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激ラブ
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<学校>

桜の咲かない暑い日差しの日本にも、壱中校舎裏にはほのかに暖かで穏やかな春一番が
吹いていた。

「ごめんね鈴原・・・。東京市に帰って来たばかりで忙しいのに。」

「そんなんかまへん。なんや?」

甘酸っぱい香りが漂うような空気の中にも、たどたどしく緊張気味のヒカリの様子に、
トウジは違和感を覚えながら息を詰まらせ次の言葉を立ち尽くして待つ。

「そのね・・・。」

「なんや?」

「あのね・・・。」

「委員長。元気そうやな。」

「え、ええ。」

その場の雰囲気に耐え切れなくなったのか、トウジから口火を切る形でどうでもいいよ
うな話題を投げ掛けた。

「鈴原は? 足、あの戦いの後、ネルフで治療したって聞いたけど・・・。」

「ほれ。この通りやっ。ピンピンしとるわっ。」

「そう。よかった・・・。」

トウジの健康を喜ぶ。嬉しい。いや・・・それは逃げだ。トウジが疎開先から戻って来
る今日という日の朝した一世一代の決意からの逃避。

それはわかっているが、なかなか肝心の言葉が喉の奥から出て来ず、つい話題が反れて
しまう。

「良かった。鈴原が元気になって・・・。」

「おうっ。そのこと言いに来てくれたんか?」

「・・・・・・。」

頬を染めて俯いてしまうヒカリの様子に、さすがのトウジもやっぱりかという顔で、そ
の雰囲気を察し、急かそうとせず黙って流れる時間に身を任せる。

「あのね。あの・・・わたし。」

「あぁ。」

「あの・・・その・・・。ごめんね、上手く言えなくて。」

「かまへん。」

「あの・・・わたし、鈴原のことが・・・・・・その。」

「・・・・・・。」

「あの・・・。」

「・・・・・・。」

大きく息を飲み込んで、意を決したようにヒカリが口を開く。

「好き。」

「・・・・・・。」

なんとなくそう言われるような気はしていた。だが、いざ言葉に出されてしまうと、ト
ウジも何と答えていいのかわからず言葉がすぐに返せない。

「好きっ! 鈴原のことが好きなのっ!」

「・・・・・・。」

「わたしっ! わたしずっと、ずっと鈴原のことが好きだったっ! どうしてもっ! ど
  うしてもその気持ちが言いたくてっ!」

「・・・・・・。」

1度言ってしまうと、堰を切ったように溢れ出る想い。だが、ふと我に返ると、トウジ
が無言のまま立っていることに気付く。

「す、鈴原?」

「あぁ、聞いてるで。」

「あの・・・。嫌だよね。わたしなんかじゃ。」

「すまん。」

「!!!」

目に涙が溢れて来る。

「そ、そうよね。嫌なら、嫌でいいの。どうしても自分の気持ちを伝え・・・」

「ちゃうっ! ほやない。ワイこういうの苦手やさかい。うまい言葉が出てこん。」

「あの。え?」

「うまく言えへんけど。その・・・ワイもすっきゃ。」

「鈴原・・・。」

一瞬悲しみの涙が溢れそうになったヒカリだが、それが幸せの涙に変わり、両手で口を
押さえたままぼやける視界の先に想い人の姿を見詰める。

「今、なんて・・・。」

「ほないなこと2回も言えんっ! 1回で聞いとけっ!」

「うん・・・聞こえた。」

「ほれだけやったら、ワイもう行くでっ!!」

「あっ! 鈴原っ!」

「なんやっ!」

「明日から、またお弁当作ってくるからっ!」

「おうっ! すまんのうっ! 委員長っ!」

余程恥かしかったのか、トウジは耳まで真っ赤にして逃げるようにその場から立ち去っ
て行く。だが、その想いを受け取ったヒカリはしばらくの間、初めて告白したこの場所
に涙を流しながら立っていたのだった。

翌日。

いつにもまして気合を入れて作って来た大きな弁当箱をトウジに手渡す。

「鈴原・・・あの・・・。」

「お、おう。すまんのぉ。委員長。」

「う、うん・・・。」

お互いなんだかぎこちないが、なんだかそれが心地いい。だが、ヒカリにはもう1つだ
け不満があった。

ヒカリって呼んでくれないの?
わたしはまだ委員長なの?

