夕日が鮮やかな公園に2つの小さな影が写る。そこから聞こえてくる、ちょっとつたないチェロの旋律。

良く見てみると一人の少年が自分の体格には合わないチェロを抱えながら一生懸命に演奏をしている。

 

その前で、鮮やかな夕日と同じ様な髪をした少女が、その旋律を黙って聞いていた。

男の子は少女がとても大好きだった、いたずら好きで、我が侭で、でも優しい少女が……。

少女は男の子がとても大好きだった、なよなよしているけどいつもいじめっ子から助けてくれる、いつも寂しい自分を見てくれている……。

 

暫くして演奏が終わったらしい、少年は目の前の少女にぺこりとお辞儀をすると、それに合わせて唯一の観客である少女がぱちぱちと

拍手を贈る。

 

「バカチンジ!、うまいうまい!!。」少女はその拍手を止めないまま少年に賛美の言葉を贈る。

「アーちゃんの誕生日だもん、僕がんばったんだ。」少年ははにかみながら少女の言葉に答える。

 

「チンジ!、またここで聞かせてね!、アタチ、チンジのチェロ大好き!!。」

「うん今度の誕生日も、もっともっとがんばって一番に聞かせてあげるね!、もっともっと大きいとこで弾けるようにがんばる。」

 

「「ずーっと、ずーっとだよ。」」

少年と少女はそう言い合いながら未来を誓い合う、まるで恋人のように…・、永遠を誓い合う者達のように…・。

 

しかしその誓いは、次の誕生日に果たされる事はなかった……………。


誰がための旋律 前編−再会−


朝の登校風景、少女は下駄箱の空けいつものようにあふれかえるラブレターを無視して上履きを取り出す、そして履き替えて

靴を入れると、散らばった彼女にとって何の価値もない紙をまとめごみ箱に入れていく、物陰からため息がいくつも聞こえてくる。

 

それが惣流アスカ・ラングレーの第壱高校入学から続くいつもの登校風景であった。

 

「アスカ〜、おはよう!」

そんな彼女を後ろから追いかけてくる少女が元気良く声をかけた。アスカはムスッとした表情でその方向に振返る。

 

「ヒカリ〜、アンタね、朝練があるんなら言っときなさいよね!おかげで交差点でボケボケッとしてたわよ!」

ヒカリはアスカの不機嫌な視線を受け流しつつ、片目をつぶって両手を合わせた。

 

「ごめんごめん、トウジもいきなりだったから、電話できなくて、ほんとごめんね。」

 

「ホンッとお熱いわよね、ヒカリちゃんは……、まあ今日のところはあんみつで勘弁してあげる。」

アスカは手でパタパタと仰ぎながら冷ややかなジト目でヒカリを見つめる。

 

「今月、ピンチなのに……。」

アスカがこう言い出すと何だかんだ理由をつけられ結局おごらされる事になることを心得ているヒカリは、それ以上何も言えなかった。

 

二人で教室に入り元気よくクラスメートに挨拶をすると、アスカの前の席に、人だかりが出来ていた。

 

「どうやら今日は厄日のようね・・…。」

アスカはやれやれと思いつつ自分の席に向かって歩きだした。

 

「おはよう、惣流。」

人だかりの中心にいた男性が声をかけた、彼が声をかけたとたん、取り巻いていたクラスメートもアスカに朝の挨拶を交わす。

 

アスカは不機嫌この上ない表情を隠そうとせず、声をかけた男性に気のない挨拶を交わす。

「おはよ、渚、あんた生きてたの?」

 

渚カヲル、アスカが壱高で女性部門No1としたら、カヲルは男性部門でぶっちぎりのトップだろう。

またカヲルは売り出し中の芸能人でもあり、同年代のアイドルの中でも歌唱力と演技力のおいて『天才』と呼ばれており、何かと

話題の多い少年であった。

 

「冷たいね〜、まあそんなところが惣流らしいね、やはり君は好意に値するよ、僕とどうかな?」

ともすれば勘違いされそうな台詞をカヲルは吐き出す。

 

「おあいにく様、テレビのあんたは好きだけど、実物との落差が大きいのはいやなの。」

片目をつぶりアカンベーをする、そのしぐさにカヲルはやれやれとかぶりを振る。

 

