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バレンタインデーの翌日
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作者注:この小説は、"ホワイトチョコレート"の続編です。そちらからお読み下さい。
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アスカが机の引き出しを開ける。そこには、青い包装紙と青いリボンでラッピングされ
た、包みが入っている。

「行くわよ! アスカ!」

アスカは、それを持って部屋から出る。

「シンジ。」

「え?」

シンジが振り替える。

「一つ余ったから、あげるわ。」

「ぼくに!? あ、ありがとう。」

「どうせ誰にも、もらえないんでしょ。義理だからね! 義理!」

「うん。」

「じゃ、おやすみ。」

急いで部屋に戻るアスカ。

ドキドキドキドキ ドキドキドキドキ。心臓が爆発寸前である。

は、恥ずかしかったぁ・・・。

顔は真っ赤になっている。

でも、アイツ鈍感だからなぁ。
っま、いいわ。渡せただけでも、今回は満足しましょ。

布団に潜り込むが、興奮してなかなか寝れない。

もう、食べてくれたかなぁ?
おいしかったかなぁ?
ラッピングの意味わかってくれたかなぁ?

                        :
                        :
                        :

「アスカ! アスカ!」

「ん?」

「いつまで寝てるんだよ! 遅刻しちゃうよ!」

「えー? 今、何時?」

「もう、7時50分だよ!」

「な、なんですってぇ! なんで、もっと早く起こしに来ないのよ!」

結局アスカは、新聞が配達される時間まで眠れなかったのだ。

「起こしてるのに、返事だけして起きてこなかったのはアスカじゃないか。 とにかく
  玄関で待ってるから、急いで来てよ。」

「わかってるわよ。」

もぅ! シャンプーもできないじゃない!

2人は、走って学校まで行く。

<学校>

あー、朝から、汗でべとべとじゃない。

下駄箱で靴を履き替える、アスカとシンジ。

「な、なんだこれ?」

シンジが、下駄箱を覗き込んでいる。

「どうしたのよ。急がないと遅刻しちゃうわよ。」

「い、いや、なんでもない。」

シンジはそう言いつつ、アスカに見えないように、なにやらゴソゴソと鞄に仕舞い込ん
でいる。

「何してるのよ。」

「わぁ!」

アスカが覗き込むと、シンジは、鞄の蓋を無理矢理しめようとするが、隠し切れない。
そこには、大量のラッピングされた包みが入っていた。

な、なによ! そんなもん大事にしまいこんじゃってさ!

「ふーん。あんた意外ともてたんだ。ほー。」

「違うよ! こんなの初めてだよ! バレンタインチョコは、アスカに貰ったのが初めて
  だよ!」

「何、むきになってんのよ。誰もそんなこと聞いてないでしょ。っさ、行くわよ。」

そっか、アタシが初めてだったんだ・・・。

階段を駆け上がるアスカとシンジ。チャイムが鳴る寸前で教室に飛び込む。

「おぉ! ようやくお出ましかいな。やっぱりせんせはちゃうなぁ。」

教室に入ると、トウジが声をかけてきた。

「何が?」

「あれや、あれ、さすがっちゅうか、ワイもあやかりたいわ。」

トウジの視線の先には、チョコレートが山積みになっているシンジの机があった。

「うわー!」

シンジは、あわてて、チョコレートを隠しに行く。

なーにが『うわー!』よ。喜んじゃってさ! フン!

「よぉ、碇すごいなぁ。」

「そ、そんなこと無いよ。」

「やっぱ、碇は違うなぁ。エヴァのパイロットだもんなぁ。」

「いや、その・・・。」

シンジの周りに男子がむらがり、やっかみ半分で話し掛けている。

あー、もうイライラするわね。シンジもシンジよ! いちいち答えなくたっていいじゃ
ない!

「もうチャイムが鳴っているのよ! 静かにして下さい!」

ヒカリがアスカを思いやり、シンジの周りに集まっていた男子を席に付かせた。

キーンコーンカーンコーン。

2時間目の休み時間。3バカトリオが廊下で話をしている。その様子をアスカが何気な
く見ていると、下級生と思われる女の子が、シンジの側へ走り寄ってきた。

な! なんなのよ! あの女は!

