------------------------------------------------------------------------------
3バカトリオ
------------------------------------------------------------------------------

<学校>

何処にでも学校のアイドルというものは存在するが、この学校のアイドル達はそんじょ
そこらのアイドルとはレベルが違う。

天才、活発、明朗でいて、エヴァンゲリオン弐号機の美少女パイロット。

                        惣流・アスカ・ラングレー。

清楚、可憐、神秘的でいて、エヴァンゲリオン零号機の美少女パイロット。

                        綾波レイ。

真面目、思いやりがあり、家庭的でいて、エヴァンゲリオン初号機の美少女パイロット。

                        洞木ヒカリ。

それはもう、美少女にプラスして、天才だの可憐だの家庭的だの付いているだけで物凄
いと言うのに、極めつけにエヴァンゲリオンのパイロットとくれば、注目の的になるの
も仕方がない。

さて、何処にでも学校のバカというものは存在するが、ここの学校のバカ達はそんじょ
そこらのバカとはレベルが違う。

いつもおどおどしている少年。碇シンジ。

頭の中まで筋肉のジャージ男。鈴原トウジ。

覗き魔でいてミリタリーオタク。相田ケンスケ。

彼らのことを、学校では3バカトリオと皆は呼び合っていた。

「ねぇねぇ、アスカ。聞いたわよ? シャムシエルだっけ? あっさり倒したんだってぇ?」
「あーぁ。私達もシェルターに避難なんてしてないで、アスカ達の活躍見たかったなぁ。」
「何言ってるのよ。わたし達なんかがいたら、邪魔になるだけよ。」