「なんや、惣流も人を見る目が肥えとるの、その通りや。」

その脇で机の上にあぐらをかいて座っている鈴原トウジが笑いながら答える。

 

「アンタ!今日朝練なんだったらヒカリにちゃんと言っときなさいよ、おかげで遅刻するかもしれなかったんだから。」

アスカはそんなトウジをいきなり指差す、トウジはそんなアスカの剣幕にちょっと引いてしまう。

 

「すまん!、せやかてな〜。」

トウジはいいわけがましくぶつぶつとつぶやいていたが隣のケンスケが笑いながらそれを制す。

 

「まあまあ、今日はカヲルも久しぶりに顔を出したことだし、どうだい?放課後どっか行かないか?」

いつも、アスカやカヲルをそのファインダーに捕らえ、稼がしてもらっている相田ケンスケは珍しく登校してきた親友と不機嫌な少女

を交互に見やりながら、皆の賛同を待つ。

 

なぜかこの五人は妙に気が合った、暇な放課後はこの五人はいつもつるんでいた、アスカ曰く「美少女二人と三バカトリオ」であった。

 

「いいわよ、どうせ今日はヒカリがおごってくれるし、どうせ三バカトリオも暇でしょうから。」

その後ろでヒカリが「今月は……今月は……。」とつぶやいているが皆あえて黙殺した。

 

こうして放課後の空虚な時間の過ごし方が決定したとき担任の葛城ミサトが教室に入ってくると、皆蜘蛛の子を散らすように席に戻り

ヒカリの号令がこだました。

 

 

「ふぉふぇふぇんこうふぇい?」

アスカはあんみつでなく、三バカトリオがついてきたことによりグレードアップした特大スペシャルフルーツパフェを口に入れたまま答える。

 

そんな壱高のアイドルの光景を見つめ、三人の男の子とその親友は、ため息を吐くとその状況を無視しようと学内で一番の情報通である

ケンスケの言葉に耳を傾けた。

 

「へ〜こんな時期に転校生ねぇ。」

カヲルがとぼけたように答えながらあごに手をつき考える、それもそうだ高校生になりやっと2ヶ月、それも中途半端な6月の時期に

転校生がくるとは誰も思いもしないだろう。

 

「男か?女か?。」

トウジがケンスケの目の前に乗り出し問いかける、もちろん彼の希望は後者だ、しかし彼の前に座っていた少女の形相を見たとき、

あわてて戻り出す。

 

「残念ながら男だよ。」 ケンスケはトウジの期待をそっけなく裏切りコーヒーをすする。

 

「ただよく分からないんだ、いつもだと『どこから来る』だの、『どんなやつ』だのと情報が入るんだけど、今回はそう言ったのが無し。」

ケンスケがすまなそうに答える。

 

「ど〜でもいいわよそんなの。来てみりゃわかるでしょ、あっ、すみませ〜ん、苺のタルト2個追加してください!!」

一同はその言葉を聞くとゾッとした、すでににアスカの顔半分を隠していたパフェはその容器越しに彼女の顔全体が見えていた。

 

「アッアスカ、そっそれは自分で払いなさいよ……・。」 ヒカリが涙目に語る。

三バカトリオもその容器を見つめて『コイツどこにそんなに入るんだ』とツッコミを入れたくなっていた。

 

「でも、カッコイイ人だといいね。」

立ち直ったヒカリがアスカに向かって嬉しそうに語り掛ける、今度は向かいの男の子がむっとしたが彼女はそれを一蹴する。

 

「アタシゃ、パス、どうでもいいよ。」 アスカはそっけない態度で苺のタルトを待つ。

 

「惣流は興味がないんか?、もしかしておまえ……。」 そうトウジが言いかけたとき彼の目の前にはお絞りが2つ飛んできた。

 

「隣クラスの霧島さんだっけ、結構仲良いよねぇ……。」 カヲルがトウジの言葉をつなげるように笑いながらアスカに語りかける。

 

「ほっほんとか惣流!うっ嘘だよな。」 いきなりケンスケが騒ぎ出す。

 

その言葉に周りの4人の雰囲気が一変する、情報通で知られ自分のプライバシーを語らないケンスケのこのあわてぶりに皆の目つきが

変わった。

 

