「全国のアヤナミストの皆さんこんにちは。可憐で健気な綾波レイです。」

コホン。

「”悪役人生”を読まれた読者様から、お便りを頂きましたので紹介しましょう。」

ペラペラ。

「1通目ですね。えっと・・・。」

『ぼくは、レイちゃんの大ファンです。』

ポッ。(*・・*)

「ありがとう。」

『でも、レイちゃんって本当は健気な少女じゃなかったんですね。ぼくは・・・。』

「・・・・・・。」(−−#)

ビリビリビリ。

「これは、間違い。次に行ってみましょう。」

『わたしは、大阪に住むレイちゃんファンの女の子です。』

「嬉しい。」

ポッ。(*・・*)

『でも、レイちゃんがあんなギャグキャラだと知って、ファンをやめようと・・・。』

「・・・・・・・。」(−−#)

ビリビリビリビリビリビリビリビリ。
ビリビリビリビリビリビリビリビリ。
ビリビリビリビリビリビリビリビリ。
ビリビリビリビリビリビリビリビリ。

「今週はお便りがないの? そう・・・。
  それじゃ、さようなら・・・・・・え? 本編を始める?
  そう・・・始めなければいけないのね。
  もう、書かないって約束したのに、始めるのね。」(−−#)

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悪役人生2
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作者注:この小説は、"悪役人生"の続編です。そちらからお読み下さい。
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<ミッドウェー島>

ジャーーー。

水が流れる音が聞こえてくるシャワールームに1つの影が、コソコソコソと忍び足で近
寄っていた。

「アスカがチカンに覗かれない様に、ちゃんと見張るのもぼくの役目だよなぁ。」

曇りガラスごしに映る長い髪のシルエットを見ながら、鼻を摘んで忍び寄るは我らが悪
役シンジ。アスカを守ることが目的ということだ。

ジャーーー。

いつ見てもやっぱり綺麗なスタイルだよなぁ。
しっかり、見張っとかなくちゃ。

そのシルエットは、まさしく女性の美学の象徴とでもいうべき曲線を描いており、曇り
ガラスに薄っすらと見える肌色が、なんとも悩ましい。

髪を洗っているのかな?
うっ・・・鼻血が・・・。

頭からシャワーを被り、両手を後ろ手に髪の毛を持ち上げているポーズから、どうやら
シャンプーを洗い流しているところらしい。

今日はちょっと遅かったかな。
昨日は、ちょうど体を洗っている所だったのに・・・。

ミッドウェー島という辺境に追いやられたシンジは、日ごろ他にすることもないので、
アスカをチカンから守る役目をすると勝手に自分で決め、毎日1人で実戦しているのだ。

外から見ているだけじゃ、内部の侵入者は発見できないよなぁ。
仕方ないなぁ・・・。

カチャッ。

頭をポリポリ掻いて、いかにも仕方ないなぁといった仕草で、そっとシャワールームの
湯煙に曇るバスルームを覗くシンジ。その向こうにアスカらしき影が見えた。

「あれ?」

その人影を見たシンジは、なんとなく違和感にとらわれる。いつもに比べて、あまり動
きが無い。

「ん? ん? ん?」

チョンチョン。

シンジが悩みながら目を凝らしていると、誰かが肩を指で突付いてきた。

「ちょっと、待って。今忙しいんだ。」

チョンチョン。

「待ってったら。」

「何を待てばいいのかしら?」

「だから、今アスカを・・・・・・ぎゃーーーーっ! ア、ア、アスカっ!」

シンジが振り向いた所には、しっかりと衣を身に纏ったアスカが、目を吊り上げて仁王
立ちしていた。

「え? え? じゃっ! じゃぁあれはっ!?」

しどろもどろになりながらも、シャワールームの中を見ると、そこではマネキンが水を
浴びている。

「どうも最近、シャワー浴びてたら、隙間風が入ってくると思ってたのよっ!」

「あっ、いや・・・その・・・アスカを守る為にっ・・・そうっ! アスカをチカンか
  ら守ろうとして、ぼくはっ!」

「ほぉぉぉぉ。」

「そうなんだ、覗かれたりしたら、大変だろ?」

「覗かれたらってねぇ・・・。それをしてるのは、アンタでしょーがっ!!!!」

ドゲシッ!
グシャッ!
ドガドガバキッ!