昨日来襲したシャムシエルを、アスカ,レイ,ヒカリの連携プレイで見事に撃退した翌
日。話題はそのことで持ち切り。

「ヒカリのATフィールドが遅れた時は、ちょっと焦ったけどねぇ。」

「ATフィールド。もう少し安定してくれればいいんだけど・・・。展開するタイミン
  グがずれたりするのよ。」

「そう・・・。私もある。どうしてかしら・・・。」

そこへレイが近付いて来る。ATフィールド。絶対不可侵の領域を作る壁。だが、まだ
まだ思った時に展開ができなかったり、勝手に展開してしまったりする。

「まぁいいじゃん。いっつも楽勝なんだから。」

「そうね・・・。」

そもそも、エヴァ自体がアスカ達の思った様に、手足のごとく動いてくれないこともあ
るのだが、それが原因で今迄特に問題になったこともないので、あまり気にしていない。

「へんっ! なにが、ATフィールドや。どたんばたん、重い尻で暴れとるだけやんけ。」

皆の注目が集まるアイドル3人組とは掛け離れた所から、そんな声が聞こえて来た。ク
ラスメートの視線がそちらへ向く。

足を机の上に放り出して座るトウジ、窓際でぼーっと立ち風に当たるシンジ、PCを常
にいじっているケンスケ。3バカトリオだ。

「すーずーはーらー。重いとは何よ。重いとはぁぁぁっ!」

「東京市の真ん中で、どたん、ばたん、煩いちゅーんや。ちょっと、場所を離れて戦う
  とかせーや。」

「トウジ・・・また喧嘩になるよ? 止めときなよ・・・。」

「そうだぜ。どうせ、お前が負けるんだからさ。」

「うっさいわいっ!」

親友2人に背中から切られ、やってられないといったところであろうか。振り向き様に
悪態をつく。

「アスカを怒らせたら怖いんだからさ、鬼みたいになる前に、もうやめと・・・。」

「シーンージー。」

今の言葉が耳に入ってしまった様だ。ジト目のアスカがノシノシと近付いて来る。まと
もにその目を見て、真っ青になる。

「は、はいぃぃっ!」

「アタシが幼馴染ってのを誇りに思うべきところを、鬼がなんだってぇぇっ!?」

「あ・・・いや・・・そ、そういう意味じゃ・・・。」

「じゃぅ! どういう意味だってのよっ! 誰が鬼かって聞いてるのよっ!」

誰が何処からどう見ても、今のあなたが鬼に見えるとしか言えない状況だが、それを言
ってしまっては間違いなく命は無い。

「そ、そうじゃなくてさ・・・ア、アスカ達って強いからさ、き、きっと、使徒はアス
  カ達のことを、鬼の様に怖がってんじゃないかなぁなんて・・・ははは。」

相当苦しいが、なんとかこの状況から逃れられそうな、へ理屈をこねて言い訳を試みて
みる。

「ま、そういうことなら、いいわ。」

「はぁ・・・。」

「アンタも、ぼけぼけ〜っとして、あんまりアタシに恥かかせないでよねぇ。仮にも幼
  馴染なんだからぁ。」

「ごめん・・・。」

ひとまず決着がつき、逃れられた様だ。

「すーずーはーらー。何が重いってぇぇ?」

いや・・・決着はまだのところがあった。こちらはまだ納まっておらず、耳をむぎゅー
っと引っぱって、ヒカリが大声を上げている。

「かんにんや。かんにんや、委員長。」

先程迄一番偉そうなことを言っていたトウジだったが、こうなってしまっては後は平謝
りして終わるのがいつものパターン。

「だから、やめとけって言ったのに・・・。」

ケンスケは触らぬ神に祟り無しと、CG加工ソフトで密かに、アスカ,ヒカリ,レイの
隠し撮りした写真を加工して楽しんでいた。

<通学路>

学校も終わり皆が帰宅して行く。アスカ,レイ,ヒカリは、この後ネルフへ向かう為、
一緒に帰ることが多い。そんな学校のアイドルを見た生徒達は、笑顔で手を振る。

「惣流さーん。頑張って来てねぇっ!」
「応援してるぞーっ!」
「今日もお疲れ様ぁ。」

男子も女子も、手を振りながらネルフへ向かう3人を見送る。アスカ達は、そんないつ
もの下校の風景の中、ネルフへと向かって行く。

「こらーーーっ! お前達何してんだーーーっ!」

「「「逃げろーーーっ!!!」」」

アスカ達が学校から出たすぐ後、職員室の近くから先生の怒鳴る声。チルドレンを見送
っていた生徒達が振り返ると、一目散に逃げて来ている3バカトリオの姿。

「だから、ぼくは早く止め様って言ったんだよっ!」

「よー言うわっ! シンジが1番ノリ気やったやないかっ!」

「ぼくは、アスカのだけで良かったんだよっ! なのに、ケンスケが欲出すからぁっ。」

「全校女子の身体測定のカルテが目の前にあるのに、途中で止めれるわけないだろっ!」

女子の身体測定の情報を盗んでいる所を見付かった様である。周りの生徒達は、アイド
ル3人を見送った後にバカ3人が出て来たので、そのギャップにげっそりしていた。

<シンジの部屋>

「くぉらーーーっ! シンジーーーーっ!」

その日の夜、ネルフから帰って来たアスカが乗り込んで来た。それ迄ヘッドホンステレ
オを平和に聞いていたシンジは、何事が起こったのかと目をぱちくりさせる。

「身体測定のカルテ、見たんですってーーーっ!」

「ゲッ! あ、いや、その・・・。」

「聞いたわよーーーっ!!!」

「うっ!」

「この変態っ! スケベっ! 信じらんないっ!」

「ご、ごめん。じゃ、じゃぁ、かわりにぼくのを見せて上げるから、あの・・・。」

「アンタのなんか、見てどうすんのよっ!」

「い、いや・・・その・・・楽しいかなって・・・。」

「アンタバカーーーっ!!!?」

ノシノシと部屋の中に踏み入り、迫ってくるアスカ。シンジは椅子から転げ落ち、尻餅
を付いたままジリジリと後退る。

「乙女の秘密を見た始末っ! どうすんのよっ! 人に見せてないでしょうねっ!」

「ぼ、ぼくしか見てないよ・・・。ごめん・・・。」

「ごめんじゃなくて、どうなのよっ!」

「どうって・・・胸が大きかった。」

ドゲシッ!

