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ああ、無敵のシンジ様ぁ made in アスカ
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作者注:この小説は、"ああ、無敵のシンジ様ぁ"シリーズとは異なる、異色バージョン
        です。ストーリーに関連性は全くありません。
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<ミサトのマンション>

うるうるうるうる・・・。

学校から帰ったアスカは、1人でTVドラマを見ていた。

うるうるうるうる・・・。

TVドラマの内容は大正時代初期の物語で、いわゆる古来の日本男児的な性格の男性と
いわゆる大和撫子的な性格の女性の大恋愛物である。

うるうるうるうる・・・。

そして、ドラマが終わる頃、アスカは瞳に涙を溜めて感動に打ち震えていた。

これよ! これこそ大正ロマンだわ!!!
これこそが、恋人同士のあるべき姿なのよ!!!

「ただいま。」

アスカがTVの前でガッツポーズを取っている時、玄関先からシンジの声が聞こえた。
その声に反応したアスカは、あわてて玄関まで飛び出していく。

「お帰りなさいませ。」

三つ指をついて、シンジを出迎えるアスカ。そんなアスカを、不思議そうな顔でシンジ
は見つめる。

「ど、どうしたの? 新しい遊び?」

パーーーーン!!

その瞬間突然頬にアスカの平手が炸裂し、シンジは後ろに倒れそうになる。

「い・・・痛いじゃないか!!! いきなり何をするんだよ!!!」

怒るのも当然だろう。帰ってきた途端にわけもわからず不意に平手を食らったのだ。

「いいこと!? 奥方が殿方の帰りを出迎えたら、『うむ』と一言だけ言って御館に入
  ればいいのよ! わかった!?」

「お、御館?? な、なんだよ・・・それ。」

「わかった!!!?」

ギロっ!

「わ、わかったよ。」

なんだか、アスカの機嫌が悪そうだと思ったシンジは、話を適当にごまかすとそそくさ
とリビングへと消えて行った。それに続いて、アスカもリビングへ入る。

「あ、あの・・・アスカ? 今日は肉じゃがを作ろうかと思っているんだけど? それで
  いいかな?」

下手に刺激すると、機嫌の悪いアスカは何をするかわからないので、おずおずと夕食の
献立に伺いをたててみるが・・・。

パーーーーン!!

「い、痛い!! なんだよ! 何か悪いこと言ったのかよ!?」

「いいこと!? 殿方は台所になんか立ったらダメなの! 今日からアタシが夕食の支度
  をするから、アンタは座ってなさい!」

な・・・なんだよ。もう、わけがわかんないよ・・・。今日のアスカ、変だよ・・・。

アスカは早速エプロンをつけて、冷蔵庫の中を覗き込む。シンジは肉じゃがと言ってい
たが、煮物はあまり得意ではない。

「あ、あの・・・。」

呆然とアスカを見つめながらソファーに腰掛けるシンジの前に、先程の態度とは打って
変わったしおらしいアスカが近寄ってきた。

「煮物は得意でないので、ハンバーグでよろしいでしょうか?」

「へ?」

あまりに、従順な口調で喋りかけるアスカに何が自分の身に起こっているのか、シンジ
の頭はパニックを起こす。

「あの・・・シンジ様がよろしければ、ハンバーグをお作りしようかと思うのですが?」

ドッターーーーーーーン。

『シンジ様』と聞いた瞬間、シンジはソファーごと後ろにひっくり返ってしまう。

「あわわわわわわわわわわわわ・・・アスカが狂ったぁぁぁぁぁ!!!」

シンジは床に打ち付けた頭の痛みなど忘れて四つん這いで壁際まで逃げ出した。

ア・・・アスカが壊れた・・・アスカがおかしくなった・・・助けて・・・。
ぼ、ぼくがシンクロ率を抜いたのがいけなかったのか?
それとも、この間アスカが食べていたアイスクリームにハエが止まっていたのがいけな
かったのか? やっぱり、あの時言うべきだったんだぁぁぁぁぁーー!!

