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うちのアスカさん、おでこで熱を計ってくれます
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作者注:この小説は、"うちのアスカさん、憧れてます"の続編です。そちらから先にお
        読み下さい。"うちのアスカさん、振袖も艶やかです"は新春特別バージョンな
        ので、そこからは繋がっていません。
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<学校>

シャムシェル戦の時にシェルターから抜け出したトウジとケンスケを助けて以来、この
2人はぼくの大事な友達なんだけど。

「おっ!アスカ先生やっ!」
「アスカせんせーーーっ!!!!」

フェラーリテスタロッサで威風堂々と校内に入って来るアスカさんに、ビデオカメラを
向け手を振るケンスケと大声を上げるトウジ。毎朝のこの風景、あまり好きじゃない。

なんだよ。
勝手にビデオなんか撮らないで欲しいんだけど。

美人で若い学校の先生ってのは、よくアイドル的存在になるらしいし、まさにアスカさ
んはその条件にぴったりなんだけど・・・。そんなのになって欲しくないな。

「おっ! こっち向いてくれたぞ。」
「いやぁ、やっぱアスカ先生はええなぁ。」

こっち向いたくらいなんだよ。
ぼくなんか、一緒に暮らしてるんだ。

言いたくて仕方がない。けど、これを言うとアスカさんが困っちゃう。でも、2人だけ
の秘密を共有しているってのも、悪くないかもしれない。

「よーし。これで3本目だ。」
「おっ! テープ1本溜まったか? ダビってくれや。」

どうやらテープ1本分全てアスカさんを録画したみたいだ。そんな、はしゃぐ2人・・・
いやトウジ1人を睨み付けているのが委員長。

「よぉ、シンジにもダビってやるから楽しみにしとけよ。」

「いいよ。べつに。」

「遠慮したらあかんあかん。こういうもんは、親友の証っちゅー奴やさかいな。」
「そうだぜ、これまでのコレクション3本まとめて明日持って来てやるよ。」

「だからいいって。」

「ワイらの親友の証が、受け取れんっちゅーんかっ?」

「あ、証しって・・・。」

「受け取るよなぁ? 碇ぃ?」

「もう、わかったよ。」

「よっしゃ、それでこそ男やっ。」

困ったなぁ。
そんなの持ってるのがばれたら、アスカさんに変な目で見られちゃうじゃないかぁ。

ぼくの悩みなど露知らず、友の絆をより強固なものにしたとばかりに、トウジとケンス
ケが肩を叩いて来た。

4時間目。

アスカさんの英語の授業。教師らしく清楚なブラウスにタイトスカートという、普段よ
りも更に大人っぽい装いで黒板に文字を書き、教卓の前を歩いている。

「はーい。次、碇君。読んでみて。」

「はいっ。」

前の学校では英語はどちらかと言えば苦手だったけど、今では1番の得意科目。アスカ
さんと暮らしているからといって、ズルなんかしてない。もっともアスカさんは、絶対
そんなこと許さないけど・・・。

スラスラスラと英文を読み訳していく。好きな先生の教科は成績が上がるっていうのも
わかる気がする。

「はい。さすが碇くんね。よく予習してるわ。」

やったっ!
昨日の晩、3回も予習しといたもんなぁ。

「でも、数学がいまいちだって聞いてるわよぉ? 好きな教科ばかり勉強してちゃダメ
  よぉ?」

「うっ・・・。」

「ちがいまーすっ! 好きな先生を選んで勉強してるんでーす。」

ケ、ケンスケっ!

