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知らなかったから2
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作者注:この小説は、"知らなかったから"との繋がりは全くありません。
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<オーストラリア支部>

ネルフのオーストラリア支部には、現在チルドレン3人とエヴァ4体が保有されている。
ネルフ支部の力関係で言うと、中堅のクラスではやや上位に当たる支部。

チルドレンは、12歳のムサシ,ケイタ,アリッサという少年少女達が勤務している。
つい先日迄は、シンディーというチルドレンがリーダーを努めていたが、何か思うとこ
ろがあったらしく引退してしまった。

そこでアンドリュー作戦部長は、新たなリーダーが必要であろうと考えた。ムサシ達は、
まだ12歳という年齢であり経験も浅い為、リーダーは無理というのが彼の判断。
リーダーとなる素質に、年齢が判断材料になる当たりが彼らしいやり方とも言えるかも
しれない。

「俺が、今度お前達のリーダーになるデビッドだ。」

アンドリューからムサシ達に新しいリーダーが紹介される。体格は一見細身だが、腕の
太さなどからかなり鍛えていると思われる19歳の青年。彼は、今回のことでオースト
ラリア陸軍から推薦された将校の候補生であり、気質も根っからの軍人と言った雰囲気
を漂わせている。

「俺がリーダーとなったからには、今迄の様なわけにはいかんぞ。ビシビシ鍛えるから
  覚悟するんだなっ!」

「「「はい。」」」

高圧的な態度で接するデビッドに、まだ年齢のいかないムサシ達はやや緊張気味に返事
を返す。そんな様子を作戦部長であるアンドリューは、頼もし気に眺めていた。

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                        :
                        :

それから、2週間と少しが過ぎた。デビッドはある閉ざされた部屋で、アンドリューに
真剣な表情で話を持ち掛けている。

「ケイタについてです。とてもじゃないですが使い物になりませんよ。」

「そうなのか?」

「足手纏いもいいとこですよ。」

「しかしなぁ、他にチルドレンがおらんからな。」

「そこで・・・なんですが。エヴァとシンクロできる優秀な人間が、我が陸軍の後輩に
  1人見つかったということなんです。」

「そうなのか?」

「自分とほぼ同レベル。18%近くでシンクロできると聞いています。」

「頼もしいな。」

「ここはいっそケイタを除名し、そいつにチルドレンをさせてみてはいかがでしょうか?」

「あぁ、君がそう言うのなら任せるか。」

「ありがとうございます。」

アンドリューから許可を貰ったデビッドは、ニヤリとして部屋を出て行くと、早速行動
に移りチルドレン達を徴収する。

「お前達に重大な話がある。」

ムサシ,ケイタ,アリッサを、一列に前に並べていつものごとく高圧的な態度で話し始
める。

「今日限り、ケイタには退役して貰うことになった。」

「えっ!?」

現状が把握できず、自分の耳を疑いながらも思わず驚きの声をケイタが漏らす。側に立
っていた同期の2人も、理由も何も無いいきなりの宣告にまさかの表情を浮かべる。

「以上だ。除名手続きは既に済ませてある。」

「・・・・・・。」

「どうしてですかっ!」

唖然として何も声に出せないケイタに変わってムサシが抗議するが、デビッドは有無を
言わさぬ鋭い目つきでさらりと返す。

「素質が無いからだ。そんな人間はネルフに必要無い。」

「そんなっ! これまで、ケイタも頑張って・・・」

「決定事項だ。解散しろ。」

どうやら抗議は受け付けられない様だ。全く聞く耳を持たないデビッドは、3人のチル
ドレンを無視して部屋を退室して行く。

その後、後に残された3人は、ケイタを中心にどうしていいのかわからず、ただ途方に
暮れていた。

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                        :
                        :

それから2日後。ケイタに変わって陸軍から新たなチルドレンがやってきた。名前をリ
ーと言う。年齢は、17歳のこちらも体格の良い男子で、シンクロ率を16%前後出す
素質を持っていた。

