VOL.1 社会のはみ出し者は自己変革を目指す scene.C

 

「あ・・・いたいた」

レイが店の中に入ってくる。

「レイ・・・」

シンジは久し振りにレイの顔が見れてつい笑顔がもれる。

「ちょっとね。学校終わったから寄ってみたんだ」

「あ・・・ちょーどもう引けるからさどっかで待っててよ」

「あ・・・ちょっと寄っただけだから」

「それなら送るからさ。裏の自転車置き場のトコで待っててよ」

「うん」

レイはそううなずくと店の外に出ていった。

「アスカに言いつけたろ・・・」

その様子を黙って見ていたトウジがぼそっとつぶやく。

シンジは一瞬顔が青ざめるがすぐに気を取り直してトウジの方へ振り向く。

「い、いーよべつに。困るコトなんにもないから」

シンジの視界の隅にアスカの姿が入る。

「じゃっ待たせてるから」

そう言って急いで控え室に入っていく。

シンジが控え室に入ったのと同時にアスカが店の中に入ってきた。

「うぃーっす。キンロウセーネンたちよ。マジメに働いとるかね?ってシンジは?」

アスカはお目当てのシンジの姿がないのでトウジに聞いてみる。

「逃げるように去って行ったで。たった今謎の美人が来てなぁ。いそいそと帰ってったわ」

シンジに悪いと思いつつも内心修羅場になることに期待して一部始終を話す。

その時のトウジの顔は某指令ばりのにやり笑いだった。

「ふーん・・・」

一部始終を聞き終えたアスカは控え室のほうを覗きこむ。

「やっぱ気になるか?」

トウジはニヤニヤしながら聞く。

「べっつにーカンケー無いケド・・・」

そう言って明らかに不機嫌な顔になるアスカ。

「まだ裏におるかもしれへんで?」

「ふんっ。シンジなんてどうでもいいもんね。あー帰ってゲームして寝よ」

そういいながら店を出て行くアスカ。

トウジは(これで修羅場や。シンジかんにんや・・・)と思いながら一人満足そうな笑顔を作ってアスカを見送っていた。

 

「なによっ。アタシじゃ不満ってーの!」

そばにあった石をけるアスカ。

かなりご立腹である。

「だいたいこーんな美少女に言い寄られてるってーのに!なんで落ちないのよっ」

歩くスピードがだんだんと早くなっていく。

「へぇーそうなんだ」

とそこへ聞きなれたシンジの声が聞こえてくる。

(シンジ?)

目の前の交差点をシンジが通り過ぎていく。

一瞬にして不機嫌な顔がきえ今度はニヤリ顔になる。

そしてアスカはシンジに向かって走りだした。

「シンジっ」

そう言って抱きつくアスカ。

「ア、アスカ!?」

「ひどいっ!ずっとアタシを騙してたのねっ!」

「な、な、な・・・」

しどろもどろになるシンジ。

シンジの隣にいたレイは唖然とその光景を見ている。

「あれは嘘だったの!?」

そう言いながら目を潤ませてシンジを見上げる。

「な、なに言って・・・」

「なーんてコト言いながら浮気現場に女が乱入するってドラマをこの前見た」

そう言ってパッと離れるアスカ。

してやったりの顔になっている。

「ヤ、ヤメロッ。誤解を招くダロッ」

「へぇー招いちゃ困るワケ?」

ジト目でシンジを見るアスカ。

それからはじめてシンジの隣にいるレイの方に顔をむける。

「どーもどーもはじめまし・・・あっ」

固まるアスカ。

「えっ?」

レイも同じく固まる。

しかしすぐにアスカは再起動しシンジの方に向き直る。

「そゆコトでアタシはコレでっ!じゃっ」

アスカは走り去ろうと向きを変える。

「惣流さん!」

そこにレイの声が響く。

「え?」

驚いてレイのほうを向くシンジ。

レイは悲しそうにアスカの方を見ている。

「待って惣流さん・・・」

「そ・・・惣流って・・・」

シンジはレイとアスカを交互に見やる。

しばらくしてからアスカはひきつった笑顔で振り向いた。

「やぁ・・・誰かと思えばセンセーじゃないですかぁ。びっくりしたなーもう」

「惣流さん・・・これは違うのよ・・・」

アスカはぱちくりと目を瞬きする。

がすぐに笑顔になる。

しかしシンジにはその笑顔が作り物の笑顔という事がすぐにわかった。

でもあえてシンジは何も言わなかった。

そんな事を今言っても仕方ないと思ったからだ。

「やーだな、センセー。何も誤解なんて。それにアタシとシンジは何にもないんだし・・・。つーコトで。ほんじゃま、アタシはコレでおジャマさまっ」

そう言って走り去って行く。

シンジはその背中が妙に寂しく思えた。

 