「あっらぁ、じゃ、数学の先生も好きになってね。」

「「「わはははははははははっ!」」」

ケンスケっ!
なんてこと言うんだよっ!
もう、最悪じゃないかぁっ。

とは言っても、まさに図星を突かれているので何も言い返せない。ぼくはクラスメート
の笑い声の中、顔を真っ赤にして俯いてしまう。

昼休み。

転校した時は1人で食べていた昼食も、今ではトウジやケンスケと机を挟んで楽しい時
間。しかも鞄から取り出した物は宝石より大事な宝物。

へへへ。
アスカさんの愛妻弁当だ。

愛妻じゃないかもしれないけど、アスカさんが手作りで作ってくれてることに間違いは
ない。今日は色とりどりのおにぎり,卵,唐揚げ,少し多めの野菜炒め。栄養バランス
もバッチリ。

ぼくがアスカさんの作った弁当食べてるって知ったら、みんな驚くだろうなぁ。

「ケンスケっ! 焼肉やないか。ごっつ美味そうやんけ。ちょっとくれや。」

ぼくの方がずっと美味しいや。
なんたってアスカさんの・・・。

「おっ! シンジのも美味そうやな。ワイのにぎり飯と交換や。」

「あっ!」

「交渉成立やでっ。」

「ま、待ってっ!」

ガブッ。

「あーーーーーーっ。」

つまらない優越感に浸っていたのがいけなかったのだろうか。アスカさん手作りの大事
な大事なおにぎりが、あっという間にトウジの口へと消えて行ってしまった。

ひ、酷いよっ。
それはぼくだけの。

「はぁ〜。」

悪気が無いのはわかっていても、なんとなくぼくだけの特権を取られたような気がして、
腹が立ってくる。

「も、もう駄目だからねっ!」

「ほないにケチケチすんなや。ちゃんとワイのもやるよってに。」

「もういいよ。」

ケチケチしてるんじゃないんだよ。でも、この弁当だけは特別なんだ・・・ぼくにとっ
ては。毎朝アスカさんが、早くに起きて作ってくれてるんだ。

授業も全て終り、ホームルームにアスカさんがやってくる。後少しで今日も下校の時間。

「えっとぉ。あっ、いっけない。プリント忘れたわ。うーん、たくさんあるから、誰か
  取りに行くの手伝ってくれないかしら?」

「あっ! はいっ! ぼく行きますっ!」

しまった。つい大きな声を出してしまった。クラスメートのみんなもアスカさんも、ぼ
くの方を注目している。

「いい返事ねぇ。授業の時もそれくらい元気に手を上げてね。」

「「「わはははははははは。」」」

アスカさん・・・そんな言い方しなくても。
は、恥かしい・・・。

「じゃ、碇くんに手伝って貰うわ。一緒に来てくれる?」

「はいっ!」

笑いの渦の中前に出て行く。あー、もう最悪だ。折角アスカさんの手伝いができるって
のに、恥かしくって仕方ない。

「ねぇ。シンジくん?」

「はい?」

「今日、放課後どうするの?」

「どうするって、トウジ達と一緒に帰るけど。」

「どっこもよらずに?」

「はい。別に。」

「そ。あのさ、映画のチケット貰ったのよ。一緒に行かない?」

「えっ、えーーーっ???」

「しっ、声が大きいっ!」

「す、すみません。」

アスカさんと映画ぁ?
こ、これはっ!
もしかしてっ!
すっごく嬉しいことなのでは???

「これくれた先生ね、サスペンスとかホラーが好きなのよ。あまりアタシ好きじゃない
  んだけど、貰って見に行かないっても失礼でしょ? 困っちゃって。」

「アスカさん、苦手なんですか?」

「そうねぇ・・・。『彼氏と行って抱き付いてらっしゃい』とかってくれたんだけど、
  そんなのいないしさ。」

彼氏に抱き付くっ?
アスカさんがっ?
そんなの駄目だっ!

「ぼくが行きますっ! ぼくがっ!」

「ありがと。助かったわ。」

今日はいいことがありそうだ。アスカさんと職員室にあったプリントを取ったぼくは、
にこにこしながら教室へ戻って行った。

<映画館>

学校が終わった後、ぼくはアスカさんが帰って来るのを家で待ち、さっそく映画館へと
繰り出した。

「思ったより人多いわね。」

「ほんとだ。」

「やだなぁ。悲鳴とか出しちゃっうかしら?」

「大丈夫ですよ。ぼくがいるから。」

「頼りにしてるわね。クス。」

ほんとに頼りにされてるのかな?

