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最強禁煙アイテム
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<ミサトのマンション>

碇シンジ。人類を救ったチルドレンであり、コンフォート17マンションで葛城ミサト,
惣流・アスカ・ラングレーと同居する15歳の少年。勿論未成年。

スパー。

灰皿をダイニングテーブルに置き、タバコに火をつける。彼にも多くのストレスがあっ
たのだろう。丁度、使徒との戦いが終わった頃からシンジはタバコを吸うようになった。

「あっ。換気扇。」

換気扇が回っていないことに気付く。タバコの臭いが部屋に付くとまずいので、慌てて
換気扇を回しに行くが、その努力も水泡へと帰す。

「あーーーっ! また吸ってるっ!!!」

惣流・アスカ・ラングレー。彼の同居人である彼女は、耳をつんざくような金切り声を
上げ駆け寄った。アスカは、シンジがタバコを吸うことに猛反対なのだ。

コンビニまでジュースを買いに行ったので30分程帰らないと思っていたのだが、シン
ジの予想以上にアスカが早く帰ってきたので大慌てである。

「だって、ご飯食べた後は・・・どうしても。」

「ご飯の後だろうが、トイレの後だろうがっ! やめなさいっ!」

「だってっ。」

「消すっ!!」

無理矢理シンジからタバコをもぎ取り灰皿に付き立て揉み消したばかりか、テーブルの
上に置いてあったタバコを箱ごと流し台の水に叩き込む。

「あーーーーっ! ひ、酷いじゃないかぅっ!」

「何度言やー、わかんのよっ! タバコはもう吸わないっつったでしょっ!」

「でも・・・どうしても。」

「こんなもん吸ってっ! 元気な赤ちゃん生めなくなったらどーしてくれんのよっ!」

「生むって・・・ぼく、男じゃないか。」

「男でも影響すんのっ! 勘弁してよねっ!」

「なにがだよ・・・。」

ブツブツ言いながら、流し台に沈んだタバコを拾い上げるが、びしょびしょぐしょぐし
ょになっており、とても吸える状況ではない。

「何、未練たらしく見てんのよっ!」

「だって、まだ18本も・・・。」

「なにーっ!? ってことは、前に1本吸ったのねーーーっ!」

「あ・・・いや。」

「臭いし、体に悪いし、なんでやめれないのっ!」

「つい・・・。」

「ったく。しゃーないから、これ買って来てあげたわよ。」

買って来たジュースの入っているコンビニの袋から出てきたのは禁煙パイポ。どうやら
これで我慢しろということらしい。

「吸いたくなったら、これ吸いなさいっ! いいわねっ!」

「ぼくの為に?」

「アンタの健康、心配してんだから。」

「ありがとう・・・なんだか嬉しいな。」

「そう思うんなら、タバコやめなさいっ!」

「わかったよ。」

アスカのそんな温かい気持ちに胸を打たれたシンジは、早速始めて吸う禁煙パイポに口
をつける。それはハッカの味のするプラスティック製のタバコのような物であった。

<第3新東京市郊外>

禁煙パイポ。小さくて軽量。タバコに比べ何度でも繰り返し使え比較的経済的。

「ふぅ。お腹いっぱいだ。」

1人でネルフへ行く用事のあったシンジは、その帰りにファーストフードショップでハ
ンバーガーを食べていた。

ここ禁煙席じゃないよな。
タバコ・・・。

いつもの癖でポケットを探ると、そこにあるはずの四角い紙の箱はなく、昨日アスカに
買って貰った禁煙パイポが指に触る。

そうだ。
これに変えたんだ。

早速ポケットから取り出し咥えてみるが、口に当たる感触はタバコに似ていても何か物
足りない。

うーん・・・。
やっぱりタバコがいいなぁ。

いくら吸い込んでもあまり吸ってる気分になれず、だんだん燃えてなくなるタバコと違