「・・・彼女ね。私のクラスのコなの」

歩きながらレイは聞こえるか聞こえないかぐらいの大きさでつぶやいた。

「ふーんそうなの・・・」

「彼女さ・・・明るくていいコなの。授業中は誰とでも分け隔てなく明るく接してるし・・・でもね。休み時間とかはいつも一人でいるの・・・一人でいるというより誰とも関わりたくないって感じなの・・・」

「そーなの?そんな風にはみえないけどなぁ」

「・・・そういえば。彼女と知り合いなんてイガイだね?ずいぶん親しそーじゃない」

慌ててレイの方を見る。

シンジにはレイが少し怒ってるように見えた。

実際には普通に意外そうな顔をしていたのだが・・・

「そ、そんなこと無いって!!ただの店の常連なんだから!」

レイは最初シンジの声にびっくりしていたがシンジの話しを聞いて笑顔になる。

「・・・仲良くしてあげてよ。あの娘ちょっと変だけどほんとにいいコなんだから」

「えっ・・・」

シンジはレイの言葉を聞いて一気に落ち込む。

「どしたの?」

「いえ・・・」

「そう?」

レイはそのままシンジをおいて歩きはじめる。

シンジもレイの後をとぼとぼ歩くのであった。

 

「じゃ・・・送ってくれてありがと」

レイは階段の前でシンジに振りかえってお礼を言う。

「ううん。おやすみ」

「おやすみ」

シンジはレイが階段を上って行くのを笑顔で見送る。

上りきったのを確認すると落ち込んだ顔になり自然と溜め息が出てきた。

その後ろにアスカがひょこっと顔をのぞかせる。

そしてそろりそろりと忍び寄る。

シンジはアスカのことにぜんぜん気付かない。

アスカはすぐ後ろまでくるとふぅっとシンジの耳に息をふきかけた。

「わぁっ!」

シンジは驚き飛びあがる。

「ア、アスカ!!か、帰ったんじゃっ!?」

「へへー」

アスカはシンジの反応に満足そうに喜ぶ。

しかしすぐに不機嫌な顔になる。

「なあーにタメイキなんかついってんのよ?レイセンセに何か言われたのかよ」

「アスカにはカンケー無いだろ」

「ふーん・・・あっさりとした別れぎわ・・・なーんだシンジの片思いかぁ」

ニヤリと笑うアスカ。

シンジは一瞬に顔が赤くなる。

「よっ、よけーなお世話・・・!」

自然と声も大きくなる。

その声にアスカにいつもついてきているカラスのカンスケが驚き電線に向かって飛び立つ。

「ふーん・・・やっぱそーゆーコトか」

「なんだよ・・・そーゆーコトって・・・?」

シンジは不思議そうにアスカを見る。

アスカは少し微笑むときりりと顔をひきしめる。

「学生時代の女友達か・・・そりゃあシンチョーになっちゃうよねー」

そういってから考えるように手をアゴの下に持っていく。

「オトモダチ期間が長ければ長い程言い出しにくくなるんだよねー」

「・・・・・」

「ヘタすると周りの友人もろとも失ったりしてねー」

「しっ・・・知った風な口をきくなよな・・・」

「世間のジョーシキじゃん」

少し呆れながら言うアスカ。

「でも・・・ま・・・ダイジョブだよ」

そう言って再びニヤリ顔になる。

「玉砕してもおとなしく身を引けば人間関係にヒビはいるコトも無いさ。そのへんはオトナの度量ってヤツ?あと言われた方のヨユーってのもあるしさ」

そう言ってから微笑むアスカ。

「レイセンセーやさしーヒトだし。ダイジョーブ。何事も無かったかのよ−にオトモダチでいてくれるよ。きっと」

「・・・アクマみたいな女だね・・・」

「シンジってさー悪いオンナにコロっと騙されるタイプだよねーきっと・・・」

「そのへんは重々気をつけておりますですよ」

そう言ってからアスカとは反対方向を向く。

「ウソつきのズーズーしい女は信用しませんので・・・」

「・・・・・」

いつもみたいにすぐ言い返してこないアスカを不思議に思い後ろをちらっと見てみる。

そこには少し憮然としたアスカの顔があった。

その顔に罪悪感を感じ慌てて口をひらく。

「そ・・・そうだ。この前いってた・・・僕と以前会った事があるってヤツ・・・あれ・・・やっぱり思い出せないよ・・・」

「でしょうね・・・アタシ変わったから・・・」

アスカは表情はそのままでシンジを見つめたまま語りはじめた。

「5年前の雨の日・・・」

 

