背景として、ゼーレとの戦いが終わり使徒が居なくなった世界です。
映画とは異なり、シンジはアスカを助けに行った事にしています(俺、映画の内容好きじゃないから)
そしてネルフのメンバーはレイも含めて全て存在しています。

後、この作品は1024×768の環境で書いてますので、それ以下のサイズだと読みにくいかもしれません(^^;


アスカ様誕生日記念作品

「アタシが1番欲しかったモノは…」

AsukaSide

by あっくん


2016年12月3日。後1日でアタシは15歳の誕生日を迎える………

誕生日。ただ書類等に記入する数字が変わるだけの日………

ママを失ってからはそれだけの日だった………

でも、今年は違った。違う日にしたかったの………

だからさり気なくアタシの誕生日をアイツに意識して貰おうとしたわ………

けど鈍いアイツは全く気付いてくれない………

素直にアタシの誕生日は何時よって言えれば問題はなかったんだろう………

だけどアタシは素直に言えない、そして言えない自分が腹立たしかった………

気付いてくれないアイツが憎たらしかった………

アイツの態度が単なる優しさなのか、それともアタシへの好意の現れなのかが分からない事が苦しかった………

明日は誕生日。ただの数字が変わるだけの寂しい日………
 
 
 
 

アタシは昼休みのリフレッシュコーナーで、明日の事について思い耽っていた。
どうすればシンジに気付いて貰えるだろうか、意地を張らずに素直に祝ってと言うべきだろうか等と。
シンジはアタシにとって最初から気になる存在だったわ。それが何時しか自分の心の大半を占める様になり、
そしてあの激しい戦いの後の看病、側に居てくれる時と居ない時の自分の心の動き、そしてアタシは自分の気持ちを自分の中で認めたの。
アタシはシンジの事が好きだという気持ちを。
けど、アタシはまだシンジに気持ちを伝えてはいない。
拒絶される事が、今の関係を壊すのが怖いから。そして告白はシンジからして欲しいという我が儘から。
でもアタシはシンジに意地悪してばかり、構って欲しいが故の意地悪だ。
こんな事をしていると益々シンジの気持ちはアタシから遠ざかるというのに。

「あ!アスカ、こんな所に居たんだ。探したよ」

アタシがぼんやりと空を眺めながら考えていると、アタシを悩ませている張本人のシンジがアタシに声を掛けてきた。
そしてアタシはいきなりシンジが現れた事に慌ててしまい、またもや心にも無い事を口走ってしまった。

「な?…だ、誰がアタシを探してくれなんて頼んだのよ!アタシはアンタの許可無く何処かへ行っては駄目だって言うの!」

「そんな………別にそんな意味で言ったわけではないよ、アスカ」

案の定、アタシの剣幕な態度にシンジは尻込みした返事を返してくる。
もぉ!どうしてそこでアンタが尻込みするのよ!偶にはガツンとアタシに言い返して見なさいよ!
怒ってくれればアタシだって謝り易いのに………

「あ、そう………で、何なのよ一体。さっさと用件を言いなさいよ。アタシはアンタと違って忙しいの」

どうしてよ!どうしてアタシの口はすぐに文句ばかりが出るの!?
これじゃあ、例え誕生日の事を気付いてくれても祝ってくれるわけない!アタシの事を好きになってくれるわけないじゃない!
口に出した言葉とは裏腹に、アタシの内心はパニックを起こしていた。

「ごめん。実は今日帰りに寄らないといけない所があるんだ。それで今日は先に帰って欲しいのと、
 帰りが少し遅くなると思うからお腹が空いてるなら先に出前でも取って食べてていいよって伝えに…」

「ふん!誰がアンタと一緒に帰るなんて言ったの!自惚れないでよね!
 そ、それに別にアンタの夕食が気に入っているわけでもないから出前でも困らないわよ」

もぉ嫌ぁぁぁぁぁ!!どうしてアタシの口はアタシの言う事を聞いてくれないのよ!!

「そう………じゃあ僕は午後から加持さんとの格闘訓練だから行くね」

シンジは深い溜息を付きつつアタシに背を向けた。
以前より逞しく、そして心も少し強くなってきた筈のシンジの背中は、アタシの目にとっても寂しげな背中に写った。
またアタシはシンジを傷つけた。追わなきゃ、追ってシンジに謝らないと。そう心の中で思ってもアタシの足は言う事を聞かず、
一歩も動いてはくれない。そうしている間にシンジは通路の向こうに姿を消した。

「………………ごめんね、シンジ」

アタシは誰も居なくなったコーナーで、一人呟いた。
 
 
 
 

部屋のベットに寝そべりながらアタシは時計を見た。
時刻は22時42分、既に夜中と言ってもいい時間になっていた。しかし、用があると言っていたシンジは未だに戻って来ない。
ネルフでの仕事を終えたアタシは、真っ直ぐに帰宅したわ。
けれどもシンジに言われた様に出前を取る気にもなれず、ただぼんやりしていたの。

「はぁ………もうすぐ4日、アタシの誕生日なのね。結局今年も祝って貰えない誕生日かぁ〜………
 せめて『おめでとう』ぐらい、シンジ言ってくれないかしら?」

シンジがゲームセンターで取ってきてくれた熊のぬいぐるみを弄りながらアタシは一人呟く。
そしてアタシの思考は同じ結論に辿り着く。

「何アタシは甘い期待をしているの?教えもしない、そして意地悪ばかりしているアタシの誕生日なんかシンジが祝ってくれるわけないじゃん
 ………期待するだけ無駄ね」

もう何度も繰り返した独り言。そして嫌な思考を吹き飛ばそうと思い、シャワーでも浴びようと決めてベットから起きあがった時、
玄関のドアが開く音がアタシの耳に届いた。
そして暫くするとリビングの方からシンジの声が聞こえた。

「あれ?アスカってば何も食べてないのか?」

その声を聞いたアタシは、部屋から飛び出しシンジの居るリビングへと飛び込んで行った。

「シンジ!こんなに遅くまで一体何してたのよ!!」

「わぁ!?あ、アスカ………ちょ、ちょっと用事が手間取っちゃってね」

開口一番、怒鳴り散らすアタシにシンジは慌てて弁解をする。
そのシンジの態度が少しおかしい事に、神経過敏になっているアタシは気が付いたわ。
そしてシンジに近寄り、シンジの胸ぐらを掴むとアタシはシンジを詰問した。

「ちょっとアンタ、アタシに隠し事が出来ると思っているの?一体何をしていたのよ、アタシに教えなさいよ!」

「な、何も隠してなんかいないよ!」

「嘘おっしゃい!じゃあこんな時間まで何をしていたか言ってごらんなさいよ!アタシに隠し事なんてしてないんでしょ!」

アタシは更にシンジに詰め寄り、焦るシンジを厳しく詰問する。
その時だった、シンジの身体………制服から甘い匂いがしたのは。

「そ、それは………」

「それは?」

アタシは問い詰めながらシンジから匂う甘い匂いの正体を考えていた。
そして一つの答えが導き出される。

「だから、そのだね…」

「で?」

この匂いはケーキ独特の匂いだ。
でもどうしてケーキの匂いなんかがシンジに………あ!まさか!?