シンジはガタガタ震えながら、壁際で恐れおののいている。そんなシンジに、のしのし
と近づくアスカ。

「あ・・・あのさ・・・ぼく・・・その・・・あの・・・」

パーーーーン!!

「い、痛ったーーー。」

「男が、何どたばたしてんのよ! いいこと? 殿方はいつも凛々しく堂々としていなき
  ゃダメなの! わかった!?」

「な、なんなんだよ・・・。ぼくが、何をしたんだよ。どうすりゃいいんだよ。もう、
  許してよ!」

「とにかく、こっちに座りなさいよ!」

倒れたソファーを元に戻し、シンジを睨み付けたままクッションの上を指差すアスカ。
反対の手はいつもの様に腰に当てられている。

「ご、ごめんよ。もう許してよ。恐いよ。」

しかし、シンジは首を左右にぶるぶると振って、足をすくませ壁際で恐れおののいてい
る。

パーーーーン!!

「うだうだ言ってないで、さっさと座る!!」

襟首を捕まれ、半分涙目のシンジは無理矢理ソファーに座らされた。

「えーっと。」

ビクッ!

アスカがシンジの前で声を出した瞬間、なにが今起こっているのかわからずビクビクし
ているシンジの体が恐怖に震えてしまう。

「いいこと? アタシが夕食の献立を聞いたら、『それでいい』とか『ダメだ』とか答
  えてたらいいのよ! わかった!?」

「え・・・あ・・・う、うん・・・。」

「はい、じゃ答えて。」

「そ、それでいい・・・。」

ビクビクビク。

シンジの体が恐怖に震える。

「アンタ、肉じゃがが食べたかったんじゃないの?」

「え・・・まぁ、最初はそう思ったけど、せっかくアスカが作ってくれるんだから、そ
  の・・・ハンバーグでもいいか・・・」

パーーーーン!!

「い、い、痛いよ・・・もうやだよ・・・もうやめてよぉぉぉ。」

既に真っ赤になった頬を手で押さえながら、女座りをして涙目でアスカを見上げると、
目をつり上げたアスカの顔が見えた。

「ひーーー!!」

思わず、逃げ出しそうになるシンジの襟首を再び掴み、アスカはシンジの顔の前に顔を
近づけ、大声を張り上げる。

「だ・っ・た・ら! 『ダメだ! 肉じゃがにしろ!』くらい言いなさい!」

「え・・・あ・・・うん。」

「わかったら、すぐに言う!!!」

「えーーーーーーーーーー、だって、また・・・。」

「早く言う!!!」

「・・・・・・・・・・ダ・・・ダメ・・ダ・・・。に・・・肉・・・じゃがに・・・
  しろ・・・・。」

ちらちらと、アスカの表情を伺いながら、アスカに言われたセリフをゆっくり言ってみ
る。もちろん両手は、殴られない様に額の上でクロスさせており、腰は引けている。

「申し訳ありません・・・アタシは、肉じゃがが作れないんです。」

「はぁ!?」

『肉じゃがにしろ』と言わせておいて、作れないとはどういうことなのか。シンジは、
わけのわからないアスカが恐ろしく、時計をチラチラ見ながらミサトの帰宅を切に願う
だけだった。

パーーーーン!!

再びシンジの頬に平手がおみまいされる。

「い、痛いよ!! もう、痛いよぉ!! なんでもするから許してよ!!」

「こういう時は殴る!!」

「だから、殴られるのはもう嫌だよ。痛いよぉ。」

「ア・ン・タ・が、ア・タ・シを殴るのよ!」

「もう、勘弁してよ。いったいどうなってるんだよ。」

「早く殴りなさいよ!」

「殴れるわけないだろぉぉぉ。」

パーーーーン!!

「い、痛ったーーーー! なんなんだよぉ、もう嫌だよ! アスカおかしいよ!」

「アンタがアタシを殴るまで、平手の連発よ!」

パーーーーン!!

パーーーーン!!

パーーーーン!!

