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今日はバースデー
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<ミサトのマンション>

今日は、2016年12月4日の日曜日。いつも休みの日となると、お天道様が高々と
駆け上がるまで夢の中のお姫様を演じるアスカだが、今日だけはいつもと様子が違った。

ジリリリリリリ。

8時を告げる目覚まし時計の音がアスカの夢の世界に響き渡ると、自作自演のお話に幕
が下ろされる。心地よい目覚めと共にアスカの一日が始まろうとしていた。

「ふぁぁぁぁ、早起きすると気持ちがいいわねぇー。」

まずは起きたらやらなければならないことがある。タンクトップにホットパンツという
いつもの姿で、いつもの様にリビングへと出て行くと、いつもダイニングテーブルの上
に並んでいるはずの朝食の準備がなぜか無かった。

ん? シンジったらまだ寝てるのかしら? だめねぇ、寝ぼすけはぁ。

アスカはあまり気にせず朝シャンの準備をして、バスルームへと入って行った。その顔
は、どことなくうきうきとしている。

今日はあんまりのんびりしてられないのよねぇ。

手早くシャワーを浴び終え、いそいそと自分の部屋へ戻ると着替える服を選び始める。

ど・れ・が・いいかなぁ。やっぱり、ワンピースかしら?
シンジと出かけるんだから、気合い入れていかないといけないわよねぇ。

今日は自分の誕生日。約束こそしていないが、シンジがどこかに連れて行ってくれるに
違いないと確信している。

やっぱり、黄色のワンピースね。

シャワーを手早く終わらせたものの、服の選別にかなり時間がかかってしまった為、あ
わてて身支度を整える。

どこも、おかしな所は無いわよね・・・。

鏡に移る自分の姿をいろいろな角度から見て入念にチェックした後、ハンドバッグをひ
っさげ、いざ出陣!

「おまたせぇぇぇーー。ん?」

アスカが部屋から出ると、まだリビングには人の気配が無かった。

なによアイツ。まだ寝てるのかしら? このアタシがこれだけ急いでお出かけの準備を
したってのに! 許せないわね!

ズカズカとリビングを横断し、腰に手を当ててシンジの部屋の前に立つ。

「シンジーーー!! いい加減に起きなさいよね!!」

「あーー、アスカ? もう起きたの? 朝御飯なら冷蔵庫に入ってるよ!」

てっきり寝ていると思っていたシンジだが、どうやら既に起きている様である。しかし
アスカにとって問題なのは、このままではお出かけの時間が遅くなってしまうことだ。

「朝御飯は外で食べたらいいじゃない! さっさと行きましょうよ!」

「へ? 行くって何処へ?」

「もぅ! 入るわよ!」

ガチャッ。

「!! ア、アンタ・・・何してんのよ!?」

扉を開けて部屋に入ったアスカは、その光景を見て目を丸くする。シンジは机に向かい
参考書と問題集を広げて勉強していたのだ。

「何って・・・勉強だけど?」

「べ、べ、勉強ってねーーー! アンタ! この大事な日に何考えてるのよ!」

「大事って・・・勉強も大事じゃないか!?」

「そんなの、いつだってできるでしょうが!」

「ダメだよ。もうすぐ期末試験じゃないか・・・今度、悪い点を取ったら高校が危ない
  んだ。」

中間試験のシンジの成績は惨憺たるものであった。内申書は2学期で決まる為、この期
末試験で挽回するしか高校へ上がれる道が残されていない。

「じゃ、じゃぁ、夜。そう! 夜しなさいよ!」

「ダメだよ・・・夜は用事があるから。」

「じゃ、な、なに? アンタは昼間は勉強して、夜は用事があるっての!?」

「そうだけど?」

「ア、ア、アンタねぇぇぇ!! 今日はアタシのバースデーなのよ!!」

「うん。知ってるよ。」

「じゃぁ、どっかに連れて行きなさいよ!」

「でも、勉強しないと本当にまずいんだ・・・ごめん・・・。」

「ぶぅぅぅぅぅぅぅ!」

どうやらいくら凄んで見せても、シンジの意思は揺るがない様である。アスカはぶぅっ
と膨れると、シンジの部屋の襖をピシャッと閉めてリビングへと出ていった。

何よ! あンのバカぁ!

