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うちのアスカさん、X'masプレゼントをくれます
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作者注:この小説は、"うちのアスカさん"シリーズのクリスマス特別バージョンです。
        うちのアスカさんシリーズの設定をクリスマス用にアレンジしています。
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<アスカのマンション>

今日はクリスマスイブ。冬休みなんだけど、アスカさんは午前中は仕事で学校。先生っ
て、結構大変なんだ。

宿題しなくちゃいけないよな・・・。
暇だしやろうかな。

テレビをつけてリビングのソファーに座ると、鞄から英語の宿題を取り出す。もちろん
最初にやるのは、アスカさんに教えて貰ってる英語から。

『ジングルベール♪ ジングルベール♪』

テレビもクリスマス特集ばっかりで、クリスマスソングがひっきりなしに流れている。
なんで1人で宿題してるんだろう?

『ハーバービレッジはカップルで溢れています。
  みなさんは、どんなクリスマスをお過ごしですか?』

カップルという言葉に反応して画面を見ると、男の人と女の人が幸せそうに腕を組んで
歩いている様子が映し出されていた。

ぼくもアスカさんと何処か行けたらなぁ。
2人でどっか行ってみたい。
でも・・・。

やっぱりアスカさんのことだから、クリスマスパーティーとかに誘われてるのかな?
もしかしたら、こうしてる間にも学校の先生に誘われてるかも・・・。

「はぁ〜。」

宿題が全然手につかない。こんな気持ちじゃ何も考えられないよ。宿題をやめちゃった
ぼくは、アスカさんが用意してくれたお昼ご飯を食べ始める。

どうだっ!
クリスマスイブにアスカさんの手料理だぞ。

アスカさんのファンはクラスにも多いけど、このスパゲッティーはなんだかぼくだけの
特権みたいな気がして嬉しくなってくる。

アスカさんって、何作っても美味しいよな。
ぼくと同じ歳くらいの時に、もういろんなものが作れたって言ってたっけ。
なんだか、カレー地獄が嫌で練習したとか・・・。

「ごちそうさま。美味しかったよ、アスカさんっ。」

食べ終わったお皿を流し台に運び水に浸していると、いつもアスカさんが座るダイニン
グチェアに掛かっている白いマフラーに目がとまった。

アスカさんのだ。

「・・・・・・。」

まわりをきょろきょろしてみるが、もちろん誰もいない。ぼくはついそのマフラーに手
を伸ばし首に巻いてしまった。

あったかいや。
アスカさんと一緒にいるみたいだ。

なんだか嬉しくなってくる。ふわふわしていてとても気持ちがいい。こうやってアスカ
さんとも寄り添えたらどんなにいいだろう・・・。

いけないと思いつつも、マフラーに頬擦りしてしまう。

「ただいま。ん? シンジくん、何してるの?」

「うわっ!!!!!」

いつの間に帰って来たのか、教師の時の服装にハンドバックを手に掛けたアスカさんが、
リビングに立ちぼくを見ている。

「いやっっ! こ、これはっ!!」

大慌てでマフラーを取ろうとしたんだけど、こんがらがってなかなか取れない。もうぼ
くは、顔を真っ赤にしてパニック状態。

「マフラーが汚れてないかって思って見てたらっ! そのっ! あのっ!」

やっと首から取れる。わけのわからない言い訳をして、冷や汗を流しながら元あったダ
イニングチェアに急いで掛ける。

「やっぱ、マフラー欲しいのね。シンジくん持ってないもんね。うんうん。」

「えっ、いや。その・・・そういうわけじゃ。」

「マフラー欲しいでしょ? ね。」

「えっ!! もしかして、このマフラーくれるのっ!!?」

「ばっかねぇ。女物よ? ちゃんとシンジくん用の格好いいマフラーがいいでしょ?」

「・・・はい。」

新しいのじゃなくていいから、アスカさんのマフラーが良かったな。それより・・・。
はぁ〜。めちゃくちゃ恥かしいとこ見られちゃった。上手く誤魔化せたかなぁ。

アスカさんは何も言わず優しく微笑んでくれてるけど・・・なんだか全てを見透かされ
ているようで、恥かしくて。

「クリスマスイブよね。シンジくん予定は?」

「ぼく?」

「クラスの女の子と出掛けたり?」

「そんなことないよっ! 1人ですっ!」

「そうなんだ。」

もしかして、ぼくに何処かへ行って欲しいのかな。やっぱり誰かに誘われたとか・・・。
やだよ。そんなの。

「じゃ、今日はアタシに付き合って貰おっかな。」

「アスカさんにっ? ほんとっ?」

「ひとりぼっちのクリスマスなんて寂しいじゃん。イヤ?」

「嫌じゃないよっ! ぼくも1人は寂しいって思ってたとこだったんだっ! アスカさん
  と一緒だったら、寂しくなくていいし・・・その・・・。」

「クス。」

軽く握った手を口元に当ててクスクス笑ってるよ。可愛いけど・・・なにその笑いは?

