アナタは寂しい季節をどう過ごしますか?
アナタは嬉しい季節をどう過ごしますか?
暑い夏の季節が続くこの街で、
アタシは寒い季節を過ごしました。
心が寒い季節を過ごしました。
暖かかった季節がだんだんと悲しく、苦しくなっていく季節。
ただ・・・・・。
その季節も終わりを告げました。
そしてまた暖かい季節を捕まえました。

 


変わりゆく季節の中で


全てが終わった日から早一年、人間の生きる力がいたるところに輝いています。
倒壊したビルは新しいその姿を現し。
焼けこげた木々の周りには新しい緑が埋められました。
新しい世界の到来というわけではありませんが、黒き月が離れ落ちた影響は、
その有り様を徐々に戻していきました、
常夏のこの島国にゆっくりとですがまた四季と言う言葉が戻りつつあります。

 

「もう!無理しすぎなんだから!」 
アタシはここに留学中です、但し保護者と二人きり。 

 

アタシの気になる少年は、
父の面影と少ない形見と少しばかりの遺産を受け取り、一人生きることを望みました。
人と触れ合うことを望んで生きると決めた少年は、それをあえて一人で探してみようと家を出ました。 
しかし、彼に与えられた自由の翼はそんなに遠くへはばたくことはできませんでした。 

 

そんなこんなでお隣さんとして過ごすことがアタシとアイツの生活の中で日常となりました。
人間の生存本能として家事を覚えたアタシは赤いエプロンを着けアイツのために成果を振るいます。 

 

「ごめん・・・ケホッ」
謝罪の言葉と共に少し具合が悪いようにせき込んだアイツ。 

 

「そりゃ驚いたわよ、今日朝遅刻したと思って行ってみれば居ないし!
ミサトに連絡したらもうネルフだったし! 
で〜ぇ、来てみりゃはぁはぁとうなされて寝ているし。」 

 

「うん・・・」
そう返事を返しつつも鼻水を啜る音が聞こえてくる。

 

「んで?なんでこうなったのよ?昨日からでしょ?」
ふきんで拭いた食器を片手にアタシはアイツの側による。

 

「グスッ何でもないよ…ただ寝冷えしただけだよ。」 
「本当〜?」
そういって最後の一枚を片づけるとエプロンで手を拭きながらアイツの向かいに座ります。 
「うん・・・。」

 

「アンタ最近無理しすぎなのよ。」
その気持ちはアタシの本当の気持ち。
昔の高みを望むだけの少女から成長したアタシの気持ち。

 

そう言ってココアを入れたマグカップをアイツの前に置いてゆっくりとアイツの目の前に座ります。

 

「ありがとう・・・。」
アイツは受け取ってぐっと一口飲み込んだ、暖かいココアが詰まった喉を通っていく。
うんうんと頷きながらアタシはその仕草を見つめます。

 

 

静かな時間が流れます。
アタシとアイツの二人きり。
いつもの時間と違う時。
暖かい季節の優しい時間です。

 

 

「で?昨晩はなにしてたの?」
目を細めて、でもにらみつけるようにアタシはアイツと視線を合わせる。

 

 

少し夜風が涼しくなりました。
前を見つめる彼は、アタシの言うことちっとも聞いてくれません。

 

 

また鼻を啜る音。
アタシはやれやれと両手を上げて近くにあったティッシュを渡す。
チーン!と鼻を噛む音が聞こえるとその姿に少しげんなり。

 

アタシはテーブルから身を乗り出しアイツの頭をグリグリと押えまわす。
「き・い・て・る・の」
「うっうん・・・・・本読んでただけだよ。」
はた迷惑に感じながらもアイツは気の弱そうな声で返した。

 

「もう・・・少しは気〜抜こうよ・・・・今のあんた見てると昔のアタシみたいよ。」
目を細めながらその視線をむけて悲しげに呟く。

 

 