「今日からお前達と一緒に戦うことになったリーだ。軍学校に入ったのは、お前達の年
  くらいだから、先輩として指導してやる。宜しく頼むぜ。」

「・・・・・・。」
「・・・・・・。」

デビッドが来た時は、素直に返事を返したムサシとアリッサだったが、今回は成り行き
が成り行きなので、返事をする気になれない。

「おいっ! 返事せんかっ!」

「は、はい・・。」
「はい。」

今まで一緒に頑張ってきたケイタのことを考えると、ムサシもアリッサも素直に従う気
になれなかったが、怒鳴られた手前、仕方なく返事を返す。

それからというもの、デビッドとリーを中心とした軍隊式の訓練が、ムサシとアリッサ
に強いられることとなった。

<休憩室>

今日も、夜遅く迄休み無くぶっ続けで訓練されたムサシとアリッサは、体も精神もへと
へとになって、プラグスーツを着たまま休憩室に座り込む。

「ねぇ、ムサシ。わたし、もう耐えれそうにない・・・。」

「何言ってんだ。ケイタの分まで頑張って、見返してやるんだって言ったじゃないか。」

「でもっ! 今日だって、ずっとシンクロしたまんま、シュミレーションの連続じゃな
  い。おかしくなりそうなのよっ!」

「だからって、逃げてどうするんだよっ! 頑張ってっ! 力を付けてっ! ケイタを呼
  び戻すんだ。」

「だって、あんなの訓練じゃないじゃないっ! なんだか、ただ痛めつけられてるだけ
  って感じよっ!」

「・・・・・・。」

2人は、初めて本格的な訓練をした時のことを思い出していた。あの時も、辛い訓練を
必死で頑張ったが、頑張れば頑張るだけ自分でも力が付いて行くのがわかった。1週間
だけだったが、尊敬すべき指導者に恵まれ充実した日々だった。だが今は・・・。

「でも、頑張るんだっ! 負けちゃ駄目なんだっ! ケイタの分まで頑張るんだっ!」

「わかってる・・・わかってるけど・・・。」

「アリッサ・・・。今日は特にハードだったから、疲れてるんだ。もう帰ろう。」

「うん・・・。」

「明日、また頑張ろうな。俺も頑張るからさ。」

「ごめん・・・。そうねっ! 頑張らなくちゃ。」

「そうさっ! 頑張ってケイタを呼び戻すんだっ!」

ムサシとアリッサは厳しい訓練の中、ケイタを再びチルドレンとして呼び戻すことだけ
を夢見て、毎日をがむしゃらに頑張り続けた。

そんなある日。

シュミレーションが始まる前に、2人の前に今日もデビッドとリーが悠然と胸を張って
立ちはだかった。

「アリッサ。お前はもういい。」

「え?」

「訓練について来れない様な奴はいらん。来なくていい。」

「そんなっ! わたし、一生懸命やってますっ!」

「そうですっ! アリッサは、文句も言わずに頑張ってるじゃないですかっ!」

アリッサに続いて、ムサシも抗議の声を上げたが、デビッドとリーは無言で睨み返して
来る。

「アンドリュー作戦部長にも話は通してある。今日から新しく、このロスがチルドレン
  になることに決まった。」

デビッドの後ろに立っていたロスと呼ばれた男が、近付いて来る。この男も陸軍の学校
に通う17歳の生徒だ。

「時間の無駄だ。わかったら、さっさと帰れ。」

「そんなっ! デビッドさんっ!」

何としてもアリッサだけは守りたいムサシ。必死で抗議しようとするが、アリッサがそ
の腕を引っ張った。

「もういいわ・・。ムサシまで除名されちゃう。」

「でもっ!」

「わたし。ムサシのこと応援してるから。頑張って。」

「そんなのっ!」

「仕方無いじゃない。実力無いの自分でわかってるから・・・。でも、ムサシだけは頑
  張ってね。」

アリッサはそう言うと、涙を浮かべた目でムサシに微笑み掛けながら、早足で部屋から
出て行った。

「くそっ!」

後に残されたムサシは、拳を握り締めて無力な自分に腹を立てていたが、こうなっては
自分だけでも絶対に残って2人を呼び戻すんだと、誓いを立てシュミレーションルーム
へと入って行った。