「わ、わかったから、もうやめてよ。殴ればいいんだろぉぉ!!」

パチン。

ぐらぐらぐら・・・ぺた。

シンジが軽くアスカの頬を叩いた瞬間、その場にアスカは崩れ落ち、涙目でシンジを見
上げた。

「あぁ・・・申し訳ありません。お許しを・・・シンジ様・・・およよよよ。」

はぁ・・・もう、勘弁してよ・・・。許してほしいのはこっちだよぉ・・・。

<学校>

「お? シンジやないか? どないしたんや? 病気でもしたんか?」

朝、シンジとアスカを見かけたトウジとケンスケが寄ってくる。昨日夜遅くまでアスカ
に男のあるべき姿を調教されたシンジは、へとへとに疲れてしまっていた。

「そ、そういうわけじゃないんだけどね。」

「ほうか。まぁ、体には注意しいや。」

「うん。」

アスカが下駄箱の方へ行ったので、シンジはトウジ,ケンスケと一緒に3人で教室へと
向う。

「しかし、ほんま疲れた顔しとるで、どないしたんや。」

「なんでもないよ。」

シンジの席の周りに集まって3人で話をしている所に、しょぼくれた顔をしたアスカが
教室へ入ってきた。

とことことこ。

そのまま、床を見つめながらシンジに近づいてくるアスカ。

「あの、シンジ様・・・お弁当を持ってくるのを忘れました。」

「シ、シンジ様ぁ??? なんじゃそりゃぁぁぁぁ!?」

アスカの発した言葉に教室中がざわつき、咄嗟にヒカリが駆け寄ってくる。しかし、シ
ンジは泣きそうな顔をしていた。

こ、こんなところで・・・学校で、ぼくに・・・ひどいよ・・・。

アスカはじっとシンジのことを見つめている。その視線は、申し訳無いというよりも、
睨んでいる様でもあった。

「申し訳ありません。」

再びアスカが何かを催促するかの様に誤る。その声を聞いたシンジは、身の不幸を呪い
ながらも、昨日教わったマニュアル通り右手を上げた。

ペチン。

「ぼくの弁当を忘れるなんて、何を考えてるんだ!」

はぁぁぁ・・・これじゃ極悪人じゃないか・・・。

ぐらぐらぐら。

頬を押さえ、大袈裟にその場に崩れ落ちるアスカ。教室中の視線がシンジに集中する。

「碇くん! ひどいじゃない!! お弁当を忘れたくらいで殴ることないでしょ! だい
  たいどうして、自分のお弁当箱までアスカに持たせてるのよ!」

怒声をあげてヒカリがシンジに詰め寄る。もちろん、クラスメートの視線は全てシンジ
を睨み付けていた。

「だ、だから・・・。」

キッ。

言い訳をしようとした時アスカの鋭い視線が突き刺さり、ヘビに睨まれた蛙の状態にな
るシンジ。

「ア、アスカがいけないんだ。そうだな、アスカ・・・。」

はぁ・・・もう、駄目だ・・・。ぼくの人生は終わった・・・。

「申し訳ございません。以後注意しますので、お許しを・・・およよよよ。」

「ダ、ダメだ。今から取りに帰れ!」

アスカに教えられた通りのセリフを、ケースバイケースに分類されたマニュアル通りに
連発するシンジ。その胸中は真っ暗であった。

「は、はい・・・わかりました。シンジ様・・・およよよよよ。」

2人の会話を聞いていたクラスメート達の怒りのボルテージは、MAX値を指し示して
いた。

「シンジ! おまえっちゅー奴は男の風上にもおけんやっちゃなー! いきなり、惣流が
  シンジ様なんか言うからおかしいと思ったんや! どうせ弱みでも握って無理矢理言う
  ことを聞かせとんねやろ!」

