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ミサトなんかだいっきらい!
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作者注:この小説は、”遊園地での初デート”の続編です。そちらからお読み下さい。
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<ミサトのマンション>

遊園地での初デートを切っ掛けに、シンジとアスカの仲は急速に進展し、現在2人は恋
人に一歩足らずという関係となっている。何が一歩足りないのかというと、どちらも正
式に告白していないというだけで、事実上は恋人同士の様な生活を送っていた。

今日は6/5。アスカ運命の日の前日である。
シンジからの告白をいつまで待っていても埒があかないので、我慢しきれなくなったア
スカは、明日のシンジの誕生日に自分から告白しようと決心したのだ。
そして、今日は学校の帰りにヒカリ経由でシンジの連れ出しをトウジに頼み、自分自身
はさっさと家に帰って、ケーキやプレゼントなどの事前準備をしている。

「ウキーーーー!!! な、なんで形にならないのよ!!!!!」

只今ケーキ作りの真っ最中。
スポンジは一度分離させてしまったものの、2度目でなんとか完成したのだが、生クリ
ームがどうやっても固まらずどろどろしている。

「もうすぐシンジが帰って来ちゃうじゃないのよ!!! さっさと固まりなさいよ!」

プレゼントはシンジが欲しがっていた最新式のヘッドホンステレオ。こちらのラッピン
グは終わり、冷蔵庫の上の目の届かない所に隠してある。あとはケーキだけなのだが・・・。

ガチャッ。

「ただいまーー。」

シンジ帰宅。

「ゲッ!!!」

こんな、N2爆雷投下後の様なキッチンを見られたら、明日のもくろみが早々にばれて
しまうばかりか、自分の品位まで疑われかねない。

「シ、シンジ! ちょっとそこで待ってなさい!!! 動いたら死刑よ!!!」

「どうしたの??」

トコトコと廊下を歩いてくる音が聞こえてくる。アスカはエプロンを引っぱがすと手に
ついている生クリームをぺろりとなめると、廊下に飛び出した。

「うわっっあ!!」

廊下をトコトコと歩くシンジの真ん前に、ものすごい勢いで飛び出してきたアスカに、
腰を抜かさんばかりに驚くシンジ。

「人の顔を見て驚くんじゃ無いわよ、失礼ね。ミサトがネルフへすぐ来てほしいって言
  ってたから、今からすぐに、直ちに、即座に行きなさい!!」

「ミサトさんが?」

「そうよ! 急用みたいだったから急ぎなさい!」

「こんな時間になんだろう?」

「いいから、さっさと行く!」

「うん・・・。」

シンジは、もうすぐ日も暮れる様な時間だというのに、なぜ自分だけが呼び出されたの
か納得いかないまま、ネルフへと向った。

シンジ・・・ごめんね。明日ちゃんと誤るからね・・・。

それから、1時間の格闘の結果、ようやく手作りケーキ完成。そのケーキは、生クリー
ムといちごでトッピングされており、スポンジは2段重ね。スポンジとスポンジの間に
はチョコレートクリームでハートマークが書かれているのだが、これは誰にも見せない
愛情の隠し味。

「さーて、シンジが帰って来るまでに後片付けをしとかないとね。」

ガチャ。

ゲッ!!! もう帰ってきたの?

「ただいまぁ。」

しかし帰ってきたのはミサトだった。アスカは慌ててケーキを箱に詰め、冷蔵庫の奥に
隠す。

「あら? 何これ?」

ケーキは隠せたものの、爆発したキッチンの後片付けまでは当然間に合わない。

「あぁー、これはね、ヒカリ達とお菓子を作ってたのよ。すぐ片付けるわ。」

「ふーん。それよりシンちゃんは?」

まずい!

