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遊園地での初デート
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<ミサトのマンション>

シンジは、アスカに土下座していた。

「お願いだ! アスカ! この通り!!」

頭を床にこすり付けて、頼み込むシンジ。

「はぁ・・・。どうしてそんなこと言ったのよ!」

「他に思い付かなかったんだ。咄嗟に・・・つい・・・。ごめん。」

両手を合わして、謝る。

「はぁっ。」

「しょうがないわね!」

「お願いっ!」

必死で頼み込む。

「わかったわよ、その代りこの貸しは高くつくわよ!」

「あ、ありがとう!!」

ようやくシンジは、顔を上げた。

シンジが何をお願いしていたのか。半日ばかり時間はさかのぼる。

                        ●

<学校>

シンジは、1人で何気なく廊下を歩いていた。

「碇くん。」

自分を呼び止める声に振り向く。

「はい。」

そこには、一人の女の子が立っていた。

「あの、わたしと付き合って下さい。」

「え?」

「彼氏になってほしいんですけど。」

その女の子は、全くシンジの好みのタイプでは無かった。

・・・・ど、どうしよう・・・困ったなぁ。

「いや・・・まだ、そういう気無いから・・・。」

とにかく穏便に断ってみる。

「かまいません。付き合っているうちに、だんだん仲を深めていけばいいですから。」

・・・・・・・。

「いや、あの・・・付き合うつもり無いから・・・。」

「お願いします! 碇くんが付き合いたいと思うようになるまで、がんばりますから!」

かなり押しが強い。

どうしよう・・・どうしよう・・・どうしよう・・・。
逃げなきゃダメだ! 逃げなきゃダメだ! 逃げなきゃダメだ! 逃げなきゃダメだ! 

「あの、ぼく、他に好きな人がいるんだ・・・。だから、悪いんだけど、付き合えない
  よ・・・。」

「誰なんです? 両想いなんですか? 片思いなら諦めません!」

誰? 誰っていわれても・・・。

「アスカ・・・なんだけど・・・。」

「えーーーーーーーーーーーーーー!! だって、惣流さんとは仕事の関係で同居して
  るだけだって、聞いてますよ!!!」

確かにそうなんだけど・・・。

「実は、付き合ってるんだ。」

「えーーーーーーーーーーー!!!! わ、わかりました。その代り、明日デートして
  いるところを見せて下さい。本当なら諦めます。」

えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!
どうしよう・・・どうしよう・・・どうしよう・・・どうしよう・・・。