ってどうも味気無い。

ちょっとだけタバコ買おうかな。
駄目だ。駄目だ。
アスカと約束したんだ。

我慢して禁煙パイポをから入ってくる空気を肺に吸い込み、タバコを吸った気分になろ
うと努力はするが、やはり吸った気分になれない。

もういいや。
そろそろ、出よう。

どうも吸った気分がしないが、禁煙パイポをポケットにしまいファーストフードショッ
プを出て行く。

タバコ吸いたいなぁ。
吸っちゃ駄目だよなぁ。
また怒られるし・・・。

と、その時。電車に乗ろうとしたシンジの目に、駅前に設置されているタバコの自動販
売機が飛び込んで来た。

「・・・・・・。」

知らず知らずのうちに自動販売機の前に立つ。少しの小銭を入れれば、これが手に入る
のだ。

1つくらいなら。
帰るまでに臭い消えるだろうし・・・。

次の瞬間、シンジは1つの紙の箱を握り締め、人目の無い路地裏へと走り去って行って
いた。

<ミサトのマンション>

「アンタっ! またタバコ吸ったわねーーーーーーっ!!!」

帰って来た途端ヒステリックな声が耳をつんざき、シンジはびっくりして腰を抜かさん
ばかりに驚く。

「す、吸ってないよ。ほ、ほんと。」

「アンタバカーっ!? タバコの臭いがしてるのよっ!」

「げっ。」

自分では全くわからないが、どうやらタバコを吸わない人が近寄るとすぐにばれてしま
うようだ。

「ご、ごめん。」

「なんの為に禁煙パイポ買ってきたのよっ!」

「あ、あれもちゃんと使ってるよ。」

「あれ”も”じゃ、意味ないでしょうがっ!」

「う、うん・・・。」

「出しなさい。」

「ごめん。」

蛇に睨まれたカエルのように、びくびくしながら禁煙パイポをポケットから出しアスカ
に手渡そうとする。

「アンタバカぁっ!? これはアンタが持ってんのよっ! タバコ出しなさいっ!」

「えっ!?」

「あと19本残ってるでしょっ! よこしなさい。」

「あ、あれはもう捨てた・・・から。」

「ほーーー。」

チシャ猫のような目をしてジリジリと近付いて来たアスカは、一気にシンジに飛びかか
り体をまさぐりチェックする。

「わっ! や、やめてよっ!」

「あったっ! これは何よっ!」

「あっ!」

ポケットに入れていたタバコを強引に取り上げるアスカ。慌てて取り替えそうと手を延
ばすが、間髪入れずまたしても流し台の水の中に投げ込まれてしまう。

「今度買ったらただじゃおかないからねっ!」

「あーーーあぁ・・・・・・。」

折角買ったタバコも、1時間とたたないうちにぐしょぐしょにされ、シンジは涙を流し
ながら部屋へと入って行った。

しかし、それだけでは済まなかった。その日からアスカの監視が尋常ならざるものとな
り、買い物へ行く時も、学校へ行く時も、ネルフへ行く時も、四六時中びったりくっつ
いて来るようになる。

<ネルフ本部>

アスカの執念とも言える努力の成果か、なんとか3日の禁煙までこぎつけていたシンジ
だったが、口には出さないもののタバコを吸いたくて吸いたくて仕方がない。

どうして、トイレの中に自販機ないんだろう。
はぁ。タバコ吸いたいなぁ。

アスカの監視から逃れられるのは、トイレと風呂そして更衣室くらいなもの。無論その
何処にも自動販売機はない。

タバコ吸いたいなぁ。
タバコ吸いたいなぁ。
タバコ吸いたいなぁ。

女子更衣室の近くにあるベンチで、アスカが出て来るのを待つ。せめてこの近くにタバ
コの自動販売機があれば隠れて買えるのにと、無いもの強請りをしたくなる。

タバコ吸いたいなぁ。
タバコ吸いたいなぁ。
タバコ吸いたい・・・ん?

ふと、ベンチの下を見る。そこにはなんとっ! 誰かがベンチに置き忘れていった物が
落ちたのか、1つのタバコの箱とライターが転がっているではないか。

これはっ!

