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クスクスレイちゃんの気持ち
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<シンジの家>

勉強にスポーツに何でもござれの青い瞳が美しい天下無敵の美少女アスカは、今日も幼
馴染でお隣さんのシンジの家へ遊びに来ていた。

「おはようございまーす。」

「あら? アスカちゃん、いらっしゃい。」

今日は日曜日。しかし、アスカにとって平日も日曜も関係無く、目が覚めればシンジの
家へ一目散。

「シンジ、まだ寝てるんですか?」

「あぁ、おはよう。アスカ。」

「ゲゲッ!」

元気に挨拶をしながらアスカがリビングに入って行くと、あろうことかシンジは既に起
きており朝食を食べていたのだ。

「どうしたの? 熱でもあるのっ!?」

「どうしてだよ? 熱なんてないよ。」

「だって、アタシが来るより早く起きてるなんてっ! 何があったってのよっ!?」

「ひどいなぁ。ぼくだってたまには早起きする時くらいあるよ。」

自慢にもならない様なことを、胸を張って得意気に言い放つシンジを、ユイは呆れた顔
で見ながら目玉焼きをテーブルに並べる。

「良く言うわね。母さんが、起こしたんじゃないの。」

「え? おばさまが?」

「そうよ。今日はアスカちゃんにも、とっても良い知らせがあるの。」

「え? なになに?」

シンジも朝早くから起こされており、自分にも良い知らせがあるということで、何か特
別なことが今日はあるのでないかと胸をはずませる。

「アスカちゃんの大好きな、レイちゃんが遊びにくるのよ。」

「うげっ。」

弾ける様な明るい笑顔を振り撒いていたアスカの顔が、そのユイの一言を聞き一気にど
よどよと曇り始める。

「ア、アタシ・・・ちょっと、用事が・・・。」

ピンポーン。

あたふたと適当な言い訳を言って、アスカがシンジの家から逃げ出そうとした瞬間、チ
ャイムの音が響き渡った。

「あらあら、もう来たのかしら? アスカちゃん、ちょっと待っててね。」

「・・・・・・。」

この世の終わりと、仏滅と、ハルマゲドンが一気に頭上に降り注いだような顔をして、
アスカはぐたーっとソファーにうなだれる。

『それじゃ、レイちゃんは責任をもって預かっておくわね。楽しんでいらっしゃい。』

玄関からそんな声が聞こえてきたかと思うと、軽い足音がトタトタとリビングに向かっ
て走ってくるのが聞こえた。

きっ! 来たっ!
でもっ! 今日はアタシは逃げるわよっ!

