------------------------------------------------------------------------------
ラブリ〜プレゼント
------------------------------------------------------------------------------

<ミサトのマンション>

春から夏にかけて陽気が漂うぽかぽかした6月6日の朝、いつもはおねぼうなアスカも、
何を思ったか目覚ましがけたたましく鳴る前からムクリと起き上がり、おめめをゴシゴ
シ擦り出す。

「むむっ!?」

大きなお猿さん模様の時計に目を向けると、そこに並ぶは今日という特別な日を表すデ
ジタルの文字。

「シンジのお誕生日よーっ!!」

がばっと布団から飛び起きると、まだ早起きのシンジすら寝静まっている時間から、い
そいそとシャワーを浴び始める。乙女には朝から身嗜みが大切なのだ。

「ふん♪ ふん♪ ふん♪」

ジャーーー。

「ふん♪ ふん♪ ふん♪」

ジャーーー。

シャワーから出る水の音と体や頭を洗う忙しない音が、バスルームからジャバジャバと
聞こえてきた。

「完璧ねっ! るんっ♪」

お風呂から出てきたアスカは、自慢の長く綺麗な髪をブーンとドライヤーで乾かす。髪
はつやつや、お肌もつるつるぴっかぴか。

「さぁっ! いよいよ出番よっ!」

今日のために用意しておいた、ラブリーバースデースペシャルバージョンの服を身に纏
う。初めて袖を通す赤いワンピース。靴下ももちろん赤。頭には大きな真っ赤なリボン
をつけている。

「むむっ!?」

ニコニコしながら鏡を覗き込むと、そこには完璧にドレスアップした自分の姿が映って
いる。パーフェクト!

「出来たのよッ! お誕生日プレゼント完成ーーっ!!!」

準備は万端。シナリオ通り。残るはシンジに渡すだけ。トコトコトコとリビングを通り、
シンジの部屋へ入って行く。

プレゼントというものは、起きた時に枕元にあると効果バッチリなのだ。戸を開けシン
ジの部屋の忍び込んだアスカは、早速その身を寄せて布団の中に潜り込む。

準備は完了! 後は、シンジの目覚めを待つばかり。

クスクス。
目が覚めたら最高のお誕生日プレゼントにびっくりするんだからっ!

起きたシンジがプレゼントになったアスカを見て、嬉しさのあまりびっくりする様を思
い浮かべると、自然とニヘラニヘラと顔が綻んでくる。

早く起きるのよ。
もう朝なのよ。

布団に潜り込んでもう12秒も経っているのに、なかなかシンジは起きてくれない。気
の短いアスカは、だんだんと我慢できなくなってくる。

早く起きて欲しいのにぃっ!

待ちきれなくなったアスカは、じれったそうに布団の中でぎゅっとシンジに抱きつく。

「ゲホゲホ。」

むっ?
シンジが起きそうよっ!

シンジを抱き締めたまま、ひとまずじっと大人しくしていると、目をしょぼしょぼさせ
始めた。どうやらそろそろ起きてくれそうだ。

「う、うーーん・・・。」

起きたっ!
お誕生日おめでとうなのよぉぉっ!!!

ぎゅーーーっとシンジに抱き付き、どんぐりのようにまるまると開けた青い瞳で、くっ
つかんばかりに顔を近付け覗き込む。

「シンジぃぃぃっ! お誕生日プレゼントなのよーーーっ!」

「うっ、うっわーーーーーーーーーーーっ!!!!」

目覚めと同時にアスカのドアップ。しかも布団の中で抱き合っている自分を発見したシ
ンジは、悲鳴をけたたましくあげる。

「な、な、なにしてんだよっ!!!!」

「プレゼントよーっ! ア・タ・シを貰ってぇぇーーーっ!!」

「わぁぁっ!! ちょ、ちょっとっ!! とにかく、ぼくから離れてよっ!!」

「だめだめよっ! アタシはシンジのモノになったのよぉッ! いつも一緒なのよっ!」

布団からバタバタと逃げ出そうとするシンジに全身で抱きつき、ガバっと押し倒したア
スカが乗りかかって羽交い絞め。

「うわーーーーーっ! 助けてっ!!!」

「今日から、アタシはシンジのモノになったのよぉぉぉっ!!!」

「なんでそうなるんだよっ!!!」

「お誕生日プレゼントだからなのよぉぉぉっ!!! シンジぃっ! すきすきぃっ!」

「うわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

なんだか、シンジの悲鳴が聞こえているが、まぁいいだろう。こうしてアスカは6月6
日の誕生日に、シンジに貰われていくことになったのだった。

                        :
                        :
                        :