「どうするつもりかって聞いてんのよっ!」

「いたた・・・ど、どうするって・・もう見ちゃったものは・・・。」

「しゃーないわねぇ。じゃっ! 今度の日曜、あそこのフランスのケーキ屋で、お腹一
  杯迄ケーキおごんのよっ!」

「ゲッ! あ、あそこのケーキ。めちゃくちゃ高いじゃないかぁぁぁっ!」

「乙女の秘密を見といて、なんか文句あるわけぇぇぇっ!?」

「い、いえ・・・。」

今月の小遣いを貰ったら、新しく買おうとしていた新製品のヘッドホンステレオが、羽
を生やしてパタパタと飛んで行った。

アスカの出て行った後の部屋の中で、しくしくと泣きながら、どうして見てしまったの
かと、興味を抑えられなかった自分を悔いるシンジ思春期真っ盛り。

<第3新東京市郊外>

日曜日になった。

が、状況はケーキどころではなくなっていた。空中要塞、ラミエル来襲である。市民が
シェルターへ避難する。アスカ,レイ,ヒカリは、ネルフへと向かって行く。

そんな中、兵装ビルに3つの影。

「なんか、今度のは強そうだね。」

「まぁ、やるしかないがな。」

「俺はネルフ近くで待機してるよ。携帯繋いでおくから、何かあったら頼むぜ。」

「おうっ! 頑張れよっ! 」

シンジとトウジはケンスケを見送ると、2人して兵装ビルに儲けられた階段を上り始め
る。

「そろそろ出て来るんじゃないかな?」

「ケンスケの奴、上手いことしてくれたらええんやけどなぁ。」

「大丈夫だよ。ケンスケなら。」

目の前にラミエルが迫って来る。そのブルークリスタルの立方体直下からドリルの様な
物が地中にめり込んでいる。

「ジオフロントへ、直接攻撃するつもりかな。」

「まぁ、その前にエヴァが出て来よるやろ。」

兵装ビルの屋上に、足を組んで座っていたトウジが、ここから一望できる第3新東京市
に目を向けていると、噂をすればなんとやらで赤いエヴァが出動して来た。

「ま、まずいっ!」

シンジが叫ぶ。

「どないしたんや。」

ラミエルに、加粒子砲の光。シンジは次の瞬間、兵装ビルを飛び降りていた。

「間に合ってくれっ!」

シンジの周りに真っ赤な光が展開される。ATフィールド。

ビシューーッ!

ATフィールドを身に纏い重力を遮ると、兵装ビルからエヴァ弐号機へ向かい全速飛行。
トウジも状況がわかり、ケンスケに電話で呼び掛ける。

「ケンスケ、やばいっ! 弐号機戻せっ!」

『わかってるっ!』

出て来た弐号機に緊急シンクロを開始するケンスケ。だが、ケンスケがシンクロできる
のはエヴァのみ。エヴァを引き戻す機械まで操れるわけではない。

『駄目だっ! 壁が邪魔で逃げれないっ!』

「シンジっ! 間に合ってくれやっ!」

ズバーーーーーーーーンっ!!!

