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アスカちゃんとレイちゃん 2nd Impression
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作者注:この小説は、"アスカちゃんとレイちゃん"の続編です。そちらからお読み下さ
        い。
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<学校>

今日は土曜日。授業はあるものの半日だけなので、昼からは自由である。こういう日は
昼食をどうするかで困ることがある。

「お昼ご飯、カレー屋に行かない?」

終礼が終わり皆が帰り支度をしている中、窓際からシンジやトウジ達が喋る声が聞こえ
てきた。

「今日は妹の病院に行かなならんのや。」

「じゃ、ケンスケは?」

「俺は、今日から開かれるアメリカ海軍のセレモニー行くんだ。」

「そっか。」

「悪いな、シンジ。」

「いいよいいよ。たまにはのんびり1人でカレー食べに行くよ。」

トウジやケンスケを誘ったものの予定が合わなかったので、今日はシンジ1人でカレー
を食べに行く様だ。

碇くん、カレー食べに行くんだ・・・。

その話を少し離れた所で聞いている者が1人。ダンボのごとく耳を大きくしているアス
カその人である。

これは一大事だわ。

アスカは自分のカバンを手にすると、教室の机や椅子の群を掻き分けて、こちらも帰り
支度をしているレイの元へと走った。

「大変よっ!」

「また、あなたの”大変”? 今度は何?」

どうせ大したことはないのだろうと、半分呆れた顔で筆箱をしまいながら適当に相手を
しているレイ。

「碇くんが、カレー食べるって。」

「そりゃ、碇君だってカレーくらい食べるわよ。」

「そんなこと、わかってるわよ。そうじゃなくって、1人で食べに行くみたいなのよ。」

「それがどうしたのよ?」

「だから、アタシ達もカレー屋さんに行きましょうよ。」

「あっ!」

「アンタが行かないなら、アタシだけでも行くわよっ。」

「行く、行くわ。」

「なら、さっさとしなさいよっ!」

レイは手をパタパタと慌ただしく動かして、急ぎ帰り支度をすると、アスカと一緒に走
って近くのカレー専門チェーン店へと向かった。

<カレー専門店>

ここのカレー店は、数多くあるトッピングを自由に選べることや、2分の1倍の甘口か
ら10倍まで辛さを選べることで人気のある店だ。

「いらっしゃい。」

アスカとレイが店に入ると、気立ての良い店主が愛想の良い声を掛けてきた。昼時とい
うこともあり、客の数も多い。

「注文は、何かな?」

「レイ。何にするの?」

「アスカと一緒のでいいわ。」

「じゃ、5倍ビーフカレー2つ。チーズと山菜と納豆をトッピングして。」

「えっ!?」

確かにアスカと同じ物で良いと言ったレイだが、辛さの倍率といいトッピングといい、
自分の耳を疑う。

「5倍ビーフカレーに、チーズ,山菜,納豆2つね。まいどーっ!」

そんなレイの焦る顔を余所に、店主は伝票に注文のカレーを記すとカウンターの中へと
消えていった。客も多く忙しそうにばたばたとしている。

「なによそのトッピング? そ、それにっ! 5倍なんて食べれないわよっ!」

「ここのカレーは、それくらいが一番いいのよ。」

「うっそー。あまり辛いのは嫌よ。」

「大丈夫。大丈夫。」

お気軽に言うアスカであったが、辛いのが苦手なレイは不安そうに店主がカレーを作っ
