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大喧嘩 war II
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作者注:この小説は、”大喧嘩”の続編です。そちらからお読み下さい。
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<学校>

今日の1時間目の家庭科は、お好み焼を作る実習の時間だった。シンジのグループは、
シンジ,アスカそして名も無いキャラ2人である。

「アスカ、卵をといてそのボールに入れてくれるかな?」

「まっかせなさい。」

実習は楽しいからかご機嫌なアスカは、フンフンフンと鼻歌混じりで混ぜた卵を、粉と
キャベツが入ったボールに流し込む。

「じゃ○○くん、そろそろフライパンに油をひいておいてくれないかな?」

名も無い男子キャラは、言われた通りに油をひき始める。このグループでは、圧倒的に料理
の上手いシンジが、珍しくリーダーシップを取っているのだ。

「アスカ。さっき混ぜたのをフライパンに流し込んでくれないかな?」

「はーーーい。」

どばっ

「わぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

フライパンに入りきるはずもない量のボールの中身を、アスカが一気にぶちまけてしま
った。コンロの周りはぐちゃぐちゃ。

「な、な、なんてことするんだよっ!!」

「あら? 溢れちゃったわ。」

「溢れちゃったわじゃないだろ!! こんなの一気に入れたら溢れることくらい、小学
  生にでもわかるよっ!」

「だって、入れろって言ったじゃない!」

「一気にぶちまけるバカがどこにいるんだよっ!! もう食べられないじゃないかっ!
  バカ!」

「バ、バ、バ、バカですってぇぇぇぇ!! バカシンジにバカ、バカ言われたくないわ
  よっ! バカッ!」

「バカはそっちだろっ! こんなのが一度に入るわけないじゃないかっ!」

「アンタが入れろって言ったから、入れたんでしょーがっ!」

「いちいち小分けにしろって言わないと、そんなこともわかんないのかよっ!! アス
  カのバカっ!」

授業中だということも忘れて、大声で喧嘩するシンジとアスカ。災難なのは同じグルー
プの名も無いキャラクター達だろう。

「鈴原・・・また、喧嘩始めたわよ・・・。」

「かまへんかまへん、そのうちまた仲直りしよるわ。関わると禄なことあらへん。」

「そ、そうね・・・。」

ついこの間2人の喧嘩を心配して仲裁に入ろうとしたが為に、あてられるわバカを見る
わしたトウジとヒカリは、今回は関わり合いになるまいと見て見ぬ振りを決め込む。

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                        :
                        :

午前中の授業,休み時間の間ずっと2人は、口をきくどころか顔も合わせようとはせず、
とうとう昼休みになってしまった。

はぁ・・・どうしてあんなことで喧嘩しちゃったんだろう・・・。
今日は、屋上で一緒にサンドイッチを食べる約束だったのになぁ・・・。

徐々に後悔の念に駆られはじめたアスカは、シンジの席へ弁当を取りに行きながら、こ
れを機会になんとか仲直りできないものかと期待してしまう。

あぁーあ、今日はアスカが「屋上で食べよっ」て言うから、がんばってサンドイッチ作
ったのに・・・。小分けにして入れてって、どうして言わなかったんだろう・・・。

シンジも、同じく後悔し始めている様だ。しかし、みんなが見ている前であれだけ派手
に喧嘩してしまっては、意地もあるのでなかなか素直になれない。

「シンジ、お弁当。」

少し柔らかく話し掛けてみるアスカだが・・・。

「いつもカバンに入ってるだろ。」

「なーーによ! その言い方はぁ! バカシンジの癖に生意気よっ!」

「アスカにバカなんて言われたくないよっ!! あーーんなにバカだったなんて知らな
  かったよっ!」

「ムキぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーっ!! な、なんですってぇぇぇぇっ!!!
  む、む、むぉぉぉ一度言ってみなさいよっ!! バカシンジっ!」

「何度でも言ってやるよっ! バカアス・・・ぐはっ!」

弁当の抜き取られたカバンが、シンジの顔にドカンと投げつけられ、椅子と一緒に後ろ
にぶっ倒れる。

「痛ーーーーーーーーーーーっ! 何するんだよっ!」

「アンタには、それが丁度いい薬よっ!」

意地の張り合いがエスカレートすると、収拾がつかなくなってしまうものだ。アスカは
弁当箱を持つと、1人で屋上へ駆け上がって行く。そんな様子を、関わり合いになるま
いとヒカリやトウジ達は、目を伏せて見ているのだった。