きょろきょろと周りを見て、アスカがまだ更衣室から出て来ていないことを確認すると、
ささっとそれらを拾い上げ中を覗く。

「!!!」

神の恵みとはこのことだろうか、10本くらいのタバコがまだ入っているではないか。
シンジは涙を流して神に祈りたい気持ちになった。

神様ありがとーっ。
可愛そうなぼくの為に。

とにかくこのお宝は鬼に見つかってはいけない。今すぐ吸いたいが、それは自殺行為。
今は我慢して、急いでポケットの中にしまい込む。急がば回れだ。

「あっ。シンジぃ。待ったぁっ?」

「わーーーーーーーっ!!!!!!!!!」

背後から声を掛けられ、のけぞって飛び上がる。心臓が飛び出そうにバッコンバッコン
爆音を奏でてしまう。

「なによ。急におっきな声出してっ。びっくりするじゃない。」

「あ。ご、ごめん。急に声かけるから。」

どうやら気付かれていないようだ。なんとかして、この場は怪しまれないように冷静さ
を装わなくてはいけない。

「ア、アスカ・・・そ、そのさ。今日の服、似合ってるね。」

「えっ???」

一瞬、目が点になるアスカ。

「そ、そうかな?」

点になった目をシンジから自分の服に下ろし、今日着てきたカットソーとパンツをはに
かみながら眺めたりしている。どうやら話を誤魔化せたようだ。

「似合ってる・・・と思う?」

「うんうん。」

「シンジ? 公園でも寄って帰らない?」

「公園? どうしたの? いいけど・・・。」

ご機嫌な様子のアスカに手を引かれ、今日は真っ直ぐ家には帰らず公園に寄ってから帰
ることになりそうだ。

<公園>

公園にに付くと、アスカは噴水の水に手をパシャパシャと浸して喜んでいた。きょろき
ょろと視線を巡らせると、すぐ近くにトイレが見える。チャンスかもしれない。

「アスカ? あそこのトイレ行ってくるから。」

「わかったわ。」

「待っててね。」

「うん。」

もういっときたりとも無駄にしたくないという感じで、急ぎトイレへ駆け込んで行く。

やっと。
やっと吸える。

あまり綺麗とは言えない公衆便所の入り口を潜ったシンジは、個室へ入りタバコに火を
付けた。

スパー。

あーーー。
ずっと我慢してたもんなぁ。
なんておいしいんだ。

スパー。

やっぱり、タバコだけはやめれないよ。
アスカにはわからないんだ。

スパー。

至福の時とはこのようなことを言うのかもしれない。シンジは満足気な顔で、個室を煙
でいっぱいにしタバコを吸い続ける。

ずっとトイレにいたら怪しまれるよな。
そろそろ戻らなくちゃ。

1本のタバコを吸い満足したシンジが、個室の扉を開けた。

「わーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」

その扉のすぐ目の前に、鬼のように目を吊り上らせたアスカが仁王立ちしているではな
いか。腰を抜かさんばかりに驚き、ひっくり返りそうになる。

「な、な、な、な、なんでっ!!!」

「ハンカチ持ってないんじゃないかって、持って来てあげたのよっ!」

「そ、そんなぁ・・・。」

「信じてたのにっ!」

「ごめん・・・。」

「シンジのバカーーーーーーっ!!!! ガンになって死んじゃえばいいんだっ!!!」

殴られるかと思って身構える。が、衝撃は一向にこなかった。どうしたのかと、おずお
ず目を開けると、涙をいっぱいに溜めたアスカが、プイと顔を逸らして走り出す。

「アスカ・・・。」

残されたシンジは、ただその場に呆然と立ち尽くし、どうしてもやめることのできない
タバコをくしゃりと握り潰すのだった。

<ミサトのマンション>

罪の意識にかられながら家へ帰り付いたが、この後どんな顔をしてアスカに会えばいい
のか戸惑いながらとぼとぼと家の中へ入る。

「あっ。シンジぃぃ。おかえりぃ。」

「あっ。え?」

まだ泣いて怒っているかもしれないと思っていたのに、明るく笑顔で出迎えられ逆に引
いてしまう。いったい何があったというのだろう?

