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白雪姫物語3 偽白雪姫の妖編
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作者注:この小説は、ウエッキー様の許可を頂きThe Restart Of Evangelionのオリジ
        ナルキャラであるアスナと、ウエッキーさんご自身に出演して頂いております。
        また、アスナのキャラ性はタームの印象で書かせて頂いておりますので、原
        作と比べ違和感のある可能性がありますが、そこはご理解の上ご了承下さい。
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<コンフォート17キャッスル>

「うんしょ。うんしょ。」

改築されたばかりの葛城ミサトが治める城、コンフォート17キャッスルの一室から、
女の子の声が聞こえてくる。

「うんしょ。うんしょ。ふーーーぅ。」

大きな木箱を窓際のテーブルの上に置き、腕で汗を拭う。彼女の名前は霧島マナ。この
城で知らぬ者は1人もいない、内職大好きっ娘である。

好きでやってるわけないでしょっ!!!!!

怒った・・・。それもそのはず、なんと彼女は妹分の魔法使いに背負わされた借金を返
す為、日夜働き続けているのだ。

「よしよし。」

今日のノルマおしまいっと。
そろそろ取りに来る頃かな?

彼女が作っているのは、魔法の人形。人形を作るだけでも結構面倒だが、その1つ1つ
に魔法を掛け、まるで生きているように動かすには、かなりの疲労を伴う。

やっと今日のノルマも終わった。後は内職業者が木箱を受け取りに来るのを待つだけ。
それまでお茶を入れていっぷく。

コク。コク。コク。

うーん。
ハーブティー、やっぱ最高ぉ。

時計の針を見ると、夕方の5時を示そうとしている。内職業者との約束の時間・・・・
と、その時。

グラグラグラグラグラ。

「きゃーーーー。じ、地震ーっ。」

コンフォート17キャッスルが揺れ始める。マナは急いでテーブルの下に入り、クッシ
ョンで頭を隠す。

グラグラグラグラグラ。

大きいわ。
やだー。恐いよー。

グラグラ・・・グラ・・・・・・。

ようやく納まったらしい。マナは恐る恐る周りの様子を伺いつつテーブルの下から出て
みると、魔道書などが本棚から落ちていて、地震の大きさを物語っている。

「ありゃりゃぁ〜。本が落ちちゃっ・・・げっ!!!!」

本を拾い上げようと腰を屈めた途端、驚いてぎょっと目を剥く。なんと窓が割れ、その
前のテーブルに置いてあった内職の人形を入れた木箱が無い。

「ちょ、ちょっとーーーーっ!!!」

慌てて窓から外を覗くと、コンフォート17キャッスルのまわりに広がる堀の水の上で、
人形がぐしょぐしょになって流れて行っている。

「きゃーーーーーーーーーーっ!!!」

頬を両手で抑え、悲鳴を上げることしかできない。

コンコン。

扉が叩かれる音がした。

「あのー。人形を取りに来ました。」

内職業者だ。聞きたく無い。聞きたく無い。聞きたく無い。聞きたく無い。

コンコン。

また扉をノックする音。何度も叩かなくても聞こえている。聞きたくないが、聞こえて
いる。

「大丈夫ですかぁ? 地震があったみたいですけどぉ?」

「そ、そんなぁ・・・。」

このまま隠れているわけにもいかず、しくしくと涙を流しながらマナが扉を開けると、
そこには少し小太りの、いつも人形を取りに来るおばさんが笑顔で立っている。

「人形取りに来ましたよ。」

「あ、あの・・・その。すみません。できてないんです。」

「はい? できてない?」

「はい・・・。1体もできてなくて・・・。」

「できてないんですか?」

「はい・・・。」

おずおずとおばさんの顔を見上げる。すると、ニコニコしていた小太りのおばさんの顔
がみるみる修羅のように変わっていくではないか。

「できてないですってっ!!! ちゃんと働かないと内職打ち切っちまうよっ!!!!」

「そ、そんなぁぁーっ。」

「いやなら今日の分も纏めて、明日迄に用意しなっ!! いいかいっ!!」

「は、はいーーーっ!」

「明日遅れるようなことがあったら、内職打ち切るよっ! いいねっ! 」

「すみません。すみません。」

「2度と遅れるんじゃないよっ! しっかりその頭に叩き込んどくんだねっ!!!!」

猛烈に怒りながら帰って行く。マナはその後ろ姿にぺこぺこ頭を下げて謝りながら、涙
を流す。

「どうしてなのーーーー。どうして、わたしが怒られるのぉぉーーーーっ!」

1人柱に抱き付き泣き崩れる。そんなヒロインちっくなことをしている所へ、城主ミサ
トの登場。

「マナちゃーーーん。」

ニコニコしているので、何か嬉しいことでもあったのかもしれない。

「あ、葛城さん。ぐすっ。」

涙を拭いて明るく振舞うマナ。

「なんでしょう?」

「あらぁ? どうしたの? 涙なんか流しちゃってぇ。」

「あ、いえ。ちょっと・・・。」

「そーそー。プレゼントがあるのぉ。」

「わたしにです?」

「そうよん。はい。」

ピラリと紙を懐から取り出しマナに手渡す。

「なに? これ?」

「請求書ぉ。」

「げげげげげげっ!!!」

引き攣るマナ。

「なーんかね。あなたの妹分。今度はお寺を木っ端微塵に破壊して逃げたそうなのよぉ。
  ってことで、よろ〜。」

「・・・・・・・・。」

もうマナに言葉はなかった。請求書を硬く硬く握り締め、にへらにへらと気持ち悪い笑
みすら浮べている。

「働けど〜♪」

突然、歌いたくなったようだ。

「働けど〜♪」

音程が全く無くお経のようである。

「わたしの暮らし楽にならずぅぅ♪」

歌い終わったらしい。

「・・・・・・。」

静かだ。

「うおぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」

吼えた。

<トロールの谷>

ここはトロール達が暮らすトロールの谷。そこに小人2人を連れた赤い髪の魔法使いの
姿をした少女が、切り株に座ってピンク色のトロールの話を聞いている。

「でね。その黄色いトロールの子の方がいいって。しくしく。」

「そうは言ってもねぇ。こればっかりはどーしようもないわよ。」

「どうしてっ! どうして、わたしじゃいけないのっ!?」

「はっきり振られたんでしょ? 諦めなさいっ。」

「いやーーーっ! ム〜ミーーーン。フローレンなんかの何処がいいのぉーっ!?」

やれやれという顔でポリポリと頭を掻いているのは、我らが白雪姫こと惣流・アスカ・
ラングレー。この森を歩いていると、ピンク色のノンノというトロールが泣いている
のを見付け、なんだろうと話掛けてからというものずっと話が終わらない。

話によると、元祖ムーミンではピンク色のノンノがムーミンの彼女だったのだが、新バ
ージョンになって黄色いトロールのフローレンに彼女を変えたというのだ。

つまり、振られたのである。

「って、ことで。アタシはそろそろ・・・。」

「お願いっ。待って。わたしムーミンのこと好きなのっ。」

「アタシにだってね、なんとかできることとできないことがあんのよっ!」

アタシだってシンジ様のことで頭がいっぱいなのよ。
人の恋路を手伝ってる余裕ないっての。

だいたい、あの髭オヤジさえいなきゃ、今頃あまーい生活をシンジ様と・・・。
ぬわーにが、人徳が無いよっ! 髭オヤジめーっ!
キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!