発射される加粒子砲。

「うぉぉぉーーーーーっ!!!!」

ぎりぎりで間に合い弐号機の前で、ATフィールドを全開にするシンジ。
しかし、エネルギー全てを食い止めることができず一部が弐号機に直撃する。

『キャーーーーーーーっ!』

悲鳴を上げるアスカ。時を同じくして、ヒカリのエヴァも射出されてくる。

「やばいがなっ!」

トウジもATフィールドを展開しつつ、ビルを飛び降りながら携帯を耳に当て、ケンス
ケに呼び掛ける。

「委員長のエヴァも、はよ戻さんかっ!」

『どうしろってんだよっ! リフトまで動かせないだろっ!』

状況がようやく発令所でも理解できた様で、弐号機と初号機が引き戻されて行く。

「ふぅ・・・一先ず助かったで・・・。」

『トウジっ! シンジがっ!』

「どないしたんやっ!?」

『シンジがやられたっ!』

「なんやてっ!!!」

トウジとケンスケが近付くと、自分を守る力を全て弐号機を防御するATフィールドに
回してしまい、傷付いたシンジが鼻から血を流して倒れていた。

「とにかく病院へ運ぶんやっ!」

「おうっ!」

そう、彼らこそが今まで使徒を倒してきた3人。チルドレン達がシンクロしていると、
ネルフの皆は思いこんでいるのだが、実はただ座っているだけ。

相田ケンスケ。エヴァのA10神経をリモート操作できる人にあらざる力を有する者。

アスカ達から受け取る命令をA10神経を通して理解し、エヴァ3体を実際に動かして
いるのはケンスケ。ただし、機械類は操れない為チルドレン未搭乗のエヴァは操れない。

シンジ,トウジ。ATフィールドを展開できる人にあらざる力を有する者。

エヴァにはATフィールドを展開する力は無い。2人がエヴァの周りを走り回り、AT
フィールドを展開している。

アスカ達が、まれにエヴァが思う様に動かなかったり、ATフィールドのタイミングが
ズレルことがあると感じているのは、このことが原因だった。

人にあらざる力・・・。それを持つ少年達がいることは、トップシークレット。
そのことを知る者は、世界でこの少年達を除きわずか3人しか存在しない。

<ネルフ本部>

慌しく今後の作戦行動が検討されるネルフの中で、ここ司令室には3人の首脳が集まっ
ていた。

ネルフ本部司令。碇ゲンドウ。

ネルフ本部技術部本部長。別名、陰の司令。碇ユイ。

ネルフ本部作戦部本部長。惣流キョウコ。

「シンジが怪我をしたわ。」

心配そうに、モニタに映る意識の無いシンジを見るユイ。

「問題無い。それよりアスカ君は大丈夫か?」

シンジのことなど見もせず、エヴァから下ろされるアスカを気遣うゲンドウ。親の間で
は本人達の意思を無視し、未来の嫁と決定されている為、つい心配になるのだろう。

「意識は無いですけど、体に異常は無いです。少ししたら気付くと思います。シンジ君
  のお陰ですね。」

「そうか。ならいい。」

シンジ達の秘密を知っている3人は、しばらく今後の状況を見守ることにするのだった。

<ネルフの暴騰>

それからしばらくして、なにやらゴトゴトという物音にアスカは意識を回復した。視線
を音のする方へ向けると、レイが食事とプラグスーツを運んで来ている。

「気が付いたのね。」

「ん? ア、アタシ・・・。」

「本日、午前0時を持って、新しい作戦が始まるらしいわ。」

「そう・・・。」

「それから、碇君だけど・・・シェルターに逃げ遅れて怪我・・・。」

「えっ!? シンジがっっ!???」

「えぇ。洞木さんが、鈴原君に電話したら、『病院に来てる』って言ってたらしいわ。」

「あのバカっ! なんで逃げ遅れんのよっ!」

「また、エヴァが戦ってる所。見ようとしてたんじゃない?」

「ったくっ! 一般市民は、大人しくシェルターに入ってなさいってのよっ! ねぇっ!
  服持って来てくんない?」

「持って来たわ。」

レイはロッカーから持ってきたアスカの服を、ぽんとベッドの上に置く。