「ごめんね。シンジぃ?」

「な、なにが? え?」

「無理してタバコをやめさせようなんてしたから、辛かったのね。」

「あ、いや・・う、うん。」

なにがなんだかわからない。とにかくこの優しい態度のアスカが恐くて仕方がない。

「禁煙パイポくらいじゃ、無理なのね。よくわかったわ。」

「う、うん・・・。」

「だからさ、これからはタバコが吸いたくなったらアタシに言って。」

「タバコ・・・吸っていいの?」

「いいから、アタシに言いなさい。わかったわね。」

「うん・・・。」

返事はしたものの、何がなんだかわからない。もしかして吸いたいなどと言ったら、鉄
拳制裁が待っているのだろうか。

どうしよう。
言うの怖いな・・・。

今まで散々タバコを吸うなと言ってきたアスカである。素直に吸いたいなどと言ってい
いものだろうか。

そんなこんなで、困惑しながらも時は過ぎ夜になった。

「ごちそうさま。」

夕食を食べ終えたアスカは、インターフェイスヘッドセットを取り、歯を磨き、寝る用
意を始める。

タバコ吸いたいな・・・。

リビングで食器を洗って後片付けをしていたシンジは、タバコが吸いたいと言っていい
ものかと、チラチラとアスカの方に何度も視線を送る。

「なによ?」

どうやら、視線が気付かれたようだ。

「あ・・・べつに。」

「なに? タバコが吸いたいわけ?」

「いや・・・その・・・少し。」

「ばっかねぇ。それならそうと早く言いなさいよ。」

「いいの? タバコ吸っても?」

「ダメに決まってるでしょ。」

「・・・・・・・そう。」

わずかに期待していたが、やっぱり駄目なんじゃないかと、がっくりする。だったらな
んでいちいちアスカに言わなくちゃいけないんだろうか。

「新しい禁煙パイポ、用意しといたわよ。」

「また、禁煙パイポか。」

あれではどうも吸った気にならない。どうやらそれがタバコを吸わないアスカにはわか
らないらしい。

何かと思えばまた禁煙パイポかと、更にがっかりしてしまう。

「シンジっ、こっち向いて。」

「ん? なに?」

ちゅぅぅぅぅぅぅ!

突然アスカが抱き付いて来たかと思うと、同時にその柔らかい唇をシンジの唇にくっつ
け、おもいっきりキスをしてきた。

「わーーーーーーーーーーーーーっ!」

びっくりして飛びのくシンジ。

「もう。何してんのよ。」

「だ、だって・・・。」

「禁煙パイポじゃダメなんでしょ?」

「そ、そうじゃなくて、ど、どうして、どうしたんだよっ!? い、いきなりっ!」

「だからっ! 禁煙パイポのかわりに、禁煙アスカをあげるってのよっ。」

「き、禁煙アスカぁぁぁーーーっ!!!??????」

「吸いたくなったらいつでも言ってね。禁煙アスカを吸わしてあげるからっ!」

「えっ、えーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!????????」

目をパチパチして、いったい何が起こっているのかすぐに理解できないシンジに、ニコ
リと笑ってアスカはまた寝る支度を始める。

新しい禁煙パイポ?
禁煙アスカ?
そ、それってっ!!?

パニックになった自分の頭を必死で整理する。

「・・・・・・。」

こ、これは。もしかして・・・。
本当に、タバコやめれるかもしれない!

寝る用意も終わり、夜のニュースが始まった頃、ミサトが仕事を終え帰宅してきた。

「シンちゃーん。加持がドイツ製のタバコ、お土産に買ってきてくれたわよん。いる?」

「ミサトっ! シンジにタバコ薦めるなっつってるでしょっ!」

「あっらぁ。我慢は体によくないわよん。わたしだって、ビールは我慢してないでしょ。」

「アンタと一緒にしないで。」

どうもミサトは奔放なのか、保護者としての自覚がないのか、シンジがタバコを吸って
いても注意すらしない。アスカにとっては非常に困った存在である。

「シンちゃん? どうするの? いるの?」

「すみません。もうタバコやめたんです。」

「またまたぁ。そんなこと言っちゃってぇ。いっつも3日坊主じゃない。」

「今度はたぶん大丈夫です。禁煙アスカがあるんで。」

「禁煙アス・・ん? なにそれ?」

何のことだろうだろうと、きょとんとしながら荷物を部屋に置きミサトがリビングへ戻
って来ると、彼女の夕食の用意をしたシンジが自分の部屋へ戻ろうとしていた。

「あ、あの。アスカ? 寝る前に・・・。」

「また吸いたくなったの?」

「うん・・・。」

「なにしてんの? 2人とも?」

なにやら、怪し気な2人だけの世界に入っていくシンジとアスカを、エビチュ片手にぼ
ーっと眺めるミサト。

ちゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!

