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嫌な奴
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作者注:この小説は、学園エヴァの設定がベースです。ただ、シンジとアスカの家は離
        れていて、そんなに昔からの幼馴染ではありません。
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<学校>

ぼくは碇シンジ。第3新東京中学校に通う、ごく普通の中学生だ。
特に勉強やスポーツができるわけじゃないけど、平均以下ってわけでもない。
言わば、どこにでもいる様な中学生だ。

そんなぼくにも、学校生活で1つ嫌なことがある。
別に勉強が嫌とか、そういうんじゃないんだけど、1人嫌な奴がいるんだ。

ガツン。

「いったーーーーーーっ!!」

教室に入ろうとした途端、突然頭に痛みを感じた。
振り返ると、嫌な奴が立ってる。
アスカだっ!

「あーーら、アンタがそんな所にぼーーっとつっ立っているから、カバンが当たっちゃ
  ったじゃないの。」

そう。この娘が、いつもいつもいつもっ! ぼくをいじめる嫌な奴だ。
この娘さえいなかったら、どんなに学校が楽しいだろう。

「わざと当てたんじゃないかっ!」

「なんですってぇっ! アンタがそんな所で、ぼーっとしてたから悪いんでしょうがっ!」

「そんなのってないよっ! ひどいよっ!」

「べーーーだっ!」

アスカは、あっかんべーをして自分の席へと座ってしまった。
ぼくも、頭をさすりながら自分の席に座ることにする。

1時間目の授業は音楽だ。今日は、皆の前で歌わなくちゃいけないから緊張するなぁ。
こういう時、出席番号が早いことをいつも恨んでしまう。

「はい、次。碇くん。」

とうとう順番が回ってきた。
自分の体に浴びるクラスの友達の視線に緊張しながら、皆の前に出る。

「♪♪♪♪♪♪♪♪♪」

はぁ・・・やっと終わった。
もう点数なんてどうでもいい。
早くここから立ち去りたい気分だ。

「はいはーーーいっ! せんせーーっ!」

ぼくが歌い終わった時、声を上げながら手を上げた奴がいた。
アスカだっ!。
何かまた嫌なことをするんじゃないかと、不安になってくる。

「なにかしら? 惣流さん。」

「シンジの声、小さくてアタシの席まで聞こえませんでしたーーーっ!」

「うーん、確かに小さかったわねぇ。じゃ、碇くん。もう一度、歌ってくれるかな。」

ガーーーーーーーーン!

やっと・・・やっと・・・歌い終わったのに・・・。
また歌わされることになるなんて・・・。
どうしていつもアスカは、嫌なことばかりするんだよっ!

「碇くん。今度は大きな声で歌うのよ。」

「はい。」

再び同じ歌を歌いながらアスカのほうを見ると、ニヤニヤしながらぼくを見ている。
なんて嫌な奴なんだっ!

2時間目は体育の時間だ。
木曜日は音楽の後に体育だから、いつも休み時間が慌しい。
グラウンドに出るのが遅れると、怒られるから急いで着替えなくちゃ。

皆と一緒に男子が着替える教室へ向かって、階段を駆け下りる。

ドンっ!

「あっ!」

後ろから走って来た人にぶつかられて、音楽の教科書や筆箱を落としてしまった。
その筆箱は、運悪く階段の隙間から1階まで落ちていった。

「なに、ぼけぼけっとしてんのよっ! 邪魔じゃないっ!」

アスカだっ!
いつもいつも、ぼくにわざとぶつかってくる嫌な奴だ。

「ひどいじゃないかっ! 筆箱が落ちちゃったよ。」

「アンタが、しっかり持ってないからいけないんでしょっ! フンっ!」

とにかく、早くしないと体育に遅れる。
アスカなんかほっといて早く筆箱を拾いにいかなくちゃ。

<グラウンド>

「碇っ! 何をしていたっ!」

「すみません。」

「遅れた罰として、グランド1周っ!」

「はい・・・。」

結局ぼくは、体育に少し遅れてしまった。
あんな所で、アスカがぶつかってくるからいけないんだっ!
筆箱を取りに行かなかったら、間に合ってたのに・・・。

「はっはっはっ」

グランドを大回りで1周すると400メートルはある。
これから体育だというのに、最初からこんなに疲れたら後が大変じゃないか。

「はっはっはっ。」

1人で走るのが恥ずかしいから、ちょっとしんどかったけど、急いでグランドを回る。

「やーーーーーいっ! 走らされてやんのっ!」

丁度女子が固まっている鉄棒の横を走り抜けた時、ヤジが飛んできた。
アスカだっ!

そのアスカの声に、女子が全員ぼくに視線を向ける。
恥ずかしいじゃないかっ!

「はっはっはっ。はーーーっ。」

やっと、走り終わった。
これで、皆と一緒に体育ができるよ・・・。
疲れたなぁぁ。

<教室>

やっと昼休みだ。
早く母さんが作ってくれたお弁当を食べて、トウジ達とグランドでサッカーをしよう。

カバンから弁当を取り出すと、自分の机に置く。
コップも出さなくちゃ。

ん?