それにしても、右を見ても左を見てもカップルばっかり。ぼく達もそう見えるかなぁ?

ポップコーンとコーラを2つ買って、前の方の椅子に座る。うん、この辺りなら迫力が
あるから、恐がったアスカさんがぼくに抱き付いてきたり・・・なんて良からぬことを
妄想しているうちにスクリーンの幕が開いた。

ビデオでは見たことあるけど、映画館でホラーなんか見るの初めてだよ。なんだかドキ
ドキしてきたなぁ。

                        :
                        :
                        :

ドドーーーーーン! ズガーーーーーーン!

「わーーーーーーっ!!」

突然物凄い音と共に、恐ろしい顔をした血みどろの人間がアップになった。もうびっく
りしたのなんのって、ぼくはポップコーンを投げ出して思わずアスカさんの手をぎゅっ
と握ってしまう。

「ほらぁ。シンジくん、静かに見なくちゃ。」

「は、はい・・・。」

ドドーーーーーン! ズガーーーーーーン!

「わーーーーーーっ!!」

なんか手が震え出しちゃって・・・必死でアスカさんの手を・・・。

「大丈夫だって。ただの映画じゃない。手握っててあげるから。」

「はいぃぃ。」

                        :
                        :
                        :

映画は終わった。確かに期待してたように、映画の間ずっとアスカさんの手を握り締め
てたけど・・・あぁ、ぼくってなんて格好悪いんだ。

「あーぁ。思った程大したことなかったわね。」

「そ、そうですね・・・。あっ、最初声出たのは、その・・・久し振りだったから、び
  っくりしただけで。」

「そうよねぇ。ブランクが開いたら、びっくりしちゃうわね。こういうのってさ。」

「そ、そうなんですよっ。」

「そうだ。こんどさ、コメディー見に行きましょうか? 奢ってあげるわよぉ?」

「は、はい・・・。」

なんだか、慰められてるというか、フォローされてるようで・・・。
なんていうか、もう最低の気分というか・・・。
男として情けないというか・・・。

「はぁ〜。」

「あっ、シンジくん。ゲームセンターよ。」

アスカさんが、商店街の通りの向こうを指差しながら、ゲームセンターに向かって歩き
出す。

「え? ゲームセンター入るの?」

「あっ、そっか。シンジくんは、この時間じゃまずいわねぇ。しゃーない、諦めるか。」

「すみません。」

「いいのいいの。これでも教師だからねっ。」

ぼくはアスカさんと一緒にゲームセンターにも入れないんだ。どんなに努力しても、こ
ればっかりはしょうがないけど、なんだか情けないよなぁ。

「そうねぇ。遅くなっちゃったし、ご飯でも食べて帰りましょ。何がいい?」

「何って、アスカさんは居酒屋とかがいいんじゃないの?」

「そんなとこ、シンジくんと2人で行ったら未成年バレバレじゃないのよ。先生方と一
  緒に行ったら誤魔化せるけどさ。」

「そうですね・・・。」

「ファミレスにしましょ。」

「ぼくも・・・それでいいや。」

その後ぼく達は、ハンバーグランチを食べて帰った。

早く大人になりたい・・・男らしくなりたい・・・そう思った1日だった。

<ネルフ本部>

次の日は、朝からハーモニクステストがあったから、ぼくは学校を休んでネルフに来て
いる。

「シンジくん? ハーモニクス値が落ちてるわ。」

「すみません。」

「何かあったの?」

「いえ・・・別に。」

テストが終わって発令所に上がると、ミサトさんが今日の結果を見ながら近付いて来る。

「何か悩みでもあるの? アスカと上手く行ってないとか?」

「そんなことないですっ!」

「調子の悪い日もあるだろうけど、なんかあったらちゃんと相談するのよ。いい?」

「はい・・・。」

特にそれ以上は何も言われず、ミサトさんはリツコさんと肩を並べて歩いて行く。

「あ、あのっ!」

ぼくはその背中に向かって、思わず声を出してしまった。

「どうしたの?」

「あの・・・体を鍛えるような設備ありますか?」

「どうしたのよ。急に。」

「その・・・エヴァのパイロットでも、体力は必要かなって。」

「うーん。そうねぇ。ストレス発散にもなるし。わかったわ。」

本当はエヴァの為なんかじゃなく、年齢がどうしようもないんなら、せめて体力だけで
も男らしくなりたいと思って。

                        :
                        :
                        :