「えっとだねぇ〜…」

「で?」

もしかしてアタシの誕生日を知ってるんじゃあ………
そうすれば理屈が合うわ。そうよ!大体ミサトや加持さんがアタシの誕生日を知らないわけないし。
そうだわ、きっと明日いきなりアタシを驚かす気なのね♪

「…………………ど、どうしても言わないと駄目かな?」

ふふ、シンジの態度から見ても間違いないわ。
な〜んだ、アタシの取り越し苦労だったわけね。ならここらで苛めるのは止めてあげようかな?
安心してお腹も空いてきたし、苛めるよりご飯を作って貰った方がいいわね♪

「ま、普段アタシに逆らわないアンタが、そこまで言い渋るなら言わなくてもいいわ。
 けど!アタシは何も食べてないからお腹が空いてるの。分かったらさっさと何か作りなさいよ!」

「えぇ!?い、今から?」

問い詰めるのを止めてあげる変わりに、食事を作れと言ったアタシの言葉にシンジは文句らしき言葉を発する。
ったく!アンタがアタシをヤキモキさせるから食事も取れなかったんじゃないの。責任取って作ればいいの!

「そ、今から♪………言っておくけど、レトルトは駄目だからね」

「………はぁ、分かったよアスカ。けど軽い物になるけどいいよね?」

「う〜ん、まぁ仕方ないわね。それで許してあげるわ」

溜息混じりのシンジの言葉にアタシは文句を言ってやろうかと思ったのだが、幾ら何でも言い過ぎかなと思い、承諾してあげたわ。
そしてアタシの返事を聞いたシンジは、ネルフの制服(シンジは青、アタシは赤を基調とした制服)を着たままキッチンへと入っていったの。
 
 
 
 

シンジは冷蔵庫の中身と相談した結果、オムライスとサラダを作ってくれたの。
どうやらシンジも小腹が空いていたみたいで、アタシのより小さめではあるけど、自分の分のオムライスも作ったわ。

「いっただっきま〜す」

「うん」

アタシは手を合わせるとすぐに、目の前のオムライスに手を付けたの。だってお腹がすいてるんだもん。
う〜ん、結構簡単に作っていたけど、美味しいじゃない♪ホント、シンジってば料理が上手くなったわね。
って、アタシももっと料理を勉強しないとなぁ〜………やっぱアタシの手料理を食べさせてあげたいし。
けど、それより先にアタシが素直にならないと駄目ね。はぁ、どうすれば素直になれるのかしら?

「アスカ、食べながらで良いから聞いて欲しい事があるんだけど?」

「ん……何?」

アタシの食事が半分ぐらい進んだ時に、シンジは急に話し掛けてきたの。
あら、シンジは食べ終わっているわね。まぁ小さめだったもんね、当然か。
でも、シンジの声に元気がない気がするわねぇ〜………疲れてるのかな?

「明日の日曜日なんだけどね…」

「明日が何?」

気にばかりしていた日の事が持ち出されたので、アタシはシンジの言葉を遮る形で返事をしたわ。
うぅ、顔に出てなければいいけど。

「うん、明日は日曜日で通常僕達はネルフも休暇なんだけど、ミサトさん、葛城二佐からの命令で僕達に特別訓練指令が出てるんだ…」

何よ、それぇーーーっ!!

アタシはその命令に裏がある事は感じていたのだが、ここで素直に承諾すると逆に疑われるかもと思い、いつものように文句をたれる。

「そんなに怒んないでよアスカ。僕だって今日の帰り際にいきなり言われたんだから」

「で、特別訓練って何をするのよ?」

「さぁ、そこまでは僕も聞いてないよ。それで10時にネルフ本部の第一大会議室に集合だって」

「ったく!アタシ達は正式に軍属になったからと言っても学生、しかも未成年なのに日曜日ぐらいゆっくりさせてよね」

「仕方ないよ、その代わりに給料も貰っているし、いきなり士官待遇での任官で一尉なんだから」

「ま、確かにね。でもエヴァのパイロット時代の方がお金の収入は多かったわね」

「そうだね。でも僕もアスカも既に一生困らないだけの預金があるんだから金額にそれ程拘らなくても…」

「アンタ、言ってる事が変。お金を貰ってるから文句言うなって言いながら、お金はあるから金額には拘るななんて」

「あ!」

「ホント、あんた馬鹿ね。ま、しゃぁ〜ないか、10時ね」

「うん、僕は先に呼び出されているから9時には行かないといけないけど」

ふ〜ん、先に行って準備でもするのね。出来れば一緒に行きたかったけど仕方ないわね。
ん?なんかシンジの顔が寂しげだわ。どうしてそんな顔するの?シンジ。

「ならアンタはさっさと寝なさいよ。アタシも食べ終わったら寝るし」

「悪いけど、そうさせて貰うよ。じゃ、お休みアスカ」

「お休み」

そう言ってシンジは立ち上がると、自分の食器を流しに置いて自分の部屋へと入っていった。
まったく!ネルフの連中も素直じゃないって言うか、隠し事が好きだと言うか。
もしアタシが日曜日に予定を入れていたらどうするつもりだったのかしら?
けれど………祝ってくれるのは嬉しいな。まぁ出来ればシンジと2人だけってのが理想だったけど、それは来年のお楽しみにでもしますか。
さて、明日の主賓が遅刻じゃ様にならないからアタシも寝よっと。
 
 
 
 

アタシが起きた時、既に家の中にはシンジは居なかった。
時間は8時58分。急がないと危ないわ。
ホントはもっと早く起きるつもりだったのだけど、今日の事を考えると寝付けなかったわ。
だからちょっぴり寝不足。