リビングの端でいきなりアスカと唇を合わせ、口を吸い出すシンジ。仰天したミサトは、
口をあわわわわと開いて指さした手をばたばたと振る。

「シ、シンちゃんっ! アスカっ! なにしてるのっ!」

「だから、タバコが吸いたくなったら、アスカを吸うことにしたんです。」

「なんですってぇぇっ!」

「じゃ、おやすみなさい。」
「おやすみぃ、ミサト。」

「あががーーーーーーーーーーーーーーっ!!!?」

あまりのことに、開いた口が塞がらずビールをボシャボシャとよだれのように零し続け
るミサトであった。

翌朝。

いつも起きるより少し早い時間、なにやら気配を感じてアスカが目を覚ますと、そこに
はベッドで寝ている自分に覆い被さり覗き込んでいるシンジの姿があった。

「きゃっ! ア、アンタっ! 勝手に人の部屋にっ!」

「だって・・・寝起きってタバコ吸いたくなるから。」

「へ? あー、そうなの? もうしょうがないわねぇ。来なさいよ。」

シンジの頭を両手で抱き締め、自分の体を少し浮かせて顔をくっつけると、唇と唇を合
わせる。

ちゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!

「どう? もういい?」

「まだ・・・かな。」

「しょうがないわね。」

一旦顔を離すが、まだシンジが満足できてなかったようなので、再び唇を吸わしてあげ
る。

ちゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!

長い時間重なる2人。

「朝は長いのね。」

「うん・・・。もうちょっと。」

ちゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!

5分程ベッドの上で抱き合い禁煙アスカを吸っていたシンジも、ようやく満足したのか、
部屋から出て朝ご飯と弁当の準備を始めた。

<学校>

なんだかんだ言ってもやはり未成年なので、さすがに今迄学校でタバコを吸ったことは
なかったが、どうしても弁当を食べ終わると吸いたくなるもの。

タバコ・・・吸いたいな。
今迄、学校じゃ吸えなかったけど・・・。
禁煙アスカならいいかな?

トウジ達と一緒に弁当を食べていたシンジだったが、椅子を立ちヒカリと一緒に席をく
っつけているアスカの元へと近寄って行く。

「あの・・・アスカ?」

「もうぉぉ。また我慢できなくなったの?」

「う、うん。いいかな?」

「ほらぁっ。」

椅子を立ち上がったアスカは、クラスの真ん中でシンジに抱き付くや、そのやわらかい
唇をそっと押し付けてくる。

ちゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!

目を剥いたのは、目の前に座っていたヒカリ。

「いやーーーーっ! アスカぁぁぁぁっ! なにしてんのーーっ!」

モロ、まん前で禁煙アスカを吸うシンジを見てしまい、ヒカリ絶叫。

「せ、せんせーーーっ! なにしとんやぁぁぁぁぁっ!!!!」
「いやーーーんな感じっ!」

トウジやケンスケを始め、クラス中の男子も女子もパニック状態。

「ごめん。ちょっと我慢できなくて・・・・。」

シンジはさらりと言ってのけると、またアスカを吸い出す。なにが『ちょっと我慢でき
なくて』だっ!・・・と、シンジを殴りたくなる男子も数名。

「もういいよ。アスカ。」

「そう? またいつでも言ってね。」

何事もなかったかのように唇を放し自分達の席へ帰る2人に、仲の良いクラスメート達
が輪を作って集って来た。

「せんせー。いきなりなにすんねや。」
「碇っ。お前、いつも惣流とあんなことしてるのかっ!?」

目を血走らせてトウジとケンスケが迫って来るが、禁煙アスカを吸って満足したシンジ
は、のほほんと答える。

「いつもじゃないよ。ご飯の後とかさ。」

「ご飯? なんやて?」

タバコを吸っている人間ならわかるが、食事の後など体がどうしてもタバコを求めてし
まうものである。

「うん。体が勝手にアスカを求めるんだ。」

「な、な、なんやてーーーーーっ!!!」
「碇っ! 裏切りもーんっ!!!!」

何か少しの勘違いが交じったのか、ズザザザザとシンジの周りから人が引いて行く。そ
の男子達の目は、羨ましげであったり、羨望の眼差しであったり、はたまた嫉妬に狂っ
た目であったり・・・。

一方アスカの方は。

「アスカ。アスカ。教室でなんてことするのよ。」

「これもシンジの為だもん。」

「碇くんの為って、なに言ってるのよ?」

「毎日シンジの体がアタシを求めるから、答えてあげないとダメなの。」

ズザザザザザっ!!!