「ほお〜ケンスケ、そりゃどう言うこっちゃ、面白そうやな……。」 トウジが肩に手を回し顔を近づける。

「今のは面白い言葉だね、君をもっと知りたくなったよ。」 カヲルも反対側から手を回しケンスケをがっちりと掴む。

「そうね相田、アンタのそこんとこ聞かなきゃアタシ今夜帰れないわ。」 アスカが口の端をつりあげてニヤリと笑う。

「相田君、委員長としてじゃなく洞木ヒカリ個人としてそのお言葉に非常に興味があるんだけど……。」 ヒカリの目は爛々としていた。

 

「勘弁してくれ〜。」ケンスケの空しい抵抗の声が喫茶店にこだました………。

 

ケンスケの尋問が完了し、その結果に満足した4人はそれぞれの家路に帰っていく、アスカとヒカリ、なぜかカヲルの3人は同じ方向の

帰り道を今日の戦果を交えながら楽しく談笑しながら夕日の照り返す道を歩いていく、途中、カヲルを見かけたファンに追いかけられたが

どうやらうまく巻いたらしい。

 

「まったく、アンタといると楽しい下校もゆっくりできないわね。」

アスカがそうぼやくとカヲルは、にこやかにそれを受け流す。

 

「でも、がんばってるもんねアンタ、みんな天才とか言ってるけど今日は楽しかった?」

アスカの気遣いにカヲルはほっとする、彼にしてみれば天才だの、逸材だのいわれたところでいやな気持ちになるばかりだった、こうして

仲の良い友達に囲まれて過すことが非常にうれしかった。

 

「僕よりスゴイ人なんていくらでもいるよ……、今日は楽しかったよ、でも惣流、今度は二人きりで……。」

その言葉はアスカのストレートで打ち切られる。

 

「それを止めろと言っている。」

こんな有名人に平気でストレートを食らわせるアスカにヒカリの頬が引きつる。

 

カヲルはアスカの制裁を受けた頬をさすりながら商売ものなのにとぶつぶつ言ってはいたが、にこやかに笑っていた。

 

しばらく歩いていると小さな公園に差し掛かった、ここを過ぎれば3人ともバラバラになる、その時ふとヒカリがアスカに語り掛けた。

 

「アスカ、でももったいないんじゃない、渚くんだって悪くないと思うけど……。」

トップアイドルに悪くはないかもなんて……と思いながらも、その言葉にカヲルもうんうんと首を振っている。

 

「残念でした、アタシ好きな人がいるの。」

アスカの爆弾宣言はヒカリとカヲルの目を丸くするのに十分だった。そして視線は夕日に照らされた公園のある場所をを見つめている。

 

「でも秘密!」

アスカはとぼけた表情で二人に『じゃあね』と言うとその夕日と同じ色の髪を揺らしながら走り出していた……。

 

「ただいま〜。」

元気よく玄関を上がりリビングに顔を出す、アスカの母親であるキョウコは既に夕飯の準備に余念が無く、台所から姿をあらわす事無く

声をかけた。

 

「おかえり〜今日はお父さんが遅いからお夕飯あと1時間半ぐらいまってね。」

 

「え〜お腹すいたよぅ。」

先ほどの情景を見ていた者達ならばここで絶対にツッコんだろう。『まだ食うんかオノレは……・。』

 

仕方なく自室にもどり着替えをする、ジョギパンとTシャツに着替えた彼女は、ふとこの時間をどう過ごそうかと考えたが暫くして

机の上のMDケースを開ける、音楽でも聴いて過ごそうかと思ったのだろう。

 

ふとそのMDケースの隣にもう一つの同じ大きさのケースが並んでいる、アスカはそのケースを空け一枚のMDを取り出す。

そのMDのラベルには『Happy Birthday Asuka Form Sinji −Vol6−』と書かれている、しばらくそのMDを見つめ微笑んでいた。

 

MDをプレイヤーに入れてヘッドフォンをかける、その時から彼女の心はその優しい旋律の世界へ溶け込んでいった……。

 

 

