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チビシンちゃん
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<ミサトのマンション>

アスカは落ち込んでいた。自分が倒せない使徒をシンジが倒す。正規のパイロットが、
昨日、今日、エヴァに乗ったばかりのシンジに負ける。ショックだった。

今、シンジは入院していると聞いている。せめてもの救いだった。今、シンジの顔は見
たくない。

ガチャ。

玄関の開く音がした。最近ネルフに泊り込んでいたミサトが帰ってきたのだろう。
アスカは無視して、雑誌を読む。

「あ! お姉ちゃんだ!!!」

聞きなれない子供の声に、振り返ると、小さな男の子が、屈託の無い笑顔で走ってきて
いる。

「アスカ、実は・・・。」

「誰よ! この子!」

「シンジくんよ。」

「何、わけわかんないこと言ってるのよ!」

驚くアスカに、ミサトが事情を説明する。エヴァに取り込まれたシンジの事。そして、
サルベージが中途半端に成功してしまったこと。
シンジは、一番幸せだった、母のいる時代の自分を望んだ結果、5歳の子供となってサ
ルベージされたこと。

「じゃ、わたしは、まだ仕事があるから。」

「ちょっと! シンジをどうするつもりよ!」

「よろしくねん。」

「ミサト! ちょっと! 待ちなさいよ!」

事情だけ説明すると、ミサトはそそくさとネルフに戻ろうとする。

「アタシにどうしろっていうのよ! まて! こらぁ!」

しかし、ミサトは既にいなかった。一見冷たそうに見えるが、ミサトはそれどころでは
ないのだ。シンジを再び元に戻さなければならない。家族としても、助けてやりたい。
また、軍人としても、今シンジを失うわけにはいかない。再サルベージ計画遂行の為、
あちらこちらを飛び回っていた。

「お姉ちゃん!!」

アスカの足にまとわりつくシンジ。

「きゃーーーーーーーーーーー!!!」

相手は子供だが、どうしてもシンジを意識してしまう。

「どうしたの? お姉ちゃん。」

「うるさい! あっちへ行ってなさいよ!」

シンジを無視して、自分の部屋へ戻るアスカ。
子供は嫌い。しかも、自分から全てを奪って行ったシンジだ。顔も見たくない。

もう、アタシは知らないからね!

アスカはベッドに転がり雑誌を読むが、集中できない。リビングの静けさが気になる。

「寝たのかしら?」

なんとなく気になって、リビングを覗く。そこには、音を消したTVを見ているシンジ
がいた。

「アンタ何やってんの? 音なんか消して。」

「あ! お姉ちゃん! だって、うるさくしちゃ駄目だって、お姉ちゃんが言ったから。」

はぁ、この子は間違い無くシンジだわ。

「TVくらいいいわよ!」

アスカは溜息をつきながら、冷蔵庫を開ける。

そろそろ、晩御飯作らないといけないわねぇ。野菜炒めくらいなら、買い物に行かなく
ても済みそうね。

夕食の献立を考えながら、ミルクを飲む。

「ん?」

なんとなく視線を感じて、振り返ると物欲しそうな幼い目がアスカを見ていた。

「何よ! ほしいの?」

「え・・・。その・・・。」

「ほしいなら、ほしいっていいなさいよ! 男の子でしょ!」

「うん・・・。」

ニコニコ微笑むシンジ。

「まったく。」

冷蔵庫を開けて、ミルクをもう1本出そうとしたが、ストックが無い。

おかしいわね。もう無くなったのかしら?