「さて、さっさと着替えて本部に行くとするか」

言ってベットから飛び起きると、アタシは衣装ダンスからネルフの制服を取り出した。

「はぁ、最初っから用件を言っておいてくれればこんな制服じゃなくて、綺麗にドレスアップ出来るのにな。
 まったく!変に悪巧みするから主賓が迷惑するのよ」

文句を垂れながら、アタシはパジャマを脱いで制服に着替えていく。
う〜ん、ホントはシャワーを浴びたいけど時間が無いわね。

〜5分後〜

「よし!完璧♪」

アタシは鏡の前で衣服の乱れを直し、髪を整え終わると鏡に写る自分の向かってウインクして宣言したの。

「さて、朝食は………食べてると時間が間に合わないわねぇ………仕方ないから行こ」

朝食を諦めたアタシは、掛けてあったバックの中身を確認し、護身用に支給されている銃を入れると慌てて玄関に向かい家を飛び出したの。

「う〜、この時間ならタクシーの方が早いか?」

本部までの交通路、混雑度を一瞬で考察し、アタシはタクシーを選択する事を決めた。
決めたら即実行!アタシは近くのタクシー乗り場へと駆け出して行ったの。

〜40分後〜

「ふぅ、何とかセーフね」

タクシーを降りたアタシは、ネルフの新本部のゲートをくぐり安堵の言葉を発した。
時計は9時51分を指している。本部の第一大会議室は地下部、地下5階にあるのだから此処からの所要時間は5分もあれば十分だ。

「さて!行くわよ」

宣言して気合いを入れたアタシは、地下へ通じるエレベータへと乗り込み、みんなが待っている、
シンジが待っているであろう第一大会議室へと向かったわ。

〜第一会議室前〜

後一歩、前に出ればアタシの前の会議室へ通じる自動ドアが開く。
此処まで浮かれ気分であったアタシだが、いざドアを目前にすると考えていなかった………いや、考えたくなかった考えが脳裏を過ぎる。
もし、アタシの想像してた通りの状況でなかったら?シンジが言った事が事実の命令だったとしら?
それを考えると、アタシはこの場から逃げ出したくなる衝動に駆られる。
だけどホントにアタシの想像通りだったとしら?アタシは自分が望んでいたモノを失い、またみんなの好意を裏切る事になってしまう。
暫くアタシは悩んだが、深呼吸を一つしてから決心すると、一歩前へと踏み出した。
そして目の前のドアが開かれていく。意を決したアタシの目に写った光景は。

「やぁ〜っと来たわね、アスカ。まったく!みんなして待っていたってのに、ギリギリになってから現れるなんて」

呆れ顔をしたミサトだった。

「な、何よ!まだ10時になってないんだからいいじゃない!」

アタシはミサトの言葉にカチンときて、自分の時計を見せながら文句を言ってやったわ。
そしたらミサトはアタシの言葉なんか無視して、アタシの腕を掴み引っ張りながら言った。

「まぁ、それはもういいからさっさと入りなさい。みんなアスカの為に今日時間を取ってくれたんだから」

引っ張られたアタシは、ミサトのその言葉に反応して奥に目をやる。
そこには、加持さん、リツコ、オペレータ3人衆、レイ、副指令、そして総指令の姿があり、
彼等は料理を置いたテーブルの周りに立って笑顔でアタシを見ていたの。
もっとも、レイと総指令は相変わらずの顔だったけどね。

「これって………もしかして?」

「そうよん♪アンタの誕生日をみんなで祝ってあげよって集まったのよ。ま、驚かせようと思ってアスカには黙っていたけどね♪」

ミサトの言葉がアタシの中で繰り返される。
やっぱり、やっぱりみんな知ってたんだ。ちゃんとアタシの誕生日を!
そして今、みんなはアタシの誕生日を祝ってくれる。

「おやぁ〜、アスカ。アンタ泣きそうになってるでしょ」

思い悩んでいた事もあった為か、アタシは不意に目頭が熱くなるのを実感していた。
そしてそれに気付いたミサトは、さっそくアタシをからかいにきたの。

「な、泣いてなんかいないわよ!ハン!15にもなって誕生パーティを開いて貰ったぐらいで泣きませんよーだ!」

意地を張った答えを返す。だが、アタシは嬉しさのあまりに顔が綻ぶのを抑える事が出来ない。
案の定、ミサトはそんな文句言ってもその顔じゃ説得力がないわって顔つきをしてアタシを見ている。
むーーーっ!嬉しいけど悔しいわ!

「ささ、つまんない事はここらで止めて、テーブルに付きなさい。主賓が席に着かないと話しが始まらないわ」

「そ、そうね。アタシも折角のお膳立てを壊す程、子供じゃないしね」

はは、アタシも意地っ張りよね。
どうしようもなく嬉しい癖して、まだつっぱって見せる。折角アタシの為に集まってくれたんだもん。
今日ぐらいは素直にならなくちゃ!
そんな事を思いながらアタシはミサトに進められる席に腰を下ろす。
するとみんなも一斉に腰を下ろしたの。

「さって、主役も到着しました。ではこれから意地っ張りで実は寂しがり屋のアスカの誕生パーティを始めたいと思います」

だ、誰が意地っ張りで寂しがり屋なのよ!

「事実でしょ。いいから……では皆さん、手元のグラスを持って頂戴。僭越ながらアタシ、
 葛城ミサトがアスカの15の誕生日を祝う乾杯の音頭を取らせて頂きます。いいですか?」

言われてアタシも手元のグラス、恐らくシャンパンだろう。それを手に持った。
その時だった。アタシがある事に気が付いたのは。

「では!アスカの15歳の誕生…」

待って!!

アタシは乾杯をしようとしていたミサトを遮った。

「なによぉ〜アスカ。折角の音頭を遮ったりして?」

「何よじゃないわ!居ないじゃないのよ!」

「居ない?誰が?」

「誰って……アイツが、シンジが居ないじゃない!音頭を取るのはそれからでしょ!
 どうせ料理で遅れてるんでしょうから乾杯はもう少し待ちなさいよ。アタシは良くても後でアイツがいじけるわよ」

素直じゃない言い方ね。
ホントはシンジが居ない乾杯を自分が一番したくない癖して。

「あれ?聞いてないの、シンジ君から」

不思議そうな顔をして訳の分からない事を問うてくるミサト。

「何がよ?……アタシはシンジから今日の10時に此処にって話ししか聞いてないわよ」

アタシはミサトに答えたわ。
すると、その言葉を聞いたミサトが溜息混じりに話し掛けてきたの。

「はぁ………そっかぁ、シンちゃんてばアスカに言ったってのは嘘だったわけね。ったく!困った子ね」

「何よ!さっぱり話しが見えないわ、ちゃんと説明をしなさいよミサト!」

「わぁ〜ったわよ。説明するから………あ、ちょっちアスカに事情説明するからグラスは一度置いてね」

ミサトはグラスを持っていたみんなにそう言う。
そして急に真剣な顔つきになってアタシに話しを始めたの。

「シンジ君…碇一尉に2週間前辞令が出たの。ネルフ総司令の命によってネルフアメリカ支部への転属。
 その転属の為の出発日が今日。つまり碇一尉は今頃空港、だから今日のパーティには参加出来ないのよ」

アタシは頭の中が真っ白になった。
今、ミサトは何て言ったの?