視線で訴え掛けるが、なんだかんだ言っても鈍感なトウジにそこまで伝わるはずもなく、
弁当を持ってさっさとシンジ達の所へ行ってしまう。

すぐ碇くんのとこに行かなくても・・・。
そう言えば、碇くんとアスカって前から名前で呼び合ってるわよね。
どうやったら、あんなに自然にできるのかしら?

親友であるアスカのことを羨ましく思う。そのアスカは、早くもシンジに作って貰った
弁当を美味しそうに頬張って自分が来るのを待っているようだ。

アスカと碇くんって、あの戦いの後から付き合いだしたのよね。
恋人の先輩に、相談してみようかしら?

恥ずかしいのでトウジに告白したなんてことを人には言いたくなかったが、ここは先輩
たるアスカの胸を借り、恋人として発展するにはどうすればいいかを教えて貰おうと、
思い切って相談してみることにした。

「どうしたの? わざわざ屋上でお弁当なんて?」

「あのね。その・・・ごにょごにょごにょ。」

「はぁっ? 聞こえないんだけどっ?」

「そのさ・・・ごにょごにょごにょ。」

「ヒカリぃ? もうちょっと大きな声で言ってくれない?」

「ごめんね・・・。」

「いいから、何なの?」

「驚かないでよ?」

「だーいじょうぶっ! エヴァシリーズが1万機来ても、もうアタシは驚かないわっ!」

「あの・・・鈴原に・・・その・・・昨日・・・その・・・好きって言っちゃってね。」

「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!
  鈴原に好きって言ったぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!!!!!!!!!!????」

