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ペンペンの気持ち
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<ドイツのアスカの家>

マトリエルを倒してしばらくした頃、アスカは去年まで通っていた大学から論文発表の
依頼があり、短期間ではあるが実家へと帰っていた。

「まったくもう、面倒臭いわねぇ。」

明日に論文発表を控えて、アスカは自室で最後の見直しを行っていた。13歳にして主
席で卒業したアスカは、皆にそれなりの目で見られている為手が抜けない。

「修学旅行は行っちゃダメって言った癖にっ。ミサトの奴、こういうことならOK出す
  んだからっ!」

乗り気でない理由は、論文発表自体より未だに修学旅行に行けなかったことを根に持っ
ている為だろうか。

「シンジとしばらく、離れ離れになるじゃないのよっ!」

修学旅行より、そっちが本心らしい。

「だいたい日本にいるアタシを、卒業生代表なんかにしなくてもっ。まっ、それだけ優
  秀なんだから仕方ないけどねぇ〜。」

「お夕食の準備が整いましたよ。」

「はーい。」

アスカは、論文の準備をしていた自分の机を適当に整理すると、階段を降りてリビング
へと降りて行った。

<ドイツの大学>

翌日、アスカは出来上がったばかりの論文を持って、大学の講堂へと入って行く。予想
はしていたが、かなりの数の生徒が列席している。

アタシの後輩もいるのよねぇ。
っていっても、みんな年上だけど。

タッタッタ。

少し時間に遅れ気味だったので、小走りで講堂の階段を駆け上る。

今頃、シンジどうしてるかなぁ。
早く済ませて帰りたいなぁ。

タッタッタ。

ズル・・・。

「キャーーーーーーーーーっ!」

余計なことを考えながら階段を駆け上がっていたアスカは、階段を踏み外して転んでし
まった。

ドスンドスン。ゴロゴロ。

「キャーーーーーーーーーッ!」

ゴロゴロゴロ。ドスドスドス。

「☆※★●▼□※刀氈「★☆※★●▼□※刀氈「★!!!」

アスカはそのまま階段を転げ落ち、一番下まで落ちた所で意識を失ってしまった。

<ミサトのマンション>

                        :
                        :
                        :

寒い・・・とても寒い・・・。
暗い・・・とても暗い・・・。

ぼーっとする意識の中、アスカが薄っすらと目を開けると、そこは寒く暗く狭い空間だ
った。

ここはどこ?
アタシ、どうなっちゃったの?

いったい自分はどうなったのかと起き上がろうとしたところ、ガツンと頭を何かにぶつ
け思わず悲鳴をあげる。

「クェェェェーーーっ!」

その悲鳴は、いつもの自分の声には聞こえなかった。

へ?

もう一度、声を出してみる。

「クェっ!」

ちょっとっ!

「クェっ!」

ちょっと、ちょっとっ!!!

「クェっ! クェっ!」

焦ったアスカは、自分の周りにある壁を手探りで伝おうとする。

ペタペタペタ。

変な感触がする。まるでペンギンの羽の様な感触だ。

ちょっとっ!

いったい自分の体がどうなったのかわけのわからなくなったアスカは、そのまま力任せ
に目の前の壁に体当たりをかました。

ドカッ!

明るい所に転がり出たアスカが辺りを見渡すと、冷蔵庫から転がり落ちている自分と、
自分を見下ろすシンジの姿が目に入った。

「あれ? どうしたの? ペンペン?」

ペっ! ペっ! ペンペンーーーーっ!

慌てて身体を見てみると、黒と白の毛が体中にびっしり生えており、見なれた手は羽に、
足は水掻きになっている。まさしくペンペン。

イヤーーーーーーっ!!!!
どうなってるのよっ!

「クェーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」

「ほら、ペンペン。ご飯だよ。」

ペンペンの鉄製の餌入れに入れられた生の魚が1匹、アスカの目の前にどーーーんと出
される。

「クェェェェェーーーっ!」

イヤよっ!
こんなの食べないわよっ!

「ん? どうしたの? いつも喜んで食べるのに。」

「クェェェェェーーーっ!」

イヤだって言ってるでしょーっ!