「私が碇一尉に辞令を渡した時、彼は自分から貴女、惣流一尉に話しをすると言った。
 そして数日後にこの件について話しをしたのかを聞いた時、彼は説明しましたよって言ったわ。
 だから貴女も彼の転属が分かっていると判断していたのだけども…」

シンジが転属?アメリカへ行っちゃう?アタシの側から居なくなる?

「期間はハッキリしてないけど、最低でも10年はアメリカ支部の所属になると思う。
 最初は主に戦闘訓練が主体となるとの話しだから、日本に帰って来るのも難しいから、当分は逢えない事になるわ」

どうして?どうしてアタシに言ってくれなかったの?どうしてアタシに言ったなんて嘘をついたの?

「本当は送別会をやろうって話しを持ち掛けたのだけど、彼が断りを申し出てきたから。
 最後に変に和むと別れが辛くなるって理由で」

アタシの事が気にならなかったの?アタシの事なんてどうでも良かったって事なの?

「で、その時に貴女の誕生パーティの件を話したら、自分は出席出来ないからせめてケーキ等を自分の手で用意したい、
 せめてものお祝いにって言って」

やっぱりアタシが何時も素直じゃなかったからなの?アタシの事が嫌いだったの?

「だから今日のケーキは勿論、料理も殆ど彼の手作りよ。これで最後になるかもしれないから彼の為にも味わって食べてあげてね」

嫌、嫌よ!こんな終わり方なんて嫌!アタシは自分の気持ちを伝えていないのよ!
逢えなくなるなら尚更伝えなくちゃ!まだ、まだ間に合うよね。

「そういうわけだから………じゃ、改めて乾杯に移ってもいいかしら?」

駄目ぇ!!ミサト!シンジの、シンジのフライト予定時刻は何時なの?まだ間に合うよね!?」

アタシは席から立ち上がりミサトに掴みかかる勢いで問い詰めた。

「へ!?………フライトの時刻って……確か11時に第3新東京国際空港からネルフ専用機での予定よ。
 今が10時過ぎだから車で飛ばしても空港に着くのは10時半以降になるから、シンジ君は既に機内にいる事になるわ」

「そ、そんな………」

ミサトの言葉にアタシは絶望した。
機に乗っているのなら逢うのは無理、そう思った瞬間、アタシは身体から力が抜け席に崩れ落ちる様に腰を下ろす。
そして今度は悲しみから目頭が熱くなり、目から涙が零れ落ちていく。

「どうしてそんなにシンジに拘るのだ?アスカ君」

絶望感に囚われてしまったアタシに、総司令が突如として話し掛けてきた。
総司令の問いに対する答えは分かっている。だが、今更言ってなんになるのという気持ちがアタシを沈黙させた。

「………………」

「答えられないか………なら君はシンジに大した拘りがあった訳ではないのだな」

「あるわけありませんわ司令。アスカはシンジ君に対して怒っている事が多かったですから。
 シンジ君がアスカに対して好意を抱いていた事はあっても、アスカがシンジ君に好意があったとは思えません。
 ねぇ、ミサト。貴女もそう思うでしょ?」

「そうねぇ〜………ま、いいとこ喧嘩友達ってレベルじゃない?だから寂しいって気持ちはあるかもしれないけどねぇ〜」

「ま、アスカは大人の男性が好みだからな。シンジ君が相手にされるとしても先の話しさ」

「おいおい、相手にされるとしてもとはあまりにシンジ君が不憫じゃないか。なぁ碇」

「まぁ確かにシンジは子供だ。見目はユイに似ていいのだがな」

アタシが沈黙をしていると、大人達は好き勝手な憶測で話しの花を咲かせたわ。
それを聞いている内に、ここで黙っていると自分の気持ちに嘘を付く。
自分のシンジへの想いが真剣では無かったという事になる事にアタシは気が付いた。
アタシはそんな軽い気持ちでしかシンジの事を想っていなかったの?………
違う!アタシは素直になれなかった、伝える事が出来なかったかもしれないけど、アタシの気持ちは、シンジへの熱い想いは決して嘘ではない。
初恋の様なはしか的恋いでもない!
アタシは決意し、再び席から立ち上がって出口へと駆け出そうとした。

「あ、アスカ!?一体どうしたのよ」

空港に行くの!邪魔しないで!!

「空港ってアンタ…」

五月蠅い!!

アタシは邪魔なミサトをはね除け、出口へと駆け出した。
後ろからアタシの名を誰かが呼んでるけど無視よ、無視!一刻の猶予もないんだから!
アタシは振り返らず走った。目的地は地下駐車場。そこにはアタシの車(アタシもシンジも特例で自動車免許が発行されている。
但し、私用での利用は禁止されているが)があるから。

〜地下駐車場〜

駐車場に駆け込んだアタシは急いで自分の専用車、真っ赤に塗装されたフェラーリ社製の車のドアにIDカードを差し込む。
そしてロック解除されたドアを開き、運転席に乗り込みエンジンスタートをかける。

「今の時間は…10時12分。ルート検索で最短最速ルートを探して飛ばせば間に合う筈!
 例え搭乗しててもネルフの特権を行使して…」

アタシはギアをローに入れ、そしてドアを閉めるとナビに目的地と条件を入力する。
待つ事数秒、ナビにルートと所要時間が表示された。流石にMAGIに連動したナビ、仕事が早い。

「シンジ……アタシが行くまで絶対に、絶対に待ってなさいよ!

