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The King of Jungle
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<南米ジャングル>

弐号機と共にドイツから日本のネルフ支部へ向かう途中、極秘任務を言い渡されたアス
カは、独り南米のジャングルへと足を踏み入れていた。

ったくっ!
なんで、このアタシがこんなことしなきゃいけないのよっ!

ネルフの総司令たるゲンドウの命令である為、逆らうわけにもいかず、ついつい愚痴を
こぼしたくなる。

それくらい自分でしなさいよねっ!
何考えてんのよっ!

本来この任務は、ゲンドウ本人がすべきことではないのかと思うと、更にイライラもつ
のってくる。

シュルルルルル。

足下を何かが横切った。耳を澄ますと何かが這っている様な音がし、ガサガサと辺りの
草が揺れている。

「へ、へびぃ?」

シュルシュルシュル。

音がだんだん大きくなり、近くの草が揺れ始めた。しかも、その数は周りの状況からす
るに1匹ではなさそうだ。

「いっ、いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

次の瞬間、考えるより先に行動したアスカは、一気に走り出しその場から逃げ出した。
すると、直ぐに何かにゴツリとぶつかる。

「えっ? 碇司令??」

うっほうっほうっほ。

「いやーーーーっ! ゴ、ゴリラーーーっ!」

またしても考えるより先に、一目散に逃げ出すアスカ。道無き道を掻き分け、ただひた
すらスタコラスタコラ逃げて行く。

「ふぅ〜。びっくりしたわ。」

汗を拭うアスカ。

ブーーーン。

ようやく一息付けるかと思った時、なにやら耳元で煩い音が聞こえてきた。視線を上げ
ると、凶暴そうな蜂がいっぱい飛んでおり、直ぐ側に巣があるではないか。

「いっやーーーーっ! 蜂ーーーーっ!!!!」

息付く暇もなく、またまたスタコラスタコラ逃げて行く。もう足は疲れ切っており、さ
すがのアスカも泣きたい気分になってきていた。

ザーーーーーー。

そして、ようやく一息つける滝坪の横までやってくる。

「はぁぁぁぁ。」

溜め息をつきながら、滝壺の近くにある大きな石に腰を降ろす。ここなら見渡しも良い
ので、そうそう危ないこともないだろう。

「ったく。さんざんよっ! なんでアタシがこんなことしなくちゃいけないのよっ!」

天才少女。エヴァンゲリオンのパイロット。エリートとして育てられた彼女が、なぜこ
こにいるのか。

それは、ただ1つの指令書が原因であった。

”本部へ移動する途中。ジャングルに忘れてきたサードチルドレンとなる息子を拾って
  来てくれ。”

もちろんこんな指令にアスカは反発したが、彼女が拒否すると他の誰かがジャングルへ
行かなければならなくなる。嫌である。

そこで、加持を始めとするスタッフが、無理矢理アスカをここへ送り込んだのだ。

「もぉぉ。早く帰りたいよぉぉ。サードチルドレンは何処よぉぉ。」

ポケットから送られてきた写真を取り出してみると、5歳の頃の碇シンジの姿が写って
いる。その写真を最後に、ゲンドウがジャングルに忘れてきたので最近の写真は無い。

「こんな昔の写真でわかるかーーーーっ!!!」

半ば自棄気味になっていたアスカは、ビリビリとその写真を破いてぶつけようのない怒
りを体全体で表す。

「ヒゲおやじのバカやろーーーーっ!!!!」

誰もいないので言いたいことを思いっきり叫んだ時、何かが川辺の森の中でガサガサと
動いた。

「ひっ! だ、誰さんっ?」

ガサガサガサ。

辺りに覆い茂った草が揺れ動き、ノシノシと何かが近付いて来る気配が、ひしひしと感
じられる。

「か、体の大きそうな人ねぇ・・・。だ、誰かしら・・・。」

たらーーー・・・と冷や汗を流しながら、目を凝らして暗い森の中を神経を集中してじ
っと見つめる。

ガオーーーーーーーッ!!

熊であった。

「いやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

またしても、考えるより先に体が動いてしまい、スタコラ逃げ出した。が、熊は逃げて
いけなかったのだ。

ガオーーーーーーーッ!!

「イヤぁぁぁぁっ! 来ないでーーーーーっ!」

ガオーーーーーーーッ!!