それからミサトさんに案内して貰った所は・・・。バーベル上げたり、そんなのを想像
してたのに、目の前に広がる水,水,水。

ぼく泳げないのに・・・。
どうしよう。

確かにここでも十分体力は鍛えられそうだけど、泳ぎ方も知らないぼくにどうしろって
んだよ・・・。

しばらくプールをただ座って見てたんだけど・・・ぼくはあることに気付いた。もしア
スカさんがプールや海に行こうって言ってくれたら、ぼくはどうしたらいいんだ?

泳げるようにならなくちゃ。
逃げちゃ駄目だ。

それからぼくは、夕方まで休みも取らずにずっと1人で泳ぐ練習を繰り返した。

<アスカのマンション>

家に帰ったぼくはベッドに横になっていた。人間やればできるもんで、なんとかかんと
か25メートルは浮いたまま進むようになった。ただ、ずっと水に入りっぱなしだった
のがいけなかったのか、なんだかさっきから頭が痛い。

疲れたんだ。
ちょっと寝よう。

それからどのくらい寝てたんだろう? なんだか夢の向こうからアスカさんの声が聞こ
えて来る。

『ご飯できたわよぉ。そろそろ起きて。』

うーん・・・夢を見てるのかな?
背中がだるいや。

『シンジくん。そろそろ・・・。』

なんだか体がべちゃべちゃして気持ち悪い。
まだプールに入ってるのかな?
頭も痛いし・・・。

『シンジくん? どうしたの?』

どうしたんだろう? アスカさんの声が近くなってきたような気がするなぁ。
うっ・・・頭がだんだん痛くなってきた。

「シンジくんっ! しっかりしてっ! シンジくんっ!」

「はっ!!!」

ぼくは現実に引き戻された。目の前には真剣な顔で、ぼくの体を抱き起こしているアス
カさんの姿がある。

「凄い寝汗じゃない。ちょっとじっとしてんのよっ!」

「あっ。」

アスカさんの顔がくっつかんばかりに目の前に迫って来たかと思うと、前髪を掬い上げ
る。汗だらけのぼくのおでこと、アスカさんのおでこをくっつく。

わわわわわわわっ!

