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それ行けシンちゃん
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<ミサトのマンション>

ぼくは、シンジ。
みんなシンちゃんって呼ぶんだ。
なんたってぼくは英雄だっ!
エヴァンゲリオンのエースパイロットなんだぞ。
だから、きっとみんなはぼくのことをシンちゃんって呼ぶんだろう。

そうそう、明日は転校生が来るんだ。
ぼくは英雄なんだから、友達作りも上手くならなくちゃいけない。

でも、どうやったら仲良くなれるかな?
そうだっ! プレゼントをあげよう。

何がいいかな?
そうだっ! 手作りお弁当だっ!

なんたって、ぼくの料理はプロ級だっ!
涙を流して喜んでくれるに違いないぞ。

そこまで思い至ったぼくは、少し早めに寝ることにした。
寝不足は体によくないんだぞ。

「ぐぅ・・・。」

夜中に、目が覚めちゃったよ。
夕方4時に寝たのは早すぎた。少し反省。

でも、明日は学校だから寝なくちゃね。

早く寝なくちゃ。
早く寝なくちゃ。
早く寝なくちゃ。
早く寝なくちゃ。
早く寝なくちゃ。

うーん。寝れない。

ガタン。

その時、リビングの方で物音がした。

泥棒だっ!

こういう時は、英雄のぼくの出番だぞっ。
ぼくはゆっくりリビングへ出て行った。

「ん?」

トイレの電気がついてる。
泥棒も人の子だ。おしっこくらいしたいんだ。
ぼくは慈悲深い。例え泥棒にも慈悲の心は必要だ。
トイレから出るまで待ってあげよう。

「ふぁぁぁぁぁ。」

あれ? アスカ?
アスカが出て来たぞ?
なんで、アスカが泥棒なんかしてるんだ?
まぁいいや。捕まえなくちゃ。

暗いリビングの中、ぼくは気付かれない様に背後から近づいて、一気に取り押さた。

むにゅ。

アスカを捕まえた手に、なんだかやわらかい物がおさまった。
うーん、なんか気持ちいいーー。

むにゅ。むにゅ。

揉んでみた。

「ギャーーーーーーーーーーー!!!」

わっ!
泥棒は、大きな声出しちゃ駄目だろっ!

「こンの変態っ!!!」

ドゲシっ!

                ツーーーーーー。

                        :
                        :
                        :

ん? 朝だ。
どうやらぼくは、リビングの床で寝ていたらしい。
顔が、ものすごーーく痛い気もする。

「アンタっ! いい加減に起きなさいっ! いつまでそこに寝てんのよっ!」

「ん?」

ゆっくりと立ち上がると、既に着替えたアスカがぼくのことを見ているぞ。
んーーー?????
何か怒ってる?

あっ! そうかっ!
今日は学校だから、いつまでも寝てちゃいけないんだ。
だから、怒ってるんだね。

ぼくは慌てて着替えると、お弁当を作り始めた。

あれ?
お弁当箱が2つ・・・。
そうだっ! 1つは転校生にあげるんだった。

ぼくは、赤い小さなお弁当箱を転校生の子用に綺麗に盛り付けしてあげた。
喜んでくれるといいな。

<学校>

学校に付くと、さっそく転校生が紹介された。
体の大きな子だなぁ。

あっ。
自己紹介が始まる。
静かにしなくちゃ。

「ゼルエルです。よろしく。」

そうかぁっ!
ゼルエルくんって言うんだっ!

