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サンタさんとプレゼント
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<第3新東京市>

今日はクリスマスイブ。良い子のお友達は、サンタさんに見える様に1番大好きで大き
な靴下をぶらさげ、早いうちから楽しい夢の中。

サンタさんが今年も来るといいですね。

きよしこの夜。寒いお空に夜の帳が降りました。

さぁ、サンタさんの活躍が始まります。

シャン! シャン! シャン! シャン! シャン! シャン! シャン! シャン!

鈴の音が聞こえて来ましたよ。2015年の第3新東京市にも、サンタさんがやってき
たようです。

ずんちゃっ♪ ずんちゃっ♪ ずんちゃちゃずんちゃっ♪

あら、今年の第3新東京市担当のサンタさんは、なんだか派手ですねぇ。

♪ ジングルベールっ ジングルベールっ 鈴がなる〜っ ♪

♪ 今日はぁ〜 楽しい〜 クリスマスっ! ♪

「ヘーーーーーーーーーーイッ!」

ずんちゃっ♪ ずんちゃっ♪ ぶんちゃかぶんちゃっ♪

ゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!

第3新東京市のお空を、体に鈴をたくさん付けた真っ赤な弐号機が飛んで行きます。そ
の背中には、こちらも真っ赤なプラグスーツに身を包んだアスカサンタさんが、たくさ
んのプレゼントを真っ白な大きな袋に詰めて乗っています。

「やっと、初仕事だわっ! がんばらなくっちゃっ!」

今年、サンタの国で適格者に選ばれてから長い訓練を受け、ようやく正規のサンタさん
に昇格できたアスカサンタさんは、初めてのクリスマスにやる気まんまんの様です。

「さぁっ! 良い子のお友達は何処かしらぁ?」

アスカサンタさんは白い袋から、大きな帳面を取り出すと、おもちゃを配る家の住所を
調べ始めました。

「まずは、この辺りからね。」

空を飛ぶ弐号機からキラキラと輝くクリスマス一色の街を眺め降ろすと、小さな家が見
えました。その家のピュアな子供から、プレゼントのお願いがされているみたいです。

「レッツゴーーっ!」

アスカサンタさんはロープを垂らして、家の屋根にスルスルスルと降りて行きました。

「いたいたぁっ。この子ね。」

窓の向こうには、無邪気な顔で眠っている幼い子供の姿が見えます。アスカサンタさん
は、髪を留めていたヘアピンを取り出し、窓の鍵をコチョコチョといじりました。

カシャン。

窓の鍵が開きました。サンタさんじゃなかったら、犯罪です。良い子のみなさんは真似
しちゃ駄目ですよ。

「へっへぇっ! ちょろいちょろい。」

アスカサンタさんは、その子がお願いしていたおもちゃを靴下に入れると、そそくさと
家を出て行きました。まだまだサンタさんを待っているピュアな子供達は、たくさんい
るのです。急がなくてはいけません。

シャン! シャン! シャン! シャン! シャン! シャン! シャン! シャン!

弐号機の体一面に取り付けられた、金色の大きな鈴や小さな鈴が、透き通る様な音色を
奏でています。

ずんちゃっ♪ ずんちゃっ♪ ずんちゃちゃずんちゃっ♪

♪ ジングルベールっ ジングルベールっ 鈴がなる〜っ ♪

♪ 今日はぁ〜 楽しい〜 クリスマスっ! ♪

「ヘーーーーーーーーーーイッ!」

ずんちゃっ♪ ずんちゃっ♪ ぶんちゃかぶんちゃっ♪

第3新東京市の空を、真っ赤な弐号機が飛んで行きます。アスカサンタさんは、1件1
件おもちゃを配って行きます。

「ん?」

大変ですっ。

アスカサンタさんが、1件の家に降りて来ると、そこの子供は夜更かしをして、まだゲ
ームをしているじゃないですかっ!

これでは、アスカサンタさんはおうちに入れませんよ?

「困ったわねぇ・・・。 そうだわっ!」

アスカサンタさんは、またヘアピンでそっと窓の鍵を開けると、音がしないように少し
だけ窓を開けました。何をするつもりですか?

「目標をセンターに入れて・・・。」

そしてアスカサンタさんは、別の子にあげる予定の野球ボールを、白い袋から取り出し
ました。何をするつもりですか?

アスカサンタさんは、おもいっきり振り被りました。何をするつもりですか?

「発射っ!」

ビュッ!