ているカウンターの中を見ている。

「ねぇ。アスカ?」

「何?」

「碇君、来ないけど・・・。本当にここでいいの?」

「え・・・。」

思わぬレイの疑問に、ここだと根拠も無く確信していたアスカは、少し不安にかられる。
確かにまだシンジの姿は見えない。

「大丈夫よ。ここくらいしか、近くにカレー店なんてないじゃない。ははは・・・。」

「喫茶店とかでも、カレーは食べられるわ。」

「う・・・。」

なかなか現れないシンジとレイのもっともな言葉に、不安になってきたアスカが窓の外
を眺めていると、注文していたカレーが運ばれてきた。

「おまち。」

「とにかく食べましょ。」

「ええ。」

アスカは少し大きめの銀色のスプーンで、カレーを口に運ぶ。人気のある店だけあって、
味は良い。

「からーっ!!」

しかし、レイのお気には召さなかったようだ。

「そう?」

気にせず食べるアスカは、辛党。

「水は? 水はどこ?」

「もうっ! 変なこと大きな声で言わないでよっ! 恥かしいじゃない。」

「だって、ひーひー。」

「味が損なわれるからって、お水を飲むのは禁止よ。あそこに書いてあるでしょ?」

何気なくサラリと言ってのけるアスカだが、レイは目を白黒させている。

「う、うそー。ひー。」

「大袈裟ねぇ。」

「5倍なんか頼むからよ。ひーー。」

ヒリヒリする舌をぺろりと出し、風に当てて火照りを冷ますレイ。こんなカレーを全部
食べるのかと思うと、めげそうである。

「ひーひー・・・。」

「うっさいわねぇ。さっさと食べなさいよ。」

「ひーひー・・・あっっっっ!!!! いったーーっ!!」

何かを見つけたレイは、舌を出しながら大声を出してしまったので、思わず舌を噛んで
しまい、口を手で押さえてのた打ち回る。

カランカラン。

その時、ドアの開く音がしたかと思うと、シンジがひょっこりと首を覗かせた。中の込
み具合を伺っている様だ。

「あれ? いっぱいだ。」

「いらっしゃいませ。」

「あっ。いっぱいみたいだからいいです。」

「碇君っ! 碇君っ!」

カレーの辛さと先程噛んだ痛みを我慢しながら、片手で口を押さえ、もう一方の手を振
って立ち上がるレイ。

「えっ?」

アスカは丁度入り口に背中を向けて座る形になっていたので、気付かなかったがレイの
声でシンジが来たことに気付く。

「あぁ、綾波じゃないか。」

「あっ! 碇くぅん。席空いてるわよっ!」

ようやくシンジに気付いたアスカも、急いで手招きする。この場合、満席だったのがラ
ッキーなのかもしれない。

「満席だから、一緒に座りましょ。」

自分のカレーを手に持ちレイの横に移動しながら、アスカが手招きしているが、シンジ
は少し悩んでいる様だ。

「でも・・・なんだか悪いよ。」

「いいからぁ。席も移動しちゃったし。座ってよ。」

「うん・・・そうだね。ありがとう。」

ようやく納得したシンジが、自分達の席の前に座った時、アスカもレイも心の中でガッ
ツポーズをとっていた。

「ご注文は?」

「ぼくは、5倍シーフードカレー。大盛りで。」

「まいどーっ!」

「ほら、みてみなさいよ。みんな5倍を頼むじゃないの。」

「うぅぅーーー。」

そうは言われても、お子様舌のレイにしてみれば辛いのだ。一口食べる度に舌を風に当
てて冷やさなければ、なにも口に入れることができない。

「どうしたの?」

「あー。レイが辛い辛いって煩いのよ。」

「言わなくてもいいでしょ。」

「そうなんだ。それじゃ、卵をかけたら?」

「どうして?」

