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想い続けて
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<アスカの家>

今晩はパパが早く帰って来たから、家族揃っての晩御飯。みんなで楽しく夜のひと時を
過ごすはずだったんだけど、イヤな話が出ちゃった。

「来年からアスカも受験だろう? 塾へ行かなくていいのか?」

「そんなの、ちゃんとやってるからいいわよ。」

「やっていないとは言ってないぞ。でもな、受験ってのはコツがあるんだ。どうだ?
  行ってみないか?」

「いいって言ってるでしょ。」

「どうして? 折角パパが、こう言ってるのよ?」

「もうっ! ヤなのはヤなのっ!」

やだな。もうっ!
鬱陶しいご飯の時間になっちゃったじゃない。

最後迄、抵抗に抵抗を重ねたんだけど、塾に行かない理由が自由時間が無くなるじゃ説
得力がなくてねぇ。

結局、苦手な国語だけ習いに行くことになっちゃった。
鬱陶しいったらありゃしない。

ご飯の後、お風呂にちゃぽん。
すっきりっ! まだ9月は暑いもんねぇ。毎日お風呂に入んなくちゃ。

やっとお部屋で1人の時間。まだ8時。部屋にテレビが欲しいなぁ。
でもテレビはね、リビングにしか置いてくれないの。家族団欒の場とかなんとかってパ
パが言っちゃてさ。バッカみたいっ。

仕方ないからラジオでも聞こっかな。

プチッ。

野球。野球。野球。教育放送。

AMはダメね。FMは・・・うちのマンション、入り悪いんだよねぇ。
仕方無いから、ノイズ混じりだけどFM流してっと。

そうだっ、クッキーがあったんだっ。
机の引き出しを開けたら、こないだ貰ったクッキー。あったあった。
早速紅茶を入れて来てポリポリ。ベッドに横になって頬張る。おいしっ♪

今日買って来た雑誌なんかを枕に置いてぺらぺら。あるじゃん。あるじゃん。

”彼のハートを射止めよう! 大作戦!”

なになに?

”1.積極的に自分をアプローチしましょう。”

それができりゃぁ、苦労しないのよねぇ。次はぁ?

”2.悩殺ポーズで彼をメロメロにっ!”

なによこれっ! パスパスっ! 次っ次っ!

”3.彼の弱みを握って脅せば勝ち!”

なによこれぇぇーーーっ! 金返せーーーーーっ!!!

マガジンラックへ、そのままズドンっ! 買うんじゃなかった。

はぁーあぁ、碇くーん♪

大きなお猿さん模様の枕を抱いて、ベッドの上をゴロゴロ。

よっと飛び起き、机の引き出しを開けると、じゃじゃーんっ!
タイムマシンじゃないわよ。
写真立に入った碇くん。小さく写る碇くん。

明日学校で会えるかなぁ。

ラジオも聞き終わりもう9時過ぎ。今日は早めに寝よっかな。

おやすみぃ。碇くんっ♪

<学校>

「おはよぉ、ヒカリぃ。」

「あら、今日は早いじゃない。」

「昨日早く寝ちゃったから、目が覚めちゃって。」

「アスカらしいわぁ。」

親友のヒカリ。1年,2年と同じクラス。
来年も同じクラスになれたらいいね。

でも、碇くんとは同じクラスになったことないの。
来年こそはっ!
4つしかクラス無いのに、3年連続違うクラスになったらぁっ!
先生っ! 一生恨んじゃうんだからねっ!!

「ねぇ、見て見てっ! 昨日雑誌買ったの。」

「あっ!」

ヒカリが出してきたの・・・それ腐れ雑誌。

「ほらぁ。今週のアスカ。恋愛運最高よ。」

「あっ、ほんとだ。」

運勢、見るの忘れてたぁ。
そっか、最高かぁ。
何かいいことあったらいいなっ♪

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家庭科の実習。隣のクラスの女子と合同。
男子も一緒だったら、碇くんいるのにね。

家庭科室から運動場に目を向けると、体育をしてる男子の姿。

あっ! 碇くんっ♪

400メートル走なんだぁ。がんばれっ! 碇くんっ♪

パンっ!

ピストルの音が家庭科室迄聞こえて・・・碇くんスタートぉっ!

がんばれっ! がんばれっ!

鈴原が一緒に走ってなくて良かった。
あのメンバーなら勝てるっ!
碇くんは、A組とB組の男子の中で5番目に足が速い!

「あっ!」

ど、どうしてっ!? 転んじゃったよぉ。
靴?
紐が切れたんだぁっ!
血が出てるんじゃないの?

「・・・・流。」

傍にいたら手当してあげるのに。
鈴原と相田が走ってる。
アタシも行ってあげたい。

「惣流っ!」

ビクッ!