朝ご飯の時間。

今日もシンジは葛城家みんなのご飯をせっせと作っている。それはいつもの光景なのだ
が、ただ1つ違うのは一時も離れずアスカがシンジの腕にぶら下がっていること。

そんな様子を起きてきたばかりのミサトが、エビチュ片手に先程からジト目で見ている。

「なにしてるの? シンジくん・・・。」

「あの・・・これは。」

「シンジのベットで、アタシはシンジのモノになったのよぉぉっ!!!」

顔を赤らめるアスカの発言に、ミサトはエビチュの缶をコロコロとその手から落とし顔
を真っ青にする。

「シンジくんっ!! アスカに何したのっ!!!!」

ミサトの3倍くらい顔を青くするシンジ。

「ち、ちがうんですっ! これはなにかの間違いでっ!!」

「間違いを起こしたですってっ!!!」

「ちがうんですってばっ!!!」

「言い逃れするつもりっ!? 自分のやったことには責任を取りなさいっ!!!」

「だからっ! 朝、強引にアスカがぼくのモノにとかなんとかっ!」

なんだかとんでもない方向へ話が進んでいるのではないかと、シンジは朝ご飯作りどこ
ろではなくなり必死で言い訳を繰り返す。

「強引にアスカを自分のモノにしたですってっ!!!!」

「目が覚めたら、アタシとシンジは抱き合ってたのよーっ。」

「ち、違うだろっ!」

「違わないもんっ! ほんとだもんっ!」

「本当だけどっ、そんな言い方したらっ!」

「シンジくんっ!!!!」

ミサトのコメカミが、ピクピクと震える。

「ちがうんだーーーーっ!! 目を覚ましたのがぼくで、アスカがっ、わー!! どーな
  ってんだっ!!!」

「アタシの体はぜーんぶ、シンジのモノになったのよぉぉっ!!!」

「わぁぁっ! アスカーーっ! 何言うんだよっ!」

「とにかくわたしはネルフへ行くけどっ! これ以上アスカに酷いことしたら承知しな
  いわよっ!」

かなり怒った様子でミサトはそう言い捨てると、ネルフへと出掛けて行った。残された
シンジは、口の中でモゴモゴ言うことしかできない。

「シンジ? ミサトもアタシ達のこと、祝福してくれてたわねっ!」

「・・・いや、だから。・・・しくしく。」

なんとなくミサトに大きな誤解をされたような気がしたシンジは、涙を流しながら朝ご
飯を食べるのだった。

<墓地>

今日は誕生日の報告も兼ねて、ゲンドウと一緒に母であるユイの墓参りをすることにな
っていた。この大事な行事に遅れないよう、約束の時間に合わせここへやてきたのだが。

「シンジ・・・なんだ、それは。」

「あの、アスカだけど。その・・・。」

「墓参りに、なぜ弐号機パイロットを連れて来る?」

今日は家族での墓参りということで、ゲンドウとシンジの2人だけでユイの墓前に立つ
ことになっていた。ゲンドウ自身も諜報部員すら敷地には入れていない。にもかかわら
ず、シンジはアスカをぶら下げて来たのだ。

