この想い・・・

其の二


「ええ〜!?」

シンジが言葉を発したのはそれからたっぷりと5分経ってからだった。

「ちょ、ちょっと待って!?」

「なに?」

アスカは笑顔のままシンジに問い返す。

「ぼぼぼぼ、僕のおおおおおお嫁さんんんんんん?」

「そうよ」

にっこりと笑い返すアスカ。

シンジは顔を真っ赤にして口をパクパクとさせている。

「どどどどどうして?」

「許婚だもん」

簡潔にきっぱりと断言するアスカ。

「うそ?」

「ほんと」

「いつのまに?」

「ちっちゃい頃」

アスカはニコニコしたままシンジを見ている。

「どしたのシンジ?」

「い、いや・・・でも何で突然?」

「だって・・・突然シンジが家を出るんだもん」

さっきまでのニコニコ顔から一変くらい顔になるアスカ。

「ねえ?なんで家を出たの?」

アスカが真剣な顔でシンジに聞く。

シンジはさっきまでのおろおろから俯いてしまう。

「シンジ?」

「・・・」

シンジは黙ったままである。

アスカはその顔を見て暗くなってくる。

「やっぱり・・・」

小さく呟くアスカ。

その声にシンジは顔をあげる。

「やっぱり・・・アタシのことが嫌いになったから家を出たのね・・・」

自分で言ってるうちに涙が目元に浮かび今にも零れ落ちそうになってくる。

「ちょ、ちょっとアスカ?」

「いい・・・いいの・・・わかってたことだから。だってちっちゃい頃に会っただけだし」

そして目に涙を浮かべたままニッコリと笑う。

「シンジに好きな人が出来てても仕方ないよね?」

「あ、あのさ・・・」

シンジがおずおずと声をかける。

「いいの。何もいい訳しないで。されると余計に惨めだもん」

アスカは俯いてしまう。

「い、いや・・・だから・・・」

「お願いだからなにも言わないで」

「シリアスなところ悪いんだけど・・・」

「そうだ!!」

突然顔を上げるアスカ。

「うわ!?」

シンジはその場から飛びのいてしまう。

「アタシお嫁さんになれなくてもいいからお側においてくださいまし。アタシは側にいられるだけで幸せだから・・・」

少し頬を赤らめ俯くアスカ。

「あ、あのアスカ?」

「なに?」

俯いたまま上目使いでシンジを見るアスカ。

「ちょ、ちょっと言いたいことが・・・」

「側にいることも許されないの!?」

今度は悲しい顔になりシンジに飛びつく。

「ちょ、ちょっとアスカ!?」

「お願い!末席でもいいからアタシを側にいさせて!」

「末席って・・・なんの?」

「なんならメイドでもいいから!」

「いやそうじゃなくて・・・」

「じゃあ・・・なに?」

真剣な顔のままシンジをじっと見る。

「僕は・・・アスカのことが嫌いで家を出たわけじゃないよ」

(むしろ今の今まで忘れてたけど・・・)

昔のことを少し思い出してそんなことは口が裂けても言えないな、と思ったシンジ。

そこに真剣な目をしたままアスカが口を開く。

「そんなの知ってるわよ」

「・・・」

部屋の空気が静まりかえる。

そしてアスカはにやり顔になる。

「アンタもむっかしから全然変わってないわねぇ〜」

にやにやとシンジを見る。

「そんなの知ってるわよ。て言うか〜アンタのことだから今の今まで忘れてたっぽいわね〜」

「うっ・・・」

「図星ね」

「あ、あのアスカさん・・・?」

「これは罰がいりそうね」

シンジの脳裏に一瞬で幼少の頃の思い出(アスカによる折檻)が蘇える。

アスカはにやり顔のままシンジに近づく。

シンジは後に下がろうとするが後ろはすぐに壁だった。

「シンジィ〜」

「ひい!?」

今のシンジにはアスカは鬼に見えた。

「か〜く〜ご〜」

「た、助けて〜!!」

シンジの中の今日最初に会った時のアスカのイメージが音を立てて崩れていく。

それからしばらくの間部屋からはシンジの悲鳴が聞こえていた・・・

 