ゴイーーーーン。

さすがはアスカサンタさんです。子供は見事におねんねして、良い子になることができ
ました。でも、サンタさんじゃなかったら、犯罪です。良い子のみなさんは真似しちゃ
駄目ですよ。

「えっとぉ。靴下はぁ? あぁ、これね。」

その子にも無事にプレゼントを渡すことができたアスカサンタさんは、ニコニコしなが
らその家を出て行きました。

シャン! シャン! シャン! シャン! シャン! シャン! シャン! シャン!

ずんちゃっ♪ ずんちゃっ♪ ずんちゃちゃずんちゃっ♪

♪ ジングルベールっ ジングルベールっ 鈴がなる〜っ ♪

♪ 今日はぁ〜 楽しい〜 クリスマスっ! ♪

「ヘーーーーーーーーーーイッ!」

ずんちゃっ♪ ずんちゃっ♪ ぶんちゃかぶんちゃっ♪

そして、いよいよ最後のお友達となりました。この子にプレゼントを渡せば、アスカサ
ンタさんの初仕事は無事完了です。

「む?」

窓からその子のことを見た、アスカサンタさんは驚きました。帳面をもう1度じっくり
と見ますが、間違っていません。

碇シンジ。14歳。

「この子、14にもなってサンタを信じてるの? ここまでピュアな子も珍しいわねぇ。」

アスカサンタさんは、窓の鍵を開けると、興味深々で自分と同じ年の子の部屋へと入っ
て行きました。

「えっと、この子のプレゼントはっと・・・はっ!!!」

一大事ですっ! アスカサンタさんのサンタ生命に関わる程の大事件ですっ! 先程投げ
たボールが、この子のお願いしていたプレゼントだったのです。

「た、たいへんだわっ!!! プ、プレゼントを無くしちゃった・・・。」

サンタにとって、子供の願いの詰まった夢のプレゼントを無くすということは、致命的
なミスです。アスカサンタさんは焦りました。

「むぅぅぅっ。どうしよう。」

困り果てたアスカサンタさんは、思案にくれながら幸せそうに眠る男の子の顔をじっと
見つめます。

「仕方ないわねぇ。アタシを代わりのプレゼントにするしかないわね。」

は? 何に言いましたか? アスカサンタさん?

言うが早いかアスカサンタさんは、仕方ないと言いつつもなぜかニコニコしながら、そ
の男の子の布団に寄り添って入って行きます。プレゼントの代わりらしいです。

それでいいのですか? アスカサンタさん?

べたぁぁぁ。

布団に入ったアスカサンタさんは、その男の子の胸に顔を埋めて抱き着きました。仕方
無いんじゃなかったんですか? やけに幸せそうですが?

「むふふふふ。」

♪ ジングルベールっ ジングルベールっ 鈴がなる〜っ ♪

♪ 今日はぁ〜 楽しい〜 本当に楽しい〜 クリスマスぅぅぅぅぅ ♪

「むにゃぁぁぁ〜〜。」

そして、アスカサンタさんは、その男の子と一緒に、クリスマスイブの夜をぐっすりと
眠ってしまいました。

本当にこれでいいのですか? アスカサンタさん?

                        ●

「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

翌朝。クリスマスの日。いつも寝坊助なシンジだったが、寝苦しく思い朝早くに目を覚
ますと、その横には見知らぬ女の子が奇妙な赤い服を着て抱きついて眠っていた。

「な、な、な、なんだぁぁっ? なんだよこれーーーっ!」

『シンジ、どうしたのっ? シンジっ!?』

その声を聞きつけたユイが、台所から走り寄ってくる音が聞こえる。シンジは焦った。
こんな状態を見られたら、どんな誤解をされるかわからない。

「あっ! なんでもないよっ! 母さんっ! 来ちゃ駄目だっ!」

「シンジっ!」

しかし、その言葉は間に合わず、部屋の扉は開かれてしまっていた。部屋の外には、ユ
イといつの間にか父のゲンドウまでが立って、こちらを覗き込んでいる。

「わぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「シ、シンジっ! 誰なのっ! その娘はっ!?」

「よくやったな。シンジ。」

ドゲシッ!

「むっ!」

父親の貫禄を見せて言ったつもりだったが、ユイに思いっきり足を踏まれたゲンドウは、
声にならない声を上げて苦痛に顔を歪める。

「あっ、あの、かあさん。これは・・・その。」

「シンジ、何処のお嬢さんなの?」

「だっ、だから、ぼくも何がなんだかわからなくて。」

「そんなはずないでしょ。」

「その手はユイにはきかん。シンジ。」

ドゲシッ!