無惨にもシンジは、シャワールームの中に叩き込まれると、マネキンと一緒に抱き合い
ながら、ずぶ濡れになって沈黙してしまったのだった。

今度は、窓からにしよう・・・。

意識を失う寸前、シンジはそんなことを考えていたらしい。

<第3新東京市>

その日の午後、変装したアスカ達は第3新東京市にやってきていた。あと少しで完成す
るシャムシエルの資金調達である。

「お腹減ったわねぇ。」

「そうだね、店を始める前に吉野●でも行かない?」

「そうね。レイもそれでいい?」

「吉野●・・・知らない。」

「知らないの? まぁいいわ。行って見ればわかるわよ。」

こうして一行は、まずは腹ごしらえということで、吉野●という牛丼の店へ足を運んだ。

<吉野●>

はっ! この匂いは・・・。

レイは店に入ったとたん、ぷ〜んと漂ってくる肉の匂いに思わず鼻を摘んだ。周りを見
渡すと、皆肉の乗ったご飯を食べている。

「ぼく、大盛。」

「アタシは、並とお味噌汁でいいわ。」

「まいど。」

シンジとアスカの注文を受けた店員は、メニューをきょろきょろ見ているレイの方へ移
動し、注文を聞く。

「こちらさんは?」

「私・・・。」

どこを見ても牛丼しか無いメニューを見て、レイは困り果てていたが、その時咄嗟に名
案を思いついた。

「私、牛丼の並。肉抜き。」

「はぁ? 肉抜きの牛丼ですか?」

「ええ。」

注文を聞いた店員は、おかしな顔をしながら厨房へと入って行く。その様子を満足気に
眺めているレイに、シンジがぼそっと呟いた。

「ねぇ、綾波?」

「なに?」

「あのさぁ、どうして素直に”ライス”って頼めないの?」

「・・・・・・。」

「そこまでして、自分のイメージを作りたいの?」

「どうして、そういうこと言うの・・・。」

<池>

吉野●で牛丼や値段が高いだけの単なるライスを食べた一行は、いよいよ資金調達の店
を池の辺で開店し始めた。

「シャムシエルの完成も間近よっ! あと少し、がんばって稼ぐのよっ!」

「また、こんなあこぎな・・・。」

「あこぎ? 結構じゃないっ! アタシ達は、悪役よっ!」

「あれ? 綾波は?」

「レイは、いつも反対するから、別の仕事を頼んでるわ。」

「ふーん。」

アスカ達が始めた商売は、池の上に浮かべたボートに、なんと30分1円という格安料
金で利用して貰おうというものだった。

「いらっしゃーい。30分1円ですよぉ。」

その安さに、開店と同時にカップルが殺到したことは言うまでもない。「あっ!」っと
言う間に全てのボートは出払ってしまった。

「アスカ? 全部売れたよ?」

「よくやったわ。ツーツーこちら悪役1号。悪役2号聞こえますかぁ? どうぞぉ。」

『その名前・・・嫌。』

「聞こえてたら、それでいいわ。緊急事態よっ! 使徒が現れたわ。予定通り殲滅作戦
  開始よっ!」

『了解。』

その頃レイは、ドラム缶を改造した潜水艦の中で池の底を行ったり来たりしていた。上
を見上げると、葉巻型の物がいくつも蠢いている。いわゆるボートの底だ。

「あれが使徒・・・。倒すと、正義の見方になれるのね。」

アスカにそう教えられたレイは、正義の見方への復活を夢みて、手裏剣発射のボタンを
次々と押していく。

ズボっ! どばーーーー!