気合いを入れて選んだ黄色いワンピースを眺めながら、シンジの言葉を思い返すとムカ
ムカしてくる。

そっちがその気なら、別にいいわよ! アタシ1人で自分を祝ってあげるんだから!
後で、一緒にお出かけしたいなんて言ったて、もう行ってなんかやんないんだからね!

アスカは膨れっ面のまま、一旦部屋へ戻るとケーキの材量を買う為に、コンビニへ行く
準備をする。

おいしーーーケーキを作るんだから!

しばらくして買い物を追えたアスカが帰って来る。滅多に使うことの無い赤いエプロン
を身に付け、デザートのレシピが載っている本を見ながらケーキを作り開始。

フン、後で一緒にケーキが食べたいなんて言ったってあげないんだからね!

ブチブチと愚痴を言いながら、ケーキ作りに専念する。

さてと、粉、粉・・・っと。

ホイップを混ぜるのにどんと居座られては邪魔なので、先程棚の上に置いた粉を取ろう
と背伸びして手を伸ばす。

ドンガラガッシャーーーーーーーーン!!!

「きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

その大きな物音を聞いて、シンジが部屋から飛び出してきた。

「アスカ!! ど、どうしたの・・・って・・・・・・・何やってんだよっ!!!」

そこは、消火器をまき散らした様に粉だらけになったキッチンと、割れた皿が数枚。そ
して、その難から逃れようとダイニングテーブルに駆け上がったアスカの姿があった。

「ちょ、ちょっと粉を落としただけよ。一緒にお皿もだけど・・・。」

「もう、勉強してるんだから、騒がないでよ。」

やれやれという感じで後始末をするシンジを、アスカはダイニングテーブルの上にぺた
りと座り込みながら、その様子を見守る。

「どう? 終わった?」

「終わったよ。もう、散らかさないでよ。」

「じゃ、じゃぁさ、ちょっとお出掛けしない?」

今度は良い返事が帰って来るのではないかと期待に瞳を輝かせながら、シンジを再び誘
ってみる。

「勉強があるって言っただろ。」

「ぶぅぅぅぅぅぅぅ。もぅ、いいわよ!」

しかし、アスカが拗ねてみたところでよほどせっぱ詰まっているのか、シンジはそそく
さと自分の部屋へ戻ってしまった。

「ぶぅぅぅぅぅぅぅ。」

しばらく閉ざされたシンジの部屋の襖を、膨れっ面で睨み付けていたが、それにも飽き
たらしくケーキ作りを再開する。

今度こそ、失敗しないんだからね! おいしーーいケーキが出来るんだから!
後で一緒にケーキが食べたいなんて言ったってあげないんだからね!

それから2時間後、どうやら今度は無事にケーキが出来上がった様だ。アスカの奮闘の
様子が、顔のあちこちについた白い粉から伺える。

さって、完成ね!

得意気な顔でペアカップに紅茶を注ぎ、横に自信作のケーキを添えてトントンとテーブ
ルに並べていく。

われながら上出来ね。

「シンジーーーー!! ケーキ出来たわよーーーー!!」

自信作に顔をほころばせながら、部屋の襖を叩いてシンジを誘う。

「後で食べるから、置いといて。」

「な、なんですってーーーーーーーーーーーーー!!」

折角上手くできたのに見ようともしてくれないシンジに腹を立てたアスカは、ガラッと
勢い良く襖を開けて、ずかずかと部屋に入って行く。

「折角このアタシが作ったってのに、それをアンタは食べないっての!!」

「だから、勉強してるんだって。一段落ついたら食べるよ。ちょっと待ってよ。」

「ぶぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!! もういいわよ!! どうせ、アンタの分なんか最初か
  ら作って無いわよ!」

バタンと扉を殴りつける様に閉めてリビングに帰ったアスカは、シンジのケーキをゴミ
箱の前まで持って行き、皿を持つ手を高々と振り上げた。

・・・・・・・・・・・・・・。

「おいしいよ、アスカ。」と言ってケーキを食べるシンジの笑顔が、アスカの脳裏をよ
ぎる。

フン! こんなもん、いつでも捨てられるわ!

アスカは、ケーキにラップをすると丁寧に冷蔵庫へしまい込むのだった。

フン! シンジが祝ってくれなくったって、自分で祝うんだからl! いーわよーーだ!!