「天下に名高い、美人で聡明で天才で人徳のある白雪姫様なら、きっとわたしの相談を
  聞いて下さると思ったのに。」

「人徳? 美人? 天才? そ、そうね。もうちょっと聞いてみようかしら。」

またノンノの話を聞き始めるアスカ。さっきから立ち去ろうとするとおだてられ、気分
を良くして切り株に座ることの繰り返し。

白雪姫様・・・まだなのかい?
私、疲れたわ。

1番困っていたのは、横でずっと立たされているお供の小人2人であった。

<コンフォート17マンション>

その夜、マナは決意に満ちた顔で城主ミサトの部屋へと来ていた。その身なりは完全に
旅支度が終わったという姿である。

「わたし、アスカを探しに旅に出ますっ!!」

「どうしたの? 急に?」

「来る日も、来る日も、来る日も、来る日もっ、来る日も、来る日も、来る日もっ!
  内職、内職、内職、内職、内職、内職、内職っ! もーーーーっ、嫌なんですっ!!」

「コンフォート17キャッスルの改築も終わったし、わたしはいいけどねん。1人で大
  丈夫?」

「こう見えても、わたしだって魔道師の国家資格持ってます。大丈夫です。」

「そうね。わかったわ。じゃ、餞別にいい物あげる。」

「えっ!? ありがとうございます。」

「さっき、追加が届いたのよ。お寺の畑も荒されてたから、それも請求するって。あな
  たの妹分が、芋を食い散らかして逃げたらしいのよ。はい、請求書。」

「うおぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」

また吼え始めた。

<茶の湯村>

コンフォート17キャッスルを出る前に、魔法の鏡でアスカがトロールの谷にいること
を確認したマナは、険しい山に入る前にこの村で一晩を過ごすことにした。

お茶のいい香りー。
さっそく温泉、温泉っと。

この村で一泊することにした理由は、名物の”お茶の葉温泉”。茶の葉が浮いた温泉は、
とても美容に良いということである。

「あったっ!!」

早速温泉宿を見付けたマナは、小走りに駆け出す。宿の作りも綺麗でお風呂も広そうだ
が、やはりまず目が行くのは宿泊料金。

ちょ、ちょと高いわね・・・。
別にここだけじゃないしー。

借金だらけのマナには、やや無理がありそうである。ここはひとつ節約して、もう少し
安い宿屋を探そう。

ここも高いわ。
ここもちょっと。
うーん・・・。

と、転々と宿を巡り、結局行き着いたのは、最初の夢を打ち砕くような寂びれた汚い温
泉旅館。

「あはっ。あはははは。」

笑って元気を出しているらしい。

「こ、こーんなとこの方が、風情があっていいのよ。あはははは。」

ようやく自分の財布に見合った”風情のある”旅館を見付けたマナは、とっても嬉しそ
うに、いやもう心底から嬉しそうに中へと入って行く。

「すみませーん。あのー。」

表玄関に掛かるのれんを左手で上げ、まずは誰かを呼ぶ。

「あのー。誰かいませんかー。」

誰もいないので身を乗り出して奥の方を覗き込むと、ガラガラと木戸が開く音がし小太
りの叔母さんが出て来た。

「これはこれは。いらっしゃいませ。お泊りですか?」

「うんうん。お泊り。」

「名前と宿泊日数を書いて下さいな。」

「ここ?」

「はい。ここに名前と、こちらにお泊りになる日数です。」

言われた通り宿泊台帳に”霧島マナ  1日  学生割引希望”と書くと、おばさんは無言
で”学生割引希望”のところを消しゴムで丁寧に消し、マナを部屋へ案内してくれた。

外から見た感じより、いい部屋ね。
お菓子も美味しいし。

モグモグ。

部屋のテーブルに置いてあったお茶をすすりながら茶菓子を頬張る。久し振りに旅をし
て疲れが出たのか、甘い茶菓子がなかなか美味しい。

早速お風呂ねっ!
タオルはっと・・・。

部屋に用意されていたタオルを手に掛け、着替えを持っていざお風呂へ。初めて入るお
茶の葉温泉を想像し、期待に無い胸が膨らむ。

ん?

廊下に出るとなにやら視線を感じた。

ん? ん?

きょろきょろとまわりと見渡すが、廊下の向こうに家族連れの旅行客らしき親子が立ち
話をしている以外、誰も見当らない。

気のせい?
まぁ、いいわ。

あまり気にせずタオルをくるくる振り回して階段を降りて行くが、またなにやら視線を
感じる。

「んーーーー????」

ばっと振り返るが、やはり誰もいない。なんだか、誰かに見られているような気がして
仕方がないが・・・久し振りに見知らぬ街に来て人目が気になるだけかもしれない。
そんなことより今はお風呂が第1。マナは一直線に温泉へ向かって行った。

ちゃぽん。

女湯に入ると幾人かの先客が既に来ており、みんな茶の葉が浮いた湯に浸ったり、体を
洗ったりしている。

これがお茶の葉かぁぁ。
いい香りぃ。

さっそく湯に浸かり、湯気に乗って香ってくるお茶の香りを堪能する。古そうな宿屋だ
ったが結構宿泊客もいるようだ。
ただ、頻繁に人が出入りする為、冷たい風が入り口から吹き込んでくる。2重扉にして
欲しいところだ。

たまには、温泉旅行もいいわねぇー。
最近、内職ばっかだったもん。
それもこれもアスカのせいだわっ!

アスカがコ ンフォート9キャッスルを壊した時のことを思い出す。ミサトのコンフォ
ート17の壊し様も酷かったが、コンフォート9の壊し方は更に酷かった。




『マナお姉様っ! 使徒よっ!!!!』

『わかってるわっ! わたしがなんとかするから、手出しちゃ駄目っ!』

『お姉様っ! アタシも助太刀するっ!』

『わーーーーーーーーっ!! しなくていいっ! しなくてっ!!!』

『任せてっ! でぇーーーーーーーいっ! ファイヤーボーーーールっ!!!』

『ば、ばかーーーーーーーーーっ!!!!!!!!』

ズガガガガーーーーーーンっ!

その時2人がいた場所は、コンフォート9キャッスルの火薬庫。それはもう、史上最大
の花火がドッカーンと上がったなんの。城が全壊したのは言うまでもない。使徒の方が
可愛いというものだ。




なーにが、『助太刀するっ』よ。
見境無く、あんなとこで炎の魔法使うー? 普通?
シールド張ったのに、あちこち火傷しちゃったし・・・。

小さいタオルを四つ折りにして頭にちょこんと乗せ、体を温め頬を赤くしながら、ブツ
ブツ愚痴が出てしまう。

「ん!?」

その時、またなにやら突き刺すような視線を背後から感じた。ここまで視線を何度も感
じるのだから、誰かに見られているのは間違い無い。

「さっきから誰よっ!!!」

「あっ・・・。」

背後にいた人物と視線が合う。その人物は、びっくりした様子で少し視線を逸らす。

一方、その人物を見たマナは、目を大きく見開いた。

「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!
  あ、あ、あ、あ、アスカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