別れを切り出したのはシンジの方からだった、シンジは泣きながらアスカに謝り、その言葉を聞いたアスカもうなだれて泣くしかなかった。

「アーちゃん…・・、ごめんね、ヒック、約束したのに、ヒック、ごめんね。ヒック」

「チンジ、行っちゃ嫌だ、グスッ、だめだよう、ヒック、ヤダヤダヤダ!」

「アー姉ちゃん、グスッ、あたしもやだよ〜。」

そばにいた少女も泣き出す、シンジの双子の妹、いつもアスカが先頭で遊んでいた子、体が弱かったけどとてもとても仲良しだった。

突然の引越し、その挨拶に訪れた家族は困り果てていた、いくら家の都合とは言えこんな光景を見ると少し胸が痛んでくる。

 

お互いの両親は彼らをなだめ別れの日を告げる、泣き疲れたアスカを抱きながら父親は二人に必ず見送りに行くと約束した。

 

そして別れの日、ちょっとおめかしをしてシンジ達を見送りに行く、もう泣いてはいなかった。

キョウコと約束した、笑顔でそして元気よく挨拶をするのだと、そしてまた会うことを誓うのだと。

 

シンジは約束してくれた、誕生日に必ずアスカにチェロを聞かせると、どんなに遠くにいても必ず12月4日に届くように、毎年毎年送ると。

そしてアスカも約束した、いつまでもいつまでも待っていると。

 

その約束は破られることはなかった、小さいころは毎年送られてくるMDを彼女は父にねだり聞かせてもらった。

どんな誕生日プレゼントよりもそのMDが一番だった。

誕生日を迎えるたびに聞くチェロの旋律、その優しさは年が経つほど大きくなり、そのせつなさは深く心に染み込んでくる。

手紙を書くときはいつもこう『来年も聞きたい…・、いつまでも待っている。』それは去年も変わらなかった。

アスカの心の中には碇シンジと言う少年が大きく住み着いてしまっていた……・。

 

「アスカちゃん、アスカちゃん!!」

キョウコの呼びかけにはっと目を覚ます、どうやらMDを聞いているうちに寝てしまったらしい。

 

「もうご飯よ、あらあらまた聞いてたのね、どう?シンちゃんの愛の調べは?」

その晩、惣流家の食卓はその様子を語るキョウコと、それをおかしく聞いている父親と、真っ赤なトマトの間で楽しい団欒が行われた。

 

翌日、アスカは毎度のことながらごみ箱にラブレターを突っ込んでいた、ふとそこで長い廊下向こうに二人の生徒が教員に連れられていく

なぜかアスカはその光景に気になった、男の子と女の子、アスカには女の子の青い髪を見たとき一瞬あの二人を思い起こしてしまう。

 

「アイツらはいまドイツだもんね、もう十年近くになるんだからアイツらも変わっているか……。」

アスカはため息交じりにつぶやくとそう言って教室へ向かった。

 

教室内は華やかだった、ふと自席を見ると今日もカヲルが来ているらしい、ヒカリを含め全員カヲルの周りに集まっている。

アスカが自分の席につこうとすると、皆から挨拶の声が上がった。

 

「アンタ最近暇なの?」

自席につくなりアスカは目の前のカヲルに問い掛けた。

 

「いいや、今日は夕方からなんでね、噂の転校生一目見たくてね。」

カヲルがこちらを向いてにこにこして話すと話の輪もアスカとカヲルを中心としたものになった。

 

しばらくすると担任のミサトがやってくる、入口の前で転校生と何やら話をしているらしい。

 

「おっはよ〜。」

その言葉で皆自分の席にあたふたと戻る、ヒカリの号令がかかり座り直したところで教室を見渡しうんうんとうなずく。

 

「今日は欠席者無しね、よ〜し!でわん、もう相田君から流れてると思うけど転校生を紹介する!。」

「先生!どんな子ですか。」

さすがミサトのクラスである、教師の陽気さに生徒から質問があがる。

 

「喜べ女子!悔しがれ男子!、今回はカヲルに続くヒット商品よん。さあ入って!」

その言葉に女子は黄色い声をあげ男子はブーイングを上げた、アスカは一番後ろの席でやれやれと思ったが、

興味がないわけではないので入り口を見つめていた。

 

少年は、静かに教室に入るといったん入り口で軽く挨拶をして壇上に進む、軟らかな物腰を感じさせ、

線は細そうだがしっかりとした体格である、何より顔立ちがすっきりしており、ミサトが言った通り中々の少年であった。

少年は壇上に上がり今でも使われている黒板に自分の名前を大き目に書くと振り向いてにこやかに挨拶をする。

 