「わーーーっ! おっきな声出しちゃ駄目ぇぇぇぇぇぇっ!!!」

大慌てでガバっと覆い被さり、きょろきょろしながら周りの視線を気にしつつ、アスカ
の口を両手で押える。

「ごめんごめん。だって、びっくりしたから。」

「びっくりしないって言ったのにぃぃ。」

「へぇ〜。で、上手く行ったのっ?」

「それが・・・。」

「えっ!? まさかっ! 鈴原の奴ぅぅっ! 弐号機で踏み潰してやるっ!」

「違うのっ! 鈴原も・・・その・・・好きって言ってくれて・・・。ごにょごにょ。」

ポッと桜色に頬を染める。

「はいはい。で、アタシにのろけに来たわけねっ!」

「あっ。違うの。」

「他に何かあるわけ?」

「あのね。鈴原、わたしのこと委員長ってしか呼んでくれなくて。その・・・ヒカリっ
  て呼んで欲しいなって。」

「ったく。あのバカ。恋人に委員長はないでしょうがっ! で、アタシに弐号機で踏み
  潰して欲しいわけねっ!」

「わーーーっ! そんなことしないでっ!」

「じゃー、アタシにどーして欲しいのよっ!?」

「その・・・どうしたらいい?」

「はぁ?」

「どうしたらいいか、相談したくって。」

「ふーむ・・・そういうことね。よっしっ! デートよっ!」

「そんな・・・。いきなりデートなんて、どうしていいか・・・。」

「うーん。じゃ、アタシとシンジも一緒に付いて行ってあげるわっ! Wデートにすれ
  ばいいじゃん。」

「ほんと? それなら、心強いかもっ。」

「で、アタシとシンジをお手本にすれば、きっと上手く行くってもんよっ!」

「そうねっ! 恋愛の先輩だもんねっ! アスカありがとっ!」

「じゃ、今度の日曜にプール行きましょっ!」

「プールは・・・。」

「なによ?」

「わたし、アスカみたいに胸もないし・・・ちょっと水着は恥ずかしい。」

「そーんなの気にしてたら駄目でしょ?」

「でも・・・。」

「じゃ、映画にしましょっ!」

「映画は・・・。」

「今度は何よぉ?」

「映画って見てるだけだから。鈴原とお話とかできないし。」

「ったく。じゃ、遊園地っ! これでいいわねっ!」

「あっ。それならいいっ。」

「しゃーないっ! 親友の為に人肌脱ぎますかっ!」

こうして決まった計画はシンジとトウジにも伝えられ、使徒戦の後で新たに作られた、
出来たばかりの遊園地でWデートをすることになった。

<遊園地>

やってきました遊園地。

シンジとアスカは同棲しているので・・・いつの間にか2人は同居と言わなくなった・
・・一緒にご到着。

「アスカぁ、お待たせぇ。」

しばらく待っていると、ヒカリがポシェット片手に走って来る。

「あれ? 鈴原は?」

「まだ来てないけど?」

「そうなの? もー。遅刻ねっ。」

などと噂をすればなんとやら、当のトウジご本人の到着となったのだが・・・その服装
を見てヒカリの目が点になる。ジャージだ。

「すまんのぉ。待たせてもーたか?」

「すーずーはーらーっ!!」

「ちょっと遅れただけやんか。怒んなや。」

「違うわよっ! なんでジャージなのよっ!」

「ほや。ジャージや。」

「はぁ〜。」

あっけらかんとしているトウジに怒る気もなくしたヒカリは、とにもかくにも初デート
を楽しもうと遊園地の中へ入って行く。

「ねぇ。シンジからも、鈴原になんとか言ってあげてぇ? あれじゃヒカリが可愛そう
  だもん。」

「今度話してみるよ。」

「でも、シンジの服はとってもかっこいいわよ? きゃっ。言っちゃった。」

両手を胸の所で組んでフリフリしているアスカの姿が目に映り、ヒカリやトウジは何を
しているのだろうと、近づいて行く。

「アスカが喜んでくれたら、ぼくも嬉しいな。」

「ねぇねぇ、アタシはどう? 今日の服かわいい? 」

「アスカは何着たって可愛いに決まってるじゃないか。あぁ、なんだかこんなこと言っ
  たら恥ずかしいよ。」

ポリポリと頭を掻きながら、シンジが俯いている。

「かわいいなんて、とっても嬉しいぃっ! ほんとにそう思ってるぅ?」

「決まってるだろ? ぼくにはアスカ以上に可愛く見える子なんていないんだ。もー、
  こんなこと言わさないでよ。」

「あーん。シンジたらぁ。」

2人の会話を耳にしたトウジとヒカリは、どうしていいのかわからず入場口で固まって
しまう。

