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悪役人生
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<天国>

最後の戦いで死んでしまったシンジとアスカそしてレイは、天上界に召され神様の裁き
を受けていた。

「人間界はどうじゃった? 3人とも。」

今は、次の人生を決める裁判の真っ只中。とはいっても、3人は天国へ召された為各人
の希望は出来る限り反映される。

「なによっ! あの人生はっ! 最低だったわっ!」

神様を前に、アスカはおかんむりでプリプリしている。エヴァシリーズに徹底的にやら
れたのが自分の最後なのだから、文句の一つも言いたくなるだろう。

「うーーん、気に入らなかった様じゃのぉ。残りの2人はどうじゃ?」

「私、ほとんどセリフが無かったわ。」

「ぼくも、できることなら、もう一度やり直したいです。」

「皆不満が残っておるのか?」

口々に3人が不満を言い出したので、神様もほとほと困り果てる。せっかく主役たる人
生を与えたのに、文句を言われてはどうしたらいいものだろうか。

「あったりまえでしょうがっ! シンジの言う様に、やり直させなさいよねっ! 悪役で
  もいいから、もう一度やりたいわっ!」

「悪役でもいいのじゃな?」

「いいに決まってるでしょっ! 今度は、徹底的にアタシをいじめた奴らをとっちめて
  やるんだからっ!」

「アスカ・・・。いくらなんでも悪役は・・・。ぼくは主役だったのに。」

「碇君・・・主役にしては情けなかったわ。」

「う・・・。」

「よろしい。ではもう一度チャンスを与える。悪役として、頑張ってみると良い。」

「そうこなくっちゃっ!」

神様の言葉に乗り気のアスカ。あまりアスカに逆らえないシンジと、何を考えているか
わからないレイは、その場の状況に流されていった。

<ミッドウェー島>

シンジとアスカそしてレイは、ミッドウェー島の使徒製造基地で倒れていた。

「はっ! ここは?」

シンジが目を覚ますと、その両脇で倒れているアスカとレイが見える。

「アスカっ! 綾波起きてよっ!」

「ん? ここは?」

「おはよう。碇くん。」

「見てみなよっ! アスカがあんなこと言うから。本当に悪役になっちゃったじゃない
  かっ!」

「え? そうなの? ここは?」

「使徒製造工場だよ。」

「あっ! 本当だ。よーーしっ! 使徒に乗ってガンガン暴れまくるわよっ!」

3人の目の前には出来たばかりのサキエルが、出撃を待って立っている。アスカはそれ
を指差して、輝ける悪役人生を夢見ている様だ。

「使徒って乗れるの?」

レイの質問ももっともである。前世で見た使徒は、人が乗る仕掛けになどなっていなか
ったのだから。

「そんなの、改造しちゃいましょうよ。直接乗り込まないと、面白くないじゃない。」

「そう・・・。」

「でも、僕たちが敵になったってことは、エヴァには誰が乗るんだろう?」

「そんなのどうでもいいじゃん! とにかくっ! 前世でアタシ達を酷い目に合わせたネ
  ルフやゼーレの連中を見返してやるのよっ!」

それぞれ思うところはいろいろあるが、前世で酷い目に合ったという思いは共通してい
る。3人は早速サキエルの改造に着手した。

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サキエルの改造はすぐに終了し、3人乗り用のエントリープラグが開発される。

