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人生バラ色
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<通学路>

例によって例のごとく、アスカが寝坊した為シンジとアスカは学校に向かって通学路を
走っていた。

「もうっ! どうしてもっと早く起こさないのよっ!」

例によって例のごとく、アスカは自分の罪をシンジに擦り付けてカンカンになって文句
を言う。

「起こしたのに、起きなかったんじゃないかっ。」

「起こすっていうのは、アタシがちゃんと目を覚ましたのを確認して、始めて起こした
  ってことになるのよっ!」

「部屋に入ったら怒る癖に・・・。」

「なんですってぇぇぇっ!!」

「いや・・・その・・・。」

折角のシンジの好意に対してこんなことをしていては、アスカも愛想が尽かされそうな
ものだが、所詮シンジは自分以外の娘に興味は無いんだという、根拠の無い安心感から
アスカは好き放題していた。

<学校>

シンジとアスカが教室の扉を開けると、こちらもよく見かける別のペアの夫婦喧嘩の真
っ最中だった。

「鈴原っ! 週番なんだから、もっと早く学校に来なさいよっ!」

「ほないなこと言うても、忘れとったんや。しょうがないがな。」

「週番が嫌だから、わざと忘れたんでしょっ!」

「ちゃうがなっ〜。勘弁してーな。ほんまに忘れとったんやがな。」

「ヒカリおはよーーー。」

「あっ、アスカ。おはよ。」

「どうしたの?」

アスカの登場によって、ヒカリはそれ以上トウジを問いつめるのを止めると、大人しく
2人で席につ着いた。

「ふぅ。シンジのおかげで助かったわ。」

「今日は、一段と凄かったね。」

シンジとトウジも、怖い鬼嫁からそそくさと逃れて自分の達の席に付き、文句たらたら
会話をしている。

「女やったら、もうちょっとおとなしゅーなったらええのに。」

「ぼくだって、朝から怒られっぱなしで酷い目にあったよ。ぐうたらのミサトさんが、
  最近仕事で帰ってこれないから、ちょっとは楽だけど。」

「ほうか? ワイは、ミサトさんみたいな女の人がええわぁ。」

「そうかなぁ。トウジは家でのミサトさんを知らないから、そんなことが言えるんだよ。」

そんな2人の他愛の無い会話を授業開始のチャイムが遮り、担任の老教師が朝のホーム
ルームにやってくる。

「えーー、今日は転校生を紹介します。」

ザワザワザワ。

昨日まで転校生の話など一切聞いていなかったクラスの生徒達は、当然のこと如くざわ
つき始める。

「入って下さい。」

老教師に招かれて入ってきたのは、黒髪の大人しそうなめちゃくちゃかわいい女の子だ
った。

「うぉぉぉぉぉぉーーーーっ!!!」

アスカが転校してきた時と同じくらいの衝撃をうける男子生徒達。あの時は、トウジと
ケンスケが嫌な顔をしていたが、今回は真っ先にトウジが唸り声を上げた。この上無い
程の好みの女の子である。

か・・・かわいい・・・。

シンジですらかなりの衝撃を受けた様で、顔を赤くしてぼーーーーっとその転校生をじ
っと見つめている。

シ、シンジっ! 何見てるのよっ!!
まずいわねぇ・・・。あの娘、シンジのもろ好みっぽいし・・・。
確かに・・・。その・・・か、かわいいし・・・ア、アタシ程じゃないけど・・・。

嫉妬心メラメラのアスカは、かなりの危機感を覚えながらシンジ睨みつける。アスカの
目から見ても、転校してきた女の子はかわいらしかったのだ。

「じゃ、自己紹介をしてくれるかな。」

「はい。葛城ミサトです。」

転校生は、ぺこりとお辞儀をして丁寧に自己紹介をする。その挨拶を聞いて、目を点に
した者が数名。

「は?」

「へ?」

「なに?」

クラスメートの中で、シンジの家庭の事情を知る生徒の全てが、きょとんとした顔をし
た。当然最も呆気にとられたのは、他でも無いシンジとアスカである。

「えーー、詳しい事情はわかりませんが、なんでもネルフの実験中に14歳になられた
  とか・・・なんとか。とにかく、そういうことです。」

リツコから説明を聞いた老教師だったが、言っていることがチンプンカンプンで理解で
きなかった為、それ以上の説明ができずミサトに席だけ教えると、そそくさと教室を出
て行ってしまった。