アスカは、自分のショートケーキに蝋燭を立てると、カーテンを閉めて少しでも雰囲気
を出そうとする。

「ハッピバースデーアスカー♪ ハッピバースデーアスカー♪ ハッピバースデーディア
  アスカー♪ ハッピバースデーアタシー♪」

パチパチパチパチーーー。

歌い終わり1人で拍手した後、コンビニで買ってきた15連発クラッカーを3つ手にし
て、シンジの部屋めがけて一気に紐を引っ張った。

パンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパン!!!!!
パンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパン!!!!!
パンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパン!!!!!

「な、な、なんだ!? なんだ!?」

何事が起こったのかと、血相を変えて慌てて部屋から飛び出してきたシンジの頭に、ク
ラッカーから飛び出した大量のリボンが降ってくる。

「な、なんだ? これ!?」

「あ! シンジぃ! 今ねぇ。アタシの誕生祝いしてるのぉ。シンジも一緒にやりましょ
  うよ!」

何が起こったのかわからずあたふたしていたシンジだったが、アスカの手に持たれてい
る超巨大な3つのクラッカーを見て、ようやく状況を飲み込んだ。

「アスカぁぁぁ、頼むから静かにしててよ・・・。」

「だってぇ・・・アタシの誕生日なのよぉ!! 一緒にやりましょうよ!!」

「勉強の邪魔なんだよ!! 静かにしてよ!!」

「な、何よ! その言い方はぁ!!! もういいわよ!!! アンタなんか!!! ちくし
  ょーーー死んでやるぅぅぅぅぅぅーー!!!」

「死、死ぬって・・・ちょっと・・・」

しかし、アスカはダッと走り出すと、玄関から飛び出して行ってしまった。

「アスカ!! ちょっと、待ってよ!! アスカぁ!!」

ただごとじゃない状況に、シンジはアスカの後を追いかけるが、既にアスカの姿は無い。
しかし、そのままほっておくわけにも行かないので、シンジは必死でアスカを探して回
った。

<マンションの階段>

早く見付けてくれないかなぁ・・・。

アスカはマンションの階段の所に隠れていた。あそこまで言ったら、シンジが追い掛け
て来てくれることくらいはわかっていた。簡単に見つけられない場所でありながら、見
つけることが可能な場所ということで、ひとまず階段に隠れていたのだ。

遅いなぁ・・・まだかなぁ・・・。

しかし、いつまで経ってもシンジは見つけてくれない。

ふぁぁぁぁぁ・・・何してんのよ! あのバカぁ!! ボケボケっとしてるんだからぁ。

既にかなりの時間が経過しているのに、まだシンジの声すら聞えてこない。

ふぁぁぁぁぁぁぁぁ。

今日、気合いを入れて早起きしたせいか、いつのまにかアスカは階段でうずくまりなが
ら眠り込んでしまった。

                        :
                        :
                        :

「・・カ?」

ん?

「アスカ?」

シンジ?

