------------------------------------------------------------------------------
最後の最良の日
------------------------------------------------------------------------------

<ミサトのマンション>

数日前、アスカはミサトから重要な通知を受け取った。使徒戦が終わったという理由で、
アスカをドイツに返還するという通知書。

「イヤよっ! 今更ドイツなんてっ!」

「チルドレンを独り占めするなって、苦情が出てるのよ。」

「そんなのアタシに関係無いでしょっ!」

「そりゃ、わたしもアスカと一緒に居たいのよ。でも、こればっかりは、わたしの力じ
  ゃねぇ。」

「なんとかしてよっ!」

「ちょっとごねてはみたんだけど・・・。プライベートな理由なんて通じるとこじゃな
  いのよ。ごめんね。アスカ。」

おそらくもっと上からのお達しなのだろう。ミサトの力ではどうしようも無いレベルの
話の様だ。

「わかったわよ・・・。」

投げ捨てる様に言い放つ。

「力になれなくて、ごめんなさい。」

「ただ、シンジには黙っといて。」

「言わないの?」

「ええ。アタシさ、ここに突然押し掛けたでしょ? 突然帰るのが筋ってもんよっ!」

「そう・・・。」

アスカも寂しいのだ。ちょっとシンジには可哀想な気もするが、ここはアスカの意を汲
み取ってやることにするミサトだった。

                        :
                        :
                        :

そして、アスカが帰る日がやってきた。理由もわからず昨日の大宴会に巻き込まれたシ
ンジは、無理矢理アルコールを飲まされたせいもあり、少し遅めの朝を迎えていた。

「うーーん。」

眠い目を擦りながら時計を見ると、既に10時近い。休みとは言えここまで寝坊するこ
となどめったにない。おそらく、昨日の酒が原因だろう。

寝過ごしちゃったよ。
昨日、2人して無理やり飲ませるんだもんなぁ。
早く朝ご飯作らなきゃ、アスカに怒られちゃうよ。

寝汗を掻いているシャツを脱ぎ、洗ったばかりのTシャツとランニングパンツに履き替
えリビングへと出て行く。

「アスカぁ? 起きてるぅ?」

リビングに出ると、誰の姿も見えなかった。アスカやミサトも昨日飲み過ぎたせいで、
まだ寝ているのだろうと思い、あまり気にはしなかった。

ん?

起き抜けの顔を洗いに行こうとしたシンジの目が、ダイニングに置いてある手紙に止ま
る。その場に似つかわしくない、お洒落な赤い封筒。表には”シンジへ”と書いてある。

なんだろう?
アスカの字だよなぁ。

自分宛への手紙。とにかく手に取り不思議な顔で表裏を見渡す。特にいたずらは無い様
だ。安心して中の手紙を取り出す。

”シンジへ

  実はアタシ、今日ドイツへ帰ることになったの。
  黙っててごめんね。

  最後に、どうしても言えなかったこと、
  そしてどうしても、言っておきたかったことを手紙にします。

  アタシはシンジが好きです。愛してます。
  いつの頃からか、アンタはアタシの心の中で大きくなってきて、
  今では夜も寝れないくらいです。

  シンジのことが好きで好きでどうしようもないです。
                        :
                        :
                        :                                                  ”

それは、熱烈なラブレターだった。普通の状態であれば、読んでいるだけで顔が真っ赤
になってくる様な内容だったが、シンジの意識はそれ以上にアスカがドイツへ帰ってし
まという事実に衝撃を受けていた。

「どうして黙って帰っちゃうんだよっ!!!」

手紙を封に戻して元の位置に置き、走り出すシンジ。そして玄関を開けた時・・・。

「ただいまぁ、シンちゃん。」

「えっ!?」

目が点になるシンジ。

「うぅぅぅぅぅ。」

バツ悪そうに、うなだれるアスカの姿がなぜか目の前にある。

「うぅぅぅぅぅ。」

顔を隠しつつも上目遣いでシンジの様子をチラチラ見ながら、唸り声を上げるアスカ。

「ア、アスカ?」

きょとんとするシンジ。

「実は、アスカ。今日ドイツへ帰るはずだったんだけどさぁ。エヴァの維持ができない
  って連絡がドイツから来てね。ドタキャンなんてひっどいわねぇ。」

「うぅぅぅぅぅ、シ、シンジ・・・。あ、あのさ・・・み、見ちゃった?」

荷物を両手一杯に持ちながら、恐る恐るシンジを見上げおずおずと口を開くアスカ。

「え? 見たって?」

「あの・・手紙・・・。」

あっ!
あれは・・・。

ようやく、アスカがバツ悪そうにしている原因に気付く。咄嗟にどう答えるのが最善で
あるかを考え様としたが、シンジもいろんなことが一気に勃発し頭が混乱してしまって
おり、ただでさえ回らない頭がよりいっそう回らない。

