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幸せを求めて
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作者注:この小説は、映画を補完するSSです。映画を見てから読んで下さい。
        また、この作品をすばらしい映画を作って下さった、庵野監督に送ります。
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全ては終わった。LCLと化した人類は再び実体化し、ぼくとアスカもここにいる。

「気持ち悪い・・・。」

どうしてアスカは、ぼくを受け入れてくれないんだ。

全ての人類が、一つになることを、望まなかったのは、ぼく自身だ。それは、再び他人
の恐怖に脅えることの始まり。

「気持ち悪い・・・。」

アスカは、ぼくを受け入れてくれない。誰も、ぼくを受け入れてくれない。

「当然か。」

ぼくは、ぼくが嫌いなんだから。

アスカは、最後の戦いの外的後遺症が残り、数週間は入院することになるらしい。
ミサトさんは、あの時、加持さんが実体化した可能性を信じて、消息を追っている。

<ミサトのマンション>

独りで食べるご飯。何日目かな・・・。

ぼくは、アスカの病院には見舞いに行っていない。アラエルに心を汚された時には、ア
スカのことが心配で・・・いや、アスカにぼくを救ってもらいたくて、何度も通った。
でも、アスカがぼくを受け入れてくれないことがわかった今、見舞いに行っても仕方が
無い。

独り。
      独り。
            独り。

誰か、ぼくを見て。
誰か、ぼくを助けて。

・・・・・・・・・アスカ・・・。

TVをつける。砂の嵐。
まだ、TV放映ができるほど、サードインパクトの痛手は回復していない。

静寂と暗闇の中、ご飯を食べる。

・・・・・・・・・アスカ・・・。

「アンタは誰でもいいのよ。」

そう、誰でもいい。誰かぼくを見て。ぼくを助けて。

「ミサトやファーストが恐いから、アタシに逃げてるだけでしょ!」

そう、アスカでなくてもいい。

でも・・・。

・・・・・・・・・アスカ・・・。

独りで作り、独りで食べ、独りで後片づけをする。
静寂と暗闇の中で、作り、食べ、後片付けをする。

独り。
      独り。
            独り。

誰か、ぼくを見て。
誰か、ぼくを助けて。

・・・・・・・・・アスカ・・・。

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アスカが入院して一ヶ月近く。人類、そしてネルフは目覚しい勢いで回復している。
変わらないのはぼく。独り・・・。

あらからネルフには行っていない。ほとんど外出もしていない。

独り・・・。

プルルルルルルル。

電話の音。出る必要は無い。

プルルルルルルル。

うるさい音。

プルルルルルルル。

ぼくはリビングにうずくまる。

プルルル・・・。

再び静寂の時間。

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そして、数日後。

ガチャ。

「フン。アンタまだいたの?」

アスカが帰ってくる。もう帰ってこないと思ってたのに。

「うん。」

「また、アンタと一緒に暮らすと思うと吐き気がするわ。」

「ごめん。」

アスカは、ぼくの言うことなど聞かずに、部屋に入る。荷物の整理があるのだろう。

日が暮れる。

アスカが部屋から出てくる。

「電気くらいつけなさいよ!」

「必要無いから・・・。」

「うっとうしいわね!」

パチ。

何ヶ月振りかに、明かりを灯す蛍光燈。

ぼくは、いつものように、ただ、生きる為に食事を作る。
アスカは、TVを見ている。いつのまにか、放映してたんだ。

椅子に座り、ご飯を食べる。

「ちょっと! アタシのは!?」

「自分で作りなよ。」

「な!」

ぼくは、自分のご飯を食べる。

「フン!」

アスカは、家を出て行く。また、独り。

ご飯を食べる

独りで食べる。

しばらくすると、コンビニの袋をぶら下げたアスカが帰ってきた。

「アンタの作るご飯なんか、気持ち悪くて食べれないわよ!」

弁当を食べ出すアスカ。

ぼくは、部屋に入る。

「おやすみ。」

アスカは、無言で弁当を食べる。

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学校が始まる。

朝起きると、教科書と弁当を鞄に詰め込み学校に行く。

<学校>

「よう、シンジ。久しぶりやないか。」

トウジやケンスケと会う。適当に会話をする。
心の無い会話。ただの言葉のやり取り。

遅刻寸前にアスカが走って登校してくる。

授業が始まる。聞きたくない。

昼休み、ぼくは弁当を食べる。アスカは購買のパンを食べているようだ。
トウジそしてケンスケと、再び話をする。別にどうでもいい。

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ぼくとアスカは、あの日以来、口をきいていない。ただ、同じ家にいるだけ。
ぼくは、再びネルフに通うようになる。
回収されたエヴァのパイロットとして。
アスカも再びネルフに通うようになる。
再構築されたエヴァ弐号機のパイロットとして。
綾波は行方不明。生死不明。

