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暖房
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<学校>

2015年の使徒との戦いから2年が経過した頃、地球の地軸はほぼ元通りに戻りつつ
あった。かつてミサトが漏らしたこともあったが、数年前からの地軸回復に伴い、生態
系も元の状態に戻りつつある。

そのような状況下の元、正月が過ぎたこの日本では大きな社会問題が生まれていた。今
年になり季節が大幅に回復したことによる気温の急低下。

シンジ達が生まれて初めて体験する本格的は冬の到来。だが、常夏となってしまってい
た日本の家庭には暖房器具が無かったのだ。

予想以上に早まった季節の回復に、家電メーカも暖房器具の生産が間に合わず、どこの
電化製品売り場でも暖房器具は売り切れ、品切れ状態となっていた。

「やっと買えたで。コタツや、コタツっ!」

「そ、それは、好意に値するね・・・僕の家には、湯たんぽしかないよ。」

「あったかいでぇっ!」

登校し高校の教室に入るやトウジは、自席であみだくじを作っていたカヲルに向かい、
自慢気にそして大声で言い放つ。それもそのはず、あの貴重なコタツを手に入れたと言
うのだ。

「どうやって買ったんだい? まさか盗んだんじゃないだろうね?」

「あほ言うな。金曜日の晩から並んでなぁ。昨日の日曜日、やっと買えたんや。」

「どうして、僕の分も買っておいてくれなかったんだい?」

「しるか。ほんなもん。」

「湯たんぽは、時間が経つと冷たくなるのさ・・・。どうだいコタツは?」

「コタツはずーっとあったかいでぇ。」

「羨ましい限りだよ。」

心底羨ましそうにしているカヲルを前に、トウジは優越感に浸りながら得意満面の笑み
を浮かべる。昨日などは、妹と2人でコタツに1日中入って、みかんを食べながらテレ
ビをずっと見ていたくらい嬉しい買い物だ。

「おっ! 綾波! コタツ買ったでぇ。」

余程嬉しいようで誰でも彼でも自慢しまくっている。今度のターゲットは、今登校して
きたばかりのレイ。

「コタツ、それは何?」

「なんや、お前コタツもしらんのかい。」

「・・・わからない。」

「暖房するもんや。」

「だんぼー?」

「ほや。これから、日本には暖房が必要なんや。暖房がっ。わかったかっ。」

「どうして?」

「暖房すると、あったこなんねやっ!」

「はっ! 暖かい生活・・・。もう寒いのは嫌。」

「ほやから、暖房があったらあったこなれるんやっ!」

「わかった・・・。」

「・・・・・・。」

なんだかよくわからない言葉のキャッチボールしかできず、折角買ったコタツを羨まし
がってくれないレイと話をしていてもつまらない。トウジは、矛先を今度はケンスケに
変えることにした。

「ケンスケっ! ケンスケっ! すげーどっ!」

「どうしたんだよ?」

「コタツや。コタツこうたんや。」

「ふーん。」

「どや。すげーやろう?」

「どこも売り切れなのに、よく買えたな。」

「金曜の夜から2日も並んだんやで。」

「2日も? 凄いな、お前。」

「あったかいでぇ。」

「そんなにあったかいのか? 今日の放課後、遊びに行ってもいいか?」

「おおっ! 来いや。来いや。」

自慢のコタツを見たいというのだ。もうトウジは、嬉しくて仕方がない。是非とも招い
てあげようじゃないか。

ドタドタドタ。

そこへ相変わらず今日もチャイムが鳴るギリギリに、教室に走りこんで来る者がいた。
飽きない2人である。

「だから、シャンプーは無理だって言ったじゃないかっ。」

「アンタが、もっと早く起こさないのがいけないんでしょっ!!」

「起こしても起きなかったのはアスカだろっ!」

「寒いんだから、布団から出れないのよっ!!」

毎朝、毎朝、よくくだらないことで喧嘩ができるものである。そして、その結末も、毎
朝、毎朝、同じストーリーが展開する。

「起きれないんなら、シャンプーなんかやめてよっ!」

「女の子の身嗜みってもんよっ!」

「そういうことは、早く起きれる子が言うんだよ。」

「ぬわんですってーーーーっ!」

バッチーーーーーンっ!!!