「少しは、マシになるよ。」

「そう? わかった。」

少しでもこの辛さをなんとかしたいレイは、生卵を注文してカレーにかけてみる。確か
にシンジの言う通り、味がまろやかになった。

「ほんと。少しマシになった。」

「いくつになっても、お子様の舌なんだからぁ。レイのカレーは星の王子様だもんね。」

「え? そうなの?」

「ちっ、ちがう。もうっ! アスカ。変なこと言わないでっ!」

そして、シンジのシーフードカレーが運ばれてくる。エビやホタテなどの具が沢山乗っ
ている。

「碇くんのって、豪華ね。」

「うん、これが好きなんだ。トウジは、ハンバーグカレーが好きみたいだよ。」

鈴原って、ハンバーグカレーが好きなんだ。
ヒカリに教えてあげなくちゃ。

「ケンスケは、ビーフカレーにチーズと山菜と納豆のトッピング専門だね。」

「・・・・・・。」
「・・・・・・。」

自分の食べているカレーをじとーっと見て、思わず言葉を無くしたアスカとレイは、次
からシーフードカレーを食べようと誓っていた。

「それじゃ、そろそろ行くよ。」

いつの間にか、カレーを食べ終わったシンジが伝票を持って立ち上がろうとする。アス
カは既に食べ終わっているが、レイはまだ悪戦苦闘していた。

「ほらっ! レイっ! 早く食べなさいよっ!」

「うん。わかってる。」

辛いのを我慢して、慌ててカレーを口に頬張るが、苦しくて顔が真っ赤になる。

「あっ、いいよ。ゆっくり食べててよ。」

「あっ、ちょっとまって! レイっ、早く食べなさいよっ! 何してんのよ!」

「わ、わかってるっ! むぐむぐ。」

シンジと一緒に店を出て、上手くいけば何処かに一緒に遊びに行きたかったアスカは、
レイを小突いて急かす。レイも焦っているのだが、辛くてなかなか喉を通らない。

「席開けて貰ったから、ぼくが払っとくよ。ゆっくりしてて。」

「え? そんなのいいわよ。」

「いいんだ。ネルフのカードだしね。ははは。」

「あっ、ちょっと待って。レイっ! 早く食べなさいよっ! 何してんのよっ!」

「じゃ。またね。」

「あっ!」

2人の焦りなど気付く様子も無く、シンジは清算を済ませると笑顔で手を振って、店を
出て行ってしまった。

「もうっ! アンタのせいで碇くん帰っちゃったじゃないのっ!」

「だって・・・。それより、おごって貰ったりしたら、悪いわよ?」

「いいじゃない、ちゃんとお礼すれば。」

「え?」

「今日のお礼にお弁当でも作りましょうよ。」

「あっ! さっすがアスカ。」

「いいから、さっさと食べてよ。置いてくわよっ!」

「わかってるわよ。ひーひー。」

今日は少ししか話をすることはできなかったが、次の口実ができたので、ひとまず納得
する2人だった。

<アスカの団地>

翌日、朝も早くからアスカとレイは、キッチンで悪銭苦闘していた。がんばって弁当を
作り上げて、シンジがネルフへ行く前に渡しに行きたかったのだ。

「違うわっ! 唐揚げにかたくり粉つけてどうするのっ!」

「え? 違うの?」

「あなたねぇ・・・。」

1人暮らしをしているレイは、ある程度の料理はできるが、いつもキョウコの美味しい
ご飯に不自由したことのないアスカは、スパゲッティーが限界なのだ。

「もうっ! アスカはいいから、お皿でも洗ってて。」

「嫌よっ! アタシも作りたいもんっ!」

「はぁ〜・・・。じゃぁ。卵焼き作って。」

「それならまかせて。」

レイに邪魔にされながらも、少しでも自分の作った料理を増やしたくてアスカもがんば
っている。が・・・。