<ファミリーレストラン>

ネルフ本部から車で少し走った所にあるファミリーレストランに、デビッド,リーそし
てロスの3人は、食事をしに来ていた。

今日のメニューは、豪華なサーロインステーキで、3人共なにやら嬉しそうである。

「あの馬鹿作戦部長。俺が一言言ったら、ほいほい言うことをききやがる。」

「これで、デビッドさんも大佐に鼻高々で会えますね。」

「あと1人いればな。全てのエヴァを占有できるんだがな。」

「まだ見つかっていないみたいですね。」

「まぁいい。もう十分だろう。」

「ネルフなんかが、でかい顔するのも後少しってわけですね。」

「わはははははは。」

上等な厚いステーキを口に頬張りながら、高笑いを浮かべる3人の陸軍将校候補生。何
もかもが順調に運び、出世街道が目の前に迫り、機嫌も上々の様である。

「まぁ、俺にかかればオーストラリア支部くらいこんなもんさ。」

スプーンをぐにゃぐにゃ曲げて弄びながら、ふんぞり返って自慢気に得意顔で喋るデビ
ッド。

「スプーンを曲げちゃ駄目よ?」

その時、ウェイトレスがスプーンを曲げるデビッドに注意してきた。アルバイトらしい
が、それにしてもやけに若く見える茶色い髪のショートカットの少女である。

「なんだお前? うるせーなぁ。」

「あなた達、陸軍の人?」

「おいっ! お前っ! 話を聞いてたのかっ?」

「え? 陸軍とかなんとか、ちらっと聞こえたんだけど・・・。違ったかしら?」

「いや、何でもない。」

「ふーん。」

「邪魔だっ! さっさと行けっ!」

茶色い髪の少女は、デビッドに怒鳴られると素直にその場を離れて行こうとするが、最
後に少し振り返ると目を細めて笑みを浮かべた。

「あんまり、おいたしちゃ駄目よ。アハハ。」

スプーンのことを言ってるのだろうか。わけのわからないことを言って走り去って行く
少女を、デビッドはぽかんとして見送る。

「なんだ? あのガキ?」

ともかく、今日は気分も良い。3人は気を取り直して、ステーキを口に頬張り、その後
も今後の自分達の未来の話に花を咲かせるのだった。

<陸軍基地>

デビッド達は、久し振りに陸軍の基地へと帰って来ていた。さすがにネルフにいる時と
は違い、先輩達があちこちにいる為、緊張した面持ちで周りの人達に挨拶をしつつ、建
物へ入って行く。

