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シンジの価値
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<ミサトのマンション>

シンジの一日は、6:30に始まる。

ジリリリリリリリリリ。カチャ。

目覚しを止め、布団から抜け出すと、心地よい日射しの中で制服に着替える。

あ! しまった。パンを買っておくのを忘れてた。
今朝は目玉焼きと紅茶だけで、我慢してもらうしかないなぁ。

着替え終わったシンジは、目玉焼きを焼き、サラダを盛り付けてみるが、主食の無い食
事は、いまいち見栄えとボリュームに欠ける。

やっぱり、目玉焼きとサラダだけじゃ物足りないよなぁ。

他に何か材料が無いか、キッチンの周りを探してみると、ミサトがどこかで貰ってきた
魚の缶詰が2つ見つかった。

仕方無い・・・これにするか。

目玉焼きの横に、缶詰の魚を盛り付けてみる。

うーーん、油っぽいけど仕方無いか・・・。さて、そろそろアスカを起こさないといけ
ないな。

朝食の準備が終わったシンジは、エプロンを外してアスカを起こしにかかる。

「アスカーーーー。そろそろ起きてよ。ご飯の用意できたよ。」

いつものごとく反応が無い。

「アスカーーー。」

ドンドンドン。

「うるさい! わかってるわよ!」

昨日アスカは、夜更かししてラジオを聞いていたのが原因で、今朝は特別寝起きが悪い
ようだ。

ひどいよ・・・せっかく起こしてあげてるのに、怒らなくてもいいじゃないか。

しばらくして、制服に着替えたアスカが部屋から出てくる。ほぼ、同時刻にミサトも頭
とお腹をボリボリと掻きながら、起きてきた。

「今日は、パンが無いんです。その代り、魚の缶詰使いましたけど・・・。」

「えっ、あれ使っちゃったの? ビールの摘みにしようと思ってたのよねー。」

「そうだったんですか・・・すみません。」

「まぁ、いいわ。次からパン買い忘れないでね。」

「はい・・・すみません。」

「何これーーーーー!! 卵もサラダも油だらけじゃないの!! 何考えてるのよ、まっ
  たく!!」

朝食が盛り付けられている皿を見たアスカは、ミサトに続き大声でシンジを叱り付ける。

「そんなこと言わないで食べてよ・・・せっかく作ったんだし。」

「朝っぱらから、こんなに油ぎった物を食べれるわけないでしょ! 普段からボケボケ
  っとしてるから、パンを買い忘れるのよ!! 明日は、ちゃんと作りなさいよね!!」

「ごめん・・・。」

アスカは、シンジの作った朝食に手もつけなかった。ミサトは摘みの缶詰が使われたの
で、ブチブチといいながらビール片手に朝食を食べる。

「じゃぁ、ミサトさん、そろそろ学校へ行ってきます。」

「いってらっさい。」

「アスカ行くよ!」

「朝ご飯も食べなかったから、力が出ないわ。カバン持ってよね。」

「もぅ、わかったよ!」

シンジは、自分のカバンとアスカのカバンを持つと、アスカと一緒に学校へ向った。

<学校>

「よぉ、せんせ、惣流のカバンなんか持ってどうしたんや?」

「アスカに持たされたんだよ。」

「なんやてー? そりゃひどいな。せんせも男やったらバシっと言わなアカンで。」

「ちょっと! 人聞きの悪いこと言わないでよね。シンジがアタシの分だけ、朝ご飯作
  らなかったのが、いけないんじゃない。」

「ちゃんと作ったじゃないか。」

「あんなの食べれるわけないじゃん。はい、カバンかしてよね。
  あ! シンジ、今日はお弁当いらないって言ったわよね。」

「え? 聞いてないよそんなこと。」

「今日、3,4時間目の家庭科は調理実習なのよ。みんなで作った物を食べるから、い
  らないわ。」

「それならそうと、もっと早く言っておいてくれたらいいのに・・・。」

「アンタバカぁ? 調理実習があるんだから、そんなのあったりまえじゃん。いちいち
  言わなくても、それくらい考えなさいよね!」

「な、な、なんや、あの女!!」

アスカの言い分にトウジが握りこぶしを固めて、激怒する。

「せんせ、あそこまで言われてなんで黙っとんのや!! ああいう女には、バシっと言
  わなアカンで!!」

「でも、アスカ・・・怒ったら恐いし・・・。」

「せんせーなぁ、男っちゅーもんは怒る時には怒らなあかんで。あないに、女になめら
  れとったら、ろくな大人になれへんで。」

「そんなもんかなぁ。」

「しっかりしーや、せんせ。」

そして、午前中の授業は滞りなく進み、今は昼休み。

自分の分とアスカの分の弁当を食べるシンジ。普段は自分の弁当だけで満足しているの
に、アスカの分も食べなければならない。お腹がいっぱいだが、勿体無いので無理矢理
お茶で胃に流し込む。