「いたーーーっ! ひ、ひどいよっ!」

今日もシンジのほっぺには、真っ赤な紅葉マーク。それを見ていたトウジも、その他の
クラスメートも思うところは同じである。

シンジ・・・・。
負けるんだから、喧嘩はよせよ。

お決まりのレクリエーションも終わり、シンジが自分の席につくと、前に座っているト
ウジが話し掛けて来た。

「毎朝、毎朝、飽きへんのぉ。」

「すぐに起きないアスカがいけないのにさ・・・ブツブツ。」

「ほないに惣流は、寝起きが悪いんか?」

「特に最近、寒いからさ。」

「ほやなぁ。ま、ワイんとこはコタツがあるよって、寒ないけどな。」

ここでもまた自慢である。いずれは友達をなくすかもしれない。だが、シンジは素直に
目を輝かせて羨ましそうにトウジのことを見返す。

「いいなぁ。コタツかぁ。」

「ええやろぉ?」

「テレビ見ながら、コタツに入ったりしたら楽しそうだね。」

「ほやっ! それが1番やっ!」

「ぼくも、懸賞に葉書だしたんだけど・・・コタツ当たるかなぁ。」

「無理や。無理や。ほんなん、いっぱい応募しとるわ。」

「だよなぁ。」

自分が金曜から並び苦労して買ったコタツを、懸賞なんかで簡単に手に入れられてはた
まったものじゃない。トウジは速攻で否定する。

「どや? 放課後、ワイんとこのコタツ見にけーへんか?」

「いいの? うん、行くよ。」

「来いや。来いや。」

こうして、今日の放課後。シンジとケンスケ、そしてカヲルの3人はコタツを見るべく、
トウジの家に行くことになったのだった。

<トウジの家>

放課後になりみんなしてトウジの家に行くと、小学校5年生になった妹のナツミが、お
客様用のカップに紅茶を入れ、コタツの上に並べてくれた。まだ小学生であるにもかか
わらず、兄に比べてとてもしっかりした妹である。

「じゃぁ、ワタシ勉強してくるから。」

「ほか。頑張れよ。」

兄の友人に気を遣ったのか、ナツミは自分の部屋へと消えて行った。リビングに残った
シンジ達は、さっそくコタツに足を入れ腰を下ろす。

「こ、これがコタツかい? あったかいね。リリンが生み出した文化の極みだよ。」

「どや。ええやろ?」

「全身があったまるよ。ゆたんぽとは、全然違うね。」

コタツの中に手を入れてみたり、コタツ布団を首まで掛けたりして、カヲルはかなり気
に入ったようだ。

「どや? お前ら、寒い日は遊びに来たらあったかいコタツに入れてやってもええで。」

コタツを買っただけで、ほとんど王様気取りである。胸を張りトウジは、コタツのない
面々に言い放つ。

「俺はいいよ。なんか、思った程暖かくないしさ。」

「なんやとっ!?」

だが、優越感に浸っていたトウジに、ケンスケが思い掛けない言葉を浴びせ掛けてきた。
もちろんそんなことを言われては、トウジにしては面白くない。

「なんやケンスケ。ひがんどんか?」

「ひがんでなんかないよ。」

「ほんじゃぁ、なんやねん。あったかないわけないやろ。」

「俺の家の暖房器具の方が暖かいだけだよ。」

「なんやてーっ! 見栄はるなっ! そう簡単に暖房器具が手に入るわけないやろっ!」

「見栄なんかじゃないよ。」

「よーし。ほんまに、暖房器具あんねんなっ!」

「あるよ。」

「ウソつけっ!」

トウジは日ごろからケンスケの家に遊びに行っているが、暖房器具など見たことも無い。
あきらかに、見栄をはっているとしか思えない。

「ほんまにあるんやったら、今から見せろや。」

「いいよ。」

「なかったらどうする?」

「あるって言ってるじゃないか。」

「ほんじゃ、明日の牛丼特盛かけるかっ!?」

「いいけどさ。」

「おっしゃっ! 決まりやっ! 今からケンスケんとこ行くどっ! シンジと渚が証人やっ!」

なんとも慌しい連中である。今度はまた寒い中を、一同連れ立ってケンスケの家まで行
くことになったのだった。

<ケンスケの家>

続いてケンスケの家にお邪魔する一同。だが、確かにトウジの言うように右を見ても、
左を見ても、コタツどころかその他の暖房器具は見当たらない。冷えた空気が、部屋中
に充満している。

