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シンジデレラ
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<昔のある町>

むかーし、むかーし、ある町に小さなお屋敷がありました。

そのお屋敷には、いじわるな父親のゲンドウと、ナオコ姉さん,リツコ姉さん,ミサト
姉さんといういじわるな姉達と一緒に暮らす、シンジくんという少年がいました。

シンジくんは毎日家族の為に、ぼろぼろの服を着て、食事を作り、洗濯をし、掃除をし
て働いていました。

「シンジっ! これ洗っておきなさいっ!」

「はい。ナオコ姉さん。」

「シンジっ! 私の猫の置物に埃が溜まっていたわよ。掃除してないんじゃないでしょ
  うねっ!」

「すみません。すぐにします。」

「うらっ! シンジっ! えびちゅはまだかっ!」

「それ以上飲むと、体に・・・。」

「やかましぃっ! さっさと持って来んかっ!」

「はい・・・ミサト姉さん。」

3人の姉に用事を言いつけられたシンジくんは、ナオコ姉さんの服を洗濯し、リツコ姉
さんの部屋を掃除し、ミサト姉さんの為にビールを運びました。

「おい、シンジ。」

「はい、父さん。」

「食事の支度はまだか。」

「ごめんなさい、すぐにします。」

「おまえには失望した。嫌なら出て行けっ!」

ここを追い出されると、シンジくんには行く所がありません。

「ごめんなさい、父さん。すぐに支度しますから。」

シンジくんは慌てて父親と姉3人の食事の支度をしました。

「お待たせしました。」

テーブルに座るゲンドウと姉3人の前にパンとシチューを並べると、皆スプーンを手に
持って食べ始めます。

ごくっ。

いつもわずかに残ったパンにしかありつくことのできないシンジくんは、そんな食事の
風景を羨ましそうに見つめます。

「何なのこれっ!? こんなまずいシチューが食べれると思ってるの?」

リツコ姉さんは、ガチャンとシチューの入った皿を床に投げつけました。

「まぁまぁ、どうせ作り直してもこの程度しか作れないんだから、仕方ないわよ。」

ミサト姉さんは、えびちゅをぐびぐび飲みながらシチューをすすります。

「あなたは、味覚がおかしいから平気で食べれるのよ。」

リツコ姉さんに投げつけられたシチューを、シンジくんは急いで掃除します。

「ごめんなさい。すぐに作り直します。」

「もういいわ。どうせいくら作り直しても、こんなもんでしょ? 今日はパンだけでい
  いわ。」

「すみません。」

夕食も終わり後片付けをしたシンジくんは、わずかに残ったパンの欠片を持って自分の
寝床である馬小屋へ行きました。

しくしく。

今日もヘトヘトに疲れたシンジくんは、ベッド代わりである干し草の中で涙を流します。

チューチュー。

そこへネズミくんが出て来ました。シンジくんは、今日の自分の夕食であるパンを慌て
て手にしようとしましが、一寸早くネズミくんはパンを奪って巣の中へ逃げ込みました。

しくしく・・・。

そうです。今日もシンジくんは、ネズミくんにパンを取られてしまったのです。

うっうっうっ・・・。

シンジくんは、その日お腹を空かせてべそをかきながら寝ました。

                        ●

翌日、町にお城の御触書が立て掛けられました。なんでも、アスカ姫の婚約者を探す舞
踏会を催すとのことです。

ゲンドウは、その御触書を見てニヤリと笑いました。

よいしょよいしょ。

井戸の水を汲んでシンジくんが家に入ると、豪華なタキシードが置いてありました。

「シンジ、これを着るんだ。」

「え?」

「お姫様が、花婿探してるのよ。これを来てダンスパーティーに出席しなさい。」

ナオコ姉さんが、その服をシンジくんに差し出します。

「絶対に物にするのよ。いいわね。」

リツコ姉さんがシンジくんを脅迫します。

「シンジがお姫様の婚約者になったら、えびちゅが飲み放題よぉぉっ!」

ミサト姉さんは、えびちゅに囲まれた生活を夢うつつで思い浮かべて、うっとりとして
います。

「そ、そんな・・・。」

今のいままで、姉達の苛めに耐えてきたシンジくんでしたが、今回ばかりは酷すぎると