ガサゴソと探すが、やはり無い。横には、シンジが笑顔でミルクを待っている。

子供なんだしいいか。

アスカは自分が飲んでいたミルクをシンジに差し出す。

「はい。もう無いから、これあげるわよ。」

「わーい。ありがとう!! お姉ちゃん!!」

よほど喉がかわいていたのか、おいしそうにミルクを飲む。
アスカは、そんなシンジをほっといて、食事の支度を始めた。

シンジが帰って来たってのに、なんでこのアタシが料理しなくちゃいけないのよ。

シンジがエヴァに取り込まれている間の、この一ヶ月で、アスカの料理の腕は上達した。
てきぱきと、夕食を作るアスカ。

「お姉ちゃん。飲んだよ。」

牛乳ビンを持って、アスカの足元にやってくるシンジ。

「じゃ、早く貸しなさいよ。それから、アタシにはアスカって名前があるんだからね。」

「はい。アスカちゃん。」

ゾワゾワゾワゾワ〜〜。

シンジに言われている錯覚にとらわれ、鳥肌が立つ。

「なんて呼び方すんのよ!」

寒気のする自分の体を、自分で抱きしめながら、ついいつもの調子で怒鳴ってしまう。

「うっうっ・・・・わーーーーーーん。」

「ちょっと、アンタ、ちょっと・・・。」

「わーーーーーーーーーーーん。」


「わかったわよ。その呼び方でいいから、泣くんじゃないわよ! まったく! これだか
  ら子供は嫌いなのよ!」

「わーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!」

「もぅ!」

アスカは、作りかけの野菜炒めの火を止めると、シンジの目の高さまでしゃがんだ。

「ほら、その呼び方でいいって言ってるでしょ。泣くんじゃない!」

「だって・・・ヒック・・・・。だって・・・。アスカちゃんに嫌われたのかと思った
  んだもん。ヒック。ヒック。ぼくはいらない子なのかって・・・。ヒック。ヒック。」

「そ、そんなことあるわけないでしょ!!! 何バカなこと言ってるのよ!!!」

「ヒック。ヒック。」

シンジを抱き上げるアスカ。

「グスグス。アスカちゃん。ぼくのこと嫌いじゃない? ヒック。」

「当たり前でしょ!」

「本当?」

懇願するような上目遣いでアスカを見上げるシンジ。

「本当よ。だから、ご飯ができるまで、向こうで遊んでなさいよ。」

「はーーーい。」

頬に涙の後を残したシンジは、笑顔でTVの前へ戻って行った。その様子を確かめると、
野菜炒めの仕上げにかかる。

「シンジ! ご飯できたわよ!」

「はーい。」

シンジは椅子によじ登って座るが、テーブルに顔が出ない。手を上に伸ばして、手探り
で野菜炒めをつまんで食べている。

「本当に世話がやけるわね! こっちきなさいよ!」

「え?」

「いいから、早くきなさいよ。」

シンジは、椅子を降りると、アスカの足元にやってきた。

「何? アスカちゃん。」

「よいしょ。」

シンジを抱き上げ、自分の膝の上に座らせる。

「これなら届くでしょ。」

「うん! ありがとう! アスカちゃん!」

「いいから、早く食べなさいよ!」

膝の上で、満面の笑みを浮かべながら、ご飯を食べるシンジ。

「おいしい!」

アスカの野菜炒めが気に入ったようだ。

「お上手はいいから、早く食べちゃってよ。」

自分のご飯はとうに食べ終わっているアスカだが、シンジがまだ食べているので、その
場を動けない。

「はーい。」

シンジは食べる度に「おいしい。」と口ずさんでいた。

「ようやく食べ終わったわね。じゃ、片付けるから、あっち行ってなさい。」

「はーーーい。」

食器を片付けるアスカ。

まったく、ミサトは! やっかいごとばかり押し付けてくれて!

パリン!