そしてアタシはアクセルを踏み込んだ。
 
 
 
 

流石にMAGIの情報は正確でリアルタイムな物だった。
ネルフの手で改造されている特別仕様車の性能も大したものだったが、やはりこの早さはMAGIの情報のお陰だ。
道路の渋滞情報、スピードと距離から計算された信号情報のお陰で、アタシの操る車は止まる事無く空港に到着した。
時刻は10時23分。急げば大丈夫よね。

「済みません!今日の11時にフライト予定のネルフ専用機の搭乗ゲートは何処になりますか?」

アタシは空港内の案内カウンターで、シンジが居る筈の搭乗ゲートを問い質したの。

「申し訳ありません。通常の機と異なりネルフ専用機は軍用機扱いとなりお答えする事は…」

「これを見なさいよ!アタシはネルフの士官よ!関係者なんだから教えなさい!」

答えられない等と抜かした係員に、アタシはネルフのIDカードを突きつけた。
効果は覿面だったわ。

「あ!…も、申し訳ありませんでした。関係者の方とは気付かずに………搭乗ゲートですが軍用ゲートの92番口になります。
 正面ロビーから左の奥へ進んで下さい」

「ありがと」

説明を受けたアタシは、一刻の猶予もないといわんばかりに、係員が教えてくれたゲートに向かって駆け出したわ。

〜軍用ゲート〜

「92番口へ行きたいのだけど、通して頂戴」

「なんだね君は?此処は軍専用のゲート。君の様な女の子が来る所では無い」

ゲート前に来たアタシは、またもや係員、この場合は警備兵ね。
その警備兵に止められてしまったの。
ったく!時間が無いじゃない!!

「アタシの制服を見て判らないなら、これでどう?」

再びIDカードを突きつけるアタシ。
そして同様にカードの効果はあったわ。

「これは……失礼致しました。どうぞお通り下さい。ただ、現在92番口から搭乗出来る機体は無かった筈ですが?」

「え?それはどういう事なの。確かに案内カウンターでネルフ専用機は92番と…」

態度を変えた警備兵の言葉にアタシは質問をした。
まさか、予定が繰り上がり既に出航したとか?
アタシは手遅れだったのかと不安になった。

「いえ、その専用機がエンジン部分に不備がある事が発見されたので、現在格納庫で点検及び整備中です」

「格納庫……なら、搭乗予定者はどうしたの?まさか他の機で…」

「搭乗者………碇一尉殿は現在士官食堂にて待機中です」

良かった!シンジはまだ空港内にいるのね。これでアタシの気持ちを伝える事が出来るわ!
なら士官食堂へ急がないと!

「士官食堂へはどう行けばいいかしら?」

「標識が出ていますので、その道順に進んで頂ければ大丈夫です」

「そう、判ったわ。ありがと」

礼を言うとアタシは敬礼をする警備兵の横を抜けて、シンジが居る士官食堂へと再び駆け出した。

〜士官食堂〜

アタシは士官食堂へ駆け込む様に入った。そして広い食堂内をキョロキョロと見渡す。

「………………居た!」

目的の人物、碇シンジを見つけたアタシは彼の元へと駆け寄って行く。
するとシンジの方もアタシに気付き、『何故!?』といった感じの顔をして驚きながらアタシを見つめていたの。

「シンジ………」

「あ、アスカ………どうして此処に?」

「アンタに聞きたい事があったからよ」

気持ちを伝えに来た筈のアタシだったが、シンジの顔を見た瞬間、アタシに黙っていた事を思い出してしまい、
気持ちを伝える前にどうしてもシンジの行動の理由を問い質したくなってしまったのだ。

「聞きたい事って………と、取り敢えず座りなよ。僕もトラブルでフライトが予定よりも3時間は遅れそうだから時間もあるし」

「そう、なら座って話しをしましょう」

言ってアタシ達は、向かい合って椅子に座る。
冷静に、そして素直な気持ちで話すのよ。判った?アスカ。
アタシは話しを始める前に、自分で自分に言い聞かせたの。

「で、聞きたい事って何かな?アスカ」

「アタシの聞きたい事は4つよ。全部、正直に答えなさいよ」

「答えられる範囲の事なら答えるよ。なら1つ目は?」

「どうしてアメリカ転属の辞令を承諾したの?あの辞令は碇総司令から直々の辞令でしょ、
 嫌なら嫌って言えば聞き入れられない事もなかったんじゃない?アンタは以前と違って司令とも普通に話しが出来る様になった様だし
 ………それとも魅力的なの、アメリカ転属が?」

アタシは第一の疑問をぶつけた。
アタシが言った様に、シンジが嫌がれば無理に辞令を強行する事もなかったと思う。
使徒との戦いの頃の司令と異なり、今の司令はシンジとの親子の絆を取り戻そうと努力している風に見えるし。
そう考えれば司令直々の辞令って変ね。

「う〜ん………………一言で言えば試してみたかったからかな?父さんやミサトさんの庇護から離れた自分が
 1人で何処までやれるかをね」

少し考えてからシンジはアタシの問いに答えてくれたわ。
けど、真実を言っているだろうが全てを話している訳でもなさそうだ。その証拠に一瞬だがシンジの目線がアタシから逸れたから。
でも、今の段階でそれを質してもシンジは答えないかもしれないと思い、アタシは次の質問に入る事にした。

「ふ〜ん、アンタも色々考えてたんだ。じゃ、次の質問ね。
 どうして転属の話しをアタシの言わなかったの?そしてミサトに嘘を付いたの?」

「そ、それは………アスカに言えば馬鹿にされると思ったから……
 どうせ今後逢う事も無くなるだろうから静かに旅立ちたかったんだ」

シンジはどもりながら答える。
言っている内容はハッキリ言ってアタシの事を避けている様な内容だった。
だが、これも嘘だろう。アタシに馬鹿にされるなんて今まで日常茶飯事だった。それを今更気にして礼儀を欠くシンジではない。
なら何故?

