------------------------------------------------------------------------------
アスカとヒカリの初デート
------------------------------------------------------------------------------

<学校>

掃除の時間、トウジとシンジは文化箒でチャンバラをして遊んでいた。審判は3バカト
リオの残りの1人であるケンスケだ。

カンカンカキーン!

「トウジ! すきありっ! めーーんっ!」

カーーーン!

「まだまだやっ!」

シンジの面を箒で弾いたトウジが、返す刀でシンジに襲い掛かろうとした時。

「鈴原っ! 何やってんのよっ! 真面目に掃除しなさいよっ!」

「イテテテテ。」

いつの間に現れたのか、ヒカリがトウジの後ろから耳を掴むとムギューーーっとひねり
上げる。

「堪忍や。ちょっと、間がさしてもーたんや。」

「間がさしたら、チャンバラをするわけぇ?」

「ワイばっかり怒こらんでもええやんか。シンジもやっとたんやで。」

「鈴原がこのクラスで一番ふざけてるからよっ! 委員長としてほっておけないわっ!」

さんざん怒られるトウジを哀れみの目で見ながらも、シンジは触らぬ神に祟り無しと箒
を掃除用具入れに片付けに行く。

あーあ。トウジは委員長に目の敵にされてるからなぁ。可哀相に。

「なに自分だけ逃げてるのよっ! アンタも、遊んでたでしょーがっ!」

難を逃れてシンジが箒を片付けていると、後ろから不意にアスカの声が聞こえた。何事
かと振り返ると、にやにやしたアスカが立っている。

「あれは、トウジに誘われたから・・・。」

「男の癖に人に罪をなすりつけるなんてさいっていねっ! 罪滅ぼしにアタシにパフェ
  をおごりなさいっ!」

「パフェ〜? なんでだよ。」

「掃除をさぼってたでしょうがっ!」

「さぼってたけど、何の関係があるんだよっ!」

「男の癖に細かいこと言わないの。じゃ、そういうことで決まりね。」

・・・・・・むちゃくちゃだよ。

へ理屈をこねられて、いつの間にかおごらされることになってしまったシンジは、アス
カに聞こえない様にブチブチとひとりごちる。

「アスカ〜。今日放送当番だから、悪いんだけどこの雑巾しまっておいてくれない?」

シンジに無理矢理の約束を取り付けているアスカの後ろから、トウジを叱り終えたヒカ
リの声が聞こえた。

「あっ、アタシも行く。シンジ、この雑巾しまっときなさいよっ! アタシのもついで
  に頼んだわね。」

「えーーーっ。」

「碇くんごめんね。」

ヒカリはシンジに一言謝ると、アスカと一緒に放送室へ走って行った。それと入れ替わ
るように、へとへとになったトウジが廊下から帰って来る。

「なんなんや・・・あんなにきつー怒らんでもええやないか。」

「ぼくなんかパフェおごらされるし、雑巾までなおさなくちゃいけないよ・・・。」

「怒られるよりはええがな。」

「「はぁーー・・・。」」

シンジとトウジは、どうしてこうまで自分ばかり目の敵にされるのかと、世の中に不条
理を感じながら席についた。

ピンポンパンポーン。

『本日の当番は2−A洞木ヒカリです。えぇ、明日は土曜日でお休みです。宿題を・・・』

放送の当番は、学級委員長が交代でやることになっており、本日はヒカリの番である。
最初の一言から始まり連絡事項を伝えるのだ。

『ではみなさん、楽しいお休みを過ごして下さいね。』

ヒカリの放送を席に座って聞くシンジとトウジ。ようやく、放送も終わったので後は終
礼をして帰るだけだ。

『はぁ、今週も終わりねぇ。』

放送は終わったはずだったのだが、スピーカーからアスカの声が流れてくる。クラスメ
ート達はその声に耳を傾けた。

『ヒカリはどうするの?』

『うーーん。特に予定は無いわね。』

『鈴原と、どっかに出掛ける予定だったりしてぇ。』

『そんな都合のいいことあるわけないでしょ。アスカは碇くんと何処かへ行くの?』

『行きたいんだけどねぇ。なかなか言い出すチャンスが無くて・・・。そっちはどうな
  のよ。』

『鈴原にわたしの作ったお弁当を食べて貰おうかなって。そしたら、そのうち告白でき
  るかもしれないじゃない?』

放送を聞いていたクラスメートは・・・いや、全校生徒はザワザワと騒ぎ始める。そん
な中、シンジとトウジの2人だけは顔を真っ赤にして頭を抱え込んでいた。

みんなの前で、何言いよんじゃ。あんのボケたれぇ!
ア、アスカ・・・もう止めてよ・・・。

『そうなのよねぇ・・・アタシもいざとなると”好き”の一言が言えないのよねぇ。』

『言っちゃったら楽になるんだろうけど・・・断られたら怖いわよね。やっぱり。』

『アタシなんか、一緒に暮らしてるから余計よ。』

『ぜんぜん進展無いの? ずっと一緒なんだから、チャンスは沢山ありそうだけど?』

『実は・・・キスまではしたんだけどね。』

わぁぁぁーーーーっ! ア、アスカなんてこと言うんだよっ!