「じゃ、決まりね。」

「はいっ!」

クスクス笑うのが気になるけど。やったっ! アスカさんとクリスマスだっ!

「どうする? ケーキ作ってホームパーティーにする? 」

「アスカさんが作るの?」

「不満?」

「そんなことないですっ! でも・・・。」

ぼくの頭にはさっきのテレビのことが思い出されていた。ネオンの灯るクリスマスの街
にアスカさんと2人で出掛けられたらどんなにいいだろう。

「あの。何処かに行きたい・・・かな。」

「アタシと?」

目をくりんとして人差し指で自分を指差している。こんな仕草を見てると、まだ中学2
年でも通用しそうなくらいアスカさんは可愛い。

「他に誰もいないじゃないですか。」

「それもそうね。じゃ、他に誰もいないから、仕方なく寂しいアタシに付き合ってくれ
  てありがとっ。」

「そんなつもりじゃないよっ!」

「それはそれは嬉しいわね。着替えてこよっと。シンジくんも顔洗った方がいいわよ?」

アスカさんの言葉って、何処まで本気なんだかわからないよ。
でも顔を洗えってどういうことだろう?

洗面所に移動して、鏡の前に立って顔を見てみたら、鼻の頭にさっき食べてたスパゲッ
ティーのソースがついているじゃないか。

こんな顔してたのか・・・。
恥ずかしい。

折角アスカさんと出掛けるんだ。顔を洗って、ついでに歯も磨いておこう。口が臭かっ
たりしたら嫌だもんな。

「あっ、シンジくーん。そっちに掛かってるブラウス取ってくんない?」

「白いやつ?」

「そそ。それぇ。」

「はい。」

顔を洗ったぼくがブラウスを持って行くと、部屋から手だけ出して手招きしている。扉
の隙間から、わずかにアスカさんの白い肌とキャミソールがちらちら見え、目のやり場
に困ってしまう。

ブラウスが羨ましい。
今度生まれてくる時は、アスカさんのブラウスになろう。

服を渡して着替えに自分の部屋に入ったんだけど、まだぼくの頭の中ではアスカさんの
着替えのシーンが渦巻いていた。

何考えてんだよ。
嫌われちゃうよ。

頭をブルブル振るけど、キャミソールはおろか下着姿のアスカさんまで妄想してしまう。
今からアスカさんと出掛けるってのに、こんなんじゃ駄目だ。

頭を冷そうと、パンツ1枚のままベッドに寝転ぶ。頭を冷やして冷静になろうと心掛け
る。

はぁ〜。
アスカさんて素敵だよなぁ。

枕をバフっとだっこして、ごろごろと布団の上で転がる。きっとアスカさんは、こんな
枕よりもっと柔らかいんだろうなぁ。

ゴロゴロ。

ゴロゴロゴロゴロ。

ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ。

ガラッ。突然扉が開く。

「シンジくーーーん? いつまで部屋にいるの? そろそろ行きましょ。」

ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ。

「わっ!!!」

「きゃっ! ごめんっ!」

大慌てで扉を閉めるアスカさん。パンツ1枚で枕を抱いて転がっているところを見られ
てしまった・・・。

もう駄目だ。さっきまでの浮かれた気分は何処へやら、出掛ける前からぼくはがっくり
と落ち込んでしまった。

「さっきはごめんね。もうとっくに着替えてると思って。」

「いえ・・・。あの・・・寒かったから体操してたんです。」

「ふーん。最近、あんな体操が流行ってるのね。」

「・・・・・・。」

やっぱり言い訳に無理があった。嘘ばればれじゃないか。でも、どんなことを妄想して
たかまではばれてないよね。ね。

とにかく、白いウール地のセーターに膝丈くらいのフレアスカートを履いたアスカさん
と一緒にマンションを出くことになった。

<繁華街>

フェラーリで出掛けたぼく達は、賑やかなクリスマス一色の繁華街を歩いていた。

「思ったより寒いわね・・。アタシも、マフラーと手袋持って来たら良かった。」

息をかけて擦っている手がちょっと赤くなってて寒そうだ。手を繋いで歩きたいな・・・。

「ぼくも手が寒いです。」

はぁはぁと、アスカさんの仕草と真似をして息をかけてみる。

「でしょ? やっぱ、冬に手袋はいるわよねぇ。」

違うんだ。
きっと手を繋いだら温かいよ?