とにかく、無難な答えは・・・。

「え? なに? 見てないけど?」

しらばっくれる。

「まだ見てないのっ!? ちょ、ちょっとどいてっ!」

アスカは大慌てで荷物を玄関に放りだし駆け込むと、ダイニングの自分が置いた位置に
そのまま置かれている手紙をひっ掴み、くしゃとスカートのポケットに捻じり込んだ。

良かった・・・。
助かったわ。

まだ読まれていないと信じ切ったアスカは、安堵の溜息を零して胸を撫で下ろした。

その後、ミサトは異動中止の手続きがあるとかブツブツ言いながらネルフへ行ってしま
ったので、アスカはシンジに手伝って貰いながら、荷物の整理をすることになった。

「ドイツに帰ることになってたんなら、教えてくれてもいいじゃないか。」

「アンタのことだから、しみったれた顔するでしょ。そんなのごめんよっ!」

手紙が見られてないとなると、いつもの強気のアスカが出てくる。しみったれたシンジ
を見るのが嫌なのか、しみったれた自分を見られるのが恥ずかしいのか、はてさて。

「でも、戻って来てくれて嬉しいな。」

「えっ?」

戻って来たことを喜び笑顔を見せてくれるシンジに、思わず顔が綻びそうになるが、そ
こは意地っ張りアスカ、表には出さない。

良かった。
またシンジと一緒だ。

「ごはん、食べた?」

「ううん。飛行機で食べ様と思ってたから、食べれなかったわ。」

「じゃ、何か食べに行こうか?」

「食べに? アタシと?」

「うん。帰って来たとこで、しんどいかな?」

「ううんっ! 行ってやってもいいわっ!」

やったわっ!
やっぱり日本、最高っ!
シンジとお出掛けだっ!

ある程度荷物の整理も終わったので、アスカは部屋からちょっとお気に入りのポシェッ
トを肩に掛け出掛ける準備OK。

「準備できたわよ。行きましょ。」

少しおめかししたアスカを見ると、やはりかわいい。シンジはシンジで、いろいろと考
える。

やっぱり見ちゃったって言うべきだったかなぁ。
でも・・・ぼくから好きだって言った方がいいのかな? こういう場合。
うーん。
うーん・・・駄目だよな。
急にそんな告白したら、手紙見たのバレバレじゃないか。
2,3週間、時間を置いて告白しようかなぁ。

頭ではいろいろと考えるが、今のシンジは好きな女の子から告白されたに等しい状態。
ついついアスカのことを意識してしまうと同時に、相手の想いが既にわかっているので
心に余裕ができ、自分でも気付かぬうちに積極的に、また浮かれ気分になってしまう。

「こないだ、父さんから生活費貰ったんだ。」

街を歩きながら、自分から話し掛けるシンジ。

「ふーん。」

「ちょっと余分に貰っちゃったからさ、アスカ服でもいる?」

嘘である。なんだかんだ言いつつ天にも昇る気分のシンジ。単にアスカに何かプレゼン
トがしたかっただけなのだが、何か理由がないと困る。

「え? アタシに?」

なんで?
なんで、急に服なんか買ってくれるの?
でも・・・シンジからのプレゼントよね。
嬉しいかも・・・。

「お金の使い道に困ってんなら、しゃーないわね。貰ってあげるわ。」

「そう。良かった。」

あくまでも高飛車に意地を張るアスカ。その完璧にかぶったつもりの仮面が、既にシー
スルーになっていることなど本人は知る良しもない。

<デパート>

約束通り、シンジはアスカと一緒に洋服を買いにデパートへ来た。好きな娘に服をプレ
ゼントするなんて初めてのことだが、なんだか嬉しくなってくる。

「ねぇ、これなんかどうかしら?」

生活費の余りと聞いているアスカは、だいたい5000円くらいを目処に良さそうな服
を選ぶ。さくら色のワンピースを手に取り体の前に当てて見せる。

「うん。可愛いよ。」

「うっ!」

目が点になるアスカ。

か、かわいい。
シンジに、かわいいなんて言われた・・・。

「そ、そう? ありがと。」

目が泳ぐ。恥ずかしい。とにかく、二の句が次げないまま、可愛いと言われた服をしっ
かと抱きかかえる。

恥ずかしいこと、サラっと言わないでよ・・・。
アタシの心臓が止まったら、弁償して貰うんだからねっ!

