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あま〜いチョコを渡すまで・・・
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<ミサトのマンション>

2月13日の夜、晩ご飯も食べ終わってキッチンは使い放題。

そろそろ始めちゃいましょうかっ。

あまーいあまーい想いを詰め込む、あまーいあまーいチョコレート。

たくさんたくさん用意した板チョコを、溶かすとこから始めましょう。

素敵なチョコを作りましょう。

キッチンに立ち腕まくり、お湯を沸かして準備も完了。

美味しいチョコができるといいな。

「ねぇ、なにしてるの?」

「チョコつくってんの。明日、バレンタインデーでしょ。」

物珍しげに覗きこんで来たのは、スイート ハート マイ ダーリン。

同じ中学校に通い、ネルフで同じ仕事をし、同じ屋根の下で暮らす、アタシのハートを
射止めた碇シンジくーん。

「ホワイトチョコか。美味しそうだね。」

「ビターとか、いろいろあるわよ。」

いろんな種類の板チョコを買って来た。1つ1つ溶かしたものをいろんな型に流してく。
色とりどりの小さなチョコがいっぱいできる計画よ。

「今、溶かしてるのは?」

「これ? これはビター。」

「ビターって苦くないの?」

「そんなことないわよ。」

ほんの少し溶け掛けたとこを、指の先でちょこっと掬って、シンジに舐めさせてあげち
ゃう。

「ほんとだ。もっと苦いかって思ったよ。」

「苦いのもあるけどね。」

エプロンしてチョコを作るアタシの周りを、嬉しそうにウロウロ、シンジが歩き回って
るわ。

そろそろ1枚目のチョコが溶けてきた。丁寧に溶けたチョコを、星型やハート型に流し
込む。

「この形はなんなの?」

「かーいいでしょ? ブタさん型よ。」

「ブタかぁ。」

まあるい顔に△の耳2つ。鼻がないから、すぐにはわからなかったみたい。

続いて今度はホワイトチョコを溶かし出す。その間にビターチョコは一気冷凍ね。

「それも味見してみたいな。」

「いいわよ?」

また溶け始めた白いチョコをちょこっと掬った指を、シンジの口に入れて舐めさせてあ
げる。

「甘いや。」

「ホワイトチョコって、おいしいわよね。」

ついでに自分も指の先を口に含んで味見。やわらかい甘さが口に広がってとっても美味
しい。

鍋の中では、ホワイトチョコも溶けてきた。またいろんなかわいい型を並べて流し込ん
でいくけど、残りの型があと少し。ビターの方は固まったかな。

ホワイトチョコを流し終わったアタシは、冷凍庫からビターのチョコを取り出す。一気
冷凍のかいあって、しっかり固まってる。

チョコをボールに取り出して、ビターに使った型を回収。次のイチゴチョコに使うのよ。

「美味しくできてるよ。」

「ん? あーーーーーっ!!!」

いちごチョコを溶かし始めたアタシが目を上げてみたら、シンジがボールに入れたビタ
ーチョコを摘み食い。慌ててボールを取り上げる。

「ダメっ! これは、2/14のおたのしみっ!」

「ちょっとくらい早くてもいいじゃないか。」

「ダメなんだからっ!」

「ちぇっ。」

少しシンジは不満そう。だけど、これだけは譲れない。

叱り付けるような顔でシンジを睨み、ボールを少し高いところに、退避。退避。

そうこうしてるうちに、イチゴチョコが溶けてきた。さっきビターチョコに使った型に
流し込むのよ。

「ひゃ〜っ!!!」

まさに流し込もうとしたその瞬間! シンジが背中から首に手を回して抱きついてきた。
びっくりして少し毀れてしまったじゃないの。

「もうっ! 急に抱き付かないでよ。」

「黙って見てても暇だしさ。」

「毀れちゃったじゃない。」

シンジに抱きつかれたまま、イチゴチョコを型に流し終わったアタシは、毀れちゃった
チョコを布巾でお掃除。

「暇なら、これ、冷凍庫に入れてきて!」

「はい。はい。」

「「はい』は1回!」

「はーい。」

しかたなくアタシを開放してくれたシンジは、イチゴチョコがたくさん乗ったトレイを
冷凍庫に入れに行った。

続いて今度はメロンチョコ。薄い緑色で色も綺麗し香りもいい。固まったホワイトチョ
コをボールにあけて、今度メロンチョコが溶けるのを待つ。

「ホワイトチョコ、1つだけ、いい?」

「ダメッ!」

溶けたメロンチョコを流し込みながら、またしても摘み食いしようとするシンジを牽制。
おねだりされても、ダメなものはダメなのよ。

「どうしても?」

またシンジが背中から抱きついてくる。一瞬気持ちがホワってしちゃって、1つくらい
という気も起こったけど、やっぱりここで甘い顔はできない。首を横にフリフリする。

「けちぃ。」

「んっ!」

すると今度はシンジがキスしてきた。
アタシがキスに弱いこと知ってて・・・って、ちょっとっ!
今、チョコを流し込んでるとこなのに、前が見えないじゃないっ!

「ちょっとっ! 前が・・・んーっ!」

抵抗して振り払おうとしたけど、しっかりシンジが抱きついて離してくれない。

こうなったら仕方がない。シンジとキスしたまま、わずかに開けた視界の先に見える鍋
に意識を集中して型に流しこんでいく。

これはとっても難しいぞー。だって視界のほとんどがスイート ハート マイ ダーリン
の顔なんだもん。

顔がにやけちゃう・・・にやけてちゃダメ、ダメ。チョコ作らなくちゃ。

「早く入れなくちゃ、チョコが固まっちゃうよ?」

シンジが意地悪言う・・・。アンタがキスしてるから、手元が見えないんじゃないっ!