いままで急いでいた道は、とっても恐い道でした。
アタシはそれを更に高く、高く目指していました。
ふと後ろを見た時、今までの道はありませんでした。
そしてふと前を見た時、前の道がなくなっていました。

 

 

「ごめんだって面白かったから。」
バツの悪そうなアイツの呟きはココアをすする音で小さくなる。
「でもそれだけで風邪引く〜?」
その一言でアイツはビクッっと体を震わる。

 

しばしの沈黙・・・。
「またアンタしたでしょ?」
フルフル
「アンタまた裸でねたでしょ?」
フルフル
「ホント?」
フンフン

 

「じっとアタシの目〜見て。」
暫く二人で見詰め合うと、恥ずかしさとは違う意味でアイツの視線が中に舞った。
「ホ・ン・トよね」
追い討ちをかけるようにアタシの気持ちをぶつけます。

 

 

嘘を付けない私の彼氏、バカ正直な大切な人。

 

 

「どーして一人で暮らし始めてこんなにずぼらになるのよう!」
「ホントだよ!ちゃんとパンツははいてたんだよ!」
いいわけがましく話をしてはっと気づくアイツ。

 

「やっぱそうじゃない!まったくもう!」
怒っているのか呆れているのか両手でやれやれとポーズを作って頭をふります。

 

 

アナタは何を求めているの?
アナタは何をそんなに急ぐの?
せっかくの暖かい季節をなぜそんなに急いでいるの?

 

 

少年は、少女に追いつきたい、守りたい、強くなりたいと願っている。
少女の輝きを少しでも手に届くようにと。
すべてに完璧ではない少女を見ても、まだ自分の輝きは遠く及ばない。
それは高みを目指すものなのかもわからない。

 

「心配かけてごめん・・・・・。」
いつもの言葉と少し違う言葉、取りあえずではなく本当の謝罪の言葉。
その言葉を吐きすとアタシの機嫌は少しよくなる。

 

「それ飲んだら寝なさいよね。」
アタシは眼を細めてアイツを見つめる。
その視線に恥ずかしそうにしながらしっかりと頷く。

 

 

何時からだろうかこの優しい時間を嬉しく感じたことは。
何時からだろうかこの時間を壊したくないと臆病になったのは。

 

アタシの視線を受けながらココアの最後の一滴、暖くて甘い香りが流れます。

 

 

「アスカ・・・・・ありがとう、もう大丈夫歯を磨い寝るよ。」
すこし瞼が重くうとうとします。
アタシのそんな姿に優しく声をかけるアイツ。
そんな気遣いするくらいだったら風邪なんか引かないで。

 

アンタが居ない登校は、ちっともちっとも楽しくない。
アンタが居ない昼食は、ちっともちっともおいしくない。
アンタが居ない下校は、すっごくすっごく心細い。
アンタが居ない夕食は、すっごくすっごく味気ない。

 

 

「いいから、早く寝なさいよ。」
アイツのちょっと汗せばんだ顔を見てアタシはゆっくり立ち上がる。
「まだ熱あるんだからね。」
そう言って薬を渡して部屋に放り込む。
頷き薬を一のみするとアイツは部屋に戻っていきました。
振り返って、
「お休みアスカ・・・・・。」
と言いながら。
そんな姿を見て安心し、私も家へ帰ったつもりでした。

 

 

 

リビングでちょこんと座ってテレビを見ている。
面白そうな番組を二人で一緒に座ってみていた。
おかしい時に二人で一緒に大笑い。
悲しい時に二人で一緒に泣いていた。
ふと手が触れた時、二人で一緒に真っ赤になった。
この季節を一緒に居ようね。
この輝きがいつまでも続くといいね。
そんなそんな夢でした。

 

 

 

ふと気が付くとテーブルの上、ちょっと寒くなる季節に毛布が暖かく感じます。

 

毛布?

 

はっとして周りを見回すと。
目の前にはバカシンジ。
何でアンタが起きてるの?
何でアンタが本読んでるの?
アンタは薬を飲んだ後、部屋に戻っていったじゃない?