「そう………そうかもね。確かにアタシは今までシンジを馬鹿にばっかりしてきたもんね。では3つ目の質問。
 2つ目の質問が事実としたら尚更理由が判らないんだけど、どうして今日のパーティのケーキや料理をアンタが用意したの?
 アタシの事が嫌いならむしろ何もしないで去るのが普通じゃない?」

「………………別に大した理由じゃないさ。他の人達は僕と違って第3新東京市の復興等の仕事で多忙だ。
 だから比較的暇な僕がやっただけ、と、特別な意味があっての事じゃない」

語尾が少し上擦った、半ばやけくそな答え方をシンジはした。
今までの3つの質問に対するシンジの回答。それは本音を話していないのは明白だ。
そしてシンジのおかしな点を整理すると、アタシの脳裏にある仮説が生まれる。
それはアタシにとっては希望的観測であり、そして事実だった場合、シンジを苦しめた全ての原因はアタシにあるという事になる。
苦しんでいたのはアタシだけじゃなかった。そして勇気を持てなかったのもアタシだけじゃなかったのだ。
彼だって心に傷を負っている。アタシに勇気を持てなかったシンジを非難する資格はないわ。
アタシの仮説が正しいなら、アタシ達は共に同じ苦しみを味わっていたのだ。うぅん、態度が悪かった分、アタシの方が悪い。
なら!アタシが勇気を持たなくちゃ。アタシが素直にならないといけないんだわ!
もとよりアタシは結果がどうであれ、気持ちを伝えに追いかけて来たんだ!
そしてアタシは決心した。

「アスカ?」

考え込み、黙ってしまったアタシを変に思ったシンジがアタシの名を呼ぶ。
そうだ、行かせてはいけない。アタシはシンジにずっと名を呼んで欲しい。ずっと側に居て欲しいのだから。

「ごめんね、シンジ。急に黙っちゃって。
 さて、最後の質問の前にアタシから話しがあるんだけど聞いてくれるかな?」

「え?…あぁいいけど」

決心したアタシの声は自然と優しい口調になったみたいなの。
だから返事をしたシンジの顔が不思議そうな顔をしていたわ。

「今から話す事は全て事実、アタシの本音なの。だからそのつもりで聞いて頂戴」

「うん…」

アタシは深呼吸を一つ、そして伝えたかった事を伝える為に今まで重く閉ざされていた口を、心を開いて語りだしたの。

「アタシね、あの空母の上での出逢いからずっと貴方の事を見ていた、意識していたわ。
 初めはアタシのエヴァエースパイロットの地位を脅かす敵として、そして貴方と共に戦い共に暮らしだして敵意は興味に、信頼に変わっていったの。
 アタシはママを失ってから誰も信頼出来なくなっていたわ。そう、憧れてる筈の加持さんでさえ、心の奥底では信頼していなかった。
 言い訳にしかならないけど、だからアタシは信頼した相手にどう接して良いのかが判らなかったわ。
 そして今まで失っていたモノを見つけたアタシは自分勝手な行動を取ってしまった。
 つまり、信頼した相手に対して甘えるだけ、我が儘を言うだけにね。
 相手の年齢も考えず、そして知らなかった事とはいえアタシ同様に心に傷を負っている事を考えずに。
 だからアタシに優しくしてくれない、アタシだけを見てくれない貴方に筋違いな憎しみを自分の中に芽生えさせてしまった」

「アスカ…」

「シンジ、今はアタシに話させて」

「……分かった」

アタシの話しに何か言おうとしたシンジをアタシは止めた。
そしてシンジも分かってくれて、身を正してアタシの話しを聞こうとする。

「アタシの心は餓鬼の様に餓えていた。そしてそれまでアタシを支えていたモノが、
 詰まらないプライドが更にアタシの心を蝕んでいったの。
 貴方に見て欲しい、側に居て欲しい心と、アタシを支えてきたモノを脅かす敵だと思う心。
 その相反する心が自己満足する為の強烈な独占欲を生み、そして受け入れて貰えないと勝手に解釈した時、アタシは1度壊れてしまった。
 そして最後の戦いでママの存在を知り、アタシは中途半端な覚醒をした。
 だから戦いの後、貴方に逢うのは辛かった。貴方が憎かった。
 けれど、貴方はアタシが何を言おうが、アタシが暴力を振るおうがアタシを一生懸命看病してくれた。
 それがアタシの狂った心を徐々に癒し、そして貴方へ対する感情が再び変わっていくのが分かったわ。
 でもね、アタシは意地っ張りだ。そして素直でもない。その上勇気も無かった。
 だからずっと言えなかった。たった一言が………………
 ごめんね、シンジ。素直になれなかった為に貴方を散々苛めてしまって。
 けど、それも終わりにするわ。アタシ、勇気を出して貴方に伝えるわ。
 シンジ…………アタシ、惣流・アスカ・ラングレーは貴方の事が好きです

「あ、アス…カ…」

「シンジ、最後の質問よ。アンタのき、気持ちを聞…かせて」

話しを終えたアタシは、最後の質問を投げかけた。
自分の気持ちを言って、又、シンジに気持ちを問うたアタシの心臓は破裂しそうにドキドキしていたわ。
けれどそんなアタシとは対照的に、シンジは寂しげな顔をしていたの。

「シンジ?」

「言ってもいいのかい?言えばどんな答えをしようとも、アスカは傷つく事になるんだよ?」

確かにシンジの言う通りだ。
シンジの答えがアタシの望む答えであれば、アタシは勇気を持てなかった、素直になれなかった事を後悔し、
拒絶であれば聞かなければ良かったと後悔するだろう。
ミサトの話しではシンジの転属は短くて10年。シンジの気持ちがアタシと同じであっても待つには長すぎる期間だ。
それでも!今までと同じ過ちを犯したくない、アタシは待ってみせるわ!

構わないわ、答えて!

アタシは意を決して、シンジに催促した。
そのアタシの決意した顔を暫く見て、シンジは閉ざしていた口を開いたの。

「僕も初めからアスカの存在が気になっていたんだ。けれど僕の感情も自分勝手な想いだった。
 それが故に僕はアスカを傷つけてしまった。だから僕は戦いの後、
 その償いをする為にアスカの看病をしたりどんな我が儘を言われても応えようとしたんだ。
 でもね、自分の心に嘘は付けなかった。
 一度は壊れた関係が修復していく内に僕の気持ちは自分でも押さえる事が出来なくなっていく。
 けど、傷つけた自分がアスカに好かれるわけない。好きになる権利は無いと………
 だから僕は未練を断ち切る為に、父さんの命令を承諾した。
 結局、僕も勇気が無かったんだね。アスカの態度が気持ちの裏返しとは考えず額面通りに受け取り、
 そして当たって砕けろという気持ちも持てなかった。ホント、僕は馬鹿だ………………
 今更遅いけど、僕もホントの気持ちを君に伝えるよ。アスカ、僕は君の事が好きだ、他の誰よりも

シンジの気持ち、アタシの事が好きだという言葉を聞いたアタシは、胸に熱いモノを感じながら立ち上がり、
シンジに近づいていく。
そのアタシの動きに合わせ、シンジも席から立ち上がる。

「シンジ…」

「アスカ…」

共に名を呼び、そしてアタシとシンジは今まで伝えられなかった想いを伝えるが如く、抱き合ったの。
ずっと、こうしたかった。ずっとこうしていたい。
そう思うアタシは、更に強く、そして激しくシンジを抱きしめたわ。

「この瞬間で時間が止まってしまえばいいのに…」

「そうだね………けど、遅すぎた。さぁアスカ、これ以上はお互いに未練を残すから…」

そう言って、シンジは抱いていたアタシの背中から腕を解き、アタシを解放しようとしたの。
けど、アタシは離れまいとして強くシンジにしがみついた。

「アスカ?」

何が遅すぎたよ!何が未練よ!