「シンジ兄ちゃーんっ!!!」

アスカの予想通りリビングに駆け込んで来たのは、忘れもしないあの5歳の少女、レイ
ちゃん。レイちゃんは、早速シンジの横にアスカを見つけてムッとした顔をしている。

「クスクス。」

「お久しぶりね。レイちゃん。」

「アスカお姉ちゃん、またいるのね。クスクス。」

「ええそうよ。でも、残念だけどアタシ、今日は用事があるの。しっつれーーっ。」

アスカはツンと澄ました顔でリビングを出て行くと、玄関でレイちゃんの親に挨拶を済
ませたユイと鉢合わせした。

「あの、今日は・・・。」

「アスカお姉ちゃーん、レイちゃんも一緒に行くぅぅ。」

アスカがユイにおいとますることを告げようとした瞬間、レイちゃんが駆け寄って来て
アスカの腕にぶらぶらとぶら下がる。

「あら、アスカちゃんに何処か連れて行って貰うの? 良かったわねぇ。」

「い、いえ・・・アタシは・・・。」

「アスカちゃん、宜しくお願いしますね。フンフンフン。」

アスカになつくレイちゃんの姿を見たユイは、嬉しそうな顔をしながら、朝食の続きを
作りにリビングへと入って行った。

「・・・・・・。」

「クスクス。ジュース買いに行くぅ。」

「アンタねぇ・・・。」

「ジュース飲みたい。」

「ジュース買ったら、素直に帰るのよっ!」

「うんっ! クスクス。」

はぁ〜。

ジュースを買い与えて連れて帰ってくれば逃げ出すタイミングもあるだろうと、しぶし
ぶレイちゃんと一緒にマンションの下の自動販売機まで降りて行くアスカだった。

<マンションの通路>

エレベーターの前までやってくると、下向きの矢印のボタンを押す。それに反応して、
1階から上がってくるエレベーター。

「アスカお姉ちゃーん、こっちーっ! クスクス。」

「ちょっとっ! アンタっ! 何処行ってんのよっ!」

「クスクス。わーい。」

「もっ!」

もうすぐエレベーターが上がって来るというのに、レイちゃんが階段を駆け下りて行っ
てしまったので、アスカも仕方なく後を追って駆け下りる。

「勝手にウロウロすんじゃないわよっ!」

「レイちゃん、階段大好きぃ。」

「アタシは嫌いなのよっ!」

「だから、太るのね。クスクス。」

ムカーーーーーーーーっ!!!

「な、なんですってーっ! この口がそんなことを言うのかーーっ!」

アスカはレイちゃんのほっぺたをぎゅーっと引っぱって、いけないことを言うレイちゃ
んをこらしめる。

「痛いよーーっ! アスカお姉ちゃんがいじめるーーーっ!」

「こんな所でいい娘ぶっても、誰も来ないわよっ!」

「うえーーーん、アスカお姉ちゃんのでぶーーーーっ!」

「まだ言うかぁぁぁっ!」

ズル・・・。

「キャーーーーーーーーーっ!」

頭にきたアスカが、レイちゃんを抱き上げてお尻をペンペンしようとした時、レイちゃ
んが暴れたので、階段を踏み外してしまった。

ドスンドスン。ゴロゴロ。

「キャーーーーーーーーーッ!」

ゴロゴロゴロ。ドスドスドス。

「☆※★●▼□※刀氈「★☆※★●▼□※刀氈「★!!!」

アスカはそのまま階段を転げ落ち、一番下まで落ちた所で一瞬意識が遠くなっていきそ
うになった。

「うーーーん・・・。」

目をぱちくりとさせながら立ち上がるアスカ。

「はっ! レイちゃんは?」

まずいと思ってキョロキョロと辺りを見まわすと、妙に視線が低くその先に見えるのは、
見慣れた自分の身体ではないだろうか?

「!!!!!」

驚いたアスカは、ぎょっとして自分の姿に視線を戻すと、先程までレイちゃんが着てい
た服を着ており、どう見ても幼児体型をしていた。

「なっ! なによこれーーーーーーっ!!!」

その叫び声に反応したのか、目の前に倒れている自分がもぞもぞと起き上がってくる。

「うわーーーん、アスカお姉ちゃんがいじめ・・・ん?」

泣き声を上げ様としたレイちゃんだったが、ふと目の前の自分の姿を見ると、泣くのを
止めきょとんとしている。

まさか、あの娘がアタシにっ!?
うっ、うそぉぉぉーーーっ!

「あれれ? レイちゃんが、アスカお姉ちゃんになってるぅ。」

「ちょっとっ! 変な喋り方やめてよねっ!」

「ん? クスクス。アスカお姉ちゃん、レイちゃんになったんだぁ。クスクス。」

アスカを見た時に浮かべたクスクス声を上げるレイちゃんの笑みに、ぞくりとした寒気
が背中を走る。

こ、これってぇぇぇ。
もしかしてーーーっ!
かーーーなり、まずいんじゃぁぁぁっっ!!!?