アスカの真似しようと思って来たけど・・・。
あんなこと、わたしに言えそうにない。

恋人の先輩に続いて遊園地に入場する。ヒカリとトウジの初めてデートは、こうして幕
を開けることとなった。

「ヒカリぃっ! まずはジェットコースターからよねっ!」

「いきなり? 怖くない?」

ノリ気のアスカだが、あまり絶叫系に免疫のないヒカリは少し躊躇してしまう。

「後からじゃ混むのよ。まず混みそうなのから乗りましょ。」

「いいけど・・・。鈴原は?」

「ワイはなんでもかまへんで。ほれにしても、遊園地なんて久しぶりやのぉ。」

「わたしも。こういうとこ好きなんだけどね。」

「ほうか? ならまた来よか?」

「えっ? う・・・うん。」

恥ずかしそうに俯くヒカリの姿の前に、もう一組同じように頬を染めた先輩のカップル
がいた。

「アタシ。またキャーとか言っちゃうかもぉ。煩かったらごめんね。」

「いいよ。アスカの声って可愛いから、ぼく好きだな。」

「あーん。シンジたらーん。アタシもシンジの声って、かっこいいから好きぃ。」

「いつも聞いてるだろ?」

「うん。だから、いつもアタシ幸せなのぉ。」

「ぼくもアスカが幸せなら嬉しいな。」

「じゃね。”アスカ”って呼んでみてぇ。」

「アスカ?」

「いやーん。かっこいいわよぉ。シンジぃぃ、かっこいーーっ! もっと呼んでぇ。」

「アスカ。」

「あーん。じゃ、次は『アスカ好きだよって』。」

「アスカ好きだよ。」

「アタシも大好きぃ。シンジぃ、好きぃ。」

いつの間にか、ヒカリもトウジもこの2人と少し距離をとりながら、ジェットコースタ
ーへと向かい歩いているのだった。

まだ朝も早いせいか少し並ぶだけで乗れたジェットコースターも終わり、階段を下りる
2組のカップル。

「大丈夫か? 委員長?」

「ちょっと頭がクラクラするわ。やっぱり怖いわね。」

「ほうか? 無理したらあかんで。」

「ありがと。」

何気ない優しさの篭った一言が嬉しく思える。

「こういうのも楽しいけど。次はもうちょっとゆっくりしたのに乗りたいな。」

「ほやな。シンジにそう言うて来るわ・・・うっ。」

ヒカリの要望を前を歩く2人に言いに行こうとしたトウジだったが、その場に足を止め
てしまう。

「なんだか、まだ頭がフラフラするぅ。」

「大丈夫だよ。ぼくがちゃんと支えてあげるからねっ。」

「シンジったらーん、力が強くて素敵ぃっ。」

べったりシンジに凭れ掛かって歩くアスカと、その肩を抱きしめてシンジが歩いている。
話をしに入り込む隙など1ミリもない。

「シンジが横に乗ってなかったら、アタシどっかに飛んで行っちゃったかもぉ。」

「大丈夫だよ。ぼくがちゃんと守ってあげるからね。」

「ずーっとずーっと、アタシを守ってねぇ。キャッ。プロポーズみたいなこと言っちゃ
  った。」

ポッ。

「なんだか、そんなこと改めて言われたら、ぼく恥ずかしいよ。」

「だって、言いたかったんだもーん。」

「それにプロポーズって、男から言うんだよ?」

「あーん。じゃぁ、言って言ってぇ。」

「そんなの言えないよぉ。恥かしいなぁ。」

「言ってぇぇ。ねぇ、おねがーい。」

「じゃ、じゃぁ、言うよ? ぼくがずーーっと守ってあげるよ。言っちゃたぁ。」

「アタシったら、胸がきゅーんとしちゃったぁ。もう1回言ってぇ。」

「ぼくがずーーーーーーーーーーーーーーっと守ってあげるよーーー。」

「またまた、きゅーーーんってなっちゃったぁっ。」

ポリポリと頭を掻くシンジに近づくことができなかったトウジは、ヒカリの横に引き返
して来てボソボソと呟く。

「なんや。話し辛いわ。あとで言うわ。」

「そ、そうね・・・。」

続いて並んだのはお化け屋敷。できたばかりの遊園地で、打倒テーマパークとしてハイ
テクを駆使した遊園地である為、だんだんと人も込んできて、30分待ちから1時間待
ちもあちこちで出てきた。

「やっと、ワイらの番やで。」

「あの・・・怖くないかな?」

「作りもんや。大丈夫やって。」

「手・・・手繋いでもいい? ちょっと怖そうだから。」

「お、おうっ! かまへんで。」

「ありがと。」

先に入ったシンジ達の後、係員の人に少し時間を開けられて、トウジとヒカリは手を繋
ぎお化け屋敷へ入って行く。

ギャオゥーーーーッ!