思いました。アスカ姫といえば、近隣諸国に乱暴者で有名だからです。

「今日は家のことをしなくていいから、ダンスの練習をしなさい。わかったわね。」

「・・・・・・・・・・。は、はい。」

ナオコ姉さんに命令されたシンジくんは、泣く泣くダンスの練習をしました。

お姫様の婚約者なんかになったら、毎日奴隷の様に扱われるんだ・・・。

今までも似た様なものなのですが、更に酷い扱いを受けるのではないかと恐怖にシンジ
くんの体は震えます。

どうしよう・・・どうしよう・・・。
そうだ、この服にスープを滲ませて・・・。

その夜シンジくんは、いつもいつもパンをくすね取っていくネズミくんの巣の前に、ス
ープを滲ませたタキシードを置いて寝ました。

翌朝。

「姉さん達、せっかくのタキシードがネズミにやられちゃいました。」

どうしても舞踏会に出たくなかったシンジくんは、ボロボロに食い千切られたタキシー
ドを姉達に見せます。

「あーーー! 何てことをしてくれたのっ! どうしてもっと大事に置いておかなかった
  のっ!」

当然、姉達は激怒します。それでもシンジくんは、これで舞踏会に出なくて済むと安心
しました。

「おまえには失望した。」

父親のゲンドウもカンカンです。それはそうでしょう。今から新しいタキシードを作っ
ていては、今日の舞踏会に間に合わないのです。

キラキラキラ。

その時シンジくん達の前に、まばゆいばかりの光が輝きました。

「な、なんだ?」

シンジくんが驚いていると、目の前に星のステッキを持ったおばあさんが現れました。

「私は、妖精です。おやおやお困りの様ですね。私が、その服を直してあげましょう。」

「えっ!」

シンジくんは、目を見開いて驚きます。

「本当に直せるんですかっ!? おねがいしますっ!!」

逆に凶器乱舞する3人のお姉さん達。

「あらびんどびんはげちゃびん。」

おばあさんが呪文を唱えながら星のステッキを一振りすると、あら不思議、ボロボロに
なったタキシードが元の綺麗な姿に戻りました。

「それじゃ、がんばりなさい。」

それだけ言い残すと、おばあさんは優しい笑顔を残して何処へともなく姿を消してしま
いました。

ひどいよっ! あのおばあさんは、ぼくの気持ちを裏切ったんだっ!

シンジくんは、自分のもくろみを壊されてがっかりします。しかし姉3人は、そんなシ
ンジくんを容赦なく舞踏会へと引きずって行きました。

<お城>

その夜お城では、盛大な舞踏会が開かれました。シンジくんは、できるだけお姫様に見
付からない様に隅の方で隠れています。

「アスカ姫のおなーーりーーー。」

その掛け声と共に真っ赤な幕が開き、きらびやかなドレスを着たアスカ姫が姿を現しま
した。

パラッパパラッパ。

アスカ姫の両横に並んでいた、兵隊さん達がラッパを吹きます。

「やかましっ! 耳元で鳴らすんじゃないわよっ!」

ゲシゲシゲシ。

アスカ姫に蹴り倒された兵隊さん達は、ラッパと一緒に階段を転げ落ちて沈黙しました。

うぅぅぅぅぅぅ・・・やっぱり怖いよ・・・。

そんな様子を見たシンジくんは、じりじりと後ろへ後ろへと逃げ腰で下がって行きます。

「ちょっとアンタ! なかなかいい男ねぇ。アタシと踊りなさいっ!」

ビックっっーーーー!!

できるだけ目立たない様にしていたはずだったのですが、いきなり第一指名を受けてし
まったシンジくんは、顔を真っ青にしてその場に固まります。

「何してるのよっ! ぼけぼけっとしてないで、さっさと来なさいっ!」

「はい・・・。」

そしてアスカ姫とシンジくんのダンスが始まりました。

そうだ。ダンスが下手なら、きっと愛想を尽かせて・・・。

シンジくんは、わざとアスカ姫の足をびゅっと踏みました。

「い、いったーーっ! 何すんのよっ! このバカっ!」

バッシーーーーーーーン。

その途端、思いっきり平手を食らったシンジくんは、2メートルほど吹っ飛びました。
でも、これで花婿の候補から外れたんだと思ったシンジくんは、少し笑顔を浮かべて喜
びます。

「ん? アンタ。平手を食らって嬉しそうにするなんて、見込みあるわね。決めたわ、
  この男を婚約者とします!」

ガーーーーーーーーーンっ!