「さぁ、レイちゃん。ジュースを買いに行きましょうね。クスクス。」

「い、嫌よっ!」

「そんなこと言う子は、ペンペンですよ。クスクス。」

そう言いながら、先ほどアスカがやったと同じ様にアスカの小さな身体を持ち上げるレ
イちゃん。身体が小さくなり力のなくなってしまったアスカは全く抵抗できない。

「い、行くわよ。行けばいいんでしょっ! 行けばっ!」

「クスクス。じゃ、競争ね。」

「あっ、ちょっとっ!」

アスカの体で思いっきり階段を駆け下りるレイちゃん。その後を短い足で、アスカは必
死で追い掛けて行った。

<マンションの前>

「はぁはぁはぁ。」

身体が小さくなったので、かなり遅れて1階まで降りてくると、目の前でアスカの財布
からお金を出しながら、レイちゃんがジュースを買っていた。

「レイちゃん、オレンジジュース好き。りんごジュースも好き。ぶどうさんも好き。」

ゴトンゴトンゴトン。

「あっ、こっちはアイスクリーム。レイちゃん、バニラアイス好き。チョコアイス好き。
  メロンアイス好き。」

ゴトンゴトンゴトン。

「アンタっ! 人の小遣いで何やってんのよっ!」

「クスクス。ジュースとアイス、いーーっぱい。」

両手一杯にジュースとアイスを持ったレイちゃんは、ニコニコしながら嬉しそうに微笑
んでいる。それと同時に、アスカの財布の小銭はすっかり空になっていた。

「勝手に人の小遣い使うんじゃないわよっ!」

「アスカお姉ちゃんにもあげますからねぇ。クスクス。」

しかし、レイちゃんはアスカの言うことになど取り合わず、買い物も終わったのでスタ
スタと階段を上って行く。

「ちょっと、待ちなさいよっ! はぁはぁ。」

「クスクス。おそーい。」

「アンタの身体でしょうがぁっ!」

アスカは下りより更に疲れる登りの階段を、小さな身体を必死に動かしてレイちゃんを
追い掛けて行くのだった。

<シンジの家>

レイちゃんは家に帰り着くと、真っ先にリビングへ駆け込み、先程かったアイスを両手
に持ってペロペロと舐め始める。

「美味しい。クスクス。」

ペロペロ。

そんな様子を、自分もアイスを舐めながら、これからどうしたものかと考えつつ横目で
睨みつけるアスカ。

「冷たくって、美味しい。」

ペロペロ。

嬉しそうな顔でレイちゃんが舐め続けるアイスが、クーラーの風に当たった為かトロト
ロと溶け始める。

「甘くって、美味しい。クスクス。」

「わぁっ! アスカっ! 何してんだよ。」

え?

同じように買ってきたアイスを食べていたシンジが、突然大きな声を出したので、アス
カはびっくりして自分の体に目を向けた。

あーーーっ!
あ、あのバカッ!!

そこには、口から胸元までアイスをいっぱいつけてドロドロとこぼしながら、ペロペロ
とアイスを舐め続ける自分の姿があったのだ。

な、な、なんてことしてくれんのよっ!
アタシのお気に入りの服がぁぁぁーー!

「あらあら、アスカちゃん。レイちゃんでも綺麗に食べてるのに、お行儀が悪いわよ。」

塗れた布巾を手にしたユイが、やれやれといった顔をしながらアスカの口まわりや服を
丁寧に拭いてくれる。

あぁぁぁぁーー。
恥かしい・・・。

アスカは目を覆ってしまい、それ以上自分の情けない姿を見ていることができなかった。

なんとかしないといけないわねぇ。
ほっといたら、何するかわかんないわ。
そうだわっ!

「レイちゃん、美人でかわいいアスカお姉ちゃんとお部屋で遊びたーーい。」

一計を思いついたアスカは、手を上げてアスカと2人っきりで遊びたいと、皆に聞こえ
る様に大声を上げる。

「でぶっちょさんの、アタシと遊びたいの? クスクス。」

ムッ、ムッカーーーーっ!!!

シンジの前でなんてことを言うんだと頭にきたアスカは、ひとまずフォローを入れてお
くことにする。

「アスカお姉ちゃんは、でぶっちょさんじゃないよ。レイちゃん、とってもスマートに
  見えるもん。」

「そんなことないわよ。ほらっ。クスクス。」

「ぎゃーーーーーーーーっ!」

こともあろうかレイちゃんは、アスカの着ていたシャツを首元まで片手で持ち上げると、
お腹のお肉を指でつねつねと摘みだしたのだ。

「ア、アスカ・・・うっぷ。」

鼻を押さえて天井に顔を向けながら、その様子を目の端でまじまじと見つめるシンジ。

「あらあら、アスカちゃん。はしたないですよ。」

こともあろうか、ユイにまで怒られてしまった。

このガキっ!!!!
なんてことすんのよっ!