「そ、そんなことしてるの!?? 碇くんひどいじゃない!!」

「シンジ、いくらなんでも今のはひどいよ。」

トウジ,ヒカリ,ケンスケにまで責められシンジは四面楚歌の状態になったが、ここで
言い訳でもしたら、帰宅後さらなる地獄が待っていることは明白である。

「おい! アスカ、お前がぼくの弁当を忘れるからこんなことになるんだ! なんとか言
  え!」

開き直ったシンジは、さらにアスカを責める。

「み、みんな。いいの。アタシは、一生シンジ様の為に働かなければいけないんだから
  ・・・およよよよ。」

「ひっどーーーーーーーーーーーーーい!!!」
「惣流さんに何したのよ!!!」
「惣流さん、お弁当なんか取りに帰る必要無いわよ!」
「碇くん、最低!!」
「外道!!」
「鬼畜!!」
「悪魔!!」
「悪人!!」
「最低男!!」

女子を中心にブーイングの嵐がシンジを襲う。
その後も学校が終わるまで、シンジはクラスメートに責められ続けた。

もう、いいんだ。ぼくなんて、どうなったって・・・。
どうせぼくなんて・・・。
                        :
                        :
                        :

シンジは責められる度に、1人でブチブチと愚痴をこぼす。

アスカが言うから、言われる通りにやってるだけなのに・・・。
もう、ぼくは極悪男扱いじゃないか・・・。
                        :
                        :
                        :

そして、学校が終わろうかと言う頃。シンジはまだ責められ続けていた。

フン、どうせぼくなんて、外道で鬼畜なんだ!!!
アスカをこき使う極悪男なんだ!!!

シンジの中で、何かがはじけた。

<ミサトのマンション>

アスカは帰宅した後、自分のベッドに寝転んでいた。

やっぱり、シンジじゃダメなのかなぁ。
ずっと、アタシの顔色ばっか伺っちゃってさ。
シンジも、もっと男らしくなったらかっこいいのになぁ。
これじゃ、アタシが言わせてるのと変りないじゃない。

そう考え出すと、なんだか空しくなってくるアスカ。

もう、やめよっかなぁ。
やっぱり、シンジには無理よねぇ。
はぁ、やめやめ。
やーーーめたっと。

考え事をしながらぼーーーーっと天上を見上げていると、リビングからシンジの声が聞
こえた。

「アスカ!! アスカ!!」

「もぅ、何よ! そんなに大声を出さなくても聞こえてるわよ!」

その瞬間、ガラッとアスカの部屋の襖が開いたかと思うと、ズカズカとシンジがアスカ
の部屋に入って来る。

「ちょ、ちょっと! 表に書いてある字が見えなかったの! 勝手に入ってこないでよ!」

「呼んだらすぐに来ないとダメじゃないか!! ぐずぐずしてないで、さっさと晩御飯
  の準備をしなきゃいけないだろ!」

シンジの叱咤など無視して、アスカはしらけた様子で再びベッドに座り込んだ。

「もう、やめたの。どうせシンジには無理なんだから。」

「アスカ! ぼくにそんな口の聞き方をしてもいいと思ってるの!?」

「もう、やめたって言ってるでしょ! アンタもそんな芝居やめなさい.」

その言葉を聞いた瞬間、シンジはズカズカとアスカに近づく。

「もう、勝手に人の部屋を歩き回らないでよね!」

パーーーーーーン!!

しかし、アスカの頬に突然シンジの平手が炸裂した。アスカは頬を押さえるのも忘れて
呆然とシンジを見上げる。

「アスカは、ぼくの言うことを聞かなくちゃダメじゃないか!!」

「シ・・・シンジ・・・・。」

ジーーーーーーーーン。
か・・・かっこいい・・・。

アスカの目に涙が溜まり、恋する乙女の眼差しでぼーーーっとシンジを見上げる。

これよ! これなのよ! これこそが大正ロマンなのよ!
あぁ・・・アタシの求めていた物だわぁぁぁ。

どうやら、感動に打ちひしがれている様である。

「何をしてるんだよ! さっさと晩御飯の準備をしろよ!」

「は、はい。ただいま!! おまたせして申し訳ありません、シンジ様!!」

アスカは、笑顔でパタパタとキッチンへ走って行った。
2人の新たな関係は、今始まったばかりである。

fin.
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