ。

ぽわぽわぽわ〜。

体が温かくなってくる。

ぽわぽわぽわ〜。

とってもとってもいい気持ち。

ぽわぽわぽわ〜。

「アスカぁ? 美味しいよ。」

へ?

ふとお鍋のお湯の中から、上を見上げると。

アタシの体から出たおダシを味見してるじゃないっ!!!

ひぇぇぇぇぇっ!!!

は、はずかしいっ!!!

「さすがアスカのコンブだ。」

いやっ。ちょ、ちょっと待って。

そ、それって、アタシの味ってこと?

シンジが飲んでるのぉぉ〜?

「凄く美味しいよ。」

いやぁぁぁ。それ以上、言わないでぇぇぇ。

ポッポッポッポッ!

緑色のコンブに変身したはずなのに、いつのまにか真っ赤なコンブになっちゃって。

カッカッカッカッ!

まわりのお湯なんで、超絶沸騰しちゃうわよっ!

「こんなに、美味しいコンブダシは初めてだよ。」

キャーーーーーーーーーッ!

やめてぇぇぇぇぇぇぇっ!!

言っちゃダメぇぇぇぇっ!!

「ありがとう、美味しいダシが取れたし、もういいよ。」

「う、うん・・・。」

ポンっと、元に戻ったアタシは、できあがった鍋をじっと見詰めちゃう。

こ、このお鍋・・・アタシのおダシで作っちゃった。

しかも・・・。

シンジがお鍋から椎茸を掴んで、口に運ぶ。

「ほんと美味しいなぁ。」

ポッ。ポッ。ポッ。

「ポン酢なんていらないよ。このまま食べられるね。」

ポッ。ポッ。ポッ。

「どうしてだろう? こんなに美味しいお鍋、初めてだ。」

ポッ。ポッ。ポッ。

「ほら、アスカも早く食べなよ。ほんとに美味しいんだから。」

ポッ。ポッ。ポッ。

アタシ、そんなに美味しいかしら?
そ、そんなにアタシ美味しいの?

ポッ。ポッ。ポッ。

それなら・・・・・・。




さぁ、そろそろおねんねの時間なのよ。

歯を磨いて、おトイレ行って、ねんねの準備もばっちりね。

シンジぃぃ?

シンジはどこかしら?

目でシンジの姿を探すけど見当たらない。

またお部屋に行ちゃったのかしら?

「シンジぃぃ? 寝るのよぉ?」

部屋の前で話し掛けたんだけど、返事がないわ。

「シンジってばぁ? 開けちゃうわよぉ?」

襖をそーっと開けたら、ベッドの上にシンジがいたの。

寝ちゃったのね。

今日はいろいろあったから疲れちゃったみたい。

いつもよりちょっと早目におやすみ。

む?

シンジのお腹にいつもかかっているタオルケットがないわっ!

ふと見ると、ベッドから床の上に落ちてるじゃない。

もぅ。ダメダメねぇ。シンジったらぁ。

お部屋に入ったアタシは、シンジのベッドの横に立ってタオルケットを見詰める。

寝ているシンジを見詰める。

また、落ちてるタオルケットを見詰める。

仕方ないわね。

ベッドから落ちちゃったタオルケットを拾うのって大変よねっ!

だって、腰をぎゅーって曲げなくちゃいけないもんっ!

でもね!

ぴょこんと、アタシは人差し指を立てて、パッチリ ウインク。

ノンノンノン。

慌てず、騒がず、ノンノンノン。

タオルケットなんて拾わなくっても、ぜーーんぜん大丈夫。

だって!

アタシは変身できるんだからっ!!

パーにした両手を前にだして、お手てを横にフリフリするの。

お顔も、お尻もフリフリ振って。

リズムに乗って、呪文をとなえるの。

「ピュルリンピュルピュル! タオルケットになーーーれ。」

パラパラパラパラパーーー!

ほらほら、みてみて。

あっという間にアタシったら、真っ赤なタオルケットに早変わりぃぃ!

やわらかくって、ふかふかで、キューティーラブリータオルケット。

とってもとっても素敵でしょ!

「シンジぃぃぃぃぃっ!!!」

風邪をひいちゃったら大変よっ!

アタシはシンジの上に飛び込んで、ぷかぷか、ぱっふん。

お腹の上で、うふふふふ♪

あぁ、とってもあったかい。

おねむになったアタシも、瞼がしょぼしょぼしてきたわ。

シンジ・・・寝ぼけちゃってるみたい。

両手、両足でタオルケットのアタシに抱きついてきた。

ちょ、ちょっとぉ。シンジったらぁ。

そんなに抱きつかないでよぉ。

ぎゅぅぅーーってされるアタシの体。

体も心も温かくって。

体も心も満たされて。

シンジの暖かい温もりが、アタシの全てを包んでいくの。

明日も素敵な日になりそうね。

明日も、明後日も、ずーっとずーーっと。

とっても・・・。

とっても・・・大好きなシンジ。

シンジぃぃぃ。

シンジぃぃぃ。

シンジぃぃぃ。

シンジに抱き締められながら、アタシは幸せに満たされて。

愛しい寝顔に、「おやすみなさい。」

fin.
作者"ターム"へのメール/小説の感想はこちら。
tarm@mail1.big.or.jp
inserted by FC2 system