「おかしいなぁ。まぁ、いいや。ここに置いておくからね。」

シンジは、目の前に生の魚を1匹置くと、朝食の準備を進める。その後ろで、頭の中を
整理していくアスカ。

これは一大事だわ。
どうして、アタシがペンペンに・・・。
確か・・・階段を踏み外して・・・。

そこまで考えたアスカだったが、転げ落ちた後の記憶が無いので、階段を踏み外した後
どうなったのかさっぱりわからない。

この際、原因はどうでもいいわ。
この先どうするかよっ!
まずは、アタシがアスカだってことをシンジに教えなくちゃ。

アスカは、シンジの置いた生の魚の入った餌入れを蹴り飛ばすと、シンジの足下へ走っ
て行く。

ペタペタペタ。

いや・・・走れなかった。ペタペタペタとリビングを歩いて行く。

「ん? どうしたんだい? ペンペン。」

アタシはアスカよっ!

「クェェェェェーーーっ!」

「あーあー。お魚をひっくり返したら、駄目じゃないか。」

違うのよっ!
アタシはアスカだって、言ってるでしょーがっ!

「クェェェェェーーーっ!」

「あまり朝から騒ぐと、ミサトさんを起こしちゃうよ。折角、アスカがいないから朝が
  静かだって、ミサトさん喜んでたんだから。」

ガブーーーッ!!!

その途端、シンジは突然ペンペンに手を噛みつかれた。それも、思いっきり力を込めて
噛みつかれた。

「いっ、いたーーーーっ!!!!」

どういう意味よっ!
アタシがいたら、うるさいとでも言いたいわけーーーっ!!?

「もう、どうしたんだよ。痛いなぁ・・・。」

シンジは手を摩りながら、ペンペンの蹴り飛ばした餌入れを元に戻し、投げ出された魚
をその中に入れてやる。

こんな生の魚っ!
しかも床に落ちたのなんて、食べれないって言ってるでしょーがっ!

「クェェェェェーーーっ!」

カコーーーン。

再びその餌入れを蹴り飛ばすアスカ。それを見たシンジは、今までそんなことをしたこ
とがないペンペンを、驚いた顔で見つめる。

「どうしたんだろう? 今までこんなことなかったのに・・・。後でミサトさんに聞い
  てみよう。」

まいったわねぇ。
どうやったら、シンジに教えられるのかしら。
そうだわっ! 字を書けばいいのよっ!

ペタペタとリビングを横切って、自分の部屋へと入ろうと羽を襖の隙間に入れて力を込
める。

ガラッ。

なんとか襖が開いたので、部屋へ入って行き椅子の上にひょこりと飛び乗ると、ペンに
手を伸ばした。

ペタペタ。

「!!!」

ペタペタ。

「クェェェェェーーーっ!」

ペンが持てないじゃないっ!!!
どーーすんのよーーーっ!!

何度挑戦してみても、ペンペンのペッタンコの手では字を書くどころか、ペンを握るこ
とすらできない。

まいったわねぇ。
何か良い方法は・・・。
はっ! そうだわっ!

ドスン。

椅子から飛び上がり机の上に乗っかると、クチバシでペンを1本ペン立てから摘み出し
た。

さっすがアタシっ! 頭いいわぁ。

ペンを口に咥えて得意顔になったアスカは、そのままドスンドスンと椅子へ床へと順々
に飛び降りて行く。

さてと、書く物はと・・・。
あっ、あの雑誌でいいわっ!

マガジンラックまで近寄り、古雑誌を取り出すとその表紙にペンを走らせる。

にょろにょろにょろ。

「!!!」

にょろにょろにょろ。

上手く書けない・・・。
上手く書けないじゃないのよーーーーーっ!

当然であろう、自分の足ですら訓練しないと字を書くのは難しいのに、動かしたことの
ないペンギンのクチバシで、いきなり器用に文字が書けるはずがない。

「クェェェェェーーーっ!」

字が書けないことがわかったアスカは、ペンを床にほおり出すとしょぼくれてリビング
へと戻って行った。

ど、どうしよう・・・。
喋れないし、字も書けない。
そうだわっ! 最後の手段があったわっ!

アスカは、弁当の準備をするシンジの足をコツコツと突付くと、意識を自分に集中させ
ジェスチャーを始めた。

アタシの表現力にかかれば、たやすいことよっ!

羽と水掻きを巧みに操り、身体全体を使って自分がアスカであることを、必死にアピー
ルしようとする。

「ん? どこで阿波踊り覚えたの? なかなか上手いじゃないか。」

ガーーーンっ!