<トロールの谷>

その頃アスカは、ノンノを連れてムーミンの家へ来ていた。無論、小人2人もお供して
来たが、小人綾波は現在のムーミンの彼女、フローレンを呼びに行かされている。

「アンタっ! ノンノが可愛そうじゃないっ!」

「ごめん。でも、ぼくフローレンが好きだから・・・。」

「じゃぁー、ノンノはどーなってもいいってわけーーっ!!!?」

「そういうわけじゃ・・・。」

ムーミンを見ていると、条件反射的に謝っているようで・・・その上どことなく内罰的
な性格がイライラしてくる。

ガチャリ。

ムーミンの家の扉が開いた。そこへ、小人綾波が呼びに行った黄色いトロールのフロー
レンがムーミンの家に入って来る。

「ねぇ、ムーミン? どうしたの?」

「あっ、フローレン。あの。ノンノ? やっぱり、ぼく、フローレンのことが・・・。」

「わたしじゃ、駄目なの?」

「ごめん。」

涙を流すノンノ。可愛そうなことになったが、本来ならここでノンノが引き下がって事
態は一件落着するはずだった・・・が、仲介に入った人物が悪かった。

「ノンノっ! まだ諦めることはないわっ!!!」

「えっ?」

「人徳を身に付ける為に、アタシは頑張ってるのっ! 任せなさいって。」

「でも・・・ムーミンは・・・。」

「だーいじょうぶっ! アタシは分身の魔法を知ってるわっ!」

「なんですか? それ?」

「1つのものを2つにするの。 ムーミンが2人になれば問題ないでしょ?」

「えっ!? そんなことできるのっ???」

「まっかせなさい。」

「ちょ、ちょっと待ってよ。ぼくの体はどうなるんです???」

2人にするのはともかく、ターゲットとなっているムーミン本人は、非常に不安そうで
ある。

「大丈夫だって。さ、じっとしてて。」

そんなおどおどするムーミンの不安など他所に、言うが早いか自信満々アスカは呪文を
唱え出す。

「いっくわよーーーーーっ! でやーーーっ! ”カーーーーット”っ!!!」

「やっぱり、ぼくっ! 恐いっ!」

魔法を放出する寸前で逃げるムーミン。アスカの魔法はそのまま空を切り、ムーミンの
家の床に向かって炸裂した。

ズガーーーーーーーーーーーーーーンっ!

真っ二つに割れる床・・・いや、その下にある地面すらもが真っ二つに切断され、家を
ぶち壊し、トロールの谷自体を真っ二つに切り裂き亀裂を作る。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。

大地震発生。

その地震はムーミンの家どころか、トロールの谷全体を揺さぶり、ノンノの家もフロー
レンの家も、大きく裂けた地割れに飲み込まれて行く。

「げげげげ、分裂の魔法って・・・2つに増えるんじゃないのーーーーっ!?」

まさしくアスカの唱えたのは、2つにするには違いないが、分裂ではなく2つに切り裂
く魔法。

たら〜っ。

あやうく、自分が真っ二つになるところだったムーミンは、脂汗を噴出させ、瞳孔が開
ききっている。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。

地震は止むところを知らず地面を揺さぶり続け、周りの家々からトロール達が、いった
い何ごとか飛び出してきた。

「アイツがやったんだっ!」

ムーミンの家から地面が割れ、アスカが魔法を発している所を見たトロールの1人が、
指を差して叫んだ。

「あいつがっ! 俺の家をっ!」
「捕まえろーーーーっ!」

それを切っ掛けに、地割れの間に家を飲み込まれて行ったトロール達が、次々と怒りも
露に迫り来る。

や、やばーーーっ!

こういう時、頼りになるのは小人渚以外にないだろう・・・と、勝手に頼りにするアス
カ。

「小人渚っ! 後は頼んだわよっ!」

「そ、そんな。待って下さいっ!!」

すたこらさっさと、とんずらし始めるアスカ。この状況で、ほおって行かれてはたまら
ない小人達も、どうして共犯扱いにされるのか世の中の不条理を感じながら白雪姫を追
い掛けて行く。

「アンタらっ! もっと速く走れないのっ?」

「小人だから、無理なのさ。」
「地面を切らなかったら、逃げなくても良かったのに・・・。」

「もーーっ! おっそいわねぇーっ! 追い付かれるじゃないっ! 飛ぶわよっ!」

はしっ。
はしっ。

アスカの足にしがみつく小人達。逃亡生活が続くに連れ望む望まないに関わらず、こう
いう時の息はいつしかぴったし。

ピシューーーーーーーン。

追い掛けて来るトロール達を尻目に、空へ飛んで逃げて行く。最近、ロケットダッシュ
飛行がとっても上手くなって来た白雪姫だった。

<茶の湯村>

ここに1人の危ない女の子がいた。彼女の名前を、惣流・アスナ・ラングレー。彼女は、
女の子しか好きになれず、理想のお姉様を探して旅を続けていたのだが、今ここにその
理想のお姉様を見付けたのだ。

「あっ。」

宿屋で見付けたそのお姉様の後を追って温泉に入って来た彼女の視線と、マナの視線が
パチリと合う。

目、合っちゃった・・・。
はずかし。

視線を背けるアスナの前に、『アスカー!』とかなんとか声を張り上げながら、ばしゃ
ばしゃと湯を掻き分けお姉様が近付いて来る。

「見付けたわよーーーーっ!!!」

鬼の首を取ったような表情で、マナがアスナの手首をがっちりと掴む。

「あ、そ、そんな・・・。」

理想のお姉様に手を繋がれたアスナ。しかも相手は、生まれたままの姿で迫ってきてい
る。もう頬を赤らめるしかないだろう。

「もう、逃がさないんだからっ!」

「ええっ。逃げたり、逃げたりなんかしませーーーんっ!」

「さっさとわたしに付いて来なさいっ!」

お、お姉様っ!
付いて来なさいって・・・そ、それってっ!
もしかして、プロポーズぅぅぅぅっ!!!?????

あまりの幸せ過ぎる展開に、アスナは頭をクラクラさせながら、妄想の世界に酔い続け
る。

「付いて行きますっ! どこまでもっ!」

「まったくっ! 言いたいことが山程あるわっ! わたしの部屋にいらっしゃい。」

い、いきなり部屋に・・・。
そんな、いきなりだなんてぇぇ。
嬉しいーーーーっ!

「は、はいーーーっ!!」

もう、顔から火が出そうな程アスナは顔を熱くして、マナの手を両手でぎゅっと握り締
め付いて行く。

お姉様ぁ、あたしどこまでも付いて行きますぅっ!
この恋に命を掛けますぅっ!

世の中には自分とそっくりの人間が3人はいると言う。まさにこのアスナはアスカと瓜
二つであり、名前までもが似ている少女。
勘違いしてしまったとしても無理は無いだろう。マナはアスナを連れ、意気揚揚と部屋
へ戻って行くのだった。

「アスカっ! 今迄何処にっ・・・・・・
  アスカっ! 次から次へと借金をっ・・・・・・
  アスカっ! あなたはだいたい・・・・・・
  アスカっ! そもそもどうして・・・・・・」

部屋に入った途端、自分の思い描いていた予想とは裏腹に、わけのわからないことを口
走られマシンガンのように怒られ始めたアスナは、どう答えていいのかわからず黙って
説教を聞くしかない。

アスカ、アスカって・・・。
あたしアスナなんだけど。
人違い? なの? もしかして・・・。

「アスカっ! 聞いてるのっ!?
  好き勝手してっ! どれだけわたしが困ったと思ってるの。
  あなたに魔法を教えたの、間違いだったわっ。
  どれだけ借金があると思ってるのっ。
  もう逃がさないからねっ。」