「ちょっと! ミサトっ!!」

「ミサトさんっ! どういうことですかっ!!」

即座にミサトの周りに駆け寄ったのは、やはりシンジとアスカだった。先程の老教師の
説明だけでもだいたいの事情は想像できた物の、大慌てである。

「はい? あなた達は?」

「あなた達って・・・ミ、ミサトさん。何言ってるんですか?」

「まさか・・・記憶まで14歳の頃に・・・。まいったわねぇ。」

そんなミサトの様子を見て、愕然とするアスカ。保護者が14歳になってしまっては、
これから自分達はどうすればいいというのか。いや、その前に今後のネルフの作戦指揮
は誰がとるのか・・・。

「アタシは、惣流・アスカ・ラングレー! んで、こいつは碇シンジっ! アタシ達が、
  アンタの同居人よっ!」

「あなたが・・・碇シンジくんね。リツコさんから聞いてるわ、困ったことがあったら
  相談しなさいって。よろしくね。」

ミサトのガサツさは大学時代以降の後天的な物で、14歳の頃と言えば大人しい少女だ
ったのだ。そんな少女がにこりと微笑んで握手を求めてくる。

「ミ、ミサトさん・・・。」

思わずポっと赤くなったシンジが、おずおずと片手を差し出すとミサトと固く握手を交
わした。

ムーーーーーっ!!

ぎょっとした顔で睨み付けるアスカ。今まで年が離れていたので意識すらしていなかっ
たが、ミサトもれっきとした女性なのだ。14歳になってしまったら、シンジを取られ
かねない。

「ミサトさん、学校の事とかよくわからないだろうから。後で案内するよ。」

「ありがとう。」

「そんなら、ワイも行くで。なぁシンジっ! 友達やろ?」

「え、あぁ、うん。みんなで行こうよ。」

「よっしゃ決まりやっ!」

な、なによーーー! あのシンジの態度はっ!
キーーー! アタシが転校してきた時も、あんな言葉掛けてくれなかった癖にーーっ!
よりによって、ミサトなんかにぃぃぃーーー!!!

その頃時を同じくして、ヒカリもイライラしていた。トウジがミサト、ミサトといつも
言っているのは知っている。しかし、今までは、所詮は大人のミサトには相手にされな
いだろうとタカをくくっていたのだが、状況が変わったのだ。

困ったわね・・・ミサトさんが・・・14歳なんかになっちゃったら・・・。
鈴原を取られかねないわ・・・。

ミサトに対してライバル意識をメラメラと燃え上がらせるヒカリは、今後の対策を考え
るのだった。

                        :
                        :
                        :

昼休みになり、皆が昼食を食べ始め様とする頃、ミサトは勝手がわからずおどおどとし
ていた。

「ミサトさん、お弁当はどうしたの?」

「え? 今日はリツコさんの家から来たから、お弁当が無くて・・・。」

「それじゃ、ぼくのを食べると・・・。」

シンジが自分の弁当を差し出しながらそこまで言った時、間髪入れず後ろからアスカが
突っ込んできた。

「ミサトっ! お弁当無いでしょっ? アタシのをあげるわっ!」

「え? いいの? アスカさん?」

「いいのいいの。同居人のよしみじゃない。」

「え? でも、アスカ。いつもお弁当が無かったらパンは嫌だって怒るじゃないか。」

「アンタっ! ミサトがこんな状態の時に、そんな事言ってられないでしょうっ! その
  代わりアンタの弁当を、半分よこしなさいよねっ!」

シンジの弁当を渡してたまるもんですかっ!!!