「「「うぉぉぉぉーーーーっ!」」」

クラス中からどよめきが起こる中、冷蔵庫の前のキスシーンを思い出して、真っ赤にな
るシンジ。

「キャーーーー、碇くんと惣流さんって、そういう仲だったのーー?」
「ひゅーひゅー。よっ、色男!?」
「えーーーー。ショックぅぅ。」
「前から、怪しいとは思ってたのよねぇ。」

もうシンジは誰とも目を合わせることができず、穴があったら地底奥深くまで入りたい
気分だった。

『えーーーっ、キスまでしたの?』

『でも、あれって、告白してって感じじゃなかったから・・・。シンジの気持ちはわか
  らないのよ。』

『キスまでしたんなら、大丈夫よ。碇くんだってそんな・・・』

『ヒ、ヒカリっ! スイッチっ!』

『え?』

『放送のスイッチっ!』

『えっ? きゃぁーーーーーーーーーーーーーーーっ!!』

そこで本日の放送は終わった。本日の成果は、フィーバー状態になった全校生と視聴率
100%という大記録。そして、ゆでだこ男2人と顔面蒼白のアスカとヒカリであった。

                        :
                        :
                        :

階段を降りて教室の近くまで来たヒカリは、足を震わせてすがる様にアスカの腕を掴ん
だ。

「さっきの。やっぱり、放送されてたわよねぇ。」

「たぶんね。」

「どうしよう・・・。」

「言っちゃったものは仕方ないでしょ。こうなったら、ひらきなおるしかないわよ。」

「鈴原・・・怒ってないかなぁ。教室に入るのが恐いわ。」

「アタシだって恐いわよ・・・。」

アスカがそっと教室の扉に耳を当てて中の様子を伺うと、案の定ザワザワしている。先
程の放送を聞いて盛り上がっている様だ。

「こんな所で、じっとしてても仕方ないわ。行くわよ。」

「ええ・・・。」

覚悟を決めたアスカが教室の扉を開けると、クラス中がヤンヤヤンヤの大騒ぎとなった。

「あーーーっ! 惣流さんっ、碇くんとキスしたんだってー?」
「委員長って鈴原のことが好きだったのかぁぁ。どうりでぇ!!」
「どーせなら、本人の目の前で告白しろよっ! 委員長っ!!」
「全校生徒の前で告白するなんて、すごいわよねぇ。」