「サンキュ。夜迄には戻るってミサトに言っといて。」

「わかったわ。」

アスカはレイが持って来た食事には目もくれず、朝着て来た黄色いワンピ−スに着替え
ると、シンジが行ったという病院へ走った。

<シンジの家>

病院へ行った時には既にシンジはおらず、家に帰った後だった。その足で自分の家の隣
にある碇家へと来る。

「アンタねぇ、なんで一般市民が外でうろちょろしてんのよっ!」

「ごめん・・・ついエヴァが見たくて・・・。」

「そんなの見なくてもいいわよっ! このアタシがちゃんと敵を倒すから、アンタはシ
  ェルターへ避難してればいいのっ! まだ使徒はやられてないんだからねっ!」

「わかってるよ。後でトウジ達とシェルターへ行くよ。」

「ったく。アンタが考えてる程、実際の戦いは甘くないのっ! わかったぁ?」

「うん・・・。」

「もう。心配掛けさせないでよねっ! こっちは、チルドレンやってるだけでも大変な
  んだから。」

「ごめん・・・。」

アスカはブツブツ文句を言いながら、シンジの額に走って来て汗ばんだ手を当てる。

「熱は出てない様ね。」

続いて体のあちこちをくまなく調べるアスカ。シンジ、少し恥ずかしい。

「怪我もないみたいだし。まぁいいわ。っとに、心配させてぇ。」

「ごめん・・・。」

「じゃ、アタシはネルフへ戻るから、ちゃんとシェルターへ行くのよっ!?」

「うん。」

「はぁ、人類を守るチルドレンってのも楽じゃないわぁ。じゃ、行ってくるわねっ。」

「気つけてね。」

「それはこっちのセリフよっ! ちゃんとシェルター行くのよっ!」

「うん。」

「夜になったら、また作戦があるからそれ迄に、絶対行くことっ! いいわねっ!」

「わかったよ。」

アスカは何度も念を押してネルフへと戻って行く。後に残されたシンジは、ほっと溜息
を漏らした。

良かった・・・。
アスカ、怪我してないみたいだ。

元気なアスカの姿を見て、一安心したシンジは、机の上に置いてあった携帯電話を取り
電話を掛ける。

「ケンスケ?」

『おうっ! 頭痛は納まったか?』

「うん。ぼくらは、回復が早いからね。」

『午前0時。作戦開始だってさ。』

「聞いてる。夜の11時に、二子山で・・・。トウジにも言っといて。」

『おうっ! じゃ、そん時またな。』

「うん。」

シンジは電話を切ると、まだ完全に調子の良くない体をベッドに横たえ休めるのだった。

<二子山>

夜、11時に集合したシンジ達は、二子山の仮設基地付近の特に背の高い木の枝まで飛
び上がり、エヴァと使徒の様子を眺める。

「ケンスケ。スナイパーポジトロンライフル。チャンスは1度らしいよ。」

「聞いたよ。」

「いざって時はぼくとトウジで、なんとか持ちこたえるけど・・・。あの加粒子砲・・・。
  耐えられるかどうかわかんない。」

「ケンスケはほないなこと気にせんと、エヴァを操ることに集中せいや。」

「あぁ。そうだな。」

日本中の電気が二子山に集まってくる。エヴァ3体がいよいよ攻撃態勢に入った。

「行こうか。」

「よっしゃ。」

「あぁ。」

エヴァは、弐号機と初号機が防御担当で盾を持ち前面に配備。それに合わせシンジが弐
号機の左前の藪に潜み、トウジが初号機の右前の藪に潜む。

零号機は、後方からスナイパーポジトロンライフルを構える。ケンスケは、零号機のや
や後ろに待機し、攻撃担当の零号機をメインに3体のエヴァを操る。

作戦スタート。

ポジトロンライフルにエネルギー充填開始。

エヴァの目を通じて焦点を定めるケンスケ。

発射っ!

レイ、ポジトロンライフル発射。合わせて、ケンスケが零号機にトリガーを引かせる。

その瞬間。

ラミエルにエネルギー反応。

加粒子砲発射。

ドーーーーーーーーーーーーン!!

「しまったっ!!!」

ケンスケは、身を乗り出して大きく外れたポジトロンライフルの弾道を見る。

綾波っ!
早くっ!
再充填急いでくれっ!!!