こう言う時は、話題を逸らすのがアスカに限らず誰にでも仕える常套手段。別の服に意
識を集中し2つ目の候補を選ぶ。

「ねぇ、シンジこっちは?」

今度のは、薄い水色のワンピース。

「それもいいなぁ。どっちがいいのかわかんないや。」

「着てみるわ。待ってて。」

「うん。」

2着の服を持って試着室へ入り、可愛いと言われたさくら色の服から袖を通す。すると、
外で待っているシンジの辺りから女の子の声が聞こえて来た。よく知ったヒカリの声が。

「あら、碇くんじゃない。」

「あっ! 委員長。買い物でも、しに来たの?」

着替え終わったアスカだが、今出て行ってはシンジと2人で来ていることがばれてしま
う。学校でまた色々言われかねないので息を潜める。

「ええ。ノゾミの服。碇くんは?」

「アスカの服を買いに来たんだ。今そこで着替えてるよ。」

あのバカっ!

この時点で、息を潜めていた努力は水の泡となった。

「へぇ。わたしも一緒に見ていいかしら?」

「そうだね。ぼくより、委員長の方がアドバイスできると思うし。」

もうっ!
バカシンジっ!

どうやら自分が出て来るのを、外でヒカリも待っているらしい。仕方無くアスカは、試
着室のカーテンを開けて外に出る。

「あらぁ。ヒカリじゃない。」

「へへへ。ごめんねぇ。邪魔?」

「もっ! 変なこと言わないのっ! どう? この服?」

「いい感じなんじゃない?」

アスカはヒカリの前でくるりと回りながら、自分も鏡で確かめる。悪くはない。

「もう1つ選んだのあるから、そっちも見てくれる?」

「ええ。いいわよ。」

「ちょっと待ってて。」

再び試着室へ入り、2着目に着替えて出て来る。

「どう?」

「うーん。こっちもいいわねぇ。」

そんな様子を、横でシンジは黙って立って見ていた。

「シンジはどうなのよっ!」

「うーん。」

女の子の服のセンスはよくわからない。困った顔でアスカを眺める。

「碇くんも、アスカの服選びに付き合わされて大変ねぇ。」

「そうなんだ・・・何着てもアスカって可愛いから、選ぶのに大変だよ。」

「ブッ!」

瞬間湯沸かし機で沸騰し吹き出すアスカ。

目が点になるヒカリ。

「ちょとっ! アスカっ!」

「え、な、なに?」

ジト目でヒカリに、焦るアスカ。

「来なさいっ!」

ヒカリは、アスカを連れて試着室の裏へと引っ張って行く。

「何があったのっ!?」

「アタシだって、わっかんないわよっ!」

「あの碇くんが、何もないのにあんなこと言うわけないでしょっ!」

「知らないもんは、知らないわよっ!」

「もう、親友のわたしにも内緒なのねっ!」

「だからアタシは知らないってばっ!」

「怪しいわねぇ・・・。」

その時、シンジの声が聞こえて来た。

「アスカ? どうしたの?」

「え、えっと・・・ピンクの方にしようかしら。」

「こっちだね。じゃ、買って来るよ。待ってて。」

アスカの言葉を聞き、シンジは先程着ていたさくら色の服を買いに行った。

「アースーカーっ?」

ジト目がチシャ猫の様になっていく。

「なに?」

「もしかしてあの服、碇くんがプレゼントしてくれるの?」

「え・・・あ、まぁ、そういうことに・・・。」

アスカたじたじ。

「フーン。」

チシャ猫が覗き込んで来る。

「え、えと・・・。」

「まぁいいわ。今日は用があるから帰るけど、明日しっかり聞かせて貰うからね。」

「はは・・・ははは・・・。」

ようやくヒカリから解放して貰ったアスカは、自分の服に着替え直してレジで清算をし
ているシンジと合流。ようやく2人きり。ニパニパ笑って歩き出す。

その後を、ヒカリが尾行しているとも知らずに・・・。

<食堂>

アスカのリクエストにより、昼食はデパートの地下にあるラーメン屋で食べることにな
った。値段が安いことが魅力で、今日も客が沢山いる。真後ろにヒカリが座っているが、
気付いていない。