アスカはダッシュで、自分の身体が座っている椅子に這い上がると、慌ててシャツをず
るりと下ろす。

「もぅ!!!」

「わかった? クスクス。」

「はぁ〜・・・。」

アスカは疲れきった顔をして、その場にうなだれるのだった。

<シンジの部屋>

なんとかかんとか、レイちゃんと2人っきりになったアスカは、レイちゃんをコンコン
と説教し始めた。

「アンタねぇっ! アタシの身体で変なことしないで頂戴っ!」

「怒るアスカお姉ちゃん、きらーい。」

「怒られたくなかった、おとなししてなさいっ!」

「はーい。おとなしく、シンジ兄ちゃんとお医者さんごっこしてくるぅ。」

「ブッ! ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと、待ちなさいっ!!」

レイちゃんがとんでもないことを言いながら、部屋から出て行こうとしたので、アスカ
は、スライディングしながら慌ててその足にしがみつく。

「アンタがそのつもりなら、アタシだってアンタの身体でいろんなことするわよっ!」

「クスクス。じゃ、レイちゃんもぉぉ。」

うっ!

この場合どう考えても、14歳の女の子とわずか5歳の幼児という立場からして、自分
の方が明らかに立場が悪い。

「わ、わかったわよ。アタシもおとなしくしてるから、アンタもおとなしくしてて。」

「はーい。クスクス。」

もうアスカは、半分泣きそうな顔でレイちゃんに懇願するのだった。

<リビング>

しばらくレイちゃんは、昼のテレビアニメを見ておとなしくしていた。しかし、アスカ
は、また何かやらかしはしないかと横目でチラチラと監視を続ける。

ピンポーン。

その時、玄関でチャイムが鳴る音がしたので、ユイがエプロンで手を拭きながら出て行
った。

『あら、早かったじゃない。レイちゃんなら、リビングでテレビを見てるわよ。』

玄関からそんな声が聞こえてくる。どうやら、レイちゃんの両親が迎えにきてしまった
様だ。

まっ、まずいじゃないっ!
このまま連れて帰られたら、ずっとこのままになっちゃうわっ!

『レイっ! 帰るわよ。いらっしゃい。』

玄関から自分を呼ぶ声が聞こえてきたので、アスカはレイちゃんのお尻・・・自分のお
尻だが・・・を、ツンツンと突付いた。

「アンタ、どうすんのよっ!?」

「クスクス。レイちゃん、シンちゃんと一緒に学校行く。」

「バ、バカなこと言ってんじゃないわよっ!」

「クスクス。アスカお姉ちゃんは、幼稚園が嫌?」

「アンタがシンジと一緒に学校へ行くのが嫌なのよっ!」

「クスクス。」

能天気なレイちゃんに、どうしようかと焦るアスカの後ろから、更にレイちゃんの母親
の催促が聞こえてくる。もう時間がない。

はっ!
そうだわっ!