「どうだ。首尾は。」

とある会議室に入ると、軍の将校らしき男が3人を出迎えた。

「はっ! 既にエヴァ3体は我々の自由です。そろそろ作戦決行の時期かと。」

「そうか。最後の1体もなんとかしたかったが、やむを得んな。」

できることなら、エヴァ全機を確保したかったのだが、陸軍の中でシンクロできる可能
性のある人間が、どうしてもこのデビッド達3人しか見つからなかった。

「大佐。作戦の決行は、いつに?」

「あぁ、準備は整っている。数日後にはなんとかなる。また連絡する。」

「はっ!」

「フッ。ネルフなんかにこれ以上でかい面させるものか。」

大佐と呼ばれた男は、ニヤリと笑みを浮かべ腕組みをする。その時、コンコンと扉をノ
ックする音がした。

「誰だ。」

「花屋です。お花を替えに来ました。」

「花屋だと? フン。入れ。」

「失礼します。」

扉が開くと、まだ少女と呼ぶにふさわしい年齢の、眼鏡をした長い黒髪の少女が、花を
腕いっぱいに抱えて入って来た。

「その花瓶の花を替える様に言われました。宜しいでしょうか?」

「あぁ、さっさとしろ。」

「はい。失礼します。」

少女はそそくさと花を取り替えると、持ってきた紙に花瓶に元々飾られていた古い花を
包み込んで作業を終える。

「では、終わりましたので・・・失礼します。今後とも、うちの花屋を宜しくお願いし
  ます。」

「大事な会議中だ。さっさと帰れ。」

「はい・・・。」

眼鏡を掛けた黒髪の少女は、ぺこりと挨拶をして部屋を出て行こうと、入り口の扉を開
けてくるりと振り返る。

「失礼しましたぁ。」

「あぁ。」

「それから・・・。」

「まだ、何かあるのか?」

「その、かすみ草。か弱そうに見えますが、後に棘のある薔薇がいますから、下手に手
  を出したら危ないですよ。」

「あぁっ! わかってるっ! さっさと行けっ!」

「おわかりなら結構です。失礼します。」

ニコリと微笑むと出て行く黒髪の少女。

ようやく邪魔な花屋の少女がいなくなったこともあり、その後は大佐を中心として今後
の作戦会議が進んで行くのだった。

<ネルフ前>

今日も厳しい訓練が終わり、ムサシはデビッド達に囲まれながらネルフ本部を出てきて
いた。

「おい、ムサシ。」

「はい。」

「お前、かなり疲れてるな。」

「いいえ。大丈夫ですっ!」

アリッサ達を呼び戻すと誓ったムサシは、ここで弱みを見せるわけにはいかないと、疲
れを見せない様に自分を奮い立たせて、大きな声で返事をする。

「いや、体は大事だ。明日は訓練を休め。」

「大丈夫ですっ! やれますっ!」

「これは命令だっ! 休め。」

「・・・・・・。」

「わかったなっ!」

「・・・・・はい。」

「わかったら、今日はさっさと帰って寝ろ。」

無理矢理休まされることになってしまったムサシは、デビッドに背中を押されてとぼと
ぼと駅の方へと歩き出す。

「これでいいだろう。いよいよだ。」

「はい。」

「明日は、実際にエヴァを起動して訓練を行う手続きはとってある。その時だ。いいな。」

「「はい。」」

「大佐の部隊が、援護してくれることになっているから、無様なとこ見せるなよ。」

全ては手筈通り。デビッドは後輩2人にニヤリと笑みを浮かべると、自分の未来にエリ
ートコースの道が開けたことを確信していた。

「ちょっとっ!? アンタ達っ!?」

その時、突然、赤毛のロングヘアーに蒼い瞳の少女が、腕を胸の前にがっちりと組み、
3人の前に悠然と立ちはだかって来た。

「なんだ、お前っ?」

「アリッサの友達よっ!」

「はぁ?」

「アンタらが、アリッサをクビにしたらしいじゃないっ!」

「あぁ、あのガキか。それがどうした。」

「なんで、クビにしたのよっ!」

「これは、ネルフのことだ。あのガキが何と言ってるか知らんが、お前なんかに関係な
  いっ!」

「アリッサと、ケイタを直ぐ元に戻して、アンタ達は出て行きなさいっ!」

「このガキっ! 部外者がネルフのことに口を挟めるとでも思ってるのかっ!」
「ワハハハハハハハ。おかしいんじゃねーか、この馬鹿。」

「部外者ですってぇぇっ!? アタシはアリッサの友達よっ! 部外者じゃないわっ!」

「まったく、煩いガキだぜ。諜報部に引き渡すぞっ!」

「フンっ! いいわねっ! 警告したわよっ! アリッサとケイタを元に戻して、アンタ
  達は素直に出て行くのよっ! わかったぁぁっ!?」

「おいっ! 諜報部員呼んで来いっ!」

「アタシはちゃんと言ったからねっ!」

勝ち気な赤毛の少女は、大声で言いたいことを叫ぶと、さっさと元来た道を引き返し通
りに止まっていた無精髭を生やした男が運転する車へと乗り込んで行く。

「フン。諜報部員って聞いたら逃げて行きやがった。ったく、ガキが!」

明日の作戦行動の打ち合わせが陸軍である為、アリッサの友達とか言うわけのわからな
い少女をこれ以上相手にしている暇など無い。デビッド達は、急ぎ足で陸軍へと向かっ
て行った。