エヴァは操作できるが、エントリープラグ内の細かい計器まで操作できないケンスケは、
汗を滲ませレイが再充填するのを待つ。

それと同時に、シンジとトウジは動いた。

「あかん、2射目が来よるっ!」

飛び出すトウジ。

「まったらんかいっ!!!!」

初号機の前面の藪の中へ駆け出し、持てる限りの力でATフィールドを展開。ヒカリを
守る。

「アスカっ!!!」

同じ時、シンジも弐号機の前に飛び出していた。

「ATフィールド全開っ!!!」

ラミエルに、2射目の加粒子砲の光が輝く。
ATフィールドをも貫く、強力な加粒子砲。

「うぉぉぉぉぉーーーーーっ!!!!」

全身全霊を傾け、アスカを守る為にATフィールドを展開するシンジ。

ズドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!

ケンスケの2射目、間に合わず。ラミエルの加粒子砲炸裂。

「ぐわーーーーーーっ!!!!」

悲鳴を上げるシンジ。砲撃角度の関係で、初号機へのエネルギーは少ない。トウジのA
Tフィールドでも十分耐えれる。だが逆に照射面積が広く、70%以上のエネルギーを
まともに受けることになったシンジへの衝撃は、並大抵ではなかった。

<弐号機エントリープラグ>

自分が前面に展開しているATフィールドを張っていると思っているアスカは、レイに
通信回線を開いた。

「アタシが持ちこたえてる間に、急いで次やっちゃって。」

『わかってるわ。ちょっと待って。』

「早くしてよねぇ〜。ATフィールド張ってるってのも大変なんだから〜。」

『ええ。もうちょっと。後7秒よ。』

「そっ。楽勝じゃん。」

後7秒で決着が付く。今回も大した敵ではなく、勝利を確信したアスカの表情に笑みが
浮かんだ。

<零号機の後方>

「シッ! シンジーーーーーーっ!!!!!!!!」

ケンスケは、顔面蒼白にして焦っていた。あのエネルギーをまともに食らったら、後7
秒を持ち応えるなど至難の技だ。

早くっ!
早くしてくれーーーーーーーーーーーーーっ!!!

後5秒。その充填時間が、永遠と思えるほど長く感じられる。そんな中でも、ケンスケ
は充填完了後0.1秒でも早く狙撃できる様に、全神経を集中させる。

<初号機右前>

「シンジっ! なんで、もっとでかならんのやっ!!!!」

トウジへのエネルギーは30%未満に削減されている為、十分耐えることができた。し
かし、初号機を守っている以上、位置を移動することができない為、援護に行けない。
できることはATフィールドを拡大し、少しでもエネルギーを自分が受け止めること。

「シンジがっ!!!!! シンジがっ!!!! くそたれがぁーーーっ!!!!!」

トウジは、左横で70%以上のエネルギー照射をまともに受けているシンジに向かって、
精一杯ATフィールドの面積をシンジ方面に広げながら絶叫した。

<弐号機左前>

シンジは苦しみもがいていた。70%に削減されている為、際どい所で耐えることがで
きたとはいえ、限界を超えた力である。

「ぐわぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!」

奥歯を噛み締める力により、歯茎から血が噴き出し歯と歯の間もわからない程、真っ赤
な血を口から噴出しながら最後の力を振り絞り耐える。

「ぐはぁっ!!!!」

今にも倒れそうだが、ここで自分が倒れると後ろにいるアスカはおろか、その背後控え
るレイ,ケンスケそして仮説基地のネルフスタッフまで一瞬にして蒸発する。

ズバッ! ズバッ! ズバッ!

耐えきれなくなり、破片となって飛んでくるATフィールドの破片が、シンジの体中を
切り裂く。既にシンジの体は真っ赤で、袖などからドロッと血が落ちている。

「ぐわぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!」

体中、血の色に染めながら耐え続けるシンジ。既に目も見えず、体を痙攣させながらも
ATフィールドだけに全ての力を使う。その時。

ズバーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン。

ケンスケが第2射目を発射。

火柱を上げるラミエル。

使徒殲滅。

バタン!