 「で?なんで家を出たの?」

20分後。

シンジとアスカは机をはさんで正座をしていた。

「嫌になったんだ・・・」

全身ぼろぼろのシンジが口を開く。

「嫌になった?」

「うん」

「何が嫌になったの?」

「父さん達のすることが・・・」

俯き小さく呟く。

「お義父様とお義母様のすること?」

「そうだよ!!」

突然顔をあげ大きな声で怒鳴るシンジ。

「!?」

びっくりして思わず目が点になるアスカ。

「あ・・・ご、ごめん」

「い、いいわよ。で?お義父様とお義母様のすることがなんで嫌になったの?」

「う、うん。・・・うん?なんでアスカが父さんと母さんって言うのさ?」

「あったりまえじゃない!シンジのお嫁さんになるからじゃない」

「い、いやだからなんで?」

「だから!結婚したらシンジのお父様とお母様はアタシにとってもお義父様とお義母様と同じだからよ」

「ああ・・・なるほど。って結婚!?」

「そうよ」

「どどどどどどうして?」

「許婚だもん」

「いいいいいつの間に?」

「ちっちゃい頃」

「うそ?」

「ほんと・・・って最初に戻っちゃうじゃない!!いいからお義父様とお義母様の何が嫌になったのよ?」

ずずいとシンジに詰め寄るアスカ。

シンジは少し後ろに引いてしまう。

「やることがむちゃくちゃなんだよ・・・」

「むちゃくちゃって?」

「だって・・・」

それからシンジの独白が始まった・・・

 

小さい頃。

まだ小学生になりたての頃。

僕は一家で山にハイキングに来ていた。

初めての山登り。

ちょうど断崖絶壁の崖に差し掛かった頃父さんに呼ばれた。

「シンジちょっと来なさい」

「なぁに?お父さん?」

父さんがにやりと笑っているのにも関わらずに近づいていく。

僕はまだ無邪気だった。

何も知らなかったんだ。

「ほら?下を見てごらん?」

無知だった僕は何の疑問も持たずに崖の下を覗く。

「うわぁ〜高いねぇ〜100mぐらいはあるよね?」

無邪気に笑いながら暢気に感想なんか言っていた。

「そうだな。そのぐらいだろう。そう言えば知っているかシンジ?」

「なにが?」

僕は下を見たまま聞き返す。

多分このとき父さんのにやり顔は最高潮に達していたんだと思う。

「獅子はわが子を崖から突き落とし這い上がってきた子供だけを育てるそうだ」

「へぇ〜そうなんだぁ〜」

無邪気に初めて知った知識に喜んでしまった僕。

この後に起きることなど知らずに・・・

「そこで!我が家もこの教訓を取り入れることにする!!」

「え?」

振り向いたときには遅かった・・・

父さんは振り向くその前に僕の背中を蹴って崖から突き落としていたんだ。

 

「・・・その後のことはあまり覚えてないんだ・・・。命からがらに崖を攀じ登ったんだ。生きる為に」

「そ、そうなの・・・?」

アスカは引き攣った顔で聞いていた。

「よ、よく生きてたわね・・・?」

「あの時はほんとに死ぬかと思ったよ・・・」

しみじみ言うシンジ。

(普通死ぬわよ・・・)

アスカは心の中で呟いた。

「でも!それで終わりじゃないんだ!!」

「え?ま、まだあるの?」

「まだあるさ!あれは・・・」

 

小学校を卒業する前日の夜。

僕は父さんの部屋に呼び出されたんだ。

もうこの頃には父さん母さんに対する警戒心は十分に持ち合わせていた。

はずだった・・・。

部屋に入ると父さんと母さんが机の向かい側に並んで座っていた。

「なに父さん?母さん?」

「そこに座れ」

「何にもない?」

「座るなら早くしろ!でなければ帰れ!」

「・・・じゃあ帰るよ」

そう言って部屋を出ようとした。

その後ろから母さんが声をかけてきたんだ。

「臆病者ね・・・」

「なんとでも言ってくれよ」

「ふふふ・・・じゃあアナタは今から臆病者さん1号ね」

にっこりと笑ってそう言う母さん。

「どうぞ御勝手に」

それだけ言って僕は部屋に戻ったんだ・・・

 