ぼくは自分の両手を組み、握手するような形を作ってアスカさんに見えるように体の前
に出してみる。

「こうしたらあったかいや。」

「ん? どれどれ?」

するとアスカさんが、ぼくの手と手の間に右手を入れてきたんだ。

「ほんと、あったかいわ。」

「でしょ? あっ、手を繋いだらあったかいかもっ。」

まるで今気付いたかのように言ってみる。神様、お願いっ!

「じゃ、今日はシンジくんにエスコートして貰おっかな。」

アスカさんがぼくの右手を握ってくれた。やったぁぁっ! 神様、ありがとうっ!!!

とても冷たい手だったけど、アスカさんと一緒に手を繋いで歩いてると嬉しくて体がほ
かほかしてくる。

「はいっ! エスコートしますっ!」

「宜しくねっ。頼りにしてるわよっ。」

「はいっ!」

にこっと微笑み掛けてくれるアスカさん。その笑顔の可愛いことと言いったら、もう女
神だって適わないよ。あぁ、なんて最高のクリスマスイブなんだ。

「シンジくんの手ってあったかいわね。」

「ぼくもあったかいや。やっぱり手を繋いでた方がいいでしょ?」

最初は冷たかったアスカさんの手も、だんだんと暖かくなって温もりが伝わってくる。
このまま一生離したくない気分。

こうやって手を繋いで歩いてたら。
恋人同士みたいに見えるかな?

でも周りのカップルを見ると、みんな腕を組んで歩いてて、女の人が甘えるように男の
人に寄り添っている。

ぼくは・・・。

アスカさんを見上げる。背伸びしてもぼくの方が背が低い。これじゃ腕を組んだらぼく
がぶら下がっちゃう。

早くアスカさんに似合うくらいの背が欲しいな。
最近伸びてきたんだけど・・・。

まだまだアスカさんの恋人には、道が遠いことを実感してしまい、ちょっとへこんでし
まった。

でもっ!

街行くどんな女の人より、アスカさんが1番素敵だ。今日ぼくは、そのアスカさんを独
り占めしてるんだと思うと、嬉しくなってくる。

「あっ! あれなにかな?」

「ん? あの人だかり?」

「そうそう。あれあれ。行っみましょ。」

手を引っぱられて店の前にゴチャっと集っている人だかりの中へ入って行くと、洋服屋
さんがクリスマスイベントをやっていた。クイズに答えて当たれば洋服の入ったお楽し
み袋が貰えるという企画らしい。

「いっしょにやろ。おもしろそうよっ。」

「ぼくも頑張るよっ。」

まずは手を上げてジャンケンからスタート。店の人と勝ち抜きジャンケンをし、最後に
残った1人がクイズに答える権利が貰えるようだ。

「きゃっ!」

アスカさんの悲鳴。凄い人だかりであちこちから押される。ぼくが押されるのはいいけ
ど、おじさんがアスカさんに障るのは我慢できない。

「ぼくの後にいて!」

「え? あっ、ありがとシンジくん。」

後ろには今のところおばちゃんばかりだけど、前にいるおじさんがアスカさんに触れる
のは嫌だ。ぼくはアスカさんを庇うように前に立ちはだかる。

「やっぱ、男の子ねぇ。」

「アスカさんはっ! ぼくがちゃんと守りますっ!」

「頼もしいわっ。クス。」

「はいっ!! 任せて下さいっ!!」

ちょっとは、見直してくれたかな。頑張ってアスカさんを守らなきゃっ。

『じゃーーーんけーーーん。』

ジャンケンが始まった。頑張らなくちゃ。

『パーーーっ!』

店の人はパーだった。ぼくは運良くチョキを出して勝ち残ったけど、アスカさんはグー
で初戦敗退。残念そうに手を下ろしてる。

「シンジくんっ! がんばってっ!!」

下ろした手でぼくの肩をゆさゆさと揺すって応援してくれる。

『じゃーーーんけーーーん。』
『じゃーーーんけーーーん。』
『じゃーーーんけーーーん。』
            :
            :

何度かジャンケンを繰り返しているうちに、なんとぼくが最後の1人になってしまった。
ぼくがクイズに挑戦するの?