んーーー?
やっぱり、人違いみたい・・・。
どうしよう。

説教を聞いているうちに、アスナにも状況がだんだんとわかってきた。どうやら、その
アスカという娘と人違いされているようだ。

もう逃がさないってことは・・・。
そのコに成済ましたらお姉様と一つ屋根に・・・てことよね。
よーし、しばらくアスカってコだってことにしとこっかな。

本当のことは、愛が芽生えた後でも遅くないわ。
うふふふふふふふふ。

瞳にキラキラと熱い眼差しを輝かせている。まさか今まさに自分が狼に狙われていよう
とは夢にも思っていないマナは、暢気に説教中。

「アスカっ! わかったわねっ!!!」

「は〜〜〜〜いっ! お姉様ぁぁっ!」

だきっ。

どうやら説教も終わったようなので、アスナは全身で飛び込み猫撫で声を出しながらマ
ナに抱き付く。

「お姉様ぁぁ〜、ずーっと一緒に付いて行きますぅっ。」

「うっ・・・。」

それまで物凄い剣幕で怒っていたマナだったが、さすがにこのアスナの突然の行動には、
たらりと冷汗を流してしまう。

な、なによ・・・アスカったら。
なんだか、気色悪いわね。

自分の胸にすりすりと頬擦りしてくるアスナを見下ろしつつ、なんだかそのいやーーな
雰囲気に悪寒を感じるのであった。

<山の砦>

茶の湯村から少し森の中を進み、山を上った所に石作りの要塞とも言うべき砦が聳えて
いる。

「ボス。お茶の湯村で、白雪姫を見たという情報が入りました。」

「よくやった。早速、作戦行動にかかれ。」

「へい。」

この砦に陣を構える集団こそ、腕利きの剣士ウエッキーが率いる、今まさに勢力を伸ば
しつつあるマフィアの一大組織。

白雪姫さえ配下に加えれば、魔法も恐くは無い。
裏の世界は俺の物に。くくく。

これまで時間を掛け腕の立つ剣士達は集めつつあったが、魔法使いの部下が欠けていた。
そこで白羽の矢を立てたのが白雪姫。

「このマゴロクと白雪姫さえあれば、恐いものはない。フハハハハハハハハハハ。」

剣士として自らの力に自信のあるウエッキーは、対魔能力を持つマゴロクを手にすれば、
敵無しとも言われていた。

そして、今またここに魔法攻撃ができる部下を手に入れ、裏の世界をいっきに仕切ろう
としていたのだ。

<茶の湯村>

その夜、アスカを見つけ安心して眠れるはずだったマナだが、どうにもこうにも落ち着
かず眠れない夜を過ごしていた。

「うぅーーーん、お姉様ぁぁぁ。むにゃむにゃ。」

「ちょっとっ。あんまりくっつかないでっ。」

「お姉様ぁ〜ったらぁぁぁぁっ。むにゃむにゃ。」

寝言を大声で張り上げ擦り寄ってくるアスナ。布団を2つ敷いたはずなのに、いつの間
にやら自分の布団に潜り込んできて、ぴったりと体を寄せ抱きついて離さない。

「むにゃぁぁぁ、お姉様ぁぁぁぁーん。」

「な、なによぉぉ。この怪し気な雰囲気はぁぁぁ。」

「お姉様ぁぁ、いやーーん。そんあぁぁぁぁ。」

「どんな夢見てんのーーーっ!!!?」

かといって、またとんずらされたらたまらない。離れるわけにもいかず、モンモンと眠
れぬ夜を過ごすマナであった。

翌日。

寝不足のマナは荷物を纏めると、再びコンフォート17キャッスルへ戻るべく、アスナ
と共に宿を出た。

「いいことっ? 逃げたら、承知しないわよっ。」

「あたし、お姉様からぜーーーったい、離れませんっ!」

なーんか調子狂うわねぇ。
はっ。もしかしてっ!
わたしを安心させる為の作戦?
きっとそうだわっ!
そうはさせないわよーっ! アスカっ!

「お姉様っ。さ、行きましょ。」

にこにこしながら腕を絡めてくるアスナに対し、マナも負けてなるものかとしっかりそ
の腕を抱き締める。

「あなたの考えてることはわかってるわっ! もう離さないんだからっ!」

「離さないって・・・お、お姉様。そ、そんな・・・いやーん。」

顔を真っ赤にして、マナのやわらかい肌の感触を堪能するアスナ。頬は蒸気し、非常に
危ない雰囲気である。

お姉様が、あたしの腕を・・・。
あぁ、愛の始まりなのね。

生まれてこの方、恋というものを経験したことのないアスナは、今にもとろけてしまい
そうな気持ちでマナに抱き付いて歩く。

素敵。素敵だわぁ。
これよ。これが、あたしの求めていた愛の形よ。

チラチラと視線を上げると、理想のお姉様であるマナの素敵な顔が目に入ってくる。

お姉様のお肌って、綺麗ねぇ。
はぁ〜。

「あのっ! お姉様っ?」

「なに?」

「ちゅぅしてもいいですか?」

「な、なんですってーーーーーーーっ!!!!?」

ぎょっとして見ると、熱い眼差しで上目遣いのアスナの顔。瞳は潤んでおり非常に危険
な雰囲気。背筋に寒気が走る。

そんな目したって、わたしは負けないわよっ。
そうやって、適当なこと言って逃げようと思ってるんでしょ。
そうはいくもんですか。

「ほっぺならいいわよっ。できるもんなら、やってみなさいっ。」

フンっ。
そんな脅しに負けるもんですかっ。

「お姉様ぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

がばっ!!!

ちゅーーーーーーーーーーっ!!!

「キャーーーーーーーーーーーっ!!!!」

言うが早いか、思いっきり抱き付かれてしまう。すっころんでしまったマナの頬に、ア
スナは覆い被さりキスを連発。

「お姉様ぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

「助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!」

「お姉様ぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

ちゅーーーーーーーーーーっ!!!

「いっ、いやーーーーーっ!!!!」

地面に這いずり逃げ惑うマナの上から絡み付いて悶えるアスナ。周りを通りすがる人々
が、珍動物を見る目でチラチラ2人の様子に視線を向ける。

「おいっ! なんだ、あれ?」
「すげーーーー。」

「ママぁぁ? あれ何してるのっ?」
「み、見るんじゃありませんっ!」

「きゃーーーっ! 変態よっ!」
「不潔ぅぅぅぅっ!!!」

そんな人の目など気にせずキスを果てし無く続けるアスナ。もうこうなっては、さすが
のマナもとうとう我慢できなくなった。

「もうイヤーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

堪え切れずアスナを突き飛ばしたマナは、魔法を使って空中へ逃げる。頬から首筋を通
り鎖骨にかけてキスマークだらけ。

「はぁーはぁーはぁー。」

「お姉様ぁぁぁーーん。」

「はぁーはぁーはぁー・・・こ、恐かったよ〜・・・。」

空中から地上を見下ろすと、両手を上げバタバタさせながらこちらを仰ぎ見ているアス
ナの姿。人生で最も恐い経験をしたマナは、両手で自分の肩を抱きプルプル震えつつ、
空中にぷわぷわ浮ぶ。

まさかアスカが・・・ここまでするなんて・・・。
そこまでして、内職がしたくないのねっ!

なんとしても内職をさせたいが、かといって再び降りて行って先程の二の舞は勘弁願い
たい。

「お姉様ぁ、降りて来て下さーーーい。」

自分だって飛べる癖にぃ・・・。
なーにが、降りて来てよっ。
何考えてんのっ?

と、その時だった。何処からともなく荷馬車に乗ったガラの悪い男達が、猛烈な勢いで
近付いて来たかと思うと、荷台に乗っていた男が手を伸ばしアスナの腰に手を掛ける。

「白雪姫を捕まえたぞっ!!!」
「よしっ! 逃げろっ!!!」

「いやーーーーっ! お姉様ああぁぁぁぁぁぁっ!! 助けてーーっ!!」

悲鳴を上げるアスナを上空から呆れた顔で見下ろすマナ。

「何が”助けてーー”よっ。 魔法使えばいいでしょっ!」

「そんなの使えませーん。助けてぁぁぁっ! お姉様ぁぁぁっ!!!」

はぁ?
何わけわかんないことを・・・この黒魔術娘がっ。

だが、いつ迄たっても魔法を使う気配はなく・・・アスカではなくアスナなのだから当
然使えないのだが・・・男達の乗る馬車に乗せられ遠くへさらわれて行く。

ま、まさかっ!
なんか、様子がおかしいと思ってたけどっ。
あの子、本当に魔法が使えなくなったんじゃっ!!!