「やっぱり、アスカ・・・あの、お墓の外で待っててくれないかな。」

「ダメよ。アタシはシンジのモノになったのよっ! いつも一緒なのよっ!」

「シンジ・・・デートがしたいなら、帰れっ!!!」

「ち、違うんだ。ぼくはお墓参りに。」

「では、それはどういうことだっ。」

腕にぶら下がり、べったりくっついているアスカを睨むゲンドウの顔が怖い。余程、神
聖なユイの墓前に、浮ついた気持ちで来たように見えるシンジが腹立たしいのだろう。

「お母様の前で、婚約するのよーっ!」

「な、な、な、なに言い出すんだよっ! アスカっ!!!」

「シンジぃ〜、婚約のキスよーーーっ!」

「わーーーっ! 違うんだっ! 父さんっ!!」

「ユイの墓参りが嫌なら帰れっ!!!」

シンジに抱き付きキスしようと纏わりつくアスカを前に、とうとうこめかみに青筋を浮
べ、怒りも露にゲンドウが怒声を上げる。

「違うんだっ! 父さんっ! 違うんだってばっ!!!」

「帰れっ!!!!!」

「・・・しくしくしく。」

とうとう墓参りもできず墓地から追い出されたシンジは、涙を流しながらアスカをぶら
下げてフラフラと街に出て行くのだった。

<小川沿いの道>

ゲンドウと墓参りができなかったシンジは、不機嫌そうな顔でアスカと並び小川沿いの
道を歩いていた。

「だからお墓参りには付いて来ちゃ駄目だって言ったじゃないか。」

「アタシはシンジのモノなんだもんっ!」

「なんでそうなるんだよっ。」

「だってだってぇ、アタシはお誕生日のプレゼントなのよぉっ! いつも一緒にいるん
  だからぁぁ〜。」

「だからって、いつも一緒にいなくたって。」

「いやぁぁぁぁっ! ずーーっとシンジと一緒なのっ!!!」

いやいやしながらアスカは両手をブンブン振って大暴れする。その大きく振り回した手
が思いっきりシンジに当たってしまった。

「あっ!」

突然のことに体勢を崩し小川に向かって倒れて行くシンジ。なんとか体勢を立て直そう
とするが、砂地の道で足場も悪くシンジはそのまま体を小川へ倒してしまう。

「シンジーーーーっ!!!」

アスカが地面を蹴る。

宙に飛び出したシンジの体目掛けて、おもいっきりジャーーーンプ。がっちり、宙に浮
いてシンジの体を抱き締めた。

バッシャーーーーン!