「シンジくんっ!すごーーーいっ!」

「はは。勝っちゃったよ。」

店の人に呼ばれて、前へと出て行く。

『お名前は?』

「碇です。」

『今日はどなたと来られましたか?』

「えっと、あそこの。・・・。」

アスカさんがこっちを向いて笑顔で手を振ってくれた。ぼくもはにかみながら小さく手
を振る。

「素敵な彼女ですね。じゃ、クイズに答えて洋服をプレゼントしてあげて下さいね。」

彼女?
嬉しいな、そう思ってくれるなんて。
頑張らなきゃ。

三角くじのように折られ箱の中に入った紙をぼくが引く。そこにクイズが書かれている
らしく、簡単なものから難しいものまであるらしい。

「これですけど・・・。」

箱からクイズの書かれた紙を引き店の人に手渡すと、店員さんが三角におられた紙を開
き問題を確認した。

『これはラッキーですねっ。今日用意した問題の中でも、特に簡単な問題ですっ。』

「やったっ!」

ガッツポーズを取る。アスカさんに洋服をプレゼントできる。

『碇くんは、何年生ですか?』

「中2です。」

『じゃぁ、楽勝ですね。英語の問題です。1をアルファベットでは「o・n・e」。では、
  4のスペルはなんでしょう?」

4?
フォーだよな。

「エフ。オー。アール。」

『・・・・え?』

「え?」

『ざーんねん。同じフォーですからねぇ。間違えやすいですねっ。』

「え?」

『それでは、敗者復活戦に移りまーす。碇くん、ありがとうございましたぁ。』

「・・・・ち、ちがった? フォーだろ? あっ!!」

ようやく間違いに気付いたけど、時既に遅かった。アスカさんの方を見ると、やれやれ
という顔でこっちを見ている。

「碇くん。先生は悲しいわ。しくしく。」

いきなり先生口調だ。
ごめんってばっ!