「アスカ・・・それなに?」

「卵焼き。作れっていったじゃない。」

「はぁ〜・・・。あなたねぇ・・・。それは目玉焼きっ!」

「え? 違うの?」

「はぁ〜・・・。もう、あっち行ってよ。」

「どうして、そんなこと言うわけぇ!?」

「邪魔なのっ!」

「むーーっ!」

邪魔者扱いされてご機嫌斜めになるアスカだが、これ以上時間が掛かっては間に合わな
くなるのでレイも焦っている。

「邪魔なものは仕方ないでしょ。」

「自分ばっかり料理作っちゃって。それってずるいんじゃない?」

「そういう問題じゃないでしょ?」

「この案を出したのはアタシなのよっ!」

「じゃ、時間が無いんだから、邪魔しないで。」

「アタシは何をしたらいいのよっ!」

「はぁ〜・・・。」

そんなアスカに手をやきながらも、なんとかかんとかレイは8時前に弁当を完成させた。

<ミサトのマンション>

早速お弁当を大きめのハンカチに包んで、シンジの家へ持ってくるアスカとレイ。その
心臓はシンジの家に近付くにつれ、高鳴ってくる。

「やっぱり、やめましょ。」

嫌がられた時が怖くて、つい弱気なことを口にしてしまうレイ。そもそもシンジの方が
料理は上手いのだ。

「今更なに言ってんのよっ!」

「でも、まずいって思われたら嫌だし・・・。」

「碇くんはやさしいから、そんなこと思わないわよ。」

「でも、まずいものはまずいわ。」

「昨日のお礼なんだから、いいじゃない。アンタが止めるんなら、アタシだけで持って
  行くわ。」

「行く・・・。」

エレベーターが止まり、廊下をシンジの家に向かって歩き始める。もう目的地は、すぐ
そこだ。

「お、押す・・・のよ・・・ね?」

さすがのアスカも、ここまでくると緊張する。その震える指でエイヤっとばかりに、チ
ャイムのボタンを押す。

「はーい。」

インターフォンから、女の人の声が聞えてくる。学校でも有名なシンジの美人保護者の
ミサトである。

「あ、あの。碇くんのクラスメートの惣流です。碇くんいますか?」

「あっ。ちょっと待ってねん。」

どうやら門前払いだけは避けれた様である。緊張しながら玄関の扉が開くのを待つアス
カとレイの手に汗が滲む。

ガチャ。

「あらぁ。よく来てくれたわね。」

シンジが出て来るものだとばかり思っていたアスカとレイは、出てきたのがミサトだっ
たので、安心半分、がっかり半分。

「あのぉ? 碇くんは。」

「ごめんねぇ。シンちゃん、今朝は早くからテストがあるってんで、ネルフへ行ちゃっ
  たのよ。」

ガーーーーーーーン。

折角作った弁当が渡せなくてショックを受けるアスカと、遅れた原因であるアスカを睨
み付けるレイ。

「何か御用?」

「あの・・・。昨日ごちそうになったから、そのぉ・・・お礼にお弁当を・・・。」

ショックを隠しきれない様子で、アスカは弁当箱を差し出しながらボソボソと来た理由
を説明する。

「あっらぁ? そうなの? こんなかわいい娘にお弁当を作って貰えるなんて、シンちゃ
  んもやるわねぇ。」

「いえ・・そんな・・・。」

否定はするものの、少し嬉しそうなアスカ。

「なんなら、渡しておきましょうか?」

「本当ですか?」

アスカは弁当箱を急いでミサトに渡す。自らの手で渡したかったのは勿論だが、こうな
っては食べて貰えるだけで文句は無い。

「えっと、名前はぁ・・・。」

「惣流ですっ!」

「わたしは・・・綾・・・」

「惣流ですっ!」

「あの、わたしは・・・」

「惣流ですっ!」

「むーーーっ!」

ガツンっ!