シンジくんは、どうしてあそこで笑ってしまったのかと猛烈に後悔しました。

どうして、笑ってしまったんだっ! どうして、笑ってしまったんだっ!

ボーーンボーーンボーーン。

その時、午前0:00の鐘が鳴り響きました。アスカ姫はその音に気を取られて、時計
を見つめています。

逃げなくちゃダメだ。逃げなくちゃダメだ。逃げなくちゃダメだ。

シンジくんは、咄嗟にアスカ姫の手を振りきると、お城を飛び出しました。

「待ちなさいっ! 衛兵! 捕まえなさい! 絶対に逃がすんじゃないわよっ!」

しかし、シンジくんも必死です。逃げる途中片足の靴を落としましたが、気にせず逃げ
続けます。

そして、とうとう逃げ切ったシンジくんは、命からがら家に帰りつきました。

<ゲンドウの小さなお屋敷>

「まったく、あなたなんかに期待した私たちが馬鹿だったわ。」

「そのタキシードを貸しなさい。質屋に入れてくるわ。」

昨日家に逃げ帰ったシンジくんは、姉達に「全然、相手にもして貰えなかった」と伝え
ました。もちろんさんざん怒られましたが、あの恐いお姫様の婚約者になるよりはまし
だと思ったのです。

                        :
                        :
                        :

ドンドン。ドンドン。

その日の昼下がり、お城の兵隊さんがゲンドウの家へやって来ました。

「何でございますか?」

ナオコ姉さんが出ていくと、兵隊さんは靴を差し出しながら、その持ち主を探している
と言います。

「こ、これは・・・。ミサトっ! シンジを呼んでいらっしゃい。」

即効、ミサト姉さんに連れてこられたシンジくんは、兵隊さんを見ると逃げようとしま
した。しかし、姉3人はそんなことを許さず、無理矢理兵隊さんが持ってきた靴にシン
ジくんの足をつっこみました。

すっぽり。

「うむ。間違い無いようだな。ひったていっ!」

どうして、あそこで靴が脱げたんだっ! どうして、あそこで靴が脱げたんだっ!

後悔するシンジくんですが、兵隊さん達は容赦無く縛り上げると、お城に連行していき
ました。

<お城>

シンジくんがお城に到着すると、アスカ姫が腕を組んで待っていました。

「アンタ、名前はっ!?」

「シ、シンジです。」

「そう。それじゃ、こっちへいらっしゃい。」

アスカ姫がとことことお城の奥へ入って行くと、シンジくんも兵隊さんに城の中へと連
れて行かれました。

「嫌だーーーーー!! 助けてくれーーーーー!! 嫌だーーーーーっっっ!!!」

お城の地下にある”開かずの間”の前まで来たシンジくんは、ここに入ってはおしまい
だと本能で察知し、必死で抵抗します。

「あとはよろしくね。」

そう兵隊さんに言い残したアスカ姫は、その部屋に入って行きました。

「誰かーーーー助けてくれーーーー。嫌だぁぁぁぁぁぁぁ!!」

悲痛な叫びを空しく上げるシンジくんですが、無理矢理その部屋へ押し込められます。
そしてシンジくんは、その部屋から1週間の間出て来ることはありませんでした。

                        :
                        :
                        :

それから1週間後、アスカ姫とシンジくんは結婚しました。

飴と鞭を巧みに使った調教を受けたシンジくんは、すっかりアスカ姫の下僕と化してい
ました。

「シンジっ! ご飯!」

「はい。」

「シンジっ! 腰揉んで!」

「はい。」

「シンジ! お風呂入れて!」

「はい。」

そんな生活が、毎日の様に繰り返されます。時に、お風呂のお湯加減を間違うと往復ビ
ンタを貰うシンジくんですが、アスカ姫の調教の成果によりそれすらも喜びに感じる様
になっていました。

もちろん、多額のお金を貰ったシンジくんの父や姉達は、何不自由の無い生活を営んで
この先幸せに暮しました。

アスカ姫も、全てが自分の思いのままになる婿を貰って幸せの絶頂です。

そして、アスカ姫にこきつかわれることに喜びを感じてしまったシンジくんも、末永く
幸せを感じて暮らしましたとさ。

めでたしめでたし。

fin.

