VOL.1  社会のはみ出し者は自己変革を目指す  scene.D

 

キーンコーンカーンコーン

「はい。今日はここまで。来週は実験だから日直の人よろしくね」

レイはチョークをケースにしまって教室を後にする。

「綾波先生」

教室を出て階段に差掛かったとき女生徒に呼びとめられる。

振り向くと二人組みの女生徒がこっちに走ってくる。

「あのー・・・・・ちょっと質問していーですかぁ?」

「なに?さっきの授業のところかしら?」

「先生この前夜に男の人と歩いてたでしょー?自転車引いた人と並んで家の前通ってましたよー」

興味深々な顔でレイに聞く。

「あぁ・・・あれね・・・あの人は大学時代の友人で・・・」

「えーっ!?カレシじゃないのー!?」

さも残念そうな顔になる二人。

レイは苦笑いするしかなかった。

「あ・・・綾波先生」

その時階段の下から中年の先生があがってくる。

「今、捜してたところなんですよ。ちょっと校長室までいらしてください」

用件だけ伝えると中年の先生はまた階段を降りて行く。

「じゃあそういうことだから」

レイは少しほっとして階段をおりて校長室に向かった。

 

「この前の女の人誰やネン?」

所変わってここはコンビニ『ネルフ』。

今の時間帯は客が少ないので暇にしていることが多い。

トウジは今読んでいる雑誌から目を離しシンジを見ながら聞いた。

先日シンジに会いに来た美女が気になっていたのだ。

「え?」

「この前の美人ダレや?」

「ああ・・・あれは大学時代の・・・」

シンジはなるべく興味無さそう顔をして答えようとした。

「カノジョか?」

「そ、そんないーモンじゃないよ。なんていうか・・・ただのトモダチで・・・今確かそこの高校で教師やってて・・・」

「ふーん・・・じゃあシンジもタイヘンやな」

トウジは視線をさっきまで読んでいた雑誌に移す。

(ヨマレテル・・・)

「もう引けてもええでー」

トウジは雑誌を読みながらシンジにそう告げた。

「わかった」

ふと入り口の方に視線が行く。

(アスカ・・・あれから来ないな・・・)

先日のアスカの姿が目に浮かぶ。

(わけわかんない奴・・・ホント)

 

シンジのアパート

シンジは夕飯も食べ終え部屋で寝ていた。

リーンリーン

寝ているところに電話の呼び出し音が鳴る。

「・・・電話か・・・」

そうつぶやきながら起きて呼び出し音が鳴る方向を見るが肝心の電話の姿が見えない。

どうやら脱ぎ散らかしたままの服の下に隠れているようだ。

「ちょっと待っててね・・・」

シンジは急いで服をどけていく。

やっと目的の物が姿をあらわす。

「はい、碇です」

『もしもし碇君?』

「え・・・綾波?」

『うん。今から出れる?』

「う、うん」

『じゃあいつものとこにきて』

「わ、わかった」

それだけ言うとレイは電話を切る。

(なんだろ?)

シンジは疑問に思いながらもレイとの待ち合わせ場所に向かった。

 

「ごめんね。こんな時間に・・・。店行ったんだけどいなかったから」

「う、うん。べつにいいけど・・・どうしたの?」

シンジはコーヒーに口をつけながらレイに呼び出された理由を聞く。

「んー・・・べつに用ってワケじゃないんだけど・・・ね」

レイもコーヒーを一口飲む。

「そうなの?」

「そうなのよ。ところでさ・・・・」

シンジはレイを見ながらふと思った。

(とりとめの無い無邪気な会話。学生の頃からそうだった。レイは僕の気持ちを知ってか知らずかいつだって無防備だった。でも・・・)

「私ね来年の春からいまの学校本採用になるかも」

「へーよかったじゃん」

(レイはいつでも前向きで僕は・・・レイの”前向き”を見せられると何も言えなくなってしまう・・・)

「ちょっとね。そのこと誰かに言いたくてさ」

「女友達作れよな・・・」

「私にだってトモダチぐらいいるわよー。それとさ・・・」

(こうしてまたいつものようにレイと何気ない話しをする)

「それだけ。送ってくれてアリガト。じゃあね」

「うん。また・・・」

(そしてまたいつものように別れる・・・ああ・・・何やってるんだ僕って・・・)

シンジは消えて行くレイの背中を見つめながらそう思っていた・・・

 