2人は抱き合ったまま小川の中に沈んで行く。

シンジぃぃ。
シンジぃぃ。
苦しいぃ・・・。

ゴボゴボゴボ。

息ができなくなってバタバタしていたアスカの体が、急にふわりと浮き上がる。目をぱ
ちぱちさせると、すぐ前にシンジの顔が見え、息ができるようになっていた。

「なんてことするんだよ・・・。」

「だってだってぇぇ。」

「アスカまで飛び込んでくることないだろ?」

「アタシはシンジのモノなのよっ。シンジといつも一緒なのっ!!」

「はぁー。」

溜息をついてシンジが呆れ顔になる。その顔を見たアスカは、怒られるのではないかと
ビクビクしながら、自分の体を抱きかかえてくれているシンジの顔を見上げる。

「馬鹿だなぁ。そんなに無理しなくても、ぼくはいつもアスカと一緒だったじゃない?」

「シ、シンジぃぃぃ〜っ。」

ニコリと微笑み掛けてくれたシンジの首に両手を回し、おもいっきり抱きついてその顔
を胸に埋める。

「だから、我侭言ばっかり言っちゃ駄目だよ。」

「シンジぃぃ、しゅきしゅきしゅきぃぃぃっ!」

「わっ、そんなに暴れちゃ歩けないよ。」

「だって、こんなにいっぱーい好きなんだもーん。」

「ぼくも、アスカのこと好きだよ。だからじっとして。」

「アタシもだーーい好きぃっ! だい好きのチューーーよぉっ!」

「えーーっ! いやだよ。こんなところで。」

だっこしていたアスカがキスしようと全身で抱き付いてきた為、小川から上がろうと川
の中を歩いていたシンジがふらつく。

「人がいるじゃないか。駄目だからねっ。」

「ぶーーーーっ!」

一生懸命顔を近付けようとしたものの、キスをして貰えそうにないので、ほっぺたを大
きく膨らましている。

「ほら、じっとして。早く帰ってお風呂に入らないと風邪ひいちゃうよ。」

「大丈夫よっ! シンジとくっついてるから、とーってもあったかいもーん!」

「ぼくも濡れてるから、そんなに暖かくないだろ?」

「ほらほら、こんなにぽっかぽかぁ。」

ぎゅーっとシンジの胸にほっぺたを押し付け、幸せそうに上目遣いでアスカが見上げて
くる。

「シンジのハートがぽっかぽかなのぉぉっ!」

ようやく川から出ることができたシンジは、風邪をひく前にお風呂に入って着替えよう
と、ミサトのマンションに向かって歩き出した・・・その時だった。

第3新東京市全域に非常事態宣言の警報が鳴り響く。

「アスカっ! 使徒だっ!」

「真夏の太陽のように燃えるアタシとシンジの愛で、使徒をやっつけるのよっ!」

お風呂に入っている場合などではないようだ。2人は大急ぎでネルフ本部へと向かうこ
ととなった。

<ネルフ本部>

ネルフに到着すると、シンジとアスカそしてレイに出撃命令が下された。地上には黒と
白のシマシマ模様の球体が、ビルとビルの間にぽっかりと浮かんでいる。

「アタシもシンジと一緒に初号機に乗るのよっ!」

「駄目だよ。アスカ。」

「ずーーーっと一緒って約束したもーんっ!」

「使徒が来てるのに、そんな困ったこと言わないでよ。アスカは弐号機で出なきゃ。」

「む・・・アタシはもうシンジを困らせたりしないのよ。弐号機で出ればいいのね。」

キリリと顔を引き締めたアスカは、シンジに言われた通り自分の弐号機のエントリープ
ラグに入って行く。先程の一件でシンジの気持ちがわかり安心したのだろう。

『エヴァンゲリオン発進っ!!』

ミサトの命令と共に3機のエヴァが出撃して行く。地上に出たエヴァは、3方向からレ
リエルを囲むように、アンビリカルケーブルをひきずって包囲網を狭める。

「いやぁぁん。シンジから遠くにリフトオフされたじゃないっ!」

地上に出たアスカは、自分の位置とシンジの位置がかなり離れていることを知るや、大
慌てで初号機目掛けてダッシュ。

「アタシはいつもシンジと一緒なのよぉぉぉっ!」

その頃シンジはパレットガン片手に、球体の使徒に向かって兵装ビルの間を全力で疾走
していた。

「見えたっ!」

使徒を肉眼で捕らえると兵装ビルの陰に初号機の身を隠し、パレットガンを構え照準を
合わせる。

アスカと綾波はっ?
・・・綾波が遠い。

アスカはこちらに向かって猛突進して来ているようだが、射出位置が悪かったレイがま
だ追いついていない。

「足止めだけでもっ!」

レリエルがこれ以上進行すると民家のある地域に差し掛かる危険性がある。ここはひと
まずレイが追いつく迄の足止めだけでもしようと、使徒に向かってパレットガンを発射。

ガン! ガン!

弾丸が使徒を捕らえた・・・と思った瞬間、それまで目前に見えていた白と黒のシマ模
様の球体が空中から姿を消した。

「な、なんだっ!?」

同時に足元に広がる黒い影。その影に初号機の足がズブズブとの底なし沼に迷い込んだ
かのように、飲み込まれ始める。

「わっ! なんだこれっ!? どうなってんだよっ!」

手足を動かしなんとか抜け出そうと必死でもがくが、もがけばもがくほど初号機の体は
黒い陰に飲み込まれてしまう。

「どうなってんだっ!?」

「シンジーーーーーーっ!!!」

胸のあたりまでどっぷりと黒い影にその体を浸してしまった初号機の目に、赤いエヴァ
の駆け込んで来る姿が映し出される。

「来ちゃ駄目だっ! アスカッ!!!」

「シンジーーーーーっ!!!」

「アスカッ! 来るなーーーーッ!!!」

だが、シンジの言うこともきかず、弐号機はガバッと覆い被さるように初号機に抱きつ
いてきた。それと同時に、弐号機も初号機と共に黒い影に飲み込まる。

そして、2体のエヴァは地上から完全に姿を消してしまった。

暗い無の世界。

ディラックの海の中でぽつりと浮かぶ2体のエヴァ。

「なんて無茶するんだよっ!」

「アタシはいつもシンジと一緒だもん。」

「来ちゃ駄目だって言ったじゃないかっ!!」

「だって、アタシはシンジへのプレゼントだもん。 いつもシンジと一緒にいるのっ!」

「ここは小川じゃないんだっ! 死んだらどうするんだよっ!!」

「天国でも、地獄でも、アタシはずーーっとシンジと一緒なのーーーっ!!!」

「アスカ・・・。」

しばし黙り込んでしまうシンジだったが、今度は落ち着いた様子でゆっくりと弐号機の
エントリープラグ内にいるアスカが映る通信モニタに向かって口を開く。

「とにかく、この世界から抜け出す方法を考えよう。」

離ればなれにならないように弐号機の腕をしっかりと掴みつつATフィールドを展開し、
この闇の世界の端を確かめようとするが、持てる力の全てを出し切っても全くそれらし
い手応えがない。