「なによそれ?普通じゃない?って言うか?ただの親子喧嘩でしょ?」

「・・・」

「シンジ?」

「次の日・・・」

シンジは呟くように話しだした。

 

卒業式当日。

卒業証書授与。

僕はどきどきしながら順番を待っていたんだ。

そして僕の前が呼び出される。

(つ、次だ・・・)

ドキドキが最高潮に達したとき呼び出された。

『臆病者さん1号!』

「はい!・・・????」

聞き間違えかと思ったんだ。

僕はその場に立ち尽くしてしまった。

『臆病者さん1号!!』

「ちょ、ちょっと校長先生!!」

聞き間違えじゃなかったことを確認して僕は慌てて教壇に行く。

「なんなんですか?臆病者さん1号って!?」

「君は臆病者さん1号じゃないのかね?」

「違います!」

「そうなのか?じゃあ君の名前は?」

「碇シンジです!」

「碇、碇と・・・」

校長先生は卒業証書を最初から見直す。

「碇なんて名前はないぞ?」

「え?」

「うん。そのような名前ないぞ?」

「そ、そんな・・・せ、先生!なんか言ってくださいよぉ〜」

僕は教壇の横に立っている担任に向かって懇願する。

「何を言っておるのだ?合ってるではないか?」

「え!?」

先生はまじめな顔をして言う。

僕はクラスのほうを向いた。

するとクラスのみんなは僕を『合っているのになんで碇シンジなんて偽名を教えているんだ?』って顔で見ていたんだ。

体育館もだんだんざわついてくる。

(う、うそだろ・・・?)

昨日のことが頭をよぎる。

(ま、まじで!?)

どのような手段で全員に名前を刷り込んだのかはわからない。

しかし全員が僕のことを『臆病者さん1号』として認識していた。

さも昔からその名前であったように・・・

 

「・・・僕は仕方なしに臆病者さん1号で卒業証書を受け取ったんだ・・・」

シンジは涙目で語っていた。

「他にもまだまだあるんだけど・・・これをきっかけに人間不信に・・・あの家を出ようと思ったんだ・・・」

そこでついにシンジは堰を切ったように泣き出してしまった。

アスカは黙ってシンジを抱き寄せる。

「うぅ・・うぅ・・」

「辛かったのね・・・」

シンジの頭を優しく撫でる。

まるで辛い記憶を頭から飛ばすように・・・

「あ、あの家は・・・悪魔の住む館なんだ・・・」

「そうね・・・でももう大丈夫よ」

「アスカ・・・」

シンジは涙目のままだったが安心したような顔でアスカの顔を見上げる。

しかしその顔もアスカの顔を見た瞬間に凍り付いてしまった。

「臆病者さん1号」

アスカの顔は悪魔の顔になっていた・・・

 

続く・・・


あとがき

あ、あれ・・・?(汗)

な、なんか違う・・・(汗)

「藍○」と違うような・・・(汗)

今回はかんぜんぱくりではなく設定をお借りしようと思っただけなんですが・・・

完全オリジナルに近づいたような・・・(汗)

まぁ今回はこれでいいとしましょうか(汗)

次回はちゃんと話しを進めますよぉ〜(ホンマに?/笑)


アスカ:「臆病者さん1号」・・・な、なによそれっ!?

マナ:シンジのお父さんとお母さんって・・・。(ーー;

アスカ:あの髭なら、やりそうだわ。(ーー;

マナ:よく耐えてたわねぇ。

アスカ:耐え切れなくなって逃げ出したんでしょ。

マナ:普通は逃げるわね。

アスカ:でもさぁ、なんだかラブラブとストーリーが掛け離れていってるような。

マナ:それはそれで、いいんだけどねぇ。(^^v
作者"20th children"様へのメール/小説の感想はこちら。
hfi54801@hcc6.bai.ne.jp

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

inserted by FC2 system