                        ●

<ミサトのマンション>

ここは、2015年のミサトのマンション。

ううううう・・・・っ。ぼくは、こんなに酷くないからいいなぁ。

シンジは、涙を溜めておとぎ話を読んでいた。どうやら、そのおとぎ話の主人公に感情
移入しているらしい。

「シンジっ! 何読んでるのよ!」

「えっ? うん、ちょっと。」

アスカが覗きこんできたので、シンジはサッと本を背中に隠した。

「ふーん、まぁいいけど。それより、早くご飯作ってよ。お腹ぺこぺこなんだから。」

「あっ、ごめん。すぐに作るよ。」

「そうだ、今日の体育でちょっと疲れちゃったから、ご飯の前に腰揉んでくれない?」

「うん・・・いいけど。」

ピロピロピロ。

その時、お風呂の入った音が聞こえてきた。

「ちょっとまってて、お湯止めてくるから。」

「温度、間違えてないでしょうねぇ。」

「うん、ちゃんとお湯加減みてから入れたよ。」

シンジは、バスルームにお湯を止めに行く。そして念の為お湯加減も見るが、いい温度
だ。時と場所が違えど、シンジはアスカの尻の下に敷かれるのが運命なのだろうか?

うん、大丈夫だ。

自分の作ったご飯を美味しそうに食べたり、自分の入れたお風呂に入って喜ぶアスカの
笑顔を思い浮かべると嬉しくなる。

尻に敷かれどやはりシンジは、そんなアスカとの生活こそが幸せのようだ。

めでたしめでたし。

fin.
作者"ターム"へのメール/小説の感想はこちら。
tarm@mail1.big.or.jp
おまけ小話 -狼にご用心-

あるマンションに、母親と一緒に暮すシンジくんとい
う14歳の少年がいました。
「シンジ、ちょっと買い物に行ってくるから、知らな
  い人が来てもドアを開けちゃ駄目よ。」
「うん、わかってるよ。」
そして、母親のユイは買い物に行きました。
それから1時間ほどして。
ピンポーン。
あっ、母さんかな?
シンジくんが扉を開けようとすると、声がしました。
「母さんよ! 扉を開けなさいっ!」
「違うよっ! 母さんはもっと優しい喋り方をするん
  だっ!」
扉の外に立っていた少女アスカは、ばれてしまったの
で、その場は立ち去りました。
それから、数分後。
ピンポーン。
あっ、母さんかな?
シンジくんは、今度は用心して覗き穴から外を見まし
た。
「母さんですよ。扉を開けて頂戴。」
喋り方はユイの様ですが、外には赤毛の少女が立って
いました。
「違うよっ! 母さんの髪は黒いんだっ!」
アスカはまたばれてしまったので、その場を立ち去り
カツラを買いに行きました。
それから、数分後。
ピンポーン。
あっ、母さんかな?
「母さんですよ。扉を開けて頂戴。」
覗き穴から外を見ると、黒い髪をした人が立っていま
した。でも、その瞳は青色でした。
「違うよっ! 母さんは目も黒いんだっ!」
アスカはまたばれてしまったので、その場を立ち去り
カラーコンタクトを買いに行きました。
それから、数分後。
ピンポーン。
あっ、母さんかな?
「母さんですよ。扉を開けて頂戴。」
覗き穴から外を見ると、黒い髪をして黒い瞳をした人
が立っていました。
「あっ! 母さんだっ! 今開けるねっ!」
騙されてしまったシンジくんが扉を開けると、コンタ
クトを外してカツラを取ったアスカが飛び込んできま
した。
「あっ! 母さんじゃないっ!!」(@o@)
「がぉぉぉぉぉぉーーーーー!」(*^^*)
アスカはシンジくんに襲いかかりました。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」(*^^*)
シンジくんはアスカに食べられてしまいました。
めでたしめでたし。(*^^*)

fin.
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