アスカが食器を流し台に入れた時、後ろでコップの割れる音がした。
振り返ると、泣きそうな顔で割れたコップの破片を拾おうとしているシンジが見える。

「アンタ! 何やってんのよ! さわるんじゃないわよ!」

コップの破片に手を伸ばしているシンジを、あわてて突き飛ばす。

「わーーーーん。ごめんなさいーーー! アスカちゃんの手伝いをしようとしたのぉ!
  割ろうとしたんじゃないのーーーー!! わーーーん。」

「わかってるわよ! ちょっと、黙っててよ!」

「ごめんなさいーーーーーーーーーー!! わーーーーーーん!」

「もう! コップの破片があぶないから、突き飛ばしちゃったのよ。悪かったわね。別
  に怒ってるわけじゃないから、泣くんじゃないわよ。」

「グスグス・・・。怒ってない?」

「でも、今度こんなことしたら怒るわよ。そっちで遊んでなさい。」

「グスグス・・・。はーーーい。ごめんなさい、アスカちゃん。グスグス、ヒック。」

「はいはい。」

コップの破片を拾った後、掃除機をかけるアスカ。

まったく、世話がやけるわね。

ピロピロピロ ピロピロピロ。

食器を洗い終わった時、風呂の入った音がする。

さぁ、お風呂に入ろうかな・・・。

「!!!」

ぎょっとして、シンジの方を振り向く。

「シンジ。」

「はーーーーい。」

遊んでいたシンジが嬉しそうに、アスカの側にやってくる。

「アンタ、1人でお風呂入れるわよね!?」

「1人で入ったこと無い。」

・・・・・やっぱり・・・・。どうしよう・・・・。

「アスカちゃんと入りたい!」

「あんたねぇ・・・・。」

「アスカちゃんと入りたーーーーーい!」

「もう、5歳なんだから、1人で入る練習しなさい!」

「グスグス・・・グスグス・・・。」

「あーーーーもう、わかったわよ! 一緒に入ればいいんでしょ! 泣くんじゃない!」

子供なんだから、いいわよね。

結局、アスカはシンジと一緒に風呂に入ることになった。

シンジの体を洗ってやるアスカ。ふと、手が止まる。

もしかして、元に戻った時、今の記憶が残らないでしょうね。

不安になるが、今更考えても仕方が無い。考えないようにして、シンジの体を洗い続け
た。

チャポン。

アスカがシンジを抱きかかえるようにして、浴槽につかる。

「ちゃんと、肩まで浸かるのよ。」

「はーーい。なんだか、アスカちゃんって、お母さんみたいだ・・・。」

お母さんという言葉に、ビクッっと反応するアスカ。

「アンタ・・・・ん?」

力無くアスカによりかかるシンジの顔を覗き込む。

スーーーースーーーー。

さっきまで喋っていたシンジが寝息を立てていた。

「お母さんか・・・。」

寝てしまったシンジを抱き上げる。

「こんなとこで寝るんじゃないわよ。まったく。」

風呂を出るアスカの顔は、少し微笑んでいるように見えた。

<学校>

翌日、アスカはシンジを連れて学校に行った。学校に連れて行くなんて嫌だと、ミサト
に抗議したが、より良い案も無く、アスカが連れて行くことになってしまった。

「おい、惣流。誰やその子は。」

案の定、アスカの周りにはクラスメートが集まってくる。

「ミサトの親戚の子よ。仕事上アタシが面倒みてるのよ!」

アスカはネルフに所属して働いている。仕事の都合といえば、適当にごまかせる。

「ほうかいな。惣流も大変やなぁ。」

「ねぇ、アスカ。その子の名前なんていうの?」

今度はヒカリである。

どうしよう。シンジなんて言ったら変に思われるわよね。でも、隠せやしないし。同姓
同名の子がいたっておかしくないわよね。

「それがね。碇シンジって言うのよ。入院してるシンジも驚いてたわ。」

「えーーーーーー! 本当なの!?」

「本当よ。聞いてみなさいよ。」

「ぼくぅ、シンジくんって言うの?」

しかし、シンジはアスカの足の影に隠れてしい、モジモジしている。

「ほら、シンジ。ちゃんと挨拶しなさいよ。」

「碇シンジ・・・です。」

ちょこっと、顔だけ出して挨拶すると、またアスカの足の影に隠れてしまった。

「アンタ、人見知りするの?」

シンジはアスカの足に一生懸命しがみついて、何かを恐れるようにモジモジしている。

「もう、いいじゃない。初めて会う人が、たくさんいるから怖がってるのよ。」

その日、アスカはシンジを抱きかかえたままで、授業を受ける。
昼休みも、シンジを抱きかかえて弁当を食べる。
休み時間も、トイレに行く時も、ずっとシンジと一緒だった。