ガヤガヤガヤ。

調理実習が終わったらしく、廊下からは女子のにぎやかな声が聞こえてくる。アスカも、
ヒカリや他の友達と一緒に話をしながら帰ってきた。

「あーーーーーーーーーーー!!!」

弁当を食べているシンジを見つけたアスカが、大声を上げて駆け寄ってきた。ようやく
2つの弁当を食べ終わったシンジは、何事かとアスカを見上げる。

「ゲップ・・・どうしたの?」

「なんで、アンタがアタシのお弁当を食べてるのよ!!」

「だって、食べなかったら勿体無いから・・・。」

「今日の調理実習はお菓子だったから、お弁当がいるのよ! どうしてくれるのよ!」

「そ、そんなぁ、だって、朝アスカがいらないって言ったんじゃないか。」

「だからってアンタは、人のお弁当を勝手に食べるわけ!? いらないって言ったら、
  アンタは、ヒカリのお弁当でも勝手に食べるっていうの!?」

「そんなことは・・・ないけど・・・。」

「罰として、サンドイッチ二つと牛乳を買ってきなさいよね! もちろんアンタのおご
  りよ!」

「わかったよ・・・。」

シンジは、立ち上がるとトボトボと歩き出した。

「時間が無いんだから、走って行きなさいよね!」

「もぅ! わかってるよ!」

2人分の弁当を食べた後の苦しい状態で、シンジはアスカのサンドイッチを買いに走っ
た。

<ミサトのマンション>

朝食ではパンが無く失敗したので、シンジは帰り際にいろいろな材料を買い込んできた。
もちろんパンや牛乳も忘れずに買ってある。

ドサッ。

「ふぅ・・・。」

たくさん買ったので、大量のビニール袋をよっこらよっこらと持って帰ったシンジは、
玄関で一息ついた。

今日はハンバーグにしようかな。

リビングに入ると、アスカが寝転がってファッション雑誌を読んでいる。

「アスカ、今日はハンバーグでいいかな?」

「なんでもいいわよーー。」

「じゃ、ハンバーグにするね。」

買ってきた物を冷蔵庫にしまい、挽肉や玉ねぎなど必要な物だけを調理台に並べて、シ
ンジは夕食の準備を始めた。

「あ! シンジ。アタシの部屋のゴミ、溜まってるからそろそろ捨てといて。」

「わかった。」

ハンバーグを火にかけると、シンジは急いで洗濯物を洗濯機に入れ、その後アスカとミ
サトの部屋のゴミをゴミ袋にまとめていた。

プルルルルルルルルル。

ゴミを集めていたシンジの耳に電話の音が聞こえる。シンジがあわてて受話器を取ると、
ヒカリの声した。

「あ、委員長? 今、アスカに代るから。」

『違うの、今日は碇くんに用事があるの。』

「ぼくに?」

素知らぬ顔でファッション雑誌を読む素振りを見せながら、なぜヒカリがシンジに電話
をかけてきたのか気になるアスカは、会話の内容に全神経を集中する。

『後輩の女の子がね、一度でいいから、碇くんとデートしたいっていうのよ。ダメかし
  ら?』

「デ、デーートぉ!? 困るよ・・・そんなの。」

『そうよねぇ。碇くんには・・・』

ガバッ。

突然後ろから、シンジの持っていた受話器をひったくるアスカ。

「ヒカリ! アンタ何考えてるのよ! 鈴原は、どうするのよ!」

『えっ、ア、アスカ・・? ち、違うのよ、わたしじゃなくて、後輩の娘がね・・・。』

突然電話の相手がアスカに代わったので焦るヒカリ。会話の内容も、アスカが聞くと怒
ることくらい重々承知している。

「と・に・か・く・シンジも嫌がってるから、断っておいてよね。」

『も、もちろんよ・・・最初からそのつもりよ・・・一応、碇くんの耳に入れただけな
  のよ・・・・・・ハハハハハハ、そ、それじゃーね。』

ガチャ。

逃げる様に電話を切ったヒカリは、見えないシンジに向って合唱していた。

ギロッ。

シンジを睨み付けるアスカ。

「なに、にやけた顔してんのよ!」

「べ、べつに、そんなこと無いよ、ハハ・・・。」

なんだか、アスカの目が恐い・・・なんとか別の話題が無いものかと、思案に暮れてい
る所へ、ミサトが帰ってきた。

「ただいまーーー。」

「あ、おかえりなさい。今日は、ハンバーグ・・・・あ!!!」

ドタドタドタ。

「あーーーーあ・・・。」

キッチンに戻ったシンジが見た物は、真っ黒になった3つのハンバーグだった。
後からやってきたアスカとミサトも、その惨状に目を覆う。

「まさかアンタ、晩ご飯まで無いって言うんじゃないでしょうねぇー。」

「仕事で疲れたから、お腹がすいてるのよねぇ。シンちゃん、何とかしてよね。」

「ちょーーーーっと女の子にもてたからって、ニヤニヤしてるからこういうことになる
  のよ!」

「せめて、ビールの摘みくらい用意してくれないかしら?」

「また、魚の缶詰なんて、アタシは絶対に嫌だからね!! わかってんの!!?」

「シンちゃんが、魚の缶詰使っちゃったから、お摘みが無くなったのよね。なんとかな
  んないかしら?」

「その焦げたハンバーグ臭いから、どうにかしなさいよね!」

「シンちゃん、お腹減ってるんだから、早くお摘み作ってくれないかしら?」

「なに、ボサっと突っ立ってるのよ! ボケボケっとしてないで早くなんとかしなさい
  よ!!」

怒涛のごとく2人に責められるシンジ。

「・・・・・・・・・・。」

「何ブツブツ言ってるのよ! さっさとしなさいよ!」

「・・・・・・・・・・。」

「えー? 何よ! 何言ってるか聞こえないじゃない! いらいらするわね! 言いたいこ
  とがあるんなら、はっきり言いなさいよ!」

「も、もう!!! 嫌だ!!!!!」

ブツブツ言っていたシンジが、突然大声で叫んだ。

「ちょ、ちょっと、いきなり叫ぶんじゃないわよ。びっくりするじゃない!!」

「ぼくは、アスカやミサトさんの下僕じゃないんだ! なんで、そこまで言われなくち
  ゃいけないのさ!」

「シ、シンちゃん・・・。」

「だいたい、家事当番も交代のはずだったじゃないか! なのに何だよ! カレンダーに
  は、ぼくの名前しか無いじゃないか! アスカやミサトさんの当番はどうなったんだ
  よ!」