「むっ!」

経験豊富な父親像を見せようとして言ったつもりだったが、ユイに思いっきり足を踏ま
れたゲンドウは、声にならない声を上げて苦痛に顔を歪める。

「本当に、知らないんだよっ! 信じてよっ! 朝起きたら、横で寝てたんだよっ!」

「怒らないから、本当のことを言いなさい。」

「本当なんだよぉぉぉっ!」

「ユイの『怒らないから』は、当てにならんぞ。シンジ。」

ドゲシッ!

「むっ!」

口を開く度に足を踏まれるゲンドウは、既に脂汗を流しながらも、シンジの前なので格
好をつけて歯を食い縛って立っている。

「ふぁぁぁぁ、おはよう。」

ベッドで寝ていたアスカは、その騒がしさで目が覚めてしまったのか、眠い目を擦りな
がらのそのそと起き上がってくる。

「おはようじゃないよっ! 君は誰なんだよ。」

自分の身の潔白を証明しようと、必死で問い詰め始めるシンジ。

「ん? あぁ、アタシ?」

「そうだよ。どうして、ぼくの部屋にいるんだよ。」

すると、碇家の家族が注目する中、アスカはベッドから起き出し、両手を腰に当てて得
意気に自慢の胸を張った。

「アタシはっ! サンタよっ!」

一瞬の沈黙が碇家を襲う。

皆、口をぱくぱくさせて、信じられないという顔でアスカのことを見ている。

そんな中、アスカは得意気に胸を張っている。

「き、君・・・。」

「そうよっ! アタシがサンタよっ」

「サ、サ、サ、サンタさんだーーーーーーーーーっ!
  見て見てっ! 母さんっ! 本物のサンタさんだーーっ!」

「へぇ、あなたがサンタさんだったの? いらっしゃい。」

その言葉を聞いたシンジとユイは、サンタを始めて間の辺りにして、驚きの表情を浮か
べる。しかし、アスカがサンタとわかってシンジの誤解も解けた様だ。

「そうよっ! ほあら、ちゃんとプラグスーツ着てるでしょ?」

「わぁ、本当だっ! 一度、そのプラグスーツ触ってみたかったんだぁ。」

「あんまり、触わんないでよ・・・。」

「あっ、ごめん・・・でも、どうして、サンタさんが、うちにいるの?」

「決まってるでしょ。アタシはプレゼントよっ。」

「へ? プレゼント? サンタさんじゃなかったの?」

「そうよっ。サンタよ。」

「どっちなんだよぉ!」

「わかんない子ねぇ。アンタのプレゼントが、サンタなのよっ!」

「ぼくのプレゼントぉぉ? だって、ぼくはボールを・・・。」

その言葉を聞いたアスカは、やばいという顔をして焦りまくる。

「アンタバカぁっ? アンタは、ボールをサンタにお願いしたんじゃなくて、サンタを
  ボールにお願いしてたのよっ!」

「えーーーっ! そ、そうだったのか・・・。まちがえちゃったよ・・・。」

「ボールなんかより、サンタの方が絶対いいぞ。シンジ。」

ドゲシっ!

「むっ!」

また、ユイに思いっきり足を踏まれてたゲンドウは、とうとう真っ赤に腫れ上がった足
を引きずって、奥へと引っ込んで行くのだった。

「サンタさんはこれからどうするの?」

「アタシは、アンタへのプレゼントだから、ずっとここにいるわ。」

それを聞いたユイは、少し困った顔でアスカのことを見つめる。

「わたしは、あなたのことをサンタさんと呼べばいいのかしら?」

「サンタは名前じゃないわよ。ちゃーんと、惣流・アスカ・ラングレーって名前がある
  んだから。」

「あらあら、サンタさんにもちゃんと名前があるのね。じゃ、アスカちゃんと呼びまし
  ょう。」

こうして、アスカはシンジの家族に受け入れられ、これから碇家で家族として生活をし
ていくことになるはずだった。

                        :
                        :
                        :