「ん? えーと・・・それより、さっさとビールでも飲みなさいよ!」

「ビール?」

「はいはい。飲んだ飲んだ。」

アスカは、カシュッカシュッカシュッカシュッと、1リットルのエビチュを一気に4本
も開けてミサトの前に差し出す。

「ちょっと、アスカ? 何よこんなに。」

「どうしたの?」

「こんなに一気に飲めないわよ。」

「あーーーら。天下のミサトともあろうお方が、ビール4本で根をあげてるの? あん
  まりたいしたこと無いのね。もう歳なのかしらぁ?」

「ぬ、ぬわんですってぇ!! いいわよ! これくらい飲んでやろうじゃない!!」

ニヤニヤするアスカの前で、『歳』に過剰反応したミサトは1リットルのビールを一気
飲みして見せる。

グビグビグビグビグビグビ。

「すっごーーーーーい。じゃ、次はこれね!」

「え・・・。」

「あら? 1本だけなの?」

「そんなわけ無いでしょ! 見てなさい!」

グビグビグビグビグビグビ。

2リットル制覇。

グビ・・グビ・・グビ・・・グビ・・・グビ・・・グビ。

さすがに3本目は、一気はしなかったが、なんとか3リットル制覇。そして、4リット
ル目の途中で、とうとうミサトは、だらしない格好で寝てしまった。

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                        :

「ただいまぁ。」

キッチンも片付け終わり、ミサトが完全に泥酔した頃、シンジが帰宅した。

「あ、シンジ。おかえり。」

「ネルフに行ったら、ミサトさん帰ったって言ってたよ?」

「そうなのよ。どこかで飲んで帰ってきたみたいで、もう寝ちゃってるわ。」

「えーーーーーーーひどいよ。人を呼び出しといてぇ。」

「まぁ、いいじゃない。ご飯にしましょ。」

時間も遅くなってしまったので、シンジは2人分の簡単な晩御飯を作るとアスカと仲良
く食べた。

夜中。

「あーーーー、気分悪ぅぅ・・・。」

夕方に寝た為、夜中に目が覚めてしまったミサトは、キッチンで水を飲んでいる。

「なんだか、アスカにけしかけられて飲みすぎたわ・・・。お腹も減ったし・・・。」

空腹を満たそうと冷蔵庫を漁るミサト。

「!!!」

夜は更けて行く。

翌朝。

「あ、おはようございます。」

今日、学校は休みだが、いつもの習慣で早起きしてきたシンジは、ケーキを摘みながら
ビールを飲むミサトを発見する。

「あら、シンちゃん。つまみ作ってよ。ケーキじゃなんだか物足んなくってねぇ。」

「はい。いいですけど、そのケーキどうしたんです?」

「アスカが昨日作ったケーキの余りじゃないかしら?」

「へぇ、アスカが・・・。」

「そうそう、何か摘みが無いかなぁって探してたら、こんなのがあったわよ。」

ミサトが手にしたのは、最新式のヘッドホンステレオだった。ラッピングは既に剥がさ
れている。

「こ、これどうしたんです?」

「こないだ加持が忘れて行ったんじゃないかしら? 貰っちゃいなさいよ。」

「いいんですか?」

「いいのいいの。どうせ、あいつは音楽なんてめったに聴かないんだから。加持にはシ
  ンちゃんにあげたからって言っとくわ。」

「ありがとうございます。これ、前から欲しかったんですよ。」

                        :
                        :
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「昼ごはんの材料が無いんで、コンビニまで行ってきます。」

「いってらっさい。」

シンジが出かけた後、ミサトは残りのケーキを食べ出す。その時。

「おはよ・・・・・・・・・・!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

部屋から出てきたアスカが、ケーキをむさぼるミサトの姿を発見し、その場で愕然と立
ちすくむ。

「ア、ア、ア・・・アンタ・・・。そ、それ・・・。」

「あ、アスカ。このケーキ、なかなかよくできてておいしいわよ。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

もうアスカの口からは、言葉が出てこない。ただ怒りのオーラを全身に纏い、体をぶる
ぶると震わせるだけである。

ツカツカツカ。

ミサトの目前に、鬼の様な形相で歩み寄るアスカ。

「ん? どうしたの?」

バーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!

平手を一発ミサトに食らわしたアスカは、涙をこらえてリビングを出て行こうとしたが・・・。

「!!!!!」

足元には、昨日アスカがヘッドホンステレオをラッピングした紙が丸まって転がってい
た。

「ミーーー・サーーー・トーーー!!!」

突然なぜアスカが怒ったのかわからないミサトは、頬を押さえてアスカの方へ振り向く。

ドカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!