なんで、わかんないのよっ!
この鈍感っ!!!
バカシンジっ!!!
シンジのバカバカバカっ!!!
うぅぅぅぅぅ〜〜。

とうとうアスカは何もする気が起こらなくなり、クッションを枕変わりにするとふて寝
を始めた。

「ふぁぁぁぁ、シンちゃんおはよう。」

「ミサトさん。おはようございます。」

ミサトはいつもの様に、冷蔵庫からエビチュを1本取り出すと、ぐびぐびと飲んでテー
ブルに腰掛ける。

「やっぱ、朝はこれに限るわよねぇ。」

「毎朝同じこと言わないで下さいよ。それより、ペンペンが変なんです。」

「ペンペン?」

「はい。なんだか、朝から機嫌が悪いみたいで・・・。」

「たまにそういうこともあるのよぉ。ほっときゃそのうちおさまるわ。」

「そういうもんですか。」

ミサトはあまり気にした様子もなく、軽く受け流すとエビチュをぐびぐびと喉の奥へと
流し込む。

「それじゃ、ぼくはそろそろ学校へ行ってきます。」

「はーい、いってらっしゃーい。」

むっ!?
学校???
アタシをほって、どこ行くのよっ!

その後、アスカはミサトが出かけたのを確認すると、玄関の鍵を開けて学校へ向かって
行ったのだった。

<学校>

「くぇーくぇーくぇーっ!」

はぁはぁはぁはぁ。
やっと学校に着いたわ。

ペタペタ,ペタペタと学校へ歩いて行ったアスカだったが、日差しが異様に暑く感じる
し歩くのも遅い。校門を潜った頃には、すっかり疲れ果てていた。

こんなことなら、家でのんびりしてたら良かったぁ。
疲れたぁーーーっ。

しかし、ここまで来て引き返す気にもなれないアスカは、もうひとがんばりとばかりに、
階段をピョンピョンとジャンプしながら校舎を上がって行った。

<教室>

その頃、教室では英語の授業が行われていた。生徒達も、なんら変わり無い日常の中で、
端末を見ながら授業を受けている。

ガラッ!

「クェェェェェーーーっ!」

そんな日常を壊す一声が、突然教室の中に響きわたった。生徒達がその声に注目すると、
突然現れたペンギンが声を高らかに上げ、ペタペタと教室の中を歩いている。

「ペっ! ペンペンっ!!」

驚いたのはシンジである。胸に掛けられたPen2のプレートが、我が家のペンペンで
あることを物語っている。

「これは碇君のペンギンですか?」

「は、はい・・・。」

「学校にペンギンを連れて来てはいけませんねぇ。」

突然ペンギンが教室に現れ驚いた教師は、それがシンジの家のペンギンだとわかると、
即座に注意してくる。

「はい・・・すみません。今までこんなことなかったのになぁ・・・。」

別に連れて来たわけでもないのに、怒られてしまいがっくりするシンジの膝の上に、近
寄ってきたペンペンは、ひょいと飛び乗った。

ムフフ。
ペンペンってのも、結構便利ねぇ。
そうだわっ!
ペンペンの体の間に、シンジがアタシのいない所で何してるか観察しちゃおっと。

シンジの膝の上に乗って上機嫌なアスカは、そんな良からぬことを考えていた。人間の
環境適応能力とは大した物である。

ピピピ。

しばらくして、シンジのノートPCにメッセージが届く。そのメッセージはレイからで
あった。

ムッ! どうしてファーストからシンジにっ!

アスカが目を皿の様にして、そのメッセージを食い入る様に見ているが、そんなことは
知らないシンジは、何気なくメッセージを開く。

『今日は弐号機パイロットいないのね。一緒に帰りましょ。(Y/N)』

な、なによこれーーーーーっ!!

今日は放課後に用事があるわけでもない。断る理由も特に見つからないので、シンジは
あまり考えもせず”Y”でメッセージを返した。

ムカーーーーーッ!
なんで、”Y”なんか押すのよーーーっ!!!!

「クワーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!」

突然、目の前に座っていたペンペンが、突然奇声を上げてシンジの方へ向き直ったかと
思うと、クチバシでシンジの頭を突付き、攻撃し始める。

ズドドドドドドド。

「わーーーっ! どうしたんだよーーーっ!」

ズドドドドドドド。

シンジを容赦無く突付きまわすペンペン。

「ペンペンっ! やめてよっ! いたいよっ! いたいよっ! 」

ズドドドドドドド。

「た、助けてーーーっ! ペンペンが狂ったーーーっ!」

ズドドドドドドド。

「いたたたたたたたたっ!」

その様子を見かねたヒカリは、授業中であったが急いで席を立つとシンジの所へ駆け寄
りペンペンを抱き上げる。

「碇君、大丈夫?」

「はぁ、委員長助かったよ・・・。」

「クワーーーーーッ!!!! クワーーーーーッ!!!! クワーーーーーッ!!!!」

ヒカリに抱き上げられたペンペンだったが、まだ怒りも露にシンジを睨みつけてクチバ
シを光らせていた。

「ペンペンどうしちゃったの? いつも、大人しいのに。」

「それは、ぼくが聞きたいよ・・・。」

「クワーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!」

「はいはい、ペンペンも大人しくしましょうねぇ。」

結局ヒカリに抱きかかえられて、シンジから引き離されたアスカは、しばらくヒカリの
膝の上で大人しくしているのだった。

                        :
                        :
                        :

昼休みになり、シンジはトウジとケンスケと一緒に屋上で弁当を食べていた。今日はペ
ンペンもいるのでヒカリも一緒である。

「クェェェェェーーーっ!」

シンジにエビフライなどを口に入れて貰い、喜んで食べるペンペン。その顔からは、先
程の大暴れしたペンペンだとは想像できない。

「あらら、碇君のお弁当無くなっちゃうわよ。私のもあげるわ。」

そう言ってヒカリが自分の弁当の卵焼きを箸に摘んで差し出すが、ペンペンはプイと横
を向いてシンジに口をぱっくりと開ける。

「よっぽど、碇君のお弁当が気に入ってるみたいね。」

「碇、どうしてペンペンが学校へ来たりしたんだ?」

シンジの弁当を頬張るペンペンを見ながら、今日はいったいどうしたのかとケンスケが
問い掛けて来る。

「それがわからないんだ。今までこんなことなかったのに。ミサトさんがドア開けっ放
  しでネルフへ行っちゃったのかなl?」

「そうかもしれないな。ハハハハハ。」

「そうだね。ハハハハ・・・って、それってまずいじゃないかっ!」

よくよく考えると、ドアが開けっぱなしということは、泥棒に入って下さいと言ってい
る様な物だ。

「泥棒に入られて、アスカの物が盗られたら、きっとぼくのせいにされるよっ!」

どうやら泥棒が怖いというより、その後のアスカが怖い様である。そんな焦るシンジの
様子をケラケラと他人事の様に笑うトウジとケンスケ。

「笑い事じゃないよ。心配だから、早退するよ。」

「ほうか、わかったわ。」

シンジは、一緒に帰る約束をしていたレイに断って、急いで家へと帰って行った。結果
として、そのことがシンジの命を助けたのだが、シンジはそんなことは露とも知ろうは
ずも無い。

<ミサトのマンション>

シンジが家に帰り着くと、思った通り玄関は全開であった。もっとも、ミサトが開けっ
放しにしたのではなく、アスカが勝手に開けて出て行った為である。

「もうっ! ミサトさんはぁ。困るなぁ。」

リビングへと入って行き、中の様子をちらちらと見てみるが、特に荒らされた様子はな
いようだ。

「アスカの部屋も大丈夫かな?」

一番気になるアスカの部屋をシンジが開けようとした時、後ろからペタペタペタと物凄
い勢いで走ってくるペンペンの足音が聞こえた。

アンタっ! 何してんのよっ!
勝手に人の部屋を覗くんじゃないわよっ!

「うん、大丈夫みた・・・・ぎゃーーーーーっ!!」

ブッスーーーーーー。

アスカの部屋をぐるりと見渡していたシンジは、突然お尻に強烈な痛みを感じた。悲鳴
を上げながら振り返ってみると、ペンペンのクチバシが突き刺さっている。

「い、いったーーーーーーーっ!! ぐぉぉぉぉっ!! お尻の穴が2つになるぅっ!!」

あまりの痛みに、リビングの上を転げまわるシンジ。

「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!!」

フッ! 自業自得よっ!