女子の方は男子の10倍くらいの速度で、潮が引くようにアスカから遠のいて行く。

「そ、そう・・・はは、アスカはもう大人なのね。」

引き攣るヒカリ。

「どうしたの?」

きょとんとするアスカを前に、ヒカリ達はこれ以上立ち入ったことを聞いてはいけない
と、腫れ物を触るような目でアスカを見ているのだった。

そんな毎日が1週間程続いた。

寝起き、アスカの布団の中で・・・。

ちゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!

食事の後は必ず・・・。

ちゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!

休憩する時も・・・。

ちゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!

それに伴い、日が経つに連れシンジはタバコを吸いたいと思わなくなってきた。禁煙が
成功したのである。

だが。

シンジは気付いていなかった。この禁煙方法には、世にも恐ろしい副作用があり、日に
日にシンジの体を虫食んでいることに。

そう、禁煙アスカにはとんでもない副作用が・・・タバコどころか、覚醒剤すら足元に
も及ばない、強烈な中毒性があったのだっだっ! 嗚呼、恐ろしい。

1時間目の授業中。

「アスカぁぁ、もう駄目だよぉ。」

「またなのぉ? しょうがないわねぇ。」

アスカが『んーーー』と顔を上げると、授業中であるにもかかわらずシンジはその体を
抱きしめ禁煙アスカを吸い出す。

ちゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!

「碇君っ! 授業中ですよっ! いい加減にしなさいっ!」

「もう、アスカがいなくちゃ我慢できないんだぁぁっ!」

ちゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!

朝からひっきりなしにこの調子。

授業など全く進まない。

それどころか、毎日、四六時中この2人に見せつけられるクラスメート達は、いい加減
死にそうになってきている。嗚呼、恐ろしい。

昼休み。

「お弁当食べ終わる迄、我慢できないよぉぉぉっ!」

「アタシもぉぉぉ。あーーん、シンジぃぃ。早くぅぅ。」

ちゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!

更に、この副作用はシンジ本人だけでなく、禁煙アスカ自体にも伝染するという世にも
恐ろしいものだった。嗚呼、恐ろしい。

「アスカぁぁっ! 早くトイレから出て来てよぉぉっ!」

「シンジぃぃ、おトイレの時間も我慢できないのねぇ。」

「アスカーーーーっ! 好きだぁぁぁぁっ!」

「アタシも大好きぃぃぃぃっ!」

トイレから大急ぎで飛び出てきたアスカは、そのまま女子トイレの前でシンジにダイビ
ングし唇を重ねる。

ちゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!

更に更に、この副作用は感染症を引き起こし、2人にはもうラブラブハートを心の奥に
隠すだけの気力すら残っていなかった。嗚呼、恐ろしい。

当然こんな2人に、学校中の生徒は誰も近づかなくなってしまい、伝染病患者のごとく
隔離状態。嗚呼、恐ろしい。

<通学路>

学校へ行く時も、帰る時も、2人の調子は変わらなかった。

「アスカぁぁぁ。もう駄目だぁ。」

「アタシもぉぉ。」

ちゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!

ようやく唇を離し、2,3歩くと。

「アスカぁぁぁ。もう駄目だぁ。」

「アタシもぉぉ。」

ちゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!

この副作用のせいで、登下校も時間がかなりかかるようになってしまっていた。その上、
人目も気にできなくなり、街の人達も近づかなくなってしまった。嗚呼、恐ろしい。

<ミサトのマンション>

そして、とうとう2人は別々に寝ることもできなくなってしまった。

いつしかシンジの体は、睡眠の8時間もの時間を、禁煙アスカなしでは耐えられない程
虫食まれていた。

「アスカぁぁぁ。もうぼくはアスカ無しでは生きていけないよぉぉ。」

「アタシもシンジとちゅぅできなくなったら、死んじゃうぅぅぅ。」

ちゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!

一晩中キスをして抱き合いながら眠る2人。あまりの副作用の酷さに、耐え切れなくな
ったミサトが家出したとかなんとか・・・。嗚呼、恐ろしい。

ちゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!

「アスカぁぁ、もう放さないよぉぉ。好きだぁぁ。アスカ好きなんだぁぁっ!」

「シンジぃぃぃ、大好きいぃぃぃぃっ! もっとぉ。もっと吸ってぇぇぇぇっ!」

ちゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!
ちゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!
ちゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!






とはいえ。

こうしてシンジは禁煙に成功した。

タバコがやめれないみなさん? 1度この禁煙方法を試してみてはいかがでしょうか?

ただし、後遺症が残っても責任は持てません・・・。

fin.
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