                        ●

<ネルフ司令室>

ハーモニクステストが終了し、ぼくとアスカは司令室に呼び出される。

「シンジくん。ご苦労様。」

「任務ですから。」

「アスカもだいぶ、昔の感覚を取り戻してきたみたいね。」

「・・・。」

無言のアスカ。

「2人とも、ちょっと話があるの。こっちへ来て。」

司令室の別室へ、ぼくとアスカは連れて行かれる。

「これから言うことを他言した場合は、命の保証がありません。いいわね。」

「はい。」

「・・・。」

「明日、0:00をもって、ネルフは、戦自へ奇襲を行います。」

ミサトの顔が曇る。

「はい。」

「・・・。」

驚くミサト。

「シンジくん? あなた、わかってるの? 相手は人間なのよ!?」

「はい。もう、恐れるものはありません。ぼくは独りですから・・・。」

「そう、いい心がけだわ。アスカも、わかったわね。」

「・・・。」

「反論が無ければ、了承したものとします。じゃ、解散。」

ぼくとアスカは、睡眠を取る為に、ネルフの仮眠室に向かう。家に帰る時間は無い。

<仮眠室>

ぼくの、隣の仮眠用ベッドで横になるアスカ。

「人を殺すのよ。」

久しぶりに聞く、アスカの呼びかけ。

「そうだね。」

「アンタわかってるの!?」

アスカは、ベッドを降り、身を乗り出す。

「どうしたの? ぼくの心配をしてくれてるの?」

「フン! 誰がアンタなんか!」

再びベッドに戻るアスカ。それと共に訪れる静寂。

チッチッチ。

時計の音。流れる時間。

ガサッ!

「アンタ・・・変わったわね。」

「そうかな・・・。」

「前は人を恐れてたけど、今度は人を受け付けなくなったじゃない。アンタに今あるの
  は、自分だけ。最低!」

「アスカと一緒ってこと?」

「な!」

布団をガバッとめくり、立ち上がると、ぼくの襟首を掴むアスカ。

「アンタなんかと一緒にしないでよ!」

「うん。ぼくとアスカは違う。でも、アスカも自分しか見てない。」

「アンタなんかに何がわかるのよ! 知った風なこと言ってんじゃないわよ!」

「ぼくは、アスカのことなんかわからないし、わかろうとも思っていない。」

ぼくとアスカは睨み合う。

「フン! 以前は、アタシに助けを求めてすがってきたくせに、助けてくれないってわ
  かったら、今度は無視!? 敵視!? 都合がいいわね!」

襟首をつかんだまま、ぼくを罵るアスカ。

「違う・・・。ぼくは、自分を知りたいだけなんだ。」

「ばっかじゃないの!」

アスカはぼくを突き飛ばして、ベッドにもぐりこんだ。

眠れない時間が過ぎ、ぼくらはエヴァに乗った。

<エントリープラグ>

「シンジくん? アスカ? いい?」

ミサトさんから通信が入る。

「はい。」

「・・・。」

「アスカ! 聞こえてるの!!? 答えなさい!!」

「聞こえてるわよ!」

「じゃ、いいわね。発進!」

今回の戦闘は、通常兵器 対 エヴァ。勝算は100:0に近いはずだった。

「ミサトさん! エヴァが!」

まさか、戦自がS2機関を搭載したエヴァを3体も用意していたなんて。
いや、裏で動いているのはゼーレか。

2:3、こちらでS2機関を搭載しているのは初号機だけ。

襲い掛かるエヴァシリーズ。

「ちくしょーーーーー!」

ぼくは、プログナイフで応戦しようとした、しかし、エヴァシリーズのターゲットは・・・。

「アスカ!」

前回のエヴァシリーズより強い。いや、アスカの動きが悪い。
ぼくも、援護に向かうが、エヴァシリーズはぼくを相手にしない。ただ、アスカに攻撃
をしかける。

「きゃーーーーーーーーーーーー!!!」

ロンギヌスの槍に射貫かれる弐号機。

今度、アスカを失ったら! もう二度と!