急に嫌な予感がしてきたマナは、大慌てで荷馬車を追い掛けるが、既に森の中へ姿を消
してしまっており、見失ってしまった後だった。

<森>

茶の湯村に隣接する森に入ると、ぬかるみなどが多く馬車と言えどあまり早く走らせる
ことはできない。マフィアの部下達は砦目指し、ゆっくりその足を進めて行く。

「なんでぇ。白雪姫なんつーから、どんなに強いかと思ったら、てーしたことねーなぁ。」
「ウエッキー様も、なんでこんな弱えー女、欲しがるんだろーなぁ。」
「俺らの方がよっぽど役に立つのによっ。」
「まったくだ。」

ただでさえ男が嫌いなアスナだというのに、周りを体の大きな男の剣士に囲まれ、吐き
気すら催してしまう。

お姉様助けて・・・。
お姉様助けて・・・。
お姉様助けて・・・。

心の中でマナのことばかりを考え、助けに来てくれるのを信じて待つことしかできない。
すると、森の中からマナらしき女の子の声が聞こえて来た。

「アスカーーー。アスカ? 何処行ったのーー?」

「あっ! お姉様っ!!!!」

その瞬間だった。アスナは咄嗟に荷馬車から飛び降り、ゴロゴロ地面を転がりながらマ
ナの声を頼りに森の中へと逃走開始。

あまりにも突然のことに、すぐに対応できなかったマフィアの子分達だったが、大慌て
で荷馬車を止めると、ワラワラとアスナを追い掛け始める。

「おいっ! 逃がすなっ!」
「ウエッキー様に、どやされるぞっ!!!」
「ひえぇぇ。恐ろしやぁぁっ!!!」

アスナは、恐ろしい男達が追い掛けて来るので死に物狂いで逃げ、マフィアの子分達は、
ボスであるウエッキーが恐い為、死に物狂いで追い掛ける。

「お姉様ぁぁぁぁぁっ! 助けてぇぇぇぇっ! お姉様ぁあああああっ!」

「こら待てーっ! テメーーっ!」
「ぶっ殺すぞっ!」

そんな追い掛けっこがしばらく続いた。アスナに幸いしたのは、ここが密林の中だった
ということだろう。草木の覆い茂った木々が自分の姿を隠してくれ、なかなか追い付か
れることはなかった。

その頃、少し離れた場所。

「ったくっ! 人の好意を無にするってのは、こういうことを言うのよっ!!!!」

トロールの森から逃げて来た正真正銘の白雪姫は、ノンノにお礼の品の1つも貰えなか
ったので、小人2人にブチブチ愚痴を零しながら森の中を歩いていた。

「でも・・・あれは、怒るのもわかる気がしないかい?」
「村を壊しちゃ駄目。」

「なーーーんか言ったぁぁぁっ!!!?」

「「いえっ!!」」

プルプルと首を左右に振って、愛想笑いを浮かべる小人達。下手なことを言うと命取り。
口は災いの元。

「ったくっ! 草だらけで、歩きにくいわねっ! ここっ!
  えーーーいっ! うっとうしいっ! サンダーーーーーーっ!!!」

ベリベリベリバリバリバリ。

雷炸裂。

「見て見てっ! 道ができたのよっ!!!」

だから、いつも言っているように、自然破壊はやめましょう。

「あの・・・白雪姫様? これから、何処へ行くんだい?」

「そーねぇ。この先に温泉があるらしいから、そこに行きましょ。」

「温泉かいっ?」

目を輝かせる小人渚。彼の温泉大好きは、並大抵ではない。

「アンタは小人でも、一応は男湯よね。うーん、小人綾波っ! アンタがアタシの背中、
  洗うのよっ。」

「・・・わたしは、のんびり温泉にも浸かれないのね。しくしく。」

嘆く小人綾波に対し、大好きな温泉に行ける上、湯に入っている間は白雪姫から開放さ
れることになった小人渚は、スキップしたい気分。

「おいっ! いたぞっ!」

「白雪姫だっ!」

その時。どこからともなく現れたガラの悪い剣士風の見知らぬ男達が、ワラワラとまわ
りを取り囲み始める。

「とうとう年貢の納め時だぜ。」
「じたばたするねーっ!」

「なによ。アンタら。」

「てこずらせやがって。逆らうと命はねーと思え。」
「けっ。おとなしくしねーと、痛い目にあうぜっ。」

「はーーーーーーーっ? アンタばか?」

バカにしたような口調でいつもの”アンタばか”を漏らしながら、男達を睨み付ける。
両脇を歩いていた小人達は、またやっかいなことが起こり始めたと、ビクビク。

「なんだとっ! てめーっ!」
「血ーみたくなかったら、言うこときけやーーーっ!」

踊りかかって来る男達。

「ふふーん。」

ニヤリと笑みを浮べるアスカ。下級剣士などが、本物の白雪姫に喧嘩など売ってはいけ
ない。

「ファイヤーーウォーーーールっ!!!」

ドババババババババババ。

男達の前に強烈な炎の壁が燃え上がった。さっきまでの白雪姫とは何かが違う。まさか
のことに、お尻を燃やされながらその場で悲鳴をあげる男達。

「喧嘩を吹っかけといて、これで終わるなんて思ってないでしょーーねーーっ!」

容赦なく突進するアスカ。男達は火を噴くお尻を押さえ逃げ出す。

「わはははははははははっ!!! マジックミサイルよっ!!!」

ドドドドドドドドドドドドドド。

1発くらいで済ますわけがない。あたり一面を覆い尽くさんばかりの魔法のミサイルが、
男達を集中攻撃する。

「ぎょえーーーぎょえーーーぎょえーーーーーーーーっ!」
「ひえーーーーーーーーーっ!」
「だずげでーーーーーーーっ!」

ドドドドドドドドドドドドドド。

「いつもより、多く発射しておりまーーーすっ。わはははははははははっ!!!」

ドドドドドドドドドドドドドド。

悲鳴を上げながら逃げ始惑う男達を前に、小人2人は目を覆っていた。

「こんなに乱暴だから、結婚できないんだわ・・・。」
「君もそう思うかい? 僕も一生できないと思う。」

「ぬわんですってーーーーーーーーーーーっ!!!」

ボソリと呟いた小人達の声がアスカの耳に届いてしまった。しかも、今1番気にしてい
る所を触れてしまっている。

「アンタらぁぁっ! よくもっ! 飛んでけーーっ!! うりゃーーーーっ!!!!」

小人2人の襟元をむんずと掴んだアスカは、男達めがけて頬リ投げてしまった。

「わーーーーーーーーー。」

目を回す小人渚。

「もう・・・駄目なのね。」

空中をぶっとんでいく小人綾波。

ゴイーーーーン。ゴイーーーーン。

命中。

お尻を焼かれ、背中にミサイルを浴びせられ、頭に小人をぶつけられた男達は、ひーひー
言いながら逃げて行った。その後で目を回して倒れているのは、哀れな小人2人。

「ったく。なんだったのよ。今のは・・・。」

よっこらしょと、気絶した小人達を小脇に抱かえ、また森の中を歩き出そうとした時、
その木の向こうにアスカにとって最も苦手な人物がふらりと姿を見せた。

「うげーーーーーーーーーーっ!」

「あーーーーっ! アスカーーーぁぁっ!!!!」

「マ、マナお姉様。さっ、さよならーーーっ!」

スタコラスタコラ。

恐いもの知らずの白雪姫も、魔法の師匠であり借金を押し付けてしまったマナだけは、
例外である。

「な、なんで、こんなとこに、お姉様がぁぁぁっ!!!」

小人を抱え、スタコラサッサと森の中を右に左に姿を隠しながら全力で逃げる。マナは
と言うと、当然逃がしてなるものかと必死で追い掛けたのは言うまでもない。

「待ちなさーーーーーーーーーーーーーーーーーいっ!」

「いやーーーーんっ! こないでーーーーーーーーーーっ!!」

スタコラスタコラ。

「待ちなさいって言ってるでしょーーーっ!!!」

やーーぱり、逃げる気だったのねっ!
さっきまでのが芝居だったってのが、これでわかったわっ!!!