「来ないでったらぁぁぁぁあっっ!」

全速力で木と木の間を擦り抜け逃げ回るアスカの後から、大きな体で追い掛けて来る凶
暴そうな黄色い熊。

「だ、だずげでーーーーーっ!」

半べそを掻いて逃げるアスカの真後ろまで熊が迫ってきた。ピンチである。その時・・・。
木の上から蔦を伝って、鉄の腕輪をした見知らぬ少年が飛び降りて来た。

「止めるんだっ! プー。」

ドッサーーー。

もう駄目だと思って思いっきり転んでしまったアスカの後ろで、今まで追い掛けて来て
いた熊は突然現れた少年に叱られ始めた。どうやら、熊も彼の命令には従う様だ。

「ごめんね。大丈夫?」

「大丈夫じゃないわよっ! いたたたた。ん? あーーーーーっ! アンタはもしかしてっ!」

「ぼく? ぼくはこの森で暮らしてるんだ。」

「も、もしかして、アンタが碇シンジ?」

先程写真で見た男の子の面影がある少年が、目の前に立っているではないか。しかも、
こんな所で暮らしてる少年など他にそうそういるはずもない。

「さぁ、小さい頃この森に迷い込んじゃったんだけど、だいぶ前だから忘れちゃったよ。」

「何歳くらいの時?」

「うーん。5最くらいだったかなぁ。よく覚えてないや。」

アスカの顔がパーーーと明るくなった。この少年さえ連れて帰れば、都会へ戻れるので
ある。

「アンタよっ! 写真の面影があるわっ!」

「なにが?」

「アタシと来んのよっ! い、いたっ!」

そそくさとシンジを連れて帰ろうと、立ち上がり掛けたアスカだったが、足を挫いてい
るらしく上手く立ち上がれない。

「怪我、してるの?」

「いたたたた。その熊のせいよっ!」

「ごめんね。謝るんだっ。プー。」

シンジは熊のプーさんに謝まらせると、アスカをゆっくり抱き上げた。

「なっ! なにすんのよっ!」

「ぼくの家で手当するよ。」

「いいわよっ!アタシは直ぐ帰りたいのよっ!」

「駄目だよ。悪くなっちゃうよ。」

言うこともきかずアスカを抱き上げたシンジは、ひょいと木に登り近くにぶら下がって
いる蔦を1本手にした。

「しっかり掴まってるんだよ。」

「ちょ、ちょっとっ! な、何する気よっ!」

「あーーーああーーーっ!」

「キャーーーーーーッ!」

こともあろうかシンジはアスカを抱いて、蔦を片手に木から木へ飛び移り始めたのだ。
あまりの恐怖にひっしとシンジに抱き付くアスカ。

「うぅぅぅぅ。」

しばらく目を閉じて身を固くし、ぎゅっと抱き付いていたアスカだったが、しばらくす
るとその浮遊感にも慣れてきて目を開ける余裕が出る。

「すっごい・・・。」

シンジがしっかり抱きかかえている為、体も安定しあまり怖さを感じない。危なくない
とわかると、景色を見る余裕なども出てくる。

わーーーっ。おもしろーい。
まさか、コイツがあの有名なターザンなのかしらっ?
そうよっ!きっとそうだわっ!