その下級生は、なにやら話をしながら、奇麗にラッピングされた包みをシンジに手渡そ
うとしていた。

ま、まさか、受け取るんじゃないでしょうね!!

しかし、シンジは顔を赤くしながら、その包みを受け取っていた。

なんで、受け取んのよ!!

「ア、アスカ? アスカ?」

ヒカリが話し掛けてくる。

「何よ!」

「あ、あのさ、碇くんってさ、人の頼みとか断れないタイプだから、ね。」

「なんで、シンジの話が出るのよ! シンジが誰からチョコレートを貰おうと関係ない
  わ!」

誰もチョコレートのことなど言ってないのに、自分で言うアスカ。

「そ、そうだけどさ、あまり気にしない方が、いいんじゃないかなって。」

ヒカリが必死でフォローしようとする。

「アタシが何を気にしてるっていうのよ!」

シンジが、アスカの視線からチョコレートを隠すように、前を通り過ぎていく。

見てたわよ! おどおどしちゃってさ! フン!

キーンコーンカーンコーン。

昼休み、シンジが弁当をアスカに手渡す。

「本当に、こんなにチョコ貰ったことないんだ。」

ムカムカムカムカムカ。何が言いたいのよ!

「きっと、エヴァのパイロットになったから、興味半分で・・・。」

「ウルサイ! ウルサイ!」

シンジの言い訳じみた言葉を遮るアスカ。奪い取るように、シンジから弁当を取る。

「ヒカリ、食べよ。」

シンジは、とぼとぼと、トウジとケンスケの元に帰っていった。

「ねぇ、アスカ、大丈夫だって。」

「なにがよ。」

「碇くんもてるから、女の子が勝手にチョコ持って来てるだけよ。」

じゃーなんで、受け取るのよ! シンジのバカ! バカ! バカ!

「碇くんやさしいから、断れないのよ。」

そういう問題じゃないでしょ! バカ! バカ! バカ! シンジのバカ!

「アタシにはシンジがもてようと、もてまいと関係ないでしょ!」

「アスカぁぁ〜。」

そんな時、廊下からシンジを呼ぶ声がした。

「おーい、碇ぃ、またお客さんだぞー。もてる男はつらいよなぁー。」

な、なんですって! 今度受け取ったら承知しないからね!!!

アスカは、じーーーっとシンジを睨み付けて、目で追っている。
ヒカリは恐くて、話し掛けることすらできない。

アスカは、廊下の近くで弁当を食べていたので、会話の内容が聞こえてくる。

『あの、先輩、これ受け取ってもらえませんか?』

受け取るんじゃないわよ!!!

『ありがとう。』

ピシッ。

アスカの頭の中で、何かが切れる音がする。アスカの形相にヒカリは、弁当すら食べれ
ない。

『あの、今食べて下さい。お願いします。』

な、何ふざけたこと言ってるのよ! この女は!!!

『え? どうして?』

『まだ、学校に来てからチョコ食べてませんよね。』

『うん。』

『わたしのを最初に食べてほしいんです。』

ずうずうしいにも程があるわ!!!

アスカが、席を立とうとする。

『ごめん、食べれないよ。』

しかし、シンジの言葉に、再び座るアスカ。会話に耳を傾ける。

『どうしてですか!? わたしのチョコ食べてくれないんですか?』

あったりまえでしょうが!!!

『そんなことは・・・ないよ。』

なんですってぇ!!!

『ただ、今は食べれない。』

『学校だからですか? じゃぁ、家に帰ったら一番に食べてくれますか?』

『ごめん、それもできないんだ。』

女の子が、泣き出す。

『うっ、どうしてですか? わたしのチョコじゃ駄目なんですか? うっうっ。』

『ごめん。』

シ、シンジ・・・。

女の子は、泣きながら走って自分の教室へと帰って行った。

キーンコーンカーンコーン。

昼休み終了のチャイムが鳴る。

「ん? もう終わり? お弁当残しちゃった。あれ? ヒカリまで、 どうして弁当残って
  るの?」

「・・・・・・。」

<通学路>

シンジは、大量のチョコレートを紙袋に入れて、下校していた。

なによ! 大事そうに持って! フン!