「第3新東京遊園地にいますから、そこでデートして下さい!」

「わ、わかった・・・よ・・・。」

                        ●

<ミサトのマンション>

ようやく、アスカの了解が得られ、一安心のシンジ。

「明日は、恥ずかしくない格好で、遊園地で待ってなさいよ!」

「へ? なんで、遊園地で待つの?」

「デートなんだから、待ち合わせするのが当然じゃない! 嫌なら、この話し降りるわ!」

「あ、嫌じゃないよ。うん。わかった。」

「ちゃんと、服も一番いいやつ選んどいてね!」

「うん。今から選ぶよ。」

シンジは、服を選びに自分の部屋へ戻った。アスカの機嫌を損ねては一大事なので、そ
の後、何時間もかけて服を選ぶことになる。

<遊園地>

アスカ、遅いなぁ。

遊園地の前で、1時間近くも待つシンジ。少し早めに来たせいもあるが、約束の時間よ
り30分も遅れている。

まさか、嫌になったんじゃ・・・。

不安が募る。さっきから、時計と周囲を何度も見ている。

「シンジーーーーー!!! ちょっと、遅れちゃったーーー!」

「ちょっとどころじゃ・・・。」

声がしたので、文句をいいながら振り向いた所には、見違えんばかりのアスカが立って
いた。

「ア、ア・・・アスカ?」

「は?」

「アスカだよね?」

「アンタバカぁ? 決まってるでしょ! 何わけのわかんないこと言ってるのよ!」

「いや・・・その、なんか、奇麗だから・・・。人違いかと・・・。」

「ちょっと、お化粧してみたのよ! バカなこと言ってないで、さっさと入るわよ!」

アスカは、赤くなった顔を見られ無い様に、先頭を切って遊園地に入る。

「待ってよ!」

シンジも後を付いて行った。

「初めてくるわ、ここ。」

「ぼくも、来たこと無いよ!」

「当たり前でしょ!」

「どーしてさ。」

「1人で来る気?」

「そんなわけないだろ。」

「じゃ、誰と来るのよ!」

・・・・・・・・・・・・・・。そういうことか・・・。

今日は、さほど混雑していなかった。人気のある乗り物でも、10分〜15分待てば乗
れるくらいの混み具合だ。

「せっかく来たんだから、楽しむわよ!」

「そうだね。どれに乗ろうか?」

園内の地図を見ながら、歩き出すシンジ。横にアスカがくっついている。

「昨日、アンタに声かけた物好きな娘って、誰なの?」

「え? うーん、知らないなぁ。」

「アンタ名前も聞いてないの?」

「うん。」

「普通、付き合ってって言う時には、自分の名前を覚えて欲しいから、最初に名乗るわ
  よ!?」

「じゃー忘れちゃったのかなぁ・・・ハハハ。」

「その娘、今日、どこかでアタシ達のこと見てるのよね。」

「うん。そうだと思うけど・・・。」

「じゃ、じゃぁさぁ、恋人らしくしないといけないのよね。」

「うん。そうだね。」

アスカは、シンジの腕に自分の腕を絡めた。

「ア・・・・アスカ!?」

「演技よ! 演技! ちゃんとアンタに貸しを作っておかないと、返して貰えなくなるか
  らね!」

しっかりと腕を組み、そっぽを向くアスカ。

「え・・・でも・・・。」

「いいの? その娘に疑われても。」

「いや・・・その・・・。」

その後、しばらく、2人は顔は真っ赤にして、うつむいて歩くことしかできなかった。
遊園地の中央に来ると、急降下がいくつもある釣り下げタイプのジェットコースターが
目に入る。

「あ、あれ乗ろうか?」

なんだか、気まずい雰囲気の中、うつむいていたアスカだったが、シンジの言葉に即反
応する。

「うん! いいわよ!!」

2人は腕を組んだまま、ジェットコースターの乗り場に駆け上がった。

待つこと10分。シンジとアスカの順番が回ってくる。

「なんだか、緊張するなぁ。」

シートに座り、落着かないシンジ。

「エヴァに比べたら楽勝よ!」

シンジの横に座り、余裕のアスカ。

「そういう問題じゃ無いだろ。」

「そういう問題よ!」

ジリリリリリリリリリリリリリ。
ゴトンゴトン。

動き出すと同時に、口を閉じる2人。

ゴーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

大々的にコマーシャルをしているだけのことはあって、かなりの迫力だ。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

アスカの悲鳴が聞こえたので、振り向くと目を閉じて叫んでいるアスカの顔が見えた。
ふと、手に違和感を感じ、自分の手を見ると、アスカが必至でシンジの手を握り締めて
いる。

