木漏れ日の差す部屋で
by あっくん
2001/08/03
爽やかな風が、アタシの頬を撫でている………
暖かな、木の葉の間から差し込むお日様の光が、アタシを暖かく照らす………
「今日も、いい天気ね」
アタシは誰に話し掛ける訳でも無く、独り呟きを漏らす。
本当に、いい天気だ。
昔、まだ幼かった頃のアタシには、忌々しくさえ思えた澄み切った空も、今では素直に感じる事が出来る。
幼かった頃………
そう言っても、実際に幼いという意味で無く、アタシの心が幼かった頃の事だ。
心が幼かったあの頃のアタシ。
今振り返ってみれば、本当に馬鹿みたいよね。
自分の存在価値に拘った挙げ句、しかも他人を貶める事で自分の価値を見出そうとしていた。
相手に自分の優れたものを見せつけた上で、相手を貶し優越感に浸っていたアタシ。
羨望であれ、嫉妬であれ、憎しみであれ、そうする事で人々はアタシを『見て』くれたわ。
そう………独りになるのが嫌だったアタシを『見て』くれた。
独りは嫌………
寂しいのは嫌………
ただ、それだけだった。
それだけの為に、アタシは無理もした。
寝る間も惜しんで、今にしてみれば意味のない勉強に打ち込んだ。
厳しい訓練にも耐え、肉体的な強さも手に入れた。
そして………人々はアタシを『見て』くれる様になったわ。
頭脳明晰で運動能力も高い、容姿も遺伝のお陰で類い希なる美しさを持っていたアタシに、人々は惹かれ、賛美したわね。
認められた。
そう思い、アタシは喜びの絶頂にいたものだ。
………本当に馬鹿なアタシ。
アタシの望んでいた事が、本当はそんな事で無い事に気付かなかった、いや、気付かないフリをしていた。
所詮、彼等が見ていたアタシは『天才少女』『美少女』といったアタシだ。
アタシ自身、アタシの個性に見せられていた訳では無かったのよ。
それを自覚した時、アタシは自分をさらけ出す道を選ばず、更なる仮面を被り、演技を続ける道を選んでしまった。
心が幼い故の選択だったのだろう。
そして演技を続けるアタシに、人々は更に集まって来る。
その人々の思惑を知る度に、アタシの心は凍り付き、次第に人々そのものを嫌悪しだす。
そんな頃だったわね。
「ふふふ」
思わずアタシは、笑みと共に笑い声を漏らす。
昔の、出逢った頃のアイツを思い出したからだ。
世界トップレベルのエリートと自負していたアタシの前に現れた、冴えない男。
だが、コイツがアタシの運命を変えた。
それはコイツが、アタシの仮面に然したる興味を示さなかったからなんだろうな。
だからアタシも………いつしか自然なアタシをコイツの前でだけ、晒す様になっていった。
そう、コイツだけだった………
アタシに怒鳴られては謝る情けない男。
自己主張の少ない、冴えない男。
なのに、何故かアタシの仮面を突き抜けてアタシ、本当のアタシに接してきた男だった。
時には守られもし、またある時には喧嘩もした。
そう、喧嘩だ。
大人達が命令口調で文句を言うのではない。
同じ年頃の連中が、アタシを妬んで陰口や嫌がらせをするのでもない。
アタシと、面と向かって言い争う喧嘩だ。
今でこそ分かっているが、あの当時は何故にコイツとの喧嘩が………何故か心地よいのかが分からなかったわ。
そして………
それからのアタシは、コイツから離れられなくなってしまったんだ………
「ホント、子供だったわね」
再び呟く。
その呟きに応えたのだろうか、また爽やかな、心地よい風がアタシの頬を撫でていく………
「ふふ、風さんもそう思ったのかな?」
そんな、メルヘンチックな呟き。
これも昔のアタシでは考えられない台詞よね。
全く。これじゃあ、別の意味で今のアタシはお子様だわ。
自分の台詞を思い返して、クスっと笑うアタシ。
本当にアタシは変わったわね。
コイツが、アタシの心を満たしてくれたからだろうね。
アタシは………幸せに満ちた部屋で、気持ちよさそうに眠る青年の寝顔を眺める。
今、アタシの膝の上で、如何にも安心しきった、気持ちよさそうな寝顔で眠る青年を………
「ま〜ったく。幸せそうな顔で寝ちゃってまぁ………」
極上の枕、アタシの膝の上で無防備に眠る青年の頬をつついてみたりする。
男の癖して、凄く綺麗な肌で柔らかな頬だわ。
クスクス………つんつん♪
「………むにゃ」
面白がって頬をつついていたら、青年が逃げるかの様に寝返りをうつ。
………器用なヤツだわ。
アタシの膝から落ちずに寝返りだなんて………
思わず呆れるアタシだが、そんな青年の動き一つ一つが愛おしい。
ふ、惚れた弱みね。
もっとも、コイツもアタシにベタ惚れなんだからアタシの負けではないのだ♪
そうよね?