「碇シンジです、いままでドイツにいましたが、日本に戻ってきました。何かとわからないこともありますのでよろしくお願いします。」

お辞儀をし顔をあげ微笑む、彼のその何の屈託の無い笑顔、その優しい笑顔にクラス中がボーっとなった。

 

そしてここに一人夢の世界に引き込まれた少女が存在する。

彼女はその少年を見掛けたとき、なんとも言えない気持ちにとらわれた……。

その少年が自分の名前を黒板に書いているとき胸の動悸が激しくなった……。

その少年の口から自分の名前がこぼれたとき、彼女の視線から周りの風景が消えた……。

 

「シッ「シンジ君じゃないか。」」

アスカが呼びかけようとしたとき、その前の席のカヲルがいきなり立ち上がりシンジに声をかけた、

呼びかけられた本人は、びっくりした様子でその声の主を見つけて嬉しそうに微笑んだ。

 

「カヲル君!」

クラスは一瞬の空白の後騒ぎ出す、トップアイドルの少年と、転校生について……、しかしそのざわめきもミサトの締めによって遮られる。

 

「はいは〜い、そこまで、今日の最初の授業はアタシだから少しゆっくり来てあげるから、その間に質問してね、じゃあ席はっと。」

ミサトはふと考え込んで全体を見渡す、何度か目を泳がせやっと決まったかのようにうんうんとうなずく。

 

「アスカ、あんたの隣が良いわね、カヲル君とも知り合い見たいだし、じゃあ碇君、カヲル君の斜め左の席で良いかな。」

そう言ってシンジを見たミサトだがすぐさま怪訝な顔をする。シンジはミサトの言葉を聞いてその方向を見ると呆然としてしまっていた。

 

「碇君?」「あっはい、わかりました。」

シンジはすぐさま何かにつられた様に席にむかう、ミサトも『変なの?』と思いつつも「じゃ。」といって教室を後にした。

 

シンジがそのまま自席に向かう、カヲルが嬉しそうに呼び止めようとしたが、シンジの視線が自分見ていないのに気づくと首をかしげた。

カヲルの席を通り過ぎ、自分の席に鞄を置く、クラスの皆はミサトが出たところで転校生に声をかけようとした時、その空気に気がついた。

 

「アーちゃん?、アーちゃんだよね?」

シンジは、その赤みがかった髪の少女を見つめ確認するように問い掛ける。

うん。」

アスカは顔を上げることが出来ずにただうなずくことしか出来ない……。

「ほんと、ほんとだよね?。」

シンジは信じられないような顔つきでもう一度聞き返す。

「うっん。」

言葉を返した少女は少し涙声でそう告げると勇気を振り絞って立ち上がり顔を上げた。

 

次の瞬間、クラスはパニックに陥る、あのアスカがいきなり転校生に抱き着いたのだ、それも泣きながら、

そして転校生もそんな彼女を抱きしめている。

 

「おかえり、おかえり、待ってたよう、アタシ待ってたよう〜。」

アスカがその胸の中で何度も何度もつぶやく。

「ただいま、帰ってきたよ、約束どおり帰ってきたよ……。」

シンジもアスカの髪を撫でながら一生懸命答える。

 

皆その光景に呆然とする、委員長であるヒカリもそのアスカの行動を見てクラスの喧燥を押さえる役をすっかり忘れていた。

その光景は、ミサトがくれば収まるものと思われたが、ミサト自身もう教室に入っており、その光景をこれまた面白そうに見ていたため、

シンジが周りの視線に気づいてアスカをなだめるまで続けられた……。

 

 

「へぇ〜惣流の待ち人ってシンジ君だったんだ。」

昼休みやっとのことで質問攻めから開放されたシンジ達は屋上で昼食をとっていた。

また余談だが『不沈空母−惣流−、撃沈』の報は三時間目には全校に広まった。

 

「カヲル、アンタなんでシンジ知ってるのよ?。」

アスカはあれから片時もシンジの側を離れない、しっかりと所有権を主張していた。

 

「昨日話していたよね、『僕よりスゴイ人』って、僕が知るなかでシンジ君はその中の一人だよ。よくレコーディングでドイツで会ってたから

ベルリンフィル・ルーヴェンブルン交響楽団専属チェロ奏者のシンジ君にね………。」

 