「い、いったーーーーっ! 足踏むんじゃないわよっ!」

「フンっ! あの・・・綾波です。」

「わかったわ。ちゃんと渡しておくわね。フフフ。」

「「お願いしまーす。」」

直接渡すことはできなかったが、ひとまず目的を達した2人はミサトのマンションを後
にした。

「碇君食べてくれるかしら?」

「大丈夫だって。渡してくれるって言ってたじゃない。」

まだ不安そうなレイに対して、アスカはミサトの言葉を信じて月曜にシンジと会うこと
を楽しみにしている。

「これからどうするの?」

「そうねぇ。まだ時間はいっぱいあるしねぇ。」

早起きしてバタバタしていたが、まだ時間は朝である。天気もいいことだし、このまま
家に帰るのも勿体無い。

「久しぶりに、二子山の公園に行きましょうか?」

「はーぁ。いつもアスカとデートなのね。」

「アタシだって、アンタなんかとデートしたくないわよっ!」

「まぁ、いいわ。行きましょう。」

アスカとレイは、今朝の料理の余り物を詰め込んだ弁当を持ち、半分ピクニック気分で
二子山の公園へと向かった。

<二子山>

しばらく二子山で散歩していたアスカとレイだったが、早起きしたこともあり昼前には
お腹が空いてきた。

「ねぇ、アスカ? お腹減らない?」

「そうね。ちょっと早いけど。」

2人は手頃なベンチを見つけると、お弁当を広げ出す。同じおかずの弁当をシンジが食
べるのだと思うと少し嬉しい。

「ねぇっ! このウインナー。もうちょっと焼いた方が良かったんじゃない?」

「そう?」

「ねぇっ! このハンバーグ。もう少し玉ねぎ入れた方が良かったんじゃない?」

「そう?」

「ねぇっ! この唐揚げ、ちょっと水っぽくない?」

「アスカ? あなた、何もしなかったのに、文句だけは言うのね。」

レイの作った料理を食べる度にブチブチ文句を言うアスカに、レイはムっとして言い返
した。

「だって、アタシの作ったサラダなんか、完璧よっ!」

「切っただけじゃない・・・。まったく・・・。」

とはいいつつも、こういう自然の中でおにぎりなどを食べると、やはり美味しく感じる。
2人は眼下に見える第3新東京市を見下ろしながら、弁当をはむはむと頬張る。

ウーーーーーウーーーーー。

その時、非常事態宣言の警報が街全体にこだました。

「大変っ! 早く避難しなくちゃっ!」

警報を聞き、慌てて弁当を片付け出すアスカ。

「この近くのシェルターは・・・。」

レイは、シェルターが載っている地図を広げて、1番近い場所を探す。

グオオオオオオオオ。

そんな2人の目の前に、エヴァ初号機が発進される。

「い、碇君だっ!」

「碇くーん、がんばれーーっ!」

シェルターへの避難など忘れて、初めて肉眼で見る初号機を瞳を輝かせて眺める2人。
その反対側からは、使徒シャムシエルが攻撃してきた。

ズドドドドドドドドド。

眼下の第3新東京市を舞台にして、戦闘が始まり2人の立つ二子山にも地響きが幾度も
起こる。

「がんばれーーーーーーっ!!!」

「碇君っ! がんばれーーーーーーっ!」

すっかりその戦闘に見入ってしまった2人は、両手を上げ大きく振っていつのまにかシ
ンジを応援していた。

「キャーーーっ! 碇くんっ!」

「いやーーーーっ!」

シャムシエルの触手の様な物が、初号機を攻撃する。それと同時に悲鳴をあげ両手で目
を覆って見つめる。再びシンジが反撃を開始すると、熱を入れて応援を始める。

「がんばれーーーーーっ!!」

「そこよっ! いけーーーっ!」

両手両足を振り上げて、2人が必死で応援していると、シャムシエルに攻撃された初号
機が二子山に倒れ込んできた。

ズドドドドドドドド。

アスカとレイが立っていた場所の横に、手を付く初号機。

「・・・・・・。」
「・・・・・・。」

今までの元気はどこへやら、尻餅をついた2人はあまりの恐怖に声も出ず、恐怖に引き
つった顔で初号機を見上げる。

ドンドンドン。

シャムシエルに攻撃される初号機。一方的にやられ始める。

「ア、アタシ達がいるから、攻撃できないんだ。」

「えっ!?」

アスカの言葉に、レイはおどろいて初号機を見上げる。先程までの浮かれていた気分は
サッと吹き飛び、申し訳ないという気持ちが沸き上がってくる。

カシューーー。

その時、エントリープラグが射出され初めて見るプラグスーツ姿のシンジが現れた。あ
れほど見たかった姿だが、今は何も考えられない。

「2人とも早くっ!」

尻餅をついて見上げている自分達に手を伸ばしてくるシンジ。アスカとレイは、言われ
るがままエントリープラグへと入って行った。

「み、水がっ!」

エントリープラグに入った途端、LCLが流れ込み焦る2人。

「思いっきり吸い込んでっ!」

言われるがままLCLを吸い込むと、息ができるようになったが、かなり気持ち悪い。
そんな2人の前で、苦しみながら使徒と戦うシンジの姿が見える。

「うぉーーーーーーーーっ!」

シンジがうなり声をあげて、使徒に突進していく。いつも優しい表情のシンジしか見た
ことの無かったアスカとレイは、そんな鬼気としたシンジに緊張しながらも必死でその
様子を見る。

碇くんっ! がんばってっ!
がんばれっ! がんばれっ!