ぼくは、弐号機のエントリープラグを射出すると同時に、自分も外に出る。

「アスカ! 乗って!」

「誰がアンタなんか! アンタなんかに助けられるくらいなら、死んだほうがマシよ!」

そんな、言葉を無視して、初号機のエントリープラグにアスカを引きずり込む。戦闘中
だ、時間が無い。

「勝手なことするんじゃないわよ!」

「ぼくと心中したくなければ、だまってて。」

再生された弐号機が無残にも破壊されていく。

「アタシの弐号機が・・・。」

「いいさ、これが最後だから。」

ぼくは、エヴァシリーズ3体に突進した。

                        ●

<病室>

戦闘には勝った。事実上、ネルフが世界を征服したことになる。

今、ぼくとアスカは病室に寝ている。

「なんで、アンタなんかに・・・。」

ぼくに助けられた自分を呪っているようだ。

「なんで、アンタなんかに・・・、アンタなんかに助けられるくらいなら、死んだほう
  がよかったわよ!」

どうして、ぼくはアスカを助けたんだろう? ぼくは独りで生きて行くんじゃなかった
のか? 独りで生きているぼくをアスカに見せたいのか? いや・・・ぼくを見捨てたア
スカが許せないんだ・・・。

「許さない。」

「何がよ!」

「死なせしない。」

「アンタなんかに、助けられたくないわよ!」

「ぼくは、自分を助けただけだ。アスカを助けたわけじゃない。」

「何よそれ!」

「ぼくは、独りだ。アスカも独りだ。所詮、独りなんだよ。」

アスカは、唖然とぼくを見つめる。

「ア、アタシは独りじゃない・・・。」

「独りさ・・・。ぼくと同じ孤独を味わうんだ。」

「アンタ、何言ってるのよ。」

「独りは辛い?」

「辛くなんかないわよ! アタシは独りで生きていくんだから!」

「辛いんだろ?」

アスカは黙り込む。

髪の毛で顔を隠し、うつむいていたアスカがゆっくりと顔を上げる。

「アンタは・・・アンタは、自分を探してるの?」

「え?」

自分を探す・・・。自分を・・・。

時間が流れる。
その後、僕たちは口を聞かなかった。

<ミサトのマンション>

たいした外傷もなかったので、数日で僕たちは退院できた。

ぼくは、自分で作ったご飯を食べている。

最近はアスカがいるせいもあって、電気を付けて食べるようになった。

アスカは自分の部屋で、買ってきた物でも食べているのだろう。今日は部屋から出よう
としない。

ピピピピピ。

風呂が入ったことを知らせるアラーム。

ご飯を食べ終わると、ぼくは風呂に入る。

「風呂に入るとカヲルくんを思い出すよ。ありがとう・・・カヲルくん。」

ぼくは、カヲルくんの言ったことを最近考えるようになった。まだまだわからないこと
が多いけど、カヲルくんはぼくに大事なことを教えてくれてたような気がする。

体と頭を洗い、風呂のお湯を抜く。アスカが入る時に、ぼくの入ったお湯を残しておく
わけにはいかない。

風呂を出、服を着る。体が乾ききらないのに、服を着るとしめっぽくなるが、他人の家
に住んでいるんだ、仕方無い。

リビングに出ると、アスカと鉢合わせする。

「風呂使っていい?」

めずらしく、アスカから声をかけてくる。

「うん。」

「お湯ぬいた?」

「うん。」

「そう・・・。」

今日は、それっきりアスカとは会わなかった。

<学校>

昼休み、トウジ達と楽しく弁当を食べる。
他愛の無い会話。でも、人と一緒にいられることがわかる時間。

アスカは独りでパンを食べているようだ。委員長と一緒に食べるとこを、最近見ない。

<通学路>

ぼくは、独りで帰る。

<ミサトのマンション>

ミサトさんは、加持さんをまだ追っている。家に帰ることはほどんど無い。

ガチャ。

「ただいま。」

最近、アスカは帰ってくると、挨拶をするようになった。

「あら、シンジ帰ってたのね。誰もいないのかと思ったわ。」

部屋に入るアスカ。着替えるのだろう。

ヘッドホンステレオ。SDATに収まったクラッシックを聴く。特に理由は無い。

ガラガラ。

アスカが出て来て、ぼくの前に座る。

「シンジ、聞きたいことがあるの。」

イヤホンを耳からはずす。

「え?」

音楽を聞いていたから、よく聞き取れなかった。聞き返す。

「聞きたいことがあるの。」

「何?」

「シンジは、独りなの?」

「そうだね。」

「辛くないの?」

「辛いよ。」

「そう・・・。」

アスカが、自分の部屋に戻ったので、またヘッドホンステレオを聴く。

・・・・・・・・・アスカ・・・。

翌日、日曜日。

ぼくは、まだ寝ていた。

「シンジ・・・。」

「ん?」

アスカの声で目を覚ます。

「シンジ・・・。」