ぼくが、コップを取り出そうとカバンに手を伸ばし腰を屈めた時、目の前でお弁当が宙
に浮いた様に見えた。

「よっと。」

アスカだっ!
アスカが、ぼくの弁当を持ち上げてニヤニヤしている。

「返してよーっ!」

「返して欲しかったら、取ってみなさいよっ!」

「もう、返してったらっ! ぼくのお弁当じゃないかーっ!」

「やーーーいっ! ここまでおいでーーっ!」

「もうっ! 返してよーーーっ!」

あろうことか、アスカはぼくの弁当箱を持って廊下へと逃げたんだ。
慌ててアスカを追い掛ける。

「返してったらっ!」

「取ってみなさいよーーだっ!」

「もうっ! お願いだから、返してよっ!」

「べーーーだっ!」

アスカは女子の中では1,2を争う程、足が速い。
ぼくは男子だけど、そんなに速いってわけじゃないから、なかなか追いつけない。

「はっはっはっ。もうっ返してよっ!!」

1階まで走り降りて来た頃、ぼくは息が上がってしまい止まってしまった。
廊下の少し向こうからアスカが見ている。

「早く取りに来なさいよっ!」

「もう、いいよっ!」

「え?」

「もういらないよっ! 今日はお弁当いらないっ!」

いいかげん頭にきた。
お弁当は食べたかったけど、今日は諦めよう。

「・・・・・・・いらないの?」

「もういいよ。返してくれないんだもん。」

きっとアスカは勝ち誇った顔で、ぼくをあざけ笑うんだろうな・・・。

「フンっ! 返すわよっ!」

アスカはお弁当を返してくれた。
なんだか、アスカの顔・・・少し悲しそうだ・・・。

                        :
                        :
                        :

6時間目は、週に一度のホームルームだ。
今日は、2年生になってはじめての席替えだから、ちょっとわくわくどきどきだ。
トウジかケンスケと同じ班になれたらいいなぁ。

「それじゃ、班長を決めます。立候補する人はいますか?」

班長の立候補なんて、誰も好んでする人なんていないよ。
当てられない様に、おとなしくしとこう・・・。

「はいはーーーいっ!」

予想外に、1人声を上げて手を高く上げる人がいた。
誰だろう? 物好きだなぁ。
ぼくが振り向くと、手を上げている女の子が見えた。
アスカだっ!

「アタシが班長をするわっ!」

「アスカね。」

委員長の洞木さんは、アスカの名前を黒板に書いている。
班長選びはその後推薦になったけど、ぼくはなんとか逃れることができた。

「じゃ、次は班員を選ぶから、班長さんは前に来て下さーい。」

班長の8人が班員を選んでいる間、ぼくは、トウジやケンスケと喋ってた。

「同じ班になれるといいね。」

「ほやなぁ。」

「無理だよ。俺達は目つけられてるから、きっとバラバラにされるよ。」

「ケンスケも、そう思う?」

あっ。委員長が何か言ってる。
班員が決まったんだ。
ぼくは、どこの席だろう?

「はい、これが新しい席です。それじゃ皆さん移動して下さい。」

ガーーーーーーーーーンっ!!

その席を見て愕然とした。
こともあろうか、あの嫌なアスカが隣じゃないか。
しかも、一番後ろ・・・。
いじめられても、誰も気付いてくれないじゃないかーっ!

「アタシは嫌だったんだけど、なんでかアンタの隣になっちゃったのよねぇ。」

アスカの横に席を移動すると、アスカはそんなことを言いながらツンと前を向いた。
嫌なら、なにもぼくを班員に選ばなくてもいいじゃないかっ!

ホームルームの残りの時間は、今度の校外学習の話だった。
話を聞きながら、連絡帳に必要なことをメモする。

「シンジっ。消しゴム貸してよ。」

「いいけど。」

アスカにケシゴムを貸してあげて、ぼくは先生の話の続きをメモする。

「えーー、集合時間は9時・・・じゃなくて、8時50分に集合して下さい。」

もうっ、先生っ!
間違えないでよ。
書き直さないといけないじゃないか。

「アスカ? 消しゴム返してよ。」

「嫌よ。」

「え? 返してよーー。」

「嫌だって言ってるでしょ。」

「ぼくのじゃないかっ。」

「取れるもんなら、取ってみなさいよ。」

「もうっ!」

アスカが、消しゴムを素直に返してくれるわけがない。
取ればいいんだろっ!

ところがぼくが手を伸ばすと、アスカは消しゴムをブラウスの胸ポケットに入れてしま
った。

「早く、取ってみなさいよ。」

そんな所に入れたら、取れるわけないじゃないかぁぁぁぁっ!!

「ひどいよっ。返してよっ!」

「アタシは邪魔しないわよ。取りなさいよ。」

ずいとアスカは胸を押し出してくるけど、恥ずかしい・・・。
顔が熱くなってくよ・・・。

もういいよ。
消しゴム使わなくたって、2本線で消したらいいんだ。

「はい。」

「なに?」

「アタシのあんまりよく消えないのよねぇ。アンタにあげるわ。」

「それなら、ぼくの消しゴム返してよ。」

「アンタの方がよく消えるから交換してあげるわっ!」

「もうっ!」

消しゴムが1つ手に入ったから我慢するよ。
でも、どうせなら2本線で消す前にくれたらいいのに・・・。

間違った所をアスカに貰った消しゴムで消したけど、これ良く消えるよ?

<下駄箱>

やっと今日の授業も全部終わった。
帰って好きな音楽でも聞こう。

「あれ?」

下駄箱に、ぼくの靴が無い?

「どないしたんや? シンジ?」

「靴が無いんだよ。」

「ほないなこと無いやろ。」

トウジ達が一緒にぼくの靴を探してくれたけど、どこにも無い。
困った・・・これじゃ帰れない。

「シンジっ! アンタの探してるのってこれでしょっ!?」

声がした方を見たら、ぼくの靴を片手に持ってニヤニヤしてる奴がいる。
アスカだっ!