こうして見ると、アスカもかわいいな・・・。

ゴトゴトゴトゴト。

発着地点に戻ってくる。ふらふらと立ち上がるアスカの足元は、おぼつかない。

「大丈夫?」

肩を支えてやるシンジ。

「大したこと・・・なか・・・った・・・わね・・・。」

顔を真っ青にしながらも、見栄を張るアスカに、意地悪を言ってみたくなった。

「手が痛いよ。」

「どうしたの?」

「だって、アスカったら、ジェットコースターに乗ってる間、ずっとぼくの手を握って
  るんだもん。」

「そ、そんなことしてないわよ!!!! どっかに当てたんじゃないの!?」

真っ赤になったアスカは、プイっと横を向き、歩いて行ってしまった。

「ごめん! アスカ!」

ちょっとまずいことを言ったかと、後悔しながらアスカを追い掛ける。

「もぅ、まだ、ふらふらするんだから、ちゃんと支えててよね!」

「うん。」

シンジがアスカの肩に手を回して支えると、アスカが寄り掛かかってくる。どこからど
う見ても、肩を抱いてるようにしか見えない。

「アスカ、もう大丈夫?」

「まだ、ふらふらする・・・。」

もう、ジェットコースターを降りて、30分近く経っている。

「そうだ、メリーゴランドに乗ろうか? あれなら、座ってるだけだし。」

「うん。」

メリーゴーランドはすいているので、待たずに乗れる。

馬にまたがるシンジ。ふと見ると、下で手を出しているアスカが見える。

「何してるの?」

「手!」

「は?」

「手! 引っ張ってよ!」

「えーー? 一緒に乗るの!?」

「昨日の娘が見ているかもしれないわよ!」

シンジは、手を握りアスカの引っ張り上げ、自分前に座らせる。

リリリリリリリリリリ。

女の子と2人で1つの馬に乗っている人など誰もいない。シンジは恥ずかしそうに下を
向いているが、アスカは上機嫌だ。

数周して、メリーゴーランドが止まる。

「手!」

降りる時も、手を差し出す。シンジが手を引くと、アスカはシンジの胸に飛び込んできた。

「わ!」

アスカが抱き付いてきたので、数歩後ろに下がる。

「しっかり受け止めなさいよ! 情けないわねぇ!」

「ごめん。」

シンジは、アスカを降ろして歩き出そうとするが、アスカがシンジの手を離さない。

「どうしたの?」

「メリーゴーランドで回りすぎて、ふらふらする・・・。」

「えー!! そんなばかな・・・。」

「早く、支えてよ!」

「・・・・・わかったよ。」

再び、肩を抱く形で、遊園地の中を巡回する2人。

「そろそろ、昼ご飯にしようか。」

「確か、ハンバーガーショップがあったわね。そこ行きましょ。」

ハンバーガーショップは、低価格なので人気があるらしく、客の数も多かった。

「シンジ! あそこ空いてるわよ!」

「じゃ、ここに座ろうか。」

「ちょっと、場所取っててね。買ってくるわ。アンタ何でもいいわよね!」

「うん。まかせるよ。」

なんだか、楽しいな。こんなに楽しいの、初めてだ・・・。

しばらくして、トレイを持った、アスカが戻ってくる。

「ん? ぼくのジュースは?」

ジュースが1つしか見当たらない。

「これよ!」

アスカは、大き目のジュースをポンと2人の真ん中に置き、ストローを刺す。

「ゲッ!」

そのストローは、ジュースに差し込むところは1本で、ぐねぐねと曲がっており、飲む
ところが2つに分かれていた。

「さ、飲みなさいよ!」

ストローの片方に口をつけるアスカ。ジュースがアスカの口に入る。シンジは、周りの
目を気にしながら、もう片方に口をつけ飲んだ。

「わっ!」

2人が同時にジュースを飲むと、ジュースの通ったストローのラインがハートの形にな
るのだ。あまりの恥ずかしさに、口を離してしまうシンジ。

「どうしたの? さっさと飲みなさいよ!」

「うん。先に、ハンバーガ食べようかな? あれ? ぼくのハンバーガーは?」

「これよ!」

アスカは、大き目のハンバーガーをポンと2人の真ん中に置き、紙包みを剥がす。

「はい。」

アスカが、ハンバーガーをシンジの口元に運ぶ。

「ありがとう。」

しかし、受け取ろうとするシンジの手は、アスカに払いのけられてしまう。

「これをよく読みなさいよね!」

ハンバーガーの紙包みには、片方から男性が食べ、逆から女性が食べるようにと書いて
あった。

「ゲッ!」

ハンバーガーの片方に口をつけるアスカ。ハンバーガーがアスカの口に入る。シンジは、
周りの目を気にしながら、もう片方に口をつけ食べだした。

                        :
                        :
                        :

「ふぅ、お腹いっぱい。」

満足そうだ。

「そろそろ出ようよ。」

周りの視線が気になるシンジは、早く外に出たくてアスカの手を引く。

「食べ過ぎてて、ふらふらする・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

またもや肩を抱く形で、ハンバーガーショップを後にした。

その後2人は、いくつかの乗り物に乗ったり、パントマイムなどのショーを見て楽しん
だ。楽しい時間が過ぎるのは早いもので、既に夕方。

「そろそろ、帰ろうか?」

朝から、ずっと肩を抱いていたアスカに話し掛ける。

「結局、どこで見ていたのかしら? 昨日の娘。」

「さぁ。」

遊園地を出る2人。

「今日は、ありがとう。無理言ってごめん。」

アスカにお礼をするシンジ。

「いいって、いいって。それより、この貸しをちゃんと返して貰うからね!」

「うん。わかってる。で、何をすればいいの?」

「次の休みに、アタシをどこかに遊びに連れて行くこと!」

「え!?」

「そのかわり、そのお礼に再来週の休みは、アタシがアンタを遊びに連れて行ってあげ
  るわ!」

ぽてっとシンジにもたれ掛る。

「アスカ・・・。」

「ほら、ふらふらするんだから、ちゃんと支えなさいよ。」

「うん。」

シンジは、アスカの肩を抱く形で、アスカと寄り添い家路についた。

                        ●

シンジ達の立ち去った後、昨日シンジに声を掛けた女の子が遊園地から出てきた。
顔を覆っていた、覆面をバリバリと剥がす女の子。

「終了しました。」

髪の長い女性に話し掛けている。

「よくやったわ。これが約束の物よ。」

髪の長い女性は、にんにくラーメンの食券を365枚を渡した。

「ありがとうございます。」

「さって、今日から楽しくなりそうね。」

髪の長い女性は、車に乗り込むと、爆音と共に走り去る。

残された女の子は、食券1枚1枚に”チャーシュー抜き”と書き込んでいた。

fin.
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