<某所の通信回線に流れる会話>

『明日、動くみたいです。ったく、アタシの警告無視するんですよぉ。」

『そう・・・わかったわ。』
『しゃーないなぁ、ワイらもそろそろ出掛けるかいのぉ。』

『別に、アンタに来てくれって頼んでないわよっ!』

『なんやとっ! 命令が無かったら、誰がお前なんかに会いに行くかいっ!』
『で、時間は?』

『はい。情報では、16時ジャストです。』

『わかったわ。』
『おうっ! ほやほや、妹は元気にしとるかっ?』

『元気過ぎてウルサイわよっ! アンタに似てっ!』

『お前に言われたないわいっ!』
『じゃ、明日。』

『はい。久し振りですねぇ。作戦が終わったら、ご飯でも食べに行きませんか?』

『おごりかっ!?』

『アンタに言ってないわよっ!」』

『フフ。ええ、いいわ。』

『やったっ! じゃ、また明日ぁ。』

プチン。

ツーーツーーツーー。

<オーストラリア支部>

翌日。時間は3時30分。シュミレーションのテストを終えたデビッド達は、本日の最
後に予定されている、実際にエヴァを使った訓練を実行しようとしていた。

「いよいよですね。デビッドさん。」

「あぁ、大佐が見ていることを忘れるな。」

「「はい。」」

今日の訓練は、実際の使徒戦に近い状態でやりたいとデビッドが進言した為、本物のラ
イフルを装備した形となっている。準備は万全。

「行くぞっ!」

「「イエッサーっ!」」

プラグスーツに着替えながら、気合を入れる3人。その時、デビッドの携帯電話が鳴り
響く。

「はい。デビッドだが。」

こんな時になんだろうと、不機嫌な様子で携帯に出る。

「アンタっ! アタシの警告聞いてなかったのっ!?」

「なんだ? 昨日のガキか?」

「今からでも遅くないわ。諦めて帰んなさいよねっ!」

「なんだてめぇはっ!」

「これが、最後通告よっ!」

「やかましいっ!」

「返事はっ!? YES? NO?」

「フンっ!」

ブチと回線を切り携帯をロッカーにほおり投げると、プラグスーツに着替え更衣室を出
て行くデビッド。

その頃、とある場所では。

バキャンっ! グシャっ!