朝食を食べ終わった後、シンジはアスカと一緒に自分の部屋に入っていた。シンジがベ
ッドに腰掛けると、その横にアスカも腰を掛けて座ってくる。

「・・・・・。」

アスカのことを見ていると、シンジは先程から不安になって来る。

「あのさぁ。ちょっと、聞きたいことがあるんだけど?」

「なに?」

「君がさぁ、ここにいるってことは、来年のプレゼントはどうなるの?」

そう。シンジはサンタがうちに来てしまっては、来年からプレゼントが貰えなくなるの
ではないかと、不安で仕方が無かったのだ。

「さぁ・・・なんとかなるんじゃない?」

「そんないい加減なことじゃ困るよぉ。」

「じゃ、たぶんアタシが最後のプレゼントよ。」

「えーーーーっ!」

「なによっ! 不満なのっ!?」

「だって、毎年楽しみにしてたのにぃ。」

「だいたいねぇ。14にもなってプレゼント貰ってるのって、アンタくらいよっ!」

「えっ? そうなの?」

「そんなに長いこと貰ってたんだから、そろそろ卒業しなさいよねっ! アタシなんか
  1度も貰ったこと無いんだから。」

「えっ? 1度も?」

アスカは幼い頃から、サンタの適格者として訓練を受けていた。当然、サンタの国の住
民にサンタのプレゼントがあるはずはない。

「そうなんだ・・・。可哀相に・・・。」

プレゼントを1度も貰ったことがないと聞いたシンジは、悲しい顔でアスカの瞳を見つ
める。世の中にはこんな不幸な娘もいるんだと。

「よしっ! 今日はクリスマスだから、ぼくがアスカにプレゼントをあげるよっ!」

「えっ? シンジがっ?」

「うんっ! まかせてっ!」

「本当にっ?」

アスカは、目を大きく見開いて、信じられないという顔でシンジのことを見返した。

「もちろんだよ。」

「うっうっうっ・・・。アタシ・・・。」

シンジが任せろという感じでドンと胸を叩くと同時に、アスカはポロポロと泣き出して
しまった。

「ど、どうしたのさ?」

「アタシ・・・サンタになろうとがんばってたから、一生プレゼントなんて貰えないと
  思ってたの・・・。なんだか、嬉しくって・・・。」

「ほらぁ、泣かないで。これからは、ぼくがあげるからさ。」

そんなアスカの頭をやさしく撫でながら、シンジは透き通るような笑顔でアスカのこと
を見つめる。

「ありがとう・・・そう言えば、サンタにプレゼントを貰えなくなった子供達は、男の
  子と女の子でプレゼントを交換するって聞いたわ。」

「へぇ、そんなんだ。」

「アンタがプレゼントをくれるんだったら、アタシもこれからあげるわね。」

「ありがとう、嬉しいな。で、なにが欲しいの?」

「えっ?」

「えっ・・・て。何が欲しいのか言ってくれなきゃわかんないよ。」

「そ、そうね・・・。」

確かにシンジの言う通りだ。アスカは涙を腕でくいくいと拭うと、何が欲しいか想像し
始める。

「えっと・・・。」

シンジも、あまり高い物は買えないが、アスカが欲しい物ならできる限りの物をあげる
つもりだった。

「えっと・・・。」

しかしいつまで経っても、アスカから欲しい物が出てこない。シンジはどうして、そん
なに悩むのかと不思議に思って、声を掛けてみることにした。

「どうしたの?」

「うん・・・今迄プレゼントを貰えるなんて、思ったことなかったから、何が欲しいの
  かわかんないの。」

「そっかぁ・・・。そうだね。じゃぁ、デパートに行こう!」

「デパート?」

「うんっ! いろんな物を見てたら、欲しい物が出てくると思うけど?」

「そ、そうねっ! そうするわっ!」

デパートへ出掛けることに決まったのだが、プラグスーツ姿で街をうろうろしては、人
の注目を集めてしまう。どうしたものかと、シンジはユイに相談することにした。

「そうねぇ。わたしの服じゃ、アスカちゃんには合わないわねぇ。」

「デパートに行くだけだから、Tシャツとかでいいんだけど、無いの?」

「うーーーん。」

シンジとアスカを前に、ユイが困り果てていると、何処からともなく突然老人の声が聞
こえてきた。

『惣流・アスカ・ラングレーよ。』

「あっ! 大サンタ様っ!」

『お前は、サンタになって子供達に夢を与えると誓ったのではないのかっ!』

「はい。ですが、アタシはこの子のプレゼントをっ!」

『その子には、わしが無くしたプレゼントを与える。お前には、子供に夢を与えるとい
  う大事な使命があるのじゃ。』

「・・・・・そうね。そうだったわ。わかりました。大サンタ様っ!」