「アンタ、何にするの?」

「納豆ラーメンかな。」

「アタシは、何にしようかなぁ。」

「梅干しラーメンなんか、美味しいよ?」

「じゃ、それにする。ちょっとアンタっ!」

メニューも決まったので、びしっと店員を指差して呼ぶアスカ。

「だからお店の人を呼ぶ時、『ちょっとアンタ』は駄目だって言ってるじゃないか。」

「いいのいいの。来てくれるもん。」

「そりゃ、来るけどさぁ。」

シンジの分も頼み終わったアスカは、すっと席を立ち歩いて行くと2人分の水をコップ
に入れて戻って来る。水はセルフサービス。

「ありがとう。」

「はぁ、喉乾いてたのよねぇ。」

ゴクゴクゴク。

喉を鳴らして水を飲む。そんなアスカを、シンジはコップを手に持ったままじっと見詰
めていた。

「ん?」

アスカは、コップを傾け口に付けたまま、シンジの視線を感じ不思議そうな顔をする。
何か変な顔でもしてるだろうか?

「そうやって水を飲んでるアスカも、可愛いね。」

ブハーーーーーーっ!!!!

一気に水を吐き出す。

顔は真っ赤。

心臓は飛び出そう。

「アンタバカぁぁっ!?」

「わぁぁ、びしょびしょじゃないか。」

アスカが吐き出した水を頭からかぶり、情けない顔をするシンジ。

「もうっ!!!!! アンタが急に変なこと言うからでしょうがっ!!!!!」

アスカはポシェットからハンカチを取り出し、シンジの横に座って濡れた服や顔を拭い
ていく。

「あ、ごめん。」

「もう・・・急に変なこと言わないでよねぇ。」

「ごめん。」

「ほら、んーーして。」

「んーー。」

シンジの顎を持ち上げ、濡れた首周りも拭く。なんだかこうしていると、アスカの意外
な一面を見た様な気分になってくる。

「アスカって、いいお嫁さんになるね。」

ゴンガラガッシャーーーンっ!

椅子の上に半分身を乗り出して濡れたシンジを拭いていたアスカが、一瞬にしてテーブ
ルの下に転がり落ちて行った。

「イタタタタタ。」

「どうしたの? 大丈夫?」

打ち付けた背中を摩りながら、ゆっくり起き上がると中腰でテーブルの下から這い出そ
うと動き出すアスカ。

「アンタバカぁっ!? 何言い出すのよっ!」

「へんかなぁ? ぼくもアスカがお嫁さんなら、いいなぁって思ったんだけど。」

ズガゴゴゴーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!!

突然の衝撃的言葉に、テーブルの下で思いっきり立ち上がってしまったアスカは、その
まま脳天をテーブルに直撃し、勢い余ってぶっ倒れる。

「いっ、いったーーーーーーっ!!!!」

意識を失ってしまいそうなクラクラする頭を、両手で押さえて涙目になりながらも、ア
スカの顔の活火山は限界に達し、真っ赤になって今にも噴火寸前。

「大丈夫?」

「も、もういい。喋らないで・・・。」

「どうしたの?」

「わ、わかったから。もういい。ちょ、ちょっとトイレ行って来る。」

アスカはテーブルの下から大慌てで抜け出すと、シンジを拭いていたハンカチでパタパ
タと顔を仰ぎながら、トイレへ直行して行った。

そんな様子の一部始終を見ていたおさげのスパイは、口に手を当てて目を白黒させてい
た。

14歳で、婚約なんて不潔よーーっ!
不潔よーーっ!

と、イヤイヤしつつも耳はダンボ全開。

それはともかく、アスカはトイレで鏡を見ていた。

あのバカっ!
いきなりなんてこと言うのよっ!
顔が真っ赤じゃないのよっ!