それと同時に、シンジは自らが作り上げた血の池に倒れた。

「シンジっ! シンジーーーーーーっ!!!!」

絶叫して走るケンスケ。

「うらっ! 木が邪魔じゃっ! 死んどったら、許さんでーっ! シンジーーーーーーっ!」

トウジも、周りに覆い茂る木をなぎ倒しながら疾走していた。

<零号機エントリープラグ>

「あら? 私、もう撃ったの?」

まだトリガーを引いた覚えが無いレイは、目の前で火を吹いて落ちて行くラミエルを唖
然と見詰める。

『レイっ! やったじゃんっ!』

「え、えぇ。そうね???」

『アスカ、綾波さん。もうくたくた。汗掻いちゃったし、帰ってシャワー浴びましょ。』

『やっぱ、アタシ達にかかれば使徒なんて楽勝じゃんっ! アハハハハハ。』

今回も楽勝であったアスカ達は、皆嬉しそうにエヴァを仮説基地まで引き上げさせるの
だった。

<二子山麓>

次にシンジが目覚めた時、街の明かりが眼下に見えた。体が揺れている。おぶってくれ
ているトウジの黒いジャージが、赤く染まっていた。

「アスカはっ!?」

「おう、ようやく気付いたんか。大丈夫や。みんな無事やで。」

「そう・・・。良かった。」

ほっと安堵の溜息を零す。

「よく頑張ったな。シンジ。」

ケンスケが後ろで歩きながら、声を掛けて来る。

「うん・・・。あ、歩くよ。」

「大丈夫かいな?」

「うん。おんぶはかっこ悪いや。」

「ま、そやな。」

そう言って降りたシンジだったが、全身がまだ痛い為、トウジとケンスケに肩を貸して
貰う形で歩き始める。

ゴーーーーー。

そんな山道の中を、ネルフのトラックが通り過ぎて行く。シンジ達は、慌ててその身を
隠す。

『まっかせなさいっ! アタシのATフィールドにかかれば、こんなもんよっ!』
『私の狙撃が上手かったからよ。』

そのトラックから、アスカとレイの声が聞こえてきた。戦勝を皆で祝っている様である。

「みんな無事だったんだ。」

嬉しそうな顔で、木の影に身を隠しながらトラックを見送るシンジ。

「みんな無事や。それがいっちゃんやな。」

「さぁ、早く帰らないと、明日の学校が辛いぞ。」

「そうだね。」
「はぁ、学校かいなぁ。」

「仕方ないじゃないか。俺達はシェルターでのんびり避難してたんだからな。休むわけ
  にはいかないさ。」

「ほやなぁ。はぁ・・・。」

ネルフの面々が皆トラックで引き返した後の道を、てくてくと我が家へ向かって帰って
行く3人。彼らは知られてはならない存在・・・。

<ネルフ本部>

司令室では、今回の戦闘結果を分析していた。

「今回は、シンジ君が頑張ってくれましたわ。」

キョウコがシンジを絶賛する。

「うむ。」

「先程ヘリを向かわせました。宜しいですわね。」

極秘とは言え、あの状態のまま二子山を歩いて帰らせることは、さすがにユイにはでき
なかった様で、山中で迷子になった少年達がいると理由を付けてヘリを飛ばしていた。

「あぁ、問題無い。今日はもういい。帰って、手当をしてやれ。」

「ええ。そうさせて貰いますわ。」

ユイは後の処理を親友であるキョウコに任せ、急ぎシンジが帰る我が家へと向かうのだ
った。

<学校>

翌日学校では、昨日のヤシマ作戦の話で持ち切りだった。

「凄いわねぇ。全国の電気で攻撃したんですってぇ?」

「えぇ。私が狙撃したの。」

「あっらぁ、アタシが防御したからできたのよ。」

クラスメート達を前に胸を張るアスカとレイ。その間に、ヒカリが入ってくる。

「まぁまぁ、みんなで協力したってことで。」

丁度そこへ、保健室で包帯を取り替えたシンジが教室へ入って来た。