「昨日例の彼女きたで」

いつものようにコンビニのレジの所で暇していたトウジが今思い出したようにシンジに言った。

「あーゆうべ電話あったから・・・」

「シンジってさー何か知らんけどモテモテやん。何で?ヒケツあったら教えてや」

シンジに真剣な眼差しを送るトウジ。

「べ、べつにそんなことないよ。僕なんてただの友達にしか見られてないし」

シンジは苦笑いをしながら話す。

「でも好きなんやろ?」

「え?えーと・・・」

ちらっとトウジの方を見る。

トウジは真剣な顔をしていた。

「うん・・・好きだよ」

シンジは観念したかのように小さい声だがはっきりと告げる。

「で、でも!」

そのあとシンジは顔を赤くして慌てたように話しだす。

「なんていうか・・・このままでもいーかって気になってるんだよ・・・ほら、僕ってこのとーりプーだし。レイはマジメな高校教師なんだよ」

そう言ってからシンジは前に向きなおす。

「なんていうか・・・高嶺の花みたいな・・・僕・・・レイをきっとソンケーしてるから・・・つきあったりしたらそーゆーの無くなると思うし・・・」

「はぁー?何やソリャ?わしには理解できん」

トウジは呆れた顔をしてシンジの方を見る。

「いや・・・べつに理解しなくてもいいよ」

「ふーん・・・なんや・・・人生逃げ腰やなーオマエ」

「え?」

思わぬ言葉にトウジの方を見るシンジ。

トウジは控え室の傍に置いてあった椅子をレジのところまでひっぱり出してきて座ろうとしている。

「なんや・・・ヒクツになっとるように聞こえるで?それともなんや?一生懸命な自分ってのはカッコワルイと思っとるん?」

トウジは椅子に座りあらためてシンジの方を見る。

「そうやって逃げ道作っとんのとちゃうん?どー転んでも自分が傷つかんよーに・・・」

「・・・・・」

シンジは黙ったままトウジの方を見ている。

「なーんて・・・」

トウジはそう言って苦笑いになる。

「ワシも人ン事言えんねんけどな。音楽をプーやってるコトの言いわけにしとるしな・・・」

「・・・・・」

 

(レイの”前向き”を見せられると僕は何も言えなくなってしまう。それは・・・社会のはみ出し者だから一生懸命何かをやってる奴に向かって何も言う資格は無いって思ってるからだ・・・)

シンジは自転車をレイのアパートに進ませながら考える。

(それで僕はヒクツになっているのか?いや・・・本当は”社会のはみ出し者”このフレーズに酔ってるだけだ僕は・・・)

レイのアパートが見えてくる。

(就職しないのも好きな女に打ち明けないのも何らかの結果が出て傷つくよりも結果を曖昧にして自分の体裁を守っているだけなんだ・・・)

シンジは自転車をアパートの前に止めてからレイの部屋までいく。

レイの部屋に1歩近づく度に心臓が破裂しそうなほど早く鳴るかと思えばそうでもなかった。

逆に不思議な事に近づく度に落ち着いてくる。

そしてなんの躊躇もなくレイの部屋の呼び鈴を鳴らす。

「はぁい」

レイがドアを開ける。

「あれっ碇君。どうしたの?」

レイがシンジをみて驚いた顔をする。

「ごめん・・・こんな夜中に・・・ちょっと出てきてくれないかな・・・」

「う、うん。ちょっと待ってて」

レイはそう言って一旦部屋の中に戻って上にコートを着てくる。

「ファミレスとかに行く?」

レイがアパートの前に出た時に聞く。

「いや・・・ここでいいよ・・・」

そう言ったきり俯いたままになるシンジ。

「どうしたの?」

レイは不思議そうにシンジを覗きこもうとする。

するといきなり顔をあげるシンジ。

真剣な顔でレイを見る。

そして意を決して口を開く。

「ずっと前から言いたかったんだけど・・・僕は・・・レイ、キミが好きだ」

一瞬呆けた顔になるレイ。

しかしすぐにちょっと苦笑いになる。

「えーと・・・私もスキだよ」

「だーっ子供じゃないんだからそーゆーイミじゃなくてシリアスな意味で・・・」

またも呆けた顔になるレイ。

シンジはかまわず続ける。

「何だよ今さらって思うかもしれないけど・・・って僕も思ってるんだけど・・・ンでこーゆーのはタイミングを逸するとマヌケだってのもわかってるんだけど・・・」

「うーん・・・まいったなぁ・・・」

困った顔になるレイ。

「やっぱ・・・友達同士じゃいられないのかな・・・」

苦笑いしながらシンジを見る。

シンジの顔からは表情は読み取れない。

「私ね・・・男と女で親友になれるとしたら碇君はかなり近い線だって思ってたんだけど・・・」

「・・・・・」

「私の勝手な思い込みだったのかな・・・ゴメン」

何時の間にかシンジは俯いている。

すでに表情はわからない。

「いいよ・・・」

しかし声はいつもと同じ声が出てきた。

「ちょっとね・・・僕的にケジメつけときたいなって思っただけだから・・・あんまり気にしないでよ・・・んじゃ僕帰るね」

「あ・・・」

シンジはレイの方を見ずに自転車にまたがる。

「用件はそれだけだから・・・じゃ」

レイの声を聞かずに自転車を発進させた。

レイは悲しい顔をしながらシンジの背中が見えなくなるまで見ていた。

 