あーあ・・・。どうして、すぐヒステリックになっちゃうのかしら・・・。

屋上でシンジと食べるはずだったサンドイッチをほおばっていると、またもや後悔し始
めてしまう。

1人で食べるお弁当って寂しいわねぇ。

今日に限って屋上には、アスカ独りだけ。喧嘩していなかったら、シンジと2人っきり
だったのかと思うと、ますます悔やまれてくる。

「シーンジ、あーーん。」高い声。

「はい、アスカ。どう? 美味しい?」低い声。

「うん、シンジの作ったサンドイッチだもん、美味しいに決まってるじゃない。」高い声。

「そう? 嬉しいよアスカ。」低い声。

「じゃ、次はシンジね。あーーーん。」高い声。

「あーーーん。」低い声。

「どう? 美味しい?」高い声。

「アスカに食べさせて貰うサンドイッチなんだから、もちろん美味しいに決まってるじ
  ゃないか。」低い声。

「シンジっ!」高い声。

「アスカっ!」低い声。

だきっ!

「いやんいやん。」くねくね・・・。

ハっ!

自作自演の1人芝居をしながら、自分で自分の肩を抱きしめていたアスカは、ふと人の
気配を感じ視線を上げた。すると、いつの間にか屋上に上がってきた生徒達が、何か怖
い物でも見る様な目つきで遠巻きに取り囲んでいる。

ボッ!!!!!!

あまりの恥ずかしさに、アスカは顔を真っ赤にして屋上の隅っこに逃げると、視線を合
わさないように、丸めた背中を生徒達に向けてボソボソと食べ始める。

もう! 上がって来てるんなら、そう言いなさいよね!

さっさと食べてしまって教室へ戻ろうとサンドイッチをほおばるが、屋上の隅っこで体
をまるめながら独り食べるサンドイッチはさらに美味しくない。

ちょっと考えたら、いちいち言われなくても溢れることくらいわかることだもんねぇ。
アタシだって、わかってるわよ。なのに・・・バカバカなんて言うから・・・。
あーーーぁ、謝っちゃおうかなぁ。
許してくれるかなぁ。

「シンジ、さっきはごめんねぇ。」高い声。

「いいんだよアスカ。ぼくも言い過ぎたから。」低い声。

「アタシもすぐにムキになっちゃって、悪かったわ。」高い声。

「そんな、アスカがかわいいんじゃないか。」低い声。

「でも、怒ったシンジも格好良かったわよ。」高い声。

「素直なアスカもかわいいね。」低い声。

「シンジっ!」高い声。

「アスカっ!」低い声。

だきっ!

「いやんいやん。」くねくね。

今度は誰にも気付かれない様に小声で演出するアスカだったが、屋上の端っちょでボソ
ボソ何かをつぶやきながら体をくねくねさせているアスカを、生徒達は青ざめた表情で
見つめている。

そうよっ! アタシから謝ればいいのよっ! 行くわよアスカっ!

食べ終わった弁当をハンカチに包むと、決意も新たに階段を駆け下りていく。屋上にい
た生徒達は、ようやくおかしな娘がいなくなって、安心して昼食を取ることができるの
だった。

「なぁ、シンジ。おまえも惣流と仲直りしたいんだろ?」

「ふんっ、べつに〜。アスカなんかどうでもいいよ。」

その頃教室では、あまりにも意地を張り合う2人を見かねたケンスケが、前回のことに
も懲りてないのかお人好しなのか、シンジを説得していた。

「そう意地を張るなって。」

「誰が意地なんか張ってるんだよ。」

「碇だよ。顔に仲直りしたいって書いてあるぞ。」

「そんなこと書いて無いよ!」

「いーーや、書いてある。惣流が、教室を出ていってから1人で寂しそうにサンドイッ
  チを食べてたじゃないか。」

「寂しそうになんかしてないよ! アスカがいなくなったから、せいせいしてたところ
  なんだ! アスカと一緒に食べたら、せっかくのサンドイッチがまずくなるよ。」

「シ、シ、シ、シンジ!」

「なんだよ。」

「う、後ろ・・・。」

ケンスケが顔を引きつらせて後ろを指さすので振り返ってみると、鬼の様な顔のアスカ
が教室の入り口からドスドスとシンジの席に向かって歩いて来る所だった。

「あーーーーそーーですか! アタシも1人で食べれて、こんなに美味しいお昼ご飯は
  ありませんでしたよっ!!」

バッッカァァァァァァーーーーーーーーーン!!!!!!!