レイの発射した手裏剣がボートの底に当たる度に、池の水が噴水の様に溢れだし沈み始
めるカップル達。

「はーい、みなさん。救出船のエレガント・ビューティ・アスカ号ですよぉ。」

「助けてくれーーっ!」
「いやぁぁ、服が塗れちゃうぅぅ。」

アスカが近づいて来ると、ボートに乗っていたカップル達は藁にも縋る勢いで手を差し
出してきた。そんな様子をニヤニヤと見つめる自称悪役リーダーのアスカ。

「はい。じゃ、救出料10万ね。」

「な、なんだってーーーーっ!!!!」

しかし、ふと周りを見るといつの間にか池にはワニやサメ,ピラニヤなどが、うようよ
と泳ぎ始めた。全てフェイクであるが、焦った人間にはそんなことを考えられる余裕は
ない。

「わ、わかったから、助けてくれーーーっ!」

「まいどーー。」

丁度そこへ、任務を完了したレイがドラム缶をドコドコ音をたてながら、岸に乗り上げ
させ地上に浮かび上がってきた。

「はっ!」

自分が攻撃した物を、地上に上がって始めて目の当たりにしたレイは、アスカに騙され
たことに気付いたのだった。

<ミッドウェー島>

大金を儲けてシャムシエルの部品を買い込みご機嫌なアスカに対して、レイはボート事
件以来ずっと機嫌斜めだった。

「どうしたの? 綾波?」

「アスカが私を騙したわ。私の健気な心を弄んだわ。」

「どういうこと?」

「ボートの底を、使徒だと教えたの。しくしく。」

レイは悲劇のヒロインといった感じで、およよと泣きながら悲しそうな目で横にあった
椅子に崩れ落ちた。

「使徒だと思って、ボートに手裏剣を撃ったの?」

「そう・・・。」

「ボートの底を使徒だと思ったの?」

「そう・・・。ボートの底に手裏剣なんて撃ったから、私のイメージが壊れたの・・・。
  しくしく、これもアスカのせい・・・。」

「ぼくは、たぶんアスカは綾波のイメージを壊したりしてないと思うよ?」

「どうして?」

「だって・・・。ボートの底を使徒だと思ってたんだろ?」

「ええ。だって、アスカが・・・。」

「普通何を言われても、そんなこと思わないよ。もう、その時点で綾波はギャグキャラ
  になってたんじゃないかな?」

ガーーーーーーーーーーーーーーーーン。

シンジの何気ない一言が、それからしばらくレイを復活不可能な程打ちのめし、しばら
く身動きできなくなったらしい。

<第3新東京市>

「えっほえっほえっほ。」

シャムシエルを完成させた悪役トリオは、あいも変わらず自転車を漕いで第3新東京市
へとやってきた。太平洋を、人力で飛び越えてきたので既に汗だくである。

「アスカぁ。モーターかエンジンを積もうようぉ。」

「アンタが漕げばいいのよっ!」

「ひどいよ。ぼくばっかり。」

「文句あるの? シャワールームでいけないことをしていたシンジぃぃ?」

「うっ・・・い、いえ・・・。」

「これだから、男の子ってのはねぇ。」

3人乗りの自転車の上で、リラックスするアスカと、先程から1人でブツブツ言いなが
らぼーっとしているレイを横目に、1人自転車を漕ぐシンジ。

なんだよなんだよっ!
いつもいつもタオル1枚巻いただけ姿で、ぼくの周りをウロウロしてるアスカがいけな
いんじゃないかっ!

