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アスカが返事をするまで
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<学校>

「何よ? 話って。」

1時間目が終わった休憩時間、アスカはシンジに呼ばれて屋上に来ていた。

「あ、あのさ。」

「もう、休み時間が終わっちゃうじゃない。さっさと言いなさいよね。」

「その・・・。」

「なんなのよ!」

「だからさ・・・・。」

キーンコーンカーンコーン。

「ほら! ぐずぐずしてるからチャイム鳴っちゃったじゃないの! 教室に戻るわよ!」

「あ!」

シンジは、走り戻って行くアスカの背中を見ていたが、自分も教室に戻らなければなら
ないことを思い出すと教室へ戻って行った。

「碇くん何の用だったの?」

教室に戻って来たアスカに、後ろに座るヒカリが話かけてきた。

「さぁ。」

「さぁって・・・どういうこと?」

「『あの』とか『その』とかばっかりで、なんにもなかなか言わないんだもん。」

「ふーーん。」

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                        :

2時間目が終了し、再び休憩時間。

「アスカ、ちょっと屋上に来てくれないかな。」

「またぁ? 言いたいことがあるんなら、ここで言いなさいよ!」

「その・・・あの・・・屋上で待ってるから。」

シンジは、逃げる様に教室を飛び出して屋上へ走って行く。

「もう! なんなのよ・・・アイツはぁ。」

やれやれという感じで椅子から腰を持ち上げたアスカは、シンジが走って行った後を歩
いて行った。

「ほら、お望み通り屋上に来てあげたんだから、はやく言いなさいよ。」

「あの・・・。」

「アンタバカぁ? さっさと言わないんなら、教室に戻るわよ!」

「あっ!」

アスカが背中を向けて教室に戻りかけたので、シンジは咄嗟に手を伸ばしてアスカの肩
を掴む。

「もう! 何よ!」

「あの・・・アスカのことが好きなんだ。その・・・だから・・・。」

「なっ・・・! ア、ア、アンタ自分の言ってることがわかってるの!? 何バカなこと
  言ってんのよ!!」

「ど、どんな返事でもいいから、あの・・・ちゃんと返事くれないかな。」

「そ、そん・・・だか・・・ら・・・ア、アンタ・・・アンタバカぁ?」

「それって・・・。」

「ア、アンタ・・・その・・・あの・・・だから・・・。アンタバカぁ?」

「い、今すぐじゃなくてもいいから・・・。そ、それじゃ、返事待ってるから。」

シンジが走って教室へ戻った後、1人残されたアスカは午前中の授業をサボって屋上で
空をずっと眺めていた。

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                        :
                        :

「あ、アスカ! どこ行ってたのよ!」

昼休みになってようやく教室へ戻ると、突然居なくなったアスカを心配していたのか、
ヒカリが声を張り上げて駆け寄ってきた。

「うん・・・ちょっと。」

「ちょっとじゃないわよ。どこ行ってたのよ。」

「屋上にいたわ。」

昼休みになって生徒が屋上に上ってきた為、居る場所が無くなり降りて来たのだ。

「ずっと、屋上にいたの? 何してたの?」

「うん・・・空を眺めてたの。」

「空って・・・。」

なんだか様子がおかしいので、ヒカリはアスカの顔を覗き込みまじまじと見つめる。そ
の顔は、ほのかに赤く口元はにやにやしていた。

「な、なによ!」

「アースーカー。屋上で何があったのかしらぁーー?」

「べ、べつに・・・。」

ツンと顔をそむけて、チラチラと横目でヒカリを見る。

「ふーーーん。」

「なにが、ふーーーんよ!」

「で、返事はしたの?」

「な、なんの返事よ!」

「早くした方がいいわよ。勘違いされて諦められるかもしれないしね。」

「・・・・・・・。」

トントン。

その時、ヒカリの肩が後ろから叩かれた。

「これ。」

「あ、私のハンカチ。どうしたの?」

後ろを振り向くと、白地に赤とピンクで小さな花の模様が描かれているヒカリのハンカ
チを持つレイが立っていた。

「手洗い場にあったわ。」

「持って来てくれたの? ありがとう。」

「いいわ。大したことじゃないから。」

そんな様子を見ていたアスカは、目を丸くしてレイを見つめる。

「アンタにしては、珍しいことするわね。」

「そう? それじゃ。」

レイが自分の席に戻ったので、再びヒカリが先ほどの話をぶり返させた。

「で、碇くんに、何て言われたの?」

「え!? そ、その・・・好きだって・・・。」

もじもじしながら答えるアスカを見ながら、ニヤっと笑うヒカリ。

「あーーーやっぱり、告白されたんだぁ。」

「あっ!」

ボッボッ!!