つんつん♪
またしても、アタシは青年の頬をつついて遊ぶ。
「んん〜………」
アタシの指から必至に逃げようとする青年。
それが面白くて、アタシはつつくのを止めないの。
「ん、んん〜………ふぁ、なんだよぉ〜」
「あ、起こしちゃった?」
我慢しきれずに目を覚ました青年に、アタシは笑みを浮かべながら話し掛ける。
言った自分でも白々しいとしか言えない台詞で………
「あのねぇ〜………」
未だアタシの膝の上、下から見上げる青年の目はジト目だった。
「ふふ、あんまり無垢な寝顔してるもんだから、つい………ね♪」
「無垢なって………人の寝顔を魅入るなんて、悪趣味だよ」
「ふ〜んだ!アンタだって夜に………あ!」
反論しようとしたアタシだったが、ある事に気が付き言葉が途切れる。
そしてアタシは、そっと自分のお腹に手を………
「どうしたの?」
「今………動いたの」
「え?本当かい?」
青年は身を起こして尋ね返す。
アタシは青年の問い掛けに、黙って頷く。
「そっかぁ〜………待ち遠しいね」
「………うん」
アタシが返事をすると、青年はアタシの側に。
アタシの肩をそっと抱き寄せたわ。
アタシはそれに逆らわず、青年のされるがままに………アタシの場所、青年の肩に頭を乗せて身を委ねたの。
「不安かい?」
「う、うん………ちょっとだけ。でも女に生まれたんだし、それにアタシとアンタの………シンジとの赤ちゃんだもん。大丈夫」
「………有り難う、アスカ」
クス。
アタシを心配してるだけじゃなかったんだね。
全く、アンタらしいわね。
「ば〜か。気にするんじゃないの。アンタがアタシの側にいてくれるだけで、十分アタシの支えになってるんだからね」
「!?………は、はは。アスカにはお見通しか」
「ふふん♪伊達に十年以上一緒に暮らしていたわけじゃないのよ♪」
言って、アタシはシンジに抱き付いたの。
昔は華奢で頼りない少年だった彼も、今では頼りがいのある大人だ。
アタシを優しく、目には見えない天使の翼で暖かくアタシを包み込んでくれる人。
「そうだね………そして、これからもずっと………」
「ええ、ずっと一緒よ。………これから生まれる、アタシ達の子供と共にね………」
その呟きと共に、アタシはシンジに身を委ねて静かに目を閉じた。
窓の外からは木漏れ日の優しい抱擁………
そして風の囁き………
自然の祝福が満ち溢れた部屋………
愛おしい人と共にすごす、静かな一時………
アタシは今、とても幸せだ………
Fin
どうも。へっぽこ作家のあっくんです(^^)/
今回はほのぼの系の作品を書いてみました。
一応、以前投稿して掲載して頂いた愚作『暖かい日差しの元で』の後日談としています。
それもあり、アスカ様の独白形式&間際まで名前を出さない形式な作品にしました。
自分で言うのもなんですが、こんな雰囲気・・・良いですよね(^^)
苦い過去、辛い思い出を持つアスカ様とシンジには、こんな平凡な、けど満ち足りた将来を迎えて欲しいです。
まぁ、他の作品でドタバタ、激甘、暴走している作品を書いてる私が言っても似合わないでしょうが(^^;
では、またまたの駄作ですが、掲載してやって下さい。(^^)
アスカ:『暖かい日差しの元で』の続編よぉっ! やっぱ名作中の名作よねぇっ!(^O^)
マナ:また、喜んでるわ・・・。(ーー
アスカ:しかもっ! しかもよっ! 愛の結晶が誕生してるじゃないのぉっ!
マナ:なにが、”つんつん♪”よ。かわいこぶっちゃって。(ーー)
アスカ:心から幸せになったら、自然にかわいくなるものなのよぉ。ま、アンタにはわかんないでしょうけどねっ!
マナ:ぬぬぬぬぅぅぅっ!(ーー#
アスカ:シンジと一緒にいたら、なんの変哲も無い静かな一時も幸せいっぱいに思えるのよねぇ。(*^^*)
マナ:なんだか、腹が立って仕方がなくなってきたわ。(ーー#
アスカ:激甘もいいけど、こういうほのぼのとした雰囲気もいいわ〜。(*^^*)
マナ:そろそろ、お開きにしない?(ーー#
アスカ:何言ってんのよっ! もっとアタシの話を聞きなさいよっ!
マナ:もう、いやぁっ! さよならっ!
アスカ:あ、行っちゃった。しゃーないわねぇ。ファーストに、この作品読ませてあげよっと。(*^^*)
レイ:おのろけは嫌。さよなら。別れの言葉。(ぴゅっ!)
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