アスカは生まれて初めて会った有名人のターザンらしきシンジに、感激するのだった。

<シンジの小屋>

そこは木の上に作られた小さな小屋だった。中に寝かされたアスカは、怪我した所の手
当を受ける。もっと原始的な生活をしているのかと思っていたが、薬などがある様だ。

「その薬どうしたの?」

「たまに街で買い物するんだ。」

「へぇ。そうなんだ。」

ちょっとした新発見に、目を丸くして驚くアスカ。最近のターザンは、意外と文化的な
様である。

「これでよし。」

「ありがと。」

その時、小屋がガサガサと揺れた。びっくりして体を起こしたアスカだが、それより先
にシンジが小屋から顔を出して下を見下ろす。

「静かにしなくちゃ駄目じゃないか。」

ウッホウッホ。

「駄目だよ。今日はお客さんがいるから遊べないよ。」

ウッホウッホ。

下を見ると子供のゴリラであった。可哀想に、シンジに断られたゴリラはトボトボと何
処へともなく帰って行く。

「こんな所に、君みたいな娘が来るなんて始めてだな。」

「そうよっ! 誰の為に来たと思ってんのよっ!」

「どうしたの?」

「アンタのパパが、探してるのよっ!」

「えっ? 父さん? ぼくを?」

「そうよっ! だから、アタシと一緒に帰るのよっ!」

「そうかぁ。 会いたいな。どんな素敵な父さんなんだろう・・・。」

忘れてしまった父を想像し、希望に胸を膨らませるシンジ。その様子を見たアスカは、
親子の対面をさせようとしている自分に、わずかならず罪悪感を感じる。

カサカサ。

その時、アスカの足下に何かフサフサしたものが触った。何だろうと、視線を足元に降
ろすと黒い毛の長いたわしの様な物が動いている。

「な、な、なにこれーーーっ!」

「あぁ。ぼくのペットのタランチュラだよ。」

「タラン・・・いやーーーーーーーーーーーっ!!!!」

「こら。脅かしちゃ駄目じゃないか。」

シンジはタランチュラをちょいと持ち上げると、木の枝に付けてやる。しかし、アスカ
の顔はもう真っ青だった。

「も、もうイヤッ! 1秒たりともこんな所に居たくないわっ! さっさと行くわよっ!」

「そうだね。ぼくも父さんに会ってみたいよ。」

こうして運良く初日にシンジを見つけることができたアスカは、また木の枝を伝いジャ
ングルを出て行くのだった。

<ジャングル近辺の町>

森を抜け道らしき道が出てきた所に、1台の単車が止めてあった。シンジはその単車に
近付くと、横に掛けてあったヘルメットをアスカの頭に被せる。

「ア、アンタ。バイク乗れるの?」

「うん。買い出しに行く時とかに使ってるんだ。」

「へぇ。そんなんだ。」

最近のターザンはかなり進んでいるんだなと、ますます関心してしまう。

「何処へ行けばいいのかな?」

「港まで行けば、オーバー・ザ・レインボーっていう軍艦があるわ。」

「わかったよ。その前にお腹が減ったから、ご飯でも食べて行こうよ。」

「そうね。」

単車に乗りシンジの背中に掴まるアスカ。シンジが単車を走らせると、アスカの髪が風
になびき、2人は町へ向かって行った。

町の中心まで来ると、都会ではないもののジャングルよりも遥かにマシで、飲食店らし
き店もちらほら見え始めた。

「あの店が美味しいんだ。」

「へぇ。そうなんだ。」

「あそこでいい?」

「わかんないから、まかせるわ。」

余程お腹が減っていたのか、そそくさと店に入って行こうとするシンジ。アスカも後を
付いて店へ入ろうとしたその瞬間、得体のしれないジープが目の前に止まった。

「あっ!」

そこから何人かのテロリストらしき男達が出て来たかと思うと、アスカをジープの中に
捻じり込む。

「いやーーーーーーーっ!!!」

悲鳴を聞いたシンジが振り返った時には、既にジープは走り出していた。シンジは慌て
て単車にまたがると、ジープを追い掛け始める。

その後、しばらくカーチェイスを繰り返したが、最後の最後でシンジは巻かれてしまい、
アスカは人里離れたコンクリートのビルの一室に押し込まれた。

なんとかして逃げ出さなくちゃ。
でも、どうしよう。
アタシをチルドレンだって知ってたみたいねぇ。

この建物に入る時、あちこちに銃火器などが大量に置いてあった。おそらくはチルドレ
ンをネタに何かたくらむテロ集団だろう。

どうしよう・・・。

なんとか逃げ出す方法は無いかと鉄格子の付いたガラスの無い窓から外を見るが、とて
も無理そうである。

ブルルルル。

その時、窓の外から単車の音が聞こえてきた。音のする方に目を向けると、自分を探し
に来たシンジであった。