「起きてよ、アスカ。」

目を開けると、自分の顔を上から覗き込んでいるシンジの顔が見えた。

「あ! シンジ! どうしたの?」

「どうしたのじゃないよ・・・探し回ったじゃないかっ!!」

「え? あ、あぁぁーーー。」

「もうあんなことしないでよ。心配したんだからね!」

「だって・・・・。」

「おかげで遅刻だよぉ。早く行くよ!」

「どこへ?」

「行ったらわかるよ。」

「へ?」

アスカはシンジに連れられて行く。なにやら急いでる様で、その足取りは速い。

<ヒカリの家>

「ここって、ヒカリん家じゃない!」

「そうだよ。さぁ、入ってよ。」

「アンタ! まさか、アタシがうるさいからって、ヒカリの家に押し込めようとしてる
  んじゃ無いでしょうね!!」

「もうー。いいからとにかく入ってよ。」

「嫌よっ!」

「だから、そんなこと考えてないから、入ってよ。お願いだからさぁ。もうかなり遅刻
  してるんだから。」

そう言いながら、背中を押してアスカをヒカリの家に入れようとするが、アスカは門に
しがみつき断固として拒否する。

「入ってよ!」

「嫌だって言ってるでしょーーーーー!!!」

「お願いだから! なんで抵抗するんだよっ!! 入るだけじゃないかぁぁぁぁ!!!」

「嫌だったら、嫌だったら、嫌なのよーー!!! ぜーーたいに、離さないわよー!」

歯を食いしばり全身の力を込めてアスカを門からひっぺがそうとするシンジと、すっぽ
んの様に両手両足で門にしがみついて意地でも離れようとしないアスカ。

「入ってって言ってるだろーーー!! なんでここまで来てごねるんだよーーー!!」

「嫌なものは、嫌なのよーーーーーーーーーーっっ!!!」

ガチャ。

その時、玄関で騒いでいる声が聞こえた様で、ヒカリが家から飛び出して来た。

「アスカに碇くん、遅かったじゃない・・・・・・・・・ん? 何やってるの?」

門にしがみつくアスカとそれを引っ張るシンジを、きょとんと見つめるヒカリ。

「アスカが入るの嫌だって言うんだよ。」

「だって・・・・ぶぅぅぅぅぅぅぅ。」

「どうしたのよアスカ、早く入ってよ。みんな待ってるんだから。」

ヒカリに促されてしぶしぶ家の中に入ると、そこにはヒカリの他にレイ,トウジ,ケン
スケの姿があった。

「遅いぞ、碇。」

「遅いやんけ、委員長は惣流が来るまで飯食うたらあかんて言うし、腹減ってしょーな
  いわ。」

「ごめん・・・ちょっと、色々あって。」

そこには、”アスカ! お誕生日おめでとう!”と書いたチョコプレートが乗っている
ケーキを中心として、ヒカリが用意したものらしき豪華な料理とジュースが並んでいた。

「碇くん、今年は大変でしょ? だから、わたしがパーティーの準備をしてたの。」

「シンジが今朝言ってた用事って・・・この事だったの?」

「うん、そうだけど?」

「ハハッ・・・アタシ知らなかったから・・・でも、本当はアタシ・・・。」

「え?」

「なんでもない・・・それより、勉強の邪魔してごめんね。」

「もういいよ。明日からがんばるから。」

「ダメよ。今日帰ったら、教えてあげるわ。一緒に勉強しましょ。」

「いいの?」

「いいに決まってるでしょ! アンタが高校に行けなくなったら困るじゃない。」

「ありがとう、アスカ。」

「いいって、いいって。その代わり期末試験が終わったら・・・。」

「終わったら?」

「今日行けなかった分、何処かへ連れて行きなさいよ!」

「うん、そうだね・・・何処がいい?」

「そんなの、アンタが考えなさいよね!」

「えーーー、アスカが決めた方が、自分の好きな所行けるからいいじゃないか。」

「いいからぁ、アンタが考えるの!」

「難しいなぁ・・・。」

「それを考えるのが、アンタの役目でしょ。」

そこへ、レイが近寄ってくる。

「いつまで、やってるの?」

その言葉で我に返ったシンジとアスカが周りを見渡すと、速く飯を食わせろと言わんば
かりに腹を押さえるトウジ,蝋燭にいつ火をつけていいのかわからずチャッカマンをじ
っと握りしめるヒカリ,そして、いつの間にかデジタルカメラをこちらに向けているケ
ンスケに囲まれていた。

「あ・・・。」

シンジが、唖然と周りを見渡していると、ヒカリがチャッカマンを持って近づいてくる。

「もう、火つけてもいいかしら?」

「あ・・・い、いいよ。早く始めようよ。」

その言葉を聞いた一同は、わっと一斉に席に座る、ヒカリは部屋の明かりを消すと15
本の蝋燭に火を灯した。

「飯や!! やっと飯にありつけるでーーー。」

「さぁ、火がついたわ! アスカ、お願い事を考えながら一気に火を消してね。」

みんなが、6人分の大きなケーキの前に座るアスカに注目する。

「みんな、ありがとう!!! さぁぁぁぁ!!! アタシのバースデーなのよ!!! 盛
  大に行くわよーーーーー!!!」

そう言いながら、スーーーーーっと胸一杯に空気を吸い込むアスカ。目の前に光る蝋燭
15本をセンターに入れて・・・。

ふぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ。

吸い込んだ空気を一気に吐き出しながら、アスカは願い事を心の中で念じた。









           来年は、シンジと2人だけのバースデーを・・・。

fin.
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