「駄目だ・・・・。何かいい方法が思い浮かぶまで、生命維持モードに切り替えよう。」

「わかったのよ。」

2人して生命維持モードに切り替える。無論、そうなれば通信をお互いにすることもで
きなくなり、孤独な時間が始まる。

シンジぃぃ、独りぼっちなのよぉ。
シンジぃぃ、寂しいのよぉ。
シンジぃぃ、お話できないのよぉ。

シンジぃぃ。シンジぃぃ。シンジぃぃ。

一生懸命1人で頑張っていたアスカだったが、とうとうシンジのいないこの空間に我慢
できなくなってきたようだ。

そうだわっ!
シンジのエントリープラグへ行けばいいのよっ!

そう思うが早いか、アスカは早速エントリープラグの射出準備を始める。ここから出て、
初号機のエントリープラグへ入れば、ずっとシンジと一緒にいることができる。寂しく
ない。

ガチャ。ガチャ。ガチャ。

「むっ!?」

だが、エントリープラグ射出のレバーを引くが何も反応しない。なにかのロックが掛か
っており射出できないようだ。

ガチャ。ガチャ。ガチャ。

「むむむっ!?」

ガチャ。ガチャ。ガチャ。

「いっ、いっやぁぁぁーーーーーーーーっ!!!!!!!!」

ガチャ。ガチャ。ガチャ。

「シンジっ! シンジっ! シンジっ! シンジっ! シンジっ! シンジっ!」

どう頑張ってもシンジの元へ行けないことがわかったアスカは、涙をLCLの中に飛び
散らせエントリープラグの中で大暴れを始める。

「シンジっ! シンジっ! シンジっ! シンジっ! シンジっ! シンジっ!」

錯乱状態であちこちのスイッチをいじり倒すが、やはり何も反応してくれない。

「シンジっ! シンジっ! なにか言って欲しいのよぉぉぉっ! そ、そうだわっ!」

生命維持モード解除ボタンに目がとまる。このボタンを押せば再び弐号機が起動し、通
信ができるようになるはずだ。

「シンジぃぃぃぃぃっ!!!!!」

思うが早いか、そのボタンを押す。弐号機の体の自由が回復しエントリープラグ内が明
るくなると同時に、内部電源の残り時間を示すタイマがまた回り出す。

一方、初号機のエントリープラグ内で静かに脱出方法を考えていたシンジは、突然初号
機に衝撃が走り驚いて俯いていた顔を起こした。

「なんだっ!?」

敵が来たのかもしれないと驚いて生命維持モードを解除する。するとモニタにはアップ
で映し出される弐号機の顔、通信スピーカからはけたたましいアスカの声が入って来る。

「シンジっ! シンジっ! シンジっ! シンジっ! シンジっ! シンジっ!」

大声を上げながら、アスカの操る弐号機は必死で初号機に抱き付いてきている。

「な、なにしてんだよっ!!!!」

「シンジぃぃぃぃっ! もう独りはイヤぁぁぁぁっ!!!」

「駄目だよっ! 内部電源がすぐなくなるよっ!」

「いやぁぁっ! ずーーーーとシンジと一緒がいいのぉぉっ!」

「お願いだから落ち着いて!」

だがいくら言っても、アスカは必死で初号機に抱き付き大声で叫び続けるだけ。内部電
源が尽きるとアスカの命に関わる為、なんとしても落ち着かせなければならない。

「ずっと一緒だから。ね、安心して。」

優しくモニタの向こうに映るアスカに声を掛けながら、初号機で弐号機を抱き締めてあ
げる。するとだんだんアスカも落ち着いてきたのか、初号機をしっかりと抱き締めなが
ながら大人しくなってきた。

「ぼくの言うこと聞いて。お願いだから。」

「ぐす。ぐす。・・・うん。」

「生命維持モードに切り替えて、もうちょっと待っててくれないかな? きっといい方
  法があるとおもうんだ。」

「ぐす・・・わかったのよ・・・。でも、でも、それじゃ、ちゅーして欲しいのよ。」

「えーーーーーーーーーーーっ!!!! エヴァでぇぇぇぇっ!!!!?」

「お願い・・・。」

だがそうこう言っている間にも、どんどん内部電源の残りタイムのカウントがダウンし
ていく。迷っている時間もなく、シンジは初号機で弐号機にキスをした。

「シンジぃぃ、ありがとぉぉ。」

「このまま、生命維持モードに切り替えるからね・・・・・・ん?」

1秒でも早く生命維持モードに切り替えようと、エヴァ同士でキスしたままシンジがス
イッチに手を伸ばした時だった。動かしてもいないのに、初号機がモゾモゾと動き出し
たのだ。

『シンジ・・・やめて・・・。』

なんだ?