 

「あっ起きた。」
寝ぼけ眼で見ているアタシに、アイツが優しく微笑みかける。

 

「なんでアンタが起きてるの?」
アタシがちょっと膨れて聞き返す。
時計の針が日付が変わったばかりを指していた。

 

「うん・・・・
アスカが帰ったかなって思って・・・・
テーブルで寝てるから・・・・
ほら・・・・風邪引いちゃいけないから・・・・。
起こそうと思ったんだけど。気持ちよさそうだから毛布を持ってきて・・・。
ほらっその毛布落ちたらマズイでしょ?」

 

シンジの言葉が嬉しくて、
シンジの言葉が悔しくて、
シンジの言葉を聞きながら、
あたしは「うー」っと唸ってた。
ホントのバカは誰だろう?

 

すっとアタシは立ち上がり、シンジの耳を引っ張ります。
「いたた!アスカどうしたの痛いイタイよ〜。」
熱が下がってないらしくアイツの耳たぶは熱かった。
アタシは抗議するシンジをひっばって部屋に入る。
あんたはいつもそうやって。
だからあんたは馬鹿なのよ。
バカはアンタに決定よ!

 

いきなり部屋に連れ込んで、押し倒すようにベッドへといきます。
まだまだキスの時に背伸びは出来ないけれどシンジの匂いが気持ち良かった。
そのまま一緒に寝たいけどまだまだ二人は子供だものね。
そうしてシンジを寝かしつけ、大きく一言注意する。

 

「アンタはしっかり寝てなさい!明日もそんな調子だったらただじゃあおかないんだから!」
アイツはアタシの言葉に頷いてゆっくり布団をかぶってる。
その姿を見届けてあたしは洗面所からタオルを絞って持ってきます。
少し火照ったシンジの額にひんやり冷たいタオルをのせてあげます。

 

そしたらアイツは安心した顔をして、
「ありがとうアスカ・・・・・お母さんみたいだ。」
体はぼっと熱くなり。
頬の周りは赤くなり。
頭の中は真っ白け。
ボーッとしていたアタシを見ていて、少し笑っておやすみなさい。
アタシははっと気づいてみるとアイツはやっと夢の中。

 

 

どうしてこんな奴好きになったんだろう?
世界中を探したらコイツなんかより素敵な奴はいっぱいいる。
世界中を探したらコイツなんかよりカッコイイ奴はいっぱいいる。

 

 

でもコイツよりアタシに合う奴は世界中のどこを探してもいない。
ちょっと鈍くて、でも無理して、手を差し伸べてくれる。
アンタはそんな奴だよね。

 

一生懸命、がんばって。
辛そうに・・・・でもがんばっている。
みんな見てるよアンタのこと。
アタシアンタを見てて判ったよ。
見て欲しいから頑張るんじゃなくて。
頑張ってるからみんな見てくれるんだよね。

 

ねえシンジ・・・・アタシ素直になった?
ねえシンジ・・・・アタシ可愛くなった?

 

あの寂しい季節の中で教わった大切なこと。
アタシ出来ているのかな?
アンタは何時もがんばって、アタシの視線を奪ってく。
アンタがあたしに追いついたら、あたしがあんたに抜かれたら・・・・・、
あんたはどこに行くのかな?

 

うん判ってる、
きっとアタシは判ってる、
きっとこいつのことだから、
きっとこうするだろうって。
ゆっくりこっちを振り向いて手を差し伸べて笑ってる。
きっとその手を取った時、また照れくさそうに微笑んで。
「行こう。」といってくれるよね。
この暖かい季節を一緒に行こうと言ってくれるよね・・・・・。

 

 

 

ふぁ〜ちょっとやっぱり眠いのね・・・・。
もう面倒臭いったらありゃしない。
しょうがないから寝ちまおう。
ちょうどベッドがあるんだし。
ちょっと隣を拝借しよう。
きっといい夢見れますように。
なんか忘れてるけどまあいいわ。

 

 

 

 