「シ、シンジ・・・いきなり、どうしたのよ?」

「もう、こんな家にいるのは嫌だ! 毎日毎日こき使われて! なんだよ! ミサトさん
  もアスカも自分で何もしない癖に、言いたい放題言ってぇ!」

「あ、あの、シンちゃん? そんなつもりじゃ無かったんだけど・・・。」

「もういいよ! 家族だとか何だとか言っておきながら、これじゃただぼくを利用して
  いるだけじゃないか!!」

ダーーーン。

食卓を思いっきり拳で叩くシンジ。アスカもミサトも、普段では考えられないシンジの
様子におろおろとするばかりだ。

「こんな家! もう出て行くよ! 後はミサトさんとアスカの2人で生活したらいいじゃ
  ないか!!」

「ちょっと、シンちゃん!!!」

「シンジ!! 待って!!」

呼び止める2人の声を振り切り、シンジは家を飛び出してしまった。

<公園>

勢いで飛び出したものの、行くあての無いシンジは、ベンチに腰を降ろして途方に暮れ
ていた。しかし、アスカとミサトの態度には、腹が立つので帰る気もしない。

「はぁ、これからどうしよう・・・。」

焦点の定まらないうつろな目で、地面をぼーーーっと眺めるシンジ。そこに、薄暗い電
灯に映し出された人影が見えた。

「碇くん?」

「え?」

顔を上げると、その声の主であるレイの姿が目の前にあった。

「どうして、綾波がここにいるのさ?」

「買い物帰りに、碇くんを見たから。」

「そうなんだ。」

「何してるの?」

「うん・・・。アスカやミサトさんと喧嘩して、家を出てきちゃったんだ。」

「そう。」

「勝手なんだよ! アスカもミサトさんも。」

「これからどうするの?」

「出てきたのはいいけど、行く所も無いんだ・・・ハハっ。」

「私の家に来ない?」

「え?」

「泊めてあげるわ。」

「でも・・・。」

「行く所無いんでしょ?」

「うん。」

「じゃ、行きましょ。」

少し躊躇したものの、やはり好んで野宿をしたくはない。シンジは、言われるがままレ
イに付いて行った。

<レイの団地>

「あがって。」

「うん、ありがとう。」

レイの部屋は、相変わらず殺風景で何も無い。

「夕食は食べたの?」

「まだなんだ。」

「半分あげるわ。」

レイは、自分が買ってきたコンビニの弁当をシンジに差し出す。

「え、悪いよ。ちょっと待ってて、夕食の材料を買ってくるから。」

「わかったわ。」

急がなければ、そろそろスーパーが閉まってしまう時間だ。シンジは走って夕食の材料
と必要になりそうな調理器具などを買いに行った。

いつも、綾波ってコンビニの弁当を食べているのかな?
今日は、ぼくが何か作ってあげようかな。

買い物の帰り道、シンジはレイの食生活を考えていた。何の調理器具も無い所から見て、
自炊しているとは思えない。泊めてもらうお礼に、レイの団地に戻ったシンジは、2人
分の食事を作った。

「綾波、できたよ。一緒に食べようよ。」

「私の分も?」

「うん。」

「いいの?」

「いいんだよ、泊めてもらってるんだから、家事くらいはさせてよ。」

「ありがとう。」

シンジもレイも無口なので、あまり会話は弾まないが、それでも楽しい夕食の時間は過
ぎていく。

                        :
                        :