ぼくのクラスに使徒の転校生は初めてだ。
なんだか、ワクワクするなぁ。

早速ぼくは、ゼルエルくんと仲良くなりたかったから、お弁当箱を持って教室の前へ出
て行った。

「ゼルエルくん。プレゼントだよ。」

「ぼくに?」

「そうなんだ。ぼくが作った最高に美味しいお弁当なんだ。でも、お弁当はお昼休みに
  食べるんだよ。」

みんながぼくのことを注目しているぞ。
きっと、1番にぼくがゼルエルくんと仲良くなったから、羨ましいんだなっ。

「あーーーーーっ! それ、アタシのお弁当っ!!!」

アスカが大きな声を出して立ち上がった。

もうっ! アスカは馬鹿だなぁ。
そんなことを言ったら、ゼルエルくんが気を使うじゃないかぁ。

「えっ? そうだったの? じゃ、これは受け取れないよ。」

ほらぁっ。
ゼルエルくんが、気をきかせて返してきたじゃないか。

「もうっ! よこしなさいよっ! アタシのお弁当を勝手に使徒にやんないでよねっ!」

アスカが前にズカズカと出てきて、お弁当を持って行ちゃったよ。
酷いよ。アスカ。

昼休みになった。
そうだ。ゼルエルくんには、まだ友達がいないはずだ。
ぼくが一緒に遊んであげなくちゃ。
ぼくは英雄だからね。

「ゼルエルくん?」

お弁当を食べ終わってゼルエルくんの所へ行ったら、パンを食べているとこだった。

「一緒に遊ぼうよ。」

「えっ、今パンを・・・。」

「早くっ! 早くっ! ゼルエルくんっ!」

ゼルエルくんはパンをカバンにしまって、ぼくの後を付いて来た。
そんなに、ぼくと遊びたかったのか。
ぼくは、英雄だからなぁ。

「トウジ、ケンスケ。一緒に遊ぼうよ。」

「おう。」
「ほやな。」

2人で遊ぶより、大勢で遊んだ方が楽しいに決まってる。
ぼくはトウジとケンスケも誘うと、運動場へ出て行った。

「♪ゼールエルくん。おーはいんなさいっ!」

ぼくは、ゼルエルくんとなわとびを始めた。
ゼルエルくんは、ぼくとトウジが回すなわとびの縄に急いで入ってくる。
やっぱり、なわとびは楽しい。

「あっ!」

いきなり、ゼルエルくんが引っ掛かっちゃったよ。

「どうして、ちゃんと飛べないんだよ。ゼルエルくんは下手糞だなぁ。」

「だって、ぼくの足。ぶよぶよしてて無理だよ。」

「しまったーーーーーーーーーーーーっ!」

ぼくは、大いに後悔した。

「ゼルエルくんの足って、変だったんだーーーーーーーーーーーーーっ!」

「変って・・・。そんな・・・。」

「ゼルエルくんとやったら、なわとびできないなぁ。見ておくといいよ。」

「・・・・・・。」

無理にさせても可愛そうだからね。
ゼルエルくんにはぼく達が、なわとびをしているとこを見てて貰うことにしよう。

「♪ケンスケくんおはいんなさい・・・」

キーンコーンカーンコーン。

あぁーあ。
もう昼休みも終わりだ。
なわとび楽しかったなぁ。

ぼくが、みんなと一緒に教室へ戻ろうとした時、ゼルエルくんが声を掛けて来た。

「あれ、誰?」

「あぁ、1年生のサキエルちゃんだよ。」

「そ、そう。かわいいね。」

そうかなぁ。
ぼくには、ゼルエルくんの趣味がわかんないよ。

「ゼルエルくん、もしかして一目惚れしちゃったの?」

「そ、そんなっ。」

ゼルエルくんは、顔を真っ赤にしてモジモジしながら俯いてしまった。
そんな何気無い仕草でも、敏感なぼくはすぐ見抜いてしまうんだ。

「やっぱり、好きになっちゃったんだね。ぼくにまかせてっ!」

「ほんと?」

「うん。」

友達の恋路を助けるのも、英雄の仕事だっ。
ぼくは、精一杯ゼルエルくんを応援してあげることにした。

放課後、ぼくは早速行動に出たんだ。

「ゼルエルくん。まずはぼくみたいに格好良くならなくちゃ駄目だよ。」

「どうやったらいいのかな?」

その時、綾波がぼくの前を通り掛かった。
綾波は、ぼくのことが大好きなんだ。

「見てるんだよ。」

綾波が歩いてくる視線の先で壁に凭れたぼくは、教室に飾ってあった花を一輪口に咥え
て、ニヒルに微笑み髪を掻き上げると、流し目で綾波を見た。

うんっ!
完璧だっ!