「もうっ! 返してよっ!」

「返して欲しかったら、取りに来なさいよっ!」

「だって、逃げるじゃないかっ!」

「男なんだったら、追いついてみなさいよねっ!」

「おいっ! 惣流っ! なんで、シンジばっかりいじめるんやっ!」

トウジが、文句を言ってくれた。
やっぱり友達だ。

「別にいじめてなんかいないわよっ!」

「いじめとるやないかっ!」

「ウッサイわねっ! からかってるだけでしょうがっ!」

それって、一緒だよ・・・。
もう、ぼくをいじめるのはやめてよ・・・。

「惣流っ! 碇のことが本当は好きなんだろーーっ!
  だから、碇ばっかり構うんだよなーーっ!」

ケンスケっ! なんてこと言んだよっ!
ぼくは顔を熱くしながら、アスカを見るとアスカも顔を真っ赤にしてる。

「だ、だれが、バカシンジなんかをっ!」

「赤くなってやんの。碇がやっぱり好きなんだよなーーっ!」

「バカシンジみてると、イライラするからよっ! 変なこと言うんじゃないわよっ!」

「イライラするんなら、ほっとけばいいじゃないかっ!
  これみよがしにちょっかい出してる癖にっ!」

アスカがケンスケに押されてる。
こんなアスカを見るの始めてだ・・・。

「もうっ! こんな汚い靴なんか、いらないわよっ!!!!」

アスカは靴をぼくに投げつけて、どこかへ走っていっちゃった。
それより、ケンスケもいきなりとんでもないこと言うよなぁ。
ぼくの方がびっくりするじゃないか。

<通学路>

トウジやケンスケと途中まで一緒に下校してたけど、今は1人だ。
2人ともさっきの分かれ道で曲がってしまった。

さぁ、早く帰って昨日レンタルしてきたSDVDをダビングしなくちゃ。

ガツン。

「いったーーーーーっ!!!」

後頭部が痛い・・・。
振り返ると、そこにはカバンで頭をつついている嫌な奴がいた。
アスカだっ!

「なんだよ。いきなり。」

「アンタのせいで、相田に変なこと言われちゃったじゃないのよっ!」

「アスカがぼくの靴を取ったからだろ?」

「それくらいで、あんなこと言われたらたまんないわよっ! このバカシンジっ!」

アスカが、カバンを大きく振りかぶってる。

「うわっ!」

ぼくもバカじゃない。
咄嗟にそれをしゃがんでよける。

ブンッ!

空振りしたアスカは、バランスを崩して道ばたの溝に足を落としちゃった。

「いったーーーーーーーいっ!!!!」

丁度、脛をコンクリートで擦ったんだろう。ひどい傷だ。

「いたーーいっ! 痛いじゃないのよっ! どうしてよけるのよっ! いたーーいっ!」

「どうしてって・・。誰でもよけるよ。」

「どうしてくれんのよっ! 怪我しちゃったじゃないのよっ! 」

「アスカがいけなんだろっ!」

でも・・・痛そうだなぁ。

「ぼくの家、すぐそこだから手当していく?」

「え?」

「なに?」

「そ、そ、それくらい当然よっ! さっさと連れて行きなさいよねっ!」

「うん。」

ぼくは、アスカと一緒に家へ帰った。

<シンジの家>

アスカにリビングのソファーに座って貰って、救急箱を持ってきた。
うちに女の子を入れたのって、これが初めてだなぁ。

「はい。消毒液と包帯。」

「なによ。」

「え? だから、これで・・・。」

「アンタのせいでこうなったんだから、アンタが手当しなさいよっ!」

「え・・・・。だって。」

「早くしなさいよ。」

「うん・・・。」

足・・・触ってもいいのかなぁ。
ぼくは、余計な所を触らない様に消毒して包帯を巻いた。

「終わったよ?」

「え?」

「終わったけど?」

「そ、そうね・・・。じょ、上出来じゃないっ!」

どうして顔を背けるんだよ・・・。
なんだか、気まずいじゃないか・・・。

「じゃ、ちょっとカバン置いてくるから待ってて。」

なんとなく、その場にいづらかったから、2階の自分の部屋に行くことにした。
時間割は後でいいや。

「へぇ、広い部屋じゃない。」

「わっ!」

いつの間に、上がってきたんだよっ!
足が痛かったんじゃないのかよっ!