「ミサトなんかだいっきらい!!!!!!!」

アスカはグーでミサトの頬を殴りつけると、ミサトのマンションを飛び出して行った。

<公園>

ひどい・・・。

アスカはブランコに乗って、泣いていた。今日はシンジの誕生日。全てが終わってしま
った気がして、涙がぽろぽろと落ちてくる。

今日のパーティーのシナリオを何日も前から考えた。
告白の言葉もいろいろと考えた。
プレゼントも何がいいかデパートを見てまわった。
ケーキの作り方も一生懸命勉強した。

でも、水の泡。
アスカは、顔をずっと地面に向けたままブランコに揺られている。

<ミサトのマンション>

「もぅ、なんなのよあの娘はぁ。いきなり殴り掛かってくるなんて・・・。」

その頃ミサトは、アスカに殴られた頬を水で冷やしていた。

「ただいまぁ。」

「あ、シンちゃん。おかえりなさい。」

「どうしたんです?」

「わからないわよ。そのヘッドホンステレオが包んであった紙をアスカが見たとたん、
  殴りかかってきたのよ。」

「え?」

包み紙を手に取るシンジ・・・。

「これに包んであったんですか?」

「そうよ。」

「もしかして、これ・・・。」

「どうしたの?」

「今日、ぼくの誕生日なんですよ。」

酔いどれたミサトの頭が、一気に鮮明になる。それと同時に、心を闇が支配する。

「ミサトさん! アスカはどこですか!?」

「玄関から出て行ったわ。シンちゃん・・・おねがい・・・。」

「探してみます!」

シンジが包み紙を手にして飛び出して行った後には、自分の食い散らかしたケーキをじ
っと見つめるミサトが残されていた。

<公園>

ミサトなんか! ミサトなんか!!!!!

悔し涙も枯れた頃、アスカは拳を握り締めて奥歯を噛み締めていた。

アタシがどれだけ苦労して、準備したかも知らないで!!!
あのケーキにどれだけの想いが込められていたかなんて、知りもしないで!!!

すっくと立ち上がるアスカ。

ちくしょーーー!! こんなことで負けてたまるもんですか!!
ケーキは無くなったけど、まだ終わって無いわ!!

アスカは、決意も新たに拳を握り締めながら、ミサトのマンションへと帰って行った。

<ミサトのマンション>

アスカがミサトのマンションに帰り着くと、ミサトの姿はどこにも見当たらなかった。
シンジは、アスカを探しているので、まだマンションには帰ってきていない。

よし、まだ間に合うわ。ケーキの材料も少しなら残ってるから、小さなケーキくらいな
らなんとか作れそうだし。

アスカは、ほんのわずかに残っているケーキの材料をかきあつめると、小さなケーキを
作り出した。

ガチャ。

「だ、誰?」

シンジが帰ってきたのかと、びっくりしたアスカは玄関を覗くが、人の姿は見えない。

気のせいだったのかしら?

再び、小さなケーキ作りに専念するアスカ。もう材料は残っていないので今回は失敗で
きない。一発勝負だ。

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夕方くらいになって、アスカを探し回っていたシンジが帰ってきた。

「ア、アスカ? 帰ってるの? アスカ?」

「シンジ? おかえり。ずっと前から、帰ってるわよ。」

「そ、そうなんだ・・・。はぁ、よかった・・・。」

いくら探してもアスカの姿が見つからず、焦り、困惑していたシンジだったが、家にア
スカがいたので、ようやく安堵の溜息を漏らす。

時を同じくして、ミサトも帰宅する。アスカのきつい視線がミサトに突き刺さるが、お
かまいなしにリビングへと入って来る。

ったく。どういう神経してんだか・・・。まぁ、ほっときましょ。あんな女より、シン
ジにケーキを渡さないと・・・。

「シンジ、お誕生日おめでとう。これ、誕生日のケーキよ。小さいけど食べてみて。」

「え・・・。だって・・・。」

「ほら、今できたばかりのお手製よ。」

「ア、アスカ・・・・・・・・・」

シンジが何か言おうとした時、ミサトが大きな箱を紙袋から取り出して、シンジに話し
掛ける。

「シンちゃん。お誕生日おめでとう。誕生日のケーキよ。ほら、あの有名なお菓子屋さ
  んの一番高いやつなんだから。アスカが作ったケーキとはわけが違うわよん。」

「ミ、ミサトさん!!!」

ミサトの言葉に、シンジはあわててアスカの方を振り向くと自分の作った小さなケーキ
を胸に抱いて、ミサトを睨み付けているアスカの姿が見える。
ケーキの優劣をコンテストなどで競うというのであれば、ミサトの取り出した豪華なケ
ーキの足元にもおよばない小さなケーキだ。