しばらく綾波を見詰めていると、どんどん近寄って来る。
ぼくに早く会いたいんだな。

「綾波。この花をあげるよ。」

「それ教室の花。戻しておかなきゃ駄目。」

綾波はそう言ってどっかへ行っちゃった。
照れちゃってぇ。

でも、これでゼルエルくんにもやり方はわかっただろう。

「どうだい? ゼルエルくん。わかったかい?」

「駄目だよ。」

「どうして?」

「シンジくんみたいに髪を掻き上げたり、そんな風に壁に凭れ掛かったりできないよ。」

「しまったーーーーーーーーーーーーっ!」

ぼくは、大いに後悔した。

「ゼルエルくんの手って、変だったんだーーーーーーーーーーーーーっ!」

ゼルエルくんの言う通り、そんなトイレットペーパーの手じゃ無理だっ!
ぼくは、ゼルエルくんを傷付けてしまったんじゃないかと、大きく動揺した。

「ごめんね。ゼルエルくん。でも大丈夫だよ。他の方法もあるんだ。」

「そうなのっ!?」

ゼルエルくんは、期待に胸膨らませているようだ。
ゼルエルくんが、目を輝かせてぼくを見ている。
ぼくも、ゼルエルくんの瞳を見詰める。
瞳と瞳が一直線に見つめ合う。友情の証しだね。

「うん。ゼルエルくんの。そのトイレットペーパーみたいな手でも大丈夫なんだ。」

「ト、トイレ・・・。」

丁度その時、廊下の向こうからアスカが歩いてきたんだ。

「見ててね。」

ぼくはゼルエルくんにそう言うと、ゆっくりとアスカに近づいた。
アスカもぼくに気付いた様だ。

距離が離れていても、ぼくに気付くなんて。
アスカは、そんなにぼくのことが好きなんだな。

距離が縮まってきた。
ぼくは両手を広げた。

ガバッ!

そのまま、一気にアスカに抱きついた。

「アスカっ!!!」

「キャーーッ! なにすんのよっ!」

イヤよイヤよもスキのうちとはよく言ったものだ。
ぼくの腕の仲で、アスカがかなり嫌がっている。
そんなに、ぼくのことが好きなんだな。

「アスカ・・・。」

ここでやめちゃー駄目なんだ。
ひっしとアスカを抱き締める。

「好きなんだ。アスカ。」

「えっ・・・。」

アスカの抵抗が無くなった。
ぼくは、頬を赤く染めたアスカの顔をじっと見詰めた。
完璧だっ!

「シ、シンジ・・・。」

うん。
これくらいで、ゼルエルくんもわかっただろう。

ぼくは、アスカから離れて、ゼルエルくんの所まで戻って行く。

「えっ? シンジ??」

「どう? あーやって告白したら、いちころさ。わかったかい?」

「うん。わかったよ。ありがとうシンジくん。」

「シーーーーンーーーージーーーー!!!」

その時、地響きの様な声が背後に聞こえた。
なんだろうと思って振りかえったら・・・。

ドゲシっ!

                ツーーーーーー。

                        :
                        :
                        :