弁当箱をシンジの顔に叩き付けると、アスカはスタスタと自分の席に戻っていってしま
った。

「あっちゃーーーーー、だ、大丈夫か? 碇?」

目を覆った手の指の隙間から、弁当箱で殴られ真っ赤になったシンジの顔を覗いて哀れ
むケンスケ。

「い・・・痛い・・・。」

シンジは、ただただ殴られた鼻を手で押さえているのだった。

そして昼休みも終わり5時間目の数学が始まる。数学の授業は、怒るということを知ら
ないセカンドインパクトのことばかり話す担任の老教師なので、真面目に授業を聞く者
は少ない。

アスカの奴ーーーー、何も弁当箱で殴ることないじゃないかぁ。

まだジンジンと痛む鼻を押さえながらプリプリと怒るシンジだが、内心は仲直りしたい
と思っている。

ぼくも、ケンスケに見栄を張って調子に乗ってたけど・・・。

しかし、ケンスケにまであんなに大きなことを言ってしまった手前、既に素直に謝るこ
とができなくなっていた。

あーーあ、どうやって仲直りしようかなぁ。

ふと振り返り、アスカの方に目を向けると慌てて視線を反らす顔を赤らめたアスカが見
えた。

なんだ・・・アスカも仲直りしたいんじゃないか・・・。

いつも一緒にいるアスカのことだ、だいたい仕草を見ていれば何を考えているのかくら
いはわかる。

でも・・・どうやって切り出そうかなぁ・・・。

一方アスカは。

せっかく、このアタシが素直に誤りに来たのに、相田の前だからって格好つけちゃってさっ!
あーーーーーもぅむしゃくしゃするわねぇ。

一度は謝ろうと決意したものの、あんなことがあった後で切り出すのはさらに難しい。
どういうきっかけで仲直りしようか、試行錯誤する。

でも・・・さっき殴った所、大丈夫だったのかしら? 声も出ないくらいに痛がってた
けど・・・。

だんだん心配になってきたアスカが、座るシンジの後ろ姿をじっと見つめていると、突
然シンジが振り返った。

わっ!

慌てて顔を背ける。

どうしよう・・・。見てたのばれちゃったかなぁ。

そうこうしているうちに5時間目も終わり、いよいよ最後の6時間目の授業。ここらで
仲直りする方法を思いつかなければ、放課後はバラバラで帰ることになってしまう。

はぁ・・・今日は作文の発表か・・・ん? そうだっ!!

6時間目は国語。このところ作文の発表が続いており、今日はシンジの番だった。

「じゃ、碇君。発表して下さい。」

先生に当てられ、準備しておいた作文を手にするが、その視線は原稿用紙には向けられ
ていない。

「タイトルは、『ぼくの飼っている猫』です。」

シンジが読み出すと、パチパチパチとお決まりの拍手が起こる。

ん? 猫? うちに猫なんていないわよ?

突然シンジが、わけのわからない作文のタイトルを言いだしたので、何のことだろうと
不思議に思うアスカ。

「ぼくの猫は、毛がやわらかくて、かわいくて、とても綺麗な猫です。
  ぼくが、頭をなでてやるとゴロゴロと喜びます。
                        :
                                                                              」

猫なんか飼ってないのに、アイツ何言ってるのかしら?

シンジの言っていることがわからず、アスカはきょとんとしながら作文の内容を聞いて
いる。

「                      :
  その透き通る様な青い瞳を見つめていると、とっても幸せな気分になってきます。
                        :
                                                                              」

ボッ!

なっ! ま、ま、まさか、アタシのこと言ってるんじゃないでしょうねっ!!
なんて、作文を発表するのよぉぉぉぉぉーーー!!!