「いいけど・・・。それじゃ少ないよ。」

「だから、足らない分はパンを買いに行けばいいのよ。」

「うん・・・そうだね。」

アスカはシンジをミサトから即座に引き離すと、シンジの腕をむんずと掴んで購買へと
さっさと連れ出して行った。

「ミサトさーん、何か困ったことがあったら、ワイになんでも相談してや。」

シンジ達がいなくなったと思ったら、次はトウジとケンスケがミサトの周りに群がって
来る。

「ありがとう。」

にこっと微笑み返すミサトに、ぽーーーっと舞い上がるトウジとケンスケ。そんな様子
をジロリと睨み付けている視線があった。

「すーーずーーはーーらーー。」

「なんや? 委員長。」

「ミサトさんは、食事中なんだから、邪魔しちゃダメでしょうっ!」

「ワイはやなあぁ。親切心で言うとるだけやがなっ!」

「そういうことは委員長のわたしがやるから、鈴原は余計なことしなくてもいいのっ!
  ねぇ、ミサトさん一緒にお弁当食べましょうか?」

トウジとケンスケを追い払ったヒカリは、ミサトの前に自分の弁当を持って近寄って行
く。

「あなたは?」

「わたし? 委員長をやってる洞木ヒカリよ。よろしくね。」

「洞木さんね。よろしく。」

トウジを監視する意味も含めて、ヒカリがミサトと一緒に弁当を食べ始めた頃、パンを
買いに行ったシンジとアスカが教室へ戻って来た。

「焼きそばパン、1つしか無かったわねぇ。」

「焼きそばパンは、人気があるからね。」

「じゃ、この焼きそばパン。シンジにあげるから、そっちのサンドイッチくれる?」

「え? いつも、パンを買ったら焼きそばパンは絶対に譲らないのに。」

「いいのいいの。食べたかったんでしょ?」

アスカもヒカリと同様に、かなりの焦りを感じていた。しかし、敵はあのミサトである
為、対応が難しい。そこでポジティブ思考のアスカは、自分の良さをアプローチする作
戦に出ることにしたのだ。

「それじゃお弁当、半分頂戴ね。」

「うん、いいけど。」

ちらりとアスカがミサトの方を伺うと、ヒカリがしっかり監視してくれていたので自分
はその好意に甘んじることにした。

「ヒカリーー、ミサトのこと宜しくねぇ。」

そういいながら、シンジの席で2人仲良く弁当を食べ始めるアスカ。

あーーーっ! アスカ。ひどーーーい。

そのアスカの行動を見たヒカリは、なんとなく自分が貧乏籤を引いてしまったと思った
が、ミサトから離れるわけにも行かないので、その昼休みはずっとミサトと過ごしたの
だった。