                        :

ガサゴソガサゴソ。

「何してるの?」

「ちょっと、部屋の掃除でもしようかと思って。」

床に転がるいくつかのゴミを拾い集めるシンジ。

「あ、ありがとう・・・。」

<ミサトのマンション>

その頃、シンジのいなくなったミサトのマンションでは、アスカとミサトは大喧嘩が繰
り広げられていた。

「ミサトがいけないのよ! 何もせずに全部シンジに押し付けるから!!」

「何言ってるのよ! アスカだって何もしてなかったじゃないの!!」

「アタシはちゃんと、当番の時には食事の支度をしてたわよ!」

とは言ってもアスカの当番とは、月に1度あるか無いか程度である。

「見てみなさいよ! 当番表にミサトの名前なんて、どこにも無いじゃないのよ!」

「アスカだって、こんなの無いのと同じじゃないの!」

2人の熾烈な争いは、怒声を辺りに撒き散らしながら夜遅くまで永遠と繰り返された。

<学校>

翌日、朝の早いシンジとレイが一緒に登校したので、案の定一番乗りになった。2人の
間には特に会話も無く、席に座って時間を持て余していると、徐々にクラスメート達が
登校してくる。しかし、授業が始まってもアスカは姿を現さなかった。

そして、1時間目が終了しようという時。

ドタドタドタ。ガラッ。

「あーーあ、やっぱり遅刻かぁ。」

朝、シンジ無しでは起きることができなかったアスカが、大遅刻でやってきた。もちろ
ん、もう1人は今頃リツコに厳しく怒られていることだろう。

キーーーンコーーーンカーーーンコーーーーン。

アスカが飛び込んできた直後に、1時間目の授業終了のチャイムが鳴る。

「惣流さん、今日はどうしたんですか?」

1時間目を受け持っていた英語の教師が、飛び込んできたアスカに遅刻の原因を追求す
る。

「決まってるじゃない。ネルフで至急の用事があったのよ。わかった?」

天下無敵の言い訳である。

「そうですか。仕方無いですね。」

教師もネルフの3文字を出されては、機密に関わるので細かく問いただすこともできず、
引き下がるしかない。もちろんネルフ絡みとなると、忌引き扱いになり遅刻にはならな
い。

「アスカ、今日はどうしたのよ?」

教師が立ち去るのを見計らって、ヒカリがアスカに遅刻の原因を聞く。シンジとレイが
来ているのに、アスカだけ遅れてくるなんて前例が無いことだ。

「まったく、バカシンジが家出なんかするから、起きれなかったのよ!」

「家出?」

「どーせ、鈴原の所にでも泊まってるんだと思うわ。」

「でも、どうして家出なんかしたの?」

「ミサトがいけないのよ。家事を全然せずにシンジにばかり押し付けているから。」

「それは、アスカもでしょ。早めにちゃんと謝っておいた方がいいわよ。」

「そうは言ってもねぇ。」

「帰ってきてほしいんでしょ?」

「それはそうだけど・・・。」

アスカは、4時間目の授業終了まで、どうしたらいいのか考えていた。そして、昼休み。

「シンジ、ちょっと話があるから付き合ってくれない?」

「何?」

「いいから、屋上まで来てよ。」

今からレイと弁当を食べようとしていたシンジは、しぶしぶアスカに付いて屋上に登る。
屋上は、昼休みになったばかりだということもあって、人気はほとんど無かった。アス
カは、近くに人がいない手すりの近くまでシンジを連れて行く。