必死で追い掛けるマナから、アスカは足元に絡みつく草を踏み踏み逃げて行く。

「でーーーーいっ! 草が邪魔よっ! ファイヤーフレイムっ!!!」

ボワーーーーーーン。

いちいち草木を避けて逃げていてはきりがない。自分の目の前の草を一気に焼き払う。
だがそれはマナにとっても追い掛け易くなってしまった。

「ぜーーーったい、逃がさないんだからっ!」

「ひょえーーーーっ! お、お姉様ったらっ! 速いっ!!」

師妹宿命の追い掛けっこが繰り広げられている頃、アスナは必死でマナの姿を探し森の
中をさ迷っていた。

お姉様ぁぁぁ。
どこぉぉぉ?

あんな男達に追い掛けられたことも生まれて初めてであり、こんな深い森の中でさ迷う
ことも初めてで、不安で不安で仕方がない。

お姉様ぁぁぁ。
お姉様ぁぁぁ。

「しくしく。」

行く手を阻む草を1本1本丁寧によけながら、マナの姿だけを追い求め歩き続ける。そ
こへ、なぜかお尻から髪の毛まで漕げたさっきの男達が目の前に現れた。

「きゃーーーーーーーーっ!」

悲鳴をあげるアスナ。

「わーーーーーーーーーっ! 白雪姫っ!!!」

悲鳴を上げる男達。

「お姉様っ! お姉様っ! お姉様っ! 助けてぇぇぇぇぇっ!!!」

何がなんだかわからないが、無我夢中でマナのことを呼びながら必死で反対方向へ逃げ
出すアスナ。

「おい。なんだか、やっぱり弱そうだぜ。」
「あ、あぁ。」
「よしっ! 追い掛けろっ!」
「おーーーっ!」

しばらく唖然としていた男達だったが、どうも勝てそうな雰囲気なので、アスナが逃げ
た方向へとまた追い掛け始めた。

さて、森のあちこちでバタバタしているので、またまた場面は変わってこちらはマナ。

アスカの奴ぅぅ。何処行ったのよっ!
逃がさないんだからっ!!!

「あーっ! お姉様ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

「えっ?」

右の方から声がした。振り向くとそこには紛れも無くアスカの姿が。しかも、あの男達
に追い掛けられている。

「まったくっ。危なくなったら、わたしに頼ろうってわけぇぇっ!!!」

少しばかり腹が立つが、妹分の危機を見捨てるわけにもいかない。マナは、自分の胸に
飛び込んできた、実はアスナの体をしっかりと抱き締め宙へ飛び上がった。

「しっかり捕まってんのよっ。」

「はいぃぃ、お姉様ぁぁぁぁぁっ。」

ようやく安堵できたアスナは、更に愛しのお姉様に抱き締められ、その胸に自分の顔を
埋め、ぎゅーーっと抱き付く。

「きゃーーーっ! そんなに抱き締めないでぇぇっ!」

「お姉様ぁっ! お姉様ぁぁぁーーーん。」

「なんでーーー。なんか変よ、この子ぉぉぉっ!!!!」

胸にやたらと顔を擦り付けれ、マナはなんともいえぬ嫌悪感を感じながらも、とにかく
舞い上がった空中を飛び、男達を振り切って木の覆い茂った場所へ飛び込んだ。

「お姉様ぁぁぁぁ。恐かったですぅぅぅ。」

「ちょっとっ。もう離れてっ。」

「だってぇぇぇ。とっても、恐かったのぉぉ。」

むさぼり付くように抱き付いてくるアスナの頭が胸に擦り寄ってくる。マナは寒気を感
じ、その頭をぎゅーーーっと手で押しのけようとするが、こういう時のアスナの力はと
ても強く、へばりついたままなかなか離れない。

「お姉様ぁぁ、もうあたしを離しちゃいやぁぁ。」

「ちょ、ちょっとーーーっ! いやーーっ!! こんなの、なんかいやーーーーーっ!」

いつの間にか覆い被さってこられ、頬擦りしてくるアスナの下敷きになったマナは、悲
鳴を上げ続ける。

そのすぐ近くにアスカはいた。

「ふぅ。やっと逃げれたわ。なーんでこんなとこに、お姉様が・・・。」

気付くと自分の両腕で小人達が寝ている。

「アンタらっ! なに寝てんのよっ!」

ベシベシッ!

敵に叩き付けて気絶させたことなどすっかり忘れたアスカは、2人の頬をベシベシと叩
いて無理矢理目を覚ました。

「あっ。僕はどうしたんだい?」
「ここは・・・どこ?」

「寝惚けてんじゃないわよっ! さっさと逃げるのよっ!」

「また、なにかしたんだね・・・しくしく。」

「いたぞーーーーっ!」

何か背後から叫び声。

「キャーーーーっ! 来たわッ!・・・って、ん?」

マナに追い付かれたのかと思ったが、よくよく聞くと男の声。凝りもせず、さっきの男
達が剣を構えて向かって来ているではないか。

「アンタらも、わっかんないやつねーーっ! こっちは、イライラしてんのよっ!」

白雪姫のそのドスの効いた声を聞き、男達の足が止まる。先程、悲鳴を上げて逃げてい
った白雪姫の様子とは、なんだかかなり違う。

「おいっ。やばいんじゃないか?」
「あぁ、俺も今そう思う・・・。」

「なに、うだうだ言ってんのよっ!  ブリザーードっ! あーんどっ! ストーームっ!」

グォーーーーーーーーーーーー。

吹雪と竜巻の2連発。

「ぎょえーーーーーーーーーっ!!!」

男達は有無を言わさず、凍り付きながら竜巻に巻き上げられ、空高く何処か飛んで行っ
てしまう。

そんな様子を、少し離れた場所から見る男が1人。

「フッ。」

やはり白雪姫相手に、あいつらでは力不足か・・・。

男達が森の木の間から吹雪と共に巻き上げられる様を、一際高い木の上から眺めている
人物。その人物こそ、手にマゴロクを持つマフィアのボス。ウエッキー。

やはり、俺がじきじきに行かねばならんか。
やむをえんな・・・。

ウエッキーは、対魔法能力を持つマゴロクを手に地に着地すると、白雪姫を探し森の中
を歩き始めた。

白雪姫ピンチッ!! いや・・・今1番ピンチなのはマナだった。

「お姉様ぁ。異国には、女の子同士で結婚できる国があるらしいですぅっ!」

「いっっ!? いぃぃぃぃぃぃーーーーっ!?」

アスナの唇が迫る。目を剥くマナ。

「お姉様ぁぁーーん。」

のけぞるマナに、しっかと抱き付いて離れない怪しい娘。いつからアスカがこんなにな
ってしまったのか、どうしてこうなってしまったのか、さっぱりわからないマナは、お
尻を地面にズリズリ擦らせ、必死でその抱擁から逃げ様としている。