「ぼくは、そのケーキはいいです!」

なぜミサトがそんなことを言うのかわからないシンジは、少し困惑したが、睨み付けて
ケーキを断る。

「あら? どうして? 世界的に有名なケーキ職人のケーキよ。」

「アスカのケーキの方がいいです。」

アスカの顔に喜びの光が少し射す。

「どうして?」

ミサトが、さらにシンジに詰め寄る。

「どうしてって、当然じゃないですか!!!」

「そんなんじゃわからないわよ。ぜーーーったいこっちのケーキの方がおいしいのに。
  ねぇ、せっかく買ってきたんだから、ちょっとでもいいから食べてよ。」

「いりません。」

「どうして、そんなにアスカのケーキの方がいいの??」

「そりゃ、アスカが作ってくれたんだし・・・。」

「ん? 何? シンちゃんは、どうしてアスカが作ってくれたケーキが食べたいの?」

「だから・・・ぼくはアスカが・・・。」

ふと、シンジがアスカの方を見ると、アスカは小さなケーキを胸に抱いたまま、澄んだ
サファイヤの様な瞳を期待に輝かせ、無言でシンジの黒曜石の様な瞳をを見つめていた。

「ぼくは、アスカのことが好きだから・・・。」

まさか、シンジから先に聞けるとは想っていなかったその言葉。サファイヤの瞳から小
さな涙が溢れ出す。ケーキを乗せている皿と、皿の上に乗るフォークが、アスカの手の
震えでカチカチと音を立てる。

「そういうことですミサトさ・・・ミサトさん?」

アスカから視線を外しミサトの方へ振り返ると、外へ出ていったのか、ミサトの姿も豪
勢なケーキも見当たらなかった。

ミサトさん・・・。そういうことですか・・・。

シンジは、アスカの方へ向き直ると、うつむき加減に涙を浮かべているアスカの顔を覗
き込む。

「シンジ・・・。」

「ケーキ、貰っていいかな?」

「ダメ。」

「え?」

「最後まで、ちゃんと言って・・・。」

「最後までって?」

「好きなのはわかったわ。それで?」

「・・・・・。」

2人の間にわずかな時間の沈黙が流れる。

「あの・・・ぼくとつきあってくれないかな?」

「シンジ?」

「何?」

「シンジから言ったんだからね!」

「え?」

「ちゃんと、責任とりなさいよ!」

アスカは、胸に抱いていたケーキをシンジに手渡すとにこりと微笑んだ。

「うん。ありがとう。」

シンジとアスカは、隣り合って座ると小さな一つのケーキを寄り添って食べ出す。

「あ! そうだ。これ・・・。」

今朝ミサトから受取ったヘッドホンステレオを、少しすまなさそうに取り出すシンジ。

「先に貰っちゃったけど・・・ありがとう。」

「気に入った?」

「うん。これ欲しかったんだ。」

「でしょう。」

「大事にするよ。」

「まったく、ミサトが勝手に渡すなんて信じられない!」

「ミサトさんも反省してるみたいだしさ・・・許してあげてよ。」

「嫌よ! ミサトなんかだいっきらい!!」

「アスカぁ・・・。」

「これみよがしに、あんな高価なケーキを買ってきてさ!」

「あれは・・・。」

「これだから、セカンドインパクト世代は芸が無くって嫌なのよね! だ・か・ら・だ
  いっきらい!!」

アスカは、シンジにもたれ掛かりながら微笑んでいた。

その夜、ミサトは帰宅しなかった。シンジとアスカの初めての誕生パーティーは、夜遅
くまで2人だけで続けられた。
アスカの誕生日まで、あと半年。その頃2人はどうなっているのだろうか?

fin.
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