「あっ! あれっ!」

「何?」

アスカ、何か見つけたみたいだ。
もぅ! 部屋にズカズカ入って来ないでよ。
恥ずかしいじゃないか。

「アンタ? 洋楽とか好きなの?」

「うん。」

「あっ! アタシこれ持ってる。あっ! これもっ!」

「アスカも、こういうの聞くの?」

「あったりまえじゃん。あっ! これ持って無いのよねぇ。SDVD余ってる?」

「あるけど。」

「ダビングしてよ。」

「いいけど、時間かかるよ。」

「まだ、そんなに遅くないから、いいわよ。」

「うん、わかった。」

ぼくは、言われたアルバムを取り出すとSDVDにダビングを始めた。
2倍速でダビングしても、30分以上かかるんだよなぁ。

「時間かかるから、何か飲み物でも持ってこようか?」

「うん。」

ぼくも喉が乾いたし丁度いいや。
確か、冷蔵庫にコーラがあったよなぁ。

「あんまり部屋の中、見ないでよっ!」

「えっちな本とか、隠してるんでしょ?」

「そんなの無いよっ!」

「じゃ、いいじゃん。」

「やめてよ。」

「うそうそ、そんなことしないから、飲み物頂戴よ。喉乾いちゃった。」

「本当だよ?」

急いで取ってこよっと。
アスカは何するか、わかんないもんなぁ。
ぼくは、急いでコーラをコップに入れて持って来た。

「はい、コーラ。」

「ありがとう。喉カラカラだったのよねぇ。」

あーーっ。おいしい。
喉が乾いた時には、コーラは一番だよなぁ。

「男の子の部屋ってこんなんなんだぁ。初めて入ったわ。もっと汚いと思ってた。」

「ぼくも、女の子入れたのなんて始めてだよ。」

「アンタなんかの部屋に入りたがる娘なんて、いないわよ。」

「なんだよ。それ。」

ムカつくなぁ。
ん? なんか、アスカ嬉そうにしてないか?

あっ、ダビングが終わった。

「終わったよ。」

「え?」

「ダビング・・・。」

「そ、そうね。」

「うん。」

「・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・。」

「それじゃ・・・帰るね・・・。」

「うん・・・。」

「・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・。」

「帰るんじゃないの?」

「帰るわよっ!」

玄関までくらい、送りに行かなくちゃ。

<学校>

翌日、ぼくが学校に行って席に座ったら、もうアスカは座ってた。

「ねぇ、シンジ。」

「なに?」

「このアルバム、持ってなかったでしょ?」

アルバム?
何? そのSDVD・・・。
あっ! ぼくが欲しかったやつだっ!

「これ欲しかったんだ。」

「でしょうね。このアーティストで、これだけ無かったんだもん。」

「うん、ありがとう。」

「昨日、SDVD1枚貰ったから、これで返すわ。」

「ありがとう。」

「それからねぇ、これ。」

何この紙?
なんか、アルバムやシングルの名前がいっぱい書いてあるけど。

「アタシがもってるSDVDのリストよ。欲しいのあったら、ダビングしてあげるわ。」

「え? 本当? いいの?」

「その代わり、アンタがレンタルしたの、ダビングしてよ。」

「うん。するよ。するする。」

「そしたら、レンタル代も半分で済むでしょ?」

「そうだね。」

その後、ぼくとアスカは、いろいろな洋楽のロックアーティストのことで盛り上がった。
あの嫌なアスカと、こんなに楽しく話ができたのは始めてだ。

                        :
                        :
                        :

次の日、ぼくはダビングさせてもらったSDVDを持って学校へ行った。

「これ、ありがとう。ダビングさせて貰ったよ。」

「いいって、いいって。それよりさ、これ見てみなさいよ。」

「なに? あっ、昨日発売の洋楽雑誌じゃないか?」

「昨日、偶然本屋さんに寄ったらあったのよ。買ってきちゃった。」

「いいなぁ。ぼくもお小遣い貰ったら、買わなくちゃ。」

「見せてあげましょっか。」

「いいの?」

「ええ。貸してあげるわ。」

「だって、昨日買ったとこなんだろ?」

「あっ! いいのいいの。アタシはもう読み終わったから。」

「もう? 全部?」

「そ、そうよ。」

「じゃ、貸してもらうよ。ありがとう。」

あっ。授業開始のチャイムだ。
先生に見つかったら、取り上げられるから本をしまわなくちゃ。
1時間目は英語かぁ。やだなぁ。

                        :
                        :
                        :

「はい、次、碇くん。」

えーっ、なんでこんな難しい問題を当てるんだよー。
わからないよー。
えーっと、これが前置詞だから・・・えっと・・・。

「シンジ? はい。」

え?
ぼくは目を疑った。あのアスカが親切に答えをノートに書いて見せてくれてる。
なんか、昨日からイメージが違うし、どうかしたのかなぁ?

                        :
                        :
                        :

やっと昼休みだ。
お腹減ったぁ。

「シンジ?」

「え?」

「あのさ、さっきの雑誌でね・・・。」

「なに?」

「アーティストのプレゼント付きクロスワードパズルがあるのよ。」

「あぁ、毎月やってるね。」

「今月の商品、欲しいのよね。」

「今月のって・・・毎月一緒だよ?」

「え・・・。あっ、だから、とにかく欲しいのよ。」

「ふーん。」

「一緒に考えてくれないかしら?」

「いいけど。」

トウジ達と一緒にお弁当食べてるんだけどなぁ。
たまには、自分の席で食べてもいいか・・・。

「でね。ここまでやったんだけど、残りがわからないのよ。」

「あぁ、これなら簡単だよ。ん? でも、こっちは誰の名前を入れたらいいんだろう?」

「でしょ? 難しいでしょ?」

ぼくは、その昼休みお弁当をアスカと一緒に食べながら、クロスワードパズルを考え続
けた。

                        :
                        :
                        :