冷やかし半分、興味半分でクラス中は祭りの様な大騒ぎとなる。ヒカリは真っ青になり、
それ以上教室の中へ入ることができず、足をガタガタと震わせて固まってしまった。

「アンタ達っ!」

そんなクラスメートの言葉を聞いたアスカが、叫び声を上げようとした時。教室の中心
から図太い声が轟いた。

「おまえらっ! ええかげんにせーやっ!」

クラスメートの視線が、一斉にその声の持ち主であるトウジに集中する。

「ワイは何言われてもかまわへん! ほやけど、委員長をそれ以上侮辱したらパチキか
  ましたんどっ! われぇ!」

そう言いながら席を立ったトウジは、スタスタと扉の所で立ちすくむヒカリの元へ歩い
て行き教室に招き入れる。

「あの・・・鈴原。わたし・・・その・・・。」

「もうええ。ワイも委員長の気持ちに答えれるようにがんばるさかい。」

「鈴原・・・。」

静まり返った教室の中で、良い雰囲気になる2人。アスカも、負けてられないとシンジ
の席にズカズカと近寄って行った。

「アタシが告白したんだから、アンタはどうなのよっ!」

「え? あの・・・その・・・。」

「男なら、はっきりと好きだっていいなさいよっ! 好きだってぇ!!」

「いや・・・だから。」

「ぬわんですってーーー、まさか断るつもりじゃないでしょうねぇ。アンタは、好きだ
  って言えばいいのよっ!」

シンジの襟首を両手でぎゅっぎゅっと締め上げ、恐い顔を近づけるアスカ。断りでもし
ようものなら、そのまま首を折らんばかりの勢いである。

「ぐぇぇぇぇ・・・す、す、好きです。」

「よろしいっ!」

ようやく解放されたシンジがトウジの方に目を向けると、恥ずかしそうにするヒカリと
仲良く話をする姿が見えた。

この時シンジは、なんとなくトウジのことを羨ましく思った。

<遊園地>

翌日4人は、遊園地へ来ていた。お互いの気持ちを言い合ったので、何の心配も無くデ
ートの計画ができる。

「ねぇ、ヒカリ何から乗る?」

「え? うーんとねぇ・・・。鈴原は何がいい?」

シンジの横をスタスタと歩くアスカが、トウジに寄り添って恥ずかしそうに歩くヒカリ
に声をかける。

「ワイは何でもええ。」

「シンジは、何に乗りたいのよっ。」

「ぼくは、観覧車かな。」

「来て早々観覧車? そんなの変よっ。」

「そうかなぁ。」

「あっ! あそこにコーヒーカップがあるわ。まずはあれにしましょ。」

ひとまず乗るものが決まったので、アスカ&シンジペアとトウジ&ヒカリペアに別れて
コーヒーカップに乗り込む。

ジリリリリリリ。

ブザーの音と同時に、ゆっくりと動き出すコーヒーカップ。絶叫系が嫌いなシンジも、
こういうのは好きだ。

「さぁ、回すわよーーーっ!!」

「あっ! ちょっと待ってっ! わーーーーっ!!」

グルグルグルグル。

動き出すと同時に、アスカがカップの中央にある円盤を思いっきり回し始めたので、物
凄い勢いで回り始めるコーヒーカップ。

「アスカ。やめてっ! 気分が悪くなる。」

「何言ってるのよっ! コーヒーカップは制限時間内に何回転できるかが勝負なのよっ!」

「そんなわけないだろぉ!! わぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

グルグルグルグル。
グルグルグルグル。
グルグルグルグル。

「うえええぇぇぇぇ。」

吐きそうになりながら必死でカップにしがみつくシンジの目に、優雅に回るトウジとヒ
カリの姿が映し出された。

この時シンジは、なんとなくトウジのことを羨ましく思った。

                        :
                        :
                        :

「シンジ、大丈夫かいなっ?」

コーヒーカップを降りた後、ふらふらになってベンチに横たわるシンジを、トウジが心
配そうに見つめる。

「もう。あれくらいでだらしないわねぇ。」

「でも、アスカ。碇くんがカップから飛び出しそうな勢いで、回ってたわよ。」

「まったく世話がやけるわねぇ。ジュースでも買ってくるわ。」

シンジがダウンしてしまったので、4人は一時休憩することにした。シンジは、アスカ
に買ってきて貰ったコーラを飲む。

「ほらぁ、みんなアンタのこと待ってるんだから、さっさと飲みなさいよ。」

「うん。」

そしてシンジもある程度回復し、次の乗り物を探しに出発する一同。

「ねぇ、アスカ。お化け屋敷に入りましょうよ。」

「え・・・。」

「ここのお化け屋敷って、怖いので有名なのよねぇ。」

「う・・・。」

「鈴原と入るのが夢だったの。」

「そ、そう・・・ははは。」

ヒカリが入りたそうにしているので、冷汗を掻きながらアスカもシンジと一緒に入るこ
とにする。

「鈴原はお化けとか大丈夫なの?」

「あんまりこんな所けーへんから、よーわからんけど。盆に田舎へ行ったら、夜に墓と
  かで遊んどったさかい大丈夫やと思うで。」

「よかったぁ〜。」

「シンジっ! こんどは情けない格好しないでよねっ!」

「あっ、大丈夫だよ。こういうのには強いんだ。」

「そ、そう・・・。」

お化け屋敷に入り奥へ進むに従って、だんだんと辺りが暗くなってくる。トウジに掴ま
って付いて行くヒカリと、シンジの横でなかなか足が進まないアスカ。

「アスカ、早く行こうよ。」

「うん・・・。」

どんどんヒカリとの間が広がっていき、このままでは置いてきぼりをくらってしまうの
も時間の問題だ。

「アスカ何やってんだよ。トウジもう見えなくなったじゃないか。」

「う、うん。」

いつもと様子が違うアスカが、歯切れの悪い返事をしながらシンジの横をへっぴり腰で
付いて行くと、突然上から血みどろの人形が落ちてきた。

「ぎやああああああああああああああああぁぁぁぁーーーっっっ!!!!!!!」

ドカッッッッ!!!!