周りは小雨が降り続いている。

その中をシンジが慌てた様子で走っていく。

「これじゃ遅刻だよ・・・」

そうつぶやきながらシンジが受験する大学に行くバスのバス停に向かって走っていく。

その横を大学行きのバスが通りすぎていく。

「うわっ!やべっ」

バスは数メートル先にあるバス停に止まろうとしている。

シンジはそれを見ると一段とスピードをあげながら今朝親から貰った回数券を取り出す。

「そこのおにーさん!落ちたわよ!」

そのシンジに後ろから声が掛けられる。

シンジは慌てて後ろを振り向くとそこには髪をミツアミにしたメガネをかけた制服姿の少女が立っていた。

「これ・・・落ちたわよ」

そう言って少女は1枚の紙を差し出す。

その紙には受験票と書かれている。

「あっ」

シンジは慌ててポケットの中を探る。

ポケットの中の手は空を切るばかりでお目当てのモノをさわることはなかった。

「やっべー一番大事なモンを・・・何やってるんだ・・・」

シンジは少女から受験票を受け取る。

「ありがとう」

シンジは微笑みながらバスに向かっていった。

少女はその微笑みに少し頬を赤くしながらバスを見送った・・・

 

その少女とアスカの顔が重なる。

「そうか・・・あの時の?」

シンジは驚いたようにアスカを見つめる。

「あの時は確か本命の受験日だったんだ」

「感謝しろよ。あの後学校の行き帰りに大学行きのバス停にシンジが並んでるの見るよーになって、アタシ気になってたから・・・ああ、この人合格したんだ良かったなって思ってた」

そう言って少し寂しそうな顔になる。

「高校になって・・・シンジの大学の学祭に行ってシンジのこと捜した事もあったよ」

少しうつむき加減になるアスカ。

「もうバス停で見かけることもなくなったのに何故か・・・忘れられない・・・きっとあの時アタシの中の何かのスイッチが入ったんだと思う。おかしいよね・・・レンアイなんてただの錯覚なのに・・・わかってるのにそれに逆らえないなんて・・・」

「・・・・・」

「それでえんえん五年間も・・・ばっかみたい」

アスカはくるっと後ろを向く。

「あのコンビニでバイトしてるって知ったのは半月ぐらい前・・・この前の朝声をかけるまでずっと遠巻きにみてた・・・」

顔が赤くなっているアスカ。

シンジも同様に赤くなっている。

「・・・・・」

「・・・・・」

キマズイ雰囲気が二人の間に流れる。

すると突然アスカが振り向いた。

「ウソ」

「え?」

「後半はウソ!大ウソ!そんなワケないじゃん!」

アスカは慌ててシンジから離れる。

「ホント・・・ウソなんだからね!そいじゃっ!」

レイに見せた作り笑いをしながらアスカは走り去っていく。

「なんだアリャ・・・わけわからん・・・」

シンジはその後姿を見えなくなるまで見ていた。

「・・・・・」

その一部始終をレイも自宅から無表情で見ていた・・・

 

scene.3  おわり 

 


後書き

20th childrenです。

今回も駄文に付き合ってくださいましてありがとうございます。

今回でアスカとシンジの過去の出会いはおわかりになったと思います。

決してロマンチックな出会いじゃないところが私がこの作品で気に入ってるところの一つです。

上手く表現できたかちょっと心配です。

さて次回でやっと第1話完結です。

シンジ君の片思いどうなるんでしょうか?

知ってる人は知ってますよね?(汗)

では、お楽しみに♪


マナ:綾波さんがアスカの先生だったなんて、びっくりね。

アスカ:アタシというものがありながら、シンジの奴ファーストばっかり気にして。

マナ:だって、嘘吐きアスカと違って、綾波さん大人の雰囲気あるし・・・。

アスカ:嘘吐きアスカですってっ!

マナ:あんまり嘘ばっかりついてたら、信用して貰えなくなるわよ?

アスカ:だーいじょうぶ。嘘の中に真実を混ぜてるもん。

マナ:どこが真実なの?

アスカ:決まってるでしょ。最後の方のアタシのセリフよっ!
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