「やっぱ、熱いじゃない。」

あ、あ、あ、熱いって・・・。
そんな・・・。

ほんの数ミリ前に出たらキスしてしまいそうなところに、アスカさんの顔がある。そん
なに迫ったら、ぼくの体温も上がっちゃうよっ。

「なんだか、脈も速いみたいだし。」

もうぼくの心臓はドキドキだ。目覚めと同時に、いきなりアスカさんのアップなんか見
たら仕方ないじゃないか。

「とにかく、服着替えて。体温計取って来るから。」

おでこを離してアスカさんが部屋から出て行く。もうおしまいか・・・。

汗でべとべとになった服を脱いで着替えようとしたんだけど、まだ体が熱くってフラフ
ラする。

あれ?
アスカさんがいなくなったのに体熱い・・・。
寒気もする。

本当に熱があるのかな? プールで頑張り過ぎたのが原因かもしれない。困ったなぁ。

このまま汗で塗れてちゃいけないよな。そう思って、服とズボンを脱いで着替えを出そ
うとした時。

ガラッ。

「あっ、よかった。まだ着てないわね。ちょっと待って。」

「わっ!!!」

パンツ1枚になったところへ、アスカさんがタオルを持って入って来た。ぼくはびっく
りして布団の中に潜り込む。

「これこら。お布団まで濡れちゃうじゃないの。汗拭くわよ。」

布団に入ろうとするぼくを抱き起こして、背中をタオルで拭いてくれる。汗でアスカさ
んの手がべたべたになっちゃうよ。やだなぁ。

「よいしょ。よいしょ。」

「あ、あの。もういいよ。」

「ダメよ。しっかり拭いとかなくちゃ。」

「だって・・・。」

「ウダウダ言ってないで、じっとしてなさいっ。」

アスカさんが体全身でぼくを支えて、背中とか脇の下とか丁寧に拭いてくれる。悪いよ
うな恥かしいような・・・でもちょっと嬉しいような・・・。

「・・・はい。」

「よいしょ。よいしょ。さって、こんなもんね。」

「すみません。」

「じゃ、服着替えたら、この体温計で熱はかんのよ。」

「はい。」

ぼくはタオルケットを持ったまま立ち上がると、急いでズボンに足を通す。

「あらら、シーツまでぐっしょりじゃない。」

シーツを剥ぎ取ったアスカさんは、ぼくの脱いだ汗だらけの服と一緒に抱きかかえて部
屋から出て行った。

やっぱり体がだるいな。
そうだ、熱計らなくちゃ。

シーツのなくなった布団に腰を下ろし体温計を脇に挟んでいると、またアスカさんが違
うシーツを抱えて戻って来た。

「ちょっと立ってくれる?」

「はい。」

「ごめんねぇ。シーツの替えまだ買ってないのよ。アタシので我慢して。」

「えっ!? アスカさんの? じゃ、じゃぁ。アスカさんは?」

「バスタオルでも敷いて寝るわ。」

「じゃ、じゃぁ。ぼくが。バスタオルで。」

「アンタバカ? そんなに寝汗かいてんだから、シーツの下にタオル入れても足らない
  くらいよ。」

「・・・・・すみません。」

「はいっ。できあがりっ! じゃ、寝なさい。」

「はい。」

ピリピリピリ。

電子音が鳴った。体温を計り終わったようだ。ぼくは脇から体温計を取り出して見ると、
38度8分。

「結構高いわねぇ。」

そう言いながら、またアスカさんがおでこをくっつけてくる。そんなことしたら、もっ
と熱が上がっちゃうよ。

「ふーむ。」

頭の後ろに回した手と、くっついているおでこで、ぼくの顔を挟んだままの状態が続く。

「頭痛くない?」

「ちょっと。」

「でしょうねぇ・・・。」

ドキドキドキ。

早く離れてくれないと、心臓が・・・。
緊張しちゃう。

「どう? 食欲ある?」

「いえ・・・あまり。」

ぼくの前にアスカさんの綺麗な青い瞳。
目、目のやり場が・・・。

アスカさんの息遣いまで聞こえる。
このまま時が止まればいいのに・・・。

「おかゆ作るわ。」

でもとうとうアスカさんは離れてしまった。ほっとする反面、勿体無いような残念なよ
うな気がする。

「寝てじっとしてんのよっ。わかったぁ?」

「はい。」

アスカさんが出て行った後、ぼくはベッドに横になった。ふと見るといつもの枕じゃな
い。

アスカさんの枕だ・・・。
ぼくのは、枕まで汗で塗れてたのかな。

熱出しながらこんなこと考えてたのは内緒だけど、シーツと枕からほのかにアスカさん
の香りがして・・・。

ぼくはバプっとまくらに顔を埋めて目を閉じた。




その後、アスカさんのおかゆを食べ、なんだか怪しいネルフブランドの薬を飲んで寝る
ことになった。

                        :
                        :
                        :

あたりは真っ暗。何時だろう? ぼくは物音に気付き、意識がゆっくりと現実に引き戻
されるのを感じ目を開ける。

「あっ!」

「ごめん、起こしちゃった?」

わわわわわわわっ!!!