まんまと乗せられたアスカは、先ほどの比では無いくらいに顔を真っ赤にさせてうつむ
いてしまう。

「いいじゃない。答えはもちろんOKなんでしょ?」

コクリとうなずくアスカ。

「碇くんのこと好きなんでしょ?」

コクリとうなずくアスカ。

「それなら、早く言っちゃった方がいいわよ。」

プルプルプルと首を横に振る。

「どうして?」

「・・・・・・。」

「え?」

「・・・・・・。」

「聞こえないわよ。もう少し大きな声で言ってよ。」

「ハ・ズ・カ・シ・イ・ノ。」

「・・・・・。」

アスカをもってして、こんなセリフが出てくるとは思っていなかったヒカリは一瞬絶句
したが、逆にいつも気丈なアスカも同じ女の子なんだと安堵するのだった。

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                        :
                        :

6時間目。

チラ・・・。

ポッ!

チラチラ・・・。

ボッボッ!

5時間目の授業から、アスカはずっとシンジの方を見ては顔を赤らめたり、机を見ては
何と返事しようか悩んだりを繰り返している。

これは大事なことよね。一生、人に言っても恥ずかしくない答え方をしないといけない
わよね。

机と睨めっこをしながら思考に没頭する。

『べつにいいんじゃない?』
なんか、告白の返事じゃないわね。もっと、ロマンチックなのがいいかな・・・。

『アタシもずっと好きだったの。こんなアタシでよければ付き合って下さい。』
いまさら、こんなこと言えるわけ無いじゃない! もっと、アタシらしく行かないと。

『仕方無いから、付き合ってあげるわ! 感謝しなさいよね!』
駄目ね・・・そんな返事したなんて、人に言えないわ。こういう時、変に親しくしてる
相手だと返事に困るのよね。

『アンタバカぁ? いまさら何言ってんのよ! アタシはずっと前から付き合ってるつも
  りだったわよ!』
これじゃ、一生に1度の告白シーンが台無しよねぇ。むーーーーどうしよう。

アスカの思考は走馬灯の様にぐるぐると回りつづけた。

                        :
                        :
                        :

「アスカ!?」

『アタシの味噌汁を毎朝飲んで下さい。』
なんだか古臭いわね。

「アスカってばぁ。」

『アタシを一生引っ張って行ってほしいの。』
うーーん。どっちかってーとアタシがシンジを引っ張る感じだからなぁ。

「アスカ!!!!!」

ハッ!

いつの間にか思考が暴走していたアスカが、ヒカリの大きな声に我に返る。

キョロキョロ。

周りを見ると、もう教室にはほとんど人がいなくなっていた。どうやら返事の言葉を悩
んでいる間に放課後になっていた様だ。

「何、ぼーっとしてるのよ。みんなもう帰ったわよ。」

「え・・・。あ、そ、そうね。アタシも帰んなくちゃ。」

いそいそと、5時間目の授業が始まる時に出した教科書をカバンに詰め込むと、帰り支
度をし始める。

「家に帰ったら、碇くんがいるんでしょ。がんばるのよ。」

ポッ。

「うん・・・。ありがと・・・。」

そして、アスカは教室を走り出て行った。

<通学路>

なんて返事しよっかなぁ。なかなか、いいアイデアが思いつかないよぉ。今日はヒカリ
の家に泊めてもらおうかな。

『早くした方がいいわよ。勘違いされて諦められるかもしれないしね。』

ヒカリの言葉が、アスカの脳裏をよぎる。

そうよね。いつまでも待たせて、アタシが断ったんだと思われたら困るわよね。

しかし、まだ考えがまとまらないアスカは帰り道にある公園のベンチに座り、ブチブチ
言いながら返事の言葉を考える。

もぅ! うだうだ考えるからいけないのよ。シンジの前に出て最初に思ったことを言え
ばいいんだわ!