「おい。はよ暖房器具、見せんかいっ!」

「ちょっと待ってよ。」

「おい。待ったるわっ。」

1分経過。

2分経過。

3分経過。

その間、ケンスケは何をするでもなく、部屋の中をあてもなくウロウロするばかり。

「こらっ! いつまで待たせるんやっ! はよ出さんかい。」

「出すのはちょっと無理だけどさ。」

「なんやとっ! みてみーっ! やっぱり、ないんやんけっ!」

「そうじゃないよ。」

「ないんやったら、ないって素直に言わんかいっ!」

いい加減にしろという感じでケンスケにトウジが詰め寄っていると、その横からシンジ
が口を開いた。

「ん? でも、なんかあったかくなってきたよ?」

言われてみれば、だんだんと暖かくなってきている。どこかにエアコンでもあるのかと、
ぐるりと周りを見渡すが、そんな空気の出そうな物は何もない。

「だろ? コタツよりずっと暖かいぜ。」

「なんやとっ! どこにあるんやっ! 暖房器具は。」

「トウジの足元だよ。」

「あ〜ん?????」

足元に視線を落とすが、見えるものは自分の足だけ。こんな所に何もあるはずがない。

「なんも無いやんけ。」

「うちは、全室床下暖房にしてもらったのさ。」

「なっ! なんやてーーーーーっ!!!!」

エアコンや床下暖房は、現在の日本では全く生産が追い付いておらず、工事も1年以上
予約待ち状態。本格普及は2年後になると言われている。それを早くもケンスケの所は、
導入したというのだ。

「な、なんで、こんなもんがあるんやっ!」

「おやじのコネでさ。」

「なにーーっ! 卑怯モンっ! 裏切りモンっ!」

自分は苦労して並んでコタツを買ったというのに、ケンスケは父親のコネで楽々と、し
かも高級な床下暖房を備え付けているとは、こんなことがあっていいのだろうか。

「汚いぞ。ケンスケっ!」

「そんなこと言ったって、おやじが軍の関係者だから仕方ないじゃないか。」

「ほれが、汚いっちゅっとんやっ!」

「そんなこと言ったら、シンジの家はどうなるんだよ。」

「なんやとっ! シンジっ! おまえも汚い奴やったんかっ!」

ギロリとトウジが睨みつけて来る。シンジはビクっとして、慌てて顔を横に振って否定
するが。

「ぼ、ぼくは、父さんのコネなんて使ったことないよ。」

「そんなわけないだろ? ネルフの総司令なんだから、暖房器具くらい簡単に調達でき
  るはずだよ。」
「ほや! お前は汚いやっちゃっ!」
「そんなに、卑怯者だったのかい。僕は悲しいよ。」