「1年生の単語よ。英語の担任として、0点をあげるわ。しくしく。」

「ほ、ほんとはわかってたんだよ。答えてすぐわかったんだけど・・・。焦っちゃって。」

「じゃ、ほんとは? 当たったら許してあげるっ。」

「エフ・オー・アイ・アールでした。」

「・・・・・・。」

「え?」

「・・・・・・。」

「ん?」

「今から帰って補修よっ! お正月までみっちりっ!」

「ち、ちがった?」

「最近、成績が良かったから油断してたわ。クリスマスもお正月もなし。ずっと補修っ!」

「えーーーーっ!」

せっかくイベント盛りだくさんの冬休みなのに、それは悲しい。でも、アスカさんが教
えてくれるなら、それでもいいかな。

「ウソウソ。でも、ちゃんと1年の単語くらい覚えておいてね。」

「はーい。」

はぁ、さすがに英語でとちったのはまずかったなぁ。帰ったら、辞書で調べとこっと。

どうでもいいけどあの人込みは暑かったなぁ。厚着してたから余計だ。アスカさんは、
ハンドバックからハンカチ出して汗を拭いてる。

「シンジくんも汗いっぱいよ? 」

ぼくが額に汗を掻かいてたのに気付いたようで、アスカさんは自分の汗を拭いたハンカ
チをバックにしまうと、別のハンカチを取り出して汗を拭いてくれる。

「はい。うーんして。」

言われるがまま首を持ち上げると、トントントンと首の周りを叩くように汗を拭いてく
れた。こういう優しいアスカさんって、嬉しいな。

でも・・・こんなに体が暖かくなっちゃったら、手を繋ぐ口実がなくなっちゃったよ。

「自動販売機みっけ。ジュース買おっ。」

でもアスカさんはぼくの手をぐいと握ると、自動販売機まで小走りで走り出した。今日
はずっとこうして手を繋いでられたらいいな。

「1本もいらないのよねぇ。半分飲んでくれる?」

「は、はいっ! ぼくも半分くらいで丁度いいからっ!」

「丁度良かったわ。お茶でいい?」

「うんっ! お茶でいい。」

コインを入れてガタンという音と共に出てくるお茶の缶。それを見てると、もの凄く期
待してしまう。

「先に飲んでいいわよ。」

「いいです。いいです。ぼく後で。」

「そう? じゃ、先に飲むわよ?」

喉が乾いてたのか、コクコクと喉を鳴らしてお茶を飲むアスカさんをじっと見詰める。
そして半分程のみ終ったところで、ぼくに缶を差し出してくれたんだけど・・・。

「いけない。口紅ついちゃった。」

休みの日はお化粧をしないんだけど、今日は学校へ仕事に行ったからお化粧してて、そ
の口紅を丁寧に指で拭き取ってくれた。余計な気を使わなくて良かったのに・・・。

綺麗に飲み口を拭き取られたお茶の缶を受け取り、残りを全て飲み干す。喉が乾いてた
から、冷たいお茶は美味しいことは美味しかったんだけど・・・ちょっと残念。

その後、しばらく手を繋いで街の中を歩いたぼく達は、適当なファミリーレストランに
入った。やっぱり、今日は周りを見てもカップルが多く混雑している。

「申し訳ありません。本日は混雑しておりまして。相席になりますが宜しいでしょうか?」

「どう? シンジくんは?」

相席はあまり好きじゃなかったけど、何処の店も満員だったから仕方無いよね。

「いいけど。」

だけど、ぼくたちが案内された席にはまだ誰もおらず、ひとまずは2人だけで並んで座
ることになった。対面の席は次に来たお客さんの為にあけておくらしい。

「さぁ、何食べようかしら?」

「やっぱりハンバーグがいいなぁ。」

「そうよねぇ。うーん。チーズハンバーグもいいし、和風もいいし。迷っちゃう。」

「じゃ、ぼくが和風ハンバーグ頼もうか?」

「半分くれる?」

「それがいいよ。うん。両方食べれるもんね。」

並んで座ってハンバーグを半分づつ食べる。これは嬉しいシチュエーションかも。

ハンバーグとジュースを2つづつ注文し終わったアスカさんは、ハンドバックとは別に
もう1つ持っていた紙袋から、枕くらいの大きさのラッピングされた包みを取り出した。

「はい。クリスマスプレゼントよ。」

「えっ!!!? ぼくに?」

「とうぜんでしょ。」

「ありがとうっ!」

物凄く嬉しい。本当に嬉しいっ! アスカさんが、ぼくの為にちゃんと用意しててくれ
たんだっ!

大喜びでそれを受け取ると、なんだかふかふかして柔らかいものだった。

「開けていいですか?」

「このままじゃ荷物になるから、開けちゃって。」

「このままじゃ? 」

「いいから。いいからっ。」

「はい。」

ラッピングを丁寧に開けていくと、なんと中から出て来たのは、手編みのマフラーだ!
こ、こんな嬉しいプレゼント。アスカさんの手編みなんてっ! 嬉しいよぉ。

「これっ!」

「だから、アタシのはあげないって、言ったじゃん。」

「ありがとうっ! 嬉しいですっ!」

世界中のどんなマフラーでもこれに勝てるものなんてない。アスカさんのマフラーと同
じ白いマフラーだっ! 今度2人でマフラーして出掛けたいな。

早速首に巻いてみる。なんてあったかいんだ。

もうぼくは浮かれちゃって、マフラーを手に持って眺めたり、首に巻いてみたりおおは
しゃぎ。

「どう? 気に入ってくれた?」

「はいっ!! 一生大事にするよっ!!」

「もぉ〜。おおげさねぇ。やーね。」

そうだ。
ぼくもお猿さんのブローチ渡さなきゃ。

ジャンパーのポケットに入れてきたブローチの入った箱を取り出して、アスカさんの前
に差し出す。

「あの・・・。プレゼント買ったんだ。」

「アタシに?」

ぼくよりかなり驚いてる。どうやらぼくから貰えるなんて思ってなかったみたい。

「ありがと。開けていい?」

「うん。このままじゃ荷物になるからね。」

「もーっ! 真似しないでよっ。」

「ははは。」

ま、ブローチなんて小さいから荷物にはならないけど、やっぱりすぐに開けて見て欲し
かった。

「なにかしら?」

嬉しそうにラッピングを開けていくアスカさんを見ていたぼくの視界に、別の席に座っ
ているカップルの姿が目に入ってきた。彼女はアスカさんと同じくらいの歳で、彼氏の
方も20歳くらいだろうか。