アスカは羽を使ってシンジから隠す様に、いそいそと自分の部屋の襖を閉める。その間
も、シンジはお尻を押さえてゴロゴロと転がり回っていた。

「う・・・うぅぅぅ。もうっ! ペンペンっ! 何するんだよっ! ひどいじゃないかっ!」

「クワ?」

「今日のペンペンなんか変だよっ! 変な物でも食べたのかなぁ。」

シンジは独りブチブチ言いながら、お尻を摩りつつ学校のカバンを片付けに部屋に入っ
て行った。

ポテトチップスでも食べ様かしら。

シンジが部屋に入ってしまったので、アスカはいつもお菓子が入れてある籠から、ポテ
トチップスを咥えて持ってくる。

「!」

袋を開け様と両手で袋の両端を摘もうとしたものの、ペンギンの羽では掴めないことに
気付いた。

袋が掴めない・・・。
アタシはポテチが食べたいのよっ!

ペタペタ。

何度やってみても、羽でペタペタと袋を擦り付けるばかりで、いっこうに掴める様子は
ない。

えーーーいっ!
破いてくれるわっ!

意地になったアスカは、袋を開けるのを諦め、クチバシを袋にブスリと突き刺して穴を
開けると、中のポテトチップスをボリボリと食べ始める。

ボリボリボリ。

ふふーーんだっ!
こうしたら食べれるもんねぇーだ。

ボリボリボリ。

「あっ! ペンペン何してんだよ。」

明日の時間割を済ませたシンジがリビングに出てくると、周りをクズだらけにしてポテ
トチップスを振りまわしながら食べているペンペンを見つける。

「部屋が、クズだらけじゃないかっ! ほらっ、ペンペンにも油がいっぱいついてるし。」

「クェ?」

よくよく見ると、クチバシで振り回しながらポテトチップスを食べていた為、ペンペン
の体に細かいポテトチップスがいっぱいこびり付いていた。

あらぁ、本当だわ。
しょうがないじゃないっ。
こうしないと食べれないんだから。

「もう・・・。」

シンジは、仕方無いなぁという顔で抱き上げると、そのままリビングを出て行きペンペ
ンをバスルームにほおり込んだ。

「さぁ、ペンペンの好きなお風呂だよ。一緒に入ろうか?」

「クェェェェェーーーっ!」

な、なんですってーーーーっ!
ちょ、ちょっと待ってよっ!
まだ、心の準備がっ!

焦るアスカだったが、そんなことは知らないシンジは、服を脱いでペンペンと一緒にバ
スルームに入って来る。

いやーーーーーん。
いやーーーん、いやんいやーーーん。

羽で目を隠すペンペンにシンジはシャワーをかけてやり、体にこびり付いたポテトチッ
プスを洗い流してやる。

うぅぅぅぅぅぅぅ。
目の・・・目のやり場が・・・。

そうこうしているうちに、ポテトチップスも流れていったので、シンジはペンペンを抱
き上げると、一緒に浴槽へぽちゃりと浸かった。

「極楽極楽。」

シンジに抱かれてお湯に浸かったアスカは、極楽気分を味わうシンジとは打って変わり、
緊張してガチガチに体を強張らせたまま微動だにしなかった。

シンジと一緒にお風呂に入っちゃった!
シンジと一緒にお風呂に入っちゃった!
シンジと一緒にお風呂に入っちゃった!
シンジと一緒にお風呂に入っちゃった!
こ、これはっ! もうっ!
結婚するしかないわっ!!!!