アイスノンをして寝てたはずなんだけど、ぼくのおでこにはアスカさんのおでこがくっ
ついている。

「まだ、熱あるわねぇ。」

「そうですか・・・。」

暗がりの中で、アスカさんが・・・こんなに近くに。
また、ドキドキしてきたよ。

「ちょっとじっとしててね。アイスノン外したとこだから、よくわかんないのよ。」

アイスノンで冷されていた、ぼくのおでこの体温がだんだんと元に戻って来る。

アスカさんのおでこって冷たいや。
違うか・・・ぼくの体温が高いんだ。

アスカさんはおでこをくっつけたまま、ぼくの頭を片手で抱えてじっと目を閉じている。

「うーん、やっぱまだ高いわねぇ。」

アスカさんは、ぼくの汗を拭き取ってくれると、新しいアイスノンをおでこに乗せてく
れた。

「じゃ、ゆっくり寝んのよっ。」

「はい。」

1人になったぼくは、ふと時計に目をやると午前3時を過ぎたところ。

こんな時間なのに・・・。
アスカさん、わざわざぼくの為に。

プールなんかで頑張って、ぼくは何を焦ってたんだろう?
逆にアスカさんに迷惑かけちゃってるじゃないか。

アスカさん・・・心配かけちゃってごめんなさい。

まだぼーっとした頭でそんなことを考えながら、ぼくは再び眠りについた。

                        :
                        :
                        :

翌日の目覚めは、昨日の夜と違って爽やかに感じた。体温計で熱を計ったら、37度1
分。ちょっと微熱があるけど、これなら大丈夫だろう。

「おはようございますっ。」

「どう? 具合は?」

「もう、平気みたいです。」

リビングへ出て行くと、いつものようにアスカさんが朝ご飯を作っている。

「本当?」

「本当ですよ。」

「どれどれ。」

アスカさんのおでこがぼくのおでこに近付いて来る。もう体温はさっき計ってわかって
るんだけど・・・ぼくはそのままアスカさんのおでこに熱を計って貰っちゃった。

「うん。ちょーっと熱いけど、いいんじゃない?」

「でしょ?」

「今日、学校どうする?」

「行きますっ!」

「大丈夫?」

「もう。ほら、平気だし。」

「そ。でも体温計だけは持って行くのよ。おかしいなって思ったら、すぐ帰ること。い
  いわね。」

「はい。」

だって、今日はアスカさんの英語の授業があるんだ。家に1人でいるより、学校に行っ
てた方がずっと・・・。

「あっ!!!」

「どうしたの?」

「英語の宿題してないよぉ。」

「なんですってーーーっ!」

「お、おねがい。今日、当てないで。」

ぼくは、両手を合わせてアスカさんに懇願してみた。

「アタシは、そういう不正はしないことにしてんのよっ!」

「そんなぁ・・・。」

こういうことにアスカさんは厳しい。やっぱ駄目だろうなぁ。

「でも、ま、今回に限り見逃してやるか。」

「ほ、ほんとっ?」

「そのかわり、次のテストで数学の点数あげることっ! いいわねっ!」

「・・・うっ。」

更に厳しい宿題が舞い降りてきてしまった。言うんじゃなかった・・・。

<学校>

今日もぼくはアスカさんが作ってくれた弁当を持って学校に来ている。また熱が上がっ
たらアスカさんに迷惑かけちゃうから、朝のホームルームの前に体温計で計っておく。

「おい、碇。」

「ん?」

「熱でもあるのか?」

「うん。ちょっとだけ。」

体温計を見つけたケンスケが近付いて来る。

「なんだよ。今時、脇で計る体温計か?」

「どうして?」

「俺なんか耳で計ってるぜ。」

「あぁ、そういうのもあるね。」

「あっちの方が計るの早いし、絶対いいぞ。」

そんな話をしているうちに、チャイムが鳴り朝のホームルーム。アスカさんが入って来
た。

「じゃ、出席取るわね。相田くん。」

「はい。」

「碇くん。」

アスカさんが、顔色を伺うようにこっちを見ながらぼくの名前を呼ぶ。

耳で計る体温計なんか、いや世界一高価な体温計があったとしても、ぼくはそんなの欲
しいとは思わない。

だって・・・。

ぼくが明るくアスカさんを見上げると、そこには素敵なアスカさんの安心した笑顔。

でも・・・体温計なんかと違って、とっても心配してくれるから・・・。

ぼくは、元気なところを見せつけるように、大きな声で返事をした。

「はいっ!!」

fin.
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