5時間目、体育の時間。

見学しているクラスメートに、シンジを頼もうとしているが、シンジが泣き止まない。

「嫌だぁぁぁぁぁ!!! わーーーーーーん。
  アスカちゃんと一緒じゃなきゃ嫌だーーーーー!!!」

昨日、初対面のアスカに、あれだけすんなりと打ち解けたシンジだが、学校の誰にもな
つく様子は無かった。

「いいかげんにしなさい! 体育の授業を受けながら、アンタの面倒見れるわけないで
  しょ!」

「グスグス・・・グスグス・・・グスグス。」

天を仰ぐアスカ。

「もう! 今日だけよ!」

アスカは、欠席届けを出すと、シンジと一緒に見学することになった。

<ネルフ本部>

「わーーーーーーん。嫌だーーーーーー!!!
  アスカちゃんと一緒じゃなきゃ嫌だーーーー!!」

「いいかげんにしなさい!!! エントリープラグまで連れて行くわけにはいかないでしょ!」

「ねぇ、リツコ。うまくいけばサルベージできないの?」

アスカの言葉に妙案を思い付いたミサトが、得意顔で問い掛ける。

「無茶いわないで。アスカが乗っている時にサルベージなんてしたら、アスカが危険だ
  わ。」

得意顔のミサトだったが、リツコに叱咤され、ポリポリと頭をかく。

「わーーーーーん。嫌だーーーー! アスカちゃんと一緒に行くーーーーーー!!」

「ミサト。なんとかしなさいよ。保護者でしょ。」

テストが進まないので、苛つくリツコ。

「ほら、シンちゃん。お姉ちゃん困ってるわよ。いいの? お姉ちゃんを困らしても。」

ミサトは、適当な女性職員を呼び付け、シンジをまかせようとするが、怖がってシンジ
は動かない。ミサトは比較的ましな方で、基本的にアスカにしかなつかないようだ。

「しょうがないわね。リツコ。後は頼んだわ。」

ハーモニクステスト中なので、その場を離れたくなかったが、仕方なくミサトがシンジ
を連れて行こうとする。

「さ、わたしと行きましょうか。わたしならいいでしょ?」

「おばさんと?」

ピキッ!

「シンちゃーーん。お姉さんでしょ? ほらぁ、言ってごらんなさい?」

「お姉ちゃんは、アスカちゃんみたいな奇麗な人のことを言うんだよ。おばさんはおば
  さんだよ。」

ピキッ!

ミサトは髪の毛を逆立てて、無言で強引にシンジを引きずって行く。泣く子も怒ったミ
サトには勝てない。

「ピギャーーーーーーーーーー。恐いよーーーーー!! アスカちゃん助けてーーー!!
  このおばさんがーーーーおばさんがーーーー。ピギャーーーーーーーーーー!!」

一方アスカは、エントリープラグの中で満面の笑みを浮かべていた。

わたしは奇麗なお姉ちゃん・・・ムフフフフ。

「アスカの数値が、以前の数値に戻っています。」

マヤが驚いて報告する。

「あら、本当。自信を取り戻せたのかしら? 何にしても良かったわ。」

                        ●

それから、数週間。アスカはシンジの面倒を見ていた。シンジはアスカにだけ、極端に
なつき、その他の人への人見知りは激しかった。唯一アスカ以外にも、心を少し開いて
いたのはミサトだったが、あの事件以来顔を見るだけで、泣くようになってしまった。