『ありがとーーーっ。高かったんじゃない?』
『ボーナス入ったしな。大丈夫さ。』

彼氏は、宝石のついた指輪をプレゼントしていた。やっぱり大人の人とぼくとじゃ、宝
石とお猿さん程の差があるんだ・・・。

「わっ。かわいいっ。」

ぼくのプレゼントをアスカさんは喜んでくれてるけど、そりゃぁ宝石の方が嬉しいんだ
ろうな。

「大人だったら、もっとアスカさんの喜ぶのが買えたんだけど・・・。」

「ん?」

「いろんな店回ったけど・・・。」

「アタシのプレゼント探して、いろんなお店回ってくれたんでしょ?」

「ぼくに買えるので、1番いいのを探したくて。」

「それって、とっても嬉しいんじゃない?」

「ほんとに?」

「お金のことなんて言ったら、アタシなんて毛糸代だけよ? 碌なものじゃないわ。」

「そんなことないよっ! 一生懸命手編みしてくれたのが嬉しいですっ!」

「アタシだって、一生懸命探してくれたの、とっても嬉しいな。」

「アスカさん・・・。」

「とってもいいプレゼント。一生大事にしちゃうんだからっ!」

「あっ! ぼくの真似しないでよっ!」

「さっきのお返しっ。あはは。」

アスカさんはニコリと笑って、ぼくのプレゼントしたブローチを胸のところに付けてく
れた。でもいずれは指輪をプレゼントしたいな。・・・その時は受け取ってくれるかな。

プレゼント交換も終わった頃、2つのハンバーグが運ばれてきた。半分にそれを分けて、
お互いのお皿に乗せる。なんだか、ちょっとぼくの方を多くしてくれたみたいだ。

「お食事中申し訳ありません。相席になりますので。」

ウェイトレスさんが、2人のお客さんを連れてやってきた。始めから相席になると言わ
れてたから仕方ないけど、もうちょっと2人っきりでいたかったな。

ぼく達の前に座ったのもやっぱり20歳くらいのカップルで、女の人がべったり男の人
に甘えてる。

将来ぼくも、アスカさんに甘えて貰えるような男になりたいなぁ。

寄り添ってくるアスカさん。その肩を優しく包むように抱いてあげるぼくの将来を想像
すると、なんだかニヤケ顔になってしまう。

「ねぇ。このじゃがいも美味しいわよ? 食べてみる?」

「あっ、うんっ!!」

お箸にじゃがいもを摘んでアスカさんが差し出してくれた。そりゃぁ、もう食べるしか
ない。ぼくは、あーんて口を開けたんだけど。

コロリ。

じゃがいもは、ぼくのお皿に置かれる。1人口を大きく開けてるぼく・・・。

「え?」

アスカさんが不思議そうに、ぱっくり口を開けたままでいるぼくを見ている。

は、はずかしぃーーっ! 

「ゲホゲホ。喉に何か詰まったみたい。」

「大丈夫? 水、飲む?」

「う、うん。」

慌ててコップいっぱいの水を飲み干し、必死で誤魔化す。食べさせてくれるのかと思っ
たのに・・・恥かしいくて穴があったら入りたい気分だよ。

ん?
なんだっ!?

さっきのはなかったことにして、ジャガイモに手を伸ばしたんだけど、なんだか前に座
ってる男の人が、ちらちらとアスカさんの胸元ばかりに視線を送っているのに気付いた。

見ないでよっ!
彼女がいるんだろっ!

1度気になりだしたぼくは、注意深く男の人の視線を探る。やっぱり、アスカさんのこ
とばっかり見てる。だんだん腹がたってきた。

「早く食べちゃおうよ。」

「そんなにせかさないで。」

「でも・・・。ねぇ。お願いだよ。」

なにか理由を考えて早くご飯を終わらせちゃって、すぐにでもここから出たい。この男
の人の視線が、なんだか凄くいやらしく思える。

『今夜ハーバービレッジは、カップルの為に遅くまで営業するそうです。』

今朝のテレビで言っていたことが思い浮かんだ。そうだ。早くこんな店出て海に行こう。

「せっかくのクリスマスだし、海に行ってみたいな。」

「海? へぇ、ロマンチックなことシンジくんでも言うのね。」

「でしょっ? だから、早く食べようよ。」

『シンジくんでも』・・・は余計だよ。
まぁいいや。アスカさんも少し食べるスピードを上げてくれたし。
ぼくも早く食べちゃお。

それから10分程でハンバーグを食べ終わったぼく達は、いそいそとレストランを出て
行った。アスカさんをあんな目で見るなんて許せないよっ。

<フェラーリ>

駐車場に駐車してるアスカさんの真っ赤なテスタロッサにやってきた。こんな所まで今
日はカップルがいっぱい。車から出て行く人や、乗り込む男の人と女の人。でも、みん
な運転席には男の人が乗っている。ぼくは・・・。