「あーーっ、チャイムがなっちゃったよ。」

「思ったより難しいでしょ?」

「すぐにできると思ったんだけどなぁ。やっぱり、商品がいいから難しいんだ。」

「ねぇ、この商品どうしても欲しいから、明日もお昼一緒に考えてよ。」

「うん・・・いいけど・・・。」

<シンジの家>

近頃、アスカはぼくをいじめることはなくなった。
その代わりに、洋楽のアーティストのことでよく話をする。

「ねぇ、シンジ。ダビング終わった?」

「もうちょっと。」

「早くしてよね。その後、アタシがレンタルしたやつ、2枚もダビングしなくちゃいけ
  ないんだから。」

お互いにSDVDの交換をするようになった最初の頃は、学校でやりとりをしていたが、
最近、アスカはぼくの家に来ることが多くなった。

少し前まで、あんなに嫌だと思っていたアスカなのに、今ではアスカが家に来る日が楽
しみに思える。















                        ●
















「うーーーん。」

何時かしら? ん? 10時半?
昨日遅くまで、音楽聞いてたから寝過ぎちゃったわ・・・。
日曜だし、いっか。

アタシは、昨日シンジにダビングして貰ったアルバムを、聞きながら着替え始めたの。

「よっと。」

はぁ・・・今日は何しようかなぁ。
シンジの所に行きたいなぁ。

でも、毎日ダビングしに行くのも変よねぇ。
それに、シンジの好きそうなアルバム、全部ダビっちゃったしなぁ。
新しいアルバム、仕入れに行こうかしら?

<レンタルショップ>

「いらっしゃいませ。」

小遣い、まだあったかなぁ。
ん? うん、まだ大丈夫ね。

えっと・・・シンジの好きそうなので、まだ持って無かったのは・・・。
うーん、もうほとんど揃ってるからなぁ。

これも、ダビってあげたしねぇ。
これも、こないだ借りたしぃ・・。

はぁ・・・もうレンタルするの無いわよぉぉ。

ん?

あっ! 新しいアルバムが入ってるじゃないっ! 
これよっ! これよっ!

「あっ!」

そのアルバムに手を掛けた時、同じアルバムに手を伸ばしてきた人がいたの。
これはアタシが借りるのよっ!

「あっ、アスカじゃないか。」

「え? あっ! シンジっ。」

「さすがだね。今日、NEWアルバムが入ること、アスカも調べてたんだ。」

「え? も、もちろんよ。」

「ぼくが借りるから、ダビングしてあげるよ。」

「そ、そう。わかったわ。」

まさか、ここでシンジに会えるとは思わなかったわ。
退屈だった日曜日が、急に楽しくなってきちゃった。

「じゃ、今からアタシもシンジの家に行っていい?」

「うーん・・・。今からちょっと用事があるんだ。」

「えっ!」

なーんだ・・・がっかり・・・。
用事があるのかぁ。

「どっか行くの?」

「うん、大したことじゃないんだけどね。天気もいいから、街を歩ぶらぶらと遊びに行
  こうかなって。」

「1人で?」

「うん、急に思い立ったから、誰も誘ってないんだ。」

アタシも一緒に行きたい・・・。

「へぇ。アタシも、今日店でも見て回ろうかと思ってたんだけど・・・。」

ちょっと上目遣いで、シンジに訴え掛けてみる。
でも、こいつ鈍いからなぁ・・・。

「そうなの? どこ?」

何処って言われても・・・。
アンタ、何処に行くつもりなのよぉ。

「アタシは、何処でもいいんだけどね。」

「ぼくは、第3新東京デパートの辺りに行こうかと思ってるんだ。」

「アタシもそこでいいっ!」

「え?」

しまった・・・。つい口が・・・。

「一緒に行く?」

やったーーーっ!
行く行く行くーーぅ。

「どうせ、アタシも1人だから、いいわよ。」

やったーーーっ!

<電車>

もうっ! ヘッドホンステレオなんかつけるんじゃないわよっ!
せっかく、お喋りしようと思ってたのに。
それより、デートってわかってたらもっと可愛い服着て来れば良かったなぁ。
GパンにTシャツにスニーカーじゃねぇ・・・とほほほ・・・。

「ねぇ、何聞いてるの?」

「・・・。」

「むーーーっ!」

イヤホン取ってやれっ!

「わっ! 急に取らないでよ。びっくりしたなぁ。」

「1つ貸してよっ!」

「いいけど。」

「何聞いてるの?」

「さっき借りたやつだよ。」

「ふーん。ちょ、ちょっと、届かないわよっ!」

「こっちのイヤホンも貸そうか?」

「あっ、いい。1つでいいわ。一緒に聞きましょ。」

コードが届かないんだから、仕方ないわよっ!
くっついちゃえっ!

「ア、アスカ?」

もう、何おどおどしてんのよ。ちょっと、くっついただけじゃないのよっ!

「これくらい寄らないと、届かないのよ。」

「う、うん・・・。」

<繁華街>

「すごい人だね。」

「日曜なんてこんなものよ。」

「どこ行くの?」

「えっと・・・シンジは何処行くつもりだったの?」

「ぼくは、別に目的地なんか無かったから・・・。」

「じゃぁさぁ、ゲームセンターとかは?」

「いいけど、ゲームするの?」

「UFOキャッチャーとかね。」

「そうなんだ、ちょっと寄ってみようか。」

「うん。」

みんな腕組んでる。
ダメよね・・・いきなりそんなことしたら・・・変に思われるわよね。

それにしても、すごい人ねぇ。
歩くだけでも大変だわこりゃ。

「ねぇ、アスカ?」

「なに?」

「今度のアルバムどう思った?」

「うん、前のよりギターが弱かったかなぁ。」

「仕方ないよ。今回から、ギターが1人になっちゃったから。」

「あっ、やっぱり? アタシはツインギターの方が良かったなぁ。」

「だろ? ぼくも、そう思うよ。」

あーーぁ。
シンジと話をする時って、音楽のことばっかり。
仕方無いけどねぇ。
もっと普通の話もしたいなぁ。

<ゲームセンター>

「ここでいいかな?」

「いいわよ。」

「あっ! ダンスレボリューション スペシャルだっ! へぇ、もう入ったんだ。」

「できるの?」

「うん、好きなんだ。」

「ねぇ、やってみせてよ。」

「うん。」

うわーー。うまーい。ちょっと、意外かも・・・。
アタシもやってみようかなぁ。
でも、やったことないから、恥ずかしいわねぇ。

「はぁ、疲れたぁ。」

「結構やるじゃない。」

「いつもやってるからね。アスカもやってみる?」

「アタシ? やったことないから。」

「一番簡単なのでやったらいいじゃない。ぼくも、横でやるからさ。」

「うん・・・じゃ。」

どこが簡単なのよーー。難しいじゃない。
うぅぅ・・・このアタシともあろう者が、これくらいで・・・。
スポーツ万能のこのアタシが、シンジに負けたとあっては、示しがつかないわっ!