「ぐぇぇぇ。」

恐怖に顔を引きつらせたアスカは、目を閉じて両手を振り回す。その手がドカドカとシ
ンジにヒットする。

「ちょっとぉ! げふっ。 アスカっ何してるんだよっ! 痛っ!」

これはたまらないと思ったシンジは、大暴れするアスカの手を引っ張って。一目散に出
口へと走り出すが、その間何度も殴られる。

「ア、アスカっ! もうすぐ出口だっ!」

恐怖に足が固まってしまっているアスカを無理矢理引っ張って、ようやく出口に辿り着
いた頃には、シンジの顔や腕は所々殴られたり引っかかれたりして赤く腫れていた。

「鈴原ぁ、怖かったねぇ。」

出口間近になると、トウジの腕にしがみついて怖そうにおずおずと歩いているヒカリの
姿が見えた。

「どうしたの? 碇くん、その顔。」

「ちょ、ちょっとね・・・。」

この時シンジは、なんとなくトウジのことを羨ましく思った。

                        :
                        :
                        :

お化け屋敷を出たシンジは、顔の痛みがとれるまでベンチで休憩していた。

「もうっ! 休憩ばっかりなんだからっ! だらしないわねぇ!」

「・・・・・・・・・・・。」

そうこうしているうちに昼時になり、ヒカリとアスカが作ってきたお弁当を芝生の上で
広げる。

「さぁシンジ、召し上がれ。」

今朝シンジが弁当を作ろうとしたのだが、2人でお弁当を作って行く約束をしたという
ことでアスカが作ったのだ。

「ほら、おにぎりをいっぱい作って来たんだから。」

弁当箱には、持つとすぐに崩れそうないびつな形のおにぎりと卵焼きそして揚げすぎて
黒ずんだ唐揚げが入っていた。

「美味しそうだね。ははは・・・。」

シンジは、苦笑いを浮かべながらゆっくりとおにぎりを片手に持ち、割り箸で卵焼きを
摘み口に運ぶ。

「ん?」

卵焼きを食べると異様に甘い。どうやら卵焼きの砂糖加減を間違えたのだろう。おにぎ
りは食べる度に、ぼろぼろと崩れてしまう。

「どう? シンジ?」

「うん。おいしいよ。」

それでもせっかく作ってくれたのだからと。パクパクとアスカのお弁当を口に入れてい
くシンジ。

「あら? この卵焼き甘いわね。」

「そうかな? おいしいよ。」

「そう?」

アスカも自分の作った弁当を食べる。シンジが2つ目の卵焼きを食べ様とした時、いつ
のまにかアスカが全て食べてしまっていた。

「ねぇ、アスカ。昼からは何に乗ろうか?」

弁当を食べていたヒカリが話掛けてきたので、遊園地の案内図を取り出し地図やイベン
トを見つめる。

「午後からは、パレードがあるから。それを見ましょうよ。」

「そっか、パレードかぁ。鈴原はそれでいい?」

「お、おう。」

トウジの声が聞こえたので、シンジが何気なく目を向けると、見た目にも美味しそうな
豪華な弁当にむしゃぶりつくトウジの姿が見えた。

この時シンジは、なんとなくトウジのことを羨ましく思った。

                        :
                        :
                        :

昼食も終わりパレードを見に行くと、物凄い人だかりができていた。シンジとトウジは、
その人だかりを掻き分け見やすいポイントを探す。

「シンジっ! この辺りでええんちゃうか?」

「そうだね。アスカっ! ここで・・・。アスカ? アスカーーっ!?」

シンジとトウジが振り返るといつの間にはぐれたのか、アスカとヒカリの姿が見えなく
なっていた。少し戻ってきょろきょろと探すが、どこにも見あたらない。

「はぐれてもーたがな・・・。」

「困ったなぁ。」

あまりの人の多さに、探せど探せどみつからない。そうこうしている間に、パレードが
始まってしまう。

「あちゃー。始まってもーたがな。」

「アスカ達、別の所で見てるのかなぁ。パレード終わって、人がいなくなるまで待とう
  よ。」

「ほやな。これじゃ、身動きでけへんわ。」

シンジとトウジは、やむをえず人混みの中45分程あるパレードを2人で見ることにす
る。

                        :
                        :
                        :