「あら? 碇くんどうしたの?」

クラスの女の子が、シンジの包帯だらけの姿を見て驚き声を上げるが、アスカは呆れた
顔で言葉を繋げる。

「あのバカ。シェルターへ逃げる時、階段で転んだんだって。」

「あはははは、さすが3バカトリオだぁぁぁ。」
「あはははははははは。」

近くにいたクラスの女の子が大笑いする。

「うっせーなーっ! 今寝とんや。昨日、委員長達がやかましゅーしよったさかい寝不
  足なんやっ! よーそれで、女やっとるもんやわ。」

寝不足で机にうっぷしていたトウジが悪態を付く。しかし、名指しで悪口を言われたヒ
カリが、ムッとして近付いて来た。

「すーずーはーらー。わたし達は、一生懸命みんなを守ったのよっ! なんて言い方す
  るのよっ!」

「ほ、ほやかて、煩いもんは・・・。」

「すーずーはーらー・・・。」

「はひぃぃ・・・。」

トウジの座る席の後ろにやってきたシンジは、壁に凭れ掛かっている。そこへ、アスカ
が近付いて来る。

「アンタも、階段で転んだだけで、よくここまで怪我したわねぇ。」

「うん。まわりにガラスが落ちてて。」

「ガラスが落ちてたのぉ? ったくっ! どんくさいわねぇ。大怪我したらどうすんのよっ!」

「だって・・・、しょうがなかったんだ。」

「しょうがないも何もないでしょうが。気をつければいいことでしょっ! ただでさえ、
  アタシはチルドレンで忙しいんだから、これ以上心配事増さないでって昨日言ったと
  こでしょうがっ!」

「ごめん・・・・。」

「いつも、ボケボケっとしてるから、こんなことになんのよぉ。ちょっと見せてみなさ
  いよっ!」

巻かれている包帯を少し持ち上げ、心配そうにシンジの怪我の具合を見るアスカ。

「ん?」

「どうしたの?」

「ん〜・・・???」

その時アスカは、なんとなく疑問に思った。いくらガラスとはいえ、こんなにもスッパ
リと切った様な傷になるのかと。鋭利な刃物を直角に当て真っ直ぐ引いた様な綺麗な一
直線の傷が無数にできている。そう、まるでATフィールドで、使徒を切った時の様な。

「まぁいいわ。ちゃんと消毒するのよ。」

しかし、ガラスで切ったと言っているのだからそうなのだろうと、あまり気にせず女子
達の中へ戻って行く。

「ねぇねぇ、アスカぁ。今度エヴァの前で写した写真頂戴よ。」

「えぇ、いいわよ。」

「じゃ、委員長と、綾波さんと3人で並んで。ね。親戚に小学校の子がいるんだけどさ
  ぁ、エヴァが好きでね。どうしてもって言うのよ。」

「はいはい。わかったから。」

あいかわらずアイドル3人は人気者。そんなクラスの端で、3バカトリオは白い雲が少
し浮かぶ青空を眺める。

「平和だねぇ。」

ケンスケがぼそりとつぶやいた。

「ほやな。それがいっちゃんや。」

クラスの真ん中で自分の悪口を友達に言いつつ、楽しそうに話をするヒカリを見ながら、
トウジが相槌を打つ。

キャーキャーキャー。

背後から聞こえるアスカの楽しそうに騒ぐ声。

そうさ・・・。

そんな様子を眺めながていたシンジも、青空に視線を移した。

みんなが元気に笑いあえる。
それが一番さ。
だから、ぼく達は・・・。

ワイワイ、ガヤガヤ、賑やかで平凡な学園生活がなにより平和なんだということを知っ
ている3人。

何処にでも学校のバカというものは存在するが、ここの学校のバカ達はそんじょそこら
のバカとはレベルが違う。

3バカトリオここにあり。

fin.
作者"ターム"へのメール/小説の感想はこちら。
tarm@mail1.big.or.jp
inserted by FC2 system