大サンタの言葉を聞いたアスカは、サンタとしての自分を見つめ直すと、意を決してシ
ンジの方へ振り返った。

「やっぱり、アタシはサンタなの・・・。帰らなくちゃ。」

「えっ? そんな・・・。せっかく、プレゼントをあげようと思ってたのに・・・。」

「ありがとう・・・。嬉しかった。」

その時、ベランダの外に鈴をたくさんつけた弐号機がゴーーーっと言う音を立てて、降
下して来る。

「もう、行かなくちゃ。」

「アスカ・・・。」

名残惜しそうに、窓の方へ後ろ向きに後づ去りして行くアスカの姿。シンジも窓に近付
くと、悲し気な目をしながらアスカに別れの握手をしようと手を差し出す。

「アスカ。君のことは一生忘れないよ。」

「ええ、アタシも・・・せっかくシンジと・・・。はっ! 思い付いたわっ!」

「え? なにがっ?」

「アタシの欲しいプレゼントよっ!」

「でも、もうデパートには・・・。」

「大丈夫よっ! アタシの欲しいのは、アンタよっ!」

「えっ!? ぼ、ぼ、ぼ、ぼくぅぅぅっ!」

「約束したでしょっ! ほらっ! 一緒に来るのよっ!」

言うが早いか、シンジの腕をむんずと抱き締めて、ぐいぐい引っ張るアスカ。

「ちょ、ちょっと待ってよーーーーっ! 父さーーんっ! 母さーーんっ!」

アスカに引っ張られながら、シンジは助けを請う目で、リビングに立つユイとゲンドウ
に目を向ける。

「シンジ。約束は守らないといけないでしょ。」

「そんなぁぁぁぁっ! 母さーーーんっ!」

「お前が嫌なら、わたしが行ってもいいぞ。シンジ。」

ドゲシっ!

「ぬぉっ!」

腫れ上がっていた足を、今度という今度は、容赦無く思いっきり踏まれたゲンドウは、
とうとうその場に泡を拭いて倒れてしまった。

「あぁぁぁっ! 母さーーんっ! 父さーーんっ!」

そんな両親を背に、アスカはニコニコしながらシンジを弐号機の背中に引っ張り上げる。
サンタさんじゃなかったら、犯罪です。良い子のみなさんは真似しちゃ駄目ですよ。

「さぁ、サンタの国へ行くわよっ!」

「えーーー。本当にぃぃっ! サンタの国って何処にあるんだよぉ・・・。」

シンジは泣きそうな声を出す。

「遠い遠い、寒い国よっ。」

「ぼく、寒い所は苦手だから・・その・・・やっぱり。」

「大丈夫っ! アタシが暖めてあげるわっ!」

「えっ!?」

シンジは、寒い国でアスカに暖められている自分を想像してしまう。

「そ、それじゃ、大丈夫かな。ははは・・・それじゃ行こうか。」

どうやら、一緒に行く気になったようだ。

「よーーしっ! 出発よっ!」

「うんっ!」

ゴーーーーーーーーー。

そして、弐号機がサンタの国へ向けて、第3新東京市の空を舞い上がって行った。

                        ●

シャン! シャン! シャン! シャン! シャン! シャン! シャン! シャン!

今年もサンタさんは、ピュアな子供達に胸いっぱいの夢を配り終わり、サンタの国に帰
って行きます。



ずんちゃっ♪ ずんちゃっ♪ ずんちゃちゃずんちゃっ♪

サンタさんも始めてプレゼントを貰えて、ニコニコ顔。
今年は、サンタさんにとっても最高のクリスマス。



また来年も来てね。と子供達の願いが聞こえてきます。

きっと来てくれますよ。だから、来年のクリスマスまでピュアな心を持ち続けてね。

それが、サンタの願い。



そうしたら、またサンタさんはきっと来てくれますよ。

元気なアスカの歌声と共に・・・。

でも、今年はこれが聞き納め。空の彼方から聞こえるでしょ?

ほらっ。




            ♪ ジングルベールっ ジングルベールっ 鈴がなる〜っ ♪




                        ♪ 今日はぁ〜 楽しい〜 ♪




        ♪ ク〜〜〜〜 リ〜〜〜〜 ス〜〜〜〜 マ〜〜〜〜 ス〜〜〜〜っ! ♪




                        チャーーーーーーーーーン!




                            チャーーーーン!






「ヘーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーイッ!!!!!!!!!!!」






fin.
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