何か言いたいことがあった様だが、シンジはそれ以上言葉を出すことができず、自転車
を漕ぐことに専念するのだった。

「えっほえっほえっほ。ねぇ、綾波も漕いでよ。」

「私は、ギャグキャラじゃない・・・。」

先程、シンジが言ったことをまだ根に持っている様だ。しかし、そろそろシンジも疲れ
てきた様で、飛行タイプのシャムシエルの高度がどんどん下がってきていた。

「もうっ! シンジ何やってんのよっ!? しゃーないわねぇ、手伝ってあげるわよ。ほ
  らっ! レイも漕ぐわよっ!」

「「えっほえっほえっほ。」」

「その掛け声・・・嫌。」

「アンタバカぁ? この掛け声こそが、健気な少女を表すのよっ!」

「嘘・・・。」

「嘘なわけないでしょっ!」

「また、私を騙すのね。」

「本当よぉ。ちゃーんと、科学で立証されてるんだからっ!」

「科学で? 本当なの?」

アスカの自信たっぷりな言葉を聞いたレイは、少し本当なのかなと信じそうになり、期
待に目を輝かせる。

「いいこと? よく聞きなさいっ! この掛け声はねぇ。ホメオシスタンスとトランジス
  タンスといってね、愛の力の結晶なのよっ! 今を維持しようとする力と変えようと
  する力。わかるぅ? 矛盾するこの2つの性質を一緒に持っているのが、この掛け声
  なのよっ! だから、健気な少女の象徴なのよぉぉぉーっ!」

「・・・・・・。」

「どう? わかったぁぁっ!?」

「碇君・・・。」

「何?」

「私、この人の言うこといつもわからない・・・。」

「ぼくも・・・。」

アスカが何を言っているのか、さっぱりわからなかったが、掛け声をかけると健気な少
女になれると言っている様な気がなんとなくしたレイは、その後掛け声を掛けて自転車
を漕ぎ始めた。

「「「えっほえっほえっほ。」」」

「ねぇ、アスカ? そろそろエヴァが出てくる頃だよ? 3体もいるんだよ? 勝てるの?
  こっちには、ATフィールドも無いんだよ?」

「まっかせなさいっ! アンタは覚えて無いの? シャムシエルの時と言えば、鈴原がの
  このこ出てくるのよっ! 人質にすればいいじゃん。」

「なるほどっ! さすがアスカだ。」

まさかその頃トウジはエヴァで出動準備しているとは、夢にも思っていない一同は、ア
スカの作戦を絶賛するのだった。

「シンジっ! アンタ、どのあたりで鈴原を見たのよっ!」

「確か、この辺りで・・・。おかしいなぁ。」

「いないじゃないのよっ! さっさと探しなさいよねっ!」

目を皿の様にして探すシンジとアスカだが、どこにもトウジ達の姿は見当たらないまま、
兵装ビルが浮かび上がってくる。

「エヴァが出てきたわ。」

エヴァを発見したレイが、ぼそりとつぶやいた。

「バカシンジっ! アンタが早く見つけないから、エヴァが出てきちゃったじゃないの
  よっ!」

「そんなこと言ったって、いないもんはしょーがないだろっ!」

「私、また惨めにやられるのは嫌。」

「レイっ! 応戦するわよっ!」

「やられるくらいなら、私は帰るわ。」

「わーーっ! 綾波っ! こんなところで反転したら、やられちゃうよっ!」

「惨めなのは嫌。」

「そ、そんなこと無いってっ! たとえやられても、ラミエル戦の時の綾波は健気な少
  女だったじゃないか。」

「はっ!」

過去の栄光を思いだし、目を潤ませて自分のファンを一気に増やしたあの微笑にうっと
りと想いを巡らせるレイ。

カタカタカタ。

その時、コックピットの前の蓋が開き、椰子の木がにょきにょきと出てくると、カタカ
タとブタが登ってきた。

「なに?」

突然現れたブタを、不思議な顔で見つめるレイ。

「ラミエル戦。
  レイもおだてりゃ。
  微笑んだ。
  ぶーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

「!!!」

レイの目が、今まで見たことも無い程吊り上る。

「おっ、おっ、おっ、おだてられたからじゃないわよっ!!!!!!」

ドガドガグシャーーーーバキバキーーーーーーっ!!! ドカーーーーーーン!!!