「さぁっ! いよいよ出陣よっ! 第3新東京市に乗り込むわっ!」

「うーーーん。」

意気込みたっぷりのアスカに比べて、いつまで経っても乗り気になれないシンジ。

「どうしたのよっ!」

「なんかさぁ。こういうパターンってさぁ・・・。」

「なによっ!」

「昔、アニメでいろいろ見たけど、必ず悪役が最後にやられるんだよなぁ。」

「私、みじめなのは嫌。」

いざ出撃を前にして、アスカにぶーぶー文句を言い始めるシンジとレイ。

「今更何言ってるのよっ! もうアタシ達の新しい人生は始まってるんだから、やるっ
  きゃないのよっ!」

「そうだけど・・・。」

「キャラクターのイメージを、壊したくないわ。」

どうもこのままいけば、せっかく築き上げた綾波レイのイメージが壊れそうな気がして
ならない。

「うっさいわねぇっ! リーダーの言うことが聞けないってのっ!?」

「いつから、リーダーになったんだよっ!」

「最初っからよっ!」

「私はアスカがリーダーでいいわ。」

「ほらっ! レイだって、賛成してくれてるじゃないっ!」

「だって、悪役のリーダーって一番格好悪いやられ方するもの・・・。」

「・・・。ウッサイわねぇ。勝てば文句ないんでしょっ! さっさと行くわよっ!」

最後の最後まで文句をたれる2人をどやしながら、アスカはサキエルを発進させた。

<ネルフ本部>

ネルフ本部では、来るべく使徒来襲に備えて3人のチルドレンが配備されていた。

「いつ使徒が現れてもおかしくない状況よっ! みんな、訓練がんばってねっ!」

「訓練かい? するにこしたことはないね。」

初号機のパイロットであり事実上のリーダーの渚カヲルである。

「はいっ!がんばりますっ!」

零号機のパイロット。素直さと持ち前の明るさでは誰にも負けない霧島マナ。

「任せたってーなっ!」

少々ぶっきらぼうだが、ミサトの為に見せる根性だけは人一倍の鈴原トウジ。

「うーーん。なんか、以前は問題だらけのチルドレンを相手にしてた気がするけど・・・。
  きっと気のせいねっ! みんながんばるのよっ!」

「「「はいっ!」」」

どこから見ても何の問題も無いチルドレン達を前にして、ミサトは幸福だった。

「使徒ですっ! 使徒が現れましたっ!」

緊急事態に、オペレーターのマヤが叫ぶ。

「いよいよおいでなすったわねっ! どう? 敵の状況は?」

「それが、変なんです。太平洋を飛来して来てるんですが、高度が上がったり下がった
  り。」

「うーーん、何かしらねぇ。とにかく、3人ともっ! 出撃よっ!」

ミサトの指示を受けたチルドレン達は、それぞれのエヴァへと乗り込んで出撃した。

<サキエルのエントリープラグ>

「シンジっ! もっとがんばんなさいっ! はっはっはっ!」

その頃アスカは、汗だくになってシンジにカツを入れていた。

「はっはっはっ。どうして、サキエルを動かすのに、自転車をこがないといけないんだ
  よっ! はっはっはっ。」

「私・・・。しんどいのは嫌・・・。」

「知らないわよっ! 神様がこういう作りにしたんだから仕方無いでしょっ! はっはっ
  はっ。」

「だから、ぼくは悪役は嫌だったんだーっ! こんなことになる気がしてたんだーっ!」

「ウルサイウルサイっ! こがないと、墜落しちゃうわよっ! さぁ! 掛け声を掛けて
  気合入れるわよっ!」

文句をぶーぶー言うシンジとレイを叱りながら、アスカは第3新東京市目指して自転車
をこぎ続ける。

「えっほっほっ!」

「えっほっほっ!」

「えっほっほっ!」

掛け声と共に3人が自転車をこぐと、サキエルは少しづつ第3新東京市へと近づいて行
く。

「はっ! 私、何を言ってるの?」

あまりのしんどさに、我を忘れて自転車をこいでいたレイだったが、自分の口から出て
いる掛け声に気がついた。

「こらっ! 足を休めるなっ!」

「こんな掛け声は嫌。」

「何言ってるのっ! 掛け声かけないと、リズムが合わないでしょうがっ!」

「私のイメージが損なわれるわ。」

「ウルサイっ! ウルサイっ! ほらっ! 高度がどんどん下がってるじゃないっ! アン
  タ死にたいのっ!?」

「・・・・。」

こんな太平洋の真ん中で墜落してサメの餌になるのは嫌なので、仕方なくレイも自転車
をこぎ始める。

「だから、悪役なんて嫌だったんだ・・・。」

シンジもボソボソ文句を言いながら、自転車をこぎ続けた。

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<第3新東京市>

「ぜーぜーぜー。ようやく着いたわ。」

「ぜーぜーぜー。もうこんな状態じゃ、戦闘なんてできないよっ!」

「はっはっ。私、ネルフに寝返りたい。」

「ふざけたこと言ってんじゃないわよっ! アンタは、もうアタシ達の愉快な仲間なの
  よっ!」

「こんなことしてたら、誰も私のことを健気な少女と思わなくなるわ・・・。しくしく。」

「勝てばいいのよっ! 勝てばっ! さぁ行くわよっ!」