「アンタが、そんなにもてるとは知らなかったわ。アタシがチョコなんてあげる必要な
  んて、無かったわね。」

アスカがいやみったらしく言う。

「そ、そんなこと無いよ。」

「ところで、どうして、昼休みに来た女の子のチョコ、食べてあげなかったの?」

「アスカのチョコ、まだ食べてないから・・・。」

「別にいいじゃない。どっちから食べたって。」

アタシのチョコから食べないと、許さないわよ!!!

「アスカが初めてだったんだ、チョコくれたの。」

「もう、それは聞いたわよ。そんなにうれしかったの?」

うれしかったの?

「そりゃ、アスカがぼくの為に一生懸命作ってくれたんだから、うれしくないわけない
  じゃないか。」

「義理よ、義理。べつに一生懸命作ってないわ。」

「だって、他のチョコは、みんな四角いのに、ぼくのチョコだけがハート型のホワイトチョコだろ。」

ちょ、ちょっと!! な、な、なんで、知ってるのよ!!!!

「うれしくって、食べずにしまっておいたんだ。」

シンジに気づかれてた。気づかれてた。気づかれてた。気づかれてた。

アスカは、顔がトマトより真っ赤になってしまう。

「なんで、知ってるのよ!?」

それを言うだけで、精いっぱいだった。

「夜中、トイレに行った時、見ちゃったんだ。」

あ! そういえば、朝タオルケットがかかってた・・・。

恥ずかしいよぉ。恥ずかしいよぉ。恥ずかしいよぉ。恥ずかしいよぉ。

アスカは、顔を上げることができない。足は震えて、歩くことがやっとだった。

のろのろと歩く2人が、ようやくミサトのマンションまで、たどり着く。

「ホワイトデーは奮発するのよ!」

なんとか、アスカの強気を喉の奥から絞り出す。

「ホワイトデーは、アスカにだけお返しするつもりだから。」

え!!!!!?

また、真っ赤になって、下を向くことしかできなくなるアスカ。

うれしいよぉ。うれしいよぉ。うれしいよぉ。うれしいよぉ。

<ミサトのマンション>

アスカは、自分の部屋で鏡を見ていた。

あーだめ、自然に顔がにやけるわ。

ベッドに寝転び、枕に顔をうずめるが、それでも顔はにやけたままである。

うれしいよぉ。うれしいよぉ。

枕に顔を埋め込んだまま、布団をぱふぱふ叩いてみる。

「ぷはぁ。」

顔を枕から離し、再び鏡を見る。やはりにやけている。

帰ってから、何度も鏡とベッドの間を往復している。

「アスカぁ。ご飯だけど。」

「はーい。」

とびっきり、ご機嫌の返事をしてみる。

パンパンと顔を叩いて顔を引き締め、部屋を出ると、既にシンジは食卓に座っていた。

「あ、今日は、お好み焼きなのね。」

アスカも椅子に腰掛ける。

「チョコ、おいしかったよ。」

食べてくれたんだ! おいしかった? 本当?

「ホ、ホワイトデー、忘れないでよ・・・。」

強気のセリフを口にはするものの、顔は既に崩れまくっていた。

「たっだいまー。」

ミサトが帰宅する。

「「おかえりなさーい。」」

アスカとシンジが出迎える。

「あら、あんた達、今日はご機嫌ねぇ。それより、シンちゃん、はい、バレンタインデ
  ーチョコ。手作りよん。」

「ゲッ。」

「あっらーー。今日はもてもてねぇ、これで何十個目かしら?」

「え、そんなにシンちゃん貰ってるの?」

「そりゃーもう。っさ、シンジ。アタシのチョコは、もう食べたんだし、順番から行け
  ば、次はミサトのチョコよねぇ。」

「え・・・。と、ところで、か、加持さんは、チョコ食べたんですか?」

「あー、なんか家でゆっくり食べたいって言ってたわ。」

「捨てたな。」「捨てたわね。」

同時にボソっと呟く2人。

「何? なんか言った?」

「いえ。何も。じゃ、ぼくも部屋でゆっくり・・・。」

「別に、ここでもゆっくり食べれるわよ。」

「アスカぁ・・・。」

それ以来、シンジはしばらくチョコが食べれなくなった。学校でもらった大量のチョコ
は、シンジが食べれないなら仕方が無いということで、アスカがネルフの職員に配った
という。

fin.
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