<通学路>

学校も終わり、シンジとアスカそしてミサトは、ミサトのマンションへ向かって下校し
ていた。

「ねぇ、ミサト。自分の家も覚えて無いの?」

「うん・・・何も・・・。わたしが29歳だったって聞かされたけど、ピンとこないし・・・。」

「ふーーん。困ったものねぇ。」

「ごめんなさい。」

「アスカ、やめろよ。ミサトさん困ってるじゃないか。」

ムムムムム・・・。

何かと言うとミサトをかばいだてするシンジのことが気に入らないが、アプローチ作戦
続行中のアスカとしては、ここは我慢のしどころである。

「家事はミサトが14歳になっても、何も困らないけど。保護者の問題があるわねぇ。」

「あっ! アスカ・・・。それなんだけど。」

「何よ?」

「ぼく・・・できればリツコさんは嫌だなぁ・・・って・・・。」

「あぁーーーーーーーっ! そんな事言うんだぁ!!」

「なんだよ。」

「いーけないんだぁぁっ! シンジがリツコが嫌だって、言ってたって言いつけてやろ
  ぉーー!」

「や、やめてよっ!! お願いだから、そんなこと言わないでよっ!!」

「嘘嘘。アタシもちょっとリツコはねぇ。まだ、マヤの方がいいかな。ちょっと真面目
  そうだから固そうだけど、リツコに比べたらねぇ。」

「マヤさんかぁ。」

ぽつりと一言漏らしたシンジの方をぎょっとして振り返ると、ぼーーっと何か想像して
いる様な姿が見えた。

そういや、マヤってコイツの好きそうなタイプよねぇ・・・。

少しマヤはまずいかと思うアスカだったが、シンジ以外の男と暮すのは嫌だったし、他
にこれという女性は見当たらないので、マヤに保護者役を願い出ることにした。

<ミサトのマンション>

シンジとアスカ,そしてミサトが家に帰り着くと、ミサトは玄関でもじもじしており、
なかなか家に入ろうとしない。

「どうしたの? ミサトさん?」

「あの・・・。おじゃまします。」

その言葉を聞いたシンジは、遠慮しているミサトの顔を見てプッと吹き出した。

「ミサトさん? ここは、ミサトさんの家なんですよ。」

少し笑いをこらえながら言ったシンジのその言葉を聞いて、ハッとするミサト。

「た、ただいま。」

「おかえりなさい。」

シンジは内心大笑いしながら、ミサトを家の中に招き入れた。

「ここがぼくの部屋で、ここがアスカの部屋。そしてここがミサトさんの部屋です。」

教えられて自分の部屋を開けたミサトは、泣きそうな顔で愕然とする。ミサトにしてみ
れば、どうして自分だけこんな汚い部屋を押しつけられたのかと思ったのだろう。

「どうしたんですか? ミサトさん?」

「ここが、わたしの部屋なの?」

「そうですけど・・・。」

「まったくぅ。自業自得だけど、これじゃ可哀想よ。みんなで片付けましょ。」

珍しくアスカが率先して、部屋の片付けを申し出る。シンジもようやくミサトが悲しそ
うな顔になった理由がわかって掃除を手伝うことにした。

「まったく、よくもまぁ、これだけ部屋にゴミを溜めれたものねぇ。」

「ごめんなさい・・・。」

そんなアスカの言葉に、申し訳なさそうにするミサト。この様子からすると、これから
は部屋を綺麗に使いそうである。

「ア、アスカ・・・あの・・・。」

シンジも片付け出したのだが、至る所から小さなパンツやでっかいブラが出てきてしま
うので、手を出せずに赤くなっていた。

「もうっ! わかったわよ。アンタはご飯の支度でもしてなさい。」

「うん・・・。」

顔を赤くしてシンジが部屋を出ていった後、アスカは部屋を隅から隅まで精力的に片付
けて行き、出てくるラベンダーの香水や化粧品などは、全て戦利品となっていった。

ピンポーーーン。

しばらくして、チャイムが鳴る。食事の支度をしていたシンジが玄関に出ていくと、そ
こにはマヤが立っていた。

「あら? シンジ君。突然アスカちゃんから電話が掛かってきてびっくりしたわよ。先
  輩にも許可貰ったから、今日から宜しくね。」

アスカに保護者役を願い出られたマヤは、早速リツコに許可を取って荷物をまとめて引
っ越してきた様だ。

「こちらこそ、よろしくお願いします。今ご飯作ってる途中だったんですよ。」

そう言いながら家の中へマヤを招き入れるシンジだったが、リビングに入って重要なこ
とに気がついた。

「ア、アスカ? マヤさんが来たけど。」

「あら、そう?」

ミサトの部屋の掃除をしていたアスカは、シンジの言葉を聞きパタパタとリビングへと
出てくる。

「あの・・・でも、マヤさんの部屋が・・・。」

「そんなの、アンタの部屋を使ったらいいじゃん。」

「えーーーっ!!!!」

「ここは、ミサトの家なんだから、ミサトの部屋を取るわけに行かないでしょっ!」

「そうだけど・・・。」

「それに、保護者をお願いしたマヤに、部屋の1つも無いんじゃ悪いわよ。」

「そうだけど・・・。それじゃぼくの物は、何処に置けばいいのさ。」

「アンタの物くらい、アタシの部屋に置いてあげるわよ。布団はリビングに敷けば問題
  無いでしょ。」

「うん・・・。」

「じゃ、それでいいわね。」

「うん。」

シンジの荷物をアタシの部屋に置いておけば、なにかと都合がいいからねぇ。

「それじゃ、ご飯の支度の続きをしますね。マヤさんの分も用意しないと。」

部屋が無くなることが決定したシンジは、気を取り直してキッチンへ向かおうとするが、
マヤがそれを制して先にキッチンに立とうとする。

「あっ! いいわよ。私がやるから。シンジ君は勉強でもしてて。」

「でも・・・。悪いですよ。」

「何言ってるのよ。私は保護者なんだから、食事の支度とか家事は私がちゃんとします。
  シンジ君は何も気にしなくていいのよ。」

保護者なんだから〜〜保護者なんだから〜〜保護者なんだから〜〜保護者なんだから〜〜。
シンジ君は何も気にしなくていいのよ〜〜シンジ君は何も気にしなくていいのよ〜〜。