「はぁはぁはぁっ!!! ぜぇぜぇぜぇ!!!」

額に青筋を浮かび上がらせたレイは、ブタが椰子の木を降りる前に、見るも無残に殴り
付け木っ微塵に破壊し、大声で怒鳴り散らす。

「あ、綾波・・・。」

「レ、レイって・・・。」

ズザザザっと狭いシャムシエルのコックピットで引きが入ったシンジとアスカは、そん
なレイを何か怖い物を見る様な目で見つめる。

「はっ! わ、私・・・何をしてたの? わからない・・・。」

「・・・・・・。」
「いまさら・・・。」

白い目で、レイをじとーっと見るシンジとアスカ。

「山、動かない物・・・。
  海、青い物・・・。」

我を取り戻してわけのわからないことを口走り出したレイを見たシンジは、小声でアス
カの耳元に話し掛ける。

「ねぇ、アスカぁ?」
「何?」

「最近、綾波のセリフって、わざとらしくない?」
「いいのよ。本人が満足してるんだから。」

「そりゃそうだけど。」
「ほっときゃいいのよ。」

「空、高くにある物・・・。
  太陽、暑い物・・・。
  月、私の背中によくあるもの・・・。」

シンジとアスカが影で何を言っているか知らないレイは、自分のイメージを回復しよう
と1人がんばるのだった。

「アスカっ! 綾波っ! そんなことしてる場合じゃないよっ! エヴァが来たよっ!」

「レイっ! 攻撃開始よっ! そのボタンを押してっ!」

「駄目。これは危険。」

「何してんのよっ! さっさと押しなさいよっ!」

「これを押すと、変な言葉が口から出るわ。」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょーがっ! さっさと攻撃しなさいっ!」