「レイちゃん、鬼ごっこがしたい。」

アスカは、とたとたと玄関まで走り出て行くと、自分の姿をしたレイちゃんの方を指差
した。

「鬼ごっこって・・・レイちゃん? もう帰りますよ?」

「下まで、アスカお姉ちゃんと鬼ごっこしながら降りるぅ。」

「鬼ごっこ? うんっ! するぅ!」

鬼ごっこの言葉を聞いたレイちゃんは、喜んで玄関まで出てくる。そんなアスカのこと
を、わがままを言って申し訳無いという顔で見るレイちゃんの母親。

「ごめんなさいね。アスカちゃん?」

「アスカお姉ちゃん、早く行こっ。」

「うん。」

あまり、喋られると何を言い出すかわからないので、アスカはレイちゃんの手を引っ張
ってそそくさと階段へと走って行った。

「あらあら、レイちゃんったら、アスカちゃんにあんなになついちゃって。」

「そうだな。お礼に、今度夕食にでも招待してあげたらどうだ?」

「そうですわね。」

後に残ったレイちゃんの両親が、アスカが聞けば卒倒しそうな計画をしているとも知ら
ず、アスカは階段へ向かってレイちゃんを引っ張って行くのだった。

<階段>

階段まで来たアスカとレイちゃんは、アスカが鬼でレイちゃんが逃げる役ということで
鬼ごっこを始め様としていた。

「いくわよっ!」

「クスクス。レイちゃん、逃げるの得意。」

逃げ出したレイちゃんを、階段を駆け下りながら追いかけるアスカ。しかし、足の長さ
が違うので、なかなか追いつけない。

まずいっ!
なんとかして、階段を転がり落ちないとっ!

レイちゃんに1階まで逃げ切られては元も子も無いので、アスカは階段の手摺のヒョイと
乗っかると、レイちゃん目掛けてダイビングした。

「うりゃーーーっ!」

ドスッ!

そのままレイちゃんに直撃するアスカ。レイちゃんは、バランスを崩して、階段を踏み
外してしまった。

お願いっ!
元に戻ってっ!

ドスドスドス。ゴロゴロ。

その時、階段を転げ落ちるアスカの体を何か暖かい物が包みこんできた。転がりながら
目を開けるとレイちゃんが、アスカを抱きかかえる様に守ってくれている。

レ、レイちゃん・・・。
ありがとう・・・。

ドスンドスン。ゴロゴロ。

ゴロゴロゴロ。ドスドスドス。

「☆※★●▼□※刀氈「★☆※★●▼□※刀氈「★!!!」

                        :
                        :
                        :

うーーーん・・・。
アタシ・・・。

クラクラする頭で、立ち上がったアスカの視線の先には、丸くなってうずくまっている
レイちゃん姿が見えた。

「はっ!」

すっと視線を自分の身体に移すと、確かに自分の身体に戻っている。

「やったっ! 戻ったんだわっ!」

飛び跳ねて喜ぶアスカの前で、レイちゃんはまだ気を失ったままだった。

気を失っちゃったのね・・・。
さっ、帰りましょうか。

アスカは、レイちゃんを優しく抱き上げると、胸の中のレイちゃんの寝顔を見つめなが
ら、ゆっくりと階段を降りて行った。

<マンションの前>

1階に降りたアスカが、マンションの外に出ると、照りつける太陽の光に刺激されたの
か、レイちゃんは目を覚ましてモソモソと動き始めた。

「あら? 目が覚めたの?」

「うん。」

「そう、パパやママが待ってるわよ。」

アスカはレイちゃんと手を繋いで、タクシーの前まで歩いて行く。そんな姿を見た両親
は、やはりレイちゃんはアスカになついていると、嬉しそうに見守っている。

「じゃぁね。身体が元に戻ってしまって残念だったわね。フフ。」

「いいの。もういいの。」

「でも、さっきは助けてくれてありがとう。」

今日は散々だったが、最後にレイちゃんの暖かい気持ちを感じたアスカは、笑顔でお礼
を言ってあげる。

「もう、そんな痛い体いらないの。クスクス。」

「なっ!」

ミッションのギアが入り、ゆっくり動き出すタクシーの窓から見えるレイちゃんの顔が
ゆっくりと動き始める。

「もうでぶっちょアスカお姉ちゃんの身体、飽きちゃった。」

「ぬ、ぬわんですってーーーーっ!!」

「ばあさん用済み。クスクス。」

「ば、ば、ば、ばっ!!!」

顔を真っ赤にして、頭から火山が噴火しそうな程怒ったアスカの前を、タクシーがブロ
ロロロと過ぎ去って行く。

「今度こそ、二度と来るなぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

結局、レイちゃんの体を守って、あちこちが痛くなった自分の身体をひきずりながら、
照りつける太陽に向かって叫ぶアスカであった。

fin.
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