「………………」

「これが最後の別れって決まったわけじゃないわ!お互いの気持ちが分かったんだもん、
 これからはその気持ちを信じて待てばいいのよ!10年が何よ、今から10年経ってもアタシ達は25歳、決して遅くないわ。
 それに10年間全く逢えないわけでもないし、手紙やメール、電話、二人を繋ぐ手段なら幾らでもある!
 アタシ、必ず待ってるから………だから、シンジもアタシを信じて!それとも10年はシンジにとって長すぎるの?
 10年の月日はアタシへの想いを消してしまうの?」

言いながらアタシは目に涙を浮かべていた。
泣くなんて、それも人前で涙を流すなんて何年ぶりの事だろうか………
けど、恥ずかしくない。この涙はアタシの素直な気持ちを現す涙なんだから。

「ホントに待っててくれるのかい?僕への想いが消えないの?アスカが思っている程、10年の月日は短くないよ」

「分かっているわ。けど、アタシにとって必要な人はシンジなの。シンジだけなの!
 待つ、待つわ。アタシは待ってみせるわ。だから…」

アタシの言葉にシンジは再び背に腕を廻し、優しく抱きしめる事で応えてくれた。
暖かい………そうよ、アタシが欲しかったのはこの温もり。この安らぎを与えてくれるシンジ、貴方よ。

「有り難う、アスカ。アスカの言葉に僕も決心がついたよ。
 僕もアスカが待っていてくれる様に、アスカへの想いを消しはしない。必ずアスカの元に戻ってくるよ、約束する」

「シンジ………嬉しい…」

アタシとシンジの視線が絡み合う。
もう言葉は要らない。アタシ達は今、気持ちが繋がったんだから。
そしてアタシは少し背伸びをすると、そっと目を閉じた。

「シンジ…」

「アスカ…」

気持ちが通じ重なり合ったアタシとシンジは、想いを込めて唇を重ねたの。
二度目の口付け。それは一度目とは異なった本当の口付け。
遊びや興味ではない、愛し合う者同士のする甘く、暖かい口付けだったわ。

「「ん……んん」」

そして暫く、互いの唇を感じていたアタシ達は、どちらからともなく重ねた唇を離したの。
アタシの瞳に映るシンジの顔は、少し頬を染めた、そしてアタシが見た中で一番幸せそうな笑顔をしている顔だった。
きっとシンジの瞳に映るアタシの顔も、頬を染めて幸せそうな顔をしている事だろう。

「どうやらお互いに気持ちは伝え合ったみたいね♪」

キスの余韻に酔いしれていたアタシ達の背後から、いきなり声が、それも聞き覚えのある声がしたの。
アタシは慌てて声のした方に振り返ったわ。

み、ミサト!?

え!?ミサトさん!

アタシとシンジは同時に驚きの声をあげる。
当たり前だ、そこに居たのはアタシ達の上司にして保護者のミサトだったのだから。
しかもミサトの背後には加持さんやリツコ、司令達までいたのだから。

「それにしてもアンタ達、ホントに中学生?さっきの告白からラブシーンまで、見ていたアタシ達の方が恥ずかしかったわ」

「ホント、私達には真似出来ない事ね」

「でも先輩。まるで映画のラストシーンみたいで感動的でしたよ」

「大人顔負けのシーンでしたね。加持三佐はあんなラブシーンの経験は?」

「はは、なまじ経験が多いとあんな純真なラブシーンは出来ないさ」

「これで全てお前の計画通りだな、碇」

「あぁ、全て予定通りだ」

「碇君………嬉しそう」

驚くアタシ達を後目に、大人達は勝手に盛り上がっている。
………ちょっと待ってよ!何よ計画って!?
………も、もしかして、アタシ達はめられたわけぇ!?

父さん!一体どういう事だよ!

アタシが内心パニックを起こしていると、シンジが司令に噛み付いたの。
どうやらシンジも事のおかしさに気付いたみたいだわ。
あ!司令が笑ってる!?

「ふ、どうしたもこうしたもない。お前達二人がなかなか素直にならないのでな、見ている私達が我慢しきれずに一計を図っただけだ。
 そして見事に成功した、それだけの事だシンジ」

「そうそう、お互いに好き合っているのが見え見えなのに、当の本人達が気付いてない。見ていてイライラしたわん♪」

むーーーっ!!だ、騙された!
って事はシンジのアメリカ行きって話しも…

「なら父さん、僕のアメリカ転属の話しはどうなるんだよ!?………
 ま、まさかトラブルでの待機も含めて全て父さんの計画だったの!」

そうよ!どうなのよ!それが重要よ!!

「ふっ」

あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!それで誤魔化すかぁぁぁぁぁ!?

「な!?………はぁ、僕達は完全に父さんやミサトさんの手の上で踊らされていたんだね。けど!」

溜息をついて文句を言うシンジ。が、急にアタシの方を振り返り、そしてアタシを強く抱きしめたの!

「転属が嘘なら、これからもアスカと一緒に居られるんだ。僕の大好きなアスカとね♪」

「し、シンジぃ〜♪」

これからも離れ離れになる事なく、シンジと一緒に居れる事実に、シンジが臆する事なくアタシを抱きしめ
大好きと言ってくれた事に嬉しくなったアタシは、シンジの名を呼びながらアタシもシンジを抱きしめたの。

あっちゃぁ〜!告白した途端これだ。今までの反動から思いっきりいちゃつきそうだわこの二人。
 先が思いやられるわ」

「これからは必要以上に二人に近づかない方が身の為ね。あてられそうだわ」

ふん!騙したアンタ達が悪いのよ!
お返しにこれからは、たぁ〜〜〜っぷり!イチャイチャしてやるんだから♪

「シンジ、あんな事言ってるわ。だったらお望み通り見せつけてやりましょうよ♪」

「ん〜?そうだね♪」

そして再びアタシ達は唇を重ねたの♪

「おいおい、勘弁してくれよ」

ふ〜んっだ!加持さんのお願いでも勘弁してあげない!
って!やだ、シンジ!い、いきなり舌なんて………もぉ!しょうがないわねぇ〜♪

「「んふぅ…ん、ん……んんぁ」」

だぁぁぁぁぁ!!いい加減にしなさい、アンタ達!!
 アスカのパーティの続きをするんだからさっさとネルフに戻るわよ!
 ほら、は・な・れ・な・さ・い!!