ガミガミとアスカが言うので、ちらりとボタンに目を向けるレイ。

「これは・・・なに?」

「なによっ!」

ふと、レイが攻撃ボタンに目を向けると”どすこいチビレイちゃんメカ”と書かれてい
た。

「このボタンは何?」

「フフフ。アタシ達の必殺技よっ! 余計なこと言ってないで、さっさと押すのよっ!」

「絶対嫌。」

「綾波っ! アスカっ! エヴァが近づいてきたよーっ!」

スクリーンを見ると、エヴァ3体がシャムシエルに接近してきていた。このままでは、
何もせずにやられてしまう。

「もっ! アンタが押さないんなら、アタシが押すわよっ!」

「やめてっ!」

「ぽちっとな。」

レイの抵抗よりも早く、アスカが”どすこいチビレイちゃんメカ”のボタンをポチッと
押してしまった。それと同時に、出撃するチビメカ軍団。

「どすこいっ! どすこいっ! どすこいっ!」

「あれは、何っ? 嫌ぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!」

レイの目の前に廻を巻いたマルマル太ったチビレイちゃんメカが出動していく。その様
子を涙を流して、見つめるレイ。

「D型装備は、アスカ専用なのに・・・。しくしく。」

<ネルフ本部>

シャムシエルから、またわけのわからないメカがたくさん出てきたので、ミサトは対策
に迫られていた。

「相手は小さな子供よっ! みんなっ! やっつけてしまいなさいっ!」

『ワイには子供を攻撃することなんかでけん。』
『子供を攻撃するなんて、好意に値しないね。』
『わたしも小さな子供だけは、相手にできません。』

しかし、チルドレンは3人とも攻撃することができず、どんどん後退りしてしまい、万
事休すである。

<シャムシエルの中>

「見て見て、エヴァが退却していくわっ!」

「どすこいっ! どすこいっ! どすこいっ!」
「どすこいっ! どすこいっ! どすこいっ!」

”どすこいチビレイちゃんメカ”は、次々とエヴァを追いつめていき、とうとうジオフ
ロントの直上まで追い込んでしまった。

「さすが、綾波だ。あの圧迫感がすごいね。」
「やっぱり、レイをモチーフにしたのが、正解ねっ!」

次々にレイを褒め称えるシンジとアスカだったが、レイは肩を震わせ拳を握り締めて涙
を流していた。

このままじゃ、私のイメージが・・・。
アヤナミストの人達が・・・また・・・。

レイはキっと顔を上げると、おもむろにシャムシエルのハンドルに手を掛けて、第3新
東京市を疾走する。

ズドドドドドドドドド。

「あなたが太ってるからって、私も同じイメージにしないで。」

「な、なんですってーーーっ!」

「どう見ても、アスカだわ。」

「アタシのどこが、あんなに太ってるってのよっ!」

「ここ。」

レイはそう言いながら、アスカの脇腹を親指と人差し指で、むにっと摘んでみせる。

むにむに。

「はっ! こんなにっ! これは危険・・・。もう駄目、手遅れ。」

むにむに。

アスカのお肉を掴んで好き放題なことを言うレイに、アスカは髪の毛を逆立てて襟首を
掴み怒声を上げる。

「これくらいが、丁度いいのよっ!」

「アスカっ! それどころじゃないよっ! 綾波何してるのさっ!」

「あんな姿、これ以上見せては駄目。」

「もうすぐ勝つんだよっ! 主役に戻れるんだよっ!」

”どすこいチビレイちゃんメカ”に自ら突撃をかけるレイを、シンジは必死で説得して
なんとか止め様とする。

「アンタっ! アタシの作ったメカに何すんのよっ! あれは、アンタの分身なのよっ!」

私の分身・・・自分を犠牲にしてまで、私は・・・。
やっぱり、私・・・健気な少女なのね・・・。

自分に陶酔してしまったレイの耳には、2人の言葉は全く届かず、とうとう”どすこい
チビレイちゃんメカ”を全て蹴散らしてしまう。

<ネルフ本部>

『ワイは、小さい子供を苛める奴はスカンのやっ!』
『好意に値しないね。』
『わたしも、許せないわ。』

「みんなっ! 良く言ったわ、総攻撃よっ!」

シャムシエルの行動に頭にきたチルドレン達は、ミサトの指示に従いATフィールドを
展開しながら、総攻撃をかけてきた。

<シャムシエルコックピット>

焦ったのは、シンジとアスカである。もうすぐ勝てるというところまで、攻め込んでい
たので、こうなっては逆に逃げ場が無い。

「みてみなさいよっ! どうすんのよっ!」

「もういいわ・・・。健気な私は守れたわ・・・。」

「何がいいってのよっ!」

「アスカっ! ポジトロンライフルが、こっち向いてるよっ!」

「こんなこともあろうかと、鉄壁の防御を用意したわっ!」

「えっ!? ATフィールドがあるのっ! さすがアスカだっ! いつのまにっ!」

「そんなのあるわけないでしょ。」

「え?」

ピカッ!

自分達に襲いかかってくるポジトロンライフルの閃光。その瞬間、アスカは自分の体を
海苔巻の様にコックピットに置かれていた布団でぐるりと包んだ。

「あーーーっ! ずるいよっ!」

「あなただけ、助かろうなんて駄目。」

一気にそれをはがしにかかるシンジとレイ。

「ちょっ! やめなさいよっ! 爆発したら髪の毛が痛むじゃないっ!」

ドカーーーーーーーンっ! ドカドカドッカーーーーーーン!!
ちゅどーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!

結局布団を剥ぎ取られたアスカ共々、爆発の熱に髪の毛をボロボロにして、自転車と一
緒に空の彼方へ飛ばされて行く3人。

「「「やなかんじーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」」」

お馴染みのセリフで吹き飛ばされてる中、アスカは用意していたワックスやら痛み止め
を髪の毛に塗り込んでいるのだった。

<ミッドウェー島のある一室>

その後、レイの部屋にいくつかのお便りが届いた。

待っていたわ。
あんなに健気な少女を演じたんですもの。
きっと・・・。

レイは自分のメカを犠牲にしてまで、イメージを守ろうとした健気さに自ら涙しながら、
お便りを開いていく。
ただ、自分のイメージを守ろうとしただけで、どこも健気だとは思えないのだが・・・。

                        :
                        :
                        :

それから1時間後、ビリビリに破られたお便りの残骸の山に埋もれて、その一室からは、
しくしくという涙声が聞こえていた。

fin.
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tarm@mail1.big.or.jp
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