マヤの言葉がシンジの頭の中でリフレーンする。ここにきて、初めてまともな保護者に
出会えた感動であった。

「マヤさんを、お嫁さんにする人は幸せですね。」

「もうっ! シンジ君ったら、何言ってるのよ。」

手をぱたぱたさせて恥ずかしがるマヤと、自分の言ったことを理解してポリポリ頭を掻
くシンジ。そんな2人のセリフを聞いたアスカは、ギクリとしていた。

やっぱり・・・マヤはまずかったかもしれないわねぇ・・・。

さらに強敵を増やしてしまったのでは無いかと、少し軽率な行動を後悔するアスカだっ
たが、今更言ってもどうしようも無いので監視を強めることにする。

「シンジっ! マヤが晩御飯作ってくれるって言ってるんだから、アンタは部屋の引越
  しよっ!」

「あ、そ、そうだね。」

アスカに急かされて、シンジは自分の部屋へと入って荷物の移動を始めた。

「アンタの場合、大して荷物は無いから、すぐに終わりそうね。」

「そうだね。」

「じゃ、さっさとやってしまうわよっ!」

手近にあったダンボールに、シンジの荷物をぽこぽこと詰め込んで、アスカの部屋へと
運んで行く。

「こんなものかしら?」

「でも、アスカの部屋に教科書とか置いちゃったら、どうやって取りに行ったらいいの
  さ?」

「ま、これからはアンタだけなら勝手に出入りしてもいいわ。でも、ノックくらいはし
  てよね。アタシがいない時でも、好きに使っていいわ。」

「うん、ありがとう。それじゃ、ぼくはマヤさんの手伝いをしてくるよ。」

「そうね。後の細かい物は、アタシが片付けとくわ。」

荷物も運び終わりシンジがアスカの部屋から出てくると、ミサトが部屋から手招きして
いる。

「どうしたんですか?」

「ちょっと、話があるんだけど? 部屋に来てくれない?」

「いいですよ。」

シンジは呼ばれるがまま部屋の中へ入って行くと、少し恥ずかし気にもじもじしている
ミサトの姿があった。

「どうしたんです?」

「29歳の頃のわたしって、どんなだったのかなぁって。」

「いきなりどうしたんですか?」

「だって、わたしがまた29歳になったらそうなるんでしょ?」

「うーん。どうかなぁ。でも、家事はできなかったけど頼りになるし、ぼくは好きでし
  たよ?」

「え!?」

今まで以上に顔を赤くしてシンジを見つめるミサト。

「あの・・・。アスカさんとシンジくんって、つきあってるの・・・かな・・・?」

「ア、アスカと? そんなことないですよ。」

「本当? それじゃ、あの・・・わたしと・・・その・・・付き合って欲しいなぁって。」

「えーーーーーーーーーーーーーーーーーー!? だって、ミサトさんは加持さんと。」

「加持さん? 誰なのそれ?」

あっ、そっか14歳の頃は、まだ会ってないんだ。

「でも・・・その・・・。そういうことは、アスカに聞いてからじゃないと・・・。」

「どうして、いちいちアスカさんに聞かないといけないの?」

「だって、勝手にそういうこと決めたら、怒られそうだから・・・その・・・。」

「付き合ってもいないのに、どうして怒られるの?」

「・・・・・・・・・だから・・・その・・・。どうしてだろう?」

「それなら、いいじゃない。」

でも・・・怒られそうな気がする・・・。
アスカ、怒ったら恐いからなぁ・・・。

「それにミサトさんは、ぼく達の保護者だし。」

「わたし、14歳なのに・・・そんな目でしか見てくれないのね・・・。」

ミサトは涙目になると、上目使いの悲しそうな瞳をシンジに向けた。

うっ・・・。か、かわいい・・・。
そうだよな。今は同じ年の女の子なんだ。