「お姉様ぁぁーーん。行っちゃいやーぁん。」

アスナの唇はもう目の前。このままでは、ファーストキスが女の子に奪われてしまいそ
うな雰囲気だ。

「も、もういいわ。内職、わたしがする。ね。あなたは、好きにしていいわ。」

とうとう諦めるマナ。

「えーーーーっ。お姉様を好きにしていいんですかぁぁぁっ!?」

「ちがーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーうっ!!!」

こんな危ない娘を一緒に連れて帰ったら、内職どころか貞操の危機。もう何もかも諦め、
とにかくこの状況下から逃げ出したい。

「いやーーーんっ。わたしは、ノーマルなのーーーっ。」

「女の子が好きってことですねぇぇぇ。」

「ちがーーーーうっ!! 全然、ちがーーーーうっ!」

泣きそうなマナと、至福の時を堪能するアスナ。だが、そんな幸せな時間は長くは続か
なかった。

「やっとみつけたぞっ! 白雪姫っ!!!」

急に宙に浮く感覚に囚われるアスナ。ぎょっとして振り返ると、先程の男達とは比べ物
にならないような、屈強な剣士が自分の腰を抱き、高々と持ち上げているではないか。

「お、お、男・・・。いやーーーーーーーーーっ!!!!」

「なにっ? あなたっ!!!」

アスナをさらわれ、緊急事態にすぐさま身構えるマナ。

「フっ。この娘は俺が貰う。」

「なんですってっ。アスカっ、魔法使ってもいいわっ! やっちゃいなさいっ!」

「あーん。あたし、魔法なんか使えないもーんっ。」

「えーーーーーっ。」

やっぱり、魔法が使えなくなってたのね・・・。
どうする? マナっ。

魔法を出そうと身構えるが、ウエッキーはマゴロクをアスナの首元へ押し付けており、
下手に攻撃できない。

「おーーっと、動くとこいつの首がなくなるぜ。」

「くっ。」

人質を取られていては、手も足も出せない。じりじりとアスナを連れて後退して行くウ
エッキーを前に、どうすることもできず奥歯を噛み締める。

「汚いことするわね・・・。」

討つ手立てがないまま、2人の距離はどんどん開いていく。その時だった。ウエッキー
とマナの丁度真ん中にノソノソノソと人影が現れた。

「ほらぁ、さっさと歩くっ!」

「白雪姫様ぁぁ。温泉はまだなのかい?」
「私も1人で入りたいの・・・。」

「うだうだ言ってないで、早くいらっしゃいよっ!」

ぎょっとするマナ。ウエッキーも手の中と目の前に白雪姫がなぜか2人現れ、わけがわ
からなくなり目をひんむく。

「ア、ア、ア、ア、アスカっ!!!」

先に大声を上げたのはマナだった。聞き覚えのある・・・それも1番聞きたくない声が
耳に入りギギギギギと顔を振り向けると、まさにそこには最も会いたくない人物の姿。

「あ・・・あ、あら。お姉様・・・。」

アスカの額に冷や汗が噴出す。

「な、なんで・・あなた・・・2人に・・・。」

「はぁ?」

わけのわからないことを口走りながらマナが指差す方向に目を向けると、なんとそこに
は自分そっくりの絶世の美女が。

「ん? ん? ん?」

ぱたぱたぱたと、自分の体をさするアスカ。確かにこの自分の体は本物である。マナお
姉様とは違い、とってもめりはりのあるナイスバディー(口に出してはいけない)。

「うん。これはアタシ。じゃー、あれは? あれもアタシ?? 」

「し、し、し、白雪姫様が・・・2人もいる?」
「地獄だわ・・・仏滅だわ・・・。」

真っ青になる小人2人。ただでさえ大変なのに、白雪姫が2人もいたら死んでしまう。

「アタシはアスカよっ! アンタ誰なのっ!!!!」

びしっと囚われている自分そっくりの人物を指差すアスカ。

「あたしは、惣流・アスナ・ラングレーですぅっ。」

「アスナ??? ふーーん。よく似てるわねぇ。ま、アタシに比べて、やっぱ可愛さと、
  おしとやかさと、気品と、人徳が足りないけけどね。」

またビシっとアスナのことを強く指差す。

「アンタは偽者よっ!!!!」

「偽者って・・・あたしは本物のアスナですぅぅ。」

ようやくマナもウエッキーも、2人の会話を聞いて状況が理解できてきた。早い話、俗
世間一般で言うところの、人違いである。

「そうか。こいつは、白雪姫じゃないのか。」

「ふっ。気品が全然違うでしょーがっ。」

「うーーむ。アスナの方が気品がありそうだが。」

ブチっ!

こめかみに青筋をたてるアスカ。ただでさえ、ゲンドウに気品がない気品がないと言わ
れて腹が立っているところである。

「まぁ、良い。この娘の命がおしくば、おとなしく俺の部下になれ。」

アスカと人違いでさらわれた部外者のアスナを、これ以上巻き込みたいくないマナは、
なんとか説得を試みる。

「わたしが人質になるわっ! その子を離してっ!」

「お姉様ぁぁぁ。ぐすっ。」

マナの一言に感極まって泣きだすアスナ。だが・・・伊達にマフィアのボスに上り詰め
たわけではなく、ウエッキーがそう簡単に離そうはずもない。

「ふっ。俺はそんなお人良しじゃないんでなっ! お前らみたいな、気品の無い娘を人
  質にすると、何するかわからん。」

ブチっ!

気品が無い、気品が無いと、追い討ちを掛けられ、アスカの頭の中の血管が切れる音が
した。

「でーーーーーーーいっ!!! マジックアローーーーっ!!」

魔法の弓を構えるアスカ。ウエッキーは、驚いてアスナを前面に出す。

「待てっ! 人質がどーなってもいいのかっ!!!」

「やかましーーーーっ!!!! でやーーーーーーーーっ!!!!」

ズババババババババババババっ!!!

人の話など聞くアスカではない。問答無用で魔法の矢を無数にぶちまける。不意打ちを
食らったウエッキーは、アスナを投げ出して真後ろへぶっ飛ばされる。

「お姉様ぁぁぁぁぁっ!!!!」

ようやく自由になったアスナは、とにもかくにもマナの元へ走り寄って行く。

「はぁ・・・やっぱり、あれこそ正真正銘のアスカだわ・・・。」

顔を手で覆って、あまりにも見境の無い攻撃をするアスカにクラクラくる師匠マナ。

「フっ。さすがは、俺が見込んだだけのことはある、極悪魔道師だ。」

「ご、極悪ぅぅぅぅっ!!!?」

ぶちぶちぶちぶちぶちーーーーーーーーーーっ!

聞き捨てなら無い言葉を連発するウエッキーに、もうアスカの理性などイスカンダルま
でぶっとんでしまった。

「どうしても、お前を部下にしたくなった。右腕にしてやる。その極悪根性を俺の為に
  使えっ。」

「だれが極悪ですってーーーーっ! うりゃーーーーっ!!!」

怒りも露に、マジックミサイル暴発。だがその全ては、ウエッキーが構えたマゴロクの
前に消失した。

「なっ、なんですってっ!!!」

「このマゴロクには、対魔の玉が埋め込まれていてな。それくらいの魔法は効かぬ。」

「ちっ!」

空を見上げるとまだ太陽は高い。満月がなければ、赤きルナの髪飾りは使えない。

「どうだっ。悪い話じゃねーはずだが? マフィアの幹部になれるんだぜ。」

「趣味じゃないわっ。」

「残念だが、味方になればいい目をみせてやるが、敵にしちゃーやっかいなんでな。こ
  こで死んで貰うことになるが? ん?」

「くっ。」

マゴロクがある限り、自分の魔力では通じそうにもない。当然、剣術の戦いなど仕掛け
て、魔法使いが剣士に勝てようはずもない。

「やられちゃ、たまんないわね。わかったわ・・・。アンタの部下になろうじゃない。」

「アスカっ!!!」

びっくりするマナ。よりにもよってマフィアの為になど、自分が教えた魔法の力を使わ
れたくない。かと言って、人質を取り返したとはいえ、加勢してもあのマゴロクにはか
ないそうにない。

「じゃ、僕達は自由かい?」
「小人の森に帰れるのね。」

全然関係の無いところで、少し喜んでいる小人2名。

「アンタの仲間になるわ、案内なさいよ。」

「人間、強い相手にゃぁ、素直にならなきゃな。よし、付いて来い。」

「わかったわ。ところで、その剣すっごいわねぇ。」

「マゴロクだ。いずれお前も手柄を立てれば、こんな剣が持てる。」

「友好の印に、それ2つに増やしてあげるわ。」

「そ、そんなことができるのかっ?」

「ええ。1つのものを2つにする魔法知ってんのよ。」

ニヤリと笑みを浮べ、ウエッキーを見据えるアスカ。

「本当か? そんな便利な魔法もあるのか。なら、さっそく頼む。」

「その前に、対魔の玉外してよ。魔法効かないじゃない。」

「あぁ。ちょっと待て。」

この名刀が2つになると恐い物無しである。ウエッキーは、さっそく対魔の玉を外し剣
を地面に突き立てた。

「さぁ、頼む。」

「間違いなく2つにしてあげるわっ!! わはははははははははははははっ!!!!」

悪魔的な高笑いを突然あげるアスカを前に、びくっとしたウエッキーだったが、時既に
遅かった。

「でいやーーーーーーーーーーーーっ!! カーーーーーーーーーーーーットっ!!!」

ズバババババババババババババババババババババババババババっ!!!!!!!!