暗闇の通路を曲がった瞬間、レーザー光線で映し出した3Dのお化けが、2人に襲い掛
かって来る。

「きゃっ!!」

思わずトウジの腕に両手で抱きついてしまう。

「大丈夫か?」

「ごめん。びっくりしちゃって。」

「かまへんかまへん。」

「やっぱり、結構怖いわね。」

「ワイも今のはちょっとびっくりしてもたなぁ。」

と、ふと前を見ると先に入ったシンジとアスカの背中が見えた。時間をおいて客を入れ
ているのだが、どうやら追い付いてしまったようだ。

「さっきのお化け、びっくりしてシンジに抱きついちゃったぁ。えへへ。」

「驚いたアスカも可愛いかったよ?」

「えー、びっくりしたアタシの顔見てたのぉ? はずかしーー。」

「ぼくも抱き付かれてちょっと恥ずかしかったけど、アスカだから嬉しかったよ。」

「嬉しかったぁ? アタシもシンジに抱きついて嬉しいぃ。もっと抱きついちゃうぅ。」

「えー。まだ抱きつくのぉ? でも、もっと抱き付いていいよぉ。」

「きゃっ!」

何もないとこで、悲鳴を上げてシンジの腕に全身でしっかり抱きつく。

「こんなとこでぇ。ぼく、恥ずかしいよぉ。」

「えー。さっき、嬉しいって言ったのにぃ。」

「うそだよ。ほんとうは嬉しいんだぁ。」

「じゃもっとねっ! きゃっ!」

また悲鳴を上げて抱きつくアスカ。ヒカリもトウジもそれ以上進んで2人に近づくこと
ができず、できるだけ距離をとってお化け屋敷の中を進む。

結局、2人ともシンジとアスカに近付かないようにすることに神経を集中してしまい、
全然怖くないお化け屋敷になってしまった。

昼時。

4人は一緒に外にテーブルが並べられているファーストフードショップで昼食を取るこ
とにする。

「委員長の弁当に慣れてもたせいやろか。なんや味気ないなぁ。」

「・・・・ありがと。また作るからね。」

「すまんのぉ。いつもいつも。」

「いいのよ。だって・・・。」

「あ、あぁ。わかっとる。」

その先の言葉を想像してしまったトウジは、恥ずかしそうに鼻の頭を掻いて視線逸らし
てしまったが、そこにはシンジとアスカの2人がいた。

「シンジぃ? そのアイス美味しそう。」

「食べていいよ?」

「わーいっ。」

パク。

「あっ。シンジのスプーンで食べちゃったぁ。」

「それって、間接キスじゃないかぁ。恥ずかしいなぁ。ぼく。」

「アタシと間接キスしたらイヤなのぉ?」

「そんなことあるわけないだろ? でも、アスカだけずるいなぁ。」

「じゃ、今度はアタシのスプーンで食べてぇ。」

「えぇ。そんなの、恥ずかしくてできないよぉ。」

「あーん。たべてたべてぇ。」

「じゃ、ちょっとだけだよ?」

パク。

「あー、どうしよう。アスカと間接キスしちゃったよぉ。」

「あーん。シンジったら、恥ずかしいぃっ。」

しまいにジト目になってくるトウジとヒカリ。やっている本人達はいいかもしれないが、
見ている方の身にもなって欲しい。

「なぁ、委員長? なんで、コイツらと一緒に来たんや?」

「その・・・デートの仕方教えて貰って参考にしようかと思って・・・。」

「こないなもん、参考にならへんがなっ。」

「・・・・う、うん。」

「一緒にいるだけで、ワイ恥ずかしいわっ。」

ふと周りをみると、みんながこの席を注目している。どう見てもその視線は、自分達も
バカップルの同類としてみている冷ややかな視線だ。

「はよ食べて、ここ出るで。」

「そ、そうね。急ぎましょ。」

急ぎハンバーグを食べるトウジとヒカリだったが、その前でひたすらシンジとアスカは、
同じ調子。

「あれ? アスカのジュースはそっちだよ?」

「シンジと一緒のカップから飲みたいのぉ。」

「馬鹿だなぁ。ストロー2つもささなくても、1つのストローで飲み合いっこしたらい
  いじゃないか?」

「あっ。そっかぁ。あっ。でもそれって、また間接キスぅ?」

「ほんとだぁっ。アスカと同じストローで飲みたくって、ぼく気付かなかったよ。」

「いやーん。シンジたらぁ。でも、シンジのそういうとこも好きぃ。」

「ぼくも好きだよ。じゃ、アスカから飲んでいいよ?」

「そんなやさしいとこも好きぃ。じゃ、飲むわね。」

チュー。

少しジュース飲んですぐにシンジにカップを渡す。

「え? もういいの?」

「うんっ。早くシンジと間接キスしたいのぉ。」

「じゃ、ぼくもちょっとだけだね。」

チュー。

「はい。次アスカだよ。」

「いやーん。シンジったら、早ーい。間接キスがいっぱいになっちゃうぅ。」

チュー。

とっくに食べ終わったトウジとヒカリは、見るに見かねてついに勇気を出しおずおずと
2人に声を掛けた。

「ワイら、もう食べ終わったし、そろそろ・・・な。」

「あ、トウジ。ごめんね。急ぐよ。はい。アスカぁ、あーん。」

急ぐと言いつつ、ハンバーグをアスカに食べさせている。ハンバーグについていたケチ
ャップが、アスカの口にピトっと付いた。

「ケチャップ付いちゃったよ? 取るからじっとしてるんだよ?」

「うん。とってぇ。」