「シンジーーーーーっ!」

腕を伸ばして手を振ると、どうやら気付いてくれたようで近くに単車を止めて近寄って
来る。

「やっとみつけたよ。今助けに行くよっ!」

「ちょっと待ってっ! 相手は銃を持ってるのよっ!」

「大丈夫さっ。」

「いくらターザンでも、やられちゃうわよっ! やめてっ!」

「ターザン? ぼくはターザンじゃないよ。」

「アンタは知らないだろうけど、世界の人はアンタのことをそう呼んでるのよ。」

「とにかく、助けに行くよっ!」

「相手は銃を持ってるんだってばっ! ここは森じゃないのよっ! シンジーーっ!」

しかしシンジはアスカの言うことなどきかず、そそくさと走って行ってしまった。その
あまりの無謀さに、シンジの走って行った方を唖然と見続けるアスカ。

あのバカ・・・。
森じゃ王者かもしれないけど・・・無茶よ・・。

それからやきもきする数分が経過した時、部屋の向こうでドタドタと騒がしい音がし始
める。

「シンジっ! シンジっ!」

慌てて鍵の掛けられた扉に駆け寄り耳を澄ましていると、足音が近づいて来た。

「シンジっ! シンジっ!」

ガタン。

扉が開きシンジが姿を現す。どうやら追われているようで、後ろから銃声も聞こえてく
る。

「逃げるよっ!」

「アンタっ! むちゃくちゃよっ! どうやって逃げるつもりよっ!」

廊下は一方にしか通じておらず、その向こうからは銃を持った体の大きな男達が迫って
来ているのだ。袋の鼠とはこのことだ。

「いくらターザンでも、逃げれるわけないでしょっ!」

「だから、ぼくはターザンじゃないんだって。」

「わっかんない奴ねぇ。みんなはアンタのことを、そう呼んでるのよっ!」

「違うって言ってるだろっ!」

「そうなのよっ!」

ドドドドドド。

しかし、そんな言い争いをしている場合じゃない。黒服の男達が近づいて来てしまった。

「とにかく逃げるよっ。いいね。」

「どうやってよ。」

その時、シンジの腕にはめられていた腕輪がキラリと光りを放った。

それと同時に、体の前で両手を交差させるシンジ。

「アーーーマーーーゾーーーン!!」

次の瞬間、仮面ライダーアマゾンにシンジは変身したのだ。

「あ、あ、あんた・・・。アンタが、アマゾンライダーだったの?」

「だから、ターザンじゃないって言ったろ?」

「す、すごい・・・。」

仮面ライダーアマゾンは、アスカを連れて迫ってくる黒服の男達に向かっていく。

「コンドルジャンプっ!
  アマゾンライダーキックっ!」
  うぉぉーーーーっ! 大切断っ!!!!!」

普通の服を着た人間は仮面ライダーにはかなわず、簡単にやられるものだ。テロリスト
達は、一気に仮面ライダーアマゾンにやられてしまった。

「ご飯食べたかったけど、他の仲間が追い掛けて来たら困るし・・・先に港へ行こうっ!」

「いいわっ。」

ふと見ると単車までアマゾンライダーが乗るジャングラーに変身しており、赤いエラみ
たいなものが生えていた。

か、かっこいい・・・。

その格好良さに感動するアスカ。

「いくよ。早く乗って。」

「ええ・・・の、乗りにくいわねぇ。このバイク・・・。」

「じゃ、前に乗るといいよ。」

「そうね。」

後ろのシートの両脇にエラが生えてしまい、乗りにくかったので、アスカは仮面ライダ
ーアマゾンに抱きかかえられる様に、シートの前に乗っかった。

キャーーっ! シンジがアマゾンライダーだっただなんてっ!
スーパーヒーローと仲良くなっちゃったわぁぁぁ。

しばらく走ると、港が見えてきた。アスカは、今はもう元に戻ったシンジの背中に嬉し
そうにへばりついている。

アマゾンライダーと一緒に日本に行けるなんて・・・。
すごいわぁ。
そうだわ、これはアタシとシンジだけの秘密にしよっと。

「ねぇ、シンジ?」

「何?」

「日本じゃ、シンジがアマゾンライダーってこと言っちゃ駄目よ。」

「どうして?」

「日本じゃ、仮面ライダーはいじめられるのよ。」

「えーーーーーーーーっ!」

「わかった?」

「そ、そうなんだ。恐いんだね。日本って。」

「アタシも黙っておいてあげるから、その代わりアタシをずっと守るのよ?」

「うん。わかったよ。」

やったっ!
これで、シンジもアマゾンライダーもアタシのものよっ!

ジャングルやテロリストに恐い目にあわされたアスカだったが、オーバー・ザ・レイン
ボーを前にして、今は笑顔一杯、幸せ一杯であった。

fin.
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