キスさせた2体のエヴァが勝手に動き、お互いに離れようとしている。ここで離れては
またアスカが暴れだしかねないので、初号機をまた弐号機に抱きつかせようと動かす。

『シンジっ。お願いだからやめてっ。キョウコとキスなんて嫌っ。』
『ユイさんっ、何をするのっ! あなたは変態だったのっ!?』
『違うのよっ! キョウコっ! わたしはそんな趣味はないのよっ!』

変な思念が頭に流れ込んでくる。ぼやっとしていて思念の内容は不明だが、この瞬間シ
ンジはこれまでの経験からあることに思い至った。

こ、これは・・・もしかして暴走!?

今、何が起こっているのかはわからないが、エヴァが暴走するととてつもなく大きな力
が発動することだけは知っている。それも、どうやら今回は初号機と弐号機が同時に暴
走しそうなのだ。

「アスカっ! 生命維持モードは中止だっ!!」

「どうしたの?」

「キスだよっ! キスするんだっ!」

「ほんとっ!? それならいーーーっぱいするのよぉぉっ! ラブラブになるのよっ!」

ぶちゅーーーーーーーーっ!

濃厚なキスを始める初号機と弐号機。だが、何者かの別の力が必死で初号機と弐号機を
引き離そうとしている。

「いやぁぁぁぁぁっ!! シンジと離れないのよーーーーーーーーっ!!!!」

「ぼくだって、アスカを離すもんかぁぁっ!」

『いやーーーーっ! ユイとのラブシーンなんていやぁぁぁぁぁぁっ!!!』

『シンジっ! 母さんはノーマルなのよぉぉぉっ!!!!』

ぶつかり合う2つの力。だが、シンジとアスカのラブパワーは強烈で、暴走したエヴァ
をも捻じ伏せ、しっかと抱き合いキスしたまま互いに離さない。

あらん限りの持てる力を出し切って、抱き締め合う2体のエヴァ。

そのあまりにも強い抱き締め合う愛の力に、とうとう12000枚の特殊装甲ですら亀
裂が入り、2体のエヴァのエントリープラグが1つに繋がる。

「アスカぁぁぁっ!! さぁ、ぼくの胸に飛び込んでおいでぇぇっ!」

「シンジぃぃぃっ!! スキ、スキ、スキぃぃぃっ!」

両手を広げ1つに繋がったエントリープラグの中で抱き合うシンジとアスカ。それに合
わせて2体のエヴァもしっかと抱き合うが、ユイとキョウコの抵抗も必死で抵抗を続け
る。

その鬩ぎ合いの対立が増せば増すほど、強大な力がエヴァに芽生えて行くのが手に取る
ようにわかる。アスカとシンジのラブラブパワーがエヴァの力を増強させているようだ。

「アスカーーっ! もっともっと、ラブラブになるんだぁっ!」

「2人で愛のオペラを奏でるのよぉぉっ!!!」

「あぁ、アスカの体ってなんて柔らかいんだぁっ!」

「あーん、シンジぃぃ、もっと抱き締めてぇぇっ!」

背中に手を回し両手で抱き締めるシンジの手の平に、アスカの柔らかい背中の感触が伝
わって来る。

『キャーーーっ! ユ、ユイっ! 背中に手を這わせないでっ!』

『いやーーーーっ! これじゃぁ、母さんがレ(ピーーー)みたいじゃないのぉっ!』

シンジとアスカの動きに合わせて、エヴァ同士が背中を撫でて抱き締め合うと、その中
にいるユイとキョウコが鳥肌を立てて抵抗する。

そんなことが、エヴァの内部で起こっているなど露知らず、シンジとアスカのラブラブ
モードはまだまだ続く。

「幾万の銀河の星の輝きよりも、ぼくの愛は輝いてるよぉぉっ!」

「見てっ! アタシとシンジの愛のオーロラが、お空いっぱいに流れて行くわっ!!」

「さぁっ! 行こうっ! 愛のオーロラの世界へっ!!」

「アタシのラブなハートが、シンジの溢れる蜂蜜のような甘い愛に惹かれるのぉっ!」

ちゅーーーーーーーーーーっ!!