口を突き出してくるアスカの唇を指でなぞりケチャップを取ってあげる。

「はい。取れた。うん、とっても可愛くなったよ?」

「うーん。かわいいだなんてぇ。いやんいやんしちゃう。」

「このケチャップどうしたらいいかなぁ?」

「もったいないから、ペロってしてぇ。」

「えーーー。アスカのお口についてたやつなんだよ?」

「シンジったらぁ。そんな恥ずかしいこと言わないでぇ〜。」

両手でほっぺを押えて、アスカが顔を赤くしている。

「恥ずかしがるアスカも可愛いよぉ。」

「あーん、見ないでぇ。シンジがアタシのお口についたケチャップ食べるなんて、はず
  かしいのぉ。」

「もっと恥ずかしがるアスカが見たいなぁ。ほら、これペロってしちゃうよ?」

「そんなぁ。いやーん。シンジぃ、苛めないでぇ。顔が熱くなっちゃうのぉ。」

「やっぱり、アスカってどんな顔しても可愛いよぉ。」

周りの客からの奇異の視線にさらされながら、トウジもヒカリも思った。もうどうとで
もしてくれと。

いろいろあったが、ようやく夕方。

ここの観覧車はネルフの技術を使い世界1の大きさを誇っており、30分も回っている
というのが売り。

最後は4人で観覧車に乗り、夕焼けの第3新東京市を見て帰ろうということになり、同
じゴンドラに4人一緒に乗り込む。

「鈴原見て、夕焼けが綺麗。」

「おっ。世界も平和になって良かったなぁ。」

「わたし、この街に来て良かった。」

「ほうか?」

「だって、鈴原に会えたし・・・。」

「委員長・・・。ワ、ワイもや。」

「鈴原・・・。」

見詰め合う2人。シンジとアスカに少しは影響されたのか、ロマンチックな気持ちで窓
から目を逸らし互いに見詰め合うトウジとヒカリ。

だが、ふと横を向いたその目の端に、反対の椅子に座っていたシンジとアスカの姿が入
って来る。

「「!!!!!」」

それまでの雰囲気は何処へやら、いっきに青ざめギギギギギと顔を振り向けた視線のそ
の先には・・・。

「シンジったらーん。こんなとこでキスしちゃいやーん。」

「アスカがあまりに可愛いから、つい・・・ね。」

「やめちゃいやーん。もっとぉ。」

ちゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!

「アスカの唇ってやわらかいね。」

「あーん。お喋りはいいからぁ。」

ちゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!

「お、お前らっ! なにしとんじゃっ!!!」

「いやーーーっ! アスカぁっ! やめてぇぇっ!」

だが完全に2人の世界に入ってしまったシンジとアスカには、そんな言葉など微かにも
聞こえない。

「大変だよぉ。ぼく、キスがやめられなくなりそうだよぉ。」

「大丈夫よぉ。30分は回ってるもーん。」

「じゃ、またキスしちゃっていいの?」

「あーん、早くぅ。」

ちゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!

目のやり場に困るどころか、まるで気温が10度上がったのではないかと思えるくらい、
体温を上げたトウジとヒカリは、窓ガラスに爪を立てて苦しそうにもがく。

「だれか、ここから出してくれーーっ!」

「助けてぇぇっ!」

だが無常にもこの観覧車は30分は個室に入ったまま回りつづける巨大観覧車。誰も助
けてはくれず、逃げ出す場所もない。ここは密室。

「アスカの体ってやわらかいね。」

「もっと抱きしめてぇ。あーん、キスやめちゃいやーん。」

ちゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!

しっかり互いに抱き締め合い果てしなくキスを続ける2人。トウジもヒカリも酸欠状態
になりそうになりながら、なんとか逃げ出そうともがき続ける。

「アスカぁ、好きだぁ。好きだよっっ!」

「アタシもっ! シンジぃ、だいすきぃっ!」

「いつもアスカを見ると眩しくって、ぼくの目は潰れちゃいそうだよぉっ!」

「目が潰れちゃったら、アタシを見てくれなくなっちゃうぅ。そんなのイヤぁぁ!」

「それなら、そんなに可愛い顔を毎日ぼくに見せないでよぉーっ!」

「シンジの前ではちょっとでもかわいくなりたいのぉーーっ!!」

「アスカは悪魔より意地悪だぁっ! 毎日そんな可愛い顔をぼくに見せるんだからぁぁ!」

「シンジだって、毎日アタシに素敵な姿を見せてるじゃなーい!」

「だって、アスカにはいつもぼくを見ていて欲しいんだーっ!」

「シンジを見る度に、いつもドキドキ心臓が飛び出て死にそうなのよぉっ!」

「心臓が飛び出ないように、ぼくがちゃんと押さえなくちゃいけなかったんだねぇっ!」

「あーーーん、ぴったり押さえてぇぇっ!」

心臓が飛び出ないように、またぎゅーーーと抱き締め合いキスを始める。

ちゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!