「じゃ、ペンペン、しばらく浸かってたらいいよ。」

シンジはそう言うと、いつもの様にペンペンを浴槽で離してやり、1人洗い場に出て体
を洗い始める。

ドキドキ。

目のやり場に困るわ・・・。
あらっ、シンジって手から先に洗うんだぁ。

いつもなら、優雅に浴槽で泳いでいるペンペンだが、今日は顔を真っ赤にしてシンジが
身体を洗う様子を浴槽の縁に掴まってマジマジと見ている。

ドキドキ。

シンジって、髭なんか剃ってたんだ。
ろくに生えてもいない癖にぃ。

「痛っ! あーあ、また切っちゃったよぉ。」

ほとんど生えていない髭を、ちょろちょろと剃っていたシンジの頬からうっすらと血が
滲んでくる。まだ剃り慣れていない様だ。

ドキドキ。

あらら。下手ねぇ。
今度アタシが剃ってあげようかしら・・・そうじゃなくて・・・。
目のやり場に困るわねぇ。

そうこうしているうちに頭を洗い始めるシンジ。短い髪なので、ワシャワシャと雑に洗
っていく。

ドキドキ。

へぇ。髪が短いと便利ねぇ。
今度アタシが洗ってあげようかしら・・・そうじゃなくて・・・。
目のやり場に困るわねぇ。

一部始終をアスカに見られているとも知らないシンジは、一通り身体を洗い終わると再
び浴槽へと戻ってきた。

「あぁ、さっぱりしたぁ。」

シンジは再び、ペンペンを抱き抱えると湯に身体を浸し目を閉じて物思いにふける。風
呂に入ると、いろいろと考え事をするのが癖の様だ。

シンジとお風呂の中で抱き合ってる!
シンジとお風呂の中で抱き合ってる!
シンジとお風呂の中で抱き合ってる!
シンジとお風呂の中で抱き合ってる!
こ、これはっ! もうっ!
結婚するしかないわっ!!!!

アスカは、顔を真っ赤にして身体をガチガチに固めると、いろいろなことを妄想して頬
を蒸気させていた。

「ねぇ、ペンペン?」

「クワッ?」

「アスカがいないと静かだけどさ、寂しいね。」

えっ!
シンジっ、今なんて?

「ペンペンはどう思う?」

コクコクと顔を縦に降ってうなずくペンペン。

「そうか、ペンペンも寂しかったんだね。」

アタシがいないとどうして寂しいの?
ねぇ、シンジぃ。

ペンペンの羽に力を込めて、ぎゅっとシンジに抱き着いてみると、シンジの心臓の音が
トクトクと聞こえてきた。

「ペンペンも、アスカのこと好きなんだね。」

シンジはそう言いながら、ペンペンの頭をゆっくりと撫でてあげる。

も? もっていうことは・・・。
シンジぃぃぃ。

「さぁ、上がろうか。」

えーーー。
もう上がっちゃうの?
しばらくこうしてたいのにぃ。

「クェェェェェ。」

しかし、シンジはペンペンを洗い場に出してやると、一度シャワーを浴びてバスルーム
を出て行ってしまった。

もう、おしまいか・・・。
でも、ペンペンのおかげで、シンジの想いが少しわかった気がする。
ありがとペンペン。

幸せな気分になったアスカは、ペタペタと洗い場を歩いてシンジの後を追い駆けて行く。
その時、ペンペンの水掻きに何かを踏んだ感触が伝わってきた。

「!!!!」

そのまま足を滑らせるアスカ。アスカの足元には、先程シンジが身体を洗っていた石鹸
が転がっていたのだ。

キャーーーーーーーーーーーーーーー!!

ズッテーーーーーーーン。

「☆※★●▼□※刀氈「★☆※★●▼□※刀氈「★!!!」

そして、ペンペンはそのまま洗い場で意識を失ってしまった。

<ドイツの病院>

「・・・ちゃん?」

ん?

「・・・ちゃん、気がついたの?」

ん? 誰?

「アスカちゃん! しっかりしてっ! アスカちゃんっ!」

ぼーっとする意識の中、アスカが薄っすらと目を開けると、そこには明るい病室の天井
が見え、目の前には新しい母親の姿があった。

「あら。ママじゃない・・・こ、ここは?」

「良かったぁぁぁぁ。」

アスカの母親は、アスカが目覚めたと知るや喜んでアスカを抱きしめてくる。当のアス
カは、まだ頭がぼんやりしており何が起こったのかわからない。

あれ?
アタシ・・・シンジと一緒にお風呂に入ってたんじゃ・・・。
夢だったのかしら?

「もうっ、どうしたのかと思ったわ。論文発表が始まった途端、『クエー』とかいいな
  がら走り出てきて、皆の前で踊り出すんですもの。ママはもうびっくりしちゃって。」

「!!!!!!!!!!!!!」

「学校中大騒ぎになるし、アスカちゃんは走り回ったあげく、食堂の生の魚を咥えて校
  庭を逃げ回るし。」

「な、なんですってーーーーーーーーっ!」

ゆ、夢じゃなかかったんだっ!
そうかっ!
アタシがペンペンになってたってことは、ペンペンがアタシにっ!?

その時の自分の姿を想像してみるようとするが、あまりの恥ずかしさにそれ以上想像を
進めることができなかった。

み、みんなの前でなんてことしてくれたのよーーーっ!
ペンペンのバカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!

その後、退院したアスカは即日本へ戻って行った。そして、それ以降2度とドイツの大
学へ顔を出すことはなくなったということである。

fin.
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