「人が話してる途中でっ! 勝手に切ってんじゃないわよっ! あのバカっ!」

怒りに震えながら、携帯電話を壁に叩き付けている赤毛の少女が1人。

「あぁぁ・・・。わたしの携帯ぃぃっ!」

粉砕した携帯電話を見て、涙を流す茶色い髪の少女。

「先輩・・・駄目だったみたいですね。」

「だから、警告なんてサービスいらないって言ったのよっ!」

「そうですね。先輩の言うことをきいてたら良かったですね。わたしが、余計なことを
  言ったのがいけませんでした。」

「別にアンタのせいじゃないわよ。」

「そうですか。ちょっと落ち着きました。だから、先輩も落ち着いて下さいね。そろそ
  ろ出る時間ですから。」

「フンっ! わかってるわよ。行くわよっ!」

「はいっ! 先輩っ!」

「はぁ・・・この携帯、あと5ヶ月使わなくちゃいけなかったのにぃぃ・・・。」

<地上>

量産型エヴァに乗り込んだデビッド達は、訓練と言うことでオーストラリア支部に1番
近い兵装ビルにエヴァを出す。

「リー、ロス。行くぞっ!」

『『イエッサー。』』

次の瞬間、訓練の予定に反して3体のエヴァがオーストラリア支部へ向かって走り出す。

ズババババババ。

突然、火を吹き始めるライフル。それと同時に、オーストラリア支部の通常攻撃兵器が
次々と破壊され始めた。

『何をしているっ!』

焦ったのは、作戦部長のアンドリューだ。何が起こっているのかわからず、慌ててデビ
ッドに緊急通信を送る。

「フンッ。通信回線は途絶しておいて貰うぜっ!」

『おいっ! 返事をしないかっ! デビッドっ! リーっ! ロスっ!』

悲痛な叫び声を上げるアンドリューだが、パイロットからの返事が全く無い。

『電源を落とせっ!』

『はいっ! ・・・・だ、駄目ですっ! 落ちませんっ!』

『なんだとっ!』

パニックに陥るオーストラリア支部の発令所の声が聞こえてくる。

「バカが。今は陸軍が提供するエネルギーで動いてるってのによっ!」

またたく間に距離を詰め、オーストラリア支部に迫って行く3体のエヴァ。

「わははははははっ!」

デビッドは、この時既に作戦は成功したと確信していた。

ゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

「ん?」

その時上空に、飛行機が低空で飛ぶ音が聞こえて来る。不思議に思って見上げるデビッド。

「!」

そこに見えたのは、エヴァのステルス輸送機が2体。

「なっ! なんだあれはっ!」

輸送機には、蒼いエヴァと漆黒のエヴァがそれぞれ1体づつ搭載されている。
羽に見えるは、星条旗。

「ば、ばかなっ! アメリカっ! どういうことだっ!」

『アメリカ支部ですっ! 陸軍の基地へ向かっていますっ! どうしますかっ!?』

「くそっ! 今更引けるかっ! 先にオーストラリア支部を占拠するっ! 他国に介入な
  どさせるものかっ! 行くぞっ!」

まだアメリカ支部のエヴァは上空にいる。今の間に落としてしまえば、後から大佐がい
くらでも交渉してくれるだろう。

ズバババババ。

オーストラリア支部の制圧を焦るデビッド。ありとあらゆる攻撃施設を破壊しつつ進撃
して行く。

ズバーーーン。

しかし次の瞬間、山間からポジトロンライフルの閃光が、リーのエヴァに襲い掛かった。

「なんだっ!?」

デビッドは目を疑った。既に全てのエヴァは制圧したはずなのに、新たなエヴァが3体
現れたのだ。

「くそっ! まだ隠し持ってやがったのかっ! どうせあのムサシとかいうガキ達が乗っ
  てるんだろう。叩き潰すぞっ!」

『『イエッサっ!』』

新たなエヴァが現れたのは予定外だったが、ムサシ程度のチルドレン相手に負けるとは
思えない。デビッドはリーとロスを伴って、一気に攻撃を仕掛ける。

ガンっ! ガンっ!

デビッドのエヴァが、真紅のエヴァに激突。

「おらぁっ! 死ねやっ!」

ATフィールドを中和し、ライフルを連射。

「なっ!?」

だが、デビッドがいくら頑張っても、相手のATフィールドは中和されず全ての弾丸が
弾き返される。

「馬鹿なっ!」

ズガーーーーーンっ!

攻撃できないどころか、逆に自分のATフィールドが完全に中和されてしまい、真紅の
エヴァに蹴り上げられる。

「うわーーーっ!!!」

神経に強烈な痛みを感じつつ、なんとかかんとか立ち上がる。ふと周りの状況を見ると、
リーもロスも残り2体のエヴァに手も足も出せず翻弄されている。

「なんだっ!? なんだっ!? どうなってるんだっ!?」

ズシャンっ!

空高く跳躍し、デビッドの直前に舞い降りて来る真紅のエヴァ。4つ目の顔がモニタの
直前に映し出される。

「大佐っ! 援軍はっ!?」

陸軍基地のある方に目を向けると、先程のアメリカ支部のエヴァ2体が、陸軍が動かな
い様に完璧な防御ラインを築いている。

「く、くそっ!」

なんとか、真紅のエヴァに抵抗しようと立ち上がるが、次の瞬間再び蹴り飛ばされ背後
に転がる。

「わーーーーーーっ!!!」

逃げ出そうと地面を這おうとするが、がっちりと押さえつけられ身動きすらが出来ない。

「わーーーっ! 助けてくれーーーっ!」

ギュイーーーーーン。

次の瞬間、引力に逆らって上昇する感覚を体に感じる。
全ての画面がブラックアウト。
デビッドのエントリープラグが射出される。

「わーっ! わーっ! わーっ! 助けてっ! 助けてくれっ!」

手も足も出せないデビッドは、恐怖に苛まれながら、エントリープラグの中で絶叫を続
けるのだった。

<発令所>

発令所に戻ったデビッドは、必死でアンドリューに言い訳をしていた。

「だから、あれは突然エヴァが暴走した結果なんですっ!」

「反逆を認めないのか?」

「我々がそんなことするはずがないでしょ。信じて下さいよっ!」

「クーデターと聞いたんだがな・・・。」

「誰が、そんな馬鹿な話をっ!」

カシュッ!