大変な方向に話が流れ始めた。みんなして自分を敵のような目で見ている。もう、シン
ジは必死で否定を続けるのみ。

「ほんとだってば。信じてよっ!」

「ほんまかぁっ!?」

「ほんとだって言ってるじゃないか。」

「ウソちゃうって、誓えるんかっ!」

なぜそこまで拘るのだトウジ。よほどコタツが、父親のコネに負けたのが悔しいのだろ
う。

「誓うよっ!」

「おっしゃ。ほんなら、今からお前の家行くど。もし床下暖房とかあったら、みんなに
  1ヶ月特盛、奢って貰うでっ!」

「だから、ほんとにそんなことしてないってば。」

「ワイはもう、父ちゃんが軍人の奴は信用でけんのやーーっ!!」

めちゃくちゃである。困り果てるシンジを前に、なぜか大声を張り上げ力みながら叫ぶ
トウジ。やはり、父親のコネにコタツが負けたのが、どうしても許せないようだ。

「まぁ、まぁ、トウジ。今から、シンジの家に行けばわかるじゃないか。」
「ほやっ! 今から、行かせて貰うでぇっ!」

「ちょ、ちょっと待ってよ。」

なにか勝手に話が進んでいる。シンジはしどろもどろになりながら、なんとか断ろうと
必死だ。

「急に来たら困るよ。」

「なんでやっ! やっぱり、父ちゃんになんか買ってもろたんかっ!」

「違うよっ! アスカに怒られるよっ。」

「お前なぁ。友達連れて来るくらいで、怒られとってどーすんねや。」

「またお風呂とか入ってたら、ビンタじゃ済まないよっ。」

「そんなこと言って、実はなんか隠しとんねやろっ!」

「ち、違うってばっ!」

「今から、みんなでシンジの家に行くでーっ!」

「駄目だったらっ。」

「問答無用じゃっ!」

これはたまったものではない。逃げなくちゃ駄目だとばかりに、シンジは自分の荷物を
手にとりケンスケの家から脱兎のごとく逃げ出す。

「あ、ぼ、ぼく。用事あったんだ。じゃぁねっ!」

「まてこらーーーっ!!!」

だが逃げ足だけは速いのか、バタバタバタと家の外に飛び出したシンジは、あっという
間にどこへともなくその姿を消してしまっていた。

<ミサトのマンション>

命からがらといった感じで、シンジはミサトのマンションに帰宅した。近頃ミサトは、
加持の家に入り浸っているのだが、生活するという面で彼女がおらず困ることはほとん
どないので、あまり気にしていない。それどころか、近頃いつも家が綺麗で良い。