邪魔にならないように、エントリープラグの隅で小さくなりながら、2人はシンジを応
援し続けた。

<ケージ>

戦闘が終わり使徒に勝った初号機は、アスカとレイを乗せたままケージへと回収された。
エントリープラグから、LCLが流れ出していく。

「碇くん、ごめんなさい。」

「私達のせいで・・・ごめんなさい。」

自分達のせいでシンジが苦戦したことは間違いないので、2人はしょんぼりしながら素
直に謝った。

「2人共、無事で良かったね。」

戦闘している時は、別人の様に怖くも感じたシンジだったが、いつもの優しい笑顔で2
人に微笑みかけてくる。

「でも、アタシ達のせいで。」

シンジはそう言ってくれているが、申し訳なくて仕方が無いアスカとレイは、シンジの
前でしょぼくれている。

「大丈夫だって。でも、この後ちょっと怒られるかもね。」

「うん、わかってる。」

エントリープラグが射出され、出て行くシンジの顔を見た2人は更にしょぼくれてしま
った。その顔は、2人に見せていた物と一転して疲れ切っていたのだ。

「あっ。」

外に出たシンジが、またいつもの笑顔でエントリープラグの中を覗き込んできた。

「お弁当ありがとう。これから食べさせて貰うよ。お腹ぺこぺこなんだ。」

シンジが何気なく掛けたその最後の言葉に、アスカとレイの心はかなり慰められたのだ
った。

                        :
                        :
                        :

シンジと別れた後、予想通りこっぴどく叱られたアスカとレイは、ネルフの職員に連れ
られて帰ろうとしていた。

「シンジ君、今日は大変だったわね。民間人が急に出てきて。」

「いえ、クラスの友達ですから。」

ふと、廊下の端を見るとかわいい感じの22,23くらいのオペレーターの女性と、シ
ンジが話をしている所が目に入った。

「疲れたでしょ? 夜ご飯でもご馳走しましょうか?」

「え・・・。悪いですよ。ミサトさんのご飯も作らないといけないし。」

「葛城一尉には、断ってあるわ。」

「ミサトさん、いいって言ったんですか?」

「ええ。私が、お料理の腕を振るうわよ。」

「でも・・・。ペンペンもいるし・・・。」

「大丈夫よ。それくらいなら、葛城一尉がやってくれるわよ。」

「うーん。」

「私、一人暮らしだから、いつも1人でご飯食べて寂しいのよぉ。」

「は、はい・・・。それじゃ・・・。」

「じゃ、一緒に・・・。」

プルルルルルル。

その時、シンジの携帯電話が鳴った。

「もしもし。えっ? 本当? わかった、すぐに行くよっ!」

プチ。

「マヤさん折角なんですけど、友達のケンスケが自転車で転んで怪我したらしいんです。
  ちょっと、様子見てきます。」

「あっ! ちょっと。」

しかし、シンジはマヤを置いて廊下を走って行ってしまった。そんな様子を、廊下の端
でエレベーターを待ちながら見ていたアスカとレイは、目を鬼の様にしてマヤを睨み付
けている。

「なんなのよっ! あの女っ!」

「まさか、ネルフにあんな人がいるなんて思わなかったわ。」

真横にネルフの職員がいるので、小声でボソボソと文句を言い合うアスカとレイ。もし、
横に黒服のいかつい諜報部員が居なければ髪の毛を逆立てて走り出していただろう。

<アスカの家>

家に帰った後も、アスカとレイはアスカの部屋で、今日見た若いオペレーターのことに
ついてブチブチ文句を言っていた。

「まったく、どこの世界に中学生の男の子に手を出す社会人がいるのよっ!」

プリプリ怒るアスカ。

「でも碇君、相手にしてなかったみたい。」

「そりゃそうよっ! 何歳年上だと思ってるのよっ!」

しばらく、愚痴に花を咲かしていた2人だったが、いつの間にかシンジの戦闘している
時のことに話題が変わっていた。

「もう、本当、格好良かったわよねぇ。」

「碇君の、プラグスーツ姿見たのって、私達だけね。きっと。」

「エヴァの中に入ったのも、きっとアタシ達だけよ?」

「それは、間違いないわ。」

今日の出来事で、他のシンジファンの女の子達よりも、1歩も2歩もシンジを身近に感
じた気がして、だんだんと嬉しくなってくる。

「碇君、お弁当食べてくれたかしら?」

「ねぇねぇ。今日のお詫びにさ、明日碇くんにお弁当作っていかない?」

「さすがアスカ・・・あっ! お弁当箱が無いわ。」

「あっ! そうねぇ。じゃ、碇くんがお弁当箱返してくれたら、また作って持って行き
  ましょうよ。」

「うん。でも、今度までにちゃんと練習しといて。」

「わかってるってっ!」

今日は、いろいろなことがあってすっかり疲れたアスカちゃんとレイちゃんであったが、
恋する乙女は、まだまだ元気なのであった。

fin.
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tarm@mail1.big.or.jp
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