「ようワカランけどけったいなところから来たんやな〜。」

トウジ以下四名がうんうんとうなずく、カヲルはその光景をみるとため息をついた。

 

カヲルのため息も当然である、ベルリンフィル・ルーヴェンブルン交響楽団、今では日本のネルフ交響楽団とともにその世界では一、二

を争う楽団なのだ、設立の歴史の長さからもこちらのほうがNo1であろう、そこの専属と言うだけでどれだけ大変なことなのか。

 

「でもよくあのシュトラウス先生がシンジ君を手放したね。」

カヲルはドイツでの事を思い出しシンジに話し掛ける。

 

「でもシンジ!これからはず〜っと日本にいるんだよね?。」

アスカの不安そうな問いかけにシンジはその不安を取り払うような笑顔を向けて答える。

 

「今度は、こちらのネルフ交響楽団にお世話になるんだ、シュトラウス先生とこっちの冬月先生って人と懇意だったから、

まあ父さん達も本社に戻ってきたからずっとこっちだよ。」

 

「じゃあじゃあレイは?。」

アスカはシンジの双子の妹のことを思い出しシンジに問い掛ける、その時なぜかカヲルの顔色が青くなった。

 

「レッレイ君もこの学校なのかい?」

カヲルが青ざめながらシンジに問い掛ける、シンジはその様子をみてしばらく考えていたが、急にクスクス笑い出すとカヲルに答えた。

 

「レイはね、この先の女子校だよ、確かフェリスだっけ、僕と一緒の方がいいって言ったんだけど、あっちの高校がドイツにいた学校の

姉妹校でね、でも残念だったね、カヲル君がいたら絶対こっちに来たのに……。」

 

「いやっ、そっそれでよかったんじゃないかな……・、ぼっ僕は残念だと思うけど、彼女の選択は好意に値するよ。」

カヲルの焦りに、先日拷問にかけられたケンスケの眼鏡がキラリと光る。

 

「カヲル〜、なんかあるのか〜。」

ケンスケは昨日の仕返しとばかりにカヲルの首を後ろから羽交い締めにする、他の四人にしてもあのカヲルの話である、当然無関心では

いられなかった。

 

「ケッケンスケ、いや何にも無いよ、今日の僕はとても君に似ているね。」

訳の分からない台詞に一同笑う。

 

「でもシンジ君、良く帰ってきたね、まあこれからが大変なんだろうけど、これからよろしく頼むよ。」

カヲルがケンスケに首を絞められつつもにこやかに語り掛ける、その言葉を聞き他の三人もアスカの恋人とカヲルの親友であるシンジに

違和感なく溶け込んでいった。

 

「こちらこそ、よろしくねみんな。」

シンジはアスカを始めとする、皆を見渡してあの微笑みで頭を下げる、下げられた一同はなぜか一瞬呆然としてしまった。

 

「よろしくね、シンジ……。」

アスカが皆を代表してそんなシンジに話し掛ける、先ほどの笑顔を間近で見ていたためか頬が赤い。

 

六月に入った暑い日、こうして二人は再会し、幼い頃の約束を果たす、そして二人の時間はここからまた始まる。

それは少年と少女の甘い時間なのか悲しみの時間なのか、この時は誰も知らない、ただ梅雨がなくなった青空だけが、

その光景を優しく見つめていた。

 

前編−再会− END


マナ:あつみさん、投稿ありがとうございました。甘くて切ない学園物かしら?

アスカ:離れていても、ずっとチェロをMDで送ってくれるなんて、いい話ねぇ。

マナ:なんか、やけに喜んでるわねぇ。

アスカ:そりゃぁそうよ。長年思い続けてきた2人が再会したのよ?

マナ:でもねぇ、始まり方がこういう幸せーな話って・・・。

アスカ:なによぉ。

マナ:えっとねぇ。

アスカ:なによっ。はっきりいいなさいよ?

マナ:なんか、次回はアスカが苦労するとかなんとか・・・。

アスカ:なんでぇ? なんでそうなるのよーーっ!

マナ:わたしも、この作品に登場してるでしょ?

アスカ:おもいっきり脇みたいだけどね。

マナ:そのわたしとシンジが恋に落ちて、アスカが振られるのよぉぉ(^O^)

アスカ:そんなわけあるかっ!(ドゲシッ!)
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