アスカはすっくと立ち上がり、公園を出てミサトのマンションに足を運ぼうとした時・・・。

シ、シンジ・・・。

公園の前を、レイと仲良く笑いながら歩いているシンジの姿が、目に入った。

・・・・・・・・。

アスカのこぶしに力が入り、前髪で隠れたその瞳はうつむき加減にシンジの方を睨み付
けている。

信じらんない・・・告白したその日に、別の女と・・・よりによってファーストと・・・。

アスカは、シンジが歩いている道とは逆側にある公園の出口から走り出て行った。

<ミサトのマンション>

ガチャ。

「あ、アスカ。お帰り。」

辺りが暗くなってからアスカが家に帰り着くと、シンジが玄関まで出迎えに来た。

「あの・・・その・・・よければ返事を聞かせてもらえないかな・・・。」

キッ!

うつむき加減に玄関に立っていたアスカは、シンジを睨み付けると右手を高々と振り上げる。

パーーーーーーン!!

「誰が、アンタなんかと!!! ふざけンじゃないわよ!!!」

赤く腫れた頬をおさえるシンジの横をすり抜けると、ダッと自分の部屋に駆け込んで行
った。

あのバカ! 人を何だと思ってるのよ!

ベッドに寝転ぶアスカの瞳からは、悔し涙が次から次へと溢れ出してきていた。

<学校>

翌日アスカが教室に入ると、待ってましたとばかりにヒカリが駆け寄って来た。

「昨日は、どうだったの?」

「あんな奴、こっちから願い下げよ!!」

「えっ!??????」

のろけ話が聞けると思っていたヒカリは、予想外の言葉に言葉を失う。

「あんな奴!! あんな奴!!」

「ね、ねぇ。何かあったの?」

「何も無いわよ! あんな奴とこのアタシが付き合うわけないでしょ!」

「でも、昨日は・・・。」

「冗談に決まってるでしょ! そんなの! ヒカリったら、本気にしてたわぇ?」

「どうしちゃったのよ? 何があったのよ!」

昨日とは正反対の反応を示すアスカに、ヒカリは戸惑うばかりで何と言って良いのかわ
からない。

「あなた断ったの? どうして?」

そこへ、レイが近寄って来た。アスカは、鬼の様な形相でキッとレイを睨み付ける。そ
んな様子を見たヒカリは、ようやくレイ絡みで何かあったことだけは推測できた。

「碇君にあなたの様子を聞かれたから、心配無いって言ったのに・・・。」

え!!?

「碇君喜んでたわ。」

じゃ、あの時一緒に歩いてたのは・・・シンジが楽しそうにしてたのは・・・。

「でも、もうダメなのね・・・。」

ダメ・・・もうダメなの? そんなのイヤ!
シンジは? シンジはどこ?

教室を見回すが、どこにもシンジの姿は見えない。

まさか、アタシと顔を合わせづらくて今日学校を休む気じゃ・・・。
ちょっとまってよ・・・てことは、家にも帰ってこないかも・・・。
探しに・・・探しに行かなくちゃ!!!

キーンコーンカーンコーン。

アスカが席を立ち上がろうとした時、チャイムが鳴った。それと同時にシンジが教室に
現れ、アスカと目を合わさない様に自分の席についた。

ふーーー。ひとまず、最悪の事態は避けられたみたいね。

1時間目の授業中、昨日の出来事を思い返すと、自分の取った態度はどう考えてもひど
い。

シンジを信じてあげれなかった・・・。
最悪の断り方で断ってしまった・・・。
シンジは今、辛い思いをしている・・・。

アタシは、どうすればいいの?

座るシンジの背中を見つめるアスカは、昨日の様なうわついた思考ではなく、真剣に悩
み続ける。

『もうダメなのね・・・。』

レイの言葉が頭をよぎる。

ダメじゃない! ダメになんかするもンですか!