早く車の免許とりたいな。
18か・・・。まだまだだよなぁ。

ぼくに運転できるのは自転車だけ・・・。中学生の彼女だったら自転車の後でもいいん
だろうけど、やっぱりアスカさんは世界が違うよなぁ。

バッグからキーを取り出し運転席にアスカさんが向う。ぼくはいつものように助手席に
行こうとしたんだけど、ふと別の車で男の人が助手席に向かっているのを見つけた。

あの人も助手席に乗るのかな?
でも、女の人も。

女の人も一緒に助手席に向かってる。荷物でも置くのかと思ったら、なんと男の人がド
アを開けてあげているではないか。

か、かっこいい・・・。
よしっ! ぼくもっ。

もうアスカさんがドアにキーを差し込んでたから、ぼくは大慌てで運転席に回ってドア
のノブをむんずと掴んだ。

「ぼくが開けてあげるよ。」

「ん? あららっ? じゃ、ありがとね。」

「どうぞ。」

ちょっと満足しながらドアを開けてあげたまでは良かったんだけど・・・。

ゴチ。

開けた扉の端が、駐車場の柱に当たって嫌な音をたてた。

「あっ!」

真っ青になるぼく。

「ご、ごめんなさいっ!!」

運転的に乗のろうとしていたアスカさんは、泣きそうになるぼくにニコリと微笑みなが
らまた立ち上がると、当たったところをちらりとだけ見る。

「大丈夫。大丈夫。どってことないじゃん。アタシもよく当てんのよねぇ。」

「ほんと、ごめんなさい。」

「せっかくのクリスマスにそんな顔してたら勿体ないわよ。さ、乗って。」

「はい・・・。」

こうやって優しくされると余計にへこんでしまう。ぼくは、かなり落ち込んで助手席に
おとなしく座った。所詮、ぼくってこの程度なんだ・・・。

車が走り出す。ぼくは免許もないし運転したこともないけど、そんなぼくにもわかるく
らいアスカさんは運転が上手い。『アイツに負けたくないから練習したの』らしいけど、
アイツって誰だろう?

♪♪♪

アスカさんがオーディオを操作すると、White Christmasが流れ出した。学校の女の子
達が騒いでるアイドルの曲と違って、やっぱり格好いいよな。

ピピピピピ。

運転しながら、手探りでカーナビの画面を出し、ハーバービレッジを目的地にセット。

ルートが映し出されたのを、チラリを確認しクイクイとギアを変えてスピードを上げる。

それと同時にぼくは背中にGがかかるのを感じた。

なんて格好いいんだ。
早くぼくもこんな風に運転して、横にアスカさんを乗せてみたいよ。

<ハーバービレッジ>

そうこうしているうちにハーバービレッジに到着。やっぱり今日は人が多いらしくて、
舗装されていないジャリの第3駐車場まで回される。

昨日雪が降ったから、あちこちに水溜りができてて、アスカさんは車が汚れるのを嫌そ
うに、ゆっくりゆっくりジャリ道を進む。

アスカさん、車大事にしてるもんなぁ。
さっきは、ごめんなさい。

「さっ、着いた。行きましょ。」

「うん。あっ、ちょっと待って。ここなら柱無いしっ。」

貰ったばかりのマフラーを巻いて大急ぎで飛び出す。今度こそ扉を開けてあげるんだ。

ジャラッ。

「わっ!!!」

ズッテーーン。

急ぎ過ぎた。水溜りがちょっと凍ってて足をとられたぼくは、思いっきり転んでしまっ
た。マフラーが汚れなかったのは助かったけど、尻餅をついてズボンが濡れちゃったよ。

「大丈夫っ!?」

結局アスカさんは自分で扉を開けて、心配そうに駆け寄ってきちゃった。あぁ、なんで
ぼくはこう・・・やることなすこと駄目なんだろう。

「痛くない?」

「うん・・・。」

「ズボン汚れちゃったわね。ちょっと待って。」

ぼくを立ち上がらせると、アスカさんはハンドバックからハンカチを取り出し、腰を屈
めて濡れたお尻を丁寧に拭いてくれる。情けなくて・・・格好悪くて・・・。

「うん。汚れも遠目じゃわかんないわ。」

綺麗なハンカチがドロドロだ。転んだ痛みより、あんまりにも格好悪い自分にしょげか
えってしまう。

「さっ、いこいこ。早く海が見たいじゃない?」

「うん・・・。」

手を引いて優しい言葉を掛けてくれるけど、きっと頼りない子供だと思ってるんだろう
な。

周りを見るとカップルがいっぱい。中には1つのマフラーを2人で一緒に首に巻いてい
る人達もいる。

ぼくもアスカさんとしてみたいけど・・・頭1つ小さいぼくとアスカさんが、このマフ
ラーを一緒に巻いてもサマにならないだろうな。

「わぁ、綺麗ねぇ。ネオンが海に映ってるっ。」

「クリスマスイブってこんなに綺麗だから、みんな恋人と出掛けたがるのかな?」

「それもあるかもしれないけど。やっぱり、特別な夜だからじゃない?」

特別な夜か・・・。
でも、ぼくはいつもと同じでダメダメだ。
情けないよ。

綺麗な夜のハーバービレッジをアスカさんと手を繋いで歩く。するとサンタクロースの
格好をしたおじさんが、大きなポラロイドカメラを持って近付いて来た。

「どうです? 記念に写真でも?」

「写真かぁ。いいわね。いくら?」

「1000円だけど、お嬢さん可愛いから800円にまけとくよ? どうだい?」

「お上手言ったら買うと思ってんでしょ。まぁいいわ。シンジくん。撮って貰おっ!」

今日はダメダメなぼくだったけど、思いがけずクリスマスイブにアスカさんと一緒に写
真を撮って貰えることになって、ちょっと嬉しくなる。

「船を後にしたらいいんじゃないかい? ばっちり船をバックに撮ってあげるよ。」

「そうね。シンジくん。こっちこっち。」

おじさんの言うように電飾された船をバックに、アスカさんと並んで立つ。ぼく達の少
し前で、おじさんは何歩か下がってスタンドにカメラを立てて準備している。

「さぁ、取るよっ! いいかい?」

「いいわよっ!」

その時だった、真っ直ぐ突っ立ってたぼくの腕にやわらかいものが絡んできた。少し腰
を屈めたアスカさんが、腕を組んでぴったりとくっついてきたんだ。

わわわわっ!