はぁ、危なかった。
ばれたら、何言われるかわかんないよ。

家の鍵をガチャリと閉めたシンジは、今年の寒い冬にもかかわらず、暖まる家の中へ入
って行くのだった。

同時刻、シンジに逃げられたトウジとケンスケは、カヲルまで引き連れて、ミサトのマ
ンションの外壁を器用によじ登っていた。

「父ちゃんがネルフの総司令やのに、なんもないわけあるかっ!」

「まさか、うちの床暖房よりいいの持ってないだろうなぁ!」

「ケンスケっ! お前は負けるや! 父ちゃんの力の差に負けて泣くんやっ!」

今朝はあんなに優越感に浸っていたトウジだったが、今ではひがみ根性丸出しだ。

「おいっ! 渚っ! はよ登らんかいっ!」

「僕はもういいよ。家でゆたんぽであったまりたいのさ。」

「やかましいぃっ! もうちょいや、はよ来いっ!」

3人はシンジの家の中を覗き見すべく、ミサトのマンションのベランダに降り立つ。こ
こからなら、中の様子が手に取るようにわかるはずだ。

「ト、トウジ・・・。」

「なんや。なにがあったんや。」

「あ、あれ・・・。」

「げっ!!!!」




そこで3人が見たものは・・・。




「あったかいねぇ。シンジぃぃ。」

「床下暖房よりずっとあったかいや。」

「アタシもぉぉ。」

リビングで1枚の毛布に包まって、体を寄せ合いながら、シンジとアスカはテレビを見
ていたのだ。

「あーん。シンジぃぃ、動いちゃダメぇ。」

「ごめん。ごめん。風が入って来たね。」

「ねぇ。今日はいつもより寒いわよ?」

「もっとこっちにおいでよ。」

「うん・・・。」

シンジに肩を抱きかかえられながら、アスカはカミソリの刃が入る隙間もあけず、その
身をぴったりとシンジにくっつける。

「アスカ。あったかいよ。」

「アタシ? どこが?」

「ど、どこがって・・・。」

「アハっ。シンジったら、顔が真っ赤。そんなにあったかい?」

「だって・・・。」

「ほら、こんなとこも、もっとあったかいわよ?」

肩を抱きかかえられていたアスカは、1枚の毛布の中でシンジの背中に両手を回し、ぴ
ったり抱きついて来る。

その様子をベランダから見ていたトウジは、寒風の中顔を真っ赤にしていた。それは、
恥かしいのか怒っているのか・・・少なくとも怒っているのは確かなようで。

「な、なにやっとんじゃ、あいつらはっ!」

「裏切りもん!」

「シンジくん・・・僕というものがありながら・・・。」

最後の勘違いはちょっとおいておくとして、トウジとケンスケは怒りも露に指をワナワ
ナと震わせている。

「シンジの奴っ! とっちめちゃるっ!」

「やめろよっ! 葛城さんの家なんかに不法侵入したら、諜報部員が駆け付けるぞ。」

「くーーーーっ! ほやかてっ! ほやかてっ!」

ベランダの外でそんなことが起こっているなど知る由もない2人は、寒い部屋の中で暖
を取り続ける。

「トウジの奴がコタツ買ったんだ。」

「ふーん。」

「あったかかったよ? うちもコタツ買おうか?」

「いらない。」

「どうしてさ。朝、起きれないんだろ? コタツがあれば起きて来ても、すぐあったま
  れるしさ。」

「シンジがあっためてくれればいいじゃん。」

「朝は、おべんとう作るから無理だってば。」

「シンジがあっためてくれたら、すぐ起きれるんだけどなぁ〜。」

「料理作りながら、危ないよ。」

「お口、あっためてくれるだけでもいいわよ?」

「へ?」

「こうやって・・・。好き!」

それまでシンジに抱きついて座っていたアスカだったが、がばっとシンジを押し倒して
唇を重ねてくる。

「毛布が捲れちゃったよ。」

「いいの。こっちの方があったかいもん。」

シンジを押し倒し、おでこに、ほっぺたに、鼻に、目に、首筋に、唇に、アスカのキス
の嵐。

布団は捲れてしまったが、2人とも顔は真っ赤で、確かにさっきより体が熱くなりあっ
たかい。

チュッ。チュッ。チュッ。チュッーーっ!

「だめだよ。キスマークついちゃうよ。」

「名誉の勲章でしょ。」

虫除けとも言うが、そんなところまで深読みできるシンジではなく、されるがまま。

「ほら、お口をあっためたら、とってもポカポカするわ。」

「うん・・・わかったよ。じゃ、明日からね。」

「ほんと? じゃ、早起きする。」

「早く起きれば起きるほど、お口を長くあっためれるね。」

「どれくらい?」

「これくらいかな。」

床の上に乱れた毛布の上で、互いに互いの背中に手を回し、長い長いキスをする。

この2人を前にしては冬将軍も玉砕したようだ。たとえ日本の冬が極寒の季節になろう
とも、暖房器具など無用の長物。

その時。

どこからともなく叫び声が上がった。

「ぬぉーーーっ! おどれら、ええかげんにせんかいっ!!!!」

「うらぎりもん野郎ーーーーーっ!!!」

今の日本では貴重な暖房器具を既に持っているトウジとケンスケだったが、なぜか心の
中に隙間風がビュービューと吹き抜ける。

ドンドンドン!

そして2人は、とうとう怒りの篭った怒声を張り上げ、ベランダの窓ガラスを拳で叩き
始めた。

「なにさらしとんじゃーーーっ!!」

びっくりしたのは、いつ終わるともなく熱い熱いキスをしていた、この家の2人の住人
である。

「な、なんだぁ?」

「キャッ!」

なぜここにトウジ達がいるのかわからず、びっくりして目を剥くシンジと、同じくびっ
くりして衣服の乱れをササと整えるアスカ。

「お前ら、ほないなことしてええとおもとんかーーーっ!!」

「なんで、トウジ達がそこに・・・。」

なんだかんだ言っても女の子。とっさに恥じらう姿は見せたものの、なんと言っても彼
女はアスカ。次の瞬間には、目が45度の角度に吊り上っていた。

「お前ら恥を知れっ! 恥をっ!」

バカなトウジは嫉妬心からか叫び続けているが、ノシノシと近付いて来るアスカを敏感
に察知したカヲルは、サササとマンションから既に逃げ始めている。

「アンタらーーーっ!」

ガラっ!とベランダの窓ガラスが開いた。

急いで逃げようとしたカヲルは、足を滑らせ地面に落下。

ケンスケは、顔を真っ青にし逃げ出そうとするが、時既に遅し。

バカなトウジはまだ偉そうに覗きをした分際で、偉そうに叫んでいる。

「ブっコロスっ!!」

アスカの右手が大きくスウェードバック。

勢いつけて。

落雷のごとく。

ドッカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!