「えっ? あ、はいっ!」

あっちゃーー。
慌てて立つ。

「何処を見てたんですか?」

「あっ・・・・はい。」

「『はい』じゃないでしょ? 今、先生が言ったことを言ってごらんなさい。」

「・・・・・・。」

「どうしたの?」

「聞いてませんでした。」

「しばらく立ってなさいっ!」

「・・・・・・。」

はーぁ。
ついてないなぁ。

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今日の調理実習はケーキ。ご飯作るよりずっと楽しい。るん♪

洗ったイチゴをパックから摘まんで、クリームの上にちょんちょんちょん。
いいじゃん。いいじゃん。かわいいじゃん。

真っ白なケーキに、真っ赤なイチゴが恥ずかしそうに並んでる。
イチゴを2つ並べてみた。
これ、アタシと碇くんっ♪

「切るわね。」

「ちゃーんと6等分してね。」

「はいはい。」

班は6人。ヒカリが6等分して切ってくれる。
結構6等分って難しいのよね。
ほらほら、真ん中のケーキが大きいわよっ。
イチゴが2つ並んでるやつ。
あれは、アタシが頂きぃっ!

「よっと。これアタシのっ!」

「あっ! ずるーいっ! アスカったらケーキの時、いっつもだぁっ!」

「早い物勝ちよっ! へっへーんっ!」

ドタドタ。

廊下から誰かが走ってくる音。誰か・・・って決まってるけど・・・。

「みんな隠すわよっ!」

一斉にケーキを机の下に隠し始めるみんな。当然だ。

「おぉっ! ケーキやんけぇ。美味そうやなぁ。ワイが食ったるわっ!」

調理実習になると、必ずやって来るハイエナ。お裁縫の時は、近寄りもしない癖に。
女子のブーイングが、ブーブー飛びまくる。当然だ。

「すーずーはーらーっ! そういうことは止めなさいって、いつも言ってるでしょ。」

「ほやかて、食いたいがなぁ。いいんちょぉ。」

「みんな怒ってるのよっ!」

「ちょっとだけやがな。」

「仕方ないわねぇ。わたしのあげるから、さっさと食べて帰りなさいよっ!」

「おっ、ほうか。いつもすまんなぁ。ほんじゃ、頂いてくでぇ。」

ヒカリ・・・バカ丸出し。
っとに素直じゃないんだから・・・アタシもか。

「トウジっ。なにしてんだよ。早くしないと次の授業遅れるよ?」

えっ?
ちょっとちょっと、この声ってっ!
碇くんっ!????

わっ! 鈴原の後ろにいるじゃないのよぉ。
ア、アタシ、変な顔してなかったわよね。ね。

「ちょー待てや。今、ケーキ食っとんや。」

「もうっ。早く食べちゃってよ。」

「わかっとるがな。」

「碇君? 待ってる間、これ・・・食べる?」

ア、アイツぅぅっ!

扉から1番近い所にいた、碇くんと同じクラスの女子だ。
確か、綾波って娘。

「いいの?」

「量が多いの。食べきれないから。」

「ありがとう。じゃ、半分だけ。」

アタシもっ! アタシのもっ!

思わずケーキを乗せたお皿を持って立ち上がってしまう。

「どう?」

「うん。美味しいかったよ。」

アタシのも・・・。

1,2歩足を進ませるんだけど、そこから先に行けなくて、周りの視線が気になって・・・。

「おうっ! 食い終わったで。行くで。」

「うん。じゃ、ケーキありがとう。」

あっ!
碇くん・・・。

しゅんっ。

アタシも扉の傍の席だったら良かった・・・。

「なにしてんの? ケーキ食べるわよ。」

班の娘が声を掛けてくる。目の前には、まだ綺麗な形のままの大き目のケーキ。

このケーキ・・・。多い・・・。
半分くらいで良かった・・・。

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昼休み。アタシはヒカリと屋上へ。お弁当食べるの。

カチャ。カチャ。カチャ。

騒ぐお箸の音を耳にしながら、階段を急ぎ足。
今日もいい天気。そよ風が吹いてたら嬉しいな。

ドンっ!

「キャッ!」

廊下を駆け上がり、くるりと手摺りを軸に回った途端、何かにぶつかった。

「いったぁぁ。」

尻餅を付いて転んでしまった。
きっと目から星が出たよ。
イタタタタ。
痛いじゃないのよっ! もうっ!

「あっ、ごめん。」

「ちょっとっ! アン・・・。」

わっ!!!!
碇くんっ♪

「大丈夫?」

は、恥ずかしい・・・。
転んだ所見られちゃったよぉ。

えっ?
目の前に碇くんの手。
なに? なに?

起こしてくれるの?
握ってもいいの?
いいのよねっ!?