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昼休み、アスカは意を決してシンジの元へ寄って行った。

「シンジ・・・あの・・・。」

しかし、アスカが喋りかけようとした途端、シンジは辛そうな顔をしてスッと横を通り
過ぎると廊下へ出て行く。

「あっ!」

アスカが何と声をかけていいか迷っている間に、シンジの姿は教室からなくなっていた。

負けるもんですか! そっちがその気なら、こっちにも考えがあるわ!

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放課後。

「ケンスケ、ちょっと話があるから来るのよ!」

「なんだよ。」

「いいから、来なさいよ!」

アスカは放課後になると、一番にケンスケを捕まえて下駄箱の近くまで連れて行った。

「なんだよ、話って。」

「ちょっと、静かにして!」

「はぁ?」

そこへ、とぼとぼとカバンを持ったシンジが校舎を出て来る。

「行くわよ!」

「どこにだよ!」

「いいから、来なさいよ。」

ケンスケと共にシンジの前を歩くアスカ。

「惣流どうしたんだよ、ニコニコしてさ。」

「アンタ! アタシの写真を撮ってるでしょ!」

「え・・・。あ、あれは・・・その・・・。」

「エヴァで踏み潰されたい様ね!」

ニヤッとケンスケに笑いかけるアスカだが、その目は真剣だ。

「ゲッ・・・許して・・・。」

「見逃してもらいたい?」

「頼むよ。もうしないからさ。」

「まぁ、いままでの収入の1/3をアタシに渡したら見逃してあげるわ。」

「え!? 1/3でいいの? 本当!?」

「ええ、アタシの心が広いことがわかったかしら? その代わり今後売るんじゃないわ
  よ!」

「わかってるよ。もう売らないよ。」

命拾いをしてニコニコするケンスケと、笑顔のアスカはシンジの前を歩く。そんな2人
から目を逸らしながらシンジは辛そうにうつむいて、自分の靴を見つめていた。

<ミサトのマンション>

ガチャ。

「あ、シンジ。お帰り。」

辺りが暗くなってからシンジが家に帰り着くと、アスカが玄関まで出迎えに来た。

「あの・・・昨日は悪かったわ。」

「もういいよ・・・アスカには好きな人がいたんだ・・・仕方無いよ・・・。」

「どうして、そう思うのよ!」

「だって、今日ケンスケと楽しそうに・・・。」

辛そうに顔を背けてボソボソと言う。

「はぁ? あれはケンスケからアタシの写真を売った儲けを没収していただけよ。アイ
  ツも儲けの1/3で手を打つって言ったら喜んでた様だけど・・・。」

「えっ!? そうだったのか・・・・・・。」

ひとまず、真相を聞いてほっと胸をなでおろす。

「アンタ、どうしてアタシがケンスケのことを好きだと思ったのよ!」

「だって、楽しそうに歩いてたから・・・てっきり・・・。」

「やっぱり、楽しそうに歩いてたらそう思うでしょー。アンタ昨日誰と歩いてたのよ!」

「アッ!」

「アタシはてっきり・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・。」

「アスカ、ごめん・・・。」

「まぁ、アタシも悪かったんだし、それはお互い様だからいいわ。」

少し状況が違う様な気がするのだが、アスカ曰くお互い様らしい。

「じゃ、それで昨日アスカは・・・。」

「だいたいアンタが、人にコソコソとアタシの様子を聞くからおかしなことになるんじ
  ゃない!」

「ごめん・・・。」

いつの間にか、シンジが悪いことになっている様だ。

「でも・・・それじゃ、返事は・・・。」

「もう一度、ちゃんと告白してくれたら考えるわ!」

「え・・・。」

「早くぅ。」

「だから・・・ぼ、ぼくはアスカが、す、好きだから・・・その・・・。つ、付き合っ
  てくれないかな。」

「どもらずに! もう1度!」

「もう1度ぉぉー???」

「そう!!!」

腰に手を当てて、告白のやり直しを命令するアスカ・・・。

「ぼくは、アスカが好きだ。付き合ってほしい。」

ニコッと微笑んだアスカは、裸足のまま玄関に下りると、シンジに抱きつき口を耳元に
近づけた。

「いいわよ。」

fin.
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