あん!良いところだったのにぃ〜!
………けど、ミサトの言う通り、先にパーティね♪もうシンジは逃げないけど、15歳の誕生日は今日だけだもんね♪
 
 
 
 

「では!色々ありましたが、当初の作戦も大成功に終わり、これから幸せ一杯のアスカ15歳の誕生パーティ及び
 アスカとシンちゃんが恋人になった記念パーティをおこないますぅ!」

うぅ!ミサトの奴ぅ〜!

「では皆さん、お手元のグラスを持って下さい………………いいですか?
 それでは、やっと素直になってシンちゃんを捕まえたアスカ、15歳の誕生日を祝して……かんぱ〜い!!

「「「「「「「「「かんぱ〜い!!」」」」」」」」」

「サンキュー!みんな♪」

そしてネルフ首脳メンバーによる、アタシの誕生パーティは盛大に盛り上がったの♪
仲間から、そして信頼し気持ちの通じ合った相手に祝ってもらう誕生日。
今日はアタシの人生の中で一番最良の日になったわ。
もう寂しくない。もうアタシは独りぼっちじゃないんだわ。
ママ、安心して。今のアタシには仲間がいる、アタシの事を真剣に考えてくれる仲間がいるの。
そしてアタシを側で優しく守ってくれる最愛の人が………
ママ、今のアタシは幸せよ!
 
 
 
 

「ところで総司令、どうして計画の実行日をアタシの誕生日に合わせたのですか?
 ミサト、葛城二佐の話しだと計画自体の立案は3ヶ月も前にされていたそうですが」

盛り上がったパーティも終わりに近づいた頃、アタシはふと疑問に思っていた事を司令にぶつけてみたの。
今までは司令を話すのは苦手だったけど、将来の事を考えると今の内から慣れておかないとね♪きゃっ♪

「簡単な事だよアスカ君。誕生日にはプレゼントとしてその者の欲しいモノを送る。
 だから私はアスカ君が一番欲しがっていたモノ、みんなからの祝福、素直な自分、そしてシンジをプレゼントしようとしたわけだ」

司令は人の悪い笑みを浮かべると、アタシの問いにそう答えたの。
むぅ!か、完全にやられたわ………でも、素敵なプレゼントを有り難う御座います。将来のお義父様♪

「それからもう一つ、これは私個人からのプレゼントだ」

アタシが返事をする前に司令は話しを続け、アタシの腕を掴み手の平を開かせるとアタシの手の平にカードを一枚置いたの。

「これは?」

そのカードが何か分からずに、アタシは司令に質問した。

「先日、本部の近くに新築されたマンションのキーだ。4LDKでセキュリティも万全だから早く移りなさい、シンジと一緒な」

な!?えぇ!!

アタシは開いた口が塞がらない…

「これは葛城二佐からの要望でもあってな、作戦が成功すれば君達との同居は目の毒、ストレスが溜まるとの事だ。
 だからいっそ二人を同棲させてしまえとな………私も賛成だ」

ミサトの言は分かるとして、司令も賛成?
………!
はっはぁ〜ん、そういう事ね。

「分かりました。司令のご厚意有り難く頂戴します。
 このご厚意に対するお礼は、何れお望みの形でお応えさせて頂きますわ、お義父様♪

「ふ、期待しているぞ」

司令は嬉しそうな声でアタシに返事したわ。

「アスカ、父さんと何を話してるんだい?」

「ふふ、とっても素敵な話しよ♪」

「?」

「ねぇシンジぃ〜♪」

アタシの答えに不思議そうな顔をしたシンジの腕に抱き付き、甘えた声を出すアタシ。
ふふ、昨日までのアタシじゃ考えられない行動ね♪

「何?」

「絶対にアタシを幸せにしてね♪」

「?………あぁ、約束するよ」

今一つ意味が把握しきれてない様だが、シンジはアタシに約束をしてくれたわ。
うふふ、もう逃がさないわよ!

ホント!今日は最高の誕生日だわ♪
 
 
 
 

END


〜後書き〜

どうも、あっくんです(^^)/
いつも感想メールに返信をくれるタームさんへ、お礼の気持ちを込めて誕生記念作品の投稿をしました(^^)
相変わらず、へっぽこな作品ですが、受け取って頂ければ幸いです。

本来、私の作品の後書き部分は「アスカ様と作者の座談会」なのですが、タームさんの所の形式だとダブるので
今回は素直な後書きにしました(^^;
もし、ダブってもいいのであれば、次回(言って大丈夫かぁ!?)から本来の形式にて投稿します。

それからこの作品のタイトルにAsukaSideとありますが、一応ShinjiSideも考えています。
まぁ、殆ど台詞は同じなので近い内に書いて投稿しようと思います。
その時はまた、よろしくお願いします。

では、これからもよろしくお願いします。


マナ:あっくん、投稿ありがとうございましたぁ。

アスカ:これで、アタシ達も幸せねっ!(*^^*)

マナ:ほんとあなたって、周りから後押しされないと何もできないのね。

アスカ:うぅぅぅ・・・でも、シンジがアメリカへ行くって聞いた時には焦ったわ。

マナ:もし、本当にシンジがフライトしてしまってたらどうしたのよ?

アスカ:決まってるでしょ。追い掛けるわっ!

マナ:できるわけないでしょ?

アスカ:F型装備で、弐号機起動よっ!(^O^v

マナ:ゲッ。(@@)

アスカ:それで、飛行機をまっ二つにして、シンジを取り戻すのよっ!

マナ:職権乱用どころの騒ぎじゃないじゃない。

アスカ:ヒゲオヤジが今回やったことも似たようなもんよ。

マナ:そうゆう問題じゃ・・・ないような・・・。

アスカ:シンジを誘拐したらどういうことになるか、みせつけてやんのよっ!

マナ:誘拐してるわけじゃ・・・(ーー;;;;
作者"あっくん"様へのメール/小説の感想はこちら。
asuka@rr.iij4u.or.jp

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

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