「ねぇ、アスカ? どうでもいいけど、勝算はあるの?」

「もっちろんよ。この時期ネルフには初号機しかないのよ? 禄に歩くことすらできな
  い初号機がねっ! 暴走さえさせなかったら、アタシ達の勝利よっ!」

「そっかぁ。さすがはアスカだっ!」

アスカの戦略を聞き、なんとなく勝利を確信したシンジとレイは、少し戦う気力が沸い
てきてネルフ本部へとサキエルを進めて行った。

                        ●

「アスカっ! 話が違うじゃないかっ!!!」

「私、ここで死んでいいから、もう一度アスカと一緒じゃない人生やりなおしたい。し
  くしく。」

「ウッサイわねぇっ! 歴史が変わってるんだから、こういうこともあるわよっ!」

サキエルに乗った3人がネルフ本部付近に辿り着くと、そこには自由に動き回る3体の
エヴァが待ち構えていたのだ。

「レイっ! 攻撃ボタンを押してっ!」

「わかったわ。ポチットな。」

目が点になるレイ。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

しばしの沈黙。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」

そして、めったに聞くことのできないレイの絶叫が響き渡った。

「どうしたのよっ!」

「どうして、私が「ぽちっとな」なんて言うのぉぉっ!」

頭を抱えて嘆き悲しむレイ。

「私のイメージが・・・。しくしく。」

そんなレイをよそに、サキエルからの攻撃は開始された。

ポコッ。ポコッ。ポコッ。ポコッ。ポコッ。ポコッ。ポコッ。ポコッ。

サキエルから飛び出していく小さなお猿さんメカの集団。

「な、なんなんだよっ! あれはっ!」

「あれが・・・私の攻撃なの? も、もう、嫌ぁぁぁ・・・。」

「だってぇぇぇ。アタシってさぁ、前世からお猿さん好きだったんだもん。」

自慢気に胸を張って言い放つアスカを後目に、シンジとレイは泣きそうになっていた。

「だから、悪役は嫌だったんだ・・・・。」

「私、あのまま死んでた方が良かった・・・。」

「なーに、しみったれた顔してんのよっ! みてみなさいよっ! エヴァにアタシのお猿
  さんメカが取り付き始めたじゃないっ!」

<ネルフ本部>

ネルフ本部は大慌てだった。

「何なのあれはっ! 3人ともっ! 敵の動きがわからないわっ! 注意しながら、纏わ
  りついてきた猿を振り払ってっ!」

ミサトは焦っていた。まさか使徒から猿がいっぱい出てくるとは、予想だにしていなか
ったのだ。

「リツコっ! あの猿は何っ!」

「分析を急いでいるわっ! だけど、どうしてもただのラジコンとしか判定できないの
  よっ!」

「そんなはずないわ。分析急いでっ!」

「わかってるわっ!」

ミサトは歯ぎしりしながら地上の戦闘の様子を見守るが、良い対策案が浮かばない。

「このままでは危険だわっ! 3人とも一時撤退っ!」

猿の分析結果が出ないことには、対策方法がわからないので、ミサトはひとまずエヴァ
を撤収することにした。

<サキエルのエントリープラグ>

「見て見てっ! エヴァが撤退して行くわよっ!」

「本当だっ! さすがアスカだっ! あの猿メカにはどんな秘密があるの?」

「ただのラジコンよ?」

「へ?」

「でも、効果あったでしょ。」

「そうだけど・・・。どうして撤退したんだろう?????」

シンジもレイも状況がよくわからなかったが、得意満面のアスカが意気揚々と進撃を開
始したので、とにかく自転車をこぐことにした。

「よーーしっ! このまま一気にネルフ本部に殴り込みよっ!」

「はぁはぁ。もう、疲れたよぉ。」

「がんばんなさいよねっ! バカシンジっ! ん? レイっ! アンタは何してんのよっ!」

「休憩。」

「休憩ってねぇ。アンタがサボってるからなかなか進まないんじゃない。」

「アスカだって、自転車こいでないわ。」

「アタシは、リーダーだからいいのよっ!」

「それなら、私がリーダーになるわ。」

「なにバカなこと言ってるのよっ! アタシ以外にリーダーが勤まるわけないでしょう
  がっ!」

「私がリーダーなら、こんな自転車をこがないと動かない使徒は作らないわ。」

「綾波っ! それいいねっ!」

1人で自転車をまじめにこいでいたシンジは、その言葉に思わず賛同する。

「なんですってぇ! もう一度言ってごらんなさいっ! シンジっ!」

「・・・なにも。」

それ以上、余計なことは喋らず、ただ自転車こぎに集中するシンジ。

「そもそもどうして、サキエルの強力な光線を猿に変更したの?」

「かわいいじゃないっ!」

「あなたのイメージはそんなものでしょうけど。私のイメージも考えてほしいわ。」

「そ、それっ! どういう意味よっ!」

「がさつで、うるさくて、へっぽこってことよ。」

「ぬ、ぬわんですってーーーっ! それがリーダーに向かって言う言葉っ!?」

「本当のことよ。」