ん? 星が見える。
体が痛い。

どうやら、いつの間にかぼくは学校の廊下で寝てしまってたみたいだ。
こんな所で寝てたら風邪をひいちゃう。
早く帰ろう・・・。

次の日、ゼルエルくんと一緒に、1年のクラスへ決戦に向かった。
いよいよぼくが愛のキューピットになるんだ。

「さぁ、頑張ってね。ゼルエルくん。」

「うん・・・。」

どうやら、ゼルエルくんは緊張しているみたいだ。

「だって、ぼくなんかサキエルさんに比べたら、こんなにずん胴なんだよ?」

ゼルエルくんが悩んでる。

「そんなことを気にしてたのか。ゼルエルくんのばかぁ。」

ぼくはゼルエルくんの鼻の頭を、人差し指でツンと突付いて爽やかに歯を見せて微笑む。

「やめてよぉ。シンジくん。」

「ん?」

丁度その時、アスカが通り掛かった。
ゼルエルくんを元気付けるには、絶好のタイミングだ。

「ほらっ! 見るんだーーーーっ! ゼルエルくんっ! よく見るんだーーーーっ!」

アスカもぼく達に気付いたみたいで、こっちを見た。
よしよし、これで見えるぞ。

「あそこにいるアスカも、こないだ1センチもウエストが太ったんだよっ!!」

「そ、そうなの!?」

「寝てる時、そっと計ったから間違いないよっ!」

「そうだったんだねっ!」

「それでもっ! あーやって元気に生きてるじゃないかっ!」

「本当だっ!」

「だから、ゼルエルくんも元気を出してっ!」

その時、アスカが近付いてきた。
アスカも、ゼルエルくんが元気になったから、きっと喜んでくれているん・・・。

ドゲシっ!

                ツーーーーーー。

                        :
                        :
                        :


「シンジくん。シンジくん。」

「ん・・・ぼくは・・・?」

「寝てたら困るよ。」

「そ、そうだったね・・・あれ? アスカは?」

ぼくはなんだか、痛む顔を押さえながらゆっくりと立ち上がったんだけど、アスカの姿
がどこにも見えない。

「なんか、怒って何処か行っちゃったよ?」

そうか。
折角大好きなぼくに会いに来たのに、寝ちゃってたから怒ったんだ。

でも、今はそんなことを言ってる場合じゃないんだっ!
なんか、顔が物凄く痛いけど・・・まぁいいや。

「さぁ、ゼルエルくん。頑張るんだっ!」

「うんっ! 行って来るよっ! シンジくんっ!」

ゼルエルくんは、サキエルちゃんのとこに男らしく歩いて行った。

『サキエルちゃんっ!』

ぼくの真似をして、サキエルちゃんにひっしと抱き付くゼルエルくん。
うん。それでいいんだ。

「キャーーーーーっ!」

ビシッ! ビシッ!

サキエルちゃんの手から光線が出て、ゼルエルくんの眉間を直撃した。

「痛いっ! 痛いよっ! サキエルちゃんっ!」

「キャーーーーーっ!」

ビシッ! ビシッ!

「痛いっ! 痛いっ!」

ビシッ! ビシッ!

血を吹いて倒れるゼルエルくん。
いったい何があったんだろう?

「変態っ! わたしは、碇先輩が好きなのっ!」

倒れるゼルエルくんにそう言ってサキエルちゃんは、教室を出て行ってしまった。

そうかぁ。サキエルちゃんもぼくのことが好きだったのかぁ。
ぼくがもてるのは仕方ないけど、あんまり使徒は好きじゃないんだけどなぁ。

とにかくこうなったら仕方がないよね。
ゼルエルくんを、慰めなきゃ。

ぼくは、ゼルエルくんの眉間から吹き出していた血をツバを付けて止めてから、ゼルエ
ルくんを抱き起こしてあげる。

「あはははは。駄目だったみたいだね。」

ゼルエルくんは、呆然とぼくのことを見ている。
どうしたんだろう?

「ぼくのことがスキなんじゃ、仕方ないよ。」

「・・・・・・。」

「ゼルエルくんは、ぼくにはとてもかなわないよ。諦めるしかないね。」

チュドーーーーーーーン。

その瞬間、ぼくの周りを真っ白い光が包んだ。

ぼくの身体は、やけどがいっぱいだよ。

あれ以来、ぼくとゼルエルくんはお話をしなくなった。
やっぱり、転校生と仲良くするのは、難しいんだなぁと思ったよ。

fin.
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