柔らかな朝日がカーテンからこぼれます。
また一日の始まりです。

 

 

頭が痛い・・・・・一日の始まりですが・・・・・。

 

 

「ふーん、で一緒にベッドでおねんねですか・・・・・。」
ズルズルと鼻を啜る音がします。
その前にはお姉さん、あきれながら見つめてる。

 

「まぁーたくぅ何してんだか、アスカアンタも結構へっぽこよね。」
返す言葉もありません。

 

「まっ変なことは無かったから良しとしましょう、じゃあ準備しなきゃ。」
いそいそとリビングへ行くお姉さん。

 

出来たの声で行ってみるとそこには並んで布団がありました。

 

「まさか二人一緒はマズイけど、こういうときはお日様にあたるのが一番だからねぇ。」
そう言って白いシーツをかけ直します。
パンパンと叩いた布団がいい音を奏でます。

 

二人の風邪引きお子ちゃまは、
お熱が高いかどうなのか鼻をズズッと啜りながら真っ赤な顔してうな垂れました。

 

日差しがとても気持ちいい。
とってもとっても暖かい季節です。
寒くなってきてるけど・・・・・。
心が暖かい季節です。
寝ぼけ眼で隣を見ると人に風邪をうつしたアイツが暢気にスヤスヤ寝ています。
アタシも少しあくびして暖かい日差しを感じて目を閉じました。

 

 

 

 

午後の日差しといい匂いで私達は目を覚まします。

 

「あら起きた♪♪」
その言葉に周りを見回すとエプロンをつけたミサトが立っていた。

 

なぜにミサトがいるとしても・・・・・・。
何でアンタがエプロンなんてシテんのよ・・・・・。

 

「じゃあ食べなさい。」
トンと置かれたおかゆが二つ温かな湯気が出ています。
味はこの際別にして・・・・・。
二人は顔を見合わせる。

 

 

ドキドキしながら食べたおかゆは、

 

とってもとってもおいしかったです。

 

 

「昔ね・・・・・
お母さんが作ってくれたの、
どうしてももう一度食べたかったから、
だからコレだけはうまいのよん♪」
ミサトは暢気に言いながらアタシ達がおいしそうに食べてる姿を見つめます。

 

体の心から温まる。
そんなそんなおかゆでした。
優しくて温かいそんなそんなおかゆでした。

 

「早く直してどっか行こうね。」
ミサトの嬉しそうな言葉にアタシ達はコクンと頷き合いました。

 

 

 

 

 

心が寒い季節はもうどこかに行きました。
アタシの中で遠くのどこかに行きました。
季節が変わっていくように、
アタシの心も変わります。

 

アナタは寂しい季節をどう過ごしますか?
アナタは嬉しい季節をどう過ごしますか?

 

アタシは偽者家族でも、
暖かい家族と過ごします。

 

そんな季節のうつろいを、
何時までもいつまでも大切にしたいから。

 

Fin												Written By あつみ


マナ:なんだか、いい雰囲気ねぇ。

アスカ:暖かい感じがしていい感じだけど・・・なんかアタシってまぬけじゃない?

マナ:へっぽこはアスカの代名詞だから、こんなもんよ。

アスカ:アンタねぇ・・・。

マナ:葛城さんとアスカが料理作った料理が美味しいなんて、前代未聞じゃない?

アスカ:アンタねぇ・・・。

マナ:で、シンジは良くなったの?

アスカ:うん、あの後ミサトが看病してくれてね。

マナ:家族って感じよねぇ。血なんか繋がってなくたって、立派な家族よ。

アスカ:へへへぇ。そう思うぅ? へへへぇ。

マナ:で、アスカはシンジのお姉さん? 妹?

アスカ:へ?

マナ:だってさ、わたしがシンジと結婚したら、アスカがお姉さんだと嫌じゃない? やっぱ、妹がいいわね。

アスカ:シンジとはアタシが結婚すんのよっ!

マナ:あら? 家族でしょ?

アスカ:アンタねぇ・・・。
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