ようやくシンジが何を言っているのかわかったアスカは、急に顔を真っ赤にして俯いて
しまった。しかし、どことなくニヘラニヘラしている様にも見える。

「                      :
  でも、ぼくの猫は短気ですぐに怒ります。怒ると凶暴になり、何をするかわかりませ
  ん。それに怒って無い時でも、いつもうるさくて手がつけられない時があります。
                        :
                                                                              」

「ぬ、ぬわんですってーーーーーーっ!!」

「惣流さん、静かに。」

「あ・・・は、はい・・・。」

突然我を忘れて叫びながら立ち上がってしまったアスカだが、先生に注意されてしまっ
たので、クラスメートの笑い声の中そのまま大人しく席についた。

シンジぃぃ、覚えてらっしゃい!

「                      :
  夜中、布団の中で抱きしめてやると、かわいい声で鳴きながら背中をひっかきます。
                        :
                                                                              」

「ぶぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

「わーーーーーーーーーーっ! アスカ、汚ーーーーーーーーーい! 何するのよっ!」

アスカがおもいっきり吹き出してしまったので、前に座っているヒカリの髪が唾でべと
べとになってしまった。

「あ・・・ご、ごめん・・・。」

「なんかアスカ、さっきから変よ?」

「ごめんごめん・・・ハハハハハッ。」

シ、シンジのバカっ! バカっ! バカっ! なんてこと言うのよっ!
バカっ! バカっ! バカっ! バカっ! バカっ! バカっ!

「                      :
  それでも、ぼくは飼っている猫がかわいくて仕方ありません。
  ずっとずっと、側にいてあげたいです。
  たまには喧嘩をしたりするけど、世界で一番大事な大好きな猫です。

                                                                 碇 シンジ。」

少し顔を赤らめながらシンジが作文を読み終えた頃には、アスカは完璧にゆでだこにな
っていた。

シンジぃぃぃ・・・うれしいよぉ。うれしいよぉ。うれしいよぉ。うれしいよぉ。
シンジぃぃぃ・・・しゅき、しゅき、しゅきーーー。
いやん、いやん、いや〜ん。

「はい、碇君の飼い猫に対する愛情がよく伺える作品でしたね。じゃ、次の人。」

何事もなく授業は進んでいくが、1人アスカだけは爆発せんばかりの真っ赤な顔を机に
めりこませくねくねしながら、よだれを垂らしてニヘラぁぁぁとにやけていた。

                        ●

いよいよ、放課後。

「なぁ、シンジぃ・・・そろそろ仲直りしろよ。」

再び、ケンスケがお節介なことを言いながらシンジの席に近寄ってきたが、それより早
くアスカがシンジの前に走ってくる。

「シンジっ! 一緒に帰ろ?」

「うん。そうだね。」

腕を組んで帰るシンジとアスカの後ろ姿を見たケンスケは、いつの間に仲直りしたんだ
ろう? と首を傾げる。

「アスカっ! ちょっと待ってよ。」

さっさと帰ろうとする、シンジとアスカをヒカリと連れられたトウジが追い掛ける。そ
れを見た、ケンスケも慌てて後を追った。

「ねぇ、いつの間に仲直りしたのよ?」

ヒカリがコツコツと肘でアスカの横っ腹をこつくが、さぁねぇといった顔で話をはぐら
かす。

「あっ! 綾波さん。」

前を歩いていたレイを見つけたヒカリが、手を振って呼び止める。

「何?」

「途中まで同じ道でしょ? 一緒に帰りましょ。」

「そうね・・・。」

「ところで、シンジ。おまえんとこ猫なんか飼っとたか?」

「えーーーーあれは・・・。」

「作り話よ。いくら書くことないからって、シンジったらデタラメばっか。」

「なんや、作り話かいな。」

「そうだったの? わたしはてっきり、新しく猫を飼ったのかと思ったわ。」

話をはぐらかすと、トウジやヒカリ達がなーんだと言う顔をしたので、ほっと一安心す
るアスカ。その時、1,2歩前をヒカリと歩いていたレイが、突然振り返って携帯電話
を取り出した。

ぶらぶら。

「ちょっと、何してんのよ?」

アスカの目の前で、携帯電話のストラップを振るレイ。

「じゃれつかないのね。」

ぎっくぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!

それ以来、アスカはレイに頭が上がらなくなったらしい。

fin.
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tarm@mail1.big.or.jp
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