「それなら、アンタだってバカシンジ以上にぼけぼけーーーっとしてて、ぬぼーーーっ
  としてんじゃないのよっ!」

「私は、健気で大人しいイメージがあるだけよ。それに、碇君以上にぼけてたら、人間
  じゃないわ。」

「あ、綾波っ! それはひどいよっ! どういう意味だよっ!」

「バカシンジは、黙って自転車こいでりゃあいいのよっ!」

「そうやって、いつもぼくのことをバカバカって言うけどさぁっ! 前世では、ぼくの
  方がシンクロ率高かったんだからなっ!」

「ぬわんですってーーーーっ! アンタっ! 言っていいことと悪いことの区別もつかな
  いってーーーのっ!」」

「碇君は、本当のことを言ってるだけだわ。」

「一番シンクロ率が低かった、アンタに言われたくないわよっ!」

「それでも優秀だったわ。」

「ウルサイっ! ペチャパイっ!」

「一番の汚点を言うのねっ! むーーーっ!」

<ネルフ本部>

サキエルがネルフ直上に達し、判断に迫られていたミサトだったが、なぜか敵はそのま
ま沈黙してしまった。

「今よっ! 3人ともっ! 敵の動きが止まったわっ! 再出撃後ATフィールド全開っ!
  そのままポジトロンライフルで集中砲火っ!」

「また出撃かい?」

「即攻撃ですねっ! 任せて下さい。」

「いよいよ戦闘やなっ! ええとこみせまっせっ! ミサトさんっ!」

サキエルを取り囲む様に打ち上げられた3体のエヴァは、地上に出ると同時にATフィ
ールドを全開にし、ポジトロンライフルを構えて攻撃態勢を取る。

<サキエルのエントリープラグ>

「キーーーーっ! この口がそんなこと言うってのーーっ!」」

「はひはひ。顔ひっぱらないでっ! イメージが壊れるじゃない。」

まだサキエルのエントリープラグの中では、内輪揉めが続いていた。悪役には仲間割れ
が必要だという神様の配慮であろう。

「ん? あっ! アスカっ! 綾波っ! エヴァが出てきたよっ! わっ! ポジトロンライ
  フル持ってるっ!」

「あっ! シンジ逃げるのよっ! レイも自転車こいでっ!」

「ATフィールドが先よっ! ATフィールドはどうやって張るの?」

レイは必死でATフィールドを張るボタンを探すが、猿メカ,熊メカ,ラッコメカ,イ
グアナメカなどのボタンしか見あたらない。

「ATフィールドはどこにあるの!!? 早く教えてっ!!! やられちゃうっ!!!」

「ないわ・・・。」

「え?」

白い顔を一気に真っ青にするレイ。まさしく顔面蒼白である。

「無いって、どういうことだよ。アスカ。」

シンジもぎょっとして、アスカに振り返る。

「その・・・。神様が・・・。悪役にそんな強力な武器はダメだって・・・。」

カーーーーーーーーーン。

シンジとレイは、頭を鉄の洗面器で殴られた様なショックに襲われる。

「嫌ーーーーーーっ!!!!」

ムンクの叫び状態のレイ。

「勝てるわけないじゃないかっ! よくそれで、悪役やろうなんて決心できるねっ!!」

こればかりには、シンジもキレた。

「だって・・・。ネルフのやつらを見返してやりたかったんだもん。」

もういい・・・。

シンジもレイも、その時ただそう思った。

ピカッ!

自分達に襲いかかってくるポジトロンライフルの閃光。

ドカーーーーーーーンっ! ドカドカドッカーーーーーーン!!
ちゅどーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!

爆発の熱に髪の毛をボロボロにして、自転車と一緒に空の彼方へ飛ばされて行く3人。

「「「やなかんじーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」」」

最後の悪役の決めゼリフも忘れない。

「綾波、なんかサマになってるよ?」

「そうかしら?」

シンジに誉められて、飛ばされながらもちょっと嬉しくなるレイであった。

                        ●

「えっほえっほえっほえっほ。」
「えっほえっほえっほえっほ。」
「えっほえっほえっほえっほ。」

「はぁ・・・。爆発しても、死ねないキャラなのね・・・。」

ボロボロになったプラグスーツを身に纏い、すす汚れた顔でレイは嘆き悲しむ。

「アスカぁ、海に出たらどうやって、帰るんだよ。」

「大丈夫よ。自転車に付ける水上スキーを用意しておいたから。」

「えーーっ! 自転車をこいでミッドウェー島まで帰るのっ!?」

「あったりまえよっ!」

「えっほえっほえっほえっほ。」
「えっほえっほえっほえっほ。」
「えっほえっほえっほえっほ。」

ミッドウェー島目指して、ひたすら自転車をこぎ続けるシンジ,アスカ,レイ。
3人の苦労はまだまだ続く。








「・・・・・・・・・・・・・・・・。」

ん?レイちゃん何か言いたいことがあるようですが?

「続けないで・・・。」

はい・・・。m(_ _)m

fin.
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