アスカさんの胸や、やわらかい体が、絡められた手に感じちゃって、もうぼくは思いっ
きり緊張しちゃう。

そ、そんなっ・・・。
どうしようどうしよう。

「はい、チーズ。」

チーズの声がかかった途端、アスカさんはほっぺをぼくのほっぺにくっつけて片手でピ
ース。ぼくは嬉しいを通り越して、カチコチに緊張して固まっちゃった。

ア、ア、アスカさんのほっぺたがくっついてるよ。

「おっ! どうだ? 一発でいい写真が撮れたんじゃないか? 気に行ったら買ってやっ
  てくれないか?」

おじさんがパタパタ振りながら持って来た写真には、ニコっと楽しそうな笑みを浮べて
ピースしているアスカさんと、目を剥いてガチガチに棒立ちしているぼくが映っていた。

「兄チャン表情が硬いねぇ。彼女を見習いなよ。」

「はぁ。」

だって、急にあんなにくっつかれたら、心臓が飛び出そうだったんだよ。ほら、今でも
ドキドキ言ってる。

「あははは、シンジくん。カチコチだ。」

「笑わないでよ・・。」

「だって、この顔・・・あははは。」

「酷いよ。それ、ぼくが預かるっ!」

そう言いながら、隙をついてアスカさんの手から写真を奪って逃げ出す。

「あっ。ズルイわよっ。」

「いいの。ぼくが封印するのっ。」

でも・・・。

この写真ってなんか良くない? 今のぼく達の関係を上手く表してるっていうかさ。
ぼくはこの写真がすごく好きになった。

そして・・・いずれ。

アスカさんが腰を屈まなくてもいいようになったら。
ぼくがもっと余裕の笑顔で写真を撮って貰えるようになったら。

その時は、またここで写真を撮りたいな。

「もーー! 独り占めはズルイわよっ。」

「だめっ! これはぼくが封印するのっ!」

写真を取り上げようと笑いながら追い掛けてくるアスカさん。ぼくはクリスマス一色の
ハーバービレッジを逃げる。マフラーを靡かせながら、アスカさんがちゃんと付いてき
てくれてるか確認したりして、振り返り振り返りの追いかけっこ。

もし、ぼくの夢が叶うことがあったら。
もし、将来そうなれたら。

きっとこの写真はぼくの宝物になるだろう。
そうなれるようにがんばろう。

その時だった。

「つっかまーえたっ!」

ドキン!

ぼくの心臓が跳ねた。

いったい何が起こったんだろう?

なにがなんだか、ぼくにはわからない。

ただ、わかっているのは、アスカさんが背中からぼくを抱きしめてくれていることだけ。

「写真返して貰うんだからっ!」

手を伸ばしてくるアスカさん。

でもぼくは、ぼくの大切な宝物をジャンパーのポケットに隠す。

「ずるいなぁ。シンジくんは。」

ぼくを抱きしめたまま、ほっぺたをぷ〜っと膨らますアスカさん。

抱きしめられたままのぼく。

どうして抱きしめられてるの?

なにが起こったの?

ドキドキドキ。

ぼくの心臓は高鳴り・・・。

とても暖かくて。

とてもいい香りがして。

アスカさんの胸の音まで聞こえる。

どうして。

どうして、こんなことになってるんだろう?

不思議な気持ち。

夢の中にいるような気持ち。

どうして、こんなことが・・・。

アスカさんが・・・。


アスカさんは、空を見上げる。

ぼくも、アスカさんに抱きつかれたまま空を見上げる。

「綺麗な空ね。」

「ほんとだ。」


そうか・・・。

ぼくは思った。


この不思議な夜の出来事。

夢のような出来事も・・・。


そうだったんだ。

今夜は・・・。

今夜はクリスマスイブ。

奇蹟の夜だったんだ。


聖夜に煌く星に囲まれながら、ぼくはアスカさんの温もりの中で14歳のクリスマスを
迎えた。

ぼくはまだ14歳だけど・・・いつかはこの言葉を。その時は奇跡に頼らずに・・・。




                            メリークリスマスっ!

                          ぼくの大好きなアスカさん!




fin.
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