その時、発令所の扉が開いて、見覚えのある赤毛のロングヘアーの少女がツカツカと入
って来る。

「アンタ達も、往生際悪いわねぇ。」

「なんだ貴様っ!」

「アタシが、みーんなこの作戦部長に話したわっ!」

「わはははははははっ! 作戦部長ぉーー。こんなわけのわからない小娘の言うことを
  聞いてるんじゃないでしょうねぇ。わはははははははっ! こいつは傑作だっ!」

「フーン。『ネルフなんかにこれ以上でかい面させるものか。』とかなんとか言ってた
  の誰だったかしらぁ?」

「何をわけのわからんことを言ってるんだっ!? ったく。」

「アンタ達、入ってらっしゃい。」

カシュっ!

再び扉が開き、こちらも見覚えのある茶色い髪の少女と黒髪の少女の2人が入って来る。
まさしくその2人は、先日ファミリーレストランであった少女と、花を持って来た少女
であった。

「あなた達が、ファミレスとかぁ、陸軍の会議室とかで言ってたこと、ちゃーんと録音
  してあるんだけどなぁ。」

茶色い髪のショートカットの少女が、ニコニコしながらヘッドホンステレオを見せる。

「うっ・・・。ば、ばかなこと言ってんじゃねぇっ! そんなもん、いくらでも偽造で
  きるだろうがっ!」

「ここまで言ってるのに、男らしくないわねぇ。バッカじゃないの。」

呆れ顔で天を仰ぐ赤毛の少女。

「作戦部長っ! だいたいこいつらは何なんですかっ! ガキの悪ふざけもいい加減にし
  て下さいっ!」

「デビッド君・・・。」

アンドリューでさえ、やれやれと言う感じで口を開く。

「君達は、陸軍だから知らないのも無理はないが・・・。」

「なにがですかっ!?」

「彼女は・・・。」

アンドリューは蒼い瞳の少女に振り向く。

「ネルフ本部チルドレンのリーダ。惣流・アスカ・ラングレー君だ。」

「なっ!」

「この娘達は、本部のチルドレンだよ。」

「じゃっ! さっきのエヴァはっ!」

愕然とするデビッド。陸軍所属とはいえ、自分がいかに無謀な相手と戦ったのかという
ことくらいは安易に理解できる。

「よくもアタシの警告を無視してくれたわねぇ。」

「まさか、こんなことになってたなんて・・・。」

今にして思えば、何度も注意をこの少女達は自分に促し続けていたことに気付く。

「何よっ!?」

オーストラリア支部の諜報部員に囲まれながら、デビッドはぼそりと呟いた。

「知らなかったから・・・。」

                        :
                        :
                        :

翌日、ムサシ,ケイタ,アリッサは、久し振りに3人揃ってネルフへとやって来た。

「アスカさん、ありがとうございました。」

数ヶ月振りに会ったアスカに、ぺこりとお礼をする3人のチルドレン達。

「聞いたわよ。ムサシっ! よく頑張ったわね。」

「はい・・・。アリッサとケイタを呼び戻したかったから。」

「大したもんね。ねぇ、作戦部長? これだけ頑張れたのよ? ムサシをリーダーにして
  あげてもいいんじゃない?」

「ふむぅ。だが12歳でリーダーというのは・・・。」

「あら。アタシなんて14よ? 大して変わんないって。」

「うーん。」

「それに、19歳って言ったって、あんなのリーダーにしちゃーねぇ。」

ニヤニヤしながら、アンドリューを見上げるアスカ。

「うーむ。わかった・・・考えてみよう。」

その後、ムサシは若年ながらもオーストラリア支部のリーダとなる。
この体制が、今後のオーストラリア支部の基軸となっていったのだった。

fin.
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