トウジとヒカリは死に物狂いで視線を逸らし、いくら耳を押さえても、2人の言葉がい
やがおうなしに耳に入ってきて焼け死にそうだ。

「ダメなのぉ。シンジが胸を押さえてくれたら、もっともっとドキドキしちゃうのぉ!」

「ぼくにもわかるよっ! アスカのときめきが、ぼくの心に伝わってきてるよぉっ!」

「いやーん。アタシのときめき聞いちゃぁっ! はずかしぃぃ!」

「ぼくは、もっとアスカのときめきを聞きたいんだぁっ!」

「あーん。もっと聞いてぇ。いっぱい聞いてぇっ!」

シンジの顔をぎゅっと抱きしめ、耳を胸に押し付ける。。

「アスカぁ、こんなことしたら駄目だぁ。とっても恥ずかしくって、おかしくなっちゃ
  いそうだよぉっ。ぼくぅっ!」

「アタシもぉ。はずかしくって、心臓が飛び出ちゃいそうなのぉっ!」

「大変だぁぁっ! お口を押さえなくちゃぁっー!」

ちゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!

「世界の全てのお花より、アスカって素敵な香りがするよぉっ〜!」

「アタシはシンジだけの為に咲いたお花だもーんっ!」

「あぁ、なんてかわいいお花なんだ。世界中の花がしおれて見えるよぉっ〜!」

「お花の蜜をもっと吸ってぇーーーーーーーーー!」

ちゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!

「アスカぁぁぁぁぁっ! 好きだぁぁぁっ! 大好きだぁぁぁっ!」

「アタシも好きぃぃぃっ!!!!!」

ちゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!

そして・・・30分が経過した頃、トウジもヒカリもスルメのようになってしまってお
り、観覧車の扉がようやく開いた時には、立つのもやっとという感じで、ヨロヨロと出
てきた。

無論、一緒に乗っていたもう一組のバカップルは元気いっぱいだったのだが・・・。

「じゃ、トウジっ。委員長。ぼくとアスカこっちだから。」

「お、おぉ・・・ほんじゃな・・・はは・・・ははは。」

「き、気をつけてね。アスカ・・・はは・・・ははは。」

シンジとアスカを見送った2人は、ようやく2人だけの世界という・・・いやバカップ
ルのいない世界というオアシスに辿り着いた気がした。

「ワイ・・・死にそうなくらい疲れた。」

「ごめん・・・わたしが誘っちゃったから。」

「委員長は悪ない。初めて、委員長と遊びに来れて楽しかったで。」

少し恥ずかしいのかそっぽを向きながらも、トウジはヒカリに気遣いの言葉を掛ける。

「あの・・・鈴原?」

「なんや?」

「その・・・できたら、あの・・・。」

「なんや。言いたいことあったら、なんでも言えっ。」

「うん。委員長じゃなくて、ヒカリって呼んで欲しいんだけど・・・駄目かな?」

「ほ、ほやな。委員長やったらおかしいもんな。」

「じゃ、呼んでみてくれる?」

「今かいなぁ?」

「うん・・・お願い。」

「今やのーても。」

「駄目?」

「いや。わかったっ! ヒ、ヒカリ・・・。」

やっと念願が叶い、ニコリと微笑むヒカリ。

「ほ、ほやけど。学校では、委員長やど。中学の間はなっ!」

「うん。わかった。」

トウジの性格を察し、そこは妥協する。思えば最初から素直にこう頼めば良かったのだ。
そうすれば・・・あんな苦しい思いをせずに・・・。

「今度は2人で、来ようね。」

「おうっ!」

こうして、地獄のような初めてのデートだったが、最後はヒカリの念願も叶い、また次
のデートの約束もできた。

「ヒカリ?」

「ん?」

「ワイら、ええカップルになろな。」

「うん。」

「バカップルにだけはならんとこな。」

「うん・・・。」

今日のことで、それだけは強く強く思う2人であった。

fin.
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