一台の自転車がスピードを上げて人通りの少ない道を疾走している。

(ああ・・・玉砕は覚悟の上だったろ・・・ええいっ!落ち込むなっ!卒業式の日にフラレる筈だったのを今日まで延ばしてきただけじゃないかっ)

シンジは前を見ずにさらにスピードをあげる。

ガッ

前を見ていなかったせいで空き缶の存在に気付かずに派手にこける。

「・・・ってぇ・・・」

シンジの額や鼻から血が流れ出してくる。

同時にさっきまで流れてなかった涙も流れ始める。

「・・・これでいいんだ・・・これで・・・」

目を瞑り腕で涙を拭う。

「もーーーーーーー人生やめてーーーーーーっ」

闇にシンジの叫び声だけが響く。

それでも人生は続くのである・・・

 

フラレて次の日。

外はシンジの心の中とは正反対の雲一つ無い快晴。

今日も暑くなりそうだ。

シンジは寝転びながら読んでた雑誌を閉じて外を見る。

(天気いーな・・・部屋にいても気が滅入るだけだしな・・・トウジに頼まれてた写真でも撮りに行くか・・・)

シンジはのろのろと起き出してカメラを持って部屋を出る。

ぶらぶらと歩くと何時の間にかアスカと妙な別れ方をした公園に着いていた。

「・・・・・」

そのまま公園に入ってベンチに座る。

小さい子供達がサッカーをして遊んでる姿をぼーっと眺めてるシンジ。

(いつのまにか公園に来ちゃったけど・・・パンクのイメージじゃないよねぇ・・・)

いつのまにか下を向いてしまうシンジ。

「シーンジッ」

「え?」

そこに久し振りに聞く声が耳に入る。

シンジが顔を上げるとそこには久し振りに見るアスカが微笑みながら立っていた。

「・・・アスカ・・・」

「よっ」

アスカはそのままシンジの横に座る。

「・・・・・」

「・・・・・」

二人ともしばらく黙ったまま子供達の遊んでる姿を見ている。

「ここしばらく店に来なかったじゃん・・・」

その沈黙を破ったのはシンジだった。

「気にしてたの?」

アスカは横目でシンジの方を見る。

シンジは相変わらず遊んでる方を見ている。

「ちょっとね・・・」

「ふーん・・・」

少し顔を綻ばすアスカ。

「それに・・・この前ヘンな別れ方したし・・・」

「・・・・・」

じーっとシンジを見るアスカ。

額に貼ってるバンソーコーに気付く。

「そのおでこ・・・どーしたの?」

「うん?これ?」

シンジは視線を少し子供達からはずして明後日の方を見て話し始める。

「アスカが言うところの錯覚に終止符を打たれて自転車ごと転んだ」

アスカは驚いて目を見開く。

「ちょっとね・・・自己変革てゆーやつを試みてみたわけ。ウソつきな自分を思いっきり追い込んでみた。それで逃げ場を失くしたらどーなるのかなって思ったら・・・べつにどうもならない・・・ずっと同じトコロにいるだけ」

そう言って再び子供達に視線を戻す。

「ちょっとね・・・自分がイヤになってるトコ」

「エライなぁ・・・」

ぽつりとつぶやいて立ちあがる。

「え?」

シンジはアスカの方を見る。

しかし表情は髪に隠れてわからなかった。

「アスカ?」

アスカはその声を無視してブランコの方に歩いていく。

シンジもアスカの後を追ってブランコの方に行く。

「・・・ウソつきってさ・・・ウソつきって人にキラわれるけど・・・アタシは好きだな。ウソついていればどれが本心かわかんないじゃん。そーゆーの気楽だよ?他人に対しても自分に対しても」

アスカはブランコに座ってゆっくりとこぎはじめる。

「テキトーにちょーしこいて人と話し合わせてのらくらといい加減に生きてきたよ。アタシは。傷つくのも傷つけるのもシリアスな事は何もなくてってそれでくだらない奴になっていつも一人で・・・でもそれで良かった」

「・・・・・」

「だってアタシ自分が好きじゃないもん。意地っ張りな自分も他人に合わせてる自分も・・・メガネかけてたのもそう。ウソの自分作ってたの・・・視力いい方なのに・・・誰にもアタシの事なんてわかって欲しくなかった・・・」