今までのミサトさんじゃ無いんだ。

「とにかく、ちょっと考えさせてよ。」

「うん。わかった。」

しかし、下手なことをしてアスカに見付かると、なぜだか物凄く恐い気がしたシンジは、
その場はごまかしてミサトの部屋を出て行った。

「ちょっとっ! シンジっ!!」

部屋から出た所でアスカと鉢合わせしたシンジは、必要以上におどおどしてしまう。

「ア、アスカ・・・・。そ、その・・・。」

「なんで、アンタがミサトの部屋から出てくるのよっ!」

「だ、だから・・・。まだ付き合うとか決めたわけじゃなくて・・・。その・・・。」

「な、なんですってーーーーーーーーっ!! どういうことよっ! 今のっ!!」

言わなくても良いことを焦って口走ってしまったシンジは、慌てて口を押さえたが既に
手遅れだった。

「なによっ! その付き合うとかなんとかってのはっ! アンタっ! ミサトの部屋で何
  してたのよっ!!」

「いや・・・だから・・・ミサトさんが、付き合って欲しいって・・・。」

「でっ! アンタは、何て応えたのよっ!」

「ちょっと考えさせてって・・・。」

「な、な、な、何を考えるってのよーーーーーーーーーっ!!!!」

バッチーーーーーーーーーーーーーン!!!

「ぐぇぇぇぇぇぇ・・・。」

シンジをぶっ飛ばしたアスカは、ドカドカとミサトの部屋へ入って行く。

まずいわねぇ・・・。
シンジは、元々からしてミサトのこと慕ってたところあるから・・・。
今のミサトを相手に勝負したら、負けるかもしれないわ・・・。

「ミサトっ! 入るわよっ!」

「はい。」

アスカがミサトの部屋に入ると、明らかに敵対視する眼差しでアスカを見つめているミ
サトの姿があった。

「アンタねぇっ! 29歳なのよっ! シンジなんか相手にしてどうすんのよっ!」

「わたしは、14歳よ。」

「加持さんはどうすんのよっ!」

「シンジくんも、その人の名前言ってたけど。わたしはそんな人知らないわ。」

そっか・・・。コイツの記憶には加持さんは無いんだ。
会わせれば・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・。
今のミサトからすれば、ただのオジンか・・・。くぅぅぅ、八方塞がりとはこのことね。

「とにかく、シンジは絶対に渡さないわよっ!!」

「いーえ。どんな作戦を使っても、手に入れてみせます。」

そのミサトの目は、作戦部長のミサトのそれだった。アスカの脳裏に、数々の戦いで使
徒を全て倒してきた天才的戦術が思い浮かび、背筋に寒い物が走る。

仮にもあのミサトなのよねぇ・・・。
コイツが本気になったら、何をやらかすかわからないわ・・・。

天才と皆に呼ばれたアスカであるが、頭脳作戦のぶつかり合いになった場合、リツコの
理論ですら導き出せない、天性の神業的女のカンを持つミサトに勝てる自信が無い。

「奪える物なら、奪ってみなさいよっ!」

ひとまずこの場は、そう言うしか無いアスカ。2人の視線がぶつかり合い、バチバチと
火花が飛び散る。

「アスカちゃーん、ミサトさーん、シンジくーん。ご飯ができたわよーー。」

その時、マヤの声がリビングから聞えてきた。

「シンジに変なちょっかい出すんじゃ無いわよっ!!」

アスカはそれだけ言うと、ミサトの部屋から出て行く。その後から部屋を出たミサトも
アスカに続いてダイニングテーブルに腰を掛けた。

                        :
                        :
                        :