ぎゅっ。

握っちゃった♪

目をつむってぎゅっとその手を握ると、引っ張り上げられる感覚。

か、顔が熱い。
きっと真っ赤だ。
俯いてしまう。

「怪我無かった?」

「うん♪」

「確か、隣のクラスの娘だよね。ごめんね。」

「・・・・・・。」

隣のクラスの娘・・・。

碇くんは、アタシを起こすと、前を通り過ぎて行く。

「霧島。だから、班学習は・・・」

隣に、碇くんと同じクラス、同じ班の霧島って女の子・・・。
班学習のことで何か話してる。

あの娘は、『霧島。』
アタシは、『隣のクラスの娘。』

隣のクラスの娘・・・。
隣のクラスの娘・・・。

その日のお弁当は、美味しくなかった。

やっぱり、あの雑誌ダメ。ウソツキ。
今週の恋愛運。・・・最低。
もう買わない。

<アスカの家>

今日はなんだか、気分が暗い。
勉強する気も起きないけど、宿題だけはやっとこう。
机に向かって、数学と社会の教科書とノートを取り出す。

はぁ、なんか気が乗らないなぁ。

こういう時は、とっておきを出すしかない。
机を開けると、古いノートの2つ下にある写真立。

碇くん・・・。

部屋の扉を開けて、パパやママが近くにいないことを再度チェック。

パタン。

扉を閉めて、机に碇くんを立てる。

こんばんは。アタシの碇くん。

アタシの肩が端っこに写ってる。その横には友達2人。
そして、アタシ達の間の細い隙間。その向こうに、小さく小さく写る碇くん。

この写真は、学校の写真販売で買った。
その時、一緒に選んでた友達に言われた。

『なんで、そんなの買うの?』

『これ、アタシだもん。』

『ピンボケした肩だけじゃない。』

『いいじゃん。別に。』

いいの。
この写真はとっても貴重なの。

ピンボケしたアタシの肩と、横を向いて遠くに写る小さな小さな碇くん。

同じクラスになったことがないアタシ。クラス写真に碇くんはいない。
これが、初めて碇くんと一緒に写った写真。

小さい小さい碇くん。
でも、碇くん。

飾ることができない写真立。
いつも机の奥で横になってる写真立。
大事な大事な宝物。

『隣のクラスの娘だよね。』

きっとアタシのことなんか知らないんだよね。
でも、アタシは知ってるよ。

中学に入って初めての郊外学習。
バスが擦れ違った時、碇くんトランプしてた。
楽しそうに笑ってた。

文化祭では、左から3番目でコーラスしてたの。
ライトを眩しそうに歌ってた碇くん。
1番前でずっと見てたんだよ?
気付いてないでしょ。

体育祭でのフォークダンス。
碇くんとの距離が1人1人短くなって・・・。
曲が終わらないことばかり祈ってた。
マイムマイム。
緊張して足が縺れちゃって、迷惑掛けちゃって。覚えて・・・ないよね・・・。

1年のマラソン大会で、11番だった碇くん。
女子は先に走り終わるから、碇くんが来るのずっと待ってたんだから。
汗を左手で拭いながら走って来た碇くん。
ゴールした男子に拍手したの、碇くんにだけだったんだよ。

でもまた2年生も違うクラスだった。
ちょっと嬉しかったのは、隣のクラスになったこと。
2クラス合同の授業の時、たまに見かけることがあるもん。

ずっと碇くんの写真を眺め続ける。

『穴があく程見る。』

あの言葉、ウソ。
本当だったらとっくの昔に、この写真・・・穴だらけ。

「アスカー。ご飯よーっ!」

「今行くっ!」

宿題全然できなかった。
碇くん。狭いとこでごめんね。

パタン。

机の引き出しの閉まる音がした。

<第3新東京市郊外>

今日は土曜日。
学校の帰り道、トコトコ街の中を歩く。

「めーんどくさいなぁ」

全然乗り気じゃないが、仕方ない。

えっと、確かここね。

建物に入って、まずは受け付けに直行。

「あのぉ。惣流ですけど・・・」

「じゃ、23番に・・・これが・・・」

一通り説明され、23番と書かれた場所に座り、ぼーっと時間を潰す。
少し早く来過ぎたみたい。

時間が経つに連れ、人も増えてきた。

さって、そろそろね。
どんなことするんだろう?

ガタガタ。

授業開始ギリギリの時間に、隣の席の子がやって来た。
今日からこの塾で一緒に勉強する子。何気なく振り向く・・・。



うっ、うっそぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!



その日のうちに、ママに頼んで国語以外の教科も全部の申し込んで貰った。



<通学路>

月曜日。

「あっ、雑誌出てるわよ。」

帰り道。ヒカリが、本屋を指差す。

「あっ、ほんとだっ!」

早速その雑誌の最新号をぺらぺら捲る。

この雑誌は良く当たるんだ。
今週の恋愛運はっと・・・。



やったぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!

fin.
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