カヲル、マンションから落ちた時の軽傷のみ。
ケンスケ、重傷。
トウジ、半殺し。

が、しかし、その後トウジはお見舞いに来たヒカリと仲良くなれたとか。
・・・1番不幸なのは誰で、1番幸せなのは誰でしょうね。

コタツを持ち、半殺しの目にあいながらも、ヒカリと仲良くなったトウジ。
床下暖房があるものの、重傷となったケンスケ。
軽傷ですんだが、ゆたんぽしかないカヲル。
そして、暖房器具が1つもないシンジとアスカ。

・・・はてさて。

それはともかく、あの事件の後シンジとアスカは。暖房器具など1つもない部屋で1枚
の布団に入り、仕切り直しをしたとか。

シベリア寒気団など何処吹く風ぞ。2人の夜はいつもポカポカ。

さらに、次の日からアスカは、毎朝5時過ぎに目を覚ます程の早起きとなった。

「シンジぃぃぃ。起きたわよぉ?」

「うーん。もうちょっと寝かせてよぉ。まだ5時じゃないか。」

「お口をあっためてくれるって言ったもんっ!」

「ほらぁ。大人しくお布団に入ってって・・・。」

「だめぇぇ。」

腕枕をして貰っていたアスカは、まだ寝ぼけまなこのシンジの背中に手を回し抱き締め、
唇と唇を重ねる。

「むにゃむにゃ。」

だがシンジはまだ気持ち良さそうに寝ている。とってもつまらないアスカの頭に、良い
ことが思い浮かんだ。

「起きなきゃ死ぬわよ?」

シンジの鼻を摘み、口は空気の入る隙間をあけないように自分の口で塞ぐ。

「む・・・むむむ?」

シンジは数秒で暴れ出すが、アスカが鼻を摘んだもう一方の手で頭をしっかり抱き寄せ、
唇を離せない。

「むむむ・・・むがむが。」

起きなかったバツよ。
もうちょっといじめてあげる。

長い長いキス。

「・・・・・・。」

だが次の瞬間、それまでもがいていたシンジが、突然力を失い、アスカの腕の中でぐっ
たりとしてしまった。

「えっ!?」

驚いて、鼻を摘んでいた手と、キスしていた唇を離し、シンジの肩を揺さぶる。

「シンジ? シンジってば?」

いくら揺すっても、シンジは力なくだらりとしている。さっきまでとは裏腹に、アスカ
の顔が真っ青になってくる。

「ごめん、シンジ! 起きてっ! 起きてってばっ!」

グラグラと、一生懸命に頭を揺する。

「シンジっ! シンジっ!」

びっくりして涙目でシンジを揺すっていたアスカだったが、クククとシンジが声を殺し
て笑う声がその耳に入ってきた。

「ムッ!」

騙された!

アスカを騙す奴には、万死に値する。

懲罰が必要だ。

「かくごっ!」

アスカは、シンジの顔を自分の胸に押し付け窒息の刑を敢行する。

「むがむがっ!!!」

「とりゃーーーーっ!!」

「むがむがっ!!!」

「死ぬまで離さないんだからっ!!」

木枯らしの吹く寒い季節、とても暖かい朝であった。

<レイの家>

数日の後、ヒカリの介護の成果で復活したトウジは、レイになぜか突然怒られ彼女の家
まで呼び出されていた。

「嘘をついたのね・・・。」

「なんのこっちゃ?」

「だんぼー。全然、暖かくないもの。」

なんのことかと見ると、そこには耳の大きな灰色の像のぬいぐるみが、部屋の真ん中に
どっかと置かれているではないか。

「それは、ダンボ じゃーーーーーーっ!!!!!」

fin.
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