アスカはブランコを止めシンジの方を見てにっこり笑う。

「知ってる?ウソツキって人に好かれるんだよ。こんな奴でも学園生活何にも摩擦ナシなんだからね。でも・・・」

視線をシンジから外し前に向ける。

「人といるのってけっこーメンドくさいじゃん。ウソツキって何も失くさないけど何も手に入らないんだよね。アタシウソつきだけど初めて人に好かれたいと思った。アタシも逃げ場失くしたのかもね」

(ああ・・・アスカも僕と同類なんだ・・・)

シンジはアスカの独白を聞いてそう思った。

「ねぇ。オオカミ少年の話知ってる?ウソを上手につくコツはね、ウソの中に少しだけ本当の事を混ぜることなんだって」

シンジの顔を見て微笑むアスカ。

「さて、帰ろうかな」

ブランコから立ちあがるアスカ。

それに反応して何時の間にかカンスケがアスカの肩に留まる。

「うん?」

シンジの肩からかかってるカメラに気がつくアスカ。

「いいカメラ持ってるじゃん」

シンジはカメラの方に視線をむける。

「ああ・・・趣味なんだ」

シンジはしばらくカメラを見た後アスカの方に視線を向ける。

「そうだ。写真撮らしてよ」

「は?」

「いいだろ?CDジャケットになるからさ。アマだけどね」

「え?え?」

返事を待たずにシンジはアスカをベンチの前に連れて行く。

「ここでいいの?」

「うん」

「で?どんな顔すればいいのかしら?」

いろいろなポーズをとるアスカ。

その光景を苦笑いでみるシンジ。

「いーよ適当で」

そう言ってカメラを構える。

「いーかげんだなぁ・・・」

ぶすっとした顔になるアスカ。

「ふーん・・・じゃあー月並みだけど・・・」

カシャ

「”イヒヒッ”ってカンジ・・・」

「なによ!シンジのくせにアタシのポーズに文句つけるの!?」

「はいはい。次行くよ」

「あー!?ムシするのね!?」

「いいから早くポーズとって」

「むぅーーーー・・・ところでカメラマンにでもなるの?カメラ小僧?」

「なワケあるか」

こうして人生は続くのである。

ごちゃごちゃ考えたり昨日を振り返ったりくだらない日常は続くのだ。

 

「はい。この前の写真を使ったCDもらった」

そう言ってCDを渡すシンジ。

視線はCDの方じゃなくてアスカの方を見ている。

アスカの反応を見ようとしているようだ。

「えーどれどれ。テレちゃうなー」

アスカはそんなことも露知らず袋からCDを取りだす。

「え?」

CDを見たとたん固まるアスカ。

「な、何よ!コレー!!!」

激怒するアスカ。

ジャケットはアスカの顔が半分入ってるだけでセンターにカンスケがきている。

明らかにカンスケがメインのジャケットである。

アスカはシンジを睨みつける。

しかしシンジは涼しげな顔だ。

「僕はアスカを撮るなんて言ってないダロ?」

「うっ・・・」

反論し様ともシンジの言ってる事が正しいので言い返せない。

「ム・カ・ツ・クーーーーーーーー」

顔を真っ赤にするアスカ。

「人物は撮らない主義なのだ」

一本取ったって顔をするシンジ。

そのシンジから視線をCDに変えるアスカ。

忌々しくCDを睨む。

「・・・くそぉ・・・なんか燃えてきたぞ」

「え?何が?」

アスカは再びシンジの方に視線を向けニヤリと笑う。

「『鳴かぬのなら 鳴かせてみしょう 不如帰』っての知ってる?」

「知ってるよ・・・家康でしょ?」

「秀吉だよ!大卒者!!」

 

scene.D  おわり 


あとがき

どうも20th childrenです。

やっとVOL.1完結です。

長かった・・・(泣)

えっと・・・チェロのソロレコーディングですけど・・・すでに終えてるということで・・・(汗)

決して忘れたわけじゃないんですよ。

さて、VOL.2 ですが・・・なんといろいろなライバル登場ってなカンジです。(にやり)

アスカ様・・・うかうかしてられませんよ?(笑)

ということで続きをお楽しみに!

最後までお読みくださいましてありがとうございました。


マナ:あははははははははっ! カラスより魅力ないんだぁっ!

アスカ:むぅー。シンジのヤツっ!

マナ:完全に無視されてるって感じ?(^^)

アスカ:アタシがいるってのに、ファーストに告白してるしぅ! マジでムカツクわっ!

マナ:よーっぽど魅力ないのね。

アスカ:その上、まだライバルが登場ですってーーっ! ふざけんじゃないわよっ!

マナ:まずは、カラスに魅力で勝たなくちゃ、負けるわね。

アスカ:もう1っぺん言ったら、コロスわよっ!(ーー#

マナ:なんか、目がマジよ?(^^;
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