「あーーーっ! いたっ! バカシンジっ!」

もう少しでパレードが終わろうかという時、後ろからアスカの叫び声が聞こえた。シン
ジがその声に振り返ると、鬼の様な形相で走り寄って来ている。

「鈴原ぁ。心配したじゃないのよ。」

「悪い悪い。はぐれてもーたさかい、人がおらんようなるまで待っとたんや。」

「わたしもトウジに付いて行こうとしたんだけど、途中で転んだ子供を起こしてあげて
  る間に見失しなっちゃって。」

「ほうやったんかいな。そりゃ、気ぃつかんかったわ。」

ようやく再開できたことを喜ぶトウジとヒカリ。一方シンジは。

「人がパレードも見ないで探し回ってるってーのにっ! アンタは、ゆっくり見物して
  たってーーわけぇ?」

「いや・・・だから、人が少なくなるまで、待ってから・・・。」

「人が少なくなるまで待ってたら、パレードが終わっちゃうでしょーがっ! アタシに
  パレードを見るなってーのっ!? アンタはぁ!」

「ぐぇぇぇぇぇ。」

首を締め上げられて怒られまくるシンジが、ふとトウジの方を見るとあと少しで終わる
パレードを2人寄り添って見ていた。

この時シンジは、なんとなくトウジのことを羨ましく思った。

                        :
                        :
                        :

さて、いよいよ帰る時間も近付いてきたので、おみやげ売場に4人は足を運んだ。

「シンジ、シンジ! これ持ってぇ。あっ、これも。」

「アスカ・・・もういいよ。そんなにお土産買ってどうするのさ。」

「だって、かわいいんだもん。ここでしか売ってないのよっ。あっ! あれもかわいい
  わね。」

大はしゃぎのアスカの横でうなだれるシンジ。

「これ以上持ったら、前が見えないよ。」

「それくらいでうだうだ言うんじゃないわよっ! 男でしょっ! きゃー見て見て、これ
  かわいいっ!」

見る見るうちにシンジの手に持たれた箱が山積になっていく。しかし、そんなことお構
いなしに、どんどんとおみやげを選んでいくアスカ。

「こんなにお土産誰にあげるんだよ。」

「アタシのよっ!」

「それって、お土産じゃないじゃないかぁ。」

「いいじゃん。別に。細かいこと言わないのっ! 」

すでにシンジの前はクフ王のピラミッドの様な状態になっているのだが、アスカはまだ
他の物を物色している。

「はい、次はこれね。」

「わっ! それは、無理だよっ!」

ドンガラガッシャーンっ!

ピラミッドの上にアスカが人形を積み上げた瞬間。とうとう耐えきれなくなったシンジ
は、全ての物を床にぶちまけてしまった。

「なっ、何やってんのよっ!!」

「だって・・・もう持てないよっ!」

「まったく、情けないこと言わないでよっ!」

ぶちまけたお土産を拾い集めるシンジは、またしてもブチブチと怒られる。しかし、そ
の様子を見ていたアスカは、お土産を半分ほど返して荷物を減らした。

「はぁ〜、ひどいめにあったよ。」

「かなり減らしたでしょうがっ!」

「そうだけど・・・。」

シンジ達がお土産売場から出て来ると、トウジとヒカリはお互いに小さなビニール袋を
持って待っていた。

この時シンジは、なんとなくトウジのことを羨ましく思った。

                        :
                        :
                        :

夕方になり遊園地を出たシンジ達は、それぞれの家へと向かって帰って行く。トウジが
ヒカリを送って行くということで、駅で2組は別れた。

カァカァ。

カラスが鳴く夕焼けの下を、ミサトのマンションに向かって歩くシンジとアスカ。

「・・・半分よこしなさいよ。」

「え?」

「荷物・・・重いでしょ。」

「いいよ、べつに。」

「いいから、よこしなさいって言ってるのよっ!」

そう言い放つと、アスカはお土産に買った物の半分を強引にシンジの腕から奪い取る。

「・・・ヒカリのお弁当見てたでしょ。」

「え?」

「ちょっと、失敗しちゃったね。」

「そんなことないよ。美味しかったよ。」

「今度は、もうちょっと上手く作るからね。」

そう言いながら、アスカは心配そうにそっとシンジの頬に手を当てる。

「あぁ、もう痛くないよ。」

「お化け屋敷って、実は苦手なんだ。内緒よっ、へへへ。帰ったら、冷やしてあげるね。」

照れ笑いを浮かべながら、まだ少し赤い頬をやさしくさする。

「はは・・・ありがとう。」

「ほんとうは、もっと・・・。ダメね、ヒカリの前だとつい・・・。」

「え?」

「始めてのデート・・・嬉しかったから、はしゃぎすぎちゃった・・・。」

「ぼくも楽しかったよ。」

「うん。」

少し照れた様子でぺたっとシンジにくっつきながら歩き始めるアスカ。その夕日に照ら
された幸せそうな笑顔を、どきっとしながら見つめる。




この時シンジは、やっぱりアスカが世界で一番だと思った。

fin.
作者"ターム"へのメール/小説の感想はこちら。
tarm@mail1.big.or.jp
inserted by FC2 system