                        :
                        :
                        :

ふぅ・・・終わった・・・疲れたぁぁぁ。
ん?
えーーーっ! ランクC?
悔しーーっ!

「結構上手いじゃない。」

「どういう意味よっ! ちょっと、自分がSランクだからってっ!」

「初めてだろ? すごいよ。」

「アンタっ! どれくらい練習したの?」

「ぼくは、結構やってるよ。このバージョンは初めてだけどね。」

「アタシも、練習しないとダメね・・・。アンタに負ける様じゃおしまいだわ。」

「ははは・・・。でも、アスカならすぐに上手くなるよ。」

「じゃ、来週も練習付き合ってよっ!」

「来週も?」

「練習しなくちゃ。」

「いいけど・・・。」

「決まりねっ!」

来週も約束ぅっ! うーん、いい感じかもねぇー。

                        :
                        :
                        :

「そろそろ行こうか。」

「そうね。喉乾いちゃった。」

「じゃ、ファーストフードショップでも行く?」

「それでいいわ。」

<繁華街>

うわぁぁぁ。なんか、また人が増えてるわよ。

「あっ!」

もっ! アタシの行くところ邪魔すんじゃないわよっ!
シンジとはぐれちゃうじゃないのよっ!

「シンジっ! ちょっと待ってっ!」

「なにしてんだよ!?」

「人が多くて付いて行けないのよっ!」

「すごい人だからねぇ。」

「はぐれちゃうから、手引っぱってよ。」

駄目・・・かしら?

「い、いいけど・・・。」

アタシは、シンジに手を引っ張って貰いながら歩いたの。
なんか、シンジも緊張してるみたいだけど、もうアタシの心臓バクバクよ?
でも、ここまできたら、調子に乗っちゃうんだからぁ!
もっと寄っちゃえっ!
人が多いんだから、仕方ないわよねっ!

<ファーストフードショップ>

「何か食べる?」

「じゃ、ナゲットにしようかな。 それと、コーラ。」

「ハンバーガーは?」

ハンバーガーって、口を大きく開けないといけないから、恥ずかしいのよねぇ。

「ナゲットでいい。半分あげるわ。」

「じゃ、そうしようか。」

アタシ達は、注文した物を受け取ると奥の席に座ったの。

「はぁ、疲れたねぇ。やっと落ち着いたよ。」

「これじゃ、歩くだけで大変だもんねぇ。」

「アスカってさぁ、ユーロビートとかは聞かないの?」

えーーーっ! また音楽の話ぃ!?

「聞かないことないけど、あまり詳しくないかも・・・。」

「ロックとはちょっと違うけど、結構いいよ。」

「ふーん、今度聞いてみようかな。」

「うん、またお勧め教えてあげるよ。」

はぁ・・・。
もっと、普通の話がしたいなぁ。
アタシ達って、音楽だけの繋がりだもんねぇ・・・はぁ・・・。

「ねぇ、鈴原や相田とかとも音楽の話するの?」

「あの2人は洋楽聞かないから、あまりしないなぁ。洋楽聞くのってアスカだけだもん。」

そう言われると、ちょっと嬉しいかも・・・。
でも、シンジほどべったり洋楽にはまってたってわけじゃないのよねぇ。正直なとこ。
最近、シンジのおかげで大分詳しくなってきたけど・・・。

「じゃぁ、いつも鈴原とかと、どんな話してんの?」

「社会の先生って、香水臭いなぁ・・・とか。」

「あははははは。それは、言えてるわっ!」

「だろ? 横通る度に、臭うんだよ。」

「あれは、つけすぎよねぇ。化粧も濃いし。」

「ほんとだよ。いい迷惑だよ。」

あーー、なんか普通の会話・・・。
やっぱり、こういうのがいいなぁ。

<繁華街>

「もう夕方だし、帰ろうか。」

「そう・・・。」

そっか・・・、もうそんな時間かぁ。
楽しかったなぁ。
もっと、長く遊びたかったけどねぇ。
また、来週来れるからいっか。

「今日借りたアルバムダビングしとこうか?」

「あっ、いい。明日アンタん家行くから。」

「そう?」

「うん。」

もうすぐ駅かぁ。
駅についたら、もう手引っぱってくれないわよねぇ。
当たり前か・・・。

<電車>

ん・・・。
あっ・・・アタシいつの間にか寝てたんだ・・・。
あれ? シンジにもたれ掛かってる・・・。

アタシは、寝た振りをしたまま薄目を開けたの。
シンジは、やっぱりヘッドホンステレオを聞いてたわ。
よっぽど好きなのね。

いいや・・・このまま寝た振りしとこう。
今、何処だろう?
まだ、時間あるのかなぁ。
もうしばらく、こうしてたいなぁ。

アタシが寝た振りをしてると、電車は駅に停まったの。後2駅あるわ。

「ようっ! 碇じゃないか。」

げっ! 男の子の声・・・。
今、乗ってきたの? 誰?