しばらくトイレで火照った体を冷やす。爆弾発言3連発に、さすがのアスカも心臓がド
キドキ。

アイツ・・・。
もしかして、手紙見たんじゃないでしょうねぇ。
急にあんなこと言い出すなんて・・・やっぱり。
それならそれで・・・。

既に自分の心の内がばれてしまっているのであれば、何も取り繕う必要もない。後はシ
ンジの返事を聞くだけ。さっきの態度からすると、まんざら悪い返事でもないだろう。

でも・・・。
もしまだ見てなかったら・・・。

しかし見てないとすると話は別。さっきのこともシンジのことなので、意味もわからず
口走っただけかもしれない。下手に好きだと言ってしまえば、今の関係を壊しかねない。

あーんもっ!
悩ましげな態度しないでよぉぉっ!

もう何がなんだかわからないアスカは、しばらくはシンジの様子を見ることにした。そ
の頃シンジは。

アスカ遅いなぁ。
ラーメン来てるのに・・・。
でも、アスカ赤くなっちゃって。クスクス。
ちょっと、「可愛い」って言っただけなのに。

あれはちょっと「可愛い」と言っただけでなく、下手をすればプロポーズに近い言葉な
のだが、こういうことの経験の無いシンジは加減という物がわからないらしい。

そんなこんなで、互いに意識し合いながらも、昼食の時は過ぎて行った。

<屋上>

食事も終わり買い物も終わったので、2人は屋上のベンチでジュースを飲みながら座っ
ていた。その少し後ろには、おさげの彼女が耳をダンボにして建物の陰に立っている。

「服・・・ありがと。」

「気に入った服があって良かったね。」

シンジが優しく微笑みかけてくる。

「どうして、服買ってくれたの?」

「アスカが喜ぶかなぁって思って。」

やはり、今迄のどこか人との・・・自分との接触を怖がっている様なシンジとは態度が
違い、自信を持ってハキハキとしている様に思える。

やっぱり・・・。

もう我慢できない。心の内のモヤモヤをなんとかしたい。アスカは、意を決して口を開
く。

「ねぇ、正直に答えて。」

「ん?」

「あのさ・・・手紙見た?」

「え・・・。」

改めてアスカに問い掛けられ、あまりの嬉しさに今日1日浮かれていた自分に気付く。
今迄の態度を考えると、確かに見たと言っている様なものかもしれない。

「ごめん・・・。」

「やっぱり・・・。」

「ごめん、あの時咄嗟に何て答えたらいいのかわからなくて・・・。」

「そんなこと、今更もういいわよ。」

そう言いながら、スカートのポケットに手を突っ込む。

「アタシの気持ちは・・・これ。」

赤い封筒に入ったくしゃくしゃの手紙を、手で綺麗に伸ばして手渡す。

「アンタの返事・・・聞きたいんだけど。」

今日の態度から見てまず大丈夫だろうが、まだちゃんとした答えを貰っていない。

アスカは、ドキドキしながら返事を待つ。

そのわずか後方の建物の陰で、ヒカリもドキドキしながらシンジの返事を待つ。

「決まってるじゃないか・・・。」

笑顔でアスカに語り掛けるシンジ。

「!」

はっとして、頬を染めたアスカがシンジを見上げる。

ヒカリも顔を赤くして、こそこそと2人を覗く。

言葉を続けるシンジ。

「2人で元気な子供を育てようと思う。」

ドンガラガッシャーーーーーーーーーーーン!

椅子から転げ落ちて、横に置かれていた植木鉢に頭から激突するアスカ。

「アスカっ!? 大丈夫っ!?」

「うう〜ん・・・。」

どうやら、目が回っているらしい。

その後方で、両手を口に当ててイヤイヤをするヒカリ。

ア、アスカ・・・。
子供ができてたなんて・・。
大変!
委員長として、明日みんなから出産の寄付金集めなくちゃ・・・。

その夕方、なんだかんだあったものの、仲むつまじく腕を組んで帰って行くシンジとア
スカ。今日という最良の日の幸せを満喫しているといった感じだ。

翌日の学園生活が、波乱万丈に満ちた物となるとも知らずに・・・。

fin.
作者"ターム"へのメール/小説の感想はこちら。
tarm@mail1.big.or.jp
inserted by FC2 system