「シンジがさ、何でもしてくれるから、最近調子に乗って甘えてたかもしれないのよね。
  悪かったと思うわ。」

「・・・・・。」

「昨日ミサトとも話たんだけどさ、これからはちゃんと家事当番を均等に振り分けるか
  ら、家に戻ってきてくれないかしら?」

「アスカ・・・。」

「ダメかな?」

「え・・・う、うん。わかったよ。」

まさかアスカが素直に謝ってくるとは思っていなかったので驚いたが、シンジは少し嬉
しかった。

アスカも、わかってくれたんだ・・・。

教室に戻ったシンジは、昨日のお礼を言いにレイの席に行く。

「昨日は泊めてもらってごめん。でも、アスカが戻ってきてほしいって謝ってきたんだ。
  今日はミサトさんの所へ帰るよ。」

「そう・・・。」

悲しげな表情で、シンジの目を見つめるレイ。

「どうしたの?」

「なんでもないわ。」

せっかく、何もしなくても炊事、掃除をしてくれるシンジを拾ったのに、1日で手放す
ことになり、レイは悲しかった。

<ミサトのマンション>

放課後シンジは、一度レイの団地に寄って荷物を取ってから、ミサトのマンションに帰
った。

「ただいま。」

「「おかえりなさーーい。」」

玄関を開けると、嬉しいことにアスカとミサトが2人してシンジを出迎える。

「さぁ、早く入りなさいよ。見せたい物があるのよ。」

アスカに引っ張られて奥へ入っていくと、リビングには今後の家事当番が書かれている
紙がこれみよがしに置かれていた。

「アスカと話し合ってシンちゃんも納得できるような当番の割り振りを決めたんだけど
  ね、これでどうかしら? シンちゃん。」

その表には、2:1:1の割合でミサト:アスカ:シンジの当番が割り振られて書き込
まれていた。

「え、こんなんでいいんですか?」

「いいのいいのぉ。今まで迷惑をかけたお詫びよ。」

「ありがとうございます。」

本心では、自分のことを気遣ってくれていたことを知り、嬉しくなるシンジ。

「あ、今日はぼくの当番ですね。さっそく晩御飯を作りますから。」

やっぱり家族なんだ、ぼくのことをちゃんと考えてくれてたんだ。

シンジは、嬉し涙を流しながら食事の準備をするのだった。

翌日。

プルルルルルル。

シンジが、TVを見ていると、電話が鳴る。

「はい、もしもし。」

『シンちゃん? あのさぁ、今日はわたしの当番なんだけど、帰るのが遅くなりそうな
  のよね。悪いんだど当番代わってくれないかしら?」

「はい、いいですよ。」

『悪いわね。じゃーよろしくねん。」

ミサトの代りに、食事の準備と洗濯をするシンジだった。

翌日。

「あ! シンジ。」

学校から返ると、アスカの声がリビングから聞こえた。

「何?」

「あのさぁ、今日、体の調子が悪いのよねぇ。今日の当番はアタシなんだけど、代わっ
  てくれないかしら?」

「調子悪いの? 大丈夫?」

「うん、じっとしていたら問題ないから。ちょっと、お腹が痛いだけ。」

スナック菓子をポリポリ食べながら、TVを見るアスカ。

「わかったよ、ぼくがやるから。」

アスカの代りに、食事の準備と掃除をするシンジだった。

そして、一ヶ月が経過した時点で振り返ってみると、なぜか全日程の家事をシンジがす
る結果となってしまったのだが、家事当番表は、2:1:1の割合のまま壁に貼り付け
られている。その、当番表を見る度に、シンジは家族愛を感じて嬉しくなるのだった。





追伸:実は、この当番表には裏の計算がある。ミサトは月の半分は夜勤か帰りが遅くな
      る。その日が全てミサトの当番となっていた。アスカの場合は、月に1度のあれ
      とかさなるであろう1週間が、当番となっていたのだ。

fin.
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