「あっ・・・ケンスケ。あはは・・ははは・・。」

「なんだ? 惣流とデートか?」

「ち、違うよっ! たまたま、会って・・・」

「本当か?」

「本当だよっ!」

「でも最近、惣流と仲いいじゃないか。」

「そんなことないよ。」

「いいじゃないか。惣流って碇のこと好きみたいだしさ。」

なんてこと言うのよっ!
明日、死刑にしてくれるわっ!

「そんなわけないだろ。」

「おまえ、惣流のこと嫌いなのか?」

うっ!
そんなこと聞かないでよっ!
緊張しちゃうじゃないっ!

「いや・・・その・・・。」

「ま、俺はどっちでもいいけどさ。」

「・・・・・・。」

「でも普通さ、好きでもない男子にもたれて寝たりしないんじゃないか?」

「・・・・・・。」

「じゃ惣流が起きる前に、俺は隣の車両に行くよ。じゃな。」

「あっ、うん・・・。」

相田の奴ぅ、なんで余計なことばっかり言うのよっ!
シンジが、変に意識しちゃってるじゃないのよっ!
もーーっ! 明日は絶対許さないんだからねーーっ!

「アスカ? そろそろ着くよ?」

あっ、ばれないように、起きなくちゃ。

「んーー、あっ、いつの間にか寝ちゃってたのね。」

よしっ、完璧。
寝起き成功っ!

「降りるよ?」

「うん。」

<駅>

「あのさ・・・。」

「なに?」

「最近、どうしてぼくの家に来たりしてるの?」

う・・・。
ほら、見てみなさいっ!
相田のせいで、シンジが変なこと聞いてきたじゃないのよっ!

「それは・・・」

「ダビングがしたいから?」

「え? ま、まぁ、アンタと話してると楽しいし・・・。」

「そう・・・。」

「・・・・・。」

「・・・・・。」

あーーー、気まずい雰囲気だよぉ。
相田の奴めぇ。

「ねぇ、シンジ。アンタ、好きな娘とかいるの?」

「えっ? べ、べつに・・・。」

「それって、変じゃない?」

「どうしてさ?」

「だって、14にもなって、好きな子もいなかったら変よ。」

ほらっ! 振ってあげてるんだから、なんとかしなさいよっ!

「そうかな・・・。」

「変よっ!」

「じゃ、アスカはどうなのさ。」

うっ・・・そうくるか・・。
まいったわねぇ。

「アタシは・・・そうねぇ、好きになるなら、音楽が好きな人がいいな。」

どうだっ! これでわかったかっ!

「ぼくも・・・そうかな・・・。」

えっと・・・えっと・・・どうしよう・・・。
もうっ! じれったい奴ねぇっ!

「そりゃ、アンタは音楽が好きな娘がいいでしょうねぇ。。ダビングとかして貰えるし。」

「べつに、そういうわけじゃ。」

「そう? 同じ趣味を持ってるのって、いいと思うけどなぁ。」

「そうだけど・・。まるで、ぼく達みたいだね・・・ははははは・・・はは。」

ちょ、ちょっと・・・いきなり・・・。
どうしよう。・・・。ここが肝心よね。
えっと、えっと・・・。

「そうよねぇー。もし、シンジと付き合ったら、便利よねぇ。」

「・・・・・・。」

ちょっとっ!
どうして、そこで黙るのよっ!
まずいこと言っちゃったかしら?
どうしよう・・・どうしよう・・・。

「付き合って、みようか?」

ドキッ!

「なんて・・・、はは、冗談だよ・・・ははははは。」

ドキドキッ!

「いいけど・・・。」

「え?」

「冗談なの?」

「その・・・そういうわけじゃ。」

「シンジと、話とかしてると、楽しいし・・・。」

うーーー。
断ったり、しないよね。
断らないでよ・・・。

「・・・・・・・・・・・。」

だから、どうして黙るのよーーーっ!
ねぇ、お願いだよーーーっ!
返事してよーーーっ!

「ぼくも・・・その・・・アスカのこと好きだから、いいよ。」

ドキっ!ドキっ!ドキっ! ツーーーー。

今、好きっていったわよね・・・。

好きって・・・。
好きって・・・。
好きって・・・。

ドキドキドキドキドキっ!

や、やった・・・・。

やったぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!

やったやったやったぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーっっ!!!!!!!

やっと、ここまで辿り着いたわーーっ!
もう、小躍りしたい気分よーーーっ!

やったぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!

「アスカは?」

「え? あ、うん。まぁ、アンタがそう言うんなら、彼女になってあげるわっ!」

やったぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!

よーーーーしっ!
もう、アンタはアタシのものよっ!
絶対に、離さないんだからねっ!!!

やったやったやったぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーっっ!!!!!!!

「それじゃ、そろそろ帰ろうか。」

「ちょっとぉ。なにそれ?」

せっかく、いい雰囲気なのに、帰るってどういうことよっ!!
そんなの、今日は絶対許さないんだからねっ!!

「噴水で休憩して行きましょうよ。」

「そ、そうだね。」

<噴水>

シンジと腕を組んで座ってる。
もう、堂々と組んでていいのよねぇ。
あぁ、小学校からの夢だったんだもんねぁ。嬉しいなぁ。

誰か、友達通らないかなぁ。
早く皆に言いたいなぁ。
へっへーん。アタシが祈願達成の一番乗りよーーっ!
皆に自慢してやるんだからっ!