<ミサトのマンション>

アスカとミサトは椅子に座り、晩御飯を食べている。シンジはアスカの膝の上で寝てし
まっていた。

「アスカ。明日、シンジくんの再サルベージを行うわ。」

「え!?」

箸が止まる。

「いままで、ご苦労さま。苦労かけたわね。それも、今日までよ。」

「そう・・・。」

アスカの心境は複雑だった。

「寂しい?」

「そんなわけないでしょ! ただ・・・ただ、バカシンジと一緒に住むよりは、まだま
  しかなって・・・・・・思ってた・・・だけ・・よ。」

アスカは寝てしまったシンジを抱き上げると、食事もそこそこに、自分の部屋に戻って
しまった。

「ごめんね。アスカ。」

エビチュを飲むミサトの心境も複雑だった。

<アスカの部屋>

シンジを抱いたまま、ベッドに横たわる。

「そっか、今日でお別れなのね。」

自然と涙が出てくる。

アタシにしかなつかないシンジ。
アタシばかりを追いかけるシンジ。
アタシだけを見てくれるシンジ。
アタシのシンジ・・・アタシだけのシンジ。

シンジを抱きしめるアスカの頬には、行く筋もの涙が流れていた。

<ネルフ本部>

「嫌だーーーーーーーーーーーーーーー!! 恐いよーーーーーーー!! アスカちゃん
  と一緒じゃなきゃ嫌だーーーーーーーーーーー!!」

泣き叫ぶシンジに顔を背けるアスカ。

「アスカちゃーーーーーーーーーん。ぼくの事嫌いになったの!!!? ちゃんと言う
  事聞くから、嫌いにならないでよーーーー!! アスカちゃーーーーーーん!!」

アスカはミサトに連れて行かれるシンジを、見ないように、声を聞かないように、うつ
むいていた。

「ワーーーーーーーーーーーン。
  アスカちゃんはぼくのこともういらないんだーーーーー!!!
  ワーーーーーーーーーーーーーーーン。」

我慢の限界だった。アスカはシンジの元へ駆け寄り、抱きしめる。

「アンタバカぁ? 嫌いなわけないでしょ! すぐにまた会えるわよ。おりこうさんにし
  てたら、アタシが、今度遊園地に連れてってあげるからね。ちょっとの間おりこうさ
  んにしてなさい!!」

「グスグス。グスグス。本当!? グスグス。」

「約束するわよ。そのかわり、ちょっと、我慢するのよ。」

「はーーーい。グスグス。グスグス。」

シンジは、何度も何度もアスカの方を振り返りながら、ミサトに連れて行かれた。
シンジが見えなくなるまで、笑顔で手を振っていたアスカだが、姿が見えなくなると、
その場にへたりこむ。

「さようなら・・・。」

廊下に座り込むアスカ。

「うっうっうううう・・・。」

廊下に、幾つかの水滴が落ちた。

再サルベージ開始の報が入る。

アスカは、休憩室でジュースを飲んでいた。今までのシンジとの生活が思い出される。

「・・・・・・・・。」

いつまで経っても無くならないジュース。

「・・・・・・・・。」

椅子に座り、床の一点を見つめ続ける。

「・・・・くよくよしたって仕方ないわよ。」

飲みかけのジュースを捨て、のろのろと、司令室に歩き出す。

もう、サルベージは終わったのかしら?

そして、司令室に入った時。

「あ! アスカちゃんだーー!!!
  アスカちゃーーーーーーーーーーーーーーん! どこ行ってたの!」

「え!? なんで!?」

「自信を無くすわ。2度も失敗するなんて・・・。」

リツコがうなだれている。

「失敗!? どういうこと!?」

しかし、リツコは落ち込んでしまい、肩を落としたまま答えてくれない。

「サルベージは・・・その・・・失敗したの。」

横にいるリツコの手前、言いづらそうにマヤが事の成り行きを説明した。

「シンジくんは、今の生活から元に戻りたくないみたいなのよ。」

「シンジ・・・・・。」

シンジを抱き上げるアスカ。

「約束だよ! ぼく、おりこうにしてたんだから、遊園地に連れてってくれるよね!」

「もちろんよ・・・もちろん連れて行くわよ。シンジとアタシの約束だもんね。」

アスカは、シンジをしっかと抱き上げ、頬擦りしながら笑顔で答えた。

けど、アスカには解っていた。近い将来、本当に別れる時がくることを。
それでも、あと少しだけ、一緒に過ごせる時間を作ってくれたエヴァに感謝していた。

アタシだけのシンジ・・・。

fin.
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