そして、かなり緊迫した夕食の後、シンジとアスカはアスカの部屋で宿題をしていた。

ミサトが変なことする前に、首に縄をつけないとダメね。

あまり自分からは言いたくなかったが、そんなことを言っていられる状況ではなくなっ
てきたので、決意を固めるとシンジに近付いて行く。

「シンジぃ。アタシね。」

「何?」

「あっ! さっきは、ゴメンね。痛かった?」

「あぁ、いいよ。なんとなくアスカに怒られる覚悟はしてたから・・・ははは。」

「え!? どうしてそんな気がしたの?」

「ミサトさんにも、そんなこと聞かれたけど。よくわかんない。でも、そんな気がした
  んだ。」

「そう・・・。」

「どうしたの?」

「それじゃ、アンタも薄々感づいてると思うけど。アタシ、シンジのことが好きなのよ。
  アタシじゃ嫌?」

「へ?」

「だから、何度も言わせないでよ。シンジのことが好きなの。」

「・・・・・・・・・・。」

「シンジは、ミサトの方がいいの? そうよね。前からシンジってミサトのこと慕って
  たもんね。」

「いや・・・それとこれとは・・・。」

「じゃ、アタシの方がいいのね?」

「そんなこと、急に言われても・・・。」

「やっぱり、ミサトの方がいいのねぇーーーーっ!!! わーーーーーーっ!!!」

「ちょ、ちょっと。アスカ。」

突然アスカが泣き出したので、シンジはおろおろと慌てふためく。会って以来アスカが
泣く所など始めて見たのだ。

フフフ・・・動揺してるわね。

両手で覆った指の間からちらちらと慌てるシンジの様子を伺って、芝居を続行していく
アスカ。

「ぼ、ぼくも、アスカのこと好きだよ。だから、泣かないでよ。」

「本当? ぐすっ。」

「うん・・・彼女にするならアスカがいいなぁって、前から思ってたんだ。」

「本当なのね。本当に、そう想ってくれてたのね・・・。」

「本当だよ。嘘じゃないよ。」

「うっ・・・。シンジ・・・ぐすっ。わーーーーーーーっ!!」

「わっ! ど、どうして泣くんだよっ!」

涙をぽろぽろと出して泣いてしまうアスカ。ミサトに対する先制攻撃の意味で作戦的に
した告白ではあったが、想い人から好きだと言われて感動に打ちひしがれてしまったア
スカは、本当に泣き出してしまった。

「嬉しいよぅ。まさか、両想いだったなんて思ってなかったから・・・。いずれシンジ
  にアタシのことを好きにしてみせるって思ってたから・・・ぐすっ。」

そう言いながら、涙を浮かべてシンジに抱きついてくるアスカを、シンジは両手で受け
止める。

「アタシね・・・シンジの気持ちを知らなかったから、ミサトがシンジのこと好きだっ
  て言ったのを聞いて、その・・・焦っちゃって・・・ぐすっ。」

「わかったから、もう泣かないでよ。」

「でもね・・・。そう言った以上、浮気したら殺すんだからねっ・・・。ぐすっ。」

「え・・・。」

その瞬間シンジが少し引いたのを感じたアスカは、感動の世界から現実へ帰ってくる。

「ちょっとっ! アンタっ! アタシのことが好きなんでしょっ!」

「う・・・うん。好きだよ。そんなこと、するわけないじゃないか・・・ははは。」

「アタシも、シンジの好みの女の子になる様にがんばるから、浮気なんか絶対にダメな
  んだからねっ!」

今まではシンジは誰と交際しようが自由だったのだが、この瞬間からアスカ以外の女の
子にちょっかいを出したら”浮気”というレッテルが貼られることになるのだ。

「わかってるよ。そ、そんなことするわけないじゃないか・・・ははは・・・。」

何度も念を押すアスカだったが、シンジの反応がなんとなく気に要らない。

まだ安心できないわね・・・。
とにかく縄はつけたけど、それが鎖になるまでとことんアタシの良さを叩き込んでいく
必要があるわねっ!

とにかく第1次大戦に奇襲で勝利したアスカは、この成果を元にして来るべく第2次大
戦に向けて軍備増強を計ろうとしていた。

その頃リビングでは。

抜け駆けしたわね。アスカっ!

先手を撃たれたミサトは、アスカの部屋に耳をくっつけながらリターンマッチをもくろ
んで軍備増強の計画を練っていた。

そんな2人の戦いを他所に、シンジは今までの生活と一転して最高に幸せな生活を夢見
ていた。

アスカが彼女かぁ・・・。
泣いたアスカなんて、始めて見たなぁ。かわいかったなぁ。

自然と顔がにやけてくるシンジ。もう夢心地である。

ミサトさんも、かわいくなったし・・・。
マヤさんも美人だし、家事のこともしっかりしてくれそうだしなぁ。

アスカが彼女となり、ガサツだったミサトも今や自分に好意を寄せるかわいい女の子。
そして、保護者はあのマヤという、文句の付けようが無い境遇である。

どう転んでも、シンジにとってはバラ色の生活が始まったばかりだった。

















・・・と、少なくとも、本人は今そう思っている。

fin.
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