もう、うれしいよぉっ! うれしいうれしいうれしいよーーーっ!

「ねぇ、シンジ。明日、朝迎えに来てよ。」

「え? アスカの家まで?」

「遠回りだけど、それくらい来てよ。」

「朝から一緒に行ったら、みんなに見られちゃうよ?」

それが目的じゃないのよっ!
変な虫が寄りつかない様にしなくちゃっ!

「じゃ、じゃぁさぁ、お弁当作ってあげるから。来てよっ!」

「ほんと?」

「うん。あっ! あまり上手じゃないわよ?」

「じゃ、おにぎりがいいな。」

「それくらいなら、大丈夫よっ! まっかせなさい。」

難しいリクエストじゃなくて良かったーー。
これから、特訓しなくちゃねぇ。

「あっ!」

「え? 何?」

「もう、母さん弁当の準備してるかも・・・。」

「そうなの? そっかぁ・・・。」

ちょっとがっかり・・・。

「いいや、明日はいらないって言っとくよ。」

「いいの?」

「うん。」

「それじゃ、明日からいらないって言っといてよ。」

「から?」

「明日から、ずっとお弁当作ってあげるからさ。」

「えー? そんなの悪いよ。」

「いいじゃない。小学校からの夢だったんだもん。」

「小学校? って、え?」

しまったーーーーーっ!!!!
つい、口が滑って言ってしまったぁぁぁぁっ!!!

キャーーーっ! 顔が熱いよーー。

「だって、ずっといじめてたじゃないか。つい最近まで・・・。」

「だ、だから・・・その。」

「そうか・・・。そういうことだったんだ・・・。」

「いや・・・だから、その・・・あの・・・。」

「もうちょっと、違うアプローチが良かったな・・・。」

「悪かったわね・・・。」

「もう、暗くなってきたよ。そろそろ帰ろうか。」

「そうね・・・。」

折角の記念すべき日なのに、なんだか勿体無いないなぁ。
えいっ! 抱き着いちゃえっ!

「わっ!」

「へへへ・・・少しだけ。いいじゃん。」

「う、うん・・・。」

「ずっと前から好きだったの・・・。ごめんね。」

「ぼくは・・・。ははははは。」

「何? その笑いは?」

「だって、ひどいことばっかりするんだもん。」

「へへへ・・・。ごめんね。」

あぁぁ、もうお別れかぁ。

また、明日会えるからいいわよね。朝から会えるんだもん。

「送ってくよ。」

「えーーー? 送ってくれるの?」

「うん、駄目かな?」

「そんなことないっ! 送ってっ!」

やったーーーっ!
そうだ、おうちでお茶を出してあげよっと。

<学校>

あの日から、アタシ達は毎日一緒に登校してるの。
最初は冷やかす奴もいたけどね。
フンっ! どうせ、アタシ達が羨ましいだけなんだわ。

今日も学校が終わったら、一緒に帰って宿題するの。
音楽も聴いたりするけど、もうアタシ達の間には1つのアイテムに過ぎないのよね。

あっ、昼休みのチャイムだ。お弁当出さなくちゃ。
今日はねぇ、ご飯にそぼろでハートマークを書いてきたのよ。
また、シンジ嫌がるんだろうなぁ。
ダメよ。ちゃんと食べないと。がんばって作ったんだからぁ。

「はい、シンジ。お弁当。」

お箸を出して、蓋を開けて・・・。はいっ! どうぞ。

「わっ! なんだよこれっ!」

「なんだとは何よっ! 失礼しちゃうわねーっ!」

「だって・・・。」

「あーーーっ! 隠しちゃダメっ!」

「だってぇ、いくらなんでも、恥ずかしいよ。」

「これ隠したら、明日はハートのおにぎりよっ!」

「そんな・・・。」

ん? それいいわね。
明日は、ハートのおにぎりに挑戦だっ!

という具合に、今アタシは最高に幸せなの。
もう、みんなに見せ付けてやるんだからっ!

余計なことして、ちょっかい出さなくても、音楽を理由にしなくても、もういいの。
いつでも、シンジにくっついてられるんだからねぇ。















                        ●
















はぁ・・・なんだよ、このお弁当は・・・。
いくらなんでも、やりすぎだよ。
ほらぁ、みんな見てるじゃないか。

「はい、お茶。」

「いいよ、自分で飲むから。」

「飲ませてあげてるのに、なんでそんな失礼なこと言うわけぇ?」

「わかったよ・・・。」

あの日から、ぼくとアスカは朝から晩までいつも一緒だ。
それにしても、まさかあのアスカが、こんなにべったりしてくるとは想像すらできなか
ったよ。

登下校はもちろんとして、廊下を歩く時まで腕を組んでくるし、トイレまで一緒に付い
てくるんだ。

人が見ててもおかまいなし・・・いや、人が見てると余計に、べったりしてくる。
突然抱き着いてきたりするんだ。


それでも、いつの間にか、そんなアスカが可愛いくて仕方がなくなっちゃって・・・。
何をされても、許しちゃうんだよなぁ。

もうっ!

アスカは、ぼくが恥ずかしがり屋だって知ってる癖にっ!
アスカは、ぼくが何でも許してしまうのを知ってる癖にっ!

皆の前で、べったりしてくるんだっ!

まったく・・・嫌な奴だよ・・・。ぼくの可愛い彼女は・・・。

fin.
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