「どうしたの?」

まだ、5:00。寝ぼけ眼でアスカを見る。

「シンジは、辛いのにどうして独りでいられるの?」

「突然、どうしたの?」

「答えて。」

「わからない。けど、独りであることから逃げちゃダメだと今は思う。」

「だから、独りだけで生きるの?」

「独りであるぼくを乗り越えることができた時、誰かがぼくを見てくれると思うんだ。」

「そう・・・。」

アスカが、部屋から出て行く。

・・・・・・・・・アスカ・・・。

ぼくは再び眠りについた。

ジリリリリリリリリ。

目覚しが、ぼくの眠りを再び覚ます。

「8:00か・・・。」

ぼくは、着替えるとリビングに向かう。

「シンジ、おはよう。」

めずらしく、アスカが起きている。あれから寝てないんだろうか?

「よかったら、食べて。」

朝食の用意が、2人分。

「ぼくに?」

「そうよ。」

「どうして?」

「いいから。」

なぜか、うれしかった。

その日から、ご飯の用意は全てアスカがするようになった。

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数日後、ミサトさんが帰ってきた。

「おかえりなさい。」

「迷惑かけたわね。」

「加持さんみつかったんですか?」

「ええ。あのブァカ。身を潜めてたのよ! 昨日とっ捕まえたわ!」

「おめでとうございます。」

「わたしのわがままで、いままでごめんね。」

「いいんですよ。そんなこと。ミサトさんは、ミサトさんの幸せを見つけて下さい。」

「シンジくんは、幸せを見つけたの?」

「いいえ、探しています。」

「がんばってね。」

「はい。」

疲れていたのだろう。ミサトさんは、自分の部屋に入り寝てしまった。

ガラガラ。

ミサトさんと入れ替わりに、部屋から、アスカが出てくる。

「シンジ・・・、ミサトはどうして加持さんを探し続けたんだと思う?」

「自分の幸せを探してたんじゃない?」

「ううん。独りでいることが恐かったのよ。」

「そうかもね。」

「シンジは独りでいることが、恐くないの?」

「恐いよ。」

「なら、どうして、ずっと独りでいようとするのよ!」

「前にも言ったと思うけど?」

「アタシは・・・。」

「え?」

「アタシには、耐えられない・・・みたい。乗り越えれない・・・。」

「だから、ぼくにすがるの?」

「!」

以前のぼくを、アスカに見た気がした。

「アタシは・・・、アタシにすがってくるシンジが許せなかった。大嫌いだった。」

「だろうね。ぼくも、今のアスカのこと嫌いだから・・・。」

「!!!!」

アスカは、何も言わずに、自分の部屋に入っていった。

・・・・・・・・・アスカ・・・。

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                        :

夜、ぼくは寝ていた。

「シンジ・・・。」

アスカの声に目を覚ます。

「何?」

「アタシのこと嫌い?」

「うん。」

「どうしたら、好きになってくれる?」

「もう、好きになんて、なれないと思う。」

「そう・・・・・・・・・・・。
  シンジは・・・シンジは、このまま、独りで生きていくの?」

「独りでは生き続けることができるほど、ぼくは強くないよ。」

「嘘。アンタは十分独りで生きて行けるわ。でも・・・アタシは・・・もう、限界・・・。」

「助けてほしいの?」

「助けてほしい。」

「アスカのプライドは?」

「もう・・・限界なの・・・。」

「ぼくが、アスカに助けを求めた時、アスカはぼくを拒絶したよね。」

「復讐?」

「違う。」

「じゃ、何?」

「感謝。」

「どうして?」

「自分を見つけることができたから。」

「自分を見つけることができたの?」

「うん。」

そして、アスカは、家を出た。

                        ●

「ミサトさん。ちょっと、いいですか?」

エビチュを飲む、ミサトさんに声をかける。

「何?」

「ぼく、この家を出ようと思います。」

「いきなり、どうしたのよ。」

エビチュを置くと、ミサトさんがぼくを見据える。

「もう、この家にいる理由はありませんから。」

「ダメよ。まだ、15歳じゃないの。」

「いいんです。もう、決めましたから。」

ピンポーーーン。

「ちょっと、待ってなさいよ!」

ミサトさんが、来客を連れてくる。

「よぉ、シンジくん久しぶりじゃないか。」

「加持さん。元気そうですね。」

「おかげさまでね。」

「それより、シンちゃんが、この家を出るって言い出したのよ。」

加持さんも交えて、ぼくを止める気だろうか?