手元がほとんど見えないから、どうしてもノロノロと型に流し込むことになっちゃう。
早くしなくちゃ、せっかく溶かしたチョコがほんとに固まってしまうわ。

それでもシンジはキスをやめる気はないみたいで、困り果てるアタシを見て楽しんでい
るみたい。

「あっ!!」

とうとうチョコが固まってしまった。半分程型に流し込んだところで、流れおちなくな
っちゃったの。

「も、もうっ! また溶かさなくちゃいけないじゃないっ!!!」

とうとう我慢しきれなくなったアタシは、プンプン怒ってシンジを振りほどき、またメ
ロンチョコを溶かし始めた。

「駄目だなぁ、アスカは。もっと、テキパキしなくちゃダメだよ。」

「アンタが、キスするからでしょうがっ!」

「ははは・・・。」

「んもっ!!」

かなりアタシは怒った顔をして、おもいっきりシンジに背中を向けてやり、今度こそチ
ョコつくりに専念。

「そんなに怒らなくてもいいだろ?」

「フンだっ!」

「アスカぁ?」

「フンだっ!」

残り半分のメロンチョコが溶け始める。今度こそ、全部流し込むもんっ!

「アスカったらぁ。」

って、思ってると、鍋をお湯から持ち上げて、いったんナプキンの上に置いた瞬間。
今度はシンジがこともあろうか、アタシの弱い脇腹をこちょこちょ。

コ、コイツだけはっ!

「あーーん。いやーーん。ちょ、ちょっと。あはははははっ。」

「ねぇ? もう、怒ってない?」

「い、いやぁぁ。あーん。あはははははははっ。」

「怒ってないよね?」

「わ、わ、わかっ、あははははは。」

「聞こえないんだけど?」

「あーーん。あーーーん。や、やめてぇぇぇぇ。」

身悶えながら必死でシンジの悪魔の手から逃げようとするけど、シンジのヤツーー。

こちょ、こちょ、こちょ、こちょ。
こちょ、こちょ、こちょ、こちょ。
こちょ、こちょ、こちょ、こちょ。

「いやーーん。いやーーん。あーーーん。ゆ、ゆるしてぇぇぇ。」

「だって、アスカ怒ってるもん。」

「おこってない。おこってないからぁぁん。あーーん。いやーーーん。」

「仕方ないなぁ。怒ってないんなら、許してあげるよ。」

ようやくシンジがこちょこちょをやめてくれた。もうアタシは、散々こちょこちょされ
てもう駄目。

「はぁ。はぁ。はぁ・・・ひ、ひどーいっ!」

息が切れて仕方ないわよっ!

「楽しそうだったじゃないか。」

「ちがーーーうっ! ん? あーーーーーっ!!!」

またしても、メロンチョコが鍋の中で固まってる!!

もう、アタシは、ムーーーーとした顔でシンジを睨みつける。

「あれ? 怒ってるの?」

げっ!こそばすぞと言わんばかりに、シンジのヤツ両手をアタシの前に出してくる。

「怒ってないけどねっ! もっ!!」

ほんとにシンジには困ったもんだわ。これでメロンチョコを溶かすのは3度目よ。また
お湯につけて溶かし始める。

「今度、邪魔したらチョコあげないわよっ!!!」

「ごめん。ごめん。」

そんなこんなで、ようやく4色の小さな可愛いチョコが完成した頃には、深夜1時近く

そして、今日は特別なのよ。

アタシ達はミサトに隠れて一緒にシンジのお布団に・・・。

「はい。シンジぃ、あーんしてぇ。」

「寝ながら食べたら虫歯になっちゃうよ。」

「今日くらい大丈夫よ。はい、あーん。」

シンジの布団があったかい。

まくらの上のボールの中には、たくさんのチョコレート。

1つのまくらに頭を寄せて、くっつかんばかりに顔を近付けて。

「あまいや。」

「はい、あーーん。」

できたてのチョコを1つ1つシンジの口に入れてあげる。

アタシの両手は、チョコを取ってはシンジに食べさせてあげるので大忙し。

作った後の、アフターサービスもばっちりよっ!

もちろん! シンジの両手は、布団の中でアタシの腰に回ってて、しっかり引き寄せ抱
き締めてくれてるわ。

「はい。あーーん。」

「も、もういいよ。後は明日、起きてから食べるよ。」

「えーー? もう? どうして?」

「だって、お腹いっぱいになってきたし。」

「そう?」

「うん。」

「じゃ、お腹の膨れないチョコはどう?」

アタシはおでこを、シンジのおでこにくっつける。

「じゃ、それ、貰おうかな?」

「欲しい?」

お鼻とお鼻をくっつけて・・・ゆっくりアタシは目を閉じる。

「シンジ・・・好き。」

両手の開いたアタシは、シンジの頭を抱き寄せる・・・と、優しいシンジの唇が、アタ
シの唇に触れてきた。

あたたかい1枚の布団の中、アタシ達は互いに唇を重ねあい。

幸せな夜を・・・。



でも。

まだまだ、チョコは残ってる。

まだまだ、今日は始まったばかり。



今日は、幸せな恋人が互いの愛を確かめ合う日。

今日は、St.バレンタインデー。



fin.
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