キスをしたまま互いに愛を語り合い抱き締めるシンジとアスカ。

内部電源のカウンタは回りきっているのに、エヴァは起動を停止せず強烈な抵抗を繰り
返すが、2人の愛の力の前になす術がない。

『いやーっ! ユイっ! 変態っ! 離れてっ! 女同士なんていやーーーーーーっ!!』

『母さんを変態にしないでぇっ!!! シンジぃぃっ! やめてーーーーっ!!!!』

『アスカっ! もうやめてっ!!! ユイとキスはいやぁぁぁぁっ!!!』

『キョ、キョウコの唇の感触が・・・助けてぇぇぇぇぇぇっ!!!!』

はっきりとわからない、あやふやななんらかの思念がシンジとアスカの中に流れ込んで
くる。もう少しで暴走が頂点に達しそうだ。

「この世が終わりを告げるまで、ぼくはアスカを抱き締め続けるよっ!!!」

「いやっ! いやっ! 世界がなくなっても、神様がいなくなっても、アタシ達はずーー
  ーーっと一緒なのよぉぉっ!!」

「そうだっ! ぼく達の愛は永遠だったんだっ! 永久に沈まない太陽のように、ぼくの
  愛は燃え続けるよっ!」

「シンジが太陽なら、アタシは幾夜も続く満月のようにその愛を受け止め続けるわぁっ!!」

『イヤーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!
  永久にキョウコとキスし続けるなんてイヤーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!』

『タスケテーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!
  このアブノーマル変態地獄からタスケテーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!』

2体のエヴァが同時に暴走の頂点に達した。

ドッカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!!!

想像を絶する力がディラックの海の中で暴発。

初号機と弐号機の頭上に光が輝く。

それと同時に、通信にミサトとリツコの声が入って来た。

『何が起こったのっ!』
『まだ、何もしていないわよっ!』
『シンジくんはっ!? アスカは無事なのっ!!!?』

砕け散るレリエルの球体の中から、ドサリと落ちてくる1つに繋がった初号機と弐号機。

その2体は・・・。

しっかりと抱き合っていた。

「アスカの愛のウェーブが、ぼくの心を駆け抜けていくよぉぉぉっ!!!」

「あーん。アタシのハートも共鳴してブルブル震えてるのよぉぉぉっ!!!」

「アスカの震えるハートが、ジンジン伝わってくるよっ! ぼく、もう駄目だぁっ!」

「いやーーーん。シンジぃぃぃぃっ! 大好きぃぃぃぃぃいいいいっ!!!」

こめかみに#マークをいくつも浮かばせるミサトとリツコ。

「駄目ですっ! エヴァ2機とも精神汚染されていますっ! 壊れていますっ!」

計器を読み取ったマヤが、顔を真っ青にして絶叫する。

「もう駄目なのね・・・。」

ぼそりとレイが唯一のセリフを呟いた。

『空中で待機する爆撃機に命令!』

眉間にいくつも皺を寄せて、ミサトが国連軍に指示を出す。

『現存するN2を全てあの2体に叩き込みなさいっ!!!』

だが、2人の愛のオーラが作り出す強大なATフィールドを破ることはできなかった。

「体が折れるくらい抱きしめてぇっ!」

「絶対に離すもんかぁ。アスカはぼくのモノだぁっ!」

「アタシの全てはシンジのモノよぉぉっ! お誕生日プレゼントなのよぉぉっ!」

「アスカぁっ! 好きだぁっ!」

「アタシも、スキ、スキぃぃっ!」

いつまでもいつまでも、キスを続ける2人。

その後、なにやら使徒が何度か来たようだが、2人が展開する愛のATフィールドの前
になすすべなく倒れていったのだった。

その裏で自分達の愛する母親が、変態行為を続けさせられ、白目を剥き泡を吹いていた
という事実は伏せておこう。

fin.
作者"ターム"へのメール/小説の感想はこちら。
tarm@mail1.big.or.jp
inserted by FC2 system