「どうして、この家を出たいんだい? 葛城の世話に疲れたか?」

「いえ・・・。ぼくは、ぼくを見つけられた気がします。だから今度は、そのぼくが何
  を願うのか、独りになって、ゆっくり考えようと思います。」

「本当に見つけることができたのか?」

「わかりません。でも、自分のことが嫌いじゃなくなりました。」

「そうか。独りで考えてみろ。」

「ちょっと、加持!」

「いいじゃないか。葛城はシンジくんの何でもない。束縛することなんてできないよ。
  そうだろ。シンジくん。」

「はい。」

「シンちゃん・・・。」

「ごめんなさい。」

「わかったわ。わたしも保護者になれなかったんだし。仕方無いわね。」

こうして、ぼくの独り暮らしが決まった。数日後、ぼくはミサトさんのマンションを出る。

                        :
                        :
                        :

引越しの準備が整い、ぼくは、ミサトさんのマンションの近くに住むことになった。
ちょうど、そんな時、アスカがドイツにいることを聞かされた。

<シンジのマンション>

・・・・・・・・・アスカ・・・。

最近、アスカのことを思い出す。

・・・・・・・・・アスカ・・・。

ぼくは、どうして、独りになろうとしたんだろう?
ぼくの幸せはどこにあるんだろう。

ピンポーーン。

めずらしい。ぼくの家のチャイムが鳴るなんて。

のろのろと、玄関に出て行くと、そこにはアスカが立っていた。

「ひさしぶりね。」

「ドイツに行ったって聞いてたけど?」

「今日帰ってきたの。」

「そう。」

「アタシ。ドイツに行って、本当のママと、今のママに会ってきたわ。
  本当のママに別れを告げ、今のママと話をしてきたの。」

「そう。」

「この1ヶ月、独りになっていろいろ考えたわ。」

「そう。」

「シンジ・・・、アタシもここで住んでいいかな?」

「嫌だよ。」

「アタシのことが嫌いだから?」

「うん。」

「それでもいいの。アタシは、シンジに独りで生きていけることができるってことを、
  見せたいの。だから、一緒に住みたいの。」

「!!!!」

ぼくは、衝撃を覚えた。

・・・・・・・・・アスカ・・・。
・・・・・・・・・アスカ・・・。
・・・・・・・・・アスカ・・・。
・・・・・・・・・アスカ・・・。

「ぼくは・・・最低だ・・・。」

「何?」

「ぼくは・・・・ぼくは・・・・。」

「どうしたの?」

「ぼくは、独りで生きて行こうとしてたんじゃない・・・。」

「どういうこと?」

「独りで生きて行けることを、アスカにわかってほしかったんだ。
  そうしたら、アスカが振り向いてくれるんじゃないかって・・・。」

「シンジ。」

「最低だ・・・。」

「違う。違う! それでも、アンタは自分を見つけたんじゃないの?」

「結果じゃない。独りになろうとしたのは、結局アスカに見てもらいたいから。何も、
  ぼくは変わってない。」

「変わったんじゃないの? 自分を見つけれたんじゃないの?」

「結果じゃないんだ。」

「それを言うなら、アタシもそう。シンジにもう一度アタシを見てほしくて・・・。」

「え?」

「人をわかる為に、自分をわかろうとしたんじゃないの?」

「アスカ・・・。」

「一緒に暮らしてもいいかな?」

ぼくは、久しぶりに、笑顔になっていた。

「うん。これからは、2人で・・・。」

「うん。」

                        ●

それから、ぼくらは一緒に暮らしている。

人はATフィールドで心の壁を作る。
その壁を取り除くことはできない。1つになることはできない。
けど、それぞれの人にATフィールドがあるから、互いの人がある。
互いを求め合うことができる。

「シンジ! ご飯の用意ができたわよ。」

「うん。すぐ出るよ。」

今、ぼくは風呂に入っている。

「お湯、流さないでね。あとでアタシが入るんだから。」

「わかった。」

僕たちは一緒にご飯を食べている。

「アスカ・・・いつまで、ここにいるの?」

「どうして? また、独りになりたくないの?」

「違う・・・と思う。」

「大丈夫よ。アタシは出て行かないわ。」

「どうして?」

「独りになるのが恐いんじゃないわ。」

「シンジと一緒にいたいから。」「アスカと一緒にいたいから。」

誰かに見てほしいんじゃない。
誰でもいいんじゃない。

自分を見つけられずに・・・他人に自分を見つけてほしくて・・・すがっていた時。
ぼくたちは、自分のことしか考えることができなかった。
でも、自分をみつけた僕たちは、自分の求める幸せを、人の求める幸せを探すことがで
きる。

これからは、2人でその幸せを探して行こうと思う。

心から、求めた人と一緒に・・・。

fin.
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