魔法が炸裂する。

バッキャーーーーーーン。

その瞬間マゴロクは、真っ二つに切り裂かれた。

「あーーーっ! きっ、きっさまーーーーっ!!!!」

「あっらぁぁ? 分裂の魔法って・・・2つに増えるんじゃないのーーーーっ!?
  知らなかったなーーーーっと。わははははははははははははははははーーーっ!!!」

「お、おのれーーーっ!!!」

マゴロクがなくなり、腰にささっていた短剣で切り掛かってくるウエッキー。しかし、
アスカは高笑いを浮べるだけ。

「アンタバカーーーーっ!!! ???????
  いっくわよーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

アスカの周りに真っ赤な閃光が光の妖精のごとく終結し。

「ファイヤーーーーーーボーーーーーーーールっ!!!!!!!!!!!!!!!」

ズガガガガガガガガガガガァァァーーーーーーーーアアアアアアアアンっ!!!!!!

紅蓮の炎の塊が森を切り裂く。

「ぎやーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」

全身が真っ黒になったウエッキーは、遥か空の彼方までふっ飛び、お星様になったのだ
った。キラン☆

「小人渚っ! 小人綾波っ!」

その後のアスカの反応は、それまでにも増して早かった。

「どうしたんだい・・・わっ!」
「きゃっ!」

有無を言わさず小人達を小脇に抱えると、最近異様に上手くなったロケットダッシュ飛
行を披露。

「お姉様ぁぁっ! ばっははーーーーーいっ!!!!」

「あーーーっ! アスカーーーーーーっ!!!」

すぐさま追い掛けようとするマナだったが、その足に何かが絡み付いて来る。

「お姉様ぁ〜。行かないでぇぇぇ。」

「ちょ、ちょっとっ。」

「好きなんですぅぅ。お姉様ぁぁぁ。」

「も、もう・・・ちょっと、アスナちゃん?」

「お姉様ぁぁぁ。しくしく。」

このまま振り切って飛び立つとアスナの身が危ない。マナをやむをえず、その場に留ま
りアスナの顔をじっと見詰める。

「ごめんね。わたし、そういう趣味ないの。」

「お、お姉様・・・。」

「あなたには、きっと素敵な人が現れるわ。お互いに愛し合える。」

「お互いに・・・。」

「うん。きっと。」

にこりと微笑みを浮かべるマナを前に、失恋したことを感じ取ったアスナは、ぽろりと
涙を流す。

「じゃ、わたし行かなくちゃいけないから。」

「あ、あのっ! お姉様っ!?」

「ん?」

「最後に握手だけ・・・して貰ってもいいですか?」

「あはは。ええ。いいわよ。」

飛び立とうとしていたマナだったが、最後の別れのつもりでアスナに右手を差し出す。

「元気でね。」

「お姉様っ! あたしっ! 好きでしたっ! あたしのこと、忘れないで下さいっ!!」

ちゅっ!

気付いた時には既に遅かった。アスナの唇の感触を、自分の唇で感じているのは、錯覚
だろうか。

「いやーーーーーーーーーーっ!!!」

悲鳴を上げて、空中に飛び上がるマナ。

「お姉様ぁぁぁ、さよーならーーっ。あたしの初恋でしたぁぁぁっ。」

手を振るアスナ。だが、彼女の言葉は飛び立ったマナの耳には届いていなかった。

あれは、違うっ!
ファーストキスじゃないっ!
女の子同士だもんっ!
違うっ! 違うっ! 違うっ! 違うっ! 違うっ! 違うっ! 違うっ! 違うっ!
絶対、ちがーーーーーーーーーーーーーーーーうっ!
認めないもんっ!!!!

「いやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

必死に頭の中でファーストキスとは認めないと連呼しながら、それもこれも全てはアス
カが原因だと、不幸の根源を追い掛け始めるのだった。

その頃小人2人を両脇に抱いて空を飛んでいたアスカは、山の上に聳えるマフィアの砦
を見付けていた。

「あれが、本拠地ねっ! ここは、人徳を磨く為にも・・・。
  ファイヤーボーーーーーーーーーーーーーーーールっ!!!!」

ズガガガガーーーーーーーーーーーーーーーーンっ!!!

炸裂するファイヤーボール。木っ端微塵に砕け散る、マフィアの砦。

「よーしっ! これで村の人達も平和になるわっ!
  砦を壊したのは、アスカっ! 惣流・アスカ・ラングレーよっ!
  みんな、覚えておきなさいよーーーーーーーーーっ!!!!」

しっかりと自分の宣伝まで付け加えたアスカは、マナに追い付かれる前にその村から逃
げ出して行った。

1分後・・・。

ガラガラガラ。

崩れ出す砦。

一緒に山も崩れ出し・・・その土砂が村へ流れ込む。

「うわーーーーーーーーーーっ!!! 白雪姫が、村を攻撃したぞーーーっ!」
「みんな、逃げろーーーーーっ!」

逃げ惑う茶の湯村の人々。そこへ、アスカを追いかけて来たマナがふらりと通り掛った。

「あっ! 村がっ! 大変っ!」

アスカを追い掛けなければいけないが、とにかく人命救助が最優先である。マナは、慌
てて村人を助けに行く。

「みんなっ! 大丈夫っ!?」

「あなたはっ!?」

「白雪姫ってコを探してるの旅人だけど・・・。まぁ身内みたいなもんなのよ。見かけ
  たら教えて。」

と、言った途端、村人の目が敵意に満ちたものに変わった。

「白雪姫の身内だぞっ!」
「白雪姫のせいで、村が壊されたんだっ!!!」

「げげげげげっ! これって、まさかアスカが・・・。」

迫り来る村人達。マナはヤバイと思ったが、時既に遅く回りを囲まれてしまっている。

「責任取って貰えるんでしょうなっ!」

「は、はい・・・。」

「この崩れてきた土砂を、全部なんとかして貰うぞっ!」
「潰れた家も建て直して貰わにゃ困るっ!」

「はいぃぃぃ・・・。わたしが責任持って・・・。しくしく。」

こうしてマナは、アスカを追い掛けることを断念し、魔法を日夜使って茶の湯村の復旧
に惜しみない労働を昼夜問わず提供することになるのだった。

アスカーーーーーーーーーーーーっ!!!!!
覚えてなさいよーーーーーーーーっ!!!!!

<コンフォート17マンション>

「あっらぁぁ。早く帰ってこないと利子が増えるのに・・・。」

1枚の紙をマナの内職部屋に置きに来たミサトが、ポリポリと頭を掻きながら、そんな
ことを呟いている。